レポートインタビュー、記者会見、舞台挨拶、キャンペーンのレポートをお届けします。

2013年12月アーカイブ

busikon-b2-550.jpg野菜だらけのクリスマスツリーにびっくり!『武士の献立』大ヒット御礼舞台挨拶

(2013年12月24日(火)なんばパークスシネマにて)

ゲスト:上戸 彩、高良健吾

 

(2013年 日本 2時間01分)
監督:朝原雄三
出演:上戸彩、高良健吾、西田敏行、余 貴美子、夏川結衣、成海璃子、柄本佑、緒形直人、鹿賀丈史、ふせえり、宮川一朗太、猪野学、海老瀬はな、浜野謙太、笹野高史/中村雅俊(語り)

2013年12月14日(土)~全国公開中

★作品紹介⇒ こちら
★11/28(木)大阪舞台挨拶⇒  こちら
 ★12/8(日)京都舞台挨拶⇒  こちら
 ★公式サイト⇒
 http://www.bushikon.jp/

(C)2013「武士の献立」製作委員会

 


~高良健吾の誠実な役作りに改めて感謝する上戸彩~


 

busikon-550.jpg12月14日から全国公開されている映画『武士の献立』。江戸時代の加賀藩を舞台に、藩の台所を預かる“包丁侍”と言われた一家を描いた時代劇は、和食が世界文化遺産に登録されたことも追い風となって好評を博している。特に、加賀藩に伝わる饗応料理や調理の様子がたくさん登場する映画とあって、目にも鮮やかに美味しい和食の魅力が楽しめる。何と言っても、包丁でもって藩に誠を尽くした藩士とそれを支えた妻との夫婦愛や人を思い遣る優しさにあふれた物語は、人との関わりが希薄になりつつある現代人の心を優しく温めてくれる。年末年始、家族で観に行くには最適な感動作である。

その大ヒット御礼のため、主演の上戸彩と高良健吾が大阪なんばパークスにて舞台挨拶を行った。公開前の大阪ステーションシネマとMOVIX京都での舞台挨拶に続くものとなったが、大勢の観客を前に、感謝の気持ちと、改めて作品への想いを語った。

 


【最初のご挨拶】 (敬称略)
busikon-b2-2.jpg上戸:舟木春を演じさせて頂きました上戸彩です。こうして公開を迎えて皆さんにお会いできるのをとても嬉しく思います。大阪にもまた来られてとても嬉しいです。本当にありがとうございます。
高良:メリー・クリスマス!クリスマスイヴにこの映画を選んで観に来て下さいまして、本当にありがとうございます。この映画はテンポのいい時代劇なので、とても見やすいと思います。

――― お二人は公開前に大阪・京都と舞台挨拶に来て下さいましたが、公開後に舞台挨拶をするお気持ちは如何ですか?
上戸:クリマスイヴに高良君と一緒にお仕事できるなんて、嬉しいです♪
高良:僕も嬉しいですが、実は今日が最後なんですよ。
上戸:そうなんですよ、今日でバイバイなんですゥ。
高良:寂しいです!(笑)
 busikon-b2-u1.jpg――― キャンペーンは大阪が最後なんですか?
上戸:はい、大阪が最後なんです。
――― それは大阪をトリにして頂いてありがとうございます!(会場から拍手)
お二人は撮影中は春と安信として接して来られて、キャンペーンに入ってからよく話すようになったのですよね?
上戸:そうです。現場ではそれなりに楽しく過ごしていたのですが、こうしたキャンペーンで一緒に食事したりお喋りしたりして親しくなりました。それを思うと、4月の撮影の時はまだぎこちなかったんだなと思います。

――― 親しくなってからの高良健吾さんへのイメージは変わりましたか?
上戸:私の中では、今まであまりお会いする機会もなく「よく映画に出ておられる役者さん」という感じだったので、共演できてとても嬉しかったです。撮影の時から紳士的でとても優しく、ちょっと不器用なところは映画の中の安信さんらしいなと思っていましたが、今ではとても大人に感じます。速いテンポで会話ができるようになりました。
 busikon-b2-k1.jpg――― それは高良さんに何かあったんでしょうか?
高良:別に撮影中役に入りきっていた訳ではなく、ぎこちなかったかもしれませんが、「春と安信」という関係性だとそれで良かったのかなと思います。あの時は春をやっている上戸彩さんでしたが、今では意識せずにいろんな事をお話させて頂いています。ずっと芸能界の中心にいた方ですので、こうしたキャンペーンや取材にも慣れておられ、どんな時でも元気に応えておられます。そんな上戸さんに会うとパワーをもらえます。
上戸:嬉しい

――― 映画の中では沢山のお料理が登場しますが、どれが一番美味しかったですか?
上戸:私は一番「治部煮」が美味しかったです。最初甘くて、わさびを入れると味がキュッと締まってさらに美味しくなるんですよ。
――― 映画では見るだけですけど楽しみですね。高良さんは?
高良:僕も「治部煮」が一番美味しかったです。春が作っているシーンもありますが、この時代は簡単に食材が買える訳ではなく、また調理器具や保存方法も違いますので、料理にはもっと時間が掛かっていたはずです。そうしたことを考えながらこの映画を見ると、また違った感情を抱いて頂けるのではと思います。

busikon-b2-u2.jpg――― 映画の中の調理シーンでは手元だけしか写ってないですが、実際にお二人が料理されているのですよね?
上戸:はい。吹替えの人を用意して下さるのかなと甘いことを考えておりましたら、全部自分たちでやらなければならなくて、現場で初めてやらされることがあったり、いきなり本番にいったりして、凄く緊張しました。手元しか写ってなくても、実は私の手だったり、高良君の血管だったりしているんですよ(笑)。
――― お料理は大変だったのでは?
高良:とても楽しかったです 
 ――― それじゃ、お家でもお料理をバンバンするようになったのですか?
高良:撮影終わってからだいぶ経っていますので、あまりしてないです(笑)。

――― 時代劇の撮影で難しかったことは?
 busikon-2.jpg上戸:この時代男性に「もの申す」女性というイメージがなかったので、安信さんをどの程度にらみつければいいのか、その加減が難しかったです。下から見上げるだけでも危険なのに、そのルールを破っていくのですから、安信さんのテンションを見ながら、高良君の演技に私が乗っかっていく感じで演じました。安信さんがもっと強く出れば私はそれ以上に強く出る必要があったのですが、そうなると時代劇として成立しなかったかもしれません。それを、高良君自身が持っている不器用さや優しさで安信さんの柔らかさや映画の雰囲気を作って下さっていたんだなぁと、映画を見て改めて思いました。
――― 高良さんもその辺りのさじ加減は難しかったですか?
高良:安信は不器用で子供っぽいですが、誠実だと思うんです。その誠実さに辿り着くまで時間が掛かるんですが…。映画『風立ちぬ』の主人公・堀越二郎の不器用だけど誠実な感じが好きなんです。声から誠実さが伝わってくるような人物像です。

 


busikon-b2-3.jpgここで、劇場から特製のクリスマスツリーをプレゼントされる。大根や人参やかぼちゃなどの野菜の形をしたオーナメントが飾り付けられたツリーが登場して、大喜びする二人!

一旦会場の照明を消灯して、全員でカウントダウン――点灯!

きらめくツリーの横で照れながら野菜のオーナメントをほお張ろうとする高良健吾。それをからかう上戸彩。

 

 


(最後のご挨拶)
 busikon-b2-k2.jpg高良:クリスマスイヴの日にこの映画を選んで下さいましてどうもありがとうございました。この映画に出てくる人物は、本当に自分のしたいことが出来ているのか、必ずしもそうではない気がして…それでも何をすべきか、何を感じるべきか、目の前にある状況や人をちゃんと見て、食に対してだったり、思いやりだったり、いろんなことに気付いていきます。この映画を見て凄く大切だなと思ったのは、自分が今立っている場所でどう向き合うか、どういう風に行動するかということです。本当にこの映画を選んで下さってありがとうございました。このツリーは、野菜だけにグリーン席に乗せて持って帰ります!(笑)

上戸:おおっ上手いこと言ったな!(笑)ご家族やお友達と集まる機会も多いと思いますが、この映画を見て「いい映画だったな」と思って頂けたら、周りの方にも広めて頂きたいと思います。素敵な年末が過ごせますように! 家族や夫婦の愛や思いやりがいっぱい詰まった映画ですので、ホッコリした気持ちで帰って頂けたら嬉しいです。今日は本当にありがとうございました。

 


 

バツイチで四つも年上だが料理の腕を見込まれて「息子の嫁に!」と父親に懇願されて江戸から加賀藩へ嫁いで来た春。剣で身を立てるつもりが、長兄の急死で道場の娘との縁組も剣の道も諦め“包丁侍”として生きる道を選ばざるを得なかった安信。料理の腕はまるっきしダメな安信が料理上手な姉さん女房に反発しながら渋々料理をしていくあたりはおざなりのコメディになりがちだが、上戸彩が語るように、高良健吾の誠実で真剣な安信像が映画全体の雰囲気を高めているように感じた。また、高良健吾の演技に健気に応えた上戸彩もまた役柄同様内助の功を奏してとても微笑ましい。そんな二人が心も軽くしてくれる味わい深い時代劇を是非観に行って頂きたい。

 

(河田 真喜子)

gakutaiusagi-550.jpg『楽隊のうさぎ』鈴木卓爾監督、磯田健一郎音楽監督インタビュー
(2013年 日本 1時間37分)
監督:鈴木卓爾 プロデューサー・監督補:越川道夫
音楽監督:磯田健一郎 
原作:中沢けい『楽隊のうさぎ』新潮文庫刊
出演:川崎航星、宮崎将、井浦新、鈴木砂羽、山田真歩他
2013年12月14日(土)~ユーロスペース、新宿武蔵野館、12月29日(土)~第七藝術劇場、シネ・ヌーヴォ、2014年1月11日(土)~京都みなみ会館、2月8日(土)~神戸アートビレッジセンター他全国順次公開
公式サイト⇒http://www.u-picc.com/gakutai/

(C) 2013『楽隊のうさぎ』製作委員会


~日々生徒たちと接しているところでしか台本も音楽も生まれてこない。
生徒たちとの「キャッチボール」から生まれた青春音楽映画~ 

gakutaiusagi-s3.jpg瑞々しい中学生たちが奏でる吹奏楽部の演奏は、決して完璧ではないけれど、心を打つ「音楽の力」がみなぎっている。中沢けいの人気小説『楽隊のうさぎ』を『ゲゲゲの女房』の鈴木卓爾監督が映画化。楽器の街、静岡県浜松市を舞台に、吹奏楽部員を一般の中・高校生からオーディションで募集し、映画のために一から作り上げられた花の木中吹奏楽部と、主人公克久の成長ぶりが、寄り添うような映像で綴られている。

主人公克久を吹奏楽部へと誘ううさぎ役に山田真歩、花の木中吹奏楽部顧問の和田勉役に宮崎将が扮し、ファンタスティックに、時には在りし日のゆったりとした吹奏楽部の雰囲気を醸し出しながら生徒たちに音の楽しさを伝えていく場面も微笑ましい。また、クライマックスの定期演奏会演奏曲『Flowering TREE』(オリジナル曲)をはじめ、克久が吹奏楽部を意識するきっかけになった勧誘演奏に『星条旗よ永遠なれ』、新入部員が入ったばかりで初見演奏させられた『ファランドール』、克久がコンクールメンバー落ちしたときの演奏曲『吹奏楽のための第一組曲』など、劇中の音楽シーンはすべて実際に部員たちが演奏した生音が使用されており、音楽映画として台詞同様彼らが奏でる音にも注目したい。

鈴木卓爾監督と音楽指導やオリジナル曲作曲を担当した磯田健一郎音楽監督に、青春音楽映画を実際の学生を集めて作り上げたプロセスや、意識したこと、音楽指導でのこだわりやオリジナル曲誕生秘話について話を伺った。


■試行錯誤を重ねた生徒たちとの撮影、音楽指導

gakutaiusagi-s1.jpg───今回は主役を含む中学生のキャストを全員オーディションで選び、一から花の木中学校吹奏楽部を作り上げました。今までの映画作りと違う点や、苦労した点は?
鈴木:今回の映画は、「浜松で映画を作りたい」という持ちかけがあったことから始まりました。吹奏楽部の物語なので、出演者はプロの俳優ではなくむしろ普段学校に通って、家で家族と暮らしている素人の学生さんたちに出演してもらえないかと考えました。プロの俳優さんは台本の流れを掴んで演技をしていきますが、10代の人たちが主人公の物語の場合、今しか映りようのない彼らという生々しいものを物語に入れたかったのです。しかし僕自身吹奏楽部の経験がなく、本作の重要な一面である音楽映画をどうやって作っていけばいいのか全くしらないままスタートしたので、彼らの生々しいものを、しかもアフレコではなく彼らが出した音を使いたいということがどれだけ大変かということを知りませんでした。生々しいものを撮るために、彼らにそこに居てもらうためにはどのように会話したり、監督として演出しなければいけないのか。その問題に突き当たりながら、スタッフみんなで作りました。

───磯田さんは、音楽監督として生徒たちの音楽指導や、オリジナルの楽曲も作られたそうですね。
磯田:オーディションで僕たちが選んだ子ども達は特に吹奏楽の経験は問わず、「『楽隊のうさぎ』に出演したい人は来てください」という条件で応募してくれた人の中から選んでいます。学年も経験もバラバラで、楽器の経験のない子もいました。最初の夏の撮影では普通の映画のアプローチを行っていました。しかし、実際に演奏をしている姿やしゃべっている顔、出ている音を使いたい。僕たちの実際目の前にいるイキイキとした子ども達を映像に撮りたいと越川プロデューサーに言われ、改めて夏の間撮影したラッシュを見ると、子どもたちが窮屈そうに見えて、僕たちが撮りたいものではないことに気づきました。そこで最初あった脚本は一度忘れて、一からやり直しました。

 

■原作とは違う展開を考えた理由と、映画版ならではの吹奏楽顧問「勉ちゃん」の造詣

gakutaiusagi-4.jpg───花の木中吹奏楽部を一から作るようなものだったのでしょうか?
磯田:どこにてもある普通の吹奏楽部を作る、もしくはそれに近付くようにやろうとしたのですが、8月の撮影ではまだ人間関係ができていませんでした。これではダメだと脚本が書きなおされる一方で、僕はオリジナル曲を書こうと思ったのです。原作では吹奏楽コンクールで全国大会に行く話になっていますが、それはやめました。震災の後に、子どもたちが他の子ども達に勝って喜び、自分たちは特別だと思うような物語を果たして紡いでいいのかという問題意識があったのです。普通の子ども達同士の有り様を撮ることは最初の撮影時点でも固まっていました。また吹奏楽部の顧問、森勉先生(以降勉ちゃん)の造詣も原作ではコンクールに一直線の猛烈型でしたが、映画ではひっくり返しています。

gakutaiusagi-3.jpg───吹奏楽部の熱血教師のイメージとは一線を画した、ふわりとした印象の勉ちゃんのキャラクターはユニークでしたね。
磯田:勉ちゃんは音楽が好きで、吹奏楽がずっと好きだったけど、一度やめてずっとチェロを弾いていた。学校の吹奏楽部の顧問になり、子どもたちが演奏しているのを見ている中で、また自分も子ども達の中に入りたくなるといった造詣にどんどんとしていきました。
鈴木:宮崎さんには磯田さんが子ども達と一緒に音楽室でやっているのを見てもらっていました。
磯田:宮崎さんは最初から必ず音楽室にいるんですよ。職員室でのシーンなどの出番が終わると、必ず音楽室にやってきて、ピアノの前で座っていました。誰も頼んでいないのに、ずっとその場にいたのです。

───練習をずっと宮崎さんがご覧になっていたということは、磯田さんが勉ちゃんのように指導されていたのかもしれませんね。
磯田:「僕自身が勉ちゃんだったらどうするだろうか」と思いながら、生徒たちの合奏やパート練習をやりはじめました。僕も吹奏楽の経験者として言いたいことや伝えたいことがいっぱいあったのですが、だんだんそれはどうでもよくなり、まずは音と戯れ、一緒に音楽で遊ぶということをやろうと思ったのです。学生時代指揮者だった経験を思い出しながら、「後はやってね」という風に生徒たちに投げかけました。すると、合奏の時に「チューバが音出てない!」と生徒たちが文句を言い始めたり、食事の時間になれば仲良しグループができて遊び始めるということがリアルに起こり始めました。学年や音楽キャリアを超えて本当に彼らが花の木中学校吹奏楽部になるのを感じながら、僕はオリジナル曲を脚本でいう「あて書き」していきました。

 

■生徒たちの生の言葉や練習の様子を台詞、オリジナル曲にフィードバック 

gakutaiusagi-s2.jpg───ティンパニーのドンという音から始まる曲はなかなかありません。「あて書き」とおっしゃった意味がよく分かります。 
磯田:最初に克久君の「ドン」というティンパニーの音を書くと、その後に何がくるかといえばファンファーレしかないのでトランペットや他のパーカッションを演奏する子の様子を想像しながら書いていきます。それを全部設計しながら練習するので、「こいつうまくなったな、ちょっと譜面変えて難しいことをさせてみよう」など、練習の様子を譜面にどんどんフィードバックさせていきました。同時に練習中生徒たちにさせた中から生まれた生の言葉を、シナリオにもフィードバックしていきました。こちらから投げたボールに対して、どう返すか。そういうキャッチボールを生徒たちと一緒にやるわけです。

───具体的にどういうやり方で生徒たちの生の言葉をフィードバックしていったのですか?
鈴木:コンクール出場メンバーから落ちて、廊下で落ち込む同級生に、「バーカ、がんばれ!」と同学年の女の子が声をかけていくシーンがありますが、台本の稽古ではなく、ワークショップのような形で投げかけた中から生まれました。「コンクールメンバー落ちして廊下に立っているよ。一人ずつ、声かけられるかどうかやってみようか」というシチュエーションだったのですが、越川プロデューサーから「触ることはやらないで」と言われて、悩んだ後に「バーカ、がんばれ!」という言葉が出た時はプロデューサーも涙目でした。冬のワークショップで出たその言葉を台本に入れ、翌年のゴールデンウィークの本番で使いました。
磯田: 「僕らはこういう方向で作りたいのだけどやってみて」と生徒たちに投げてみて、返ってきたことを拾い上げて、また投げ返す。それを全て撮ったのがこの映画です。僕の仕事で言えば、音楽シーンの演出だけでなく、吹奏楽部を作っていく中で、その奥にドラマがあるわけです。練習の前でふざけているときと、カメラが回り始めた時と同じテンションができなかったら、この映画はダメだということを僕たちは夏の撮影で学びました。どうやったら具体的に撮れるのか常に模索していましたね。
鈴木:自然さのある撮り方を考えたら、盗み撮りすることもできたでしょうが、それは意味ありません。僕らの前に、ちゃんと吹奏楽部があることが目標としてあり、日々接しているところでしか台本も何も生まれてこなかったのです。まさに生徒たちとのキャッチボールの応酬です。全体練習で集まれる限られた濃密な時間に、リハーサルも意識させない形で行っていました。僕が一番キャッチボールが下手だったので、他の皆さんに救ってもらって形にしていきました。 

gakutaiusagi-2.jpg───主役に選ばれた川崎航星君は映画初主演ですが、役作りや撮影での様子はいかがでしたか? 
鈴木:川崎君は、最初にオーディションで会ったときに克久にすごく重なる部分があって、自己主張はしないけれど、透明感があって、人の話やしぐさを見ていたんですね。満場一致で決まったのですが、最初に花の木中吹奏楽部で集まった時に「僕はどの役をすればいいですか?」と聞かれ、克久役と告げると主役ということでショックを受けていました。プレッシャーを感じていたのでしょうが、ご飯の時間などみんなと仲良くなっていくうちに、わざとふざけて皆を笑わせるようなキャラクターで、彼の笑顔がとても良かったんです。そんないい笑顔をする子が克久のような役をしようとするには、川崎君なりに演じているわけですよね。相当自覚的に自分を追い込んで、関係性を忘れないようにしながら、休憩時間にどれだけ弾けられるか。そんな調整を自分の中でしていたんじゃないでしょうか。
磯田:川崎君は音楽経験はなかったですが、独特の集中力がありました。今回彼にはリアルな吹奏楽感を出すために、僕が教えるのではなく、先輩役の子に教えてもらうようにしました。彼は元々持っているビートは正しくて、僕は1年半一緒にやってきた中で「おまえ、リズム感いいんだぞ。自覚してないだろ?」とだけ伝えて、後は指導は彼女たちに任せていました。定期演奏会の本番でティンパニーを叩くシーンの前に、こういう持ち方をすればいいというのだけは、プロのティンパニー奏者の指導を入れましたが、それ以外は全部自分で練習していましたね。演奏会のシーンは最後の撮影でしたが、日頃は表情を崩さない川崎君が滝のようにワーンと泣いて、相当自分を追い込んでやっていたんだと思います。

 

■『ベルリン 天使の詩』の天使のような、どこにでも偏在している「うさぎ」の存在

───この物語で山田真歩さん演じるうさぎの存在は、ファンタジーの要素を加える一方、主人公克久を音楽室に誘う重要な役割をはたしています。このうさぎに込めた想いやうさぎで表現しようとしたことは?
鈴木:原作小説に出てくるうさぎは、克久が公園で最初に見かけ、これから行く中学校が嫌だなと思っている克久の中に住み込んでいるような内なる存在でした。映画化するにあたって、ファンタジーは僕の映画的な嗜好として好きな場面でもあるので、俳優が演じ、音楽室の空間に同時に存在してほしかったのです。しかし、ファンタジーの枠組みの一方で、生々しいやりとりをしていかなければ、生徒たちを撮れないことに気付いたとき、うさぎの意味をきちんと捉えていかないと、子どもたちがきちんと映らなくなる危機を迎えました。越川プロデューサーに「『ベルリン 天使の詩』で、天使は人が思っていることをずっと寄り添って聞いている。あちこちにいる天使の一人がうさぎと重なるのかもしれないね」と言われハッとしました。克久自身にしか見えないという本作の枠組みはあるけれど、ティンパニーを教えてくれている園子先輩もひょっとしたら1年生のときに見えたかもしれない。どこにでも偏在している、一人一人を見守っている存在ではないかと、撮影後半に入って見つけていった感じです。克久にしか見えていないようなうさぎが、定期演奏会の前、誰もいない音楽室で、一人一人の椅子を触っていき、「うさぎが皆にもきっといるのだ」と暗示しています。うさぎ役の山田真歩さんは監督からも明確な指示もない中で、自分で動きを全部考え、現場でうさぎを完成させてくれました。

───最後に、これからご覧になるみなさんに一言お願いします。
鈴木:僕たちはこの映画という日常じゃないものを、普段学校に通っている子どもたちを集めて一緒に映画に参加した時間を共有しながら撮らせてもらうという形にしました。その中で彼らが森先生とやっている音楽は、世界中にそこだけのものです。また先生と彼らの音楽や、彼らの笑顔や彼らの時間というのは、彼らだけにある特別なものだと思うのです。そこでやっているものの中から特別なものをふと感じられる映画として、みなさんと出会えたらとてもうれしいと思います。
磯田:僕たちが子どもたちと一緒に過ごした時間が定着されていて、イキイキとした何かをご覧いただけたら、それが一番うれしいです。

(江口 由美)

 

kuroshituji-b550-2.jpg美し過ぎる水嶋ヒロ!3年ぶり復帰映画『黒執事』舞台挨拶

(2013年12月16日 なんばパークシネマにて)
ゲスト:水嶋ヒロ(29歳) 剛力彩芽(21歳) 松橋真三プロデューサー

(KUROSHITSUJI 2013年 日本 1時間59分)
■配給:ワーナー・ブラザース映画
■原作:枢やな『黒執事』(掲載 月刊「Gファンタジー」 スクウェア・エニックス刊)
■監督:大谷健太郎 さとうけいいち
■出演者:水嶋ヒロ 剛力彩芽 優香 山本美月 大野拓朗 栗原類 海東健 ホラン千秋 丸山智己 城田優 安田顕 橋本さとし 志垣太郎 伊武雅刀 岸谷五朗

2014年1月18日(土)~新宿ピカデリーほか全国ロードショー

公式サイト⇒ http://www.kuroshitsuji-movie.jp
(c)2014 枢やな/スクウェアエニックス (c)2014 映画「黒執事」製作委員会

 


~魅惑的な執事に傅(かしず)かれる喜びと陶酔と~


 

kuroshituji-1.jpg海外でも大人気の超ヒットコミック『黒執事』。特に女性に絶大な人気を誇る原作を実写映画化するのだから、誰しもあのカリスマ執事のセバスチャンを誰が演じるのかと期待と不安で胸ときめかせたことだろう。ご安心下さい。これ以上はないというキャスティングで、貴女の前にひざまずきます、あの水島ヒロが!

 

『BECK』以来3年ぶりの俳優復帰となるが、長身でハンサム、学生時代はサッカー選手で小説も書く、さらに人柄も優しくて温かいという、天賦の才に恵まれた水嶋ヒロの復帰はビッグニュースだ。 そんな彼に出演を何度断られてもオファーをかけ続け、終いには企画立案に巻き込む荒技でもってOKさせたという松橋プロデューサーの功績は大きい。そのお陰で、こうして彼の主演作を再び見られてファンならずとも嬉しい限りだ。頭脳明晰のセバスチャンによる謎解きの面白さは勿論、華麗なるアクションでご主人様の危機を救う執事の役は、水島ヒロの魅力を最大限に引き出しているようだ。

kuroshituji-3.jpgそんなセバスチャンに傅(かしず)かれる幻峰清玄(げんぽうきよはる)を演じた剛力彩芽の可憐な男装ぶりも見どころのひとつ。

2014年1月18日(土)の公開を前に、水嶋ヒロと剛力彩芽と松橋真三プロデューサーの3人が、なんばパークスシネマで開催された試写会の舞台挨拶に登場した。

 


kuroshituji-b2.jpg(最初のご挨拶) (敬称略)
水島:皆さんこんばんは。本日はお出で下さいましてありがとうございます。この映画が皆さんのお力で広めて頂けたら嬉しいです。よろしくお願いいたします。
剛力:こんばんは。水嶋さんの久しぶりの作品ですので、楽しみに待っておられた方も多いのではないでしょうか。私もこの作品に携われて嬉しかったですし、自信をもってお見せできる作品となりました。今日は最後までお楽しみ下さい。
松橋:3年ぶりに水嶋ヒロを表舞台に引っ張り出したのは私です!褒めて下さい!(拍手)

kuroshituji-b6.jpg――― 『黒執事』を映画化するキッカケは?
 松橋:これほど人気のある作品なので、映画プロデューサーだったら誰でもやりたがると思います。実際いろんなお話もありました。上手く行くかどうかはファンに納得してもらえる俳優にすることに掛かっていると思ったので、セバスチャンは水嶋ヒロしかいないとおもいました。その企画だったら成功するだろうと、水島さんの所へ足繁く通いました。
――― ファンとしては良かったですよね~(拍手)でも、最初はノーだったのでしょう?
松橋:そうなんです、何回も断られて。断られる度に漫画本を全巻送ったり、アニメのDVDを送ったり、プロットを書いて持って行ったりしました。さらに、彼は頭がいいので巻き込んでみては?と「このプロットどう思う?」と聞くと、「こうしたら面白いじゃないですか?」と答えてくれるというやり取りが始まって、「じゃ一緒に作ろうよ」と無理やり巻き込みました。彼は巻き込まれ型です(笑)。
 kuroshituji-b4.jpg――― うまく巻き込まれましたね?
水島:そうですね~僕でないとダメだと仰って頂いて、次第に必要とされる喜びが膨らんでいきました。オファーの度に「他の人がいいのでは?」と答えていたので、まさかそこまで考えて下さっているとは思いませんでした。

――― 今回作る側にも参加されましたが、プロデューサーとして携わる面白さは?
水島:ストーリーをイチから作っていく充実感はありました。

――― 美少年から美少女に変えていますが、そのキャスティングは?
松橋:本質な部分は何も変わっていないんです。原作の魅力は何だろうと考えて、それは“永遠の少年性”にあると。ずっと歳をとらない少年・・・それは少女が男の恰好をするのが面白いんじゃないかと。そんなのが似合うのは剛力彩芽さんしかいないだろうということになって決まりました。
 kuroshituji-2.jpg――― それを聞いて如何でしたか?
剛力:水嶋さんがこの作品をされるということは前から知っていたので、それに参加できると聞いて不安やワクワク感もありました。また、キャラ変更をファンにどう受け止めてもらえるのか、今とてもドキドキしています。男装はいろんな視点から感情を伝えられるので、やって良かったと思いました。

――― 復讐に燃えるところとクールな部分がある役でしたが、難しかったのでは?
  
kuroshituji-b5.jpg剛力:そうですね、難しかったです。実際経験している訳ではないので、抱えているものをどう表現していけばいいのかと、結構大変でした。でも、周りの空気を感じたり、セバスチャンとどういう関係でこうなったのかと考えたり、水嶋さんを辿っていくと感じる部分が沢山出てきました。

――― 完璧な執事役でしたが、普段の水嶋さんは?
松橋:完璧だと思います。
水島:いえいえ、それが違うんですよ。その質問をよくされるので、セバスチャンとの共通点を何か見つけようと、無口なところかな?と思って「見つけた!」と先程発表したら、どうやら違ってたみたい(笑)。
剛力:無口な印象はないですね~! 最初はクールで近寄りがたい方かなと思ってましたが、実際は温かくてよく話し掛けて下さいました。

――― 完成作を見てどう思った?
水島:本当に自信作だと思っています。芝居の面で作品に貢献できているかどうかというより、面白いと思って受け入れてもらえるか?そればかりを気にしていました。不思議な感覚でした。
――― 今後製作者としても活躍されるかもしれませんね?楽しみですね。
 松橋:それに関わる面白いお話を今ここで初めて明かしますね。水嶋さんは凄い才能を持ったアイデアマンなんです。それを端的に著わしているのが、彩芽ちゃんもまだ知らない事ですが、ラストの部屋のシーンのセリフは水嶋さんが作ったんですよ。
剛力:ホントに知らなかった!なぜ言ってくれないんですか~?
水島:気を遣わせるといけないので。
剛力:あのシーンは私も凄く気持ちを込めていましたので…大事なシーンでした。
松橋:そう、一番大事なシーンです。

kuroshituji-b3.jpg(最後のご挨拶)
水島:漫画が原作なのでいろんな情報が入っておられると思いますが、一度頭を真っさらにして頂いて、僕らがすべてを注ぎ込んだこの作品を楽しんで頂けたらいいなと思います。どうぞお楽しみ下さい。
剛力:先ずは何も考えずに、映像だけでも楽しめますが、人間ドラマもありますので、その中で何か共感できる部分があれば嬉しいなと思います。これから私たちも宣伝を頑張りますが、皆様にもお力を頂けますよう心からお願いいたします。


 

この日の映画館のフロア係のスタッフは、セバスチャンが着ている執事用ジャケットの絵の描かれたTシャツを着て出迎えてくれた。今後“黒執事ファッション”が流行るかもしれない!?

(河田 真喜子)

 

chiisaiouchi-butai-550.jpgお茶目な大女優の素顔を見た!『小さいおうち』舞台挨拶

(2013年12月9日(月)うめだ阪急ホールにて)
ゲスト:松たか子(36歳)、倍賞千恵子(72歳)

(2013 日本 2時間16分)
監督:山田洋次
原作:中島京子『小さいおうち』文春文庫
出演:松たか子、黒木華、片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木聡、倍賞千恵子他

2014年1月25日(土)~丸の内ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、MOVIX京都他全国一斉公開

★合同記者会見の模様は こちら

 

★公式サイト⇒ http://www.chiisai-ouchi.jp/opening.html
(C) 2014「小さいおうち」製作委員会

 


~山田洋次が描く“人妻の恋”~


(作品ついて)

chiisaiouchi-4.jpg昭和初期、東京にあった赤い屋根の小さなおうちに女中として仕えた女性が、ある秘密を心の重荷として抱えたまま平成の世まで生きて生涯を終えた。そして、いまその秘密が明かされようとしている。当代、和服の似合う№1女優の松たか子が、『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』のラストシーンで見せた気品ある妖艶さで、男性だけでなく女性をも魅了する若奥様を演じて、成瀬巳喜男監督作の中の大女優たちを彷彿とさせる貫録を見せる。若奥様への特別な想いを抱きつつ、ひとり気を揉む女中のタキを、『舟を編む』『シャニダールの花』など2013年だけでも4本の出演映画が公開された黒木華(はる)が、新鮮な眼差しで物語をけん引している。そして、平成の世のタキを演じたのは、山田洋次監督作にはお馴染みの倍賞千恵子。妻夫木聡や夏川結衣らと誠実な強い想いを貫いたタキの生涯を彩っている。

(最初のご挨拶)

chiisaiouchi-butai-3.jpg2014年1月25日の公開を前に、松たか子と倍賞千恵子の新旧大女優による舞台挨拶が行われた。ショートヘアに黒のオーバーブラウスとサブリナパンツ姿の松たか子は、「あまりにも映画の中の時子と違う恰好で驚かれたかもしれませんが」と挨拶。一方、倍賞千恵子は黒のジャケットにブーツスタイルで、「あまりにも実物が若くてべっぴんなんでびっくりされたかもしれませんが」と客席を沸かせた。

 

(役作りについて)

chiisaiouchi-butai-2.jpg掴みどころのない役を最後まで想像力を働かせながら演じたという松たか子。「時子は果たして幸せだったのかな?何を求めていたんだろう?誰かを幸せにできたのかな?」という思いや昭和初期の女性の考えなどを、山田監督やスタッフのアドバイスを受けながらの役作りだったようだ。「山田監督は最後まで情熱を失わずに映画を作っておられました」。

『母べえ』(2008)以来の山田組出演となる倍賞千恵子は、緊張してお茶を入れる手が震えたこともあったようだが、相変わらず情熱をもって映画製作に取り組む監督に励まされ、原作の世界観や時代を思い描きながら演じたという。髪の毛や着物のことなど些細なところも監督から直されたらしい。「少しでも監督のイメージに合うよう努力しました」。

若いタキを演じた黒木華とは、「タキらしいクセを考えましょうかと言っていましたが、結局何もしないままでした」。松たか子と黒木華の二人がいるシーンに立ち会ったが、自分がいるべきではないと感じたらしい。

 

(撮影現場での秘話について)

chiisaiouchi-butai-4.jpg撮影現場での秘密を聞かれると、倍賞千恵子は「秘密は秘密だから内緒です」と言いながら、山田監督が機嫌の悪い時は空腹な時で、そんな時「最近お肉食べてないんじゃない?」などとみんなで話していたとか。ぬるいラーメンでも我慢して食べるくらい食べることが大好きだそうだ。

一方、松たか子からは、夫が勤める会社の社長役を演じたラサール石井は眉やヒゲなど顔全体に特殊メイクをされたが、「特に金歯をアピールしてリハーサルしたら、監督がちょっと照れ屋のキャラにしようとしたため、折角メイクさんが付けた金歯が見えなくなっちゃいました。ラサール石井さんの口の中も注意してご覧ください」。

 

(最後のご挨拶)

最後に、倍賞千恵子から「この映画は、いろんな年齢の方の立場や見る角度によって新たな作品となっていくと思います。また違う年代の方に紹介して下さい。ひとりでも多くの方に見て頂きたいです」。松たか子からは、「こうして人生の先輩方に見て頂けて嬉しいです。こういう生き方をした女性もいたのだろうと想像しながら映画の中の人物たちへ思いを馳せて頂きたいと思います」と締めくくった。

 


『男はつらいよ』シリーズの「さくら」のような優しくて穏やかなイメージの倍賞千恵子だが、『霧の旗』(1965)では復讐心を内に秘めた情念の女を演じたこともある。「家族の絆」や想いを貫く誠実な日本人像を人情味たっぷりに描いてきた山田洋次監督のミューズ的存在の女優でもある。

chiisaiouchi-3.jpg一方、松たか子は梨園(歌舞伎界)の生まれで、16歳の時に出演したNHK大河ドラマ『花の乱』では市川海老蔵(当時は新之助)と共演し、室町時代のお姫様が憑依したかのような高貴な佇まいと透明感のある美しさで、衝撃的な印象を残している。近年の舞台での彼女を見ても、トランス状態を感じさせるほどの勢いのある演技に圧倒される。舞台挨拶でのお茶目な彼女からは想像もできないほどだ。

そんな松たか子演じる昭和初期の若奥様が織りなす物語は、意外な程明るく戦前の暗さを全く感じさせない。赤い屋根の小さなおうちで命を輝かせていた人々の幸せを一瞬で消し去った戦争の非情さを改めて思い知ることになる。それにしても、美しい人妻が男の下宿先の階段を上がるシーンでは、見る者がドキッとしてつい着物の褄(つま)を上げたくなるようなサスペンスフルなセクシーさを感じさせる。(着物は着てないけど…) また、若奥様の帯の柄の位置が出掛けた時と違うことによって、何をしてきたかを想像させる。山田洋次監督82歳にして、男女の営みを直接描かずとも、これほど雄弁に語って見せるあたりは、さすがだ!

(河田 真喜子)

 

chiisaiouchi-kisha-550.jpg『小さいおうち』山田洋次監督、松たか子、倍賞千恵子合同記者会見

(2013 日本 2時間16分)
監督:山田洋次
原作:中島京子『小さいおうち』文春文庫
出演:松たか子、黒木華、片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木聡、倍賞千恵子他
2014年1月25日(土)~丸の内ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、MOVIX京都他全国一斉公開

 

 

★舞台挨拶の模様は こちら

 

★公式HP→http://www.chiisai-ouchi.jp/opening.html
(C) 2014「小さいおうち」製作委員会


~昭和10年代東京のリアルな家庭の営みと、秘密を胸に秘めた女中の「長く生きすぎた人生」~

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 昭和10年代の東京を舞台に、モダンな小さな家に女中として働いていた主人公と、美しき奥様、そして奥様が愛した夫の部下板倉との関係や、主人公が一生守り抜いた秘密をしとやかに解き明かす時代を超えたヒューマンドラマ、『小さいおうち』。『東京家族』の山田洋次監督が直木賞を受賞した中島京子著の同小説の映画化を熱望し、キャストに松たか子、黒木華、妻夫木聡、倍賞千恵子らを迎えて戦争に突入する昭和初期と現代とが交差する重層的な物語に仕立て上げた。

 松たか子はタキが慕う美しき奥様、時子を、昭和モダンな雰囲気と内に秘めたる情熱を織り交ぜながら艶やかに演じている。女中として時子に仕えながら、時子と板倉(吉岡秀隆)の情事に大きな衝撃を受けるタキを黒木華が、また平成のタキを倍賞千恵子が演じ、秘密を胸に秘めて生き続けた苦しみを体現する演技に胸を打たれることだろう。

 キャンペーンで来阪した山田洋次監督、松たか子、倍賞千恵子が合同記者会見で、原作に魅了された理由や、今昭和初期の家族を描写することの意味、また秘密を秘めて生きたタキの想いについて触れた。その模様をご紹介したい。


(最初のご挨拶)
chiisaiouchi-kisha-2.jpg山田洋次監督(以下監督):今年の3月にクランクインし、ようやく完成して来年封切りということになり、この1年間はずっとこの映画だったなと、今しみじみ思い返しています。やれることはやったと思いますし、倍賞さんや松さんをはじめ大勢の俳優さんに出ていただき、懸命に芝居をしていただき、スタッフもやるだけのことはやったという充足した想いをいただいています。いよいよ封切りなので、どうぞ皆さんよろしくお願いいたします。
松たか子(以下松):こんにちは、松たか子です。今日はありがとうございます。いよいよ公開が近づき、どんな風に見ていただけるのか緊張していますが、公開を楽しみに待っているところです。一人でも多くの方に見ていただければいいなと思っています。
倍賞千恵子(以下倍賞):こんにちは、倍賞千恵子です。久しぶりの山田さんの作品で、初日にはお茶を入れようとしてふと自分の手を見ると、手が震えていたのにビックリしました。それからスタジオの外に出て、深呼吸をして、もう一度スタジオの撮影に入りました。緊張しながらも、楽しく、あっと言う間に撮影が終わった気がします。とてもすてきな作品に出会えてよかったなと思っております。一人でもたくさんの人に見ていただけるよう、封切りまで頑張っていきたいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。

―――なぜ本作で戦前の時代を描こうと思ったのですか?また、山田監督ご自身が、原作者の中島京子さんにお手紙を書かれたそうだが、そのときの中島さんの反応は?
監督:戦前の時代を描こうと思ったのではなく、小説(『小さいおうち』)がとても面白くて魅力的だったので、これを映画にできないかと思ったのが最初にありました。原作のある場合は、最初は僕が直接お願いするのが筋だし、俳優さんにも直接お願いしたいと常々思っています。特に本作は直木賞受賞作なので、既に映画化が決まっているのではないかという心配もあったので、一刻を争うのではないかと慌てて手紙を書きました。すると「まだ映画化は決まっていません。是非お願いします」ということで、やれやれと思った次第です。

chiisaiouchi-kisha-matsu.jpg―――松さんが今回演じた時子は男性からも女性からも憧れられるような存在だったが、この役にどう向き合って演じたのですか?
松:本当につかみどころのない女性で、でもタキちゃんから憧れや興味を持ってもらわなければいけないし、板倉さんからも好きになってもらわなければいけない。どうすればそうなるんだろうと・・・。
監督:そのままで(憧れられる女性に)なってましたよ。
松:監督や黒木さんや吉岡さんに「お願いします。(憧れや愛情の気持ちで)思ってください」という気持ちで、私が具体的にできることは何もないので、時子はどんな人かと想像しながら演じることだけは止めないようにしました。

―――倍賞さんは平成のタキばあちゃんを演じ、挨拶では「緊張した」とおっしゃっていたが、久しぶりの山田組の印象は?また、特に思い出に残っている台詞やシーンは?
倍賞:居心地が良かったです。最後の方に、手紙を書いているシーンがありますが、そのときに山田監督が近くに立ってブツブツ言っているので「何ですか?」とお聞きすると、「私、長く生きすぎたのよね」とおっしゃるんです。「それは誰が言うんですか」とまたお聞きすると「君だよ」と言われたので「えっ、私が言うんですか」と切り返すと、監督は「僕も長く生きすぎたかな」。全員で「そんなことないですよ」と言ったんです。すごく印象に残っています。
監督:タキは手紙を届けなかったことを後悔し、生涯苦しみ抜いたわけで、早くこんな人生を終わりにしたかったという想いがあったに違いない。それにも関わらず、こんなに生きてしまったという意味の台詞です。「僕も・・・」というのは冗談ですが。

―――昭和10年代の女性を演じるに当たって、何か参考にしたものは?
松:撮影前、昭和パートの全員が集まって読み合わせをしたとき、監督が「持てる知識を総動員して、想像してほしい」とおっしゃいました。私もそんなに多くを見てきた訳ではありませんが、こういう仕草もあったとか、特に何かを参考にした訳ではありません。強いて言えば、母や祖母など着物を特別扱いせず、日常着として来ていた人の姿を思い出しました。所作を伝える映画ではないので、自然に見えるように心がけました。

chiisaiouchi-kisha-yamada.jpg―――山田監督は、具体的に原作のどの部分に強く惹かれたのですか?
監督:僕は自分が少年時代だったこの頃の東京をよく知っていますが、実に正確に描写されています。著者の中島京子さんは戦後生まれなのですが、よく調べたなと思うぐらい間違いがない。まざまざと昭和10年代の東京の暮らしが再現されています。もう一つは、山形県から上京してきた本当に初々しい女中、タキが体験したことです。特に奥様の秘密を知ったとき、彼女にとっては眠れない大事件を体験したのです。その大事件を僕はこの映画で描く、そういう映画にしようと思いました。映画は多かれ少なかれ事件を描きます。近未来を描くこともあれば、地球が滅んでしまうという大事件を描くこともありますが、この映画においては(板倉を訪問した後)奥様の帯が解かれたのが初めてではないということを知ったときのタキの、目の前がクラクラするような出来事でした。それが昭和10年代の東京にある郊外の片隅のちいさな家で起きたという芝居がとても僕には面白いのです。タキの小さな胸の中を見つめると、大きな当惑と、驚愕と、その彼女を包み込むその時代の東京と、さらには日本や世界という1940年代前半の人類の歴史すら感じ取れるような映画になればいい、そんなことをしきりに思いながら脚本を書きました。

―――本作においての戦争の描き方で留意された点は?
監督:戦争そのものを描く等、色々な戦争の描き方があります。この映画も今から70年前の太平洋戦争を描いていますが、タキの胸にどのように戦争が反映したのか。或いは時子や時子の夫の暮らしにどのように反映していたのか、そういうことを通して巨大な歴史が見えればいいのではないかというのが基本的な態度ですね。

chiisaiouchi-kisha-baishou.jpg―――昭和を代表する女優である倍賞さんから見て、昭和初期のしかも複雑な胸中を抱えた時子を演じた松さんの演技はどのように映りましたか?
倍賞:撮影を一日見学させていただいた日に、昭和のタキ(黒木華)と時子が玄関を出ていくシーンを拝見しました。松さんはそこにいらっしゃるだけで、原作を読んだときの時子のイメージがそのまま浮かんできました。休憩時間にタキと時子が撮影待ちをしているときも、声をかけがたくてすっと横を通りぬけていくような不思議な感じを垣間見たことがあり、こんな風に映画で2人は生きていくのだなと思いました。私は年老いたタキを演じるのですが、タキはどんなふうに奥様(時子)のことを思っていたのかなと考えたとき、松さんがとても色っぽかったので、とても美しい奥様にタキは仕えていたのだと、一緒にいた2人を見ただけでとてもよく分かりました。
松:本当にありがたいです。私にできることは何もないという状態で現場に入ったので、倍賞さんにダメなところも含めて、ありのままの姿を見ていただくしか術がありませんでした。自分では全く色っぽいと思っていませんが、他の方がそういう想像力を持って観ていただけることで、なんとかあの時私は(時子として)生きていたのだなと思います。

―――倍賞さんは、どういう想いで大事件だったという若い頃の出来事を秘めたまま生きる女性を演じたのですか?
倍賞:山田監督に原作を読んでくださいと言われ、読んだ後に「ミステリーロマンみたいですね」とお話しました。タキばあちゃんが感じたたくさんのことが胸の中にしまってあるのだなという想いがだんだん分かってきて、一番最後の「私、長く生きすぎたのよね」という一言に全てが入っているという気がしました。どれだけのものを小さなおうちの中で見て感じていたのか、とても素敵な体験をした人だったのではないかと思いました。
監督:素敵というよりはむしろ悲しい想いをしたのではないでしょうか。奥様や旦那様が生きていれば戦後の長い付き合いの中で関係を修復したり、謝ったりすることもできたでしょうが、戦争で死んでしまったのでタキは謝罪のしようもない。それが一番タキばあちゃんにとっては辛かった。生涯罪の意識を背負って生き続け、これ以上生きるのが辛いという想いを持っていたに違いないのです。同時に、もしかして板倉さんのこと嫉妬していたのかもしれないし、奥様のことを嫉妬したのかもしれないと、そのあたりは観た方が考えてもらってもいいのですが、そう考えるとタキばあちゃんは辛い事ばかりだったんですね。でもそういう想いを大事に生きている、素晴らしい人だったと思います。

―――本日すまけいさんの訃報がありましたが、山田監督よりお言葉をいただけますか?
監督:すまさんは、僕が大好きな俳優のお一人で、あの方が出演されると本当に映画があたたかくなるキャラクターでした。優しくて、ちょっとユーモラスで、ああいう日本人が今いなくなっているのですが、本当に最後の得難い日本人だったのではないでしょうか。また素敵な日本人を演じることのできる最後の俳優だったのではないかと思うぐらい、僕はすまさんが好きでした。長い間色々な病気を抱えて辛い想いをされていたことは想像していますけれど、それにしてもすまさんがいなくなったことはとても悲しいです。
(江口由美)