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 CMディレクターとして活躍、短編『地球は青かった』(15)、『声』(18)が世界で高い評価を得ている串田壮史監督の初長編作、『写真の女』が、2月27日(土)から第七藝術劇場で公開される。
第15回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門で世界初上映後、世界の映画祭を席巻した本作。男手一つで育てられ、父の遺した写真屋を継ぐ一人暮らしの械を演じるのは平田オリザ主宰の青年団で精力的に活動している永井秀樹。セリフのない女性恐怖症の男の日常を細やかに演じている。械の日常に突然の異変をもたらすインスタグラマーの女、キョウコを演じるのは元バレリーナで、現在は俳優として活躍している大滝樹。かつて華やかな世界に身を置いた者だからこそわかる、観られる喜びと孤独への絶望感を等身大で表現。さらに見合い写真用にレタッチを依頼する女性客を鯉沼トキ、いつも遺影を依頼する馴染みの葬儀屋の男を猪股俊明が味わい深く演じている。女たちが本当の自分とは一体何なのかを問う場面に、他人を通してでしか自己評価ができない現代人への風刺も鋭く描きこまれた異色のラブストーリー。劇中で度々クローズアップされる、カマキリが重要なモチーフになっているのも注目したい。
 本作の串田壮史監督と主演の永井秀樹さんにお話を伺った。
 

 

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■日常会話を普通にみせる青年団の演劇に出会った時、「これだ!」と思った(永井)

――――永井さんは平田オリザさん主宰の青年団で長く活動をされておられますが、入団したきっかけは?
永井:早稲田大学在学中からしばらく自分たちの劇団で、それこそ劇団☆新感線やつかこうへいの真似事のような演劇をしていましたが、次第に違和感を覚えていたんです。当時は岩松了さんや宮沢章夫さんによる静かな演劇が流行っていて、僕自身、当時から小津映画のように淡々とした作風が好きだったので、「これだ!」と思っていたのですが、平田(オリザ)の劇団もそれをやっていると聞いて、青年団の門を叩いたんです。見たこともないのに(笑) 
 
――――青年団と言えば所属俳優の演技が上手いことと、平田オリザさんの緻密な演出のイメージがありますが、実際稽古は大変ですか?
永井:昔はとにかく秒単位で動きを指示し、びっくりするような演出でした。言い方に語弊があるかもしれませんが、俳優はただの駒だから言った通りに動けばいいということなんです。演技に気持ちを乗せる必要なんて一切ない。とにかく演出通りに動くということなんです。例えば「相手に向かって話終わった2秒後に、手に持ったコップをテーブルに置いて」とか、同時に会話が進行している時「自分の目前の会話に対して、ちょっと反応して」とすごく細かい演出が付くのです。
 
――――ひたすらタイミングを覚えこませる演出ですね。逆に言えば自分で考えて動きなさいという演出方法だと戸惑ってしまいますね。
永井:平田演出にどっぷり浸かっていたときは、僕もそうでしたね。「考えて」とか「物語はこういう流れだから」と言われても、心の中でそんなのどうでもいいやん、どうしてみんなはそんなに考えるのかと思っていました(笑)ただ、しばらく青年団を離れ、他の劇団の作品に出演するようになったことで、少し平田流から浄化され、一般的な演出を理解できるようになりました。
 
実は平田も、俳優にちゃんと考えてほしいという思いがあったようなんです。ただ、俳優はどうしても自分の気持ちでやりたがり、それだけを伝えようとするので、物語として見ているとつまらなくなってしまう。そういうものがぶつかり合う演劇になってしまうのを避けるために、わざと当時は細かいところまで指示していたわけです。今は平田も気持ちの流れに沿ったセリフの強弱を指導したり、普通の演出もするようになりましたね。
 
 
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■普通に見える人を探して、永井さんに迷わずオファー(串田)

――――演出家も俳優もお互いに成長し、本来の狙いを共有できるようになったということですね。本作の前に、串田監督の短編『声』で永井さんを主役に抜擢。この作品が初の永井さんの初映像作品になったそうですが、キャスティングの経緯は?
串田:『声』は10分の短編です。キャスティングディレクターには主人公が町工場勤務の男なので、町工場の服を着ただけでそう見える人とリクエストしました。他の候補の方は普段演劇をして自分を出す仕事をされているので自己主張の強さが染み付いている演技をされる方が多かったんです。永井さんの資料として最初拝見した映像が、バウムちゃんねる×映画・映像監督コラボ企画で、上田慎一郎監督の『ナニカの断片』だったのですが、永井さんは公園のベンチにただ座って、その前で黒服の人たちが何かやっているのを見ているだけなんです。「座っているだけ、見ているだけ」ができるし、一目でその人が普通の人であることがわかる。僕は普通に見える人を探していたので、永井さんに迷わずオファーしました。
 
 
 

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■究極的にはしゃべらずに、そこにいるだけで成立するような俳優になりたい(永井)

――――『声』も『写真の女』もセリフのない役ですが、違和感はなかったですか?
永井:『声』は、一人で生活し、一人で働いているので、しゃべる理由がないなと思いながら演じていました。その経験があったので『写真の女』は「またか」と思うぐらいで(笑)俳優は普通セリフをしゃべりたがるようで、突然セリフが削られたりするとすごく落ち込む人もいるのは確かですが、僕自身は究極的にはしゃべらずに、そこにいるだけで成立するような俳優になれたらいいなと思っているんです。だからセリフなしでも、むしろそれで成り立たせてくれるのかとありがたい気持ちですね。
 
――――『写真の女』のシナリオを読んだ時の感想は?
串田:撮影の半年前に、いわば永井さんをキャスティングするためのA4で2枚ぐらいのシノプシスを見ていただきました。今回はシナリオを書く前に、キャストを先に決めたかったんです。そこまであらすじは気にしていないだろうなと思っていましたが…。
永井:どうせ変わるだろうと思っていたし、そこは串田さんに任せておけばいいかと。セリフがないというのと、女の人に食われる人だよとか、写真を撮っている人だよいうぐらいの情報だけでしたが、とにかくまた串田さんと映画を作れることがうれしかったですね。『声』は1日で撮影したのですが、撮り方や現場の進め方、緊急時の対応の仕方が心地よくて、任せられる監督だなと思ったんです。
 
――――キョウコ役の大滝樹さんは、キョウコと親しいものを感じますね。
串田:キョウコ役に関しては、すべて大滝さんのプロフィールを元にしています。大滝さんは元バレリーナーで「くるみ割り人形」が代表作ですし、外国で活動の後、数年前に帰国されたというところもキョウコに取り入れています。大滝さんも映像作品はこれが初めてなので、その驚きもこの作品の持ち味になっていると思います。
 
 
 

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■役作りは特にせず、その一瞬一瞬が面白くなることを考えて(永井)

――――写真屋を継ぎ、ずっと一人で生きてきた主人公械を演じるにあたって、何か役作りをしたのですか?
永井:青年団のスタイルなのですが、そのシーン、そのシーンを切り取る形で演じられればと思っているし、その一瞬一瞬が面白くなることしか、基本的には考えないんです。それをつなぐのは監督や演出の作業ですから。今回、械という役を与えられてはいますが、実際に動くのは僕なので、各シーンで僕だったらどう動くかと思って動いています。それに加えて写真のことを気にしてみたりすることはありましたが、それ以上の役作りはしないですね。
串田:僕はいつも撮影するときは、現場で皆を集めて、スケッチブックに描いたシーンのト書きと、そのシーンで撮影する画のパターンを説明し、一度永井さんに動きをやってもらう。そこでカメラマンがアングルを探ったらすぐに本番に入るんです。
 
――――リハーサルはしないんですね。そのやり方は串田さんオリジナルですか?
串田:非常にCMっぽい撮り方ですね。絵コンテがベースにあり、その通りに進んでいくので現場で監督が葛藤することもなく、ただ撮るだけなんです。カメラがドンと置かれた後に、役者さんを指定の場所へ誘導するのでアドリブのしようがないかもしれませんね。今回、一番アドリブがあったのは、見合い写真にリタッチを要求するシーンです。女性客役の鯉沼トキさんに自由にリタッチの指示をしてもらい、後ろでプロのリタッチャーが作業をするという形でした。「目を大きく」とか色々と指示されていましたね。
永井:そういう制限を与えられることに対しては、あまり嫌じゃないんです。違和感を感じずハイハイとやるから、串田さんにとっては使いやすいのかもしれませんね(笑)。
 
 
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■上演後、「出ていらしたんですか?」と驚かれるのは役者冥利に尽きる(永井)

――――微妙な表情の変化が、声にならない声になっていましたね。
永井:自然に反応しただけなのですが、よくそれを捉えてくれたと思います。
串田:やっぱりつい大げさになってしまいますから、自然な表情でいるというのは難しいんです。
永井:お客様も自然に見てくれるといいなと思っています。「こういうキャラなんだ」と思われるのは嫌なんですね。舞台をやっていて、お客様の反応で一番うれしいのは、終演後「出ていらしたんですか?」と驚かれることなんです。以前体育教師の役をしたときに、お客様から「本当に体育教師やってらっしゃるんですよね」と聞かれたことがあり、本当にうれしかったんですよ。元々体育教師の人が舞台に引きずり出されたみたいに思ってもらえると、僕にとっては役者冥利に尽きますね。人によっては「もっとガツガツいきなさい!」とアドバイスを受けることもあるのですが、それをやってしまうと僕の場合はかえって嘘になってしまいますから。
 
――――キョウコ役の大滝樹さんとの共演はいかがでしたか?
永井:大滝さんは現場のムードメーカーで、キョウコそのままの雰囲気をお持ちでしたね。
 
――――キョウコは赤色がテーマカラーなのに対し、械は常に真っ白な下着や服を身につけていますが、徐々に赤に侵食されていくという色を使った表現も秀逸でした。
串田:サイレント時代にはできなかった、カラー映画ならではの色によるキャラクター付けということで、械の周りに赤がイメージカラーのキョウコ、緑がイメージカラーの女性客、黒がイメージカラーの葬儀屋の男が集まってくるので、械は濁らないように常に白を着てもらいました。純潔や人を寄せ付けない反射のイメージも重ねています。
 
――――カマキリも重要なキャストですが、永井さんはカマキリとの共演時間も長かったですね。しかもカマキリ指導の方もついておられたそうで。 
串田:カマキリ指導をしてくださった渡部宏さんには現場や、リモートで色々とサポートしていただきました。動いている餌しか食べないとか、どうすれば上を向いて歩いてくるカマキリと目を合わせることができるかとか。そういうカマキリの習性を教えていただき、親密さを表現できるように撮影しましたね。
永井:実際にカマキリを見ていると楽しくて、よくわからないまま動いている彼らをじっと見ていると無になれるんです。無邪気そうと言われますが、それこそ僕の演技の中で唯一のアドリブかもしれません。
 
 
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■時が止まってしまった登場人物たちがそれに気づく物語(串田)

――――串田監督は、本作のテーマの一つとして時間を挙げておられますね。
串田:械は少年時代から同じ場所に住み、時間が止まってしまっているし、キョウコもかつての華やかだった時間で止まっていて、その姿がインスタグラムのタイムラインでずっと存在しているからかつての自分が今の自分を追い詰めてしまう。葬儀屋の男も、幼い娘を亡くし、その時間で時が止まってしまっているんです。レタッチで小学生の娘を成長した姿にし、娘がこれだけ成長したことを実感することで今の自分が年老いたことに気づく。そういう物語でもありますね。
 
――――レタッチの音やカマキリが食べる音など、音が際立つ映画でもあります。
串田:この作品は全部アフレコなんです。画面の中で強調したいものがある場合は、音によって観客の目線が誘導できるようにしたり、画面の外に人がいることを示したければ足音を強調したり。そういうことは全部アフレコでないとできません。音にこだわるのは、映画館で映画を見るのは、完全な静けさの中で音の良さが際立つからという思いがあるからですね。
 
――――最後にこれからご覧になるみなさんにメッセージをお願いいたします。
串田:100秒予告がすごく良くできているので、そちらを観ていただければ、初監督作品ではありますが、信用して観ていただけると思います。映画の面白さは予告編で大体わかりますから、ぜひ、予告編をご覧ください。
永井:この作品は僕の演じる械が立っている横にカメラがある械目線の映画だと思います。械が見ている一コマ一コマを一緒に見て、楽しんでいただければうれしいです。
(江口由美)
 

 
<作品情報>
『写真の女』
(2020年/日本/89分)
脚本・監督:串田壮史 
出演:永井秀樹、大滝樹、猪股俊明、鯉沼トキ 
2020年2月27日(土)から第七藝術劇場で公開
 
(C) 2020「写真の女」PYRAMID FILM INC.
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「理想の死に方を提案したい」『痛くない死に方』高橋伴明監督、長尾和宏さん(原作)インタビュー
 
 在宅医療による平穏死を提唱する尼崎の開業医、長尾和宏さんの著書「痛くない死に方」「痛い在宅医」を原作に、高橋伴明監督(『赤い玉、』)が終末期医療の現実と理想を描く『痛くない死に方』が3月5日(金)からテアトル梅田、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、京都シネマ、イオンシネマ京都桂川、MOVIX堺、3月12日(金)から塚口サンサン劇場、豊岡劇場にて公開される。
 
 苦い経験を心に刻みながら、在宅医療の道を歩む主人公河田を、『火口のふたり』などの柄本佑が演じる他、河田の誤診から実父を苦しい死に追い込んだと後悔する娘を坂井真紀、悩める河田にアドバイスを与える先輩医師長野を奥田瑛二、全共闘世代のガン患者本多を宇崎竜童が演じている。平穏死から程遠い死に方、枯れるように死んでいく理想の死に方に家族と死について話したくなるような作品。要所要所で在宅による終末期医療で肝心なことや、自分の意思で自分の死に方を選ぶ方法もさりげなく盛り込まれている。同時期に公開される長尾さんの仕事ぶりに密着した毛利安孝監督『けったいな町医者』と合わせて観ることで、より病院や医者との付き合い方や、平穏死を迎えるために必要なことがわかるだろう。終末期医療を見事に言い当てた川柳にも注目してほしい。家族や夫婦の絆、青年医師の成長を描いたという点でも見応えのある、真面目に死を捉えたヒューマンドラマだ。
 
 本作の脚本も手がけた高橋伴明監督と、原作者で医療監修を手掛けた長尾和宏さんにお話を伺った。
 

 

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■余計な力を入れずに作った「理想の死に方の提案」(高橋)

――――「痛くない死に方」の原作者で在宅診療医の長尾先生との出会いは?
高橋:「痛くない死に方」を拝読した後、築地の本願寺で長尾先生の講演会があったんです。それが初対面でしたが、そこでいきなり歌を歌い出したので、びっくりして。この人は規格外だなと(笑)
 
――――原作を元に、どのようにして脚本を作ったのですか? 
高橋:映画の前半はまさに原作通りなのですが、それだけだと中身も辛いし、自分自身が映画にするのも辛い。長尾先生の他の本も読ませていただきましたし、他にも死に関連する本を多々読み、在宅医に関する知識を蓄えていたので、それらを取り入れながら今自分で考えられる「理想の死」を後半部分にくっつけました。理想の死に方の提案ですね。余計な力が全然入らずに作れた作品でした。
 
――――今回、高橋伴明監督によって映画化された感想は?
長尾:高橋監督の作品はずっと観ていましたし、時代の先端を行く作品を作っておられてカッコいいと思いましたし、奥様(俳優の高橋恵子)と結婚された時のことは記憶にバッチリ残っているぐらいです。そんな方が、医療ものの重いテーマのものを撮っていただけるということが、とてもうれしかったです。自分がやってきた素材を高橋監督が脚本という形で料理していただき、しかも色々な調味料を加えて、僕が言いたかったことを一点の無駄もなく入れてくださった。しかも川柳というユーモアも加えてくださった。カルタにして売りたいぐらいです(笑)
 
 
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■阪神・淡路大震災で踏ん切り、町医者になり「平穏死」を知る(長尾)

――――長尾先生に密着したドキュメンタリー『けったいな町医者』で阪神淡路大震災が勤務医から町医者、そして在宅医になるきっかけになったとおっしゃっていましたが、今一度その経緯を教えていただけますか?
長尾:芦屋市民病院で消化器医として勤務して10年目の頃、個室にいる胃ガンの患者さんに夜呼ばれ、家に帰ることと抗がん剤を止めるという二つのお願いを聞いてくれないかと頼まれました。上司に相談した結果どちらもダメだと伝えると「僕はダメな人間です。一度だけ浮気をしたんです」と泣かれたのです。驚いて声をかけて帰宅した真夜中に病院から電話があり、その患者さんが病院の屋上から飛び降りたと。僕はその患者さんを殺してしまったと思いました。その後、阪神・淡路大震災があり、今もコロナで大変ですが当時も無政府状態になっていて、自分で動かなければダメだと踏ん切りがつき、小さな雑居ビルの一角で開業医として再出発しました。当時、朝夕注射にきてくれた肝臓ガンの患者さんがいたんです。その方の具合が悪くなって自宅まで診に行くようになり、僕の初めての在宅医としての看取りとなりました。
 
肝臓ガン専門病棟で仕事をしていたこともあったので、毎日末期の肝臓ガンで血を吐いて血の海になって亡くなる姿を見ていましたが、その患者さんは手厚い治療を施されることもなく、血を一滴も吐くことなく亡くなった。肝臓ガンの患者さんでこのようなケースを見たのは初めてでした。これが平穏死なんです。在宅医もだんだん増えてきて、今は非常勤を入れて8人の医者が600人ぐらいの患者さんを診ています。規模が大きくなっても600人全員と関わるようにしているんです。
 
――――柄本佑さんは『心の傷を癒すということ<劇場版>』で阪神淡路大震災時に避難所などで被災者の「心のケア」に積極的に取り組んだ安先生をモデルにした精神科医を演じていますが、長尾先生の原作を元にした本作では苦い失敗を経て成長していく在宅医を演じています。役作りで監督から何かアドバイスはされたのですか?
高橋:今回は柄本さんに限らず、ほとんど役作りや登場人物の狙いをほとんど話していないですね。時々宇崎さんがロックンローラーになってしまうので、「ちょっと抑えて」と言ったぐらいですね。柄本さん自身も長尾さんの往診に1日同行し、患者さんとどんな接し方をしているかを見ているので、それを参考にしたのではないでしょうか。何かをきっかけに成長させるというのは、映画の王道ですから。
 
――――長尾先生をモデルにした主人公河田の先輩、長野を演じているのは奥田瑛二さんですね。
長尾:奥田瑛二さんが撮影現場で、僕が普段言っていることを言っていただけたのは、やはり全く重みが違います。俳優が語るのは、こんなに人の心に届くものなのだと思いましたし、奥田瑛二さんには感謝しかありません。
 
 
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■下元さんなら紙おむつを履いてくれると思った(高橋)

――――前半、苦しみ抜いて死んでいく老人を演じた下元史朗さんの演技が実に真に迫っていました。
高橋:死ぬ間際に過呼吸になるのですが、その呼吸の仕方は医療監修もしていただいた長尾先生がすごくこだわっておられたんです。ここはリアルにやろうと腹を決めたので延々とカメラを回しましたが、実は役者は大変なんですよ。あとは、紙おむつの姿を他の役者さんは絶対に撮らせてくださらない。他の男優は全員、「自分なら紙おむつは絶対だめだ」と。僕は下元さんなら履いてくれると思っていました。ただあの紙おむつ、もう少しシンプルにならないですか?
長尾:NHKスペシャルでもあんなシーンはないですが、みなさんが知りたいのは紙おむつの実態だとか、そういうのが知りたいんですよ。
 
 
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■リビングウィルと死の壁を描いた初めての映画(長尾)

――――ラストに「リビングウィル」が説明されていましたが、これもこの作品の一つの提案なのですか?
長尾:現在、日本でリビングウィルは3%の人しか書いていません。日本人の終末期医療は3分の2は家族、3分の1は医者が決めており、自分で決めているのは3%ということです。国際的にみれば極めて特異で、欧米では認知症にならない限り100%自分で決めます。日本は世界で唯一リビングウィルが有効であるという法律がないのですが、もう少し希望を出したり、話し合ったりしてもいいのではないか。国は人生会議という言葉を昨今使っていますが、その核となるのはやはり本人の意思です。遺言状もそうですが、紙に書くことで重みが増します。そういうこともこの映画で知っていただけるとうれしいし、高橋監督がリビングウィルを映画で扱ってくださったというのは、映画としても初めてではないかと思います。
 
また、宇崎竜童さん演じる本多が直面する「死の壁」は、亡くなる前に自然と悶えるんです。病院だと麻酔がかかっているので眠ったままになるのですが、自然の最期は死の壁があり、それを描いた最初の映画だと思います。一枚の川柳にも話せば一時間かかるぐらいの重みがありますし、映画という時間の制約がありながら、この一本の映画の中に僕が書いた10冊ぐらいの本の内容が散りばめられています。
 
――――本多が亡くなる前、河田が一緒にお酒を飲んだり、『けったいな町医者』での長尾先生の「笑うこととしゃべることがリハビリ」という言葉を聞くと、やりたいことをやれるのが一番だと思いますね。
長尾:それができるのは現時点では自宅なんです。病院も本当は変わらなければいけないので、病院のお医者さんにこの映画をぜひ見ていただいて、ディスカッションしたいです。僕は強烈なアンチテーゼで本を書いているし、『痛くない死に方』『けったいな町医者』は病院の先生が正視したくない2本だと思います。だけど正視してほしいし、市民の声を聞いてほしいと思います。
(江口由美)
 

『痛くない死に方』(2020年 日本 112分) 
監督:高橋伴明 
原作:長尾和宏「痛くない死に方」ブックマン社
出演:柄本佑、坂井真紀、余貴美子、大谷直子、宇崎竜童、奥田瑛二、大西信満、大西礼芳、下元史朗、藤本泉他
3月5日(金)からテアトル梅田、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、京都シネマ、イオンシネマ京都桂川、MOVIX堺、3月12日(金)から塚口サンサン劇場、豊岡劇場にて公開
©「痛くない死に方」製作委員会
 

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製作ウェイポイント・エンターテインメント×監督テレンス・マリック×撮影エマニュエル・ルベツキ

映画賞を席巻し、世界を魅了し続ける天才と豪華俳優陣が集結!

青春を引きずった大人たちが、絶望と孤独にもがきながら人生の輝きを見出していく、

エモーショナルなラブストーリー

 

「自分にとってはテレンス・マリック作品に出演するのは夢」

「皆、テレンス・マリック作品に出演したい、一緒に仕事がしてみたいと思っている」

マイケル・ファスベンダー、ライアン・ゴズリングが大絶賛!テレンス・マリック監督の魅力を語る。

 

日本での『mid90s ミッドナインティーズ』のヒットも記憶に新しく、『沈黙 ―サイレンス―』『女王陛下のお気に入り』などアカデミー賞の候補作を続々と送り出すなど、世界中の映画好きから注目の的となっている気鋭の映画スタジオ、ウェイポイント・エンターテインメントがルーニー・マーラ、ライアン・ゴズリング、マイケル・ファスベンダー、ナタリー・ポートマン、ケイト・ブランシェットら豪華俳優陣を迎えた最新作『ソング・トゥ・ソング』が12月25日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開となります。
 


 

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アメリカで指折りの音楽の街、オースティンで、それぞれに幸せを探す4人の男女の人生が交差する。個性豊かな4人を演じるのは、ルーニー・マーラ、ライアン・ゴズリング、マイケル・ファスベンダー、ナタリー・ポートマン。主役クラスの豪華な面々が奇跡の共演を果たした。さらにリッキ・リー、イギー・ポップ、パティ・スミス、ジョン・ライドン、レッド・ホット・チリ・ペッパーズなど様々なミュージシャンが出演して多彩な音楽と共に映画に彩りを与えている。


監督・脚本を手がけたのはアカデミー賞7部門ノミネート作『シン・レッド・ライン』の他、『地獄の逃避行』『天国の日々』『名もなき生涯』といった名作を生み出してきた巨匠、テレンス・マリック。これまでアカデミー賞を3度受賞した名カメラマン、エマニュエル・ルベツキとの見事なコラボレーションも冴え渡り、魔術的とも言える映像美で4人の愛と裏切りのドラマを描き出した。人生は選択の連続。愛、友情、家族、成功……何かを手に入れるために、誰かを(時には自分を)裏切らなければならないとしたらどうする?巨匠と名優たちが「人生にとって本当に必要なものは何か」とう大切なテーマを、独創的なスタイルと圧倒的な映像で描き出した本作は、感動のラストまで見るものを捉えて離さない!


songtosong-500-2.jpgマイケル・ファスベンダー、ライアン・ゴズリングが語るテレンス・マリック監督の魅力とは!?


『ソング・トゥ・ソング』で初めてテレンス・マリック監督作品に出演したライアン・ゴズリングとマイケル・ファスベンダーが、その独特な撮影方法で知られるテレンス・マリック監督について語り、互いに監督の仕事を大絶賛し合うコメントが到着した。


テレンス・マリックとの仕事について?

マイケル・ファスベンダーは「今まで経験したことのない感じだった。とても激しく、何かに挑戦する感じで、やりがいのある、面白く、恐ろしい経験でもあった。彼は常に執筆していて、特に決まった台本があるわけではないので、台詞を短時間に覚えるのは大変だった。監督は書いたセリフを読ませてくれるが、ほとんど即興でやらなくてはいけない。作品は、監督が実権を握っている即興で成り立っている。監督は唯一無二の存在で、この国の偉大な詩人のひとり。自分にとってはマリック作品に出演するのは夢であり、学校に戻っていろいろと学び直しているような感じだった」と、そのオリジナルな撮影方法に苦労しながらも監督の仕事を大絶賛。


songtosong-500-4.jpgライアン・ゴズリングも「まったくそのとおりです。皆、マリック作品に出演したい、一緒に仕事がしてみたいと思っていて。テレンス・マリックは、作品を数秒観ただけで彼の作品だと分かる数少ない監督です。これは非常に稀有なことで、その監督作に出演するのも同じように貴重で刺激的です。ふつうの映画作りとまったく異なるやり方、アプローチで映画を作るし、常に何かを探しているというか求めていて、毎日自分がそれのお手伝いができるのが嬉しい。全く新しい未知の経験でした。例えば、突然パティ・スミスが現われて数日一緒に過ごしたり、撮影したり。ユニークな経験の連続で、今まで培ってきたものや知ったり学んだりしてきたことをすべて置き去りにして、ただただ飛び込んでいく。本当に素晴らしい経験でした」と作品に参加できて喜びを語った。
 



プロデューサーの二人が語る撮影裏話&出演者についての

『フリーダ』で第75回アカデミー賞主演女優賞など6部門にノミネート経験を持つサラ・グリーンは、本作でテレンス・マリック監督と6作品目のタッグとなる。サラ・グリーンは、音楽フェスでの撮影について「私たちは長年少数のクルーで仕事をしてきた。その撮影スタイルが音楽祭の撮影によく合っていたの。少人数で会場に入ることができたから。できるだけ人数を減らし、そっと出入りしたの。照明も当てず自然光で撮影したわ。私たちのチームは自然光を使った撮影が得意だし、撮影は成功したわ。自由なスタイルの少人数での撮影と制作が合っていたのよ」と、その撮影方法を評価した。ルーニー・マーラのキャスティングに関しては「テレンスが気に入ったのは彼女の柔らかな雰囲気だと思う。彼はこんな人物を描きたがっていた。純真そうでかわいらしいけれど、うまく自分を制御できていない女性。何かを感じたくて極度の経験をする、世界とつながるためにね。ルーニーとは何度か話し合いをしたわ。彼女は興味深い人物で非常に深みがあり、彼女自身も矛盾を抱えていた。彼女ならすばらしいキャラにできると思ったわ」と明かした。

もう一人のプロデューサー、『mid90s ミッドナインティーズ』『沈黙 -サイレンス-』『女王陛下のお気に入り』などで知られるケン・カオは、パティ・スミスの出演について「パティは独創的だ。私たちは彼女の音楽と共に育ってきた。彼女の音楽も好きだけど「ジャスト・キッズ」を読んで大好きになった。彼女と仕事ができてよかった。彼女は皆に刺激を与えたんだ。ルーニーもフェイのように影響を受けたと思う」と語った。

 

大物スター俳優たちも魅了するテレンス・マリック監督の最新作『ソング・トゥ・ソング』は12月25日より全国公開。ぜひ劇場でお楽しみください!


【STORY】
songtosong-pos.jpg音楽の街、オースティン。何者かになりたいフリーターのフェイ(ルーニー・マーラ)は、成功した大物プロデューサーのクック(マイケル・ファスベンダー)と密かに付き合っていた。そんなフェイに売れないソングライターBV(ライアン・ゴズリング)が想いを寄せる。一方、恋愛をゲームのように楽しむクックは夢を諦めたウェイトレスのロンダ(ナタリー・ポートマン)を誘惑。愛と裏切りが交差するなか、思いもよらない運命が4人を待ち受けていた…。


監督・脚本:テレンス・マリック 製作総指揮:ケン・カオ 撮影:エマニュエル・ルベツキ 
美術:ジャック・フィスク 衣装:ジャクリーン・ウェストー音楽:ローレン・マリー・ミクス 編集:ハンク・コーウィン
出演:ルーニー・マーラ、ライアン・ゴズリング、マイケル・ファスベンダー、ナタリー・ポートマン、ケイト・ブランシェット、ホリー・ハンター、ベレニス・マルロー、ヴァル・キルマー、リッキ・リー、イギー・ポップ、パティ・スミス、ジョン・ライドン、フローレンス・ウェルチ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ
2017年/アメリカ/128分/シネマスコープ/カラー/5.1ch/PG12
原題:SONG TO SONG 
配給:AMGエンタテインメント 提供:キングレコード、AMGエンタテイメント 
© 2017 Buckeye Pictures, LLC 

公式HP:songtosong.jp 
公式TWITTER:@SONGTOSONG_JP

2020年12月25日(金)~新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、アップリンク京都、ほか全国公開


(オフィシャル・リリースより)

jozetora-tanaka1.jpgアニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』制作会社ボンズ、南雅彦社長とのホットな語らい

2020年12月4日(金)大阪芸術大学にて

聞き手:武部 好伸(エッセイスト)


アニメは決して嫌いではないんですが、正直、あまり深入りしておらず、映画と言えば、もっぱら実写ばかり。それは俳優の演技が見られないからだと思います。そんなぼくが12月25日公開のアニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』を試写で観て、思いのほか心が動かされ、この作品にどっぷりハマってしまいました。


原作は、昨年亡くなられた芥川賞作家、田辺聖子さんの同名短編小説(1984年)。2003年には妻夫木聡、池脇千鶴の共演、犬童一心監督の手で映画化もされ、今回、新たにアニメ映画として登場。大阪を舞台にした作品です。生まれも育ちも、そして今暮らしているところも大阪市内という生粋の浪花っ子を自負しているぼくにとっては必見の作品。執筆テーマの1つにもなっており、非常に興味深く観ることができました。


jozetora-550.jpg.jpeg車イス生活を送るジョゼと海洋生物学を専攻する大学4年生の恒夫との刺激的な交流が描かれています。原作、実写とは異なり、恒夫が夢を追い求める優等生なんですね。しかも標準語を話す何ともスマートな青年で、きつい大阪弁を放つジョゼとは対照的です。そのジョゼも、絵を描くのが大好きな女性に変わっていました。


そんな2人のラブ・ロマンスだけではなく、むしろ成長する姿に重きが置かれていたのが新鮮に感じられました。そのテーマ性としなやかな、それでいてメリハリのあるストーリー展開、そして美しい筆致の作画が見事に相まってハイレベルなアニメ映画に仕上がっていました。コテコテの白々しい大阪ではなく、ごく日常的な大阪が活写されていたのが何よりもうれしかった。


この作品、実はぼくもほんの少し関わっているんです。スタッフロールの「協力」のところに名前が出ています。2年前の春、本作を手がけたアニメ制作会社ボンズで働いている大学の教え子(大槻真之君)から「先生、ロケ地を探しています。ご協力ください」と連絡があり、その後、設定制作のスタッフとしてぼくの伝えた候補地をロケハンしたそうです。ジョゼの家のモデルがぼく推しの長瀬川(東大阪市)ではなく、もう少し南東部の玉串川(八尾市)に設定されていたのは意外でした。やはり川幅が広い方が見映えがするからでしょうね。


こうした流れから、ボンズの南雅彦社長にインタビューする機会を得ました。12月4日、南さんの母校、大阪芸術大学で学生向けに開催された『ジョゼ~』の上映会とトークショーのあとでお会いしました。学生時代に所属していた軟式テニス部のOB会以来、10年ぶりに芸大を訪れたそうです。


初対面です。挨拶したとき、実に柔らかい、温かみのある声だったので吃驚しました。ええ声~! きっとカラオケがお上手なんやろなぁ。いや、それ以上に古巣新聞社の科学部記者のときに取材した某大学病院の小児科ドクターとそっくりだったんです!(笑)。そのことはご本人には言いませんでしたが……。
 


 

まずは教え子のことを伝えたら、「そうでしたか」と笑みを浮かべ、続いて作品の感想を素直に言うと、大きく破顔し、照れてはりました。最初に訊きたかったことは、社長としてこの作品にどう関わったのかということ。そこが気になるところです。


「ぼくは縁の下の力持ち。すべて監督のタムラコータローありきでした。監督とプロデューサーから『ジョゼ~』をやりたいと言われたとき、まぁ、普通なら『ん?何、言ってるのかな!』となるんですが、脚本を読むと、ジョゼと恒夫の2人が求めているものが明確に築かれていて、小説の結末からその先の人生の時間を映像で見たいと素直に思いまして。実は小説と実写映画のことをすっかり忘れていて、あわてて同時に見直したんです」


ボンズ制作の『ノラガミ』(2014年)で監督デビューしたタムラコータロー監督、一体、どんなお人なんでしょう。


「スタイリッシュなフィルム(作品)を手がけ、アニメに対して真面目な人です。恥ずかしがり屋さんでしてね」。ここで、なぜか身をよじらせて大笑い。そして一息つき、「制作していく過程で、自分の作品に恋愛感情を抱き、そのことに照れている、そんな人です。とにかく愛が強い。この作品にはタムラ監督の人生観が詰まっています」


なるほど、登場人物が生き生きしていたのは、タムラ監督の魂がこもっていたからなのか。その演出とリンクした桑村さやかさんの脚本も実によくこなれていました。原作ではジョゼが恒夫のことを「あんた」、アニメでは「おまえ」と呼び捨て。上下(主従?)関係を明確にさせ、2人のコントラストをよりいっそう際立たせていました。そうそう、名脚本家として知られる渡辺あやさんのデビューが実写版でした。


「桑村さんはタムラ監督が推した人で、彼女は実写版の『ジョゼ~』が大好きな方でした。実写だと絵一枚で見せられるんですが、アニメだと説明するところが多くなるので、脚本が大変だったと思います。それにしても、渡辺さんのあとでよくぞやってくれました」


ここで、ふとコロナ禍のことが気になりました。制作に支障が出なかったのでしょうかね。


「本来は3月に完成させる予定だったんですが、コロナ禍で映画館が営業休止されたりして、9月いっぱいまでの完成になりました。その半年間、スタッフが連携し、より監督が求めていたものを実現させてくれましてね。最終的に半分ほど直したんです」


jozetora-500-4.jpg.jpeg『ジョゼ~』のような「大阪映画」には、やはり大阪弁(関西弁と一括りにせんといて!)がキーポイントになります。そこが大阪人の一番、気になるところ。ジョゼの声を担当した清原果耶さんは大阪生まれとあって、イントネーションはほぼ完璧でした。「ほぼ」としたのは、少し違和感を持ったところが2、3か所あったからです。


「今の大阪の若者は、武部さんのような本来の大阪弁を喋れません。今風の若者ことばです。武部さんはコテコテですね(笑)。大阪弁なら、おばあちゃん役の松寺千恵美さんがよかった。『ふたりっ子』や『ちりとてちん』などのNHK連続テレビ小説で大阪ことばを指導されていますからね」


jozetora-500-2.jpg.jpeg確かに、関西芸術座に所属している松寺さんの大阪弁は〈昭和〉を感じさせてくれます。恒夫役の中川大志さんの落ち着いたトーンも素敵でした。で、ぼくのお気に入りのシーンは、後半に登場する図書館のシーンです。世間知らずのジョゼが一皮むけた瞬間で、正直、感涙してしまった。社長さんはどうなんでしょう。


「あのシーンも素晴らしいですね。ぼくの一押しのシーンは、ジョゼが舞(恒夫がバイトしているダイビング・ショップの後輩)に対して叫んだところです。1人の人間として、自分の想いをぶちまけて強く言い放った……ライバル関係にあるあの2人をどう見せるか、その山場みたいなシーンですね」


この作品には、大阪人ならたいてい知っている場所がポンポン出てきます。しかし、ダイビング・ショップのある南海電車の高架下「なんばEKIKAN」天下茶屋駅の改札口アメリカ村の三角公園道頓堀川に架かる深里橋から望む湊町リバープレイスなどシブイ場所が多い。それもかなり写実的で、作品にのめり込んだ感情が中断されることがなかったです。こうした大阪ご当地のリアル感が大きな効果を生んでいました。何はともあれ、定番の通天閣が出てこなかった! それがすごくよかったです。


jozetora-500.jpg.jpegこの作品のセールスポイントは?」。そう訊くと、南さんはしばし考え込み、こう答えてくれました。「ジョゼと恒夫のように自分の横にいる人と感情をぶつけ合ってみるのもいい、そう思わしめるところでしょうか」


おーっ、グッド・アンサー! 2人は本音でぶつかり合っていますからね。「この回答、いいですね」とご自身もご満悦。愉快なお人です。


ところで、南さんお気に入りの映画は?

「実写では、相米慎二監督の『魚影の群れ』(1983年)です。俳優がみな演じさせられている、そんな相米さんの〈えぐり〉がたまりません。夏目雅子がきれかったなぁ。学生時代、『ションベン・ライダー』(83年)とか、『台風クラブ』(85年)とか相米映画の追っかけをしてましたよ。アニメなら、『機動戦士ガンダム』と言いたいところですが、『伝説巨神イデオン』にしときましょ。えっ、ボンズの作品でですか? みんないい子で悪い子……、うーん、どの作品も気に入っているところがたくさんあるので、この作品、とかは言えません(笑)」


jozetora-tanaka2.jpg最後にぜひ訊きたかったこと。日本のアニメの将来展望はいかに――?

「10年前は厳しかったですよ。しかしマーケットとして年々、海外に進出しており、表現の幅も広がり、制作環境的にはうれしいです。『ジョゼ~』もアニメでは表現しにくい原作ではあるのに、ちゃんとアニメーション作品としてできていますしね。作り手が面白がっているだけではなく、〈映像表現としてのアニメだから〉ときちんと自覚すべき時期に来ていますね」

★右写真(左から、南雅彦社長とエッセイストの武部好伸氏)

こんな具合に和やかな雰囲気で南社長とのインタビューを終えました。どちらかと言えば、対談のような感じ。ぼくとのツーショット撮影で締めたとき、「めちゃめちゃ阪神ファンですねん」と言うと、南さんは「ぼくは中日です」ハハハ、実に楽しいひと時でした。ありがとうございました!

 



【南雅彦社長(プロフィール)】

三重県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像計画科(現・映像学科)卒。同期にアニメーターの庵野秀明、漫画家の島本和彦らがいる。アニメ制作会社サンライズに入社し、『機動武闘伝Gガンダム』『カウボーイビバップ』などをプロデュース。1998年に独立し、ボンズ(BONES)を設立、代表取締役に就任。『鋼の錬金術師』『交響詩篇エウレカセブン』『僕のヒーローアカデミア』などの話題作を制作、テレビ、映画で発表している。


【STORY】

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趣味の絵と本と想像の中で、自分の世界を生きるジョゼ。幼いころから車椅子の彼女は、ある日、危うく坂道で転げ落ちそうになったところを、大学生の恒夫に助けられる。海洋生物学を専攻する恒夫は、メキシコにしか生息しない幻の魚の群れをいつかその目で見るという夢を追いかけながら、バイトに明け暮れる勤労学生。そんな恒夫にジョゼとふたりで暮らす祖母・チヅは、あるバイトを持ち掛ける。それはジョゼの注文を聞いて、彼女の相手をすること。しかしひねくれていて口が悪いジョゼは恒夫に辛辣に当たり、恒夫もジョゼに我慢することなく真っすぐにぶつかっていく。

そんな中で見え隠れするそれぞれの心の内と、縮まっていくふたりの心の距離。その触れ合いの中で、ジョゼは意を決して夢見ていた外の世界へ恒夫と共に飛び出すことを決めるが……。
 
・声:中川大志  清原果耶  宮本侑芽  興津和幸  Lynn  松寺千恵美  盛山晋太郎(見取り図) リリー(見取り図)
・原作:田辺聖子「ジョゼと虎と魚たち」(角川文庫刊)
・監督:タムラコータロー
・アニメーション制作:ボンズ
・主題歌:Eve「蒼のワルツ」(TOY’S FACTORY) 「心の海」(TOY’S FACTORY
・配給:松竹/KADOKAWA 
・製作:「ジョゼと虎と魚たち」製作委員会
・(C)2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project
◆公式HP: https://joseetora.jp/
 

2020年12月25日(金) ~全国ロードショー!

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フランスの輝ける至宝カトリーヌ・ドヌーヴが贈る、愛おしくもほろ苦い家族ドラマ『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』が、2021年1月8日(金)にYEBISU GARDEN CINEMA他にて全国公開となります。

 


HappyBirthday_logo.jpgどんな家族でも、やっぱり恋しい。

個性豊かな家族が繰り広げる、愛おしくもほろ苦い人間ドラマ。


夏のある日、フランス南西部の豊かな自然に囲まれた邸宅で、母アンドレアの70歳の誕生日祝いが開かれようとしていた。だが行方不明だった長女の突然の帰郷が、誕生会を大混乱へ導いていく――。思い出の家をめぐる問題や複雑な親子関係、それぞれが抱える過去や秘密が次々に暴かれ、激しく感情をぶつけあう家族。幸福なはずの一日はどんな終わりを迎えるのか…? 過激で強烈、でもどこかユーモラスなフランス流家族のめくるめく大騒動。愛するからこそ衝突する―母と娘、そして家族が織りなす人間模様は、国も世代も超え、やがて普遍的な愛の物語をつくりだす。

HappyBirthday_main.jpg大女優カトリーヌ・ドヌーヴ×俳優&監督セドリック・カーン。

フランスを代表する豪華キャストが勢ぞろい!


本作で何より目を引くのは豪華な出演者たち。国民的女優カトリーヌ・ドヌーヴ、監督としても活躍するエマニュエル・ベルコ、個性派俳優ヴァンサン・マケーニュ、本作の監督セドリック・カーン、また小説家として日本でも人気の高いレティシア・コロンバニ、期待の新人ルアナ・バイラミらも出演。フランスを代表する名優たちが奏でる見事なアンサンブルが、おかしくも愛しい家族の一日を豪華に彩る。

 

大女優カトリーヌ・ドヌーヴの魅力とは!?


今年77歳を迎えたカトリーヌ・ドヌーヴ。代表作『シェルブールの雨傘』『8人の女たち』など、いわずと知れたフランスの大女優だが、現在もコンスタントに約1年に1本のペースで主演作に出演し、第一線で活躍し続けている。最新作『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』では、一家の中心としてバラバラになった家族をひとつにまとめる優しく頼もしい母親を演じている。物語はカトリーヌ・ドヌーヴ演じるアンドレアの70歳の誕生日を祝うため、いつもは離れて暮らす子供や孫たちがお祝いに駆け付ける場面からはじまる。そこへ、3年間行方不明だった長女が戻って来たことで、混乱の一日が幕を開ける…。


HappyBirthday_sub2.jpgトラブルメーカーの長女クレール役を監督としても活躍する女優のエマニュエル・ベルコが演じ、芸術家肌の次男ロマン役を個性派俳優ヴァンサン・マケーニュが、しっかり者だが融通のきかない長男ヴァンサン役を本作の監督を務めているセドリック・カーンが演じている。それぞれ個性の強い役者たちが集まった本作だが、そんな個性豊かな役者たちに負けず劣らず、カトリーヌ・ドヌーヴはずば抜けた存在感を放ち、作品全体をおかしくも愛しい家族物語としてまとめ上げている。


セドリック・カーン監督は本作のキャスティングを決める際に、まず家族の土台となる母親役をカトリーヌ・ドヌーヴに決めたらしく、「彼女のステイタス、オーラ、ファンタジー、人間性、すべてがこの人物と共鳴していました。彼女からすぐにOKの返事をもらえたので、彼女を中心に家族を作っていきました」と語っている。出演作の絶えないカトリーヌ・ドヌーヴだが、去年(2019年)11月6日、『De Son Vivant』(原題)の撮影中に軽い脳卒中を起こし数週間入院。現在は無事に回復し、退院して自宅で過ごしているという。第一線で活躍し続けているカトリーヌ・ドヌーヴの今後の活躍にも期待しつつ、ぜひ『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』の公開を楽しみにお待ちください。
 


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【STORY】

70歳になったアンドレアは、夫のジャン、孫のエマとフランス南西部の邸宅で優雅に暮らしている。そこへ、母の誕生日を祝うため、しっかり者の長男ヴァンサンと妻マリー、二人の息子、そして映画監督志望の次男ロマンが恋人ロジータを連れてやってくる。家族が揃い、楽しい宴が始まったそのとき、3年前に姿を消した長女クレールが帰ってくる。アンドレアは娘をあたたかく迎え入れるが、他の家族は突然のことに戸惑いを隠せない。案の定、情緒不安定なクレールは家族が抱える秘密や問題をさらけ出し、大きな火種をつくりだす。やがてそれぞれの思いがすれ違い、混乱の一夜が幕を開ける――。
 

監督:セドリック・カーン 
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、エマニュエル・ベルコ、ヴァンサン・マケーニュ、セドリック・カーン
2019年|フランス|101分|5.1ch|ビスタ|カラー 
原題:Fête de famille 英題:HAPPY BIRTHDAY
提供:東京テアトル/東北新社 配給:彩プロ/東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES
©Les Films du Worso 
公式サイト:happy-birthday-movie.com

2021年1月8日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー


(オフィシャル・レポートより)

 

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2020年12月1日(火) 大阪にて



◆はぐれ者がたどる裏の昭和史


久しぶりに対面した井筒監督は少々ご機嫌斜めだった。その日、取材が立て続けだったせいもあっただろうが、先に取材した質問者から「これが100パーセントですか」と聞かれた、という。井筒監督からすれば新作公開を前にして「何ちゅうこと聞くんや」という気持ちだったんだろう。


質問者の気持ちは分からなくもない。デビュー作「ガキ帝国」(68年)以来、「岸和田少年愚連隊」(96年)、「パッチギ!」(04年)など一貫してはみ出し者、はぐれ者たちを描いてきた井筒監督が昭和を生き抜いた無頼の徒たちに焦点を当てて描きあげた一作。昭和から平成、令和と時は移っても「貧困や差別、孤立の構造は何も変わっていない」。そんな“無頼の男”を2時間20分間にわたりみっちり描いたのは井筒監督の気概=反骨精神にほかならないだろう。


burai-500-1.jpg主演に初代EILEのパフォーマーで現在は俳優の松本利夫を抜擢、並みのスターシステムにはない、新顔の投入も新たな“井筒監督の試み”。見るからに“昭和の匂い”のするキャスティング=顔ぶれもまた、井筒戦略だろう。


「世間の良識から排除された“ネガ画像”を敢えて描いてみせた僕なりの昭和史。あらゆる抑圧に対して、1歩も引かなかった無頼の彼らの生き方を通した男たちがいたことを見せたかった」。確かに、無頼派・井筒監督の集大成と言ってもおかしくない。

 

◆アウトロー映画へのオマージュ


IMG_20201201_174053 (2).jpg映画には東映任侠映画、という裏街道の輝かしい伝統、遺産がある。オールドファンには“鶴田浩二、高倉健らそうそうたる任侠スターの記憶”が色濃く残る。だが井筒監督は「まだ中学、高校の時代。俺はほとんど見てない。あの頃はアメリカン・ニューシネマに(関心が)行ってた」という。だから「無頼」は伝統の任侠映画否定でもない。


ただ任侠映画が終焉を迎える頃、深作欣二監督らによる実録映画「仁義なき戦い」には影響を受けたそうで、実際、「仁義~」に出演した松方弘樹の“素晴らしいセリフ”も「無頼」で再現される。井筒監督はわざわざ作家協会に連絡し許可も得たという。マフィア映画「ゴッドファーザー」へのオマージュといい、アウトロー映画作りに命をかけてきた異端児監督にはより深い繋がりがあるのだろう。


最近はテレビのドキュメンタリーに時間を取られていた、という。映画では沖縄を舞台にした“沖縄ヤクザ戦争”を構想、さらに次の映画として九州の炭鉱地帯を題材に、“川筋もの”の歴史をと構想を膨らませている。異端派・井筒和幸監督作品「無頼」は「100%達成」どころか、まだまだ異端の羽を伸ばして行く「予感の映画」と言えそうだ。


(安永 五郎)
 


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『無頼』

・(2020年 日本 2時間26分 R15+)
・監督:井筒和幸 脚本:佐野宜志、都築直飛、井筒和幸 
・主題歌:泉谷しげる
・松本利夫、柳ゆり菜、中村達也、清水伸、松角洋平、遠藤かおる、佐藤五郎、久場雄太、阿部亮平
公式サイト: http://www.buraimovie.jp
・配給:チッチオフィルム
・(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

◆映画『無頼』作品紹介(安永五郎)⇒こちら

2020年12月12日(土)~K’scinema、12月19日(土)~第七藝術劇場、12月18日(金)~京都みなみ会館、出町座 他全国順次公開

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アニメならではの表現で魅了する新時代の“ジョゼ虎”に込めた希望とは?
『ジョゼと虎と魚たち』タムラコータロー監督インタビュー
 
 お聖はんの愛称で親しまれた田辺聖子が大阪を舞台に描いた青春恋愛小説の「ジョゼと虎と魚たち」。2003年に妻夫木聡、池脇千鶴で実写映画化もされた『ジョゼと虎と魚たち』が、初のアニメーション映画として、12月25日(金)より全国ロードショーされる。
 

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 監督は『おおかみこどもの雨と雪』助監督や『ノラガミ』シリーズの監督を務めたタムラコータロー。脚本は桑村さや香(『ストロボ・エッジ』)が手がけた。新進気鋭のスタッフが集結し、“新たなジョゼ”を構築。原作とも実写版とも違う現代版の主人公恒夫は、留学してメキシコの幻の魚を一目見るために、アルバイトを掛け持ちしながら海洋生物学を学ぶ努力家の大学生。ジョゼの声を演じる清原果耶と恒夫を演じる中川大志が、不器用ながらも距離を縮めていく二人を表情豊かに体現している。梅田界隈やあべのハルカス、須磨海浜公園と関西人におなじみのスポットがモデルになって続々登場するのにも注目してほしい。
 本作のタムラコータロー監督にお話を伺った。
 
 

 

■田辺聖子さんの原作から感じた「不安を乗り越えた後の希望」 

―――元々小説をアニメ化したいと考えがあったそうですね。

 

タムラ: KADOKAWAの方から、たくさん映像作品を作っているにも関わらず、文学作品をアニメ化したものは数えるほどしかないので、社内の作品からアニメ化しようという動きが元々ありました。僕もテレビシリーズがちょうど終わり、映画をやってみたいと思っていたところだったので、KADOKAWAのプロデューサーとお会いして、まずは原作を探すところから始めました。たくさん小説を渡された中の一つがこの「ジョゼと虎と魚たち」で、そこで初めてこの作品に出会ったのです。
 
―――実写版ではなく、原作本が初めてのジョゼとの出会いであったということは、純粋に田辺聖子さんが書かれた「ジョゼと虎と魚たち」に強く惹かれたということですね。
タムラ:すごく惹かれるものがありました。短編ですし、ある意味中途半端な感じで終わってしまうのですが、逆にそこが良かった。この後に何か待ち受けているのではないかと思わせる終わり方です。ジョゼはどこかでこんな関係はいつまでも続くはずがない、今が良ければそれでいいと思っているのですが、内心は不安だと思うのです。その要素だけを取り出すと、ネガディブな辛い話に陥りがちですが、大きな物語を考えると、その不安を乗り越えると本当の幸せが待っていたりする。作り手だからかもしれませんが、そこに希望を感じたのです。この作品は前向きな形で終われるのではないかと思った。だから脚本の桑村さや香さんにも、前向きな形で終わりたいとお願いしましたね。
 
―――なるほど、そこは実写版との大きな違いですね。桑村さんと新しい『ジョゼと虎と魚たち』を作るにあたり、現代を反映させたキャラクター造詣や、原作のその後までを描いていくストーリー展開などをどのように作り上げていったのですか?
タムラ:桑原さんとは、恒夫はジョゼほどパンチの強いキャラクターではなく、すぐ身近にいるようなリアルな男の子を象徴しているねと。今の大学生の話を聞くと、割と夢が可視化されていて、結構勉強して真面目。その印象からすれば、今の恒夫はこんな感じではないかというところからスタートしました。特殊な性格をした女の子と身近にいそうな男の子が出会うのがこの話の良さですから。その際に、共通して好きなものがあればお互いに歩み寄りやすいということで、海が好きだという共通事項を作り、それならば恒夫をダイバーにしてみようという感じで話が見えてきました。
 
 
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■追加取材を敢行、都市も下町も身近にある今の大阪の魅力を映し出す。

―――恒夫がイマドキなのに対し、ジョゼが祖母と住んでいた家は、昭和な雰囲気が漂っていましたね。
タムラ:時代に取り残された雰囲気を出したかったので、あえてスマホなどを持たせないようにしています。ジョゼに社会性が身についていく話にしたかったので、祖母と二人だけで暮らしている感じを出そうとして、あのちょっと不思議な家が出来上がりました。大阪の都心部は開発が進んでいる一方、数駅離れると身近なところに下町があったりするんですよね。都会に近いのにこんな下町があるというのが大阪の魅力のひとつで、ジョゼの家は大阪ではあってもおかしくないようなリアルな感覚ですよね。 
 
―――大阪が舞台ということで、梅田やあべのハルカス、海遊館に須磨海岸など関西の人には馴染みのある場所がモデルとして登場していますが、かなりロケハンをされたのですか?

 

タムラ:事前にかなり下調べした上で1泊2日の弾丸ロケハンを何度か行いました。とにかく写真を撮って、あとから使えるところを探していくことの繰り返しでした。大阪にいるスタッフの知り合いに写真を撮ってきてもらったり、カメラマンだけ行ってもらったり、何度も写真を撮ってもらっては吟味を重ねました。大阪は道頓堀を背景に使われることが多いのですが、それでは今の大阪は伝わらない。新しいところも古い町並みも両方描くように心がけました。「梅田イス」なんかは映画を作っている時に出来上がったので、これは使えるかもと追加撮影してもらい、あとから書き足しました。他にも大阪はすごい勢いで変わっていく場所もあるので、どこまで最新のものを反映させればいいのか悩みましたね。須磨海岸も追加取材をすると街灯が設置されていて、あわてて後から足しました(笑)
 
 
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■好きになる過程を追体験できる作品に。

―――ジョゼと、彼女の日常生活の相手をするアルバイトの恒夫が、最初はジョゼの反発を食らいながらも、だんだんとジョゼの内面がわかり、お互いに信頼し合うようになる過程が細やかに描かれています。
タムラ:この作品で大切にしたのは、お互いが好きになる過程をちゃんと丁寧に書いてみることでした。恋愛映画は好きになってからを書くことが多いのですが、どうやって好きになるのかを追体験できる作品になるといいなと思っていました。誰がどの時点で本気で好きになったのか、それを考えるのも物語の醍醐味になっていればうれしいですね。
 
―――初めて海に行くエピソードでは駅で切符を買えずにジョゼが帰ろうとし、家にずっと閉じ込められていたジョゼと社会との壁が浮き彫りになりますが、車椅子ユーザーの方にも事前に取材されたそうですね。
タムラ:生活の仕方に関しては調べてもわからないことが多く、実際ご自宅までお伺いし見たものを取り入れさせていただきました。ジョゼの部屋に素敵なベンチを置き、そこに捕まってベッドに登るといった芝居なんかは取材のおかげですね。ただ実際に車椅子で暮らしている方々というのは当然ながら全員同じ生活スタイルではないわけです。一人一人障碍の度合いも異なりますし、性格や好みによってもちがう。そこで車椅子ユーザーのためのファッションアドバイスをされている方にもヒアリングさせていただきました。幅広い車椅子ユーザーの生活スタイルを教えていただいたことで、ジョゼならばこんな生活を送っているのではないかというのがようやく見えてきた感じです。
 
 
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■大人っぽすぎる清原果耶に課した、ジョゼの精神的な幼さを表現する声の演技。

―――ジョゼの声を演じる清原果耶さんに、「もっと幼く、小学生のように」と演出をされたそうですが。
タムラ:清原さんはまだ10代にも関わらず30代の役まで演じたことがあるんですよね。それくらいとても落ち着いていて大人っぽい。オーディションでの清原さんの演技がすごく良くて、特に後半のジョゼにぴたっと当てはまる感じでした。逆に恒夫と出会う瞬間はもっと精神的に幼い感じを出し、前半と後半のギャップを表現したかったのです。対人関係を学んでいなかったジョゼは子どもっぽい接し方しかできなかったので、そのジョゼの喋り方を大人っぽい清原さんに理解してもらうために敢えて「小学生ぐらい」と伝え、精神的に幼い感じを出してもらいました。それぐらい元気を絞り出してもらった方が前半のジョゼにはまるのではないかと。どれぐらいギャップを出すかを試行錯誤するために、後半を録り終えてから、前半をもう一度録り直したりもしました。そうすることでジョゼの成長が可視化でき、前半と後半の差がジョゼ、しいては清原さんの演技の魅力になったと思います。
 
―――ジョゼ役の難しさがよくわかります。大阪出身の清原さんですが、ジョゼが喋る関西弁は、日常の関西弁より少し癖が強かったですね。
タムラ:ジョゼはおばあちゃん子なので、少し古い関西弁を喋る設定ではあるんですね。「アタイ」なんて一人称、最近の20代はほとんど使わないでしょうから。とはいえ少し癖のある関西弁は田辺聖子さんの魅力の一つなので、そこを削がないように注意を払っています。あと大阪といっても地域によって訛りが大きく異なるんですよ。清原さん自身が大阪出身だということもあり、ジョゼに魂を吹き込むためにも清原さんが納得しやすい関西弁で喋ってもらった方がいいと思い、最終的にはその方向で調整しました。
 
 
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■恒夫のバランスの最後のピースは、中川大志の紳士的な声。

―――一方、中川大志さんが声を演じた恒夫は、優しさが感じられてジョゼといいコンビネーションでした。
タムラ:すごくはまったと思います。先ほどの改札のシーンで少しジョゼの背中を押さなくてはいけない時に、恒夫にはある程度リーダーシップを取りつつ、上から目線にならないというバランスを求めていて、そのバランスの最後のピースが中川君の声の演技でした。彼が本来持っている紳士的な感じが非常にしっくりきましたね。
 
―――二人のターニングポイントになる須磨海岸のシーンについてお聞かせください。
タムラ:まずは大阪の人が海を見に行く時、どこに行くのかで迷いました。知り合いにヒアリングすると須磨のあたりと言われ、大阪の人が海を見に神戸まで行くことが意外に感じたのですが、大阪の話に留まるのではなく、大阪に住んでいる人の話にするとしっくりくる。そう思って須磨海浜公園を選びました。ここは公園に入ってから浜辺が広く、海辺までは距離がある。車椅子では砂に車輪を取られて簡単には近づけませんから、それが脚本のシチュエーションに自然にはまったというのもあります。また、アニメでは海が狭く見えてしまうことがあるため防波堤を省略することが多いのですが、今作ではリアルな話になると思ってあえて描いてもらっています。駅から商店街を通るのも地図上では少し回り道なのですが、道程の景色にアクセントがある方がジョゼが目移りして楽しんでいる様子を伝えられるのではないかと。変なクジラのオブジェに気を取られるジョゼも面白いですしね。
 
―――二人がそれぞれの壁を越えようとする非常に重要なシーンでは劇中画も登場します。淡い、絵本のようなタッチで感動を誘いました。
タムラ:本物の絵本作家の方にお願いしたかったんです。ジョゼの絵を担当してくださった松田奈那子さんはほどよく抽象的な絵を描かれる方で、色彩にとても魅力があり、これならジョゼの描いた絵にしっくりくると思いました。絵本のシーンに関しては発注時は脚本だけしか用意せず、まずは松田さんに構図を作ってもらうところからスタートしました。「松田さんの思うジョゼならどんな絵を描きますか?」と問いかけながら作っていった感じですね。
 
―――今回の『ジョゼと虎と魚たち』は原作や実写版よりも、ジョゼと恒夫の二人が単なる恋愛関係というより、お互いに夢に向かい、そして自立しようとしている。すごく成熟しているなと感じずにはいられませんでした。
タムラ:原作が20代前半の絶妙な時期を描いているので、そこは変えずに今の20代ならどんな恋愛をするのかからスタートしました。アニメだと恋愛物はティーンになりがちなのですが、そうするとどうしても親が出てくる。今作では20歳を超えた恋愛物語なので親は出さずにあくまで当事者が解決する問題として恋愛を描いてみました。そこが大人っぽく見えたのかもしれません。
 
 
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■ジョゼが社会性を身につけるために重要だった友人、花菜の設定

―――ジョゼが自立を目指す姿はこの作品の見せどころですね。
タムラ:ジョゼには社会性を身につけてほしかったんです。恒夫はジョゼにとってはアルバイト上の付き合いだし、異性なので微妙な距離感がある。ともすれば依存にもつながるかもしれませんし、恒夫と一緒に外に出ただけでは自立したとは言えないと思うんです。恒夫以外で友人関係ができると彼女自身の自立につながるはずで、ジョゼに友達を作ることは脚本の桑原さんにもお願いしていました。だからジョゼの自立の象徴として大事にしたのが図書館司書の花菜だったのです。
 
―――ありがとうございました。最後にアニメーションだからこそ表現できたこと、取り組めたことを教えてください。
タムラ:ジョゼの空想シーンで、人魚になって泳いでいるところはアニメらしい表現ではありますね。ただそれはどちらかと言えばわかりやすい表面的なアニメらしさです。むしろジョゼみたいに強烈な人が本当にいるかもと思えるバランスを探るのは、アニメの方が得意なのではないかと思っていました。周りをしっかり書けばジョゼをリアルに感じられますし、車椅子の女性であってもそこに目がいきすぎないバランスになるのではないか。アニメならではの時間を圧縮した表現や、一つ一つの表現のメリハリを使うことでジョゼをすごく魅力的に描けるという期待感を抱いて取り組んでいました。
 
―――アニメならではのユーモアで重くなりがちな題材を魅力的に表現していましたね。
タムラ:車椅子ユーザーの方にインタビューした時、同じ境遇の人が出る映画をご覧になるかとお聞きすると「見ないです」と即答されたんです。逆にディズニーやジブリのような作品はたくさん見るとおっしゃっていたのが印象的でした。それを聞いた時にジョゼは車椅子ユーザーの方にも見てもらいたいという希望が僕の中に生まれたんです。登場人物にご自身を重ねた時に希望を持てる。そのためには軽やかに描くことが重要でした。
(江口由美)
 

<作品情報>
『ジョゼと虎と魚たち』(2020年 日本 98分)
監督:タムラコータロー  脚本:桑村さや香
原作:田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』(角川文庫刊)
声の出演:中川大志、清原果耶、宮本侑芽、興津和幸、Lynn、松寺千恵美、盛山晋太郎(見取り図)、リリー(見取り図)
12月25日(金)より全国ロードショー
公式サイト → https://joseetora.jp/
(C) 2020 Seiko Tanabe / KADOKAWA / Josee Project
 

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「トゥームレイダー」「エクスペンダブルズ2」

サイモン・ウェスト監督最新作

そこは、世界で最も熱く最も危険なテーマパーク。

 
「トゥームレイダー」「エクスペンダブルズ2」の監督が放つ、灼熱のパニック・アクション超大作『ボルケーノ・パーク』が11月20日(金)より全国ロードショー致します。
 
世界初の火山テーマパーク「天火島リゾート」。そこでは、活火山を間近で感じ未体験のスリルが楽しめる。しかし、賑わう人々の真下では、マグマが目覚めようとしていた。そして今、史上最大の大噴火の時が近づく―。迫り来る火砕流!!降り注ぐ火山弾!!孤島のテーマパークが、紅蓮の地獄と化す―。
 

ハリウッド随一のアクション映画の名匠とアジアを代表する豪華キャストが集結!!


volcano-pos.jpgメガホンをとるのは、監督デビュー作の『コン・エアー』でいきなり世界的大ヒットを記録し、その後も『トゥームレイダー』『エクスペンダブルズ2』等で成功を収めたアクション映画の名匠サイモン・ウェスト。主演は、数々の受賞歴がある中国の演技派俳優ワン・シュエチー。そして、『スカイスクレイパー』での女暗殺者役でドウェイン・ジョンソンと対決したハンナ・クィンリヴァンがヒロインを演じる。
 
アクション映画の名匠サイモン・ウェストの初めての災害映画であり、初となる中国で手掛けた本作。中国での撮影を経た感想などを語るインタビューが到着した。


 

 

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Q:『ボルケーノ・パーク』は、あなたにとって最初の災害映画ですね。通常、あなたが作るアクション映画とどう違いますか? 
 
災害映画の場合、災害を背景として良い人間関係を描き出さないといけないんだ。観客は、危険な状況に置かれている人々に対して関心があってこそ、そこで展開するアクションを見たいと思うものだ。だから、本作の中心にあるのは父親と娘の関係で、とても強い絆があって感情に訴えるんだ。炎が燃えさかるし、火山も爆発するし、車が溶岩に追いかけられたりするんだけど、中心にあるのは、人の心を揺さぶる家族の物語なんだ。だから、災害映画というと、炎が炸裂するスリル満点なものを創造するけど、その中に素晴らしい人間模様があってこそ楽しめるんだよ。
 
 
Q:外国語の映画を監督してみて、いかがでしたか?
 
外国語で仕事をするのはかなり苦労するだろうと思っていた。でも思ったほど大変ではなかった。なぜなら、感情というのは言語を超えるし、アクションも同様だから。ワクワクするような内容ならば、言語にかかわらずワクワクするし、感情に訴えかける内容ならば、言語に関係なく、感動する。中国語の映画の監督は、思ったより簡単だったよ。とても経験のある有能な俳優たちで、感情がうまく表現されていることがよくわかる。セリフも、僕には英訳文があったから、どんなセリフかわかる。でも細かい部分に関しては、すばらしいアシスタントたちや通訳の人たちの助けを借りて、感情や態度の微妙な違いを演出した。でも英語を話せる俳優たちとは、直接、話しができたから助かった。大体は、シーンに関して最初に僕が英語で説明して、それから彼らのそのシーンに対する理解と、どんな演技をするかを僕に英語で話して、その後で、彼らが中国語で演技した。中国語しか話さない俳優の場合は、通訳を通して同じ会話をした。時間はかかるけど、実際にはそんなに大変じゃないんだよ。
 
 

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Q:中国語の映画作品に関わるようになったきっかけは?
 
とてもエキサイティングなきっかけだった。中国の映画産業は今、急速に発展していて、それ自体がとてもエキサイティングなんだ。こういう急成長を遂げている産業に関わるのはいつの時にも楽しい。欧米の業界はマンネリ化していて、少し低迷しているところがあるから、あまり期待されていないんだ。でも、ここ中国の映画産業に関しては期待が大いに高まっている。だからその産業や、偉大な映画を作ることに対してみんなが情熱を傾けている環境で仕事ができるのは、最高の気分なんだよ。
 
 
Q:中国の映画業界に関心を抱いている外国の映画製作者たちにアドバイスはありますか?
 
ハリウッドでの仕事と、とても似ているよ。でも違いは、さっきも言ったように、関わる人々から感じられる熱意とエネルギーだ。だから、欧米の映画監督には、ぜひここにきて仕事をするように勧めたい。自分の仕事ができることをとても喜んでいる人たちと一緒に仕事ができるわけだからね。彼らは、映画製作に携われることを恵まれていると考えているんだ。映画産業で働けることは特権で、中国の制作スタッフや俳優たちは、それを実感している。自分の仕事に対して感謝の気持ちがあるんだよ。そういう人たちの近くにいられることは素晴らしいことなんだ。欧米の監督にとって、そういうポジティブな環境で働くのはとても健全なことだと思う。
 
 
Q:中国で独自の原作コンテンツ(IP)を開発することは、アメリカより簡単ですか?
 
ああ、世界中にあらゆる原作コンテンツが存在していて、アメリカの原作コンテンツの多くはもうよく知られている。だから、ここに来て、新しい原作コンテンツに触れられてとても新鮮だ。中国の観客は、本やグラフィック・ノベル、あるいは前の映画作品とかで知っているかもしれないが、僕にとっては新しい。だから、全く新しい素材の宝庫なんだよ。
 

成長目まぐるしい中国映画産業と、ハリウッドが誇るアクション映画の名匠サイモン・ウェストがタッグを組み放つ、灼熱のパニック・アクション超大作『ボルケーノ・パーク』は11月20日(金)より公開。
 

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【STORY】
火山学者のタオは、「天火島」と呼ばれる火山島を訪れ調査にあたっていた。しかし、その最中に突如火山が噴火し、妻が犠牲になってしまう。それから20年後―。実業家のハリスによって「天火島」に一大リゾートが建設される。その触れ込みは、「活火山の上に建つ世界初の火山テーマパーク」だった。タオはその危険性に警鐘を鳴らすが、その一方でタオの娘シャオモンは、父に抗いハリスの元で火山学者として働いていた。待望のオープンを控え出資者たちがパークを訪れる中、観測チームがマグマの不穏な動きを発見する。シャオモンはパークの閉鎖を訴えるが、ハリスは全く取り合わない。時を同じくして、噴火の前兆を察知したタオも「天火島」へと向かっていた―。
 
出演:ワン・シュエチー『孫文の義士団』、ハンナ・クィンリヴァン『スカイスクレイパー』、ショーン・ドウ『最後のランナー』、ジェイソン・アイザックス『ハリーポッター』シリーズ
監督:サイモン・ウェスト『トゥームレイダー』『エクスペンダブルズ2』 
撮影:アラン・カウディージョ『ガン シャイ』
音楽:パイナー・トプラク『キャプテン・マーベル』、
編集:ポール・マーティン・スミス『STAR WARS エピソードI/ファントム・メナス 3D』、
主題歌:「我是如此相信」ジェイ・チョウ
2019年/中国映画/中国語・英語/94分/シネスコ/5.1ch/字幕:江﨑仁美
原題:天火/英題:Skyfire/提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム 映倫G
© 2020 Meridian Entertainment (Foshan) Co. Ltd. All Rights Reserved  
公式HP:volcanopark.jp
 

2020年11月20日(金)~シネ・リーブル梅田、イオンシネマ京都桂川、イオンシネマ加古川 他全国ロードショー


(オフィシャル・レポートより)
 
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人材育成と実験の新レーベルで「メジャー映画では許されないことをどこまで追求できるか」
『ビューティフルドリーマー』本広克行監督インタビュー
 
 日本映画界の鬼才監督による野心的な企画と若い才能がタッグを組み、低予算で制約のない自由な映画づくりを目指す現代版ATGとも言える新レーベル<<シネマラボ>>の第一弾作品『ビューティフルドリーマー』が11月6日(金)よりシネ・リーブル梅田他にて絶賛公開中だ。
監督は『踊る大捜査線』シリーズから『サマータイムマシン・ブルース』『幕が上がる』まで、ヒットメーカーでありながら多彩な作品に取り組んでいる本広克行。押井守の脚本「夢見る人」を大学の映画研究会(映研)を舞台にした物語として映画化。いわくつきの台本の映画化に挑む映研メンバーの奮闘ぶりから、モノづくりの楽しさが伝わってくる青春映画だ。リーダー的存在で監督としてメンバーを引っ張るサラ役には自身も大学時代から映画サークルで映画を撮り、多彩な活動を行なっている小川紗良。他にも今注目の俳優から劇中劇に登場するベテラン俳優が本人役で出演。そして映画研究会の先輩役サイトウタクミで斎藤工も参加している。
 本作の本広克行監督にお話を伺った。
 
 

■「次は自分の番」自身のキャリア形成から感じた映画界の人材育成と、まず取り組んださぬき映画祭。

―――コロナ禍で映画監督自身が様々な活動や今までの枠に捉われない映画製作活動を立ち上げつつある中、それ以前にメジャー映画とインディペンデント映画の間に位置するような新しい監督絶対主義のレーベルを立ち上げ、作品を公開するのは非常に注目すべき動きだと思います。<シネマラボ>を立ち上げるにあたり、どのような問題意識をお持ちだったのですか?
本広:『踊る大捜査線』シリーズのようなビッグバジェットで、プロデューサーが10人もいて、芸能界のありとあらゆる人がキャスティングされるような映画を我ながらよくできたなと思うし、もう終わってもいいと思うぐらい達成感がありました。ただ自分が映画を撮ったりドラマを演出できたのは、引っ張り上げてくれる先輩たちがいたからであり、今度は自分がその立場になる番です。『海猿』の羽住英一郎をはじめ、後輩たちが皆ヒットメーカーになってきましたが、自分が所属していた会社(ROBOT)の直系の後輩ではなく、日本映画界全体を見渡して、素晴らしい才能を持ちながらも彷徨っている人たちがたくさんいるはずだと思ったのです。
 
―――監督という仕事はある意味孤独な職業ですから、かつての撮影所システムとは違い、先輩に教えてもらうということがしにくい環境になっていますね。
本広:映画界での人材育成について思いを巡らせていた頃、偶然山田洋次監督にお会いし、昔は小津監督や黒澤監督が映画サロンを作り、そこから新人を抜擢したり、映画の文化度を上げていったというお話を聞いたのです。そこで自分に何ができるかと考えたところ、思い浮かんだのが映画祭でした。当時現役の映画監督で映画祭を立ち上げたのは僕が最初だったと思います。さぬき映画祭では高松に色々な映画人を呼び、若い俳優たちと合わせ、そこに来れば仕事が見つかるような場所になっていきました。ちょっと落ち着いて周りを見渡すと、行定さんをはじめ、プロデューサーの方や俳優の方なども地方で次々と映画祭を立ち上げる動きが起こってきて、これなら大丈夫だなと思ったのです。
 
 

■大林監督に言われていた言葉、「君たちの世代でもう一度ATGのような映画を作れ」

―――確かに映画祭は映画人同士の交流から新しいプロジェクトや仕事が生まれる面も大きいですね。
本広:映画祭には7年間携わり、その後に構想しはじめたのが<シネマラボ>です。今、自主映画の制作費は200~300万円が相場で、一方東宝や東映、松竹などからオファーをいただくビッグバジェットの映画は2~3億円ぐらいです。やはり今まで低予算でしか映画を作ってこなかった人がいきなりビッグバジェットの映画を作るのはしんどいので、中バジェットのものを<シネマラボ>という新レーベルを掲げて作っていってはどうかと。また僕が大きな影響を受けている大林監督によく言われていたのが「君たちの世代でもう一度ATGのような映画を作れ」。
 
―――大林監督からそんな声かけをされていたんですね。
本広:僕にとっては神様みたいな人ですから、大林さんに褒められようと思って(笑)「お前、よく頑張っているな」とか、「お前の映画、面白かったぞ」といつも僕の頭を子どもみたいに撫でてくださるんですよ。山田監督の映画サロンにも参加しているのですが、山田監督は最近の若者はなかなか動かないとボヤかれる一方、僕のことを可愛がってださり、ベルリン国際映画祭への参加を断っても、さぬき映画祭には来てくれる(笑)やはり尊敬している先輩たちから言われたことを実行していきたいし、若者たちを引き上げる場を作ろうと今回は押井守さんに原案を書いていただきました。そこからは結構時間がかかりましたね。
 
 
 
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■小川沙良との出会いで「監督役がここにいる」と確信。

―――押井さんに依頼されたのはいつ頃だったのですか?
本広:みんなで一緒に湯河原の温泉に行って企画会議をした時、僕は文化祭の前日を何度も何度も体験する話にしたいと伝えると、押井さんが書いて下さったのは軽音楽部の部員が何度も文化祭の前日に戻る話だった。僕の構想と似てはいるのですが、映画研究部なら僕の経験も活かせるし、その頃に小川沙良さんと出会い「監督役がここにいる」と思った。そうやってタイミングが合うまで2年ぐらいかかりましたね。
 
―――さぬき映画祭で小川さんは監督作を持参したのですか?
本広:早稲田大学の映研に監督をしている小川沙良さんがいるというのは当時業界内でも有名だったんです。しかも小川さんは是枝ゼミで、是枝さんからも話を聞いていたので、僕からオファーしたところ快諾していただきました。監督役のエチュードができる人はなかなかいないでから、小川さんがいなければ映画づくりは難航していたと思います。
 
 

■ずっと“ビューティフルドリーマー”の人たちの物語。続編を作り、続けていきたい。

―――サラ役の小川さんは、聡明かつ決断力のある見事な監督ぶりでした。昔の映研は70年代の香りを引きずっているような異質な雰囲気がありましたが、本作の映研はとても明るい雰囲気ですね。
本広:早稲田大学の映研をはじめ、今は女子部員がクラブを引っ張っているんですよ。僕らの時代はモスグリーンの汚いジャンパーを羽織った男子部員がぞろぞろいたのですが、今の男子部員はもっぱらアッシー的存在ですよ。それもおもしろいなと思って、本作では描ききれなかった部分は「続編を作らせてください」と会社にお願いしているところです。ずっと続けていきたいし、この作品はずっとビューティフルドリーマーの人たちのお話でもあります。僕らも一つの映画が公開されても、また次の映画を作ってとずっと続いていくわけですから不思議な社会人だし、ビューティフルドリーマーってこういうことなのかなと。続編を作る時、小川さんが多忙を極めて出演するのが難しくなったら、次の世代の映研を育てればいい。小川さんには本作の斎藤工さんのような先輩部員として1日だけ撮影に参加してもらい、続けていくこともできるなと思っているんです。
 
―――セリフを書かず、エチュードの手法を取り入れての撮影だったそうですが、従来のビッグバジェット作品とは違う作り方を試みての感想は?
本広:演劇の演出をやっていることもあり、そんなに違和感はなかったですね。脚本どおりだとつまらないとか、セリフが停滞してしまうとき、どうやっておもしろくさせようかと考えてエチュードを取り入れることもあります。『UDON』(06)では実際にうどん屋で働いている人に、普段しゃべっていることを言ってもらい、お芝居をしていないドキュメンタリー的な作り方になったのですが、そういう演出のテクニックを今回は全て使えたのではないでしょうか。書かれたセリフを的確に言うのもおもしろいけれど、「こんな脚本なのに、こんなに面白くできるの?」というところを目指したいし、それを目指していつもやっていますね。
 
―――確かに、セリフのやりとりに躍動感がありました。
本広:若者の言葉は体の動かし方によって出てくる言葉も違ってくるので、それをなるべく生の状態で収録しています。今までの映画はガンマイクで上から音を拾っていましたが、最近は演者全員にワイヤレスマイクを付け、録音部がミキシングをするやり方が主流です。今回は録音部に若手を投入し、やる気を出しているので、次はビッグバジェットの映画に登用し、技術部門の新人育成も行えました。もちろん映画はヒットしてほしいですが、<シネマラボ>ですから俳優や映画に関わる各部門の人材育成の場でもありたい。自分が思っている以上に映画界はそう急には変われない。でも「実験ですから」と言うと色々な機材を貸していただき、様々なサポートをしていただけたのはうれしかったですね。
 
―――小川さんをはじめ、キャスティングは本広監督が直接オファーをするという形が多かったそうですね。
本広:全員思い通りのキャスティングできると、大ヒット作にはならなくても『サマータイムマシン・ブルース』(05)のようにずっと愛される気がします。『幕が上がる』(15)のメンバーとは今でもお付き合いがありますし、みんなで考えながら作った作品はお仕事という感じではなく、すごく愛情深いものになっていますね。
 
 
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■メジャー映画では許されない、ATG作品のようなメタ構造をどこまで追求できるか。

―――一見青春映画ですが、メタ構造にメタ構造が重なって、もう一度観たくなるような映画ファンを唸らせる奥深さがあります。ここまでメタにメタを重ねたのはなぜですか?
本広:メタ構造ものが好きなんです。演劇でいきなりひっくり返ったり、急に何かが起こったと思ったらそれもお芝居だったりするようなどんでん返しも大好きなのですが、映画ではなかなか急に空気は変わるようなものができない。どうすれば映画で物語を逸脱することができるのかをずっと考えていました。メタ構造は調べれば調べるほど深いところに入っていくんですよ。
 
例えば押井さんはアニメで初めてメタ構造を実践した人で、僕はそれを学生時代に見て大きな衝撃を受け「押井信者」になったのですが、その押井さんは演劇から影響を受けたそうです。それで寺山修司さんの映像や本に触れていくうちに、作品のことを考えることはおもしろいなと思えてきました。起承転結のある映画はずっとやってきたし、ちゃんと作れるのだけれど、そうではないものを作りたい。今村昌平さんの学校に行っていたのですが、今村さんも『人間蒸発』(67)でそういう作品を作っていて、今村さん自身が映画に登場し「このお話は全部嘘である」と言い放つと、セットがバラバラと崩れていくんです。本当に衝撃的でしたが、当時のATG作品は構造をぶっ壊すというコンセプトなので、普通のメジャー映画では絶対許してもらえないことができた。今のメジャー映画ではメタ構造といってもどうしても緩くなってしまうので、そこをどこまで追求できるか。今回はその面でも実験的な試みをしています。
 
 

■映画人の交流の場が大事。もっと混じり合い、新しい才能を発掘したい。

―――俳優の名前と役名も同じですし、色々な垣根が曖昧なのも魅力的ですね。
本広:大林監督の影響でもあります。遺作の『海辺の映画館―キネマの玉手箱』(20)はご自身も出演されているし、物語でありながらも僕らに「戦争を起こすな」という遺言を伝えているようにも見える。本当にすごいです。他の大ベテランの皆さんも本当に元気で僕の作品を「普通だな、もう見飽きたよ」とバッサリ。あまりにも尖ったものは作りにくいけれど、例えばこの作品を見て疑問を感じた人がググり、また違う感想と出会って、感想が育っていくという点でもこの作品の実験的側面を感じます。今、是枝さんが映画人の交流の場を作ってくださっていますが、これは本当に大事なんです。どうすれば皆がもっと混じり合うのか。小学生ぐらいでもすごい才能がいますし、そういう才能を発掘したいし、もっと外向きの考え方でありたい。今はそういう思いですね。
(江口由美)
 

 
<作品情報>
『ビューティフルドリーマー』
(2020年 日本 75分)
監督:本広克行
原案:押井守『夢みる人』  
出演:小川紗良、藤谷理子、神尾楓珠、内田倭史、ヒロシエリ、森田甘路、伊織もえ、かざり、斎藤工、秋元才加、池田純矢、飯島寛騎、福田愛依、本保佳音、瀧川英次、齋藤潤、田部文珠香、升毅
11月6日(金)よりシネ・リーブル梅田他全国順次公開
配給:エイベックス・ピクチャーズ
公式サイト → https://beautifuldreamer-movie.jp/
©2020 映画「ビューティフルドリーマー」製作委員会 
 
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あなたの常識と私の常識は違う。コミュニケーションの壁に向き合うため自身にキャメラを向けて。
『友達やめた。』今村彩子監督インタビュー
 
  コロナ禍でリアルに友達と会う機会も減り、改めて本当に会いたい友達って誰だろうと思い浮かべたり、どこか人恋しくなっている人も多いのではないだろうか。11月13日(金)から京都シネマ、11月14日(土)から第七藝術劇場、今冬元町映画館他全国順次公開される『友達やめた。』は、友達とのコミュニケーションの壁に全力で向き合う姿を映し出すドキュメンタリー映画だ。
 
 監督は、自ら自転車で日本一周に挑む様子とその葛藤を描いたドキュメンタリー『Start Line』(16)の今村彩子。生まれつき耳のきこえない今村監督が、自作の上映会で知り合い友達になったアスペルガー症候群のまあちゃんとの関係性を自身のキャメラで映し出す本作では、二人の日常や旅行での出来事を通じて、お互いに対する気持ちの変化や、距離感に対する本音が次第に溢れ出す。友達、家族、夫婦とどんな関係でも一番のベースになるコミュニケーションについて考えるきっかけが詰まった一本。障害を作っている原因や、それを超えるきっかけについても考えたくなる作品だ。
本作の今村彩子監督に、お話を伺った。
 

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■映画づくりの原点は自身の葛藤。

――――本作を撮ろうと思ったきっかけは?
今村:まあちゃんとはお互いに本好きで、家も近いし、年齢も近い。さらに二人とも独身という共通点があり、最初に親しくなった時は話も合うし、すごくいい友達ができたと思ってうれしかった。だけど、一緒に過ごしている時間が長くなってくると、えっと思うことや自分にとって嫌なことをされることが増え、その度に「彼女はアスペだから仕方がない」と気にしないようにしていました。それが我慢できなくなって喧嘩になることもあり、そんな葛藤を一人で抱えているのが嫌になりました。だからみんなを巻き込んで、この映画を作りました。どうしたらまあちゃんと仲良くなれるかを考えたかったのです。
 
――――前作の『Start Line』に続いてのセルフドキュメンタリーで、再び自身にカメラを向けていますが、ドキュメンタリーの被写体として自分にカメラを向けるのは勇気がいる作業では?
今村:『Start Line』の時は初めてのセルフドキュメンタリーだったので、すごく勇気が要りました。でも、今回は私よりもまあちゃんの方が大変だったと思います。まあちゃんが最初「いいよ」と言ってくれた時は私が途中で映画制作をやめるだろうと思っていたそうで、まさか本当に映画になるなんてと今は驚いているみたいです。
 
――――今村監督の周りには今までアスペルガー症候群をはじめとする発達障害を持つ友人はいなかったのですか?
今村:自分がそうだと打ち明けてくれたのは、まあちゃんが初めてです。その時はびっくりするというより、逆にまあちゃんと仲良くなれると思ったし、マイノリティ同士ということで、すごく親しみを感じました。
 
――――シリアスになりがちな題材ですが、飄々とした音楽がとても効果的でした。
今村:『Start Line』を一緒に作った山田進一さんは、とても気が合い、いいアドバイスをもらえて信頼できる人なので、今回も山田さんから音楽や整音担当の方に私のイメージを伝えてもらいました。やはり音楽で感情を煽るドキュメンタリーにはしたくないので、最低限必要なところに入れるようにしました。
 
――――感覚が敏感なまあちゃんにカメラを向けることは、彼女にとってプレッシャーになっていたのでは?
今村:まあちゃんが学校の給食室で働いているシーンがありますが、撮影するときは「撮られるのはいいんだけど、許可をもらうために校長先生とやりとりするのが疲れる」と言われましたね。交渉するのが苦手なまあちゃんに、校長先生にアポイント取りや日程調整をしてもらい、だいぶん負担をかけていたと思います。まあちゃんは本音を言ってくれるので拒否されない限り、手間をかけて申し訳ないと思いつつ「よろしくね」とお願いしていました。
 
――――撮影を通じて、そこまで言い合える仲になったということですね。
今村:実は最初にまあちゃんと仲良くなった時からおもしろいな、撮ってみたいなと思い、映画化を考える前にもキャメラを回したことがあったんです。ただ、まあちゃんが私のことを信頼してくれているからとはいえ、ひたすら自分のことばかりを打ち明けられるとやはりしんどい。気持ちをぶつけられる友達は私しかいないのかなと思うと、それも重荷でした。今、まあちゃんにとってTwitterが本音を吐き出す場所で、吐き出したらスッキリすると言っているので、全て私が抱えなくてもいいんだなと安心しました。
 
――――思いを吐き出すといえば、長野旅行で二人が本音で語りあい、喧嘩ごしになっていくシーンがありますが、あれも自然とそうなったのですか?
今村:なんの断りもなく私の茶菓子をまあちゃんが食べてしまったことから始まったんです。 それが初めてのことなら怒りませんが、度々起こっていて、私も我慢し続けてきた。その積み重ねの結果、あの時に感情が爆発してしまった。周りから見たらお菓子でと思うでしょうが、本当に真面目に喧嘩しましたね。
 
 
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■まあちゃんと接することで、今まで知らなかった自分が出てきた。

――――友達といっても、あそこまで言い合えるのはベースに信頼関係があることの証でもありますね。
今村:私もまあちゃん以外の人とあそこまでの喧嘩をしたことはありません。喧嘩になる原因がないし、あったとしても喧嘩になる前に自分の気持ちを整理して、冷静に自分の気持ちを伝えています。だから今回は、自分でもびっくりしたんです。私はこんなに怒る人ではないと思っていたのに、彼女と接することで今まで知らなかった自分が出てきてしまった。そんな自分を見たくないけれど、どうしたらいい関係を築けるかを考えるためには自分を見つめ直さなくてはいけない。それがすごい葛藤だったし、この映画のエネルギーになりました。
 
――――映画で出てくる二人の日記の文章から、二人の本音が浮かび上がっていましたね。
今村:お互いにずっと日記を書いているんです。私は小学生の時からずっと書いていて、今92冊目ですし、まあちゃんは34歳でうつ病と診断された時、医者からマインドフルネスプログラムの一環として日記を書き始めたそうです。まあちゃんの日記を映画に使わせてと伝えたら、すんなりOKしてくれたのには驚きました。普通は嫌がるところですが、そのあたりの感覚は彼女独自のものだと思います。まあちゃんのOKは裏表がない本気のOKなので、そういうところは好きだし、楽なんですよね。だから旅行もこちらから誘うことができた。疲れたら素直にそう言うだろうし、気を遣わず、旅行を楽しめると思ったんです。
 

■喧嘩した時のまあちゃんの姿に、コミュニケーションを絶ったかつての自分が重なって。

――――まあちゃんとの喧嘩の中で、今村監督が「自分から弱者の立場に立ってるよ」とおっしゃったのがすごく印象的でしたが。
今村:『Start Line』で日本縦断の自転車旅をしていた5年前の自分の姿が、「わかりあうなんてきれいごと、排除でいい」と言い放ったまあちゃんと重なりました。当時の私は自転車旅の初心者で疲れもあって、やるべきことができなかったりして、伴走者にたくさん叱られました。それがだんだん嫌になってきて、伴走者を無視することが増え、コミュニケーションを絶っていたこともあったんです。その時伴走者に「コミュニケーションの映画を撮ると言っているのに、あなた自身がコミュニケーションを切っている」と言われました。その時の私がまあちゃんと重なったんです。ただ今回の私は向き合うことから逃げたくなかった。だから「弱者の立場に立ってるよ」とまあちゃんに投げかけたのです。
 
――――お二人の会話の中には優生思想への考え方や思いがあることに気づかされます。
今村:まあちゃんは元々読書好きで優生思想についても詳しいですし、やまゆり園事件のことも本を読んでいて私以上に詳しい。だからまあちゃんに優生思想について聞いてみたのです。彼女は自分でも優生思想を持っているし、本を読むことでその気持ちをコントロールしていると話していたのが印象に残っています。おそらくまあちゃんは本に救いを求めているのだと思います。自分を救ってくれる言葉を探すために、たくさんの本と出会うのですが、読んでも読んでもその言葉がない。だからすごく切ないし、それだけまあちゃん自身が生きづらさを感じているのだと思います。
 
 
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■自分がマジョリティになったと感じた時に生まれた戸惑いも、映画の中に。

――――生きづらさについても二人の見解は違いますね。
今村:私は障害も自分だけの問題ではなく、人と人の間にあるという考え方なんです。まあちゃんは映画の中でアスペルガー症候群という障害は自分の問題であると言うように、自分の中にも原因があると考えています。発達障害はどこまでが性格で、どこまでが障害なのかが自分でもわからない。そのあたりが同じマイノリティでもすごく違うなと感じます。また、まあちゃんと一緒にいると、私がマジョリティになっていると感じることがあり、それに気づいた時はすごく戸惑いました。マジョリティである自分が我慢すればいいんだ、我慢した方が波風が立たないので楽だとそちらへ流れてしまった。映画を撮りながら本当に色々なことを考えました。
 
――――どのあたりで映画の着地点が見えてきたのですか?
今村:お菓子のことで大喧嘩をした後、二人の常識を考える会を開いたのですが、そこでまあちゃんの行動に関して初めて知ることがたくさんあった。これは一区切りになるなと思いました。
 
――――「二人の常識を考える会」は名案でしたね。人それぞれの常識は違いますから。
今村:私が発案し、自分でもいいなと思って映画を作ったのですが、その後パンフレットに寄せられたまあちゃんの文章を読んで、もしかしたら私の自己満足だったかもしれないと思いました。映画の中で描かれている喧嘩は、私の中では感情が積み重なった結果の行動なのですが、まあちゃんは私がいきなり怒りはじめたように感じる。まあちゃんにとって私はいつ爆発するかわからない“時限爆弾”なので、喧嘩のショックもそれだけ大きかったのです。それでも依然としてまあちゃんは普通にLINEもくれるし、映画制作も応援してくれているので、逆に私の方がまあちゃんの言葉に囚われすぎないようにしようと。目に見える言葉はやはり強いけれど、それよりもまあちゃんの今の行動や表情を信じようと思いました。
 

■「友達やめた」は友達を続けるために必要な言葉だった。

――――タイトルの『友達やめた。』という言葉はとてもインパクトがあるだけでなく、本当に色々なことを考えさせられますね。
今村:この言葉は私が一番悩んでいた時に生まれた言葉です。映画としてはそこが山場になりますが、とにかくまあちゃんに会いたくないし、離れたいし、なんなら映画を撮るのもやめたい。それぐらい本当に葛藤していた時、日記に書いたのが「友達やめた。」という言葉でした。するとすごく気持ちが軽くなったんです。今までの自分は、まあちゃんにとっていい友達でいたいとか、自分がこんな嫌な人間だと認めたくないという気持ちがあったのですが、そんながんじがらめな状況から、一度抜け出すことができたんです。すると心に余裕が生まれて、自然に「まあちゃんと仲良くやっていくにはどうすればいいか」と考えられるようになった。そうやって自分を赦せると楽になりましたね。だからこの言葉は友達を続けるために必要な言葉だったのです。
(江口由美)
 

<作品情報>
『友達やめた。』
(2020年 日本 84分)
監督:今村彩子 
出演:今村彩子、まあちゃん他 
11月13日(金)〜京都シネマ、11月14日(土)~第七藝術劇場、今冬元町映画館他全国順次公開。期間限定でネット配信も実施中
※京都シネマ、11/14(土)今村彩子監督による舞台挨拶あり
 第七藝術劇場、11/15(日)石橋尋志さん(「さかいハッタツ友の会」主宰)、今村彩子監督によるトークショーあり
公式サイト → http://studioaya-movie.com/tomoyame/
(C) 2020 Studio AYA
 

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