~樹木希林と歩く心の旅路、肩の力を抜いてみなさんご一緒に~
■想定外のことが起こり、そのシーンが映画を豊かにしている。(阿武野)
■最初映画化NGの理由は「人間(私)が描けていない」。希林さんのメッセージから映画のテーマを導く(伏原)
■「釈迦とダイバダッタ」の話から感じる深い愛情。希林さんは、色々な関係性の中に神が見える人。(阿武野)
■日本に生まれてよかった、日本人でよかったと思える部分を、この映画に込めた。(伏原)
『トークバック 沈黙を破る女たち』坂上香監督インタビュー
『瀬戸内海賊物語』大森研一監督インタビュー
(2014年 日本 1時間56分)
監督:大森研一
出演:柴田杏花、井澤柾樹、葵わかな、大前喬一、内藤剛志、石田えり、小泉孝太郎、中村玉緒
2014年5月24日(土)~香川、愛媛、徳島で先行公開。
5月31日(土)~全国ロードショー
公式サイト⇒ http://setokai.jp/
(C)2014「瀬戸内海賊物語」製作委員会
瀬戸内海の美しい海を背景に、少女が島の危機を救うため、1本の笛を手がかりに伝説の海賊・村上水軍の財宝を探す歴史アドベンチャー。小豆島の「エンジェルロード脚本賞」グランプリを受賞した愛媛出身の大森研一監督が自らメガホンを取った。
【物語】
戦国時代、いくつもの水軍が活躍していた中で最強と言われた村上水軍は、織田信長を撃退し、豊臣秀吉にも屈することのない“海のサムライ”たち。彼らを束ねたのが海賊大将軍・村上武吉だった。
時は現代、武吉の血を引く少女・村上楓(柴田杏花)は代々伝わる醤油屋を営む父(内藤剛志)母・春子(石田えり)と暮らしていた。楓が夢中になっていたのは、村上水軍の埋蔵金探し。仲間たちと少々無茶な冒険も楽しんでいた。
その頃、大人たちの間では島と本土を結ぶフェリーが廃止されるという大問題が持ち上がる。「村上水軍の財宝を見つければフェリーを直せる」。そう考えた楓たちは蔵の奥から古びた笛を発見する。その笛は英雄・武吉が12歳の息子の船出に与えた「初陣の笛」。そこには埋蔵金のありかを示す手がかりが隠されていた。祖母(中村玉緒)に励まされた楓は“水軍レース”のエース愛子(葵わかな)に教わり船操縦の猛特訓を受ける。財宝の場所は激しい潮流を超えたところだった…。
◎ 大森研一監督インタビュー(2014年5月20日)
小豆島の瀬戸内国際こども映画祭エンジェルロード脚本賞」のグランプリに選ばれた(11年)『瀬戸内海賊物語』の映画が完成、24日からご当地・香川、愛媛、徳島3県で先行公開後、31日から全国公開される。これが長編第3作になる大森研一監督(38)に全編故郷・愛媛で撮影した映画への思いを聞いた。
―― 愛媛出身の監督には思い入れも大きかった?
「ええ、この話はもう20年近く前から構想していた。「エンジェルロード脚本賞」は瀬戸内海や子供たちが主役などの決まりがあったが、ばく然と考えていた村上水軍の話、ハリウッド映画『グーニーズ』(85年)を参考にした“宝探し”の話が出来ていて、それをそのまま脚本にした。選ばれた脚本はほとんど変えず映画にした」。
―― 導入部に登場する村上水軍は今年「村上海賊の娘」(著者・和田竜)が本屋大賞になり、大河ドラマ「軍師官兵衛」にも登場して今話題の的に。
「村上水軍については小中学校のころから本などは読んでいた。歴史的な資料はあまり残っていない。映画には冒頭部分に出てくるだけですが、瀬戸内の広大な海、特有の潮流など、瀬戸内海独特の風景がふんだん。そこを見ていただければ。瀬戸内海国立公園80周年記念映画でもありますから」。
―― ロケハンにはかなり時間を割いた?
「シナ(リオ)ハンも含めて半年かけました。その間、実家に泊まって腰を落ち着けてロケ場所を探した。CGの場面を除いたら、ロケ撮影で瀬戸内を思う存分撮れた」。
―― 最近有名になった村上水軍だが、全国的にはあまり知らていない。地元では、高知県の坂本龍馬のような位置にあるのか?
「相当以前に映画になったと聞いたが、龍馬ほどは…。だけど今治には村上水軍博物館もあり、最近はお客さんが増えている。しまなみ街道の島のいくつか、海の上でも撮影しましたが、舟に乗って見学に寄ってくる人は皆さん、村上さんばかり。ここには村上水軍がまだ生きている、と痛感した」。
―― 監督が見てほしいところは?
「瀬戸内海の複雑な潮流ですね。映画でも少年たちが苦労して渡るヤマ場です。今は潮流を体験出来る観光コースも人気になっている。子供たちが大きな問題と受け止めるフェリーの廃止についても、実際に起こっていることですからね。歴史と現実が一体になったドラマです」。
―― アメリカではプレミア上映されたとか。
「昨年12月にハリウッドで行われたLA Eiga Festで上映して『グーニーズ』のスタッフも駆けつけてくれて喜んでもらった。この映画をヒットさせて、続編を作りたい、と今から構想してます」。
―― 主役の柴田杏花がいきいきしている。抜てきの決め手は?
「オーディションして、演技テストしましたが、彼女はなんといっても目力(ちから)ですね。地味に見えるが、軸がぶれない、と強く感じた。ふだんは元気で活発だけど、清楚で大人しい。オーディションの時は他の審査員から反対されて、プレッシャーを感じたが、押し通して正解だった。結果見てくれ、です」。
―― 監督は大阪芸術大学出身だが、最初は映画志望じゃなかった。
「ええ、建築学科だった。絵を描くのが好きだったので、図面を描く建築を選んだ。同期に熊切(和嘉)監督がいて、隣で撮影していたのが映画との出会いです。映画は高校時代から好きだったんですが。2年で転部出来るのを知らず、気づいた時は3年になってました。卒業後は建築関係の業界紙に入って、記者をやりました」。
―― 映画監督になるまで遠回りした感がある?
「建築から映画の道だとそう見えるかもしれないけど、今は全部無駄になっていないと思う。この映画でも、美術デザインやれてよかったし、自分で脚本書くのにライター経験が生きる」。
―― 最後に目標にしたい好きな映画を。
「うーん、『グーニーズ』ばかり言って来たけど、1本選ぶのは無理なんで3本。『ダーティ・ダンシング』、『バクダッドカフェ』、日本映画だと『ルパン三世 カリオストロの城』ですね」。
【聞き手・安永五郎】
藤原竜也に操られたい!『MONSTERZ モンスターズ』舞台挨拶レポート
(2014年5月13日(火)18:30~梅田ブルク7にて)
ゲスト:藤原竜也(32歳)、中田秀夫監督(52歳)
(2014年 日本 1時間52分)
監督:中田秀夫
出演:藤原竜也、山田孝之、石原さとみ、田口トモロヲ、落合モトキ、太賀、三浦誠己、藤井美菜、松重豊、木村多江
2014年5月30日(金)~丸の内ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、梅田ブルク7、なんばパ-クスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 ほか全国ロードショー
公式サイト⇒ http://wwws.warnerbros.co.jp/monsterz-movie/index.html
(C)2014「MONSTERZ」FILM PARTNERS
2年前公開の韓国映画『超能力者』は、目で人を操るという超能力を持つが故に孤独に生きる男が主役の怖くてせつない映画だった。カン・ドンウォン演じる超能力者が初めて操れない男コ・スと出逢い、運命の歯車が大きく狂い出すという衝撃的なサスペンスホラー。それを『リング』でハリウッドデビューを飾った中田秀夫監督が、「彼をおいて他にいない!」と言わしめた藤原竜也をモンスターにしてこの世に送り出す。
さらに、唯一操れない男を、これまた若手演技派のひとり山田孝之が演じる。同世代ながら初共演となった藤原竜也(32)と山田孝之(30)がダブル主演。どちらがモンスターを演じてもおかしくないキャラクターだ。このふたりの対決とあっては、何かが起こるに違いない!実際、実の親からも恐れられ、超能力を使う度に手足が壊死してしまう超能力者の哀れさと、何があってもすぐに回復する不死身という超能力を持つ操れない男もまたモンスターといえる。アクションだけではない、悲しい運命を背負ったモンスターの内面を、ふたりの若き演技派俳優の目ヂカラの演技に注目してご覧頂きたい。
いよいよ5月31日より全国公開される映画『MONSTERZモンスターズ』。公開を前に、主演の藤原竜也と中田秀夫監督の舞台挨拶が、大阪は梅田ブルク7で開催された。
【舞台挨拶詳細】 (敬称略)
――― 最初のご挨拶を。
藤原:大阪の皆さん、こんにちは。1年位前に一月半かけて一所懸命に撮影しました。面白いエンターテインメント作品になったと思います。
中田監督: (ここで、客席に向かって)男性の方は手を挙げて? 女子率高いな~。竜也君が来るのが分かっていた人? 少ないな~、はい以上です。(笑)
――― 何なんですか、それ?
中田監督:自分だけのアンケートです。
――― この映画のどこに一番の魅力を感じましたか?
藤原:韓国映画の『超能力者』がベースになっているのですが、その映画を見てから脚本を読んで、中田監督の得意分野の映画に呼んで頂けて嬉しく思いました。目で人を操るという設定なんですが、視界に入った人なのか、ピンポイントで見た人なのか、僕もそのルールがイマイチよく分かりませんでした。でも、それは気にせずに見て頂けたらと思います。
――― その辺りも含めて、藤原竜也さんを起用した理由は?
中田監督:竜也君とは『インシデルミ 7日間のデスゲーム』でも一緒に仕事したのですが、プロデューサーと竜也君主演のサスペンス・スリラーを作りたいという話が出ました。そこで、韓国映画『超能力者』が挙がり、世界を敵に回しても孤独の中で闘えるダークでクールなカッコイイ役は、藤原君をおいて他にいないだろうと思いました。
(ここでまた、客席に向かって) 藤原君に操られてみたいと思う方?(笑)
藤原:どうしたんですか?
中田監督:映画はダークな面もありますが、面白がって見て頂ければいいかなと(笑)。
――― 人を操っている時の藤原さんの目にとても魅了されたのですが、何か工夫は?
中田監督:山田君が演じた操れない男と出会ったことで、初めて生きていると実感します。彼とのバトルを通して、生きる証しを感じていきます。何千人ものエキストラが山田君一人に襲い掛かって行くのですが、それに似合った眼力が必要でした。お芝居プラス、それまでの人生が反映されているエフェクトが必要だったのです。
―――人を操る目の演技について?
藤原:目だけをいっぱい撮ってもらいました。「もういいんじゃないですか?」というぐらい沢山。
――― 目だけ撮られる感じは?
藤原:その時は分からなかったのですが、作品を見て、うまく編集されているなと納得しました。
――― 今日は、ここ大阪ということで、大阪についてお聞きしたと思います。
藤原:年に2回位お芝居で来ています。大好きですね~住みたいくらいです。僕は西武ライオンズのファンですが、阪神タイガースも大好きですし、人は温かいし、大阪の空気が好きですね。
――― 先月、大阪城ホールでのワールドプレミアムボクシング、長谷川穂積選手の試合を観戦しに来られていたらしいですね?
藤原:はい、長谷川穂積さんが大好きで、彼の大事な試合でしたから「これは見届けなくてはいけない」と勝手に思い込んで観に行きました。
――― ええ?バレないんですか?
藤原:バレてたんでしょうね~(笑)
――― 声を掛けられたりしないんですか?
藤原:皆さん試合に集中されてましたので、それはないです。
――― 本作では格闘家の川尻達也さんを操っていましたが?
藤原:僕は操るだけなので、2時間位で撮り終わりましたが、後は山田君らのアクションシーンに10時間位かかったんです。「すみません!お先に失礼します」と毎日謝りながら帰っていました(笑)。
――― 川尻さんと闘ってみたかったのでは?
藤原:いや~、操るだけで十分です。
――― ご存じの方も多いと思いますが、来る5月15日は藤原竜也さんのお誕生日なんです!そこで、中田監督からスペシャルプレゼントが用意されています。どうぞ!
(黄金のミニビリケンさん登場! 中田監督から藤原竜也へ手渡された。)
――― ビリケンさんの足の裏をなでると願いが叶うということですので、映画のヒットを祈願して触り放題でございます。家のどの辺りに飾りますか?
藤原:寝室です。(笑)
――― 最後のご挨拶を。
藤原:誕生日を皆さんに祝って頂いて、心から感謝しております。『MONSTERZモンスターズ』は中田監督のもと、皆で頑張って撮った作品です。いよいよ5月31日から公開されますが、ひとりでも多くの方に見て頂けたらなと思っております。本当に今日はありがとうございました。
中田監督:この映画の見せ場は、アクションに次ぐアクションですが、「生きていくことは闘いの連続である」がテーマということだと思います。山田君が群衆と闘うシーンも去ることながら、藤原君と山田君が直接ボディコンタクトをしながら闘うシーンは、この物語の大きなポイントとなりますので、その辺りを注意してご覧になるとお楽しみ頂けるのではないかなと思います。
中田監督に、「藤原君に操られてみたい方?」と聞かれ、思わず手を挙げそうになった筆者。舞台や映画にと大活躍の藤原竜也の成長ぶりは、今年公開の4本の出演映画からもお分かり頂けるだろうが、自信と共に貫禄が付いてきたように感じる。どの作品にも言えることは、声が違う!以前に比べ、太く大きくなっている。さらに、物語のテーマを象徴したキャラクターを全身で生きているから、存在感が違う! 明らかに他の若手俳優と違うところだろう。7月から始まる連続TVドラマ『ST警視庁科学捜査班』で13年ぶりに主演を務めるという。まだ32歳。40歳過ぎてからの藤原竜也を見るのが、今から楽しみでならない。
(河田 真喜子)
<ストーリー>
祖谷の山奥で自給自足をし、毎朝山の神様が祀ってある山登りを欠かさないお爺(田中泯)は赤ちゃんのとき両親が事故死した春菜(武田梨奈)と二人きりで暮らしている。ある日東京から自然豊かな土地での生活にあこがれ、ふらりとあらわれた工藤(大西信満)は、公共工事問題やシカなどの害獣駆除問題で揺れる田舎の現実に直面しながらも、偶然出会った春菜やお爺の電気を使わない素朴な自給自足の生活や農作業に感銘を覚える。畑仕事をしようと決意した工藤に村の若者は冷ややかな声をかけるが、季節は秋となり、次第に雪に閉ざされる冬を迎える頃は工藤も飢えに苦しむようになってしまう。春菜も高校卒業後のことを考えようとした矢先、お爺が寝たきりとなり、介護の日々が続くのだったが・・・。
僕は徳島県池田町出身ですが、夏休みなど両親に連れられて山登りや川遊びをした祖谷に愛着がありました。その後、映像を学ぶために東京で生活をすることで、池田町も含めて自分の田舎というものに客観性をもって向き合うことができるようになったのです。大学時代は自主制作でB級ホラー映画などを撮っていたのですが、地元のためにも何かしたいという想いがありました。その中で祖谷の自然は現代的なテーマでもあり、人間と自然との共存という意味も含めて世の中に伝えることがある。祖谷を描くことで、日本人の心の故郷を呼び戻せるのではないかと思ったのです。
『イヌミチ』万田邦敏監督インタビュー
(2013年 日本 1時間12分)
監督・編集:万田邦敏
脚本:伊藤理絵
出演:永山由里恵、矢野昌幸、小田篤ほか
映画美学校2012年度高等科コラボレーション作品
2014年 5/3(土)〜5/16(金)第七藝術劇場、5/16(土)〜5/30(金)立誠シネマプロジェクト(京都)、6/6(金)〜6/10(火)神戸映画資料館
公式サイト⇒ http://inu-michi.com/
©2013 THE FILM SCHOOL OF TOKYO
~“犬”と“飼い主”の関係を経て…~
人は生きていくことの重みから逃れることはできない。仕事にも恋にも倦み疲れた30歳間近のOLの響子は、見知らぬ男、西森の家にころがりこみ、四つん這いになって「イヌ」の真似を始める。飼い主と犬という関係を通じて女はどう変わり、二人はどこへ向かうのか…。
独特の映像世界で私たちを魅了し、映画を観ることのおもしろさと深さを教えてくれた万田邦敏監督。『UNLOVED』(02)では三角関係に揺れる女、『接吻』(08)では殺人犯に恋した女と、さまざまな男女のありようを映画にしてみせてきた監督が、5年ぶりに映画美学校の学生たちとともに撮ったのは、一風変わった男女の姿。この風変わりなお話が、映画としてどう立ち上がり、作品となっていったのか、PRのために来阪された万田監督に率直にうかがった。
【STORY】 (公式サイトより)
仕事や恋人との生活において選択する事に疲れている編集者の響子はある日、クレーマーや上司に簡単に土下座をする男・西森と出会う。プライドもやる気もない西森の、無欲な「イヌ」の目に興味を持つ響子。
出来心から訪れた西森の家で、二人はおかしな「イヌ」と「飼い主」という遊びを始める。
「イヌ」としての盲目的な生活に浸る響子と、その姿に安らぎ「飼い主」になる西森。
ほの暗い家の中で、決して交わることのない身勝手な愛を垂れ流す二人の遊びはどこへ向かうのだろうか。
■キャスティングについて~何を考えてるのかわからない怖さ~
―――西森を演じる矢野昌幸さんはユニークな感じですが、どんなところから役が決まったのですか?
万田邦俊(以下万田) 今回は、映画美学校高等科の1期の学生をキャスティングすることになっていました。ほぼ全員出てもらったんですけれども、11人か12人くらいを全員オーディションして、スタッフになる学生と一緒に役の割振りを決めました。矢野君には、脚本を呼んだだけだとイメージできないような面構えと、何考えてるのかわからないような怖さみたいなのがあって、おもしろいな、この子に西森をやらせると『イヌミチ』というタイトルから普通に連想するようなイメージとは違う西森像になるのかなと思って、キャスティングしました。
―――横顔とか特徴的で、怖い時と普段とすごく落差がありますね?
万田 そうなんですよ、怖いんですよ、あの人は(笑)。本人は全然怖い人じゃなくて、コメディアン、芸人志望で芝居を始めたみたいなんですけど、そこはおもしろいなと思ったんです。もともと彼は眼鏡をかけていて、ただ伊達眼鏡だと思うんですけど、そのまま眼鏡ありでいきましたね。
―――響子を食事に誘うカメラマンの高梨はいかにもイケメンという顔ですが、どんな感じでしたか?
万田 彼については、もらった脚本そのままなんですけど、やはり学生が演じました。演じた学生がもともと持っているキャラクターがちょっと微妙に変な感じの子で、それがおもしろかったですね。役のキャラが随分たちました。彼自身が持っているもののおかげで。
■犬を演じること~自主練で膝小僧が痣だらけに…~
―――響子を演じた永山由里恵さんですが、脚本を読んで自分が犬を演じるって、結構、抵抗があると思うんですが、そのあたりはどうだったんですか?
万田 大変だったと思います。僕も最初に脚本を読んだ時に、犬になるってことですから、「ええ、これってどうやって撮るの?」って思いましたよ。「犬になる、四つん這いになるって、絵になるのか。画面になるのか。難しいな」というふうには思いましたね。
―――永山さんが犬として座っているのがちゃんと絵になっていましたが、かなり練習とかされたんですか?
万田 練習してくれました。僕が知らないところで。彼女だけでなく、矢野君と二人が自主練をしてて、それで、彼女は、撮影に入る前には、膝小僧がもう痣だらけになってたみたいですね。僕、知らなかったんです。彼女も学生だったので、素人というか。プロだったら、サポーターをつけますから、そんなこと絶対ないんです。現場に入ってからは、サポーターさせましたけれども、二人で勝手に自主練している時には、そんなことも思いつかず、タオルかなんかはそれでもまいてたって、言ってたかな。でも、ずれてきちゃいますからね。それで、撮影に入ってから、ある日ふっと控室に行って、ちょうど膝小僧が出てた時で痣だらけになっていて、僕も驚いて「ええっ、なんで?」って言ったら「自主練やってて」と、「ああ、そうだったんだ」って言って。すごく頑張ってくれましたね。二人でいろいろやってくれたようです。
―――今回、美学校の学生さんたちが演じたということで、プロの役者と違っての苦労はありましたか?
万田 それは特になかったですね。主演の二人に関しては、撮影に入る前にリハーサルみたいなことをやったんですが、その時はあんまりうまくなかったんですよね。で、これは大変だな、どうしようかな、と思ったんですけど、その後、リハーサルを何回かやったり、現場も始まってきて、ものすごくよくなってきて、だから、それで苦労したっていうこともほとんどなかったです。
リハーサルは何回かやりました。撮影前に、確か2日くらい、シーンを決めて。家屋に行ってやったシーンもあれば、映画美学校の広いスペースで、見立ててやったのもありました。矢野君と永山さんも自主練を始めていたみたいなので、初めよりは、随分身体が、動きが慣れてきたというか、役者の動き、役者の身体になってきたんだなというふうに思いました。
■脚本づくり~モノローグを削る~
―――この脚本は映画美学校の先生方の評価が高かったんですよね?監督も脚本を選ぶところに参加されたのですか?
万田 脚本コースの3人の講師で選んだもので、僕は選ぶところには参加していません。「これでやってください」と言われたかたちで、決められたものをどうやっておもしろくするのか、ということでした。
―――脚本は最初の形からだいぶ変わったのですか?
万田 直しはしました。最初、モノローグがものすごく多い脚本だったんです。主人公の女性と、途中から男の西森のモノローグも入ってくるんですけど、「ちょっとモノローグが多いから、これは削っていこうね」というところから直しの打合わせをやっていって、でも、話の構成そのものは、そんなに大きくは変わってないです。仮にモノローグを全部はずしてみて、どうしても残さないと気持ちが伝わらないところとか、これは残した方がむしろいいというところだけは、残して、それ以外は全部落としていきました。
―――響子だけでなく、西森のモノローグが入ってくるところがおもしろいと思いました。
万田 そうなんです、そこがおもしろい。「おまえは犬」と言うところだけが西森のモノローグが残っているんですけれども、あれはもっといっぱいモノローグがあったんです。ちょっと心理を説明しすぎているとか、モノローグが入ってくることでその映画のテイストが決まっちゃうみたいなところがあったので、それは避けたいと思って、なるべくモノローグなしで、少なくしていく方向で書き直してもらいました。
―――飼い主になるのが、初めて出会った見知らぬ人という設定がおもしろいです。心理はよくわからなくても、観ているうちに引き込まれてしまいました。
万田 そういうふうに観てもらえれば、それは嬉しいですよね。僕は、そこがなかなかちょっと自分でも、どうおもしろがっていいのか、実はよくわかってなかったんです。彼女が見知らぬ男の前で犬になるって、結構ハードル高いじゃないですか。そこをどうやって見せるんだろう。どういうふうに持って行くんだろう。映画を観ている人が、そこでひいちゃうと、そこから先、映画についてこなくなっちゃうので、そこをどうやってみせればいいんだろう、というのは、結構難しかったんですよ。でも、脚本を書いている伊藤理絵さんは、そのことにあまり難しさを感じてなくて、それは犬になっちゃいますよ、みたいな(笑)ことだったと思うんですよね。そこが、僕がちょっとわからなかったところで、難しかったんです。ただ、観てくださって、そういうふうにそこがおもしろかったというふうに言ってもらえれば、それはこの映画のもともと持っていたおもしろさということなのかな、と思いますね。
■ロケーション~日本家屋の部屋と廊下をどう撮るか~
―――西森の住んでいる古い家はどうやって見つけられたのですか?
万田 あそこはロケハンです。学生が見つけてきたところで、すごくいい場所でしたね。とても不思議な日本家屋で、特に洋間(応接間)、犬がいつも寝ているあの部屋が、おもしろい部屋で、それから、全くそことは違うニュアンスの居間、西森が布団で寝ている畳の部屋ですね。板張りのキッチンもあって、そこを廊下がつないでいるというすごくおもしろい空間で、演出のしがいがありました。
―――公園のシーンもいい感じですよね。
万田 もともとの台本では、携帯ショップのバックヤードみたいな場所だったんですが、いい場所がなくて、「代わりに近くに公園がありますよ」、「じゃ、そこを使おうか」と言って、公園にしましたね。公園にして、より良くなったんじゃないかと思いますけどね。
―――公園に西森を呼びに来た男性店員も、意味なく滑り台を滑ったりしますよね。
万田 あれもその場で思いつきました(笑)。ロケハンした時かな。公園だし、滑り台もあるし、じゃあ使おうかなということですね。
―――いわゆる動線は現場で考えられるのですか?
万田 現場で、その場で、どういうふうにしていこうか、考えましたね。
―――うまくいったシーンとか、監督が気に入っておられるシーンがあれば、教えてください。
万田 記憶にあるかどうかわかりませんが、最初に犬になった日に、西森がこちらで着替えをしてて、彼女が応接間からトコトコ出てきて、西森を噛む。西森が「なんだよ」と言って、そのあと、台所に行きますよね。それを彼女がトコトコ、トコトコって、四つん這いになりながら追っかけるところの廊下のカットが好きですね。あそこがいいなと思ってます。なんか知らないけど。後ろから撮ってるんですけどね、トコトコ、トコトコって、四つん這いになってる感じがすごくいい。後姿が好きですね。
―――逆に、ここは苦労したというシーンはありますか?
万田 シーンで苦労したというのは、そんなにはないんですけれども、なんせやっぱり撮影時間が短かったんでね。そこが一番苦労といえば苦労ですね。結果的に撮れなかったシーンも幾つかあって、とばして、落とすっていうんですが、落とすしかなかったというのが出ちゃったんです。そういう意味では、撮影日数が6日と極端に短くて、大変といえば大変でしたね。特にスタッフをやってた学生にとっては、かなりハードな現場になってたはずですから、大変でしたね。僕はもう、大変というよりは、現場の雰囲気はものすごくよかったので、今回現場はおもしろく楽しくできましたね。
■演出~立っている人と四つん這いの人との位置関係~
―――高さの映画という感じがします。しゃがんだり、立ったり…。犬と人間は高さが違うので、画面に足だけ映ったり、人間がしゃがんで同じ高さになったりとか、おもしろいと思いました。
万田 ええ、いいですよね。あそこは僕もおもしろいなと思いました。四つん這いを撮るってすごく難しいなと思いましたけれども、一方で、立っている人との位置関係ができるので、それはおもしろいなと思って演出もしたし、撮りましたね。
―――響子の動きとして、立ち上がったら人間という感じですか?
万田 そういうルールになりましたね。四つん這いの時は犬ごっこしてる、立ったら人間に戻ってるということにしました。
―――西森の恋人が家にやって来て、犬の響子が彼女にかみついて、珈琲をかけられ、台所て一人ぼうっとしている顔がすごくいいなと思いました。
万田 あそこは物語上も、一つのピークというか、見せ場ですから、そういうつもりで撮りました。二人(響子と西森)の距離が近づきましたね。
―――恋人が帰っていく音が画面オフで聞こえて、誰もいない廊下が映った後、西森が現れるというシーンの展開とかは、撮影の時点で、イメージがあったのですか?
万田 芝居をつくった時には、まだ画面のことは何も考えてなかったんですけれども、芝居を見ながら、これは、誰もいない廊下で、オフで音がしてるというふうに画面をつくっていった方がいいんだなと思って撮影していきましたけどね。最終的には、編集の時に細かいところはつめていきました。
―――アドリブのセリフとかはあるんですか?
万田 僕は全然ないですね。『ありがとう』(06年)で、芸人さんたちにアドリブでやってもらったりもしましたが、基本的に僕はアドリブは撮らないですね。
■犬と飼い主の関係~いじわるをしてみせる~
―――西森が、犬の響子に与えるご飯を、あえて牛乳と混ぜてまずくするところが印象に残りました。
万田 西森が急に残酷になるんですね。いじめるみたいなことをやりだすというか。あれも彼女を犬にさせる試練というか、そこを超えていくところを見せないと、彼女がどこから犬になって、どこまでが人間で、というのがきっとわかりにくかったと思うんですよね。だから、あれを犬食いすることで、彼女がひとつ、犬になった、という設定になっていますよね。犬になって、これを四つん這いのまま食べること。それを見て、西森も、犬になったんだなって言って、喜ぶという。
―――飼い主と犬との、守る、守られるという関係でしょうか?
万田 どうなんでしょうか。僕は大昔にしか犬を飼ったことがないんですが、飼い主って優位に立っていますから、ちょっと、いじわるしたくなりますよね。そういうことなんじゃないですかね。小さい子どもでも、わけもなく、わざといじわるするってことがありますけど、なんかそういう気持ちなんでしょうね。ちょっといじわるしてみせる。それに逆らわずに、自分の与えたいじわるを、試練を乗り越えて、こっちに来たので喜ぶという関係があるんじゃないでしょうか。
―――響子がゴミ箱を振り回してふざけたり、二人の距離が段々近づいていって、なんだか愛みたいなものを感じました。
万田 うーん、愛とかあんまり思ってなかったですかね。
―――絆みたいな感じですか?
万田 絆……、そうですよねえ、やっぱりセックスがないですよね。それだけで男女の関係は、不思議な関係で、片方犬で、片方飼い主で、それでセックスがないっていう。セックスしたいという思いも一切ない。そこは全く描かないということ自体、かなり異様といえば異様だし、変なところなので…。その上で、さらに愛とかいうと、難しいですよね。ほとんどプラトニックなものになってくると、それともまたちょっと違う。はたして、お互い、愛とか、好き合っていたのかどうかも、ちょっとわかりづらいところはありますよね。お互い都合のいい相手を見つけて、ごっこ遊びをしてました、というふうにも思うので。
むしろ、愛情を感じたのは、きっと別れてからですよね。家を出てから、なぜか彼女はもう一度、携帯ショップに戻ってくるわけですよね。なんとなく家を出たけれども、ふらふらと、もう一回、西森のところに来て、そのあと、公園のシーンがあって…。多分、愛情を感じたのは、ごっこが終わってから、ということでしょうか、きっと。
■物語の結末
―――響子が流産するのは、何もかも失わせるという感じなんでしょうか?
万田 何があったわけでもなく、急に流産するんですが、普通そう思うんですよね。僕もそう思ったんです。でも、脚本家に聞いたら、失うってことよりも、つまり、それまで、選んで決めて選んで決めてやってきたことが、自分が全く選べない、選択権のないことが自分の身体に起こったということが、彼女にとっては、何か一つの転機、ショックになった、と脚本家は最初言ってましたね。その感じは、ちょっとわかりづらかった。それにしては流産という出来事が大きすぎる感じがしたんです。でも、「妊娠の初期に、流産って、起こる時は結構起きますから、普通に」って言うんで、「うーん、そんなものかなあ」って。流産しちゃうって、女の人にとって、普通、そう簡単に起きますからじゃ、済まないんじゃないかと思いもしたし、言ったんですけど、それが、犬になることも平気で犬になるという感覚と同じなのかな、流産も別にそんなに重たいことではないという世界をつくりたいというふうに脚本家は思ってたのかな、ということですね。すごく微妙なところだと思いますけど。
―――響子は同棲していた恋人ともあっさり別れてしまいます。そんなに仲悪そうにはみえなかったんですが。
万田 結局、彼にも全く連絡もせず、4日間全く別の場所にいて、心配かけて戻ってきて、彼としては怒るし、何考えてんの、しかも流産したっていう話を聞かされて、いよいよわけがわかんなくなって、別れるしかないよねという。初稿は、彼女の方から「別れよう」と言ってたんですよ。直しの段階で、一回、彼の方から言う形に戻して、もう一回、彼女に戻ったかな、どっちが言うかってのが、なかなか決着がつかなかったんです。最終的に、彼の方から言うということに落ち着いたんですけど。何校か試行錯誤しました。
―――最後、僕も犬になりたいと西森が言うのも、脚本の最初からですか?
万田 それも最初からなんで、そこが不思議な脚本でしたね(笑)。変な展開でしたね。
―――彼も犬になりたいということで、関係をやめるというか?
万田 彼も、人間をやめて犬になって楽したいから、「じゃ、今度、ごっこの順番逆ね」と言って、響子に「僕が犬だから、飼い主やって」ということだと思うんですよ。それを響子が嫌がったという。「犬は私なんだから、あんた飼い主続けてよ」ということでしょうね。その発想もおもしろいですね。
―――西森が一人で床の上にぼうっと座って、犬みたいにボールで遊んでいると、響子が首輪やボールを全部捨ててしまいます。西森にも、犬であることをやめなさい、ということですね?
万田 この関係はもう終わったから、これはありえない関係だったんだから、お互い、別々に、もう犬になるのはやめようねってことですよね。
■映画の初めと終わり~日活映画のテイスト~
―――映画の最初、電車の音から始まって、最後も電車の音で、響子が歩道橋を上がって登場し、最後も同じ場所ですよね。歩いてくる感じとか音楽は、昔の日活映画のイメージですか?
万田 日活のロマンポルノの感じとかね?(笑)はい、そうですよね。それはねらって、というか、はい、そういうふうにねらって撮りました。
―――映画のトーンでしょうか?
万田 はい、テイストを決めているんですけど、あれは。多分それは、脚本の伊藤さんが望んでいたことではないと思います。あれは、僕が勝手にそうしたいと思って、そういうふうにしたところです。
―――響子が犬になった時のしょんぼり座りこんだ姿があるから、最後、人間として立って歩いている姿が颯爽として、最初の登場シーンとは違って見えると思いました。
万田 そうですね、きっとそれは、ねらって撮ってたと思いますね。四つん這いになることと、もう一回立って歩くことと、その対比みたいなものを、映画の中で見せるっていうのは考えてたんでしょうね、きっと。
―――会社で、カメラマンの高梨と響子がすれちがうところも階段でしたね。
万田 まあ、そのへんはね(笑)。階段を見つけたら撮りたいと思う人間ですからね、僕は。なるべく階段のあるところで撮りたいって思ってるんで…そうでした。
■ごっこ遊びのおもしろさ
―――映画を観た方の反応はどうですか?
万田 二つに分かれてるんですかね。おもしろいっていうのと、ある種リアリズムがなさすぎる、っていう。こんな女の人いないよねとか、こんな簡単に楽しちゃいけないよねとか、やりたいことだけやって、ただ、西森の家で骨休みして帰ってきて、男とも別れて、しがらみ全部なくして、それは都合よすぎないとかね(笑)。そういう反応もありますよね。一方で、やっぱり、本来なら乗り越えなきゃいけないハードルみたいなものを、平気で乗り越えていく、女の人の今の生き方みたいな、これはこれでわかる、という人もいますし、結構分かれますね、評価が。
―――観客の皆さんに向けて、どういうところを観てほしいとかありましたら、お願いします。
万田 『イヌミチ』というタイトルで、男が飼い主になって、女が犬になるという映画なんですけれども、そうすると、やはりどうしても男女のセックスみたいなものが普通、介入しますよね。イメージもそういう感じで、ああ、またそんな映画っていうふうに思われがちだと思うんですけど、この映画が本当に不思議なのは、そこにセックスが介在しないという飼い主と犬の関係ですよね。その関係が、一体、どんな話になっていくのか、それでどういう話が展開していくのか、というところに、ぜひ興味を持って観に来てもらいたい、ということですね。
それと、おとぎ話だと思うんですけどね。仕事にも疲れたし、人間関係にも疲れた人が、犬になったら、楽になれる。なら、ちょっと犬をやってみようっていうことですよね。しかもセックスもないから、なお楽だっていうことですよね(笑)。セックスの関係があると面倒くさい、それもなくてもいいんだって、犬になれるんだっていうおとぎ話なんでね。ただ、なったらなったで、それなりに、何か失うもの、最終的には失った、その上で、もう一度、生き直してみようという結末にはなってると思います。おとぎ話のおもしろさみたいなものも観てもらいたいなと思います。
(取材・構成・文責 伊藤 久美子)