レポートインタビュー、記者会見、舞台挨拶、キャンペーンのレポートをお届けします。

2016年9月アーカイブ

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山田孝之、本郷奏多をはじめ総勢8名が集結!『闇金ウシジマくん Part3』大阪舞台挨拶
(16.9.24 TOHOシネマズ梅田)
登壇者:山田孝之、本郷奏多、白石麻衣、筧美和子、最上もが、崎本大海、やべきょうすけ、山口雅俊監督
 
「1日3割 (ヒサン )」「 10 日で 5割(トゴ )」 という非合法な金利で金を貸し付けるアウトローの金融屋「カウカウファイナンス」 社長のウシジマを山田孝之が演じ、2010年のテレビドラマ「Season1」から映画版までシリーズ化された『闇金ウシジマくん』。金と欲望に翻弄される人々の転落人生を時にはコミカルに、時にはハードに描きながら、社会の闇を映し出すエンターテイメントが、ついに完結!9月22日(木・祝)に『闇金ウシジマくん Part3』、10月22日(土)に『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』と2作連続公開される。
 
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『闇金ウシジマくん Part3』公開最初の週末となった24日(土)にTOHOシネマズ梅田で行われた舞台挨拶では、主演の山田孝之を筆頭に、本郷奏多、白石麻衣、筧美和子、最上もが、崎本大海、やべきょうすけ、山口雅俊監督と総勢8名が登壇。司会が最上もがを呼び忘れるハプニングも笑いに変え、すっかり息の合ったカウカウファイナンスのメンバーと、本作が初参加の初々しい女優陣が加わった豪華ゲストを前に、映画を観たばかりの観客から大きな拍手が送られた。
 
 
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「みなさん、映画を観てくれてありがとうございます。1か月後ファイナルもありますので、そちらも観てください」と山田が連続作であることをアピール。本作が初参加となるアイドルの卵、麻生りな役の白石麻衣(乃木坂46)は「大人気の作品に携わることができ、本当に光栄です」と爽やかに挨拶。一方、カウカウファイナンスのメンバーとして常連メンバーでもある崎本はハスキーボイスで「どうも、綾野剛です!違うか~」と本作で共演している綾野のモノマネで一人ノリツッコミをみせ、山田から「面白くない!」と叱咤される場面も。企画、プロデュースも手がけた山口監督は「2度、3度観ていただくと、面白い発見があります」と挨拶した。
 
 

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この日で舞台挨拶キャンペーンツアーが3日目となる8人。午後一番に行われた大阪での舞台挨拶に続き、チームに分かれて夜までに福岡まで行くという強行スケジュールをこなす予定で、テンションが高い様子は舞台挨拶の端々に現れた。大阪・八尾出身のやべきょうすけは、合間合間で舞台の一番端の立ち位置から身を乗り出して盛り上げる一方、質問に一生懸命答えている本郷に、「うるさい!」と一喝される場面も。その後、やべが話しているときには山田と本郷がなんとマイクを分解して遊ぶというしっぺ返しを喰らわすあたりは、舞台挨拶を心から楽しんでいる様子が伺え、会場も大爆笑。「今までの舞台挨拶で一番ヤバイ」というやべに、山田は「楽しそうなのは(お客さんに)伝わっている」とさらりと答え、リアル「カウカウファイナンス」のような和やかさが表れていた。
 
 

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ネットビジネスの甘い言葉に誘惑されるフリーター、沢村を演じた本郷は、カリスマ実業家天生役の浜野謙太との共演について「浜野さんは天生役を研究し、ルックスから作り込んで演じていてカッコイイ俳優さんと尊敬していたが、役柄上周りに綺麗な女性がたくさんいるので、待ち時間女性に囲まれてとても楽しそうにしていた。そういうところも天生っぽいのかも」と冷静に分析。沢村が恋に落ちる相手役を演じた白石は「ウシジマくんらしくないラストシーンが好き」と言うと、山口監督はエンディングを撮影直前に変更し、台詞も全て変えたというエピソードを披露。本郷も自身の役どころの変遷を踏まえながら、現在のエンディングへの気持ちを語った。
 
 
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もう一つのエピソードの柱となるキャバクラ嬢につぎ込むサラリーマン役を演じた藤森慎吾の相手役(キャバクラ嬢、花蓮)を演じた筧は、「藤森さんはチャラ男のイメージがあったが、すごく真面目て芝居に対しても器用。台詞が変わってもすぐに対応されるし、現場でも楽しくお話できたので、溶け込みやすかった」と絶賛。カウカウファイナンスの心優しい受付嬢として本作からメンバー入りした最上は「まじめにお仕事をしました。すぐにお習字の時間があって」と、部屋に貼られている習字や絵は全て自筆であることを山口監督が紹介し、観客が驚く一幕もあった。

 
 

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司会から最後の質問として、1ヶ月お休みがあればとの問いに
「休みはいらない。やりたいことがあるので、打合せをしたい」(山田)
「休みはいらない。(絶対嘘というツッコミに)ゲームしてると思います」(本郷)
「おうちにいるのが好きだけど、1ヶ月休みがあるなら海外旅行に行きたい」(白石)
「スペインでパエリアを食べたい」(筧)
「多分いなくなって、絶対この世界(芸能界)に戻ってこない。今は2日以上休みがあると何をしていいか分からなくなるので打合せを入れてしまう」(最上)
「自転車で日本一周したい。昨日天神橋商店街のはしご酒が楽しかったので、旅先ではしご酒をしたい」(崎本)
「タイムラインに1ヶ月休みと打ち上げて、連絡が来た人と会っていきたい」(やべ)
と、それぞれのキャラクターの意外な一面が伺える回答に会場も湧いた。
 
 

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フォトセッションの後、檀上に戻らずステージ際に8人が腰をかけ、観客と同じ目線で山田が代表として「今日は観に来てくれてありがとうございます。1か月後、ウシジマの“さいご”を見届けてほしいと思います。(「イヤだ!」との声に)イヤだじゃないよ!“さいご”なんだよ!我慢しなさい!リターンズはないので、これで最後です。(「また来てね!」との声に)大阪に?用事があれば(笑)ありがとうございました」と終わりの挨拶を行った。終始、観客からの声がかかり、そのやりとりを楽しんでいるカウカウファイナンスの面々を見ていると、観客同様「さよなら」を言うのが辛くなりそうだが、その前にまずは本作と『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』を見届けよう。
(江口由美)
 

<作品情報>
『闇金ウシジマくん Part3』
(2016年 日本 2時間11分)
監督:山口雅俊
原作:真鍋昌平「闇金ウシジマくん」(小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」連載中)
脚本:福間正治、山口雅俊
出演山田孝之、綾野剛、本郷奏多、白石麻衣、藤森慎吾、筧美和子、最上もが、崎本大海、やべきょうすけ他
配給:東宝映像事業部=S・D・P
2016年9月22日(木・祝)~TOHOシネマズ梅田他全国ロードショー
公式サイト⇒ http://ymkn-ushijima-movie.com/
©2016真鍋昌平・小学館/映画「闇金ウシジマくん3」製作委員会
 

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様々な過去を背負った大人たちが、無邪気な笑顔を見せるまで。
『オーバー・フェンス』山下敦弘監督インタビュー
 
『海炭市叙景』(熊切和嘉監督)、『そこのみにて光輝く』(呉美保監督)に続く佐藤泰志原作函館三部作の最終章『オーバー・フェンス』が、9月17日(土)よりテアトル新宿、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、京都シネマ他全国ロードショーされる。
 
監督は、『マイ・バック・ページ』『味園ユニバース』の山下敦弘。大阪芸大出身の監督による連作というのも面白い試みだが、撮影監督は三作とも同じく大阪芸大出身の近藤龍人で、まさに近藤三部作でもある。閉塞感や生きるままならなさを痛切に感じる前二作と比べて、温かさや清々しさ、ふとした日常の歓びや笑いを感じられ、山下×近藤の黄金コンビらしい空気感が心地よい。
 
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故郷に戻ったバツイチ男、白岩(オダギリジョー)と、鳥の求愛ダンスをするホステス聡(蒼井優)の出会い。職業訓練校に通う、年齢もキャリアも様々な男たちの日常。そこに生きる人を切り取り、外れ者のブルースのように不器用な愛を重ねた二人のラストは、青春映画さながらの爽快感に満ちている。
 
取材当日40歳の誕生日を迎えた山下敦弘監督に、撮影や演出、クライマックスのソフトボール大会に込めた思いについて、お話を伺った。
 

 


■脚本の広がりある世界を凝縮した映画版『オーバー・フェンス』

―――終わり方が本当に清々しくて、まさに大人の青春映画といった感じでしたね。
山下監督:原作もあんな印象で終わりますから。そして、一日二本ビールを飲む生活はやめようと。映画のラストは、原作と同じにしようと思っていました。
 
―――ラストは同じですが、脚本では原作と随分設定を変えている部分もあります。原作や脚本を、どのようにアレンジしたのですか?
山下監督:僕がこの企画に参加したときには既に初稿があり、聡はこどもの国で働き、(鳥の)求愛ダンスもするし、ホステスもしている設定になっていました。その後プロデューサーと脚本の高田亮さんと僕で一度函館に行ったのですが、まだ寒い3月の頃だったので雰囲気的には『海炭市叙景』のような感じ。寒くて車を出て5秒で戻りたくなって(笑)。それから、高田さんの広がりのある世界をぎゅっと凝縮していきました。『海炭市叙景』も『そこのみにて光輝く』も120分以上あったのですが、『オーバー・フェンス』は、更に短くしたかったのです。
 
―――なぜ、120分以内に収めようとしたのですか?
山下監督:最近の僕のテーマです。映画は90分と思っていますから。もちろん2時間や3時間で語る映画もありますが、自分の技量を考えると、2時間を切る方が自分に合う気がします。
 
 

■(カメラワークについて)函館三部作の最後はこの感じ、どこかラフな近藤龍人、そこが良かった。

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―――撮影の近藤龍人さんは、山下監督作品の常連であり、函館三部作全てを担当されています。『オーバー・フェンス』での近藤さんの撮影はいかがでしたか?
山下監督:さすがだなと。近藤君のカメラはとても強くて、物語以上に彼のカメラが際立つ瞬間もあるのですが、今回はすごくいい距離感、スタンスで臨んだのではないでしょうか。ふっと笑えるシーンもありますし、(観客が)気分的にも軽い気持ちで観ることができるということも含めて、近藤君のカメラもそういう空気にちゃんとなっている。僕は好きなカメラでしたね。
 
―――それは山下監督からの指示というより、近藤さんご自身の考えでそのように撮られたのですか?
山下監督:ヨーロピアンビスタというサイズに決めたのも近藤君ですし、彼の中で何かあったのだと思います。脚本の世界観もありますが、函館三部作の最後はこの感じ、どこかラフな近藤龍人、そこが良かったですね。
 
―――冒頭に挿しこまれた空を飛ぶカモメのショット、ウミネコや鳥の求愛ダンス、そして空から舞い降りる羽と、「鳥」が様々な場面で象徴的に使われていますが、その意図は?
山下監督:函館に行くと、ウミネコがたくさんいるんですよ。歩いていると、国道の脇に羽が落ちていたりして。この作品では飛べない人たちがいて、飛べる鳥がいる。その対比としてという意味もありますが、実は鳥も檻の中にいたり、ドン曇りの空を飛んだり、窮屈な中にいるのです。こんなに鳥が重要になるとは僕も思っていなかったのですが(笑)。でも多分函館に住んでいる人からみれば、ウミネコやカモメは象徴的なものだと思います。
 
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■主演オダギリジョーとは「面倒くさくない関係」。同世代だからこそ分かる感覚を共有。

―――オダギリジョーさん演じる白岩の背中から漂う哀愁が、男の過去を感じさせました。オダギリさんとは、どのようにして白岩のキャラクターを作り上げていったのですか?
山下監督:オダギリさんとはドラマ『深夜食堂』他で時々ご一緒していたのですが、映画の主演と監督という立場で向き合うのは初めてでした。オダギリさんも少し照れくさいという気分があったでしょう。でも撮影中は、一言で言えば「面倒くさくない関係」でした。ここまでは絶対に分かっていて、ここからはどっちに行きます?という具合に、ゼロから話をしなくても済むことが多かったです。ある程度は共有できており、僕が悩んでいたことをオダギリさんも分かってくれていたし、オダギリさんがやりたいことを僕もフォローできた。見ている景色は違っても、同じ世代だからこそ分かっている感覚が共有できていたのだと思います。
 
―――聡を演じる蒼井優さんが、とてもインパクトのあるキャラクターだっただけに、翻弄されながらも自らを図らずしもさらけ出すことになり、変わっていく白岩から目が話せませんでした。
山下監督:白岩のドラマは、聡に対してどう変わるかという受け身の立場です。聡がどう変わるかで、白岩も変わってくるとオダギリさんも分かっていました。今回は蒼井さんが聡役で作ってくれたものが大きかったのですが、彼女が吐き出したものに僕とオダギリさんが同じ目線で見ている。「なるほど、聡はこうくるか」みたいな部分がありました。蒼井さんはやりづらかったと思います。「二人で私のことを見てる」と(笑)。
 
―――聡役は、蒼井さんに役作りを一任といった感じですか?
山下監督:そうは言わないですけどね。考えているふりをして、全然分かっていないので、どうやってくれるんだろうと思いながら見ていました。
 
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■何気ないソフトボール大会、実はその瞬間が清々しく、明日を感じることができる。

―――白岩は「俺は普通に生きてきたんだよ」「前から普通だったよ」と、聡や元妻に語ります。「普通」と信じている男と、女たちから見た白岩とのズレを感じながら、「普通」って何だろうと問題提起されている気がしました。
山下監督:普通という定義がよく分からないような世の中ですし。自分のことを普通だと言っている人こそ、普通じゃないというか。でも、今回原作を読んで思ったのですが、最後はたかが職業訓練校のソフトボール大会で、いい年をしたおっさんたちが集まって天気のいい日にプレイしている。でも、実はその瞬間が清々しくて、気持ちがいいし、明日を感じることができるのです。そういう感覚が昔、自分の中にもあったなという気持ちがどこかにありました。漠然と楽しかったり、明日も楽しみだと思えていた。でも最近は天気によってそんなに気分が変わる訳ではないし、人間が当たり前に思っていたこと、普通の感覚なり感性が、生活していくうちに失くなってしまう。普通の人はいないかもしれませんが、普通でありたいと僕は思っています。
 
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■普通から逃げていたはずなのに、普通に戻れなくなっているニュアンスを散りばめて。

―――そうですね。皆、実は普通でありたいと思っている気がします。
山下監督:昔は普通が嫌で、自分は特別だと思い込んでいましたが、今は逆のことを求めています。普通に楽しんだり、普通に涙したり、怒ったり。昔、普通から逃げていたはずなのに、自分の中でどんどんねじれてきて、普通に戻れなくなっている。今回台詞の中にそのニュアンスを散りばめていますが、撮影しながらそういうことを考えさせられました。
 
―――ラストのソフトボール大会は幸せ感満載で、皆キラキラしていましたね。
山下監督:なんかね。皆、必死になって頑張っている姿があって、応援に来た孫が「ガンバレ、ガンバレ!」と言って。その辺の草野球でよくある風景ですが、妙に愛おしくなるというか、なんかいいよなと思いますよね。白岩もそこでホームランを打って、多分あの瞬間、チームのみんなは「やった!」と同じ気持ちになっているんだろうな。あれで試合に勝てるとは思わないけれど(笑)。聡もホームランを見て、すごく嬉しそうにしていたし、あの瞬間は、皆が無邪気で、普通になれたのかもしれないという気がします。
 
―――今日40歳のお誕生日を迎えられた山下監督ですが、40代に足を踏み入れた監督にとっての『オーバー・フェンス』とは?
山下監督:難しい質問ですね(笑)。フェンスだらけというか、越えなければいけないものがたくさんある気がします。監督として作品を作り続けられている部分で言えば、すごく有難いし、自分の役割はあると思っています。僕は生まれ持っての監督というタイプではなく、周りの人の影響を受け、一人で物を作れないから映画をやっているタイプの人間です。監督としては皆に支えられてきた訳ですが、人としての山下は何一つできない。ずっとこの40年間、さぼってきました。約束はできないけれど、人生折り返しですから。一度自分をきちんと見ないと、監督として先に行けない。自分を更新しないとダメですね。
 
―――40歳というのは、自分を見つめ直すにもいい区切りですね。
山下監督:そのいい区切りにこの『オーバー・フェンス』を撮れたのは、すごく恵まれていたと思います。
(江口由美)

<作品情報>
『オーバー・フェンス』(2016年 日本 1時間52分)
監督:山下敦弘 脚本:高田亮
原作:佐藤泰志『オーバー・フェンス』(小学館「黄金の服」所収)
出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太、北村有起哉、満島真之介、松澤匠、鈴木常吉、優香他
2016年9月17日(土)~テアトル新宿、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、京都シネマ他全国ロードショー
公式サイト⇒http://overfence-movie.jp/
(C) 2016「オーバー・フェンス」製作委員会
 
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池松壮亮、東監督の現場では「自分をコントロールすることをやめて、飛び込んだ」
『だれかの木琴』舞台挨拶@大阪ステーションシティシネマ
(16.9.2 大阪ステーションシティシネマ)
登壇者:東陽一監督、池松壮亮
 
何不自由なく、幸せそうに見える主婦に見え隠れする孤独な心。そこに触れたのは、初めていくサロンの若い美容師だった…。井上荒野『だれかの木琴』を、『酔いがさめたら、うちに帰ろう』の東陽一監督が映画化。美容師に心を奪われていくヒロイン、小夜子を演じる常盤貴子の心の内が読めない演技は、物語にスリルを与えている。行動がエスカレートする小夜子の影を感じて生活が乱されていく美容師海斗役には池松壮亮を配し、普通に生きているように見える青年の心の闇も描き出す。小夜子の不倫夫や、思春期の娘、海斗の彼女など、小夜子の周りの人間の感情の揺れや狂気がじりじりと露わになるのも興味深い。正に一筋縄ではいかない現在の家族と、それぞれの孤独を、名匠ならではの視点で活写している作品だ。
 
全国公開に先立ち、大阪ステーションシティシネマで行われた舞台挨拶付き先行上映会では、東陽一監督と主演の池松壮亮が登壇。女性ファンの熱い視線を受けながら、憧れの東監督作品に出演した池松壮亮と、池松に絶大な信頼を寄せている東監督の出会いエピソードから、東監督の演出論まで、非常に興味深い話が飛び出し、濃い内容のトークとなった。その模様を、ご紹介したい。
 

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(最初のご挨拶)
池松:池松壮亮です。今日は本当にありがとうございます。最近大阪に縁がありまして、もう一回来ました。楽しんでもらえればうれしいです。
 
東監督:こんばんは、東陽一です。池松壮亮という、これから大きな仕事をするであろう俳優と、常盤貴子さんという不思議な魅力を持った女優さんを中心に据え、私たちが考える「本当に面白い映画」をと一生懸命作りました。誰が観ても恥ずかしくないものだと思っております。最後まで楽しんでください。
 
―――池松さんは、大阪にご縁があるとことですが、大阪のイメージは?
池松:どうですかね…。今、心斎橋から歩いてここ(大阪ステーションシティシネマ)まで来たのですが、なんか通ったところを見るたびに、ちょっとキュンとしてしまって。「あれ、俺大阪好きだったのかな…」ってちょっとだけ思いました。僕は福岡生まれで福岡育ちですが、また福岡とは違う人情の色があって、嫌いじゃないんだなと。
 
―――東監督は大阪とのご縁は?
東監督:私は生まれが徳川御三家の紀州ですし、仕事の関係でもよく来ます。昼間もマスコミの方に12年ぶりだねと言われて、気軽な感じがしました。大阪のたこ焼きを食べたら、東京のたこ焼きは食えたもんじゃない。今日は(大阪で)食べる時間がありませんが…。大阪の皆さんにお会いするのは、楽しみでした。
 
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―――池松さんと東監督との出会いは?
池松:映画学校に通っていた19歳の時、授業で『絵の中のぼくの村』(96)を観て、あまりにも衝撃を受けたんです。その日のうちに東さんの『サード』(78)という映画を観て、勝手にその日の夜、「なんか、僕はこの人に会わなければいけない気がする」と思っていたら、いつの間にかこんな風に(一緒に映画を撮ることに)なって、びっくりしています。
 
―――東監督が池松さんとお会いになったのは、いつですか?
東監督:2年ぐらい前ですが、池松さんが逢いたいというから何の用かと思いながら行って、色々話をし、2つの感情を持ちました。1つは、俺の昔の映画を好きだなんて、かなり変わった男だなと。もう1つは、私にとって重大な意味を持つ作品なので、できてから20年経ってそれにショックを受けたと言われると、若い人に認められたんだなと嬉しい気持ちがありました。
 

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―――『だれかの木琴』にはどう繋がっていったのですか?
東監督:初めて会った時は「何か一緒に仕事をできるようになったら楽しいね」と言って別れたのですが、今度の映画をするにあたり、私たち映画をやっている人間にとって今度の原作は「お前、これを映画に出来るのか?」と聞いてくるような、刺激的な本だったんです。これをやりたいと思ったのですが、原作ではどうしても小夜子が中心人物なので、男性の若い美容師について綿密に書かれていなかった。ですが映画には映画のやり方があり、一人のスターだけでは物語を引っ張っていけません。男性美容師を青春映画にチャラチャラ出てこないような、ほとんど表に出てこないキャラクターにして登場させたいと思った時に、そういえば池松という青年と会ったなと。この台詞をやれるのは彼しかいないと思い、海斗役をお願いしました。
 
池松:まだ公開前ですが、「ここまで来たか」という感じです。
 
―――映画の中でカットするシーンもありましたが、美容師の特訓はされたのですか?
池松:そうですね、もうちょいやりたかったですけど。(しゃべりながら切るのは)慣れるまで時間がかかりましたが、手が慣れてくれば意外とできました。教えてもらった人にずっと話しかけてもらいながらやっていたので。
 
―――美容師さんと客が会話しながらという部分で、心が通い合う関係になりますね。
東監督:池松さんが自分で練習し、プロが指導しているのを見ると、美容師はとても繊細な仕事で、ある意味ではカウンセラーみたいな役割をすることもあるんです。髪の毛をいじらせるのは、恋人か旦那か家族ぐらいしかいないでしょ。赤の他人が触って、耳の傍で話をする訳ですから、美容師以外の人が触ることはあり得ないわけです。そういう微妙な感覚をお客さんと取る訳ですから、単に髪を切るだけでは済まない。(美容師役は)大変だったと思います。
 

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■磨いたところと、まだ磨いていないところが両方混じっている、生々しいものをお客さんに見てもらいたい。(東監督)

―――東監督の現場はどんな感じでしたか?
池松:いやあ、ものすごく早くて。僕はてっきり年齢のせいだと思い、東さんはおじいちゃんだから(撮影が)早いのかと思っていたら、いつも早いそうです。ほぼ1テイクか2テイクですし、1シーン1カットがほとんどだったので、16時ぐらいに終わるんです。その辺の小学生と一緒に帰っていて、「どうすりゃいいんかな」と思っていました。
 
東監督:何度もテストをして俳優の芝居がだんだんキレイに出来上がっていく。そういう芝居を撮るのは嫌いなんです。表現がピークになる、つまり磨きすぎたダイヤモンドのようなものは要らない。磨いた跡が残っていて、磨いたところとまだ磨いていないところが両方混じっているものの方が好きなのです。そういう生々しいものをお客さんに見てもらいたい。役者も生身の人間ですから、何度もテストをするとだんだんダレてきますよね。それで安定していっても、生気を失ったキレイなお芝居はお客さんに見てもらいたいと思わないんです。そして磨きかけのダイヤモンドを最後まで磨いてもらうのは、お客さんの方なのです。
 

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■東さんの価値観に共感。いつも以上に自分をコントロールすることを止めて飛び込んだ現場。(池松)

―――そういう現場で、東監督と出逢われたのは新しい刺激になりますね。
池松:まじめな話をすると、僕はあまり人からどうこう言われたくなくて、普段は放っておいてほしいんです。自分で自分をコントロールするタイプですが、東さんの価値観だとか、東さんと話をすると本当に面白くて、いつも以上に自分をコントロールすることをやめて飛び込んでいた現場でした。
 
東監督:現場では、カメラの調整や他の俳優さんとの関係で、どうしても何テイクか撮らなければいけないことがありますが、池松さんは、一回ごとにアクションが違う。つまり、自分で考えて、試しているのです。最終的にこれで行こうと決めて、次にカメラを回すとまた違うことをする。そこが僕は楽しみなんです。そしてそれをうまく捕まえられたら、監督としての勝利だと思うんですよ。
 
―――常盤貴子さんとの共演はいかがでしたか?
池松:2、3日しか会っていなくて、現場での印象は、実はほとんどないんです。何もしゃべっていないですし。でもこの映画が完成したのを観て、本当に素晴らしいなと思いましたし、東さんの映画の女性は輝いているというか、常盤さんもすごくフィットしていました。
 

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■監督は最初で最高の観客でなければいけない。(東監督)

―――女性の気持ちをきめ細やかに描くコツは何ですか?
東監督:コツもへったくれもないんですよ。要するに2人の俳優さんに好きなことをやってもらい、それを私が撮るだけです。常盤さんとあまり会わなかったというのには2つ意味があり、1つは映画でデートをする設定はない。もう1つは、常盤さん自身が彼女はしゃべりだしたら結構しゃべる方ですが、故意に休み時間はあまり話しないようにしていたのです。小夜子を演じるのに、舞台裏であまり他の俳優さんと話したり仲良くならないように自分で抑制していたのです。私も、役者の演技が自分の思っている方向と違えばダメ出しをするでしょうが、今回はそんな場面はなかったです。僕はただ黙って「本番いきましょうか」と。外から見れば、ただ号令をかけているだけと思われていたでしょう。ただし、監督は世界で最初に俳優たちの芝居を見て、OKかどうかを決める立場です。鋭い目を持っていないと、いい加減な芝居でOKしたらお客さんの方が目は鋭いですから、そこは用心しています。最初で最高の観客でなければいけないと、いつも思っています。
 

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■東監督が何を現代に向けて伝えようとしたのかを踏まえて、観てほしい。(池松)

―――最後に一言ずつお願いします。
池松:色々お待たせしてしまいましたが、ありがとうございます。 宣伝文句としてストーカーだとか謳っていますが、宣伝部には申し訳ないですが、割とそういう映画ではなくて、東さんが現代というものを見つめ、現代の孤独に向けた映画だと僕は思っています。
 
東監督:気楽に見てください。池松さんは、こういうものの言い方をするところが、いいところなんです。この映画は最後まで観ないと損をする可能性があるので、映倫マークが出るまで観てもらう方がお得です。
 
池松:決して分かりやすい映画ではないですし、昨今流れている映画の中では少し異質かもしれませんが、せっかくの出会いですから、東さんが何を現代に向けて伝えようとしたのかを踏まえて、観ていただけたら、きっと楽しんでいただけるのではないかと思います。ありがとうございました。
(江口由美)
 

<作品情報>
『だれかの木琴』
(2016年 日本 1時間52分)
監督:東陽一
原作:井上荒野『だれかの木琴』 (幻冬舎文庫)
出演:常盤貴子、池松壮亮、佐津川愛美、勝村政信、山田真歩、岸井ゆきの、小市慢太郎、河井青葉他
2016年9月10日(土)~大阪ステーションシティシネマ、シネマート心斎橋、京都シネマ他全国ロードショー
公式サイト⇒ http://darekanomokkin.com/
(C) 2016『だれかの木琴』製作委員会
 

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