お茶目な大女優の素顔を見た!『小さいおうち』舞台挨拶
(2013年12月9日(月)うめだ阪急ホールにて)
ゲスト:松たか子(36歳)、倍賞千恵子(72歳)
(2013 日本 2時間16分)
監督:山田洋次
原作:中島京子『小さいおうち』文春文庫
出演:松たか子、黒木華、片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木聡、倍賞千恵子他
2014年1月25日(土)~丸の内ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、MOVIX京都他全国一斉公開
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★公式サイト⇒ http://www.chiisai-ouchi.jp/opening.html
(C) 2014「小さいおうち」製作委員会
~山田洋次が描く“人妻の恋”~
(作品ついて)
昭和初期、東京にあった赤い屋根の小さなおうちに女中として仕えた女性が、ある秘密を心の重荷として抱えたまま平成の世まで生きて生涯を終えた。そして、いまその秘密が明かされようとしている。当代、和服の似合う№1女優の松たか子が、『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』のラストシーンで見せた気品ある妖艶さで、男性だけでなく女性をも魅了する若奥様を演じて、成瀬巳喜男監督作の中の大女優たちを彷彿とさせる貫録を見せる。若奥様への特別な想いを抱きつつ、ひとり気を揉む女中のタキを、『舟を編む』『シャニダールの花』など2013年だけでも4本の出演映画が公開された黒木華(はる)が、新鮮な眼差しで物語をけん引している。そして、平成の世のタキを演じたのは、山田洋次監督作にはお馴染みの倍賞千恵子。妻夫木聡や夏川結衣らと誠実な強い想いを貫いたタキの生涯を彩っている。
(最初のご挨拶)
2014年1月25日の公開を前に、松たか子と倍賞千恵子の新旧大女優による舞台挨拶が行われた。ショートヘアに黒のオーバーブラウスとサブリナパンツ姿の松たか子は、「あまりにも映画の中の時子と違う恰好で驚かれたかもしれませんが」と挨拶。一方、倍賞千恵子は黒のジャケットにブーツスタイルで、「あまりにも実物が若くてべっぴんなんでびっくりされたかもしれませんが」と客席を沸かせた。
(役作りについて)
掴みどころのない役を最後まで想像力を働かせながら演じたという松たか子。「時子は果たして幸せだったのかな?何を求めていたんだろう?誰かを幸せにできたのかな?」という思いや昭和初期の女性の考えなどを、山田監督やスタッフのアドバイスを受けながらの役作りだったようだ。「山田監督は最後まで情熱を失わずに映画を作っておられました」。
『母べえ』(2008)以来の山田組出演となる倍賞千恵子は、緊張してお茶を入れる手が震えたこともあったようだが、相変わらず情熱をもって映画製作に取り組む監督に励まされ、原作の世界観や時代を思い描きながら演じたという。髪の毛や着物のことなど些細なところも監督から直されたらしい。「少しでも監督のイメージに合うよう努力しました」。
若いタキを演じた黒木華とは、「タキらしいクセを考えましょうかと言っていましたが、結局何もしないままでした」。松たか子と黒木華の二人がいるシーンに立ち会ったが、自分がいるべきではないと感じたらしい。
(撮影現場での秘話について)
撮影現場での秘密を聞かれると、倍賞千恵子は「秘密は秘密だから内緒です」と言いながら、山田監督が機嫌の悪い時は空腹な時で、そんな時「最近お肉食べてないんじゃない?」などとみんなで話していたとか。ぬるいラーメンでも我慢して食べるくらい食べることが大好きだそうだ。
一方、松たか子からは、夫が勤める会社の社長役を演じたラサール石井は眉やヒゲなど顔全体に特殊メイクをされたが、「特に金歯をアピールしてリハーサルしたら、監督がちょっと照れ屋のキャラにしようとしたため、折角メイクさんが付けた金歯が見えなくなっちゃいました。ラサール石井さんの口の中も注意してご覧ください」。
(最後のご挨拶)
最後に、倍賞千恵子から「この映画は、いろんな年齢の方の立場や見る角度によって新たな作品となっていくと思います。また違う年代の方に紹介して下さい。ひとりでも多くの方に見て頂きたいです」。松たか子からは、「こうして人生の先輩方に見て頂けて嬉しいです。こういう生き方をした女性もいたのだろうと想像しながら映画の中の人物たちへ思いを馳せて頂きたいと思います」と締めくくった。
『男はつらいよ』シリーズの「さくら」のような優しくて穏やかなイメージの倍賞千恵子だが、『霧の旗』(1965)では復讐心を内に秘めた情念の女を演じたこともある。「家族の絆」や想いを貫く誠実な日本人像を人情味たっぷりに描いてきた山田洋次監督のミューズ的存在の女優でもある。
一方、松たか子は梨園(歌舞伎界)の生まれで、16歳の時に出演したNHK大河ドラマ『花の乱』では市川海老蔵(当時は新之助)と共演し、室町時代のお姫様が憑依したかのような高貴な佇まいと透明感のある美しさで、衝撃的な印象を残している。近年の舞台での彼女を見ても、トランス状態を感じさせるほどの勢いのある演技に圧倒される。舞台挨拶でのお茶目な彼女からは想像もできないほどだ。
そんな松たか子演じる昭和初期の若奥様が織りなす物語は、意外な程明るく戦前の暗さを全く感じさせない。赤い屋根の小さなおうちで命を輝かせていた人々の幸せを一瞬で消し去った戦争の非情さを改めて思い知ることになる。それにしても、美しい人妻が男の下宿先の階段を上がるシーンでは、見る者がドキッとしてつい着物の褄(つま)を上げたくなるようなサスペンスフルなセクシーさを感じさせる。(着物は着てないけど…) また、若奥様の帯の柄の位置が出掛けた時と違うことによって、何をしてきたかを想像させる。山田洋次監督82歳にして、男女の営みを直接描かずとも、これほど雄弁に語って見せるあたりは、さすがだ!
(河田 真喜子)