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2015年4月アーカイブ


~茅ヶ崎の日常と非日常が交差する、ひと夏の物語~

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日本を代表する名匠小津安二郎監督が『晩春』、『東京物語』などの脚本を執筆した定宿・茅ヶ崎館をスクリーンで観ることができるとはうれしいサプライズだ。しかも、その古風な佇まいの茅ヶ崎館を中心として描かれる男女の物語は、驚くほどリアルで、ニヤリとさせられる。日本映画大学理論コースに在学中の三澤拓哉監督が、生まれ育った茅ヶ崎を舞台に撮りあげた長編デビュー作『3泊4日、5時の鐘』。茅ヶ崎の日常と非日常が交差するひと夏の物語を、さりげないユーモアと皮肉を交えながら、風情豊かに描いている。まさに、ちょっと大人の青春群像劇となっている。4月に北京で開催された第5回北京国際映画祭では見事注目未来部門、最優秀脚本賞を受賞。まさに世界がその才能を認めた必見作だ。
 
 

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本作ではエグゼクティブプロデューサーも務める国際派女優・杉野希妃をはじめ、『花宵道中』の演技も記憶に残る小篠恵奈、平田オリザ主宰の青年団で活躍している堀夏子、本作でスクリーンデビューを果たした新星、福島珠理と4人の女たちが、それぞれの魅力を存分に発揮。特に、杉野演じる計画主義の真紀と、小篠演じる自由奔放な会社の後輩、花梨との噛み合わない会話が随所に登場し、女たちの火花が散る様が絶妙のさじ加減で描かれ、思わず笑いがこみあげる。日本初公開となった大阪アジアン映画祭上映後のQ&Aでは、観客から「私は真紀のようにあまりにも一生懸命頑張っていた頃があったなと思うと、涙が出て・・・」といった声も上がり、自分に重ねて観ることもできる人物描写の細やかさと、台詞の妙がまさに本作の魅力と言えよう。
 
 
 
 
第44回ロッテルダム国際映画祭をはじめ、日本公開前から世界の映画祭で高い評価を得ている三澤拓哉監督に、茅ヶ崎を舞台にして作り上げた本作について、また初監督作を撮るに至った過程や、今後の展開についてお話を伺った。
 
 

 
 

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■「卒業までに一本監督作を撮ってみたら」と杉野さんから声をかけられ、チャンスだと思った。

━━━監督を目指したのは、何がきっかけとなったのですか?
元々はプロデューサー志望だったのですが、杉野希妃さんが深田晃司監督『ほとりの朔子』のクランクイン前に大学で講義をされたので、「手伝いたい」と申し出たところ、現場へ連れていって下さったのです。元々海外合作で映画を撮りたいと思っていました。杉野さんは、まさにその先駆けとして実践していらっしゃる方ですから、大学2年の夏からインターンという形で現場を体験しながら、色々勉強させていただきました。杉野さんの監督作『欲動』では、初めて演出部でセカンド助監督をさせていただいたのですが、役者さんたちの芝居を近い距離で見ることができ、すごく勉強になりました。 
 

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━━━学生時代に監督デビューとは、非常に貴重な体験ですね。
現在は日本映画大学理論コースでプロデュースの勉強をしているのですが、卒業まであと1年ぐらいのときに『ほとりの朔子』をプロデュースした杉野さんや和エンタテイメントの小野さんが「卒業までに1本監督作を撮ってみたら」と声をかけてくれたのです。将来的には監督をやりたい気持ちはありましたが、当時脚本を書くところまでは考えていませんでした。しかし、お話をいただいたときはチャンスだと思いました。『欲動』では、脚本会議にも参加し、脚本をブラッシュアップさせていく過程も見てきたので、その経験を活かして脚本を書いていきました。
 
━━━個人的には、ひと夏の出来事を描いている点で、大人版『ほとりの朔子』のようにも見えました。
『ほとりの朔子』でアシスタントプロデューサーをしていたので、上映時に行われた深田監督のQ&Aに何度か立ち合いました。また映画美学校で深田監督の講義付き上映もあり、それらがすごく勉強になったので、脚本を書く上で影響を受けていたのかもしれません。 杉野さんは生真面目な役が多い気がしたので、今回はそこが逆に見ていて笑えるようにしています。
 
 

■茅ヶ崎館が全面的に撮影を許可。小津監督はむしろあまり意識しないようにしていた。

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━━━当初から舞台を茅ヶ崎と想定していたのですか? 
僕の地元が湘南で、最初の監督作は地元に近い方が協力を仰ぎやすいのではないかという考えもありました。また、旅館を舞台にした話を想定していたところ、小野さんが茅ヶ崎館のことを教えてくれたのです。茅ヶ崎館の森館長は、茅ヶ崎映画祭の実行委員長で、私自身も面識があったので、映画の撮影で使いたい旨を伝えたところ、すぐに快諾のお返事をいただきました。最初は驚きのあまり「マジか」と思ったのですが、ここまで全面的に撮影を許可したのは初めてだと言われ、身の引き締まる思いがしましたね。 
 
━━━小津監督のように、茅ヶ崎館で執筆されたのですか? 
森館長からは、「(執筆)すれば?」と言われましたが、しませんでした。逆に集中できなくなる気がしたのです。 ポスターなど貼ってありますから、撮影中、小津監督を感じないわけにはいきませんでした。映画を観ていただくお客様も、小津監督は映画の神様と思っていらっしゃる方が多いので、そこに真っ向勝負することはしたくないという思いが最初からあり、むしろあまり意識しないようにしていました。
 
━━━茅ヶ崎館でアルバイトの知春が掃除をするシーンをかなりたっぷりとっていますが、これは茅ヶ崎館の雰囲気をじっくり味わってもらおうという趣旨ですか? 
そうですね。ブラシの音や畳をほうきで掃く音が面白いなと思った部分もあります。また、風呂場で水を撒いたり、ベッドのシーツを広げて整えたりする完全にコントロールできない自動的なシーンは、意識して取り入れました。後々物語で効いてくるイメージを散りばめた感じですね。 
 
 

■女たちのギスギスした関係を入れながら、茅ヶ崎の日常を描く。

━━━『3泊4日、5時の鐘』というタイトルが、とてもリズミカルでいいですね。
最初は『3泊4日』という案でしたが、検索にひっかからないと思い、試行錯誤していると、茅ヶ崎では基本的に夕方5時に鐘が鳴ることが頭に浮かんだのです。旅行者にとっては非日常の時間であり、住んでいる人にとっては日常的なものが組み合わさった時間ということで、「3泊4日」に「5時の鐘」を付け加えました。『3泊4日、5時の鐘』とすることで、旅行にやってきた女性たちのギスギスした関係を入れながら、茅ヶ崎の日常を描いている作品のことを言い表せているのではないかと思います。 
 

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━━━多くの女性たちが絡み合い、描写も本当にリアルで、滑稽でもありますが、人物設定や描写のポイントは?
最初に旅館でアルバイトをしている知春を主人公にすることは決めていました。そこに年上の女性がやってくるという設定にし、そこから、なぜその女性がやってくるかを考え、元同僚の結婚パーティーに出るという設定にしていきました。杉野さん演じる真紀は、計画主義の登場人物です。小篠恵奈さん演じる花梨は、真紀の職場の後輩であり、超自由人で知春を弄ぼうとします。そこに知春に密かな恋心を寄せる福島珠里さん演じる彩子が加わって、ドミノ倒しのように展開していきます。
 
人物描写については、揚げ足をとっているようにも見えますが、それをユーモアに展開させたいといつも思っています。こういう視点があれば、みんなが楽しく、生きやすくなるのではないでしょうか。
 

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━━━考古学のゼミ生に混じり、遺跡調査をしている真紀は、本当に楽しそうでしたね。
実際に僕が通っていた高校の建て替え時に多くの遺跡が発掘されたので、脚本を書くために改めて調べてみると、茅ヶ崎は本当に遺跡が多いことが分かりました。土器を接合する所も見せていただいて、脚本に取り入れました。杉野さん演じる真紀は、茅ヶ崎館でかつての自分の大学のゼミ合宿に遭遇し、完全に自分がゼミ生だった頃の過去にタイムスリップをしています。現在のゼミ生たちからすれば、遺跡調査まで参加した真紀に対し、なぜ彼女がここにいるのか不思議で、真紀との意識のずれがありますね。
 
━━━福島さん演じる原彩子は、どこか原節子と雰囲気が似ているような気もしましたが、キャラクター設定は意識的にされたのでしょうか?
原節子と原彩子は似ている気がしますが、あまり気にしないで書きました。福島さんがオーディションに来られた時は、立ち姿も綺麗でしたし、福島さんの無垢さや、ちょっと世間知らずな感じなところに魅力を感じて選びました。一生懸命だけれど、ちょっと浮いてしまっている異物感が、アクセントとして面白いなと思ったのです。
 
 

■ウディ・アレンの軽妙さが好き。次回作は東京・神保町を舞台に撮りたい。

━━━茅ヶ崎館を含め、茅ヶ崎の魅力が伝わってきました。すごくいい場所で、観ていると、私も行きたくなりました。
ご当地映画みたいに、その場所だけで終わってしまう作品にはしたくないという思いがあり、英語タイトルは『Chigasaki Story』と茅ヶ崎を世界に発信できるようにしました。当初から企画のコンセプトでもあります。
 

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━━━脚本も手がけた初監督作品を、ご自身ではどう評価されますか?
僕が他の方の初監督作品を観る時、その監督の二本目を観たくなるかどうかが、とても重要だと思っています。その部分はクリアできているのではないかと判断しています。ワールドプレミア上映されたマラケッシュ映画祭での反応が自信になりました。
 
━━━茅ヶ崎館で撮影しているので、三澤監督は小津安二郎監督のことを敬愛しているのではと思ってしまうのですが、実際一番好きな監督は?
小津監督はもちろん素晴らしい監督だと思いますが、正直に言えば、一番好きなのはウディ・アレンです。軽妙さが好きで、ウディ・アレンの『アニー・ホール』とデヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』を観て映画を撮りたいと思いました。
 
━━━なるほど、男と女の会話の妙などは、ウディ・アレンを思わせます。是非三澤監督には「和製ウディ・アレン」の路線で頑張ってほしいです。次回作はどんな作品を考えていますか?
次回作は神保町を舞台に撮りたいと思っています。都会を描くとなると、頭の片隅にはウディ・アレンの『マンハッタン』が浮かんでいますが。古書店の街なので、本で語ることと、映画で語ることを重ねたいのと、東京オリンピックが近づいてくるので、東京という街をきちんと撮りたいと考えています。本作よりも社会に批評性があることをやりたいですね。
 

<作品紹介>
『3泊4日、5時の鐘』
(2014年 日本 1時間29分)
監督:三澤拓哉 
出演:小篠恵奈、杉野希妃、堀夏子、福島珠理、中崎敏、二階堂智、栁俊太郎
2015年秋、シネ・ヌーヴォ、元町映画館他全国順次公開
「杉野希妃に続く、女優兼プロデューサーを目指して!『3泊4日、5時の鐘』でスクリーンデビューの新星・福島珠理さんインタビュー」はコチラ
 
<ストーリー>
花梨(小篠恵奈)と真紀(杉野希妃)は休暇を取り、茅ヶ崎の老舗旅館・茅ヶ崎館に訪れる。元同僚で同館の長女でもある理沙(堀夏子)の結婚パーティーに出席するのが目的だったが、花梨は茅ヶ崎館でバイトする大学生、知春(中崎敏)にちょっかいを出す一方、生真面目な性格の真紀とは衝突してばかり。花梨のせいで予定を狂わされ、腹ただしさを隠せなかった真紀だが、大学時代のゼミの教授、近藤(二階堂智)と偶然再会し、気分が高まっていく。近藤ゼミのゼミ長を務める彩子(福島珠理)は、同じゼミの知春に思いを寄せる一方、仲良さそうにしている花梨のことが気にかかって仕方がない。理沙の弟の宏太(栁俊太郎)も加わった男女7人の関係が、次第に絡まりあっていくのだったが・・・。
 

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第二の杉野希妃を目指し、新人女優の福島珠理さんが、三澤拓哉監督のデビュー作『3泊4日、5時の鐘』で、スクリーンデビューを果たした。大学在学中に杉野のことを新聞記事で知り、『3泊4日、5時の鐘』のオーディションに応募したという福島さんは、撮影中も女優だけでなく、アシスタントプロデューサーを兼任し、プロデュース業に魅力を感じたという。この4月からは東京藝術大学大学院映像研究科に入学し、プロデュースについて学ぶ一方、杉野らが立ち上げた映画製作・配給会社、和エンタテインメントに所属し、映画プロデュースの現場で体験を積んでいる。
 
タカラジェンヌを目指して高校時代から演劇を勉強し、受験を重ねただけあり、宝塚歌劇団の娘役を思わせる清楚な佇まいが非常に印象的な福島さん。『3泊4日、5時の鐘』では、茅ヶ崎館でバイトする大学生、知春(中崎敏)に密かな恋心をいだく、ゼミ長の原彩子を堂々と演じ、凛とした存在感を見せている。日本初上映となった大阪アジアン映画祭でゲストとして来阪した福島さんに、女優だけでなく、プロデュースに興味を持った理由や、これから目指したい映画作りについてお話を伺った。
 

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■自分でやりたいことを企画、主演、プロデュースしていく杉野さんの姿勢がとても新鮮で、惹きつけられた。

―――杉野希妃さんに憧れていたそうですが、オーディションが初対面だったのですか?
はい、そうです。新聞の記事で、杉野希妃さんのことを知り、『ほとりの朔子』を観に行きました。今までは好きな俳優が出ているから、原作を読んだからという感じで観る作品を選んでいたのですが、杉野さんがきっかけで『ほとりの朔子』を観て、映画は色々あるのだと感じました。自然な時間軸の中で、どこにでもいるような普通の人たちの、当たり前の日常を切り取っています。押しつけがましくなく、観る者が自由に感じる余白があり、映画の受け取り方が変わった作品でした。
 
―――なるほど、そこで杉野さんプロデュースの映画に興味を持たれたのですね。今回デビュー作となった『3泊4日、5時の鐘』はどんなオーディションでしたか?
他の皆さんは、俳優のオーディション用の履歴書を持ってきていたのですが、私はコンビニで買ってきた普通の履歴書で、その時点で「間違ったところに来てしまったかもしれない」と思いました。でも面接では、どうして映画に興味を持ったのかという質問や、宝塚歌劇団に入団したかったと書いていたので、杉野さんに「宝塚に入りたかったの?」と聞かれ、緊張がほぐれました。杉野さんの、演じるだけではなく、自分でやりたいことを企画し、主演し、プロデュースしていく姿勢がとても新鮮で、惹きつけられるものがありました。
 
―――演劇と映画では演技の質が違いますか?
演劇は自分が思っているよりオーバーに演じることで、新しいものが生まれ、そこに面白さを見いだして授業を受けていました。今回は映画で、自然に演じることは初めてだったので、ちょっと難しかったです。
 
 

■その場に入るだけで雰囲気が変わり、全体の流れがまとまる堀夏子さんの演技を参考に。

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―――役を演じるにあたって、三澤監督からどんな演出をされましたか?
三澤監督はオーディションでも私を推薦してくださったのですが、原彩子という役と私がどちらかといえば近い存在で、自然に演じられると考えてくださったようです。演出も、役者に委ねる感じにしてくださいました。私が演じる彩子は知春を一途に思うのですが、お互い不器用なのですれ違ってしまいます。その感じを表現するのが、難しい面もありました。
 
―――まさに純愛といった感じですね。この作品は、台詞では表せない感情を、台詞と台詞の間を使ってうまく表現していたと思いますが、台詞のない場面での演技はいかがでしたか?
何もしていないときに、知春のことをどう思っているかを視線で表現するのは、一番演じる際に考えたところでした。今回共演した堀夏子さんの演技は、とても参考になりました。堀さんがその場に入ることで雰囲気が変わりますし、全体の流れがまとまります。すごく自然にお芝居されていましし、本読みの時点から既に役に入り込んでいらっしゃり、印象的でした。
 
―――杉野希妃さんと、撮影中にプロデュース業についてお話されましたか?
杉野さんとは役の上でもゼミの先輩・後輩という間柄だったので、待ち時間も私は後輩のようにお話させていただきました。「女優だから裏のことをやらないというスタイルである必要はない。女優でも、こうした方がいいのではという意見はハッキリ言った方がいい」というお話をされていました。杉野さんは、映画がどうすれば良くなるかを考え、演じるだけでなく、映画製作をどう支えていくかをいつも考えていらっしゃる方なので、刺激になりました。
 
 

■受け身ではなく、意見を出し合うことで、映画が良くなることを実感。

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―――女優もアシスタントプロデューサーも初体験で、大変でしたか?
最初はリハーサル室を押さえて、役者の皆さんへの連絡を担当し、メール一つ出すのにも緊張していました。初めてのことばかりで、大変ではありましたが、映画に関わりたいという気持ちをずっと持っていたので、その”初めて”を楽しめました。
 
―――実際にできあがった作品をご覧になった感想は?
自分自身の演技は本当にまだまだですが、私自身が欠点と思っている部分を、三澤監督は、逆に私の味として出してくださいました。感謝しています。短期間でタイトな撮影でしたが、こういう作品になるなんてと驚きました。音を入れたり、映像のトーンを変える編集の段階でも、皆で意見を出し合いましたし、それらが一つになって完成することも初めて体験しました。受け身ではなく、意見を出し合うことで、映画が良くなっていくことを実感しています。
 
 

■大学院でプロデュースを2年間勉強。海外合作だけでなく、国内での展開を模索していきたい。

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―――杉野さんがプロデュースする作品は、国籍関係なく、考える余地を与えてくれる開かれた映画だと感じているのですが、福島さんは今後どんな映画を作りたいですか。
杉野さんのお仕事をみていると、国際的なものにも興味が出てきました。どうしても日本の映画は限られた商業映画だけで回っていると感じることが多かったので、もう少し海外の方の価値観を取り入れることで、開かれた映画になると思います。海外合作にも挑戦していきたいですね。
 
―――4月からは学生として学びながら、女優業、プロデュース業と、まさに第二の杉野希妃への道を歩むことになりますね。
東京芸術大学大学院映像研究科プロデュース専攻に入学し、プロデュースを2年間勉強する予定です。海外での合作の仕方や展開も学びますが、やはり国内でどのように展開していくかに一番ポイントを置き、模索していきたいと思います。プロデュースをすることで、女優としても成長できますし、映画についてもっと知るきっかけにもなりますので、両方の活動を行っていきたいと思います。
 
 

■日本古来からの美意識を大切にし、立ち振る舞いの美しい女優に。

―――これからどんな女優やプロデューサーになりたいですか?
『3泊4日、5時の鐘』出演にあたり、小津安二郎監督の作品など、古い日本映画を見たことで、日本の良さを改めて実感しましました。今後は、日本の良さを改めて感じていただける作品をプロデュースしていきたいですし、私も日本古来からの美意識を大切にし、立ち振る舞いの美しい女優になりたいです。海外合作にすることで、また違った日本の良さも浮かび上がってくると思います。そういう違った視点も取り入れながら、映画を通して皆さんに伝えていきたいです。
 

<作品紹介>
『3泊4日、5時の鐘』
(2014年 日本 1時間29分)
監督:三澤拓哉 
出演:小篠恵奈、杉野希妃、堀夏子、福島珠理、中崎敏、二階堂智、栁俊太郎
2015年秋、シネ・ヌーヴォ、元町映画館他全国順次公開
第5回北京国際映画祭注目未来部門、最優秀脚本賞受賞作
「茅ヶ崎を舞台に、女たちのリアルなセリフがこだまする青春群像劇~『3泊4日、5時の鐘』三澤拓哉監督インタビュー」はコチラ
 
<ストーリー>
花梨(小篠恵奈)と真紀(杉野希妃)は休暇を取り、茅ヶ崎の老舗旅館・茅ヶ崎館に訪れる。元同僚で同館の長女でもある理沙(堀夏子)の結婚パーティーに出席するのが目的だったが、花梨は茅ヶ崎館でバイトする大学生、知春(中崎敏)にちょっかいを出す一方、生真面目な性格の真紀とは衝突してばかり。花梨のせいで予定を狂わされ、腹ただしさを隠せなかった真紀だが、大学時代のゼミの教授、近藤(二階堂智)と偶然再会し、気分が高まっていく。近藤ゼミのゼミ長を務める彩子(福島珠理)は、同じゼミの知春に思いを寄せる一方、仲良さそうにしている花梨のことが気にかかって仕方がない。理沙の弟の宏太(栁俊太郎)も加わった男女7人の関係が、次第に絡まりあっていくのだったが・・・。
 
 

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戸田恵梨香「幅広い女性に共感いただける映画」、大泉洋は「離婚したい人の後押しに」で大爆笑『駈込み女と駆出し男』舞台挨拶@大阪ステーションシティシネマ(2015.4.24)
登壇者:原田眞人監督、大泉洋、戸田恵梨香
 

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今より2倍もの離婚があったという江戸時代に、離婚を望む女たちが駈込む寺があった。政府公認の縁切り寺を舞台に繰り広げられる、新しい人生を夢見る女たちとそうはおかない男たちの運命は?井上ひさし原作の『東慶寺花だより』を『わが母の記』の原田眞人監督が映画化。原田監督が俳優として出演した『ラスト サムライ』の舞台にもなった姫路・円教寺の厳粛な佇まいや、日本の四季を織り交ぜながら、ユーモアや艶っぽさのある人情時代劇に仕立て上げた。
 
大阪ステーションシネマで行われた先行上映会の舞台挨拶には、原田眞人監督をはじめ、
主役の戯作者志望医者見習い・信次郎を演じた大泉洋と、鉄ねりのじょごを演じた戸田恵梨香が登壇。姿を現した途端、会場からは「洋ちゃん」コールが巻き起こる人気ぶりで、最初から会場に熱気があふれた。最後まで笑いっぱなしだった舞台挨拶の模様をご紹介したい。
 

 
<最初のご挨拶>

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大泉:こんにちは。大阪の皆さんのじわじわと盛り上がってくる感じがいいじゃないですか。ありがとうございます。まず皆さんに観ていただいて、大いに宣伝していただければと思います。この後、アホみたいにしゃべろうと思っていますので、どうぞ楽しんでいってください。
 
戸田:この作品は幅広い女性たちに共感していただける作品だと思います。きっと男性は「こんなことをしてはいけないんだな」とか「女性にはこうした方がいいんだな」ということが分かるし、もう少し女性が(一人で)立っていけるような時代になればいいなとこの作品を観て思いました。楽しんでいただければと思います。
 
原田監督:素晴らしいキャストとスタッフに恵まれて、初めての時代劇を本当に思い存分撮ることができました。主役の大泉さんと戸田さんに感謝、感謝です。今日は皆さんに十分に楽しんでいただきたいと思います。
 
 

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―――初めての時代劇ですか?
原田監督:出演する方では12年前に『ラスト サムライ』で悪役を演じましたが、姫路の円教寺と巡り合い、今回、東慶寺のメインの舞台として使わせていただいています。
 
―――関西を中心に撮影されたそうですね。
大泉:京都、滋賀、奈良のあたりですね。京都で撮ると聞いていたので、京都のホテルに詰めていたのですが、京都と言ってもほとんど滋賀か奈良でしたね。毎日毎日ものすごい移動でした。
 
原田監督:伸次郎の出番は奈良が多かったですね。奈良の柳生街道を歩いてもらったり。
 
大泉:あの山の中ですか?寒くて、寒くてね。京都の松竹撮影所でカツラを被って、そこから車で移動すると、だんだんズレてくるんですよ。また直さなくてはいけなくて。
 
戸田:ホテル変えてほしかったですね。
 
―――戸田さんは兵庫のご出身ですが、姫路の円教寺の撮影はいかがでしたか?
戸田:行ったことがあるかもしれませんが、記憶になくて。でも神戸にこんな素晴らしいところがあるんだと、誇らしい気持ちになりました。
 

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―――原田監督は今回大泉さんとお仕事をするのは初めてだったそうですが、実際に仕事をしてみていかがでしたか?

原田監督:今日はサービス精神が旺盛ですが、すごく真面目で天才的な俳優、芝居はすごいです。僕が彼を初めて観たとき(舞台『ドレッサー』)、楽屋へ行って、時代劇の主役を是非してほしいと伝えて、脚本を送ったのです。

大泉:びっくりしましたね。観に来ていただいてすぐに、脚本と主演のオファーをいただいたので、「私で大丈夫かしら」と。ワクワクするような江戸時代の活気に溢れた脚本で、アホみたいな長ゼリフがあって、よほど断ろうかと思いましたが(笑)。やってみると楽しくて。
 
原田監督:全てが絵になって。大泉さんの場合、NGを出すとそれが絵になって、脚本よりも良くなるんですよ。
 
大泉:それを言うと、どこがNGか分かるじゃないですか!NGを使うんですよ、この人(会場大爆笑)。堤真一さんに「(原田)監督はNG使うからな。気を付けた方がいいよ」と言われていたのですが、バッチリ使われました。ですから、どこかな?と楽しみながら観ていただければ。
 
―――戸田さんとも初めてだそうですが、原田監督から見てどんな女優さんですか?
原田監督:今回は二人の全く性格も育ちも違うヒロインがいます。もう一人の満島ひかりの方はコテコテに作っているのですが、戸田さんの場合はそのまんまの自然児で出てねとお願いしました。戸田さんは舞台『寿歌(ほぎうた)』の演技が素晴らしかった。その時の堤真一、橋本じゅんと全員が本作に出演しています。撮影している最中に、すごい目力だなと思いました。彼女の見た目で作品を作っていけるなという感覚が、途中からどんどん出てきましたね。
 
―――撮影中辛いことはなかったですか?
戸田:いやあ、寒さとの闘いでしたね。2月から4月まで撮影させてもらいましたが、着物で、しかも素足だったので、素足で冬を過ごすのは辛かったです。
 
<最後のご挨拶>

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原田監督:僕自身映画を作っていく中で、逆境を生き抜くという、辛い思いや悲しい思いをした人が生きていくドラマにすごく惹かれます。時代劇の場合は、女性は生きているだけで虐げられていた部分があります。今回大泉さんが演じる主人公は戯作者見習いとして弾圧されており、今の時代とどこか通じるところがあります。戸田さんや満島さんが演じた役も、駈込み女は本当に辛い思いをしながら、いかに自分の道を開くために努力し、女たちの連帯でそれを勝ち取っていくという話です。ですから、今を闘う女性たちや、家庭で虐げられた男性たちに共通する部分があると思います。この映画を観た後清々しい気持ちになって劇場を出て、それが自分の生きていく明日につながるような作品になってくれればと思います。是非、応援してください。
 
戸田:今日は久しぶりに家族や親せきが見に来ていて、ずっとソワソワしています。久しぶりに照れくさいなと思ってこの場に立っているのですが、時代劇といえば堅いなとか難しいというイメージがあるかもしれません。そうではなくて、もっと新しい時代劇になっていますし、楽しんでいただけると思います。今日はありがとうございました。
 
大泉:そうですか・・・。戸田さんのご家族がいると思うと、少し緊張してまいりました。おかしなことを言えないなと(会場笑)。私は大阪のことが大好きでして、今日も大阪のテレビにいっぱい出ました。「ミヤネ屋」にも出まして、「何回くるねん」と言われました。前回は1分でしたが、今回はビシッと40分も出ました。離婚特集で、夫婦離婚度チェックもやらされ、結局妻への不満を書く羽目になりましたが、宮根さんも、かなり気に入ってくださいました。先ほどは戸田さんと「マルコポロリ」に出て、ポロリバスにここまで送ってもらいました。このように、大阪では何でも出たいと頑張っております。
 
本当に見どころ満載の映画となっておりまして、今まさに、会場の中に家庭が上手くいっていない方、離婚したい方が多いでしょう(会場大爆笑)。そんな方のちょっとした後押しになればと思っております。どんどんみなさん離婚していただいて、新しい人生を目指していただければと思います。この映画を観て、たくさん宣伝してください。今日はみなさん、ありがとうございました!ありがとう!また会おう!僕のNGシーンを観て、ここだ、ここだと言わないように!
(江口由美)

 
<作品情報>

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『駈込み女と駆出し男』
(2015年 日本 2時間23分)
監督:原田眞人 
原作:井上ひさし『東慶寺花だより』新潮文庫刊
出演:大泉洋、戸田恵梨香、満島ひかり、樹木希林、山崎努、堤真一、武田真治、キムラ緑子、内山理名、陽月華他
2015年5月16日(土)~丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、OSシネマズ神戸ハーバーランド、MOVIXあまがさき、TOHOシネマズ西宮OS、MOVIX京都他全国ロードショー
公式サイト⇒http://kakekomi-movie.jp/
(C) 2015「駆込み女と駆出し男」製作委員会
 
<ストーリー>
江戸時代、縁切り寺として名高い東慶寺には、様々な事情で離縁を求める女たちが、駆け込んでくる。顔に火ぶくれを持つじょご(戸田恵梨香)や、堀切屋(堤真一)の囲われ女だったお吟(満島ひかり)は、聞き取りをする柏屋で戯作者志望の医者見習い・信次郎(大泉洋)に出会う。信次郎は、さまざまなトラブルに巻き込まれながら、訳あり女たちの人生の再出発を後押ししていくのだったが・・・。
 
 

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「めっちゃ面白いから、見てな!」永作博美が関西弁でアピール~『夫婦フーフー日記』舞台挨拶
@大阪ステーションシティシネマ(2015.4.21)
登壇者:佐々木蔵之介、永作博美
 

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17年間友だち、1年ちょっと夫婦、そして9ヶ月だけ母親だった病死のヨメが、突然現れる!?闘病ブログから生まれた清水浩司の「がんフーフー日記」(小学館刊)を、『婚前特急』の前田弘二監督が映画化。死んだはずのヨメが現れ、残されたダンナと夫婦の軌跡を振り返る設定にし、ブログでは書かれなかった夫婦の想いが溢れる、ファンタスティックかつコミカルな感動物語が誕生した。
 
 

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ヨメ亡き後、息子・ペーの子育てと仕事に一人奮闘するダンナ演じる佐々木蔵之介と、妊娠後に発覚した悪性腫瘍と闘いながら、最後まで明るく前向きに生きたヨメ演じる永作博美の掛け合いもピッタリ、アラフォー夫婦ならではの新婚なのにしっくりくる感じがいい。幻影として現れたヨメと、二人の出会いから結婚、出産までを見つめなおす過程は、思わぬ真実が明らかになったり、言えなかった想いが溢れてくる。
 
 

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そばにいるパートナーを大事にしたくなる『夫婦フーフー日記』の先行上映舞台挨拶が大阪ステーションシティシネマで行われ、ダンナ・コウタ役の佐々木蔵之介とヨメ・ユウコ役の永作博美の“フーフー”が揃って登壇。関西出身の佐々木は「大阪の観客は反応がすごく早いので、舞台をするのが楽しい。これだけ払ったから、元をとってやろうと思っているので、楽しい反面シビアだなと思う」と早速観客から笑いを誘うと、2月に大阪で舞台を行ったばかりの永作は「みんなで楽しもうと来てくださっていることが分かるので、安心してお芝居や映画を紹介できる。私もお客さんと交流できて、うれしい」と笑顔で応えた。

大阪つながりで、グルメの話題になると、突然佐々木から「IKY食べた?」と振られ、永作がキョトンとする場面も。大阪名物いか焼き(IKY)のことだと分かると、永作は「いか焼きも、たこ焼きも食べましたね。ごちそうさまでした!」と粉ものグルメを楽しんだことを明かした。

 
 
 

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闘病ブログから生まれた本作については、「闘病ブログだが、割と楽しく話が進み、落ち込むのではなく、落ちたりあがったりしながら、どんどん続いていく。日常を生きていくことを頑張ろうと思える映画」(佐々木)、「脚本を見て、泣きながら笑っていた。過去の自分に、自分たちがツッコむのも新しいし、感情のひだがたくさん隠れている」(永作)と、涙あり、笑いありの物語について語った。
 
 
 
 
 
 
 

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10年前にも夫婦役で共演したという佐々木と永作は、今回の撮影では打合せもせずに、ぶっつけ本番でお互い相手の出方を楽しんだことを明かし、佐々木は「はたから見ればどうでもいいことを、二人で一生懸命話していたところも見てもらえれば」と、長年友達として共に生きてきたコウタとユウコの絶妙な掛け合いの舞台裏話を披露。
 
一方、見どころを聞かれた永作は、「二人とも20歳から演じている。撮影当日は(佐々木を)直視しないようにし、私も鏡を見ないようにした。若い時から、最後までやりきった」と夫婦の長年の歴史を演じ抜いたことを挙げ、「めっちゃ面白いから、みてな!」と観客にアピールし、会場から大きな拍手が沸き起こった。
 
 

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最後に、「闘病日記だが、それぞれがしんどい時でも、人を思い合う気持ちが入っている作品。明日からがんばろうという気持ちになってくれたらうれしい」(永作)、「とても希望にあふれた映画。周りの人、家族、パートナーを大事にし、今を大切に生きようと思える、本当に力が湧いてくる映画」(佐々木)と挨拶し、舞台挨拶を締めくくった。
 
 
大きな目をくるくる動かし、身振り手振りを交えて関西弁で大阪ステーションシティシネマのビル屋上の話をする佐々木と、落ち着いた声で、「絶対に楽しめる」と自信をもって作品のことを語る永作を見ていると、本当にコウタ・ユウコ夫妻が目の前にいるようで清々しい気持ちになった。映画ならではの仕掛けで涙あり、笑いありの夫婦の日々は、大事な人を失って、それでも前に進む勇気を教えてくれることだろう。(江口由美)
 
 
 

 
<作品情報>
『夫婦フーフー日記』(2014年 日本 1時間37分)
監督:前田弘二 
脚本:林民夫・前田弘二
原作:川崎フーフ「がんフーフー日記」(小学館刊) 
出演:佐々木蔵之介 永作博美 佐藤仁美 高橋周平 / 並樹史朗 梅沢昌代 大石吾朗 吉本選江 宇野祥平 小市慢太郎 / 杉本哲太
5月30日(土)より 大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、T・ジョイ京都、OSシネマズミント神戸ほか全国公開
公式サイト:fu-fu-nikki.com  
(C)2015川崎フーフ・小学館/「夫婦フーフー日記」製作委員会
 
<ストーリー>

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作家志望のダンナ・コウタ(佐々木蔵之介)は、本好きなヨメ・ユウコ(永作博美)と出会って17年目にしてついに結婚。だが幸せだったのは束の間で、妊娠とガンが発覚し、新婚生活はあっという間に闘病生活へ変わった。ヨメの病状を報告するブログを書き続けたダンナだが、入籍からわずか493日後、ヨメは息を引き取る。悲しみに暮れるダンナにブログ書籍化の話が舞い込み、念願の作家デビューへまい進するかに見えたダンナの前に、なんと死んだはずのヨメが現れて・・・。
 

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『百日紅~Miss HOKUSAI~』公開記念 原恵一監督トークショーレポート
@大阪ロフトプラスワンウエスト
 
【出演】原恵一(『百日紅~Miss HOKUSAI~』監督)
【司会】ミルクマン斉藤
 
『映画クレヨンしんちゃん』シリーズ、『河童とクゥの夏休み』などのアニメーション作品から、『はじまりのみち』では初実写映画に挑戦した原恵一監督が、最新作『百日紅~Miss HOKUSAI~』の公開に先駆けて、4月21日大阪ロフトプラスワンウエストに初登場。公開記念トークショーが開催された。
 
原恵一監督自身が敬愛してやまない杉浦日向子の「百日紅」を初の長篇映画化した本作。浮世絵師・葛飾北斎の娘で、父と二人暮らしをしながら浮世絵師として絵を描き続けるお栄を主人公に江戸の浮世を四季と絡めて描く、爽快な浮世エンターテイメントだ。トークショーでは、『百日紅~Miss HOKUSAI~』メイキングの特別映像や、絵コンテ、7分間の本編ダイジェストなどを交えながら、司会のミルクマン斎藤さんと撮影秘話や、実写との違いなど様々な角度のトークを繰り広げた原恵一監督。後半は観客からの質問にNGなしで次々答え、原監督の映画愛にも触れることができ、大いに盛り上がった。多彩なトークの内容をご紹介したい。
 

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■『百日紅』映画化のきっかけについて

杉浦さん原作をいつかは撮りたいと思っていたが、杉浦さんの作品は完成度が高いので、杉浦さんの原作を映像として生かす自信がなかった。『カラフル』の後、なかなか仕事が決まらなかったとき、最初にProductionIGへ杉浦さんの『合葬』を撮る企画を持参したところ、「杉浦さん作品なら『百日紅』の企画を進めたことがある」と言われた。後日呼ばれていったら、ProductionIGの石川さんから「『百日紅』を、この予算で、90分以内で作らないか?」と目の前で言われ、即OKした。90分は僕にとっては短いが、だからといって90分で作るのが無理とは言いたくなかった。

―――『百日紅』映画化で難しかった点は?

杉浦さんの作品は大体短いものばかり。同じ登場人物でこれぐらいの長さの作品はない。どうやって1本の映画にするかが、最初のハードルだった。今回は原作至上主義。せりふも一字一句変えていない。ファンの方に見てもらって満足いただける作品。ただ原作は読み切りなので、主人公のお栄とお猶姉妹を横軸にして、縦軸に原作のエピソードを串刺しにした。ただ、原作との距離感が難しかった。別のことをすると、悪くなっているようにしか見えない。だからといって全部同じにすると単なるコピーになってしまう。

―――なかなか男前な話で、90分という尺がピタリと似合っています。
最近長いアニメばかり作っていたので、90分という尺のプレッシャーがあった。以前は『クレヨンしんちゃん』シリーズで90分ものを作っていたので、当時を思い出してやった。脚本も短めにし、脚本のここまでで、絵コンテが何分と計算もきちんとして、緻密につくりあげた。ワンカットの欠番も編集で出さずに収まったのは初めてで、自分を褒めてやりたい。ちなみに、『河童のくぅと夏休み』の時は本編が2時間20分、絵コンテで3時間あり、自分でもあきれた。
 

■キャラクター造詣について

―――お猶と子どもが雪遊びをするシーンが素晴らしかったです。
今まで他の超一流のアニメーターの方たちと接点がなかった。井上俊之さんは今回はじめて一緒に仕事をしたが、なぜアニメーションの現場で評価されているのか、一緒に仕事をさせてもらってよく分かった。押井守さんが「アニメ映画なんて井上さんが5人いればできる」と言ったが、本当にその通りだ。
 
―――お栄のキャラクター造詣について
原作だとお栄はあまり美人ではなく、それは史実の記録としても残っている(北斎が書いた絵から「アゴ」と呼ばれていた)。ただ今回は杉浦さんには申し訳ないけれど、お栄を主人公にしたかったので少し美形にしようと頼んだ。ただの美形にするのは面白くないので、眉を太くし、現在のデザインになった。
 

■声優陣について

お栄役の杏さんは絵コンテを書き始めた頃から最初に浮かんだ人。数年前、山田太一さん脚本のNHKドラマ『キルトの家』に出演していた杏さんが素敵で、そこから女優として意識するようになった。朝ドラで主演した『ごちそうさま』の頃、これからもっと売れるはずだからと、プロデューサーにとにかく早くオファーするよう頼んだ。杏さんも杉浦さんファン。杉浦さんの本を読んでいるのではと思ってはいたが、実際にそうだった。快諾してもらえてよかった。
 
松重豊さんも山田太一さん脚本のドラマ『ありふれた奇跡』で孤独なグルメの語りをしていたのを聞き、この声は北斎にピッタリだと思ってオファーした。池田善次郎役の浜田岳さんは、『はじまりのみち』のときの彼の演技力がすごかったので、マネージャーに、「アニメはありか?」と話はしていた。「まだやったことはないけれど、全然ありですよ」と。歌川国直は高良健吾さん。花魁小夜衣役の麻生久美子さんはとにかく大好きで、絶対やってもらおうと思った。花魁の麻生さんは素敵。見ただけでとろけそうになる。
 

■北斎とお栄について

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百日紅がタイトルにはなっているが、原作で全くでてこない。単行本によると、百日紅は「もりもりと咲き、わさわさと散る。100日間咲き続けた」というところが北斎を象徴している。北斎の展覧会では、あきれるぐらいの量があり、春画がやたら多い。失われているものもたくさんあるはずなのに、これだけ作品が残っている。
 
―――テンポ感があってクールな映画になりましたね。
凝縮感のある映画になった。お栄は死ぬまで北斎と一緒に暮らしていた。絵師に嫁いだが、旦那の絵が下手くそなので、書いた絵を「下手くそ」と言い、不仲になって別れたそうだ。
北斎は90歳まで生きたが、当時の90歳は今とは違う。ある程度の年齢以降の北斎の絵はお栄が絡んでいるのではないか。北斎の署名でもお栄が書いたというのが、専門家たちの通説。実際、北斎もお栄のことを「女を書かせたら、俺より上手い」と言っている。
 

■実写とアニメの違いについて

『はじまりのみち』の時は、スタッフとキャストに恵まれ、監督のOKでシーンが完成するというスピード感を経験した。久々にアニメーションで絵コンテを書き始めたとき、なぜこんなに白い紙が積まれているのかと絶望的な気分になった。
 
実写は瞬発力、その場の判断が要求されるが、思った以上だった。何か言われたらすぐに判断するようにしていた。ただ天気の問題がある。また、実写は毎日朝5時起きだったが、早起きは苦手なので大変だった。
 

■好きな監督、影響を受けたアニメについて

木下惠介監督はぼくにとって最高の監督。黒澤明監督と、何かと比較されていた時代があったが今の若い人は全然知らない。黒澤監督の映画すら観ていないことに憤りを感じる。せめて『七人の侍』と『二十四の瞳』は観ておくべき。影響を受けたアニメは、長谷川町子さん、天才だと思う。原作をちゃんと読んだ方がいい。
 

■アニメ業界を志した理由について

なんとなくです。アニメもマンガも好きだったが、仕事にしようとは思っていなかった。親が映画好きだったので、映画は観ていた。美術系の大学に行きたいと思ったが、勉強もできないし、どこも入れないので、本屋で専門学校の本をみていると、アニメーションという言葉が目に飛び込んできたのがきっかけ。当時は、アニメマニアが出始めた頃だった。アニメーションの学校に行き、そこでスタッフやアニメーターの名前がどんどんでてくるようなオタクに初めて出会った。僕の中では『風の谷のナウシカ』が一番。あの世代の人たちがいたから日本のアニメが世界で評価されているようになった。宮崎チルドレンが実写映画で活躍している。
 

■原監督が描く「日常性」の原点について

昔から日常性を描くジャンルの作品が好き。サザエさんや、藤子・F.・不二雄さんなど、平凡な主人公の日常に異質なものが入ってくる。でも日常からでることはない。そういうものが好きだった。設定自体がSFはあまり興味がない。クレヨンしんちゃんを手掛けて、普通の日常を描くことはすごく面白いと思うようになった。
(江口由美)
 

 【ストーリー】
百日紅(さるすべり)の花が咲く――お栄と北斎、仲間達のにぎやかな日々がはじまる。浮世絵師・お栄は、父であり師匠でもある葛飾北斎とともに絵を描いて暮らしている。雑然とした家に集う善次郎や国直と騒いだり、犬と寝転んだり、離れて暮らす妹・お猶と出かけたりしながら絵師としての人生を謳歌している。今日も江戸では、両国橋や吉原、火事、妖怪騒ぎ、など喜怒哀楽に満ちあふれている。
恋に不器用なお栄は、絵に色気がないと言われ落ちこむが、絵を描くことはあきらめない。そして、百日紅が咲く季節が再びやってくる、嵐の予感とともに……。江戸の四季を通して自由闊達に生きる人々を描く、浮世エンターテインメント! 時を超えて現代へ紡がれる人生讃歌の傑作が誕生しました。
 
 『百日紅(さるすべり)~Miss HOKUSAI~』
監督:原恵一(『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』、『河童のクゥと夏休み』、『カラフル』)
原作:杉浦日向子「百日紅」
出演:杏、松重豊、濱田岳、高良健吾、美保純、清水詩音、麻生久美子、筒井道隆、立川談春、入野自由、矢島晶子、藤原啓治
制作:Production I.G 配給:東京テアトル
(c)2014-2015杉浦日向子・MS.HS/「百日紅」製作委員会 
2015年5月9日(土)~TOHOシネマズ日本橋、テアトル新宿ほか全国ロードショー
 

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