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茅ヶ崎を舞台に、女たちのリアルなセリフがこだまする青春群像劇~『3泊4日、5時の鐘』三澤拓哉監督インタビュー


~茅ヶ崎の日常と非日常が交差する、ひと夏の物語~

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日本を代表する名匠小津安二郎監督が『晩春』、『東京物語』などの脚本を執筆した定宿・茅ヶ崎館をスクリーンで観ることができるとはうれしいサプライズだ。しかも、その古風な佇まいの茅ヶ崎館を中心として描かれる男女の物語は、驚くほどリアルで、ニヤリとさせられる。日本映画大学理論コースに在学中の三澤拓哉監督が、生まれ育った茅ヶ崎を舞台に撮りあげた長編デビュー作『3泊4日、5時の鐘』。茅ヶ崎の日常と非日常が交差するひと夏の物語を、さりげないユーモアと皮肉を交えながら、風情豊かに描いている。まさに、ちょっと大人の青春群像劇となっている。4月に北京で開催された第5回北京国際映画祭では見事注目未来部門、最優秀脚本賞を受賞。まさに世界がその才能を認めた必見作だ。
 
 

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本作ではエグゼクティブプロデューサーも務める国際派女優・杉野希妃をはじめ、『花宵道中』の演技も記憶に残る小篠恵奈、平田オリザ主宰の青年団で活躍している堀夏子、本作でスクリーンデビューを果たした新星、福島珠理と4人の女たちが、それぞれの魅力を存分に発揮。特に、杉野演じる計画主義の真紀と、小篠演じる自由奔放な会社の後輩、花梨との噛み合わない会話が随所に登場し、女たちの火花が散る様が絶妙のさじ加減で描かれ、思わず笑いがこみあげる。日本初公開となった大阪アジアン映画祭上映後のQ&Aでは、観客から「私は真紀のようにあまりにも一生懸命頑張っていた頃があったなと思うと、涙が出て・・・」といった声も上がり、自分に重ねて観ることもできる人物描写の細やかさと、台詞の妙がまさに本作の魅力と言えよう。
 
 
 
 
第44回ロッテルダム国際映画祭をはじめ、日本公開前から世界の映画祭で高い評価を得ている三澤拓哉監督に、茅ヶ崎を舞台にして作り上げた本作について、また初監督作を撮るに至った過程や、今後の展開についてお話を伺った。
 
 

 
 

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■「卒業までに一本監督作を撮ってみたら」と杉野さんから声をかけられ、チャンスだと思った。

━━━監督を目指したのは、何がきっかけとなったのですか?
元々はプロデューサー志望だったのですが、杉野希妃さんが深田晃司監督『ほとりの朔子』のクランクイン前に大学で講義をされたので、「手伝いたい」と申し出たところ、現場へ連れていって下さったのです。元々海外合作で映画を撮りたいと思っていました。杉野さんは、まさにその先駆けとして実践していらっしゃる方ですから、大学2年の夏からインターンという形で現場を体験しながら、色々勉強させていただきました。杉野さんの監督作『欲動』では、初めて演出部でセカンド助監督をさせていただいたのですが、役者さんたちの芝居を近い距離で見ることができ、すごく勉強になりました。 
 

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━━━学生時代に監督デビューとは、非常に貴重な体験ですね。
現在は日本映画大学理論コースでプロデュースの勉強をしているのですが、卒業まであと1年ぐらいのときに『ほとりの朔子』をプロデュースした杉野さんや和エンタテイメントの小野さんが「卒業までに1本監督作を撮ってみたら」と声をかけてくれたのです。将来的には監督をやりたい気持ちはありましたが、当時脚本を書くところまでは考えていませんでした。しかし、お話をいただいたときはチャンスだと思いました。『欲動』では、脚本会議にも参加し、脚本をブラッシュアップさせていく過程も見てきたので、その経験を活かして脚本を書いていきました。
 
━━━個人的には、ひと夏の出来事を描いている点で、大人版『ほとりの朔子』のようにも見えました。
『ほとりの朔子』でアシスタントプロデューサーをしていたので、上映時に行われた深田監督のQ&Aに何度か立ち合いました。また映画美学校で深田監督の講義付き上映もあり、それらがすごく勉強になったので、脚本を書く上で影響を受けていたのかもしれません。 杉野さんは生真面目な役が多い気がしたので、今回はそこが逆に見ていて笑えるようにしています。
 
 

■茅ヶ崎館が全面的に撮影を許可。小津監督はむしろあまり意識しないようにしていた。

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━━━当初から舞台を茅ヶ崎と想定していたのですか? 
僕の地元が湘南で、最初の監督作は地元に近い方が協力を仰ぎやすいのではないかという考えもありました。また、旅館を舞台にした話を想定していたところ、小野さんが茅ヶ崎館のことを教えてくれたのです。茅ヶ崎館の森館長は、茅ヶ崎映画祭の実行委員長で、私自身も面識があったので、映画の撮影で使いたい旨を伝えたところ、すぐに快諾のお返事をいただきました。最初は驚きのあまり「マジか」と思ったのですが、ここまで全面的に撮影を許可したのは初めてだと言われ、身の引き締まる思いがしましたね。 
 
━━━小津監督のように、茅ヶ崎館で執筆されたのですか? 
森館長からは、「(執筆)すれば?」と言われましたが、しませんでした。逆に集中できなくなる気がしたのです。 ポスターなど貼ってありますから、撮影中、小津監督を感じないわけにはいきませんでした。映画を観ていただくお客様も、小津監督は映画の神様と思っていらっしゃる方が多いので、そこに真っ向勝負することはしたくないという思いが最初からあり、むしろあまり意識しないようにしていました。
 
━━━茅ヶ崎館でアルバイトの知春が掃除をするシーンをかなりたっぷりとっていますが、これは茅ヶ崎館の雰囲気をじっくり味わってもらおうという趣旨ですか? 
そうですね。ブラシの音や畳をほうきで掃く音が面白いなと思った部分もあります。また、風呂場で水を撒いたり、ベッドのシーツを広げて整えたりする完全にコントロールできない自動的なシーンは、意識して取り入れました。後々物語で効いてくるイメージを散りばめた感じですね。 
 
 

■女たちのギスギスした関係を入れながら、茅ヶ崎の日常を描く。

━━━『3泊4日、5時の鐘』というタイトルが、とてもリズミカルでいいですね。
最初は『3泊4日』という案でしたが、検索にひっかからないと思い、試行錯誤していると、茅ヶ崎では基本的に夕方5時に鐘が鳴ることが頭に浮かんだのです。旅行者にとっては非日常の時間であり、住んでいる人にとっては日常的なものが組み合わさった時間ということで、「3泊4日」に「5時の鐘」を付け加えました。『3泊4日、5時の鐘』とすることで、旅行にやってきた女性たちのギスギスした関係を入れながら、茅ヶ崎の日常を描いている作品のことを言い表せているのではないかと思います。 
 

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━━━多くの女性たちが絡み合い、描写も本当にリアルで、滑稽でもありますが、人物設定や描写のポイントは?
最初に旅館でアルバイトをしている知春を主人公にすることは決めていました。そこに年上の女性がやってくるという設定にし、そこから、なぜその女性がやってくるかを考え、元同僚の結婚パーティーに出るという設定にしていきました。杉野さん演じる真紀は、計画主義の登場人物です。小篠恵奈さん演じる花梨は、真紀の職場の後輩であり、超自由人で知春を弄ぼうとします。そこに知春に密かな恋心を寄せる福島珠里さん演じる彩子が加わって、ドミノ倒しのように展開していきます。
 
人物描写については、揚げ足をとっているようにも見えますが、それをユーモアに展開させたいといつも思っています。こういう視点があれば、みんなが楽しく、生きやすくなるのではないでしょうか。
 

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━━━考古学のゼミ生に混じり、遺跡調査をしている真紀は、本当に楽しそうでしたね。
実際に僕が通っていた高校の建て替え時に多くの遺跡が発掘されたので、脚本を書くために改めて調べてみると、茅ヶ崎は本当に遺跡が多いことが分かりました。土器を接合する所も見せていただいて、脚本に取り入れました。杉野さん演じる真紀は、茅ヶ崎館でかつての自分の大学のゼミ合宿に遭遇し、完全に自分がゼミ生だった頃の過去にタイムスリップをしています。現在のゼミ生たちからすれば、遺跡調査まで参加した真紀に対し、なぜ彼女がここにいるのか不思議で、真紀との意識のずれがありますね。
 
━━━福島さん演じる原彩子は、どこか原節子と雰囲気が似ているような気もしましたが、キャラクター設定は意識的にされたのでしょうか?
原節子と原彩子は似ている気がしますが、あまり気にしないで書きました。福島さんがオーディションに来られた時は、立ち姿も綺麗でしたし、福島さんの無垢さや、ちょっと世間知らずな感じなところに魅力を感じて選びました。一生懸命だけれど、ちょっと浮いてしまっている異物感が、アクセントとして面白いなと思ったのです。
 
 

■ウディ・アレンの軽妙さが好き。次回作は東京・神保町を舞台に撮りたい。

━━━茅ヶ崎館を含め、茅ヶ崎の魅力が伝わってきました。すごくいい場所で、観ていると、私も行きたくなりました。
ご当地映画みたいに、その場所だけで終わってしまう作品にはしたくないという思いがあり、英語タイトルは『Chigasaki Story』と茅ヶ崎を世界に発信できるようにしました。当初から企画のコンセプトでもあります。
 

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━━━脚本も手がけた初監督作品を、ご自身ではどう評価されますか?
僕が他の方の初監督作品を観る時、その監督の二本目を観たくなるかどうかが、とても重要だと思っています。その部分はクリアできているのではないかと判断しています。ワールドプレミア上映されたマラケッシュ映画祭での反応が自信になりました。
 
━━━茅ヶ崎館で撮影しているので、三澤監督は小津安二郎監督のことを敬愛しているのではと思ってしまうのですが、実際一番好きな監督は?
小津監督はもちろん素晴らしい監督だと思いますが、正直に言えば、一番好きなのはウディ・アレンです。軽妙さが好きで、ウディ・アレンの『アニー・ホール』とデヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』を観て映画を撮りたいと思いました。
 
━━━なるほど、男と女の会話の妙などは、ウディ・アレンを思わせます。是非三澤監督には「和製ウディ・アレン」の路線で頑張ってほしいです。次回作はどんな作品を考えていますか?
次回作は神保町を舞台に撮りたいと思っています。都会を描くとなると、頭の片隅にはウディ・アレンの『マンハッタン』が浮かんでいますが。古書店の街なので、本で語ることと、映画で語ることを重ねたいのと、東京オリンピックが近づいてくるので、東京という街をきちんと撮りたいと考えています。本作よりも社会に批評性があることをやりたいですね。
 

<作品紹介>
『3泊4日、5時の鐘』
(2014年 日本 1時間29分)
監督:三澤拓哉 
出演:小篠恵奈、杉野希妃、堀夏子、福島珠理、中崎敏、二階堂智、栁俊太郎
2015年秋、シネ・ヌーヴォ、元町映画館他全国順次公開
「杉野希妃に続く、女優兼プロデューサーを目指して!『3泊4日、5時の鐘』でスクリーンデビューの新星・福島珠理さんインタビュー」はコチラ
 
<ストーリー>
花梨(小篠恵奈)と真紀(杉野希妃)は休暇を取り、茅ヶ崎の老舗旅館・茅ヶ崎館に訪れる。元同僚で同館の長女でもある理沙(堀夏子)の結婚パーティーに出席するのが目的だったが、花梨は茅ヶ崎館でバイトする大学生、知春(中崎敏)にちょっかいを出す一方、生真面目な性格の真紀とは衝突してばかり。花梨のせいで予定を狂わされ、腹ただしさを隠せなかった真紀だが、大学時代のゼミの教授、近藤(二階堂智)と偶然再会し、気分が高まっていく。近藤ゼミのゼミ長を務める彩子(福島珠理)は、同じゼミの知春に思いを寄せる一方、仲良さそうにしている花梨のことが気にかかって仕方がない。理沙の弟の宏太(栁俊太郎)も加わった男女7人の関係が、次第に絡まりあっていくのだったが・・・。