レポートインタビュー、記者会見、舞台挨拶、キャンペーンのレポートをお届けします。

2020年1月アーカイブ

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2020年1月29日(水)大阪ステーションシティシネマ

ゲスト:大泉 洋、小池栄子、成島出監督



抱腹絶倒!嘘から始まる恋の予感…

いつの世も強くて逞しいのは“女”!


2015年、太宰治の未完の小説「グッドバイ」をケラリーノ・サンドロヴィッチが仲村トオルと小池栄子主演で舞台化。その舞台を観た成島出監督は、戦後の混乱期をどんな状況下でも逞しく前向きに生きるちょっと変わった男と女の物語を映画化したのである。嘘つきで優柔不断なダメ男だが何故か女にモテる男・田島を大泉洋、お金に貪欲で大食いのキヌ子を舞台でも明るくパワフルに演じた小池栄子のダブル主演で贈る、抱腹絶倒のヒューマンコメディの登場です!


goodbye-550.jpg出版社の編集長・田島(大泉洋)は別れて暮らす妻子のため身辺整理をすべく愛人たちとの別れを決心する。だが、自ら別れを切り出せない田島が執った手段は、女たちが諦めて自ら身を引いてくれるような偽の美人妻を帯同して挨拶回りをすることだった。ところが、それほどの美人をようやく見つけたと思ったら、それがなんと日頃から闇市場で金銭絡みの喧嘩が絶えない汚い恰好の大食いキヌ子(小池栄子)だったのだ。田島は、キヌ子の真の美しさに驚きつつ、愛人一人一人に「グッドバイ」するための悪戦苦闘は続き、さらにとんでもない事態に陥ることになる。


goodbye-500-3.jpg愛人役に、緒川たまき、橋本愛、水川あさみ、本妻役に木村多江と、キヌ子役の小池栄子との対比も楽しい見所。ところが、がめついキヌ子でも金勘定では割り切れない意外な展開に大笑いしながらも、「人生、まんざら捨てたもんじゃない」などと勇気付けられるのも、大泉洋と小池栄子の絶妙のパワーバランスを、映画ならではの演出で魅了した成島出監督の手腕に拠るところも大きい。


2月14日(金)の公開を前に、大泉洋と小池栄子、成島出監督が来阪。『グッドバイ 嘘から始まる人生喜劇』の先行上映会の舞台挨拶に登壇した。“飛ばす”一方の大泉洋をうまくフォローする小池栄子。劇中の二人と同様の名コンビぶりで会場を大いに沸かせた。


以下はその詳細を紹介しています。(敬称略)



goodbye-bu-ooizumi-240-1 .jpg大泉:「優柔不断なくせに女にモテる男」と紹介されましたが、そんなにモテる感じではなかったです。どんな風に愛人たちとグッドバイしていくのか、お楽しみください。


――大阪の笑い、大阪のコメディについて?

大泉:大変緊張しております。大丈夫ですかね~さんまちゃんも鶴瓶さんも出てきませんが…ドタバタ喜劇ですが、成島監督の作品ですのでお芝居の面白さや展開の面白さでお楽しみ頂けると思います。

小池:それぞれの人との関わり方や、愛人たちにグッドバイしながら田島とキヌ子の関係性の変化をお楽しみ下さい。

成島監督:ドキドキしています。笑いの分野では、いつも大阪は怖いです。
 


goodbye-bu-koike-240-1.jpg――成島監督の演出で心に残っていることは?

小池:成島監督作『八日目の蝉』(2011)に出演させて頂いて、初めてお芝居の面白さを教えて頂きました。そして、「いつか主演で撮りたい」と言われてとても感動しました。そして、4年前の舞台『グッドバイ』を監督が観に来て下さって、この映画の主演に抜擢して下さったのです。

成島監督:小池栄子さんとの出会いは、私の監督人生にとっては宝物です。彼女は努力家で尊敬できる女優さん。舞台も観に行くたびに進化していって、一緒に仕事していてもとても刺激になるパートナーです。

大泉:台本もらった時より、監督の演出でどんどん面白くなっていくんです。例えば「舐めるようにお尻を見てくれ」とか、「恍惚の表情を浮かべてくれ」とか変態めいたような指導が多かった(笑)。

 

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成島監督:もっと色気を出したかったんです。舞台より映画の方がより生っぽい演技を求めていましたので、どうしても変態めいた方へ行ってしまったかも?(笑)

大泉:監督がそんなこと言うと、見出しに「成島出監督の新作は変態映画!」と書かれてしまいますよ!(笑)大丈夫かな~ただの変態に映ってないかな?

小池:大丈夫ですよ。とてもチャーミングで甘えん坊、女性が放っておけない男性像がよく出ていましたよ。
 


――映画のTV番宣も楽しみにしておられたようですが?

小池:大泉さんは、役者としても面白いし、トークも最高!「大泉さんとバラエティ番組に出たい!」と思ったら「共演するしかない!」ということで夢が叶いました。とにかくよく喋る、よく食べる、よく笑う、元気な人なんです。劇中の田島も、結構ひどい目に遭っているのですが、人としての力強さ、生きていく人間の野性味にあふれ、へこたれず前を向いて生きていくんです。


――プロモーションで小池さんとしたいことは?

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大泉:せっかく大阪にいるんだから、一度はNGKの舞台に立ちたい!(笑)笑いの殿堂ですからね、期間限定でそろそろ舞台を踏まないといけないかな・・・。栄子ちゃんとの共演は楽しいけどカロリーが上がる!お互い闘ってます。結構殴り合いしてますから、圧倒的に面白くなるに違いない!

小池:大泉さんは全然怒らないし、何でも受け止めて下さいます。

大泉:笑いのセンスが似ているのか、彼女は感動より笑いを優先してくれるんです。相当おもろい顔の写真でも、「こっち使いましょうよ」と言ってくれて、「女優さんなのにいいの?」ってなことに。彼女との共演はヘトヘトになるけど、変な充実感があり、俳優として感じるべきではない達成感があるんです。

小池:大泉さんとミニ番組をやりたいです。月イチでいいので(笑)


――二人のキャスティングは?

成島監督:パワーと笑いと人間力がキーワードの映画です。戦後復興の人間ドラマですので、「どんなに堕ちても、何をされてもOK!」と、常に前に進む笑いと生命力を同時に持たなければならない役ですので、それを持っているのはこの二人!この二人のお陰で幸せな現場でした。

小池:現場でにこやかな成島監督を見ながら、作品にもその幸福感が反映されると思いました。
 


(マスコミによる撮影を終えて、マイクを戻されて最後のご挨拶)

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大泉:マイクはずっと持っていたい。ずっと喋っていたい。喋ってないと死んでしまうんです(笑)

成島監督:作った僕が言うのも何ですが、中身何もない映画ですので、頭を空っぽにして観て頂きたい。

大泉:「中身何もない」はないでしょ!(笑)せっかく成島監督の作品に出て、中身何もないのですか?

小池:とてもチャーミングな映画なので、肩に力入れるより、それぐらいの気持ちで観て頂いた方がいいのかも知れませんね。どのシーンも美しく、美術も衣装もとてもこだわって作られていますからね。

大泉:今度は「大泉洋&小池栄子主演映画、中身は空っぽ!?」なんて見出しになっちゃう?(笑)始まったら、流れに乗ってどんどん展開していきます。そして、温かな気持ちになれる楽しくて素敵な映画です。多くの方にお勧め頂きたいです。よろしくお願い致します。
 



『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』

出演: 大泉洋、小池栄子、水川あさみ、橋本愛、緒川たまき、木村多江、皆川猿時 田中要次、池谷のぶえ、犬山イヌコ、水澤紳吾、戸田恵子・濱田岳、松重豊
監督: 成島出(『八日目の蝉』『ソロモンの偽証』)
脚本: 奥寺佐渡子  
原作: ケラリーノ・サンドロヴィッチ(太宰治「グッド・バイ」より)

配給:キノフィルムズ
(C)2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ

公式サイト⇒ http://good-bye-movie.jp/


2020年2月14日(金)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 他全国ロードショー


(河田 真喜子)

 

 

 
 
 
 
 
 

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2020年1月24日(金)大阪MBSにて

ゲスト:中井貴一(58)、佐々木蔵之介(52)、広末涼子(39)



中井貴一と佐々木蔵之介による口八丁手八丁のバディムービー第二弾!

京都を舞台に織部茶碗をめぐるコンゲームの顛末は?

 

かつて“黄金の日日”の繁栄を極めた大阪・堺を舞台に、騙し合い(コンゲーム)の火ぶたが切られた痛快コメディ『嘘八百』から、早2年。冴えない古物商・小池則夫(中井貴一)と才能はあるが不遇の陶芸家・野田佐輔(佐々木蔵之介)がタッグを組んで、千利休の形見「楽茶碗」を巡って、私利私欲に走る商人どもを仲間と共に騙し打ちにした。今度は京都へと舞台を移し、千利休の弟子のひとり古田織部の幻の茶器「黒織部はたかけ」を巡る騒動を描く、中井貴一と佐々木蔵之介によるバディムービー第二弾である。


uso800-550.jpg「ミッション・インポッシブル」よろしく、口八丁の小池と手八丁の野田のコンビを中心に、堺にある居酒屋「もぐら」をアジトにする騙しのプロ集団(そんなカッコええもんやおまへん、ただの酔っ払いのオッチャンたちです)や家族がワンチームとなって、強欲な悪人たちにひと泡くわせる作戦に出る。今回は二人を翻弄する謎の京美人に広末涼子が、敵役の有名古美術商の社長に加藤雅也が登場。国の名称・渉成園での大茶会に仕掛けられた騙しのテクニックとは?--お金に縁はないが、いざという時には嬉々としてチームワークを発揮する“嘘八百チーム”の活躍が実に心地いいコンゲームの始まりである。



1月31日(金)の公開を前に、主演の中井貴一と佐々木蔵之介、そして広末涼子がキャンペーンのため来阪。前作よりバージョンアップした『嘘八百 京町ロワイヤル』の魅力について語ってくれた。


uso800-s-500-1.jpg1月公演の舞台『風博士』の主役でも、見事な歌と活舌の利いたセリフ回しで芝居の醍醐味を示した中井貴一。年々その安定した存在感に磨きがかかるようで、今回も軽快なリーダーシップを発揮。TVドラマで脇役を演じていた若い頃から深みのある繊細な演技が印象的だった佐々木蔵之介。その佇まいだけ物語ることができる稀有な俳優のひとりだ。今回も口八丁の中井貴一に対し、芸術家らしい寡黙な陶芸家を人間味たっぷりに演じて深みを感じさせる。そして、品のいい艶やかさで二人を翻弄する謎の京女を演じた広末涼子は、初めてとなる茶道とタバコに挑戦。今までとは違う大人っぽい女らしさで魅了する。


以下はインタビューの詳細です。(敬称略)



uso800-s-nakai-1.jpg――俳優として苦心された点は?

中井:僕と蔵之介君にとっては二本目となりますが、前作はお互いがよく分からないまま共通する敵を騙していくという物語でした。今回は二人の関係性は既に出来上がっていたので、前作よりは楽でした。蔵之介君は物を創る役で「動」という立場、それに対し僕は騙していく「静」という立場なので、台本を頂いて、とにかく「セリフが多いな!」と思いました。そこに説得力を持たせるためには、詐欺師ではないけれど口八丁になる必要があったので、いかに口を滑らかにして喋るかが一番の目標でした。


 

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佐々木:一番のモチベーションは、「中井貴一さんとバディを組んで喜劇をやる」、これが一番大きかったですね。出来上がった作品は、何となく懐かしい感じがしつつ、今回は「京町ロワイヤル」ということでちょっと豪華になったりして…そんなに豪華になってませんが(笑)。役者として課せられているのは陶芸家として見えなければならないこと。前作は「楽茶碗」でしたが、今回は「蹴ろくろ」という見た目は楽しいがやるのは難しい道具を使って、織部の茶碗製作を課せられました。それが役者としてのやり甲斐となって、結果とても面白いものに仕上がったなと思っています。



 

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広末:私はバディが出来上がって役が固まっているお二人に飛び込むような形だったので、そのイメージを越えるものを出さなければというプレッシャーがありました。そうした緊張感がありながら、続編に出演させて頂くことは単純に光栄なことで嬉しかったです。今回はお二方を惑わせたりして振り回す役だったので、取り敢えず自分にない女の武器を出すべく、エクステを使ったり巻き髪にしたりと髪にこだわりました。そして、ビジュアルだけでなく役者として全力で嘘をつくべく、技術的には茶道とタバコに初めて挑戦しました。

 



――脚本ができる前のプロットの段階から中井さんと佐々木さんがコメントされていたようですが?

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中井:多分同じことを言っていたと思います。「二匹目のどじょうはいませんよ」と。前作は16日間という短い撮影期間で地獄のような撮影でした(笑)。「お弁当が立つ」という経験もしました。つまりご飯が凍っていて、お箸を入れるとそのまま全部立ち上がる状態です。でも、堺の皆さんにはとても協力して頂いて、「弁当は冷たいけど人の心は温かい」なんてね(笑)。そんな中で、まさか続編ができるなんて想像もできませんでした。「生き残れただけで良かった!」というような現場でした(笑)。もし続編を作るのなら前作を越えるものでないと絶対にダメ。新しい作品を作るつもりでやらないと失敗すると申し上げました。内容よりも、「みんなが生きるか死ぬか」の話の方が先だったように思います。

 

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佐々木:「この作品はお金をかけたからといって面白いものができるとは限りませんよね」と言ったら、本当にお金をかけてくれませんでした(笑)。撮影期間は前作より延びたものの、低予算のギリギリ感でやっていく面白さがありました。二作目作るなら、質の面でも量の面でも前作を越えなければならないと思いました。という事情ですので、どうかよろしくお願い致します。(と頭を下げる佐々木蔵之介。)

中井:こんなことを言う役者いませんよ!(笑)「製作費をあげてはいけません!そのためならギャラを下げてもいい!」なんて。普通「二作目作るんだったらギャラ上げろ!」と言うでしょう。ところが、蔵之介君は「とにかく製作費を上げてはいけません」てね。こんな役者いませんよ!皆さんどうかよろしくお願い致します。(と、これまた頭を下げる中井貴一。)

 

――前作に引き続き堺市でもロケされていましたが、堺市の印象は?

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広末:今回初めての堺でした。ロケ先しか伺ってないのですが、どこの現場でも沢山の方が温かく迎えて下さりと、バタバタの現場にもかかわらず、とても良くして頂きました。

 

中井:どれくらい堺を知っているかというと、仁徳天皇陵もまだ見てない!(笑)ホテルの上から「あれがそうなん?」と朝出発前にちらっと見ては、ぎりぎりまで撮影やって、ホテル帰って寝るだけでした。劇中の居酒屋がある所では、不思議と「帰って来た感」がありましたね。ホームタウンという感じがしました。

 

 


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佐々木:僕も同じです。父が堺に暮らしていた時期があって、「こんな所に住んでたんだ~」と僕なりに散歩したりして、懐かしい感じでした。NHK大河ドラマ「麒麟が来る」でもお分かりのように、堺は昔日本の最先端を行く栄えた街でしたから、その名残りも感じました。ちょっと落ち着くなというか、帰って来たなという感じはありました。

中井:先日若い映画人が「自主映画作ってました。汚い現場で寝泊まりして、トイレもコンビニのを借りてました。」と言うもんで、「変われへんや!前作がそうやったわ。コンビニのトイレ借りてたわ」と言ったら、「えっ、そうなんですか!?」と驚かれ、「ずっと変われへんね、そんなもんや!」(笑)


――居酒屋「もぐら」(実際は「おやじ」という名の居酒屋さん)の存在感は?

中井:あんな撮影しづらい所はない!撮影用のセットではありませんからね。「もぐら」での撮影方法がこの『嘘八百』そのものなんです。僕たちにとってこの映画のホームタウンかなと思っています。

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佐々木:角にあるのがいい。トイレは行きづらい。元々あんな大勢のスタッフさんが入れるように作られたお店ではありませんからね。でも、あそこで試行錯誤するのは楽しかった。上にレール付けて撮るのを見たのも初めて。あの店行って、どう撮ったか想像してみて下さい。

広末:この映画は堺の居酒屋「もぐら」がホームなので、これこそ日本のエンタテイメントだなと思いました。ハリウッド映画みたいに宇宙やAIを相手にするのではなく、人と人とが会話して、ちっちゃい堺という街で、ちっちゃい「もぐら」という場所で、ちっちゃい嘘を重ねてやり合うのが日本のエンタテイメントではないかなと思いました。大掛かりではないけれど、これだけ惹きつける魅力が出せるのが新しい衝撃でしたし、素敵だなと思いました。


――次も「もぐら」をホームにした作品になりそうですか?

佐々木:次はパリのカフェで!(笑)

中井:でも、出発は「もぐら」かなぁ(笑)


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『嘘八百 京町ロワイヤル』

(2020年 日本 1時間46分)
監督:武正晴  
脚本:今井雅子、足立紳  
音楽:富貴晴美
出演:中井貴一、佐々木蔵之介、広末涼子、友近、森川葵、山田裕貴/竜雷太、加藤雅也
配給:ギャガ 
(C)2020「嘘八百 京町ロワイヤル」製作委員会

公式サイト:https://gaga.ne.jp/uso800-2/


2020年1月31日(金)~全国ロードショー

 


(河田 真喜子)

 

 
 
 

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2020年1月25日(土)大阪・なんばパークスシネマにて

ゲスト:モトーラ世理奈(21)、西島秀俊(48)、諏訪敦彦監督(59)



少女は故郷を目指す――

悲しみと向き合う勇気を優しく教えてくれるロードムービー。

 

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岩手県大槌町に実在する電話ボックス、〈風の電話〉。2011年、東日本大震災の後、ガーデンデザイナーの佐々木格氏が自宅の庭に設置した電話ボックスは、亡くした大切な人に想いを伝えられる「天国につながるただ一つの電話」として、未だに訪れる人が絶えないという。そのドキュメンタリー番組をTVで見て、後悔や傷心、悲しみを抱えて生きる遺された者の苦悩が不思議と癒される様子に、驚きと共に強く心を動かされたことを覚えている。


kazedenwa-bu-suwa-1.jpgこの〈風の電話〉を題材に、震災で家族を失い心を閉ざした少女の物語を映画化したのがフランスで活躍してきた諏訪敦彦監督である。映画『風の電話』は1月24日から公開され、大阪では25日に主演のモトーラ世理奈と西島秀俊と諏訪敦彦監督による舞台挨拶が行われ、作品に込めた想いを語ってくれた。


諏訪監督は、泉英次プロデューサーから企画を持ちかけられ初めて〈風の電話〉のことを知り、18年ぶりに日本映画でメガホンを執ることに。明確な脚本を示さず俳優の感性が試されるような演出法が特徴の諏訪監督だが、監督作に出演経験のある西島秀俊や三浦友和、渡辺真起子らが集結。西島も、「今日何やるんだろう?」とスタッフと待つことが多い現場だったと振り返りながら、「今回はちゃんとしたストーリーがあったが、当日の朝に脚本を渡され、その日その日で話し合って撮影した」と、変わらぬ諏訪組の現場を語った。


kazedenwa-bu-serina-1.jpg震災後、心を閉ざしてしまった主人公・ハルを演じるのはモデル出身のモトーラ世理奈。遺された者の喪失感と孤独に苛まれる難しい役どころを、寡黙な中にも寄る辺ない心情を滲ませて秀逸。諏訪監督は、オーディションで初めて会った時、「質問しても返事に時間がかかったが、彼女特有の時間の流れを感じて、ハルは彼女しかいない」と即決したそうだ。モトーラも、「諏訪監督のやり方が好き。その場でどんな風が吹いているのか、何を感じているのか…」。「その場で感じることが大事」という諏訪監督の期待通り、順撮りの最後となるラストシーンでは、本番で初めて電話ボックスに入った。「撮影前、不安だったのでホテルで練習してみたのですが、何か違う。電話ボックスに入って感じるものがあるはずなので、練習するのとは違う」。監督も「その時のハルに任せよう」と10分以上に渡る電話ボックスのシーンを撮り上げたという。


kazedenwa-550.jpg広島で叔母と暮らしていた少女・ハルが、叔母の病気をきっかけに故郷の岩手県大槻町を目指す旅に出る。果たして、ハルはつらい過去と向き合うことができるのか――道中、認知症の老母と暮らす公平(三浦友和)に助けられ、戦争の悲惨さを知る。さらに、親切な姉弟に拾われ、妊娠中の胎動を感じて新しい生命の歓びを知る。その後、深夜に不良に絡まれていたハルを助けた森尾(西島秀俊)を通して新たな出会いを経験する。難民として日本で暮らすクルド人一家は、帰る国も家もなく、父親は不法滞在者として収監されたままだが、それでもハルと森尾を温かくもてなしてくれる。どんな状況下でも他者への思いやりを忘れない優しさが人を救うことを知る。


kazedenwa-bu-nishijima-1.jpgそして、森尾が車上生活をしている理由を知り、その知人である今田(西田敏行)との出会いが、震災の悲しみを引きずりながらも生き抜く人々の苦悩を知る。福島県出身の西田敏行の、地元の人々の心情を代弁するような白眉の即興演技が深みを醸し出す。そのシーンについて監督は、「西田さんは、打ち合わせしている最中にスイッチが入っちゃって、慌てて撮影し始めたんです。すべて西田さんオリジナルの独白で、流れに任せていくつかのシーンも撮りました。その内すいとんのことでケンカになったりして(笑)」。西島は、「自然の流れで相槌打ったりお酒飲んだりしていましたが、森尾が故郷へ帰って来ようかな、と思えるような流れに導いて下さって、とても重要なシーンとなりました」と述懐。


諏訪監督:「自分の想像通りの映画になったら面白くない。意外性が面白いのです。ハルも世理奈も、いろんな人との出会いで何かを心に蓄積していけたからこそ、ラストの電話ボックスでのシーンでは自分の言葉で語れたのだと思います。」

西島:「脚本がないからこそ、日頃の考えが言葉として出て来るのでしょう。」

モトーラ:「この映画は、優しく温かな空気に包まれる作品。それを感じて、いつかハルのことを思い出して下さったら嬉しいです。」


kazedenwa-bu-2-240.jpg撮影中、西島は、「モトーラと打ち合わせした方がいいかな?」と思ったが、その必要はない程自分の世界に浸っていたそうだ。モトーラも、ずっと西島のことを「森尾」と呼んでいて、最近になってようやく「西島さんに会っている感じがしてきた」と語る。諏訪監督が言うように、他の女優にはない独特の雰囲気と彼女のペースがあり、心を閉ざした少女・ハルの持つ想いの深さを反映させている。ハルが辿る故郷への道は、あらゆる苦悩を抱えた人々の共感を呼び、生きる勇気を優しく教えてくれているようだ。


(河田 真喜子)


■モトーラ世理奈:1998年10月9日生まれ、東京都出身。2015年、雑誌『装苑』でモデルデビュー。2018年、映画『少女邂逅』で女優デビュー。2018年にNHKドラマ『透明なゆりかご』、2019年、映画『おいしい家族』、映画&シンドラ&Hulu『ブラック校則』。2020年2月公開予定『恋恋豆花』が控えるなど、今後さらなる活躍が期待される注目の新人女優である。

■西島秀俊:1971 年 3 月 29 日生まれ、東京都出身。

■諏訪敦彦監督:1960 年生まれ、広島県出身。


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『風の電話』

(2020年 日本 2時間19分)
監督:諏訪敦彦
出演:モトーラ世理奈、西島秀俊、西田敏行(特別出演)、三浦友和、渡辺真起子、山本未来
配給:ブロードメディア・スタジオ
© 2020 映画「風の電話」製作委員会
公式サイト:http://kazenodenwa.com/

2020年1月24日(金)~なんばパークスシネマ 他全国公開中!

 

 

 
 

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人生が変わる。極上のエンタテイメント!

スペシャルライトアップ、グランフロント大阪に登場! 

全世界累計観客動員数8100万人、日本公演通算1万回を記録するなど、1981年のロンドン初演以来、今なお世界中で愛され 続けるミュージカルの金字塔「キャッツ」。イギリスを代表する詩人T・S・エリオットの詩集を元に、「オペラ座の怪人」「レ・ミゼラブル」等の 大ヒットミュージカルを手がけた制作陣の奇跡の作品が、遂に実写映画化!2020 年1月24 日(金)より日本公開となります。 


この度、映画の公開を記念し、『キャッツ』のスペシャルライトアップがグランフロント大阪「うめきた広場」に登場! JR 大阪駅北口正面に広がる「うめきた広場」は、大阪のシンボルとして幅広い方が集う憩いの場となっております。その顔とも言える 大階段ではシーズナル企画として様々な巨大影絵を展開していますが、なんと映画との取り組みは初!! 2020年最大の話題作『キャッツ』の、新たな「インスタ映えするフォトスポット」として注目を集めています! 階段を通ると、サプライズの演出も! 
 


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映画『キャッツ』 グランフロント大阪 スペシャルライトアップ 概要 

■期間:2020 年 1 月 17 日(金)~2 月 29 日(土)
日没後~ ※日程は予告なく変更になる場合がございます。

■場所:グランフロント大阪 うめきた広場 大階段 <大阪市北区大深町 4-1>


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『キャッツ』

■監督:トム・フーパー(『英国王のスピーチ』『レ・ミゼラブル』『リリーのすべて』)
■脚本:リー・ホール(『戦火の馬』『リトル・ダンサー』)/トム・フーパー
■製作総指揮:アンドリュー・ロイド=ウェバー/スティーヴン・スピルバーグ/アンジェラ・モリソン/ジョー・バーン
■キャスト:ジェームズ・コーデン/ジュディ・デンチ/ジェイソン・デルーロ/イドリス・エルバ/ジェニファー・ハドソン/イアン・マッケラン/テイラー・スウィフト/ レベル・ウィルソン/AND フランチェスカ・ヘイワード
■コピーライト:© 2019 Universal Pictures. All Rights Reserved. 
■公式 HP: https://cats-movie.jp/ 
 

2020年1月24日(金) ~全国ロードショー

一生に一度の体験を、スクリーンで。 <オリジナル字幕版/極上吹替版> 


(オフィシャル・リリースより)

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(2020.1.17 なんばパークスシネマ)
登壇者:宮沢氷魚、藤原季節 
 


his-550.jpg 『愛がなんだ』で昨年若い層を中心に圧倒的な支持を得た恋愛映画の名手、今泉力哉監督。その最新作で、人気急上昇中の宮沢氷魚、藤原季節を迎えて描く新たなる愛と決意の物語『his』が、1月24日(金)より全国ロードショーされる。
 
 本作が映し出すのは同性の二人の熱き恋の日々ではなく、それぞれの道を歩んでいたかつて恋人の二人が、再会してからの日々だ。ゲイであることを知られるのを恐れ、岐阜県白川町に移住し、静かに暮らしていた井川迅(宮沢氷魚)の前に、かつての恋人、日比野渚(藤原季節)が6歳の娘・空を連れて突然現れるところから始まる物語は、それぞれの過ごしてきた年月を超えて新しい関係を築いていく姿を、村人たちとの交流を交えながら映し出していく。親権を争う法廷シーンを含め、若い二人にはなかった悩み、家庭を持ったことでぶち当たる壁をリアルに描きながらも、その壁を超えようとする彼らの生き方が静かな感動を呼ぶ。
 


 1月17日、なんばパークスシネマで開催された『his』舞台挨拶付き先行上映会では、上映前、主演の宮沢氷魚、藤原季節が登壇。「みなさんと楽しい時間を共有できれば」と語った宮沢の後で、藤原は北海道出身ながら「まいど!」と見事な関西弁の挨拶を披露し、今にも漫才が始まりそうな勢いを見せた。
 

his-bu-miyazawa-240-2.jpgーー 共同生活について?
 ロケ地となった白川町の一つのロッジで10日間共同生活したという二人は、「朝から晩まで一緒にいるのに寝るときまで一緒かと最初はすごく嫌だった」(宮沢)そうだが、遅い時間までの撮影の後も、「あと30分話したら寝ようかといって、1時間ぐらい話し込む。毎日そんな感じでした」(藤原)と次第に二人でいることに馴染んできたという。その体験は演技をする上でも大いに役立ったそうで、宮沢は「迅と渚は、最初は何年も会っていないので距離感があった。それが最初の僕と季節君とのリアルな距離感でしたが、順撮りだったので、(共同生活で)僕たちが仲良くなっていくことが役にも反映された」と撮影を振り返った。
 

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 一方、ある日突然、白川町で暮らしている迅を、娘を連れて訪れる渚を演じた藤原は「24時間一緒にいたからこそ、氷魚君がいない時間を感じることができました。いなくなって初めて存在の大きさを知ると思ったし、白川町のロケが終わった後、東京ロケは一人で撮影しなければいけなかったので、気持ちが重かったですね」と離れることの寂しさを役に重ねたという。
 


 
 
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ーー キャラクターと似ている点は?
  寡黙な迅を演じた宮沢は、「迅は僕に似ている。僕は悩み事を自分で解決したい人間で、人に相談したくてもできず、自分で追い詰めてしんどくなってしまうが、迅もそういう瞬間があり、共感できました。僕はクォーターなので、インタースクールにいた頃はオアシスだったけれど、そこから一歩出るとすごく辛く、生まれたアメリカでも日本人は…と言われ、自分の居場所はどこにあるのか悩んだ時期がありました。だから生きづらさってなんだろうと常に考えながら迅を演じていました」と自身の境遇から迅の気持ちを掴んでいったエピソードを明かした。


一方、一見奔放に見える渚を演じた藤原は、「氷魚君はストレートで裏表がなくとてもピュアで、僕は物事をこねくり回して考えてしまうのですごく羨ましく感じるが、渚も迅に対する羨ましさがあるのではないか。一見発言が軽く見えたりする裏にある臆病さや弱さがあり、自分に似ていると感じた」と渚役との共通点を明かした。
 

 

his-bu-fujiwara-240-1.jpgーー お互いについて感じたことは?
 「季節君はとにかく熱く、真剣に物事に向き合う男。彼の台本を初めて見た時に、ページがちぎれそうなぐらいボロボロで、書き込みがたくさんしてあって、本当に素敵な役者さんだな思った。役者としてこうありたい」と藤原について語る宮沢。一方藤原は、「宮沢君は内側から発光しているような人」とお互いの魅力を表現した主演の二人。


 最後に「愛に溢れていて、答えがない作品。それぞれ考えることは違うと思うし、それがある種の正解で、疑問に思うことを聞いてほしいし、考えるきっかけになってほしいと思います」(宮沢)、「この映画を経て、自分は変わることができたし、自分の気持ちに正直に生きられるようになってきたと思っています。自分の近くにいる人を大切にできるような人間になりたいですし、この映画の登場人物を好きになってほしい。また嫌いだというのも愛情表現です」(藤原)と観客に熱いメッセージを送った。


 デビューアルバムが発売されたばかりの注目新人、Sano ibukiによるエンディング曲「マリアロード」が優しく包む、新しい形の愛の物語。自分らしく生きたい全ての人に送りたい作品だ。


(文:江口由美、写真:河田真喜子
 

<作品情報>

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『his』
(2020年 日本 127分)
監督:今泉力哉
出演:宮沢氷魚、藤原季節、松本若菜、松本穂香、外村紗玖良、中村久美、鈴木慶一、根岸季衣、堀部圭亮、戸田恵子他
1月24日(金)よりなんばパークスシネマ、シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸他全国ロードショー
(C) 2020 映画「his」製作委員会
 
 
 
 
 
 

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被災した街にある時間の層は、「写真には映らないけれど、映画にはなる」と思った。

『風の電話』諏訪敦彦監督インタビュー

 

  東日本大震災後、岩手県大槌町在住のガーデンデザイナー・佐々木格さんが設置した「風の電話」。大事な人を亡くした人たちが、もう一度語りかけたい言葉を伝える場として、3万人を超える人がこの場所を訪れているという。この「風の電話」をモチーフにした諏訪敦彦監督(『ライオンは今夜死ぬ』)の最新作『風の電話』が、2020124日(金)~なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、MOVIX京都他全国ロードショーされる。

 

  津波で家族も家も失い、広島の伯母の家で暮らしている高校生ハルが、様々な人との出会いから生きる力を取り戻し、故郷、岩手県大槌町の風の電話を訪れるまでを、ハルの目線で描いた感動作。ハル役には、今最も注目され、出演作が目白押しのモトーラ世理奈。同世代の中でも類を見ない独特の存在感で、生きる目的すら失っていたハルの心の揺れや成長を体現している。脇を固める西島秀俊、西田敏行、三浦友和ら俳優陣に加え、クルド人一家が登場するシーンは、リアルなエピソードを取り入れ、今の日本を映し出すドキュメンタリー的側面も見せている。本作の諏訪敦彦監督に、お話を伺った。

 

 


 

生きろというメッセージは、『ライオンは今夜死ぬ』と通底している。

――――前作の『ライオンは今夜死ぬ』のインタビューで、諏訪監督は「ジャン=ピエール・レオと『生きていることは素晴らしいという映画にしよう』と話した」と語っておられましたが、本作は、「生きていることが素晴らしいと思えるまでの映画」とも言えます。 

諏訪:主人公、ハルの心は瀕死の状態で、なぜ生きているか分からなかった。でも、生きろというメッセージは『ライオンは今夜死ぬ』と通底しています。ずっとハルという少女の目の高さから、ただ見ていくわけですが、言葉で励ましても意味がないとみんな分かっているのです。三浦さんが演じる公平は、泣き疲れたハルを自宅に連れ帰り、ハルが「大槌から・・・」と言った時も、根ほり葉ほり聞かないでただ「食えよ」と言う。それは、生きていればいいんだというメッセージだと思うのです。

 

――――諏訪監督は広島ご出身で、広島でも映画を撮影されていますが(『a letter from hiroshima』)、最初から広島をスタート地点と決めていたのですか?

諏訪:僕がこのプロジェクトに参加した時点にあった原案は、一人の少女が熊本で被災して父を亡くし、風の電話の存在を知り、大槌町まで旅をするというものでした。ただ昨年は西日本豪雨が起き、日本は次々と被災地が生まれているので、当初の予定を変更し、岡山のあたりもロケハンに行きました。その時点では広島である必要はそんなに強くなかったですが、三浦さんが演じる男性の母を演じた別府康子さんは広島県出身で、面接でお会いした時に、偶然自身の原爆体験の話をされたのです。その時の罪悪感が演劇を始めるきっかけになったとおっしゃっていたので、ぜひその話を映画の中で話してほしいとお願いしました。それがある意味、広島から旅をスタートさせるきっかけになったと思います。

 

 

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被災した街にある時間の層は、「写真には映らないけれど、映画にはなる」と思った。

――――東日本大震災から8年経ったからこそ描けたと思うことは?

諏訪:日本で撮るのは久々なのですが、僕が意識していたのは日本という国の風景を撮るということでした。撮影時、西日本豪雨から1年も経っていなかったのですが、報道ではあまり語られなくなっていましたから、そこまで被害が残っているとは思わなかった。でも実際には、ただ道路が通っているだけで、あとは被害を受けた跡が生々しく残っていたのです。逆に、ハルの故郷、大槌町の場合は、震災から8年経ち、すっかり街の様子が変わってしまった。震災の傷跡自体は見えないのです。でも8年前までの体験はハル自身の中に残っているし、色々な時間の層が街にはある。これは写真には映らないけれど、映画にはなると思いました。福島でも撮影しましたが、やはり異様な風景です。繁華街を離れると、倒壊した建物は整備され、新しい建物も建っていますが、空き地が多く、スカスカで、人もいない。フェンスの向こうは帰宅困難地域になっているわけです。そのように、簡単には映らないけれど、いろいろな層があることを映画で表現できるはずだということが、僕にとって重要なポイントでした。

 

――――流された跡がそのままのハルの実家や、出会う友人の母など、大槌町でハルが体験することは、確かに時間の層を感じさせましたね。

諏訪:ハルが大槌町に帰った時、震災で亡くなった友達のお母さんと偶然出会います。8年ぶりなので成長したハルのことが一瞬分からなかったけれど、ハルだと分かった瞬間に8年前と現在が繋がった。「大きくなったね」と言った瞬間にそのお母さんにとっての8年間が押し寄せてくるのです。自分の娘は生きていたらどうなっていたのか、こんなに大きくなっているかもと思うと、見えない悲しみが押し寄せてくる。そういう見えない時間を映画で表現することは意識しました。

 

 

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傷だらけの日本でも、人々は毎日生きている。そのことを讃える視点から見ていきたかった。

――――一方、ハルが大槌町に着くまでに出会う人たちは、それぞれが傷を追っている人たちではあるけれど、ハルの心を少しずつ開く役割を果たしています。

諏訪:ヨーロッパだったらもっと危険な目に遭うと思いますが、日本は少女の旅をみんなで助けてくれる。優しいですよね。少女の旅と言えば、テオ・アンゲロプロスの『霧の中の風景』など、色々な困難を乗り超えて成長していく物語を想像しがちです。でもこの映画は悪い人が立ちはだかるような物語にはしたくなかった。こんなに傷ついている少女が、生きる力を与えていく人たちに出会う。ハルが生きる力を得ていくのに、映画が寄り添うようにしました。ロケハンで日本中を巡りましたが、どこも傷だらけ。今に始まった話ではなく、遥か前から日本は傷だらけなのです。それでも人々は毎日生きていますから、そのことを讃える視点から、日本を見ていきたいと思いました。

 

――――モトーラ世理奈さんはオーディションでのキャスティングだそうですが、その魅力は?

諏訪:モトーラさんは、西田敏行さんや三浦友和さんなどの大ベテランと共演していますが、緊張しているように見えなかった。インタビューでも共演について聞かれるそうですが、西島さんと話をした記憶がないと言うのだそうです。「ハルは話をしたけどね」と。最後の大槌町にある電話ボックスも、「私は入っていません。ハルが入ったんです」と言うのです。西田さんは「あの歳で、受けの芝居ができるのはすごい」とおっしゃっていましたし、三浦さんも「久々に映画女優を見た」と絶賛でした。

 

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西島さんが悩んだクルド人とのシーンも、モトーラさんは自然に馴染み、嘘がなかった。

――――大ベテランを唸らせる演技だったのですね。男たちに絡まれているのを助け、大槌町まで連れていった森尾を演じた西島さんは、一番長く現場で一緒だったと思いますが。

諏訪:西島さんは「彼女は嘘がない」と表現されていました。西島さんが演じた森尾は、背景が難しい役なので、森尾が震災時にボランティアで助けてもらったというクルド人一家と再会するシーンはすごく悩んでいたのです。映画でもメメットさんが入国管理局に突然連行され、1年以上帰れないと家族が話していましたが、あれは本当の話で、その中で、俳優としてどういればいいのかに悩んでいた。でもふとモトーラさんを見ると、ハルとしてそこで自然に馴染み、しかも嘘がなかったのです。

 

――――ハルと森尾がクルド人一家と思わぬ交流となるシーンでは、一家の娘さんとハルが意気投合し、今までずっと無表情気味だったハルに、笑顔が生まれるのが印象的でした。今の日本の現実を映し出すシーンでもあります。

諏訪:メメットさんは、福島にも実際にボランティアに行っていたそうです。みなさん役者ではないですから、ボランティアでお世話になった人が訪ねてくるシーンであることを説明し、一緒に1時間過ごしてもらいました。モトーラさんには、同世代の女の子同士のガールズトークが重要だと思ったので、メスリーナちゃんと事前に二人で会ってもらいました。彼女はどこか、素の自分に戻っている部分があったかもしれません。移民はヨーロッパでは当たり前の問題ですが、日本も見えないだけで隣人として、身近にいるのです。

 

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モトーラさんは、常に周りの環境や、一緒にいる人のことを考え、それが演技を作るというやり方ができる人。

――――ハル役に対し、モトーラさんはどのようなアプローチをしたのですか?

諏訪:ハル役は、モトーラさんにとって最もやりづらいものだったようです。彼女は家族が大好きなので、小さい頃の絵本ですら、家族が別れるような悲しい話は嫌だったみたいです。だからこの台本も読めなかったし、オーディションも実は来たくなかったのだと、後々教えてくれました(笑)ハルは、昔は自分と変わらない女の子だったはずだということを起点として、ハルに近づけていきましたね。モトーラさんは、事前に人物像を構築するのではなく、その場に行き、相手を感じることによって、自分を表現するというリアクションができる俳優です。常に周りの環境や、一緒にいる人のことを考え、それが演技を作るというやり方ができる人なのです。

 

――――確かに、非常に自然な演技で、黙っているシーンが多いにも関わらず、目が離せませんでした。モトーラさんが苦労したシーンはあったのですか?

諏訪:大声で感情を吐き出すシーンは、彼女も悩んでいましたが、声を出すのが大変かと思いきや、そこで何を言うべきか悩んでいたというのです。「ここで、(お父さん)会いたいよと言ってしまったら、最後の風の電話で何を言うのか。そこまで取っておいた方がいいのではないか」と。その時は、「風の電話にたどり着くまであと3週間あるので、その時何を言いたいかは、その時にならなければわからない。だから、今の思いを吐き出して」と伝えて、後はあの本番の通りになりましたね。

 

――――風の電話は、大事な人を亡くした人にとって、誰にも言えない思いを伝えられる場所として、本当に必要で、かけがえのない場所だと思いました。実際に風の電話で撮影をして感じたことは?

諏訪:ラストシーンが成立しなければ、どうにもならなかった。今思えば、本当に無謀だったと思います。でもあのシーンは全てモトーラさんに任せました。最終日の撮影は、天候不良で2日延ばしたのですが、すごい突風で、晴れているのに木が揺れて、風で雲が流れ、光がどんどん変わっていく。モトーラさんに神様がついてくれているような、奇跡が起きている感じがしました。

 

 

言葉に出して話しかけることで、自分が変われる「風の電話」。モトーラ=ハルの中で起きた瞬間を映画で撮ることができた。

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――――モトーラさんに任せたという風の電話のシーンは、ハルの家族に言いたい言葉が溢れると同時に、これからも生きるという強い意思表示が現れ、彼女の旅を通じての成長を強く感じさせました。

諏訪:彼女は本番前まで、風の電話(ボックス)には入りませんでした。一度目のテイクは言っていることが嘘のように思え、うまくいかなかったようです。二度目のテイクの最後にハルは「私も会いに行くよ」と言います。私も会いに行くということは、私は死ぬということ。それを口にした途端、ハルの中に「私は死ぬのかな」という問いが生まれた。今死ぬのかな、今は死ねない、だからそれまでは生きる。だから、「今度会うときは、おばあちゃんになっているかもね」と変わっていくのです。最初は、死んで会えるなら、会いに行きたいと思っていても、自分がそれを口にすることで、自分が変わっていく。モトーラさんは真っ白の状態で風の電話に入っているので、自身の中で、そういう展開が起こるとは思わなかった。それこそが“風の電話”なんです。

 

――――ハルにとって、自分の思いを口にすることで、それを客観的に受け止め、試行錯誤できる空間だったのですね。

諏訪:僕は監督なので、撮影時に「カット」や「もう一度」と言う権利があるのですが、このシーンはモトーラさんがカットかどうかを決めるべきだと思いました。二度目のテイク後に「できた?」と聞き、「できたと思う」と言ってくれたので、撮影終了になりました。言葉に出して話しかけることで、自分が変われる。それが俳優のプロ的な演技の中で起きる瞬間を、この映画では撮ることができたのです。

(江口由美)

 

 


 

『風の電話』(2020年 日本 139分) 

監督:諏訪敦彦

脚本:鵜飼恭子、諏訪敦彦 

出演:モトーラ世理奈、西島秀俊、西田敏行(特別出演)、三浦友和他

2020124日(金)~なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、MOVIX京都他全国ロードショー

公式サイト⇒http://kazenodenwa.com/

(C) 2020映画「風の電話」製作委員会

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