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2021年3月アーカイブ

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「この作品の中に佐々部監督の魂がきっちり入り込んでいる」
『大綱引の恋』西田聖志郎さん(企画、プロデューサー、出演)インタビュー
 
 心温まる家族ドラマを数多くてがけてきた名匠、佐々部清監督の最新作にして遺作となる鹿児島県薩摩川内市を舞台にした『大綱引の恋』が、5月7日の全国公開を前に第16回大阪アジアン映画祭の特別招待部門作品として、関西プレミア上映された。
 薩摩川内市で400年の歴史を誇る大綱引に青春をかける青年・武志と、韓国からやってきた女性研修医・ジヒョンとの恋だけでなく、薩摩川内市と大綱引が縁で姉妹都市盟約を結んでいる韓国・昌寧(チャンニョン)郡との交流も描かれる。
 三浦貴大が武志を演じ、見事な一番太鼓を披露するほか、知英が武志一家と交流する研修医ジヒョンを好演している。比嘉愛未や升毅など佐々部組の常連俳優も顔を揃え、軽快かつ味わい深いヒューマンドラマに仕上がった。迫力の大綱引シーンはまさに圧巻だ。
 本作の企画、プロデューサーを務めるだけでなく、武志の父を熱演。長年、佐々部監督と交流の深かった西田聖志郎さんにお話をうかがった。
 

 

■佐々部監督とは共に遅咲き、シンパシーを感じた仲間

―――まずは佐々部監督との出会いについてお聞かせください。
西田:佐々部監督が44歳でデビュー作『陽はまた昇る』を撮ったのですが、僕は当時46歳でそのオーディションを受け、いわば東映の大作で役名がつくような役をいただけた。監督も長年助監督を務めた遅咲き組ですし、同世代として昭和のいい時代に青少年期を過ごしたという意味でも、シンパシーを感じたんですよ。ただ失礼なことをしたと思うのが、オーディションで、中央に監督と思しき方がが座っていて、周りをチョロチョロしている人がいて、その人は助監督なんだろうなと思っていたら、実はそれが佐々部監督で、僕が監督だと思い込んでいたのは、大御所カメラマンの木村大作さんだったんです。その後何年経っても、佐々部監督からそのことを言われてましたね(笑)
 
―――その後、佐々部監督とは『六月燈の三姉妹』でプロデューサーとして初タッグを組まれましたね。
西田:『六月燈の三姉妹』は僕が構想を練り、全国で上演した舞台です。再演した2011年に、違う映画製作会社の3人のプロデューサーが別々に観劇し、3人とも映画にしたら面白いのではと仰ったので、映画に向いているのかと僕もその気になったんですよ。佐々部監督しかいないと思い、演劇の台本を読んでもらい、公演映像を観て頂いたら面白いと快諾してもらえ、僕の初プロデュース作品でタッグを組むことが実現しました。
 

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■薩摩川内市と昌寧(チャンニョン)郡の関係を通して日韓の交流を描く

―――今回の大綱引は、西田さんご自身も馴染みの深いものだったのですか?
西田:僕は鹿児島市出身なので、川内大綱引のことを新聞やテレビのニュースでしか知りませんでした。『六月燈の三姉妹』が海外で上映される中、5カ国8都市を僕一人で行ったり、監督とともに周ったりしたのですが、鹿児島の経済界から依頼を受け、その体験記を「映画により鹿児島の魅力を世界に発信」という演題で県内3ヶ所で講演したことがあり、その中の一つが薩摩川内市でした。その時、「薩摩川内には400年の歴史を誇る大綱引がある。これを、どげんかして映画にできんですか?」と声をかけられ、その年の川内大綱引にお招き頂いたのです。3000人の男たちが本当に死に物狂いで激闘している姿を見ながら、この人たちそれぞれに家族や恋人がいるだろうし、その一人にスポットを当てながら主人公を取り巻く人間模様を描くと、面白いドラマができるのではないかと閃いたんです。
 
薩摩川内市は、綱引がご縁で韓国の昌寧(チャンニョン)郡と友好都市盟約を結んでおり、私も2018年の交流ツアーに同行させて頂いたのですが、国同士がどれだけギクシャクしていても、大綱引保存会の人たちは毎年交流していて、親睦を深めているんですよ。佐々部監督も『チルソクの夏』『カーテンコール』と韓国との交流を描く作品を撮っていますし、その関係性も映画の中に取り入れようと思っていました。また主人公、武志の相手役となる知英さん演じる韓国からの研修医・ジヒョンがどのように武志の家族に受け入れられていくかも最初からイメージができていたんです。そういう意味でも、日韓の交流を描いた『大綱引の恋』を大阪アジアン映画祭に呼んでいただけたのは本当に意義深いし、佐々部監督も喜んでおられると思います。
 
 
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■2年がかりで撮影した迫力の大綱引シーン

―――大綱引シーンの迫力に圧倒されましたが、どのように撮影されたのですか?
西田:2年がかりで撮りました。年に一度、秋分の日の前日に大綱引が開催されるのですが、その翌日から次の年に向けての人数集めが始まります。両チームとも綱の長さに収まる約1500人ずつを集めることになります。それだけではなく、毎年365m、直径40cm、重さ7tの大綱を作るのですが、その材料となる縄作りも始まるんですよ。ちょうど稲の収穫の時期でして、藁を確保し始めるタイミングでもありますので、諸々の準備も含めて一年がかりの祭りなのです。

そんな祭りを撮影するのに、本番の祭りに役者を入れるのはとても危険なので、2018年、2019年の本番の大綱引を撮り、2019年は本番の6日後に、中央でぶつかり合っていた両チーム約200人ずつの大綱引メンバーに、今度はエキストラとして参加してもらったんです。双方の一番太鼓を叩く三浦貴大さんと中村優一さんが入って撮った時は、エキストラの皆さんも本番さながらの熱気で挑んでくれました。

 
―――佐々部監督も相当気合が入ったシーンだったのでは?
西田:亡くなった佐々部監督も大綱引シーンは全神経を集中させて挑んでいました。国道3号線を封鎖して行う祭なのですが、国道を全面封鎖する祭は日本でも数少ないし、前週に本番をやったばかりなので、まずは警察に必死でお願いして、なんとか18時から22時まで時間を確保したのです。限られた時間の中で撮りきらなければいけない緊迫感がある中、佐々部監督は助監督経験が長かったので、段取りが全て頭の中に入っていたんですね。だから、きっちりと決められた時間内に撮影することができました。
 
―――大綱引の要となるのは一番太鼓ですが、三浦さんは相当練習されたのですか?
西田:三浦さん、中村さんに加え、一番太鼓経験者である父親役の僕も、写真だけしか登場しませんが、一緒に練習しました。実際に一番太鼓を経験された方々が指導をしてくださるのですが、皆さん、三浦さんは最初から上手いと褒めていましたね。大綱引では2時間近く叩き続けなければいけないのですが、「太鼓を掲げた手が下がったら負けだ」というプレッシャーがある中で、二人ともよく頑張ったと思います。一番太鼓は一生に一度のことですし、その人選については何年も前から取り組む姿勢などを先輩たちがしっかり見ているんですよ。今回、三浦さんは鹿児島弁に加え韓国語を喋るシーンもあり予習が多い現場でしたが、どれもしっかりとマスターされていました。
 

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■佐々部監督と作品作りの根底で共通していたのは「家族がテーマ」

―――一番太鼓をかけた青春物語だけではなく、家族模様を細やかに撮りきったのも、佐々部監督ならではだなと痛感します。
西田:これまでの僕のプロデュースする作品も家族がテーマですし、佐々部監督も家族をテーマにした作品を多く手がけてこられた。そういう面でお互い作品作りの根底で共通している部分があります。ただ、脚本のことなどで意見が対立することはもちろんあって、僕は、父親が息子の武志を呼び、ジヒョンとの交際を反対する場面を入れ、綺麗ごとではない日韓の間にある壁を描こうと思っていました。でも佐々部監督は直接的な方法ではなく、次のシーンの、病院でジヒョンが席を外している時の妻と娘との会話の中でそれを表現したのです。最終的には佐々部監督が気持ちよく撮れることが一番なので、信頼してお任せしましたね。
 
―――今まで佐々部監督と一緒に仕事をされてきた中で、思い出深いエピソードはありますか?
西田:まず驚いたのは、佐々部監督は撮影初日に全スタッフの名前を覚えているんですよ。助監督でもサードやフォースの人が自分の名前を覚えてもらっていれば、そりゃ頑張りますよね。ご自身の助監督時代が長かったからこそそうなれるし、一方若いスタッフの成長のために厳しく叱咤する時もある。佐々部監督の作品を見て温かい気持ちになれる根底には、その愛情深さがあるんですよ。佐々部監督と接した中で、深く心に響いたことですね。

■この作品の中に佐々部監督の魂がきっちり入り込んでいる

―――佐々部監督らしさが詰まったまさに集大成で、コロナ禍でしばらく川内大綱引の本番を迎えることが難しい今、本当に大きな役目を果たす映画となりそうですね。
西田:佐々部監督は街の人たちともすぐ仲良くなるし、必ず一緒に飲むんです。この作品は我々が東京から遠征し、単にロケ地として薩摩川内市で撮った映画ではなく、エキストラ、ボランティア合わせて1000人近い方が現場に携わってくださり一緒に作り上げた映画ですから、市民の皆さんもスタッフであり出演者なんです。佐々部監督は昨年の3月31日に亡くなった時点で、本作に関しては監督としての仕事を全てやり終えていました。しかし、ポスターやチラシ作りにおいて監督の意見を伺いたくて、亡くなる数日前まで頻繁にメールでやりとりをしていたのです。だから訃報を聞いた時は全く受け入れられず、脳も感情も時が止まったかのようにシャットダウンしてしまった。その事実を受け入れたくなかったんでしょうね。でも、この作品の中に佐々部監督の魂がきっちり入り込んでいるし、作品という形で監督は生きている。だんだん、そう思えるようになりました。今は監督の代わりに舞台挨拶やインタビューなどでお話しさせて頂くこともありますが、この作品について実際にあったことをそのままお話すれば、それだけで佐々部イズムが伝わると思っています。
 
(江口由美)

 
<作品情報>
『大綱引の恋』(2020年 日本 108分)
監督:佐々部清
出演:三浦貴大、知英、比嘉愛未、中村優一、松本若菜、升毅、石野真子、西田聖志郎
2021年5月7日(金)より全国公開
公式サイト→http://ohzuna-movie.jp/
©️2020「大綱引の恋」フィルムパートナーズ
 

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『夏時間』は、30歳のユン・ダンビ監督の長編デビュー作である。

【STORY】
父が仕事に失敗し、母がいなくなって、インチョンの祖父の家に行くことになったオクジュとドンジュの姉弟。弟は新しい暮らしにすぐ馴染むが、十代のオクジュにはなんだか居心地がわるい。やがて父の妹であるミジョンおばさんもやってきた。おばさんはどうやら夫とうまく行っていないようだ。オクジュにはボーイフレンドがいて会いに来るがこの二人もうまくいかない。そんなある日、おじいちゃんが倒れた…。



韓国女性監督作品『はちどり』と『わたしたち』の間の年齢の少女が主人公で、彼女の気持ちがヴィヴィッドに映し出され、韓国映画界にまたひとり逸材が誕生したと思う佳作。今後の活躍が期待できるユン・ダンビ監督にインタビューした。

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Q:この作品は、ユン監督の自伝的なものではないとのことですが、姉と弟と父、祖父、おばさん(コモ)の関係性は、どのような想像から生まれましたか?

A: 母親の不在が子どもたちにとって一番怖いことだと思います。そのことによって子どもたちが結束するのではないかと思いまして、この映画では母親がいないという設定にしています。そして、この姉弟と対照的な存在として、おじいさんを設定しました。

この映画では、まず少女オクジュが中心的な存在です。お父さんは、保守的で家父長的な存在ではない人として描きたいと思いました。おばさんのミジョンは、母親の代わりとしてではなく、一人の人間として、女性として描きたいと思いました。弟のドンジュはかわいらしくて純粋な世代の存在として描きたかったので、このような構成を考えました。

 


Q:監督は1990年生まれですが、インチョンで撮影されたということで、同じくインチョンを舞台にしたチョン・ジェウン監督作品『子猫をお願い』を思い出しました。2001年作品なので当時は見ていないと思いますが、どこかで見ておられますか?多くの女性監督がこの映画に影響を受けたと言っています。

A:『子猫をお願い』はもちろん見ています。あの作品からは当時(2000年ごろ)のインチョンの雰囲気がよく伝わりますし、20歳ごろの女性たちが誰しも迷う時期をうまく捉えており、シネフィルとして、映画を学ぶものとしては当然見るべき作品です。

『子猫』もインチョンの町をよく捉えていましたが、私もおじいさんの家がインチョンにあることを示すような場所が欲しいと思ってチャイナタウンでも撮影しました。


natsujikan-500-1.jpgQ:ユン監督は小津安二郎作品がお好きということですが、『チャンシルさんには福が多いね』のキム・チョヒ監督も小津監督が好きなようですね。ユン監督はどこで彼の作品を見ましたか?檀国大学院で?

A:キム・チョヒ監督に直接お会いした時に聞いたのですが、彼女は「小津安二郎監督のお墓にお参りした」そうです!(うらやましい)

私自身は、はじめて高等学校で小津監督の『お早よう』を見ました。大学で『東京物語』などを見て、小津監督の視角というか演出の方法、どのように映画を撮るべきかという手法について大いに影響を受けたと思います。


natsujikan-500-2.jpgQ:あの印象的な祖父の家の二階に上がる途中に扉がある造りは、よくある家屋なのでしょうか?独特なものでしょうか?螺鈿の家具があったり、そうとう裕福なおうちに見えます。

A: 私自身は、おじいさんの家がかつてとても裕福な家だったらいいなと思い、そんな環境を探しました。そして螺鈿の箪笥などもそのまま使いました。

あの階段の扉は実際にあるもので非常に珍しいのです。とても気に入って活用したいなと思いました。扉というものはいろんな感情の境界を指すものとして存在します。玄関の扉とか、ベランダに出る時の扉とか、登場人物の気持ちの変化を表すものとして使いました。


natsujikan-500-4.jpgQ:オクジュが整形手術のお金がほしいという話に関して、人権委員会の作ったオムニバス映画『もし、あなたなら〜6つの視線』の中のイム・スルレ監督作品『彼女の重さ』や、チャン・ヒソン監督の『和気あいあい?』でのエピソードなどを思い出しました。どちらも女性に外見の美しさを強制する韓国社会への批判がありました。ユン監督もそうでしょうか?

A: オクジュが二重瞼の手術をしたいというエピソードについて、私は特に韓国社会を批判するために作ったわけではではありません。オクジュは思春期なので、その年頃の少女によくある悩みですね。自分のルックスに対するコンプレックスとか、たとえば彼女はボーイフレンドとうまくいってないのはそのせいだと考えるとか。

ドンジュは末っ子なので、みんなにかわいがられるけど、それに比べると、自分はかわいがってもらえない、もっと愛されたいという欲求がそういった発言をしたと思われます。

実際にオクジュを演じたチェ・ジョンウンさんに、私たちスタッフは「そのままでかわいいから絶対整形しないで」と言いました。


natsujikan-500-5.jpgQ: 弟のドンジュの名前は尹東柱から取られましたか?

A:大学の後輩オクジュという名前の子がいて、今ではあまりつけられないちょっとダサい名前なのですが、私はそれが好きで、常々、ご両親はどうしてこの名前を付けたのかなと思っていたのです。それで今回、主人公の名前をオクジュにしました。弟は深く考えず姉のオクジュに合う名前としてドンジュにしただけで、尹東柱から取ったわけではありません。


Qお父さんが偽物の靴を売っている話はちょっとせつないですね。かつて、リーボックは韓国の工場で作られているから同じ製品でブランドマークなしを売っていると聞いたことがあります。その話は少し前の時代かと思うのですが、この映画の設定はいつ頃でしょうか?

A:時代設定については観客からもよく質問されます。たとえばこの映画ではケータイ(スマホ)はあまり使わないのです。オクジュがケータイをかけるシーンまで全然画面に出てこないので、ちょっと前の時代なのかと聞かれました。それに関して、私はケータイを見ているとかテレビを見ているという状態は家族の団らんにふさわしくないと考えるからです。それで個々人がバラバラな感じになる場面は意識的に避けました。家族の連帯感を描きたかったんです。

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また夢がひとつのテーマにもなっているので、それもいつの時代かはっきりしないと言われましたが、そのへんは意図的にはっきりさせていません。

リーボック事件は私も知らなかったのですが、偽物の靴のエピソードは、私も個人的にすごく気にいっています。お父さんのビョンギが「工場はおなじだよ」と正当化するような言い訳します。またオクジュがボーイフレンドに偽物の靴をプレゼントしたことで恥ずかしい想いをするとか、自分でも好きなシーンです。

ビョンギが親(オクジュのおじいさん)の家を売ろうとしているのでオクジュが批判した時「おまえも靴を売ろうとしたじゃないか、同じことをしただろ」と自分を正当化するのはとてもビョンギらしいと思います。完成した映画を見て自分でも笑ってしまいました。

とある建築家の方がこの映画を見て「この映画は、いずれとてもいい記録映画になるのではないか」と言ってくれました。私自身も、ある時代の雰囲気を残したつもりなのでそうだといいなと思いました。

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Q 言いにくいかも知れませんが、特に好きな監督とか作品は?

A:あえてひとりあげるならイム・スルレ監督です。彼女の短編『雨の中の散歩』と長編では『ワイキキ・ブラザース』が好きです。

女性監督ではもちろんチョン・ジェウン監督も好きです。


Q ダンビさんの名前は漢字でどう書くのですか?

A:漢字はありません。〈久しぶりに降る雨〉という意味です。父がつけました


                                 



現在、韓国映画界では、派手なアクションや、激しくドラマティックな事件が起こらない〈静かな〉映画が作られ、観客にも受け入れられている。女性監督たちの活躍はそういう状況と無縁ではない。ユン監督は東京で1週間、是枝裕和監督のワークショップに参加したことがあるそうだ。韓国の女性監督が好きな監督として小津安二郎監督や是枝裕和監督の名前がよくあがるのは、喜怒哀楽を大きく表す韓国映画にないものを、日本の監督作品に見出すからではないだろうか。
 


【キャスト】
姉オクジュ:チェ・ジョンウン
弟ドンジュ:パク・スンジュン(『愛の不時着』)
父ビョンギ:ヤン・フンジュ(『ファッションキング』)
叔母ミジョン:パク・ヒョニョン(『私と猫のサランヘヨ』『カンウォンドの恋』)
祖父ヨンムク:キム・サンドン

【スタッフ】
監督・脚本:ユン・ダンビ
制作:ユン・ダンビ/キム・ギヒョン(『わたしたち』)
撮影:キム・ギヒョン(『私たち』) 照明:カン・ギョングン
整音:ハン・ドンフン   編集:ウォン・チャンジェ
原題:남매의 여름밤 英題:Moving ON 
韓国/2019年/105分/DCP   (C)2019 ONU FILM, ALL RIGHTS RESERVED  
日本版字幕:三重野聖愛 
協力:あいち国際女性映画祭
配給:パンドラ (C)2019 ONU FILM, ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/natsujikan/

 2021年2月27日(土)〜ユーロスペース、3月19日(金)~テアトル梅田、アップリンク京都、4月10日(金)~神戸・元町映画館 ほか全国順次公開


第24回 釜山国際映画祭韓国映画監督協会賞/市民評論家賞
NETPAC(アジア映画振興機構)賞/KTH賞
第49回ロッテルダム国際映画祭Bright Future長編部門グランプリ
第45回ソウル独立映画祭新しい選択賞
第8回ムジュ山里映画祭 大賞(ニュービジョン賞)


(夏目 こしゅか)

 
 

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上の写真、左から、
植木咲楽(UEKI SAKURA)(25)   『毎日爆裂クッキング』 
木村緩菜(KIMURA KANNA)(28)  『醒めてまぼろし』
志萱大輔(SHIGAYA DAISUKE)(26)『窓たち』



日本日本映画の次世代を担う

若き3人の監督作品とコメントを紹介

 

まず、《ndjc:若手映画作家育成プロジェクト》とは――?

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次世代を担う長編映画監督の発掘と育成を目的とした《ndjc:若手映画作家育成プロジェクト》です。文化庁からNPO法人 映像産業振興機構(略称:VIPO)が委託を受けて2006年からスタート。今回も、学校や映画祭や映像関連団体などから推薦された中から3人の監督が厳選され、最終課題である35ミリフィルムでの短編映画(約30分)に挑戦します。第一線で活躍中のプロのスタッフと共に本格的な映画製作できるという、大変貴重な機会が与えられるのです。


このプロジェクトからは、先ごろ公開された『あのこは貴族』の岨手由貴子(そでゆきこ)監督も輩出されています。「東京」で生きる立場の違う二人の若い女性の生き方を、鋭い洞察力と瑞正な映像センスで観る者の心を掴む秀作です。他にも、『湯を沸かすほどの熱い愛』で数々の賞に輝いた中野量太監督や、『トイレのピエタ』の松永大司監督、さらに『嘘を愛する女』の中江和仁監督や、『パパはわるものチャンピオン』の藤村享平監督、そして『おいしい家族』『君が世界のはじまり』のふくだももこ監督などを輩出して、映画ファンも業界人も注目するプロジェクトです。


今年はどんな若手監督に出会えるのか?――日本映画の次世代を担う新たな才能、3人の監督に作品に込めた想いや作品についてご紹介したいと思います。



 

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■監督:植木咲楽(UEKI SAKURA)

■作品名:『毎日爆裂クッキング』

■作家推薦:PFF
■制作プロダクション: アルタミラピクチャーズ
■出演: 安田聖愛 肘井ミカ 駒木根隆介 今里真 小日向星一 大谷亮介 渡辺えり

■製作総指揮:松谷孝征(VIPO理事長)■プロデューサー:土本貴生 
■撮影:柳島克己
(2021年/カラー/スコープサイズ/30分/©2021 VIPO)


【あらすじ】
ndjc2020-「毎日爆裂クッキング」-pos.jpg味覚障害に苦しむ相島文(安田聖愛)は、あらゆる調味料をかけて無理やり食べていた。それというのも、<食>の情報誌『織る日々』の編集者として働く文は、上司・皆月によるパワハラ、というより執拗なイジメに遭っていたのだ。文が手掛ける連載記事「畑食堂」は読者や上層部にも好評なのだが、それを皆月は妬んでいるのか、文だけに嫌がらせをしていた。同僚は知らん顔、誰も助けてくれない。もうストレスゲージはMAX!そんな時に空想するのが、キッチンで大暴れする憧れのエッセイスト・芳村花代子(渡辺えり)だった。


食についての編集者が味覚障害とは!? ある日、取材に訪れた農家の妻に見破られ、益々自分を追い込んでしまう。さらに、文が敬愛する芳村花代子が出版社に打合せにやってきて、連載記事「畑食堂」のファンだと言われ大喜びする。ところが、なんとその記事の担当者はいつの間にか皆月になっていたのだ。大好評の自信作を皆月に横取りされて、ついに文の怒りが爆裂する!

【感想】
ストレスを抱えながら生きている人が多い現代、にっちもさっちも行かなくなることもあるだろう。だが、自分を追い詰める前に、まずはその原因となる障害に立ち向かおうよと、勇気をくれるような作品。明らかに理不尽なことを強要されれば我慢も限界となる。立場の弱い人々が置かれた現状に着目し、ストレスからくる障害も妄想シーンを交えてユーモラスに描出。さらに、青々とした田園風景の中で作物への愛を語るシーンからは、得意分野で輝ける希望を感じさせてくれる。キッチンで爆裂する渡辺えりが痛快!


【植木咲楽監督のコメント】
ndjc2020-inta-ueki-1.jpgベテランのプロの方々との初めての大規模撮影に緊張しましたが、皆さんに支えて頂いて心から感謝しています。また、渡辺えりさんに出演して頂けたことはとてもラッキーでした。可愛い衣装選びも楽しかったです。

元々「食」をテーマにした作品を撮りたいと思っていたので、コロナ禍で時間が出来たこともあり、今までの想いを全部詰め込んで書いてみました。

テーマについては、昨今の状況や自分の人生の中で、罵倒されたり不当な扱いを受けたりして心に傷を負うことも多くなってきて、そんな重い空気を笑い飛ばせるようなコミカルなテイストの作品を目指しました。

できるだけ重くならないように、弱っている人を追い詰めないように、最悪の事にはならないように、頑張っている人に失礼にならないように、人を傷付けることにならないように、というような事を大事にしながら書きました。

私は自然がある所に惹かれる性質のようで、今回の農家のシーンは、企画の段階から三浦半島で撮りたいと希望しました。豊かな自然を背景にした映画を撮っていきたいです。ラッセ・ハルスレム監督が好きなんですが、『ギルバート・グレイプ』や『サイダーハウス・ルール』でも自然の描写が活かされていると思いました。

今後は、なるべく誠実な映画を作っていきたいです。できれば、見過ごされてしまったり、蔑ろにされてしまいそうなもの、そういう経験で感じた悔しい思いや、また、そこから助けてもらった時の嬉しさとかを忘れないで映画を撮っていきたいと思っています。
 



【PROFILE】1995年大阪府生まれ。
京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)映画学科にて、高橋伴明、福岡芳穂らより映画制作について学ぶ。監督・脚本を務めた卒業制作『カルチェ』がPFFアワード2018にて入選、第19回TAMA NEW WAVEにてグランプリを受賞。大学卒業後は上京し、石井裕也監督のもとで監督助手を務め、映画・ドラマ・ドキュメンタリー作品の助監督および映像作家としても活動中。
 




ndjc2020-inta-kimura-2.jpg■監督:木村緩菜(KIMURA KANNA)

■作品名:『醒めてまぼろし』

■作家推薦:日本映画大学
■制作プロダクション: シネムーブ
■出演: 小野花梨 青木柚 遠山景織子 仁科貴 青柳尊哉 尾崎桃子
■製作総指揮:松谷孝征(VIPO理事長)
■プロデューサー:臼井正明、古森正泰 
■撮影:今泉尚亮
(2021年/カラー/ビスタサイズ/30分/©2021 VIPO)

【あらすじ】
ndjc2020-「醒めてまぼろし」-pos.jpg2009年、冬。高校二年生の清水あき子(小野花梨)は自宅から自分の学力で通える最大限に遠い都内の高校に通っている。家では眠れないあき子は常に睡眠不足で、教室や電車内でよく居眠りをしている。ある日、電車内で目覚めると、将棋に夢中になっている一人の少年・吉田(青木柚)が目に入る。吉田との出会いがあき子の暗くて単調な生活に変化をもたらすが、またしても共に過ごす時間が消え去ろうとする。

あき子は時々、昔一緒に住んでいた祖母の家に行って眠りにつく。と言っても、もう家は取り壊され更地になっているのだが、お構いなしに、優しい祖母との思い出に包まれるようにして地べたで寝てしまうのだ。そんな祖母を大切しなかった両親への反発もあり、家には居場所がないあき子にとって、そこが一番安心して眠れる場所だったのだ。

【感想】
大切な人を失って、その面影と温もりを求め過ぎて他を寄せ付けないこともあるだろう。ましてや、思春期のどうしようもない気持ちを持て余し、家族や級友らにも心を閉ざしてしまうこともあるだろう。そんな行き場のない気持ちを抱えた少女が、安心して眠れる場所を探すように他者とのコミュニケーションをとろうとする。その姿に冷ややかなニヒルさを感じさせる。終始仏頂面の少女と、安易な理解を拒むような展開は共感しづらいところもある。思春期の暗い面ばかりでなく、少女ならではの生命力はじけるようなシーンも盛り込んでほしかったなぁ。


【木村緩菜監督のコメント】
ndjc2020-inta-kimura-1.jpgコロナ禍での撮影は、マスクやフェイスシールドなどで相手の表情が見えにくく、気持ちも分かりにくかったように感じて、コミュニケーションを如何にとっていくかが大変でした。それでも、いろんな人が意見を言って下さったり協力して下さったりして作品ができたことにとても感謝しています。

テーマについては、「自分の居場所がないというか、帰る場所がないと思っている人が、どうやって一人で生きていったらいいのか?」と思った時に書いた脚本です。主人公は自己肯定感の低い少女ですが、過去の楽しかった思い出を拠り所にして、新たなコミュニケーションをとろうとしていきます。私が伝えたいテーマは分かりにくいと思うので、どこまで理解してもらえるか分かりませんが、自分の中でこれが正しいと思うことは曲げないようにしました。

好きな映画監督は、田中登監督や熊代辰巳監督に黒澤明監督、アンドレイ・タルコフスキー監督などが好きです。「感性が先行する映像派」と言われるかも知れませんが、今後は、言葉で説明できない感情をちゃんと映画にできたらいいなと思っています。
 



【PROFILE】1992年千葉県生まれ。

日本映画大学卒業。在学中からピンク映画や低予算の現場で働く。卒業制作では脚本・ 監督を務めた「さよならあたしの夜」を16mmフイルムで制作。卒業後は映画やドラマ、CM、MVなど様々な監督のもとで助監督として働く。
 




ndjc2020-inta-shigaya-2.jpg■監督:志萱大輔(SHIGAYA DAISUKE)

■作品名:『窓たち』

■作家推薦:PFF
■制作プロダクション:角川大映スタジオ
■出演: 小林涼子 関口アナン 瀬戸さおり 小林竜樹 里々佳
■製作総指揮:松谷孝征(VIPO理事長)
■プロデューサー:新井宏美 
■撮影:芦澤明子
(2021年/カラー/ビスタサイズ/30分/©2021 VIPO)

【あらすじ】
ndjc2020-「窓たち」-pos.jpg一緒に暮らして5年程が経つ美容師の朝子(小林涼子)とその恋人でピザ屋のアルバイトをしている森(関口アナン)。その関係性はもうときめくことはないが冷め切っているわけでもない。森には他の女性の気配がする上に、生活を向上させようとする意欲もない。このままこの関係を続けていいものだろうかと不安に感じ始めた朝子は、森に妊娠したことを告げる。

子どもがいる友人宅で父親としての自覚を感じ始めた森は、朝子に子どもを産んで欲しいと伝える。彼なりに正社員になろうとしたり女性関係を清算したりするが、朝子はなぜか冴えない表情のまま。そんな朝子が働く美容室に、森の彼女らしき女性がやって来る。笑顔で対応する朝子。その夜、朝子は森にある告白をする……。

【感想】
同棲も長くなると緊張感も薄れ不安がつのることもあるだろう。お互いの信頼感が揺らぎ始めると、相手の心を試したくなってくる。そんな二人の変化を日常の生活の一部分を切り取ったような描写は、微妙すぎて瞬時には理解しづらいところもあった。本当に一緒に生きていきたいのか、本当に必要な存在なのか、もう少し心情を吐露するようなシーンがあっても良かったのでは?と、単調なトーンで終始した展開にちょっと物足りなさを感じた。それでも、朝子役の小林涼子さんの美しさと芦澤明子カメラマンの陰影の効いた撮影に救われた気がした。


【志萱大輔監督のコメント】
ndjc2020-inta-shigaya-1.jpg私もプロの方々との大規模撮影に緊張しました。「監督」と呼ばれること自体初めてでしたので、監督としてどう振舞えばいいのか分からず戸惑いました。

テーマについては、「絶妙な男女のすれ違いを切り取ったストーリー」、自身の経験上、夫婦ではないが恋人同士とも違うという実感があったので、それを映画にできたらいいなと思って書きました。

設定の説明不足もあり、人物が登場するシーンなどで唐突に思われたシーンもあったかも知れませんが、基本的には脚本に忠実に撮影していきました。本当はもっと前の段階のシーンもあったのですが、30分に収めるが課題でしたので、どの段階から描き始めればいいのかと考えた結果、あのような構成になったのです。

好きな映画というか、何度も見返している映画は、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ザ・マスター』です。物語が好きという訳ではないのですが、無表情の登場人物をただ撮っているように見えて、心の中がありありと映し出されていくところが好きでよく観ています。他にホン・サンス監督も好きで、キム・ミニと一緒に撮っている作品が最高だと思います。

今後は、単純に霊感に興味があるので、そういうものを題材にした作品を撮ってみたいです。どんな撮り方ができるのか、とても興味があります。
 



【PROFILE】1994年神奈川県生まれ。

日本大学芸術学部卒。監督作「春みたいだ」がPFF2017、TAMA NEW WAVE正式コンペティション部門などに入選。また海外では、Tel Aviv International Student Film Festival(イスラエル)などに出品/上映された。現在はフリーランスの映像ディレクター/エディターとしてMVやweb CMを手がける一方、自主映画制作も行い、最新作「猫を放つ」(2019)が公開準備中。
 




★東京で開催された合評上映会のレポートはこちら▶ http://cineref.com/report/2021/02/ndjc2020.html



(シネルフレ・河田 真喜子)

 
 

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(2021年3月13日(土) シネ・リーブル梅田シネマ4にて)

ゲスト:柳楽優弥(主演)、KENTARO(監督)



自堕落な生活を送っていた青年が、

モンゴルの大草原を旅しながら成長していくロードムービー

『誰も知らない』以来の即興的演技に、手応えを感じる柳楽優弥

 

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年々目覚ましい活躍をみせる柳楽優弥・主演、モンゴルのスーパースター、アムラ・バルジンヤム共演、そして俳優でもあるKENTARO監督の初長編作品となる映画『ターコイズの空の下で』は、モンゴルを舞台にした日本・モンゴル・フランスの合作映画である。2月26日から東京をはじめ全国順次公開されているが、関西では3月12日(金)に公開初日を迎え、13日(土)にシネ・リーブル梅田にて、柳楽優弥とKENTORO監督による舞台挨拶が行われた。


緊急事態宣言下の東京の映画館と違って、満席となった客席を見てお二人とも嬉しそう。ドイツのマンハイム・ハイデルベルク国際映画祭では、「FIPRESCI(国際映画批評家連盟賞)」と、“型破りかつ表現力に優れた作品”に贈られる「才能賞」の二冠に輝いている。その映画祭での熱気を思い出したのか、モンゴルでの撮影秘話やお互いの意外な得意技を披露し合ったり、柳楽優弥は監督に促されてタップダンスを踊って見せたりと、思わぬ特典満載の楽しい舞台挨拶となった。
 


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【STORY】
大企業の経営者を祖父に持つタケシ(柳楽優弥)は、祖父の三郎(麿赤児)からモンゴルへ人探しに行くように言われ、アムラ(アムラ・バルジンヤム)というちょっと得体の知れないガイドと共にモンゴルへ行く。東京で自堕落な日々を送っていたタケシにとって、携帯も通じない、言葉も分からない、迷子になって狼に遭遇するなど、カルチャーショックと共に死ぬほどの思いをしながら、物質的なものではなく精神的な豊かさの中で成長を遂げていく。


タケシの旅には、祖父の若き日の悔恨の想いが込められていた。第二次世界大戦後に捕虜としてモンゴルで強制労働に就かされていた祖父は、モンゴルの女性との間に娘を儲けていたのだが、帰国後行方知れずとなっていた。タケシにとって祖父の娘を探す旅は、祖父が辿った道を追体験する旅と重なり、雄大な大自然の中で暮らすモンゴルの人々の大らかさや逞しさに触れながら、人間として大きく成長していくのである。
 


(以下は舞台挨拶の模様です。)

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――柳楽さんは、3か国の合作映画に参加されて、こうして公開されたお気持ちは?

柳楽:僕にとって初めての合作映画で、スタッフさんやら5か国語ぐらいの言葉飛び交っている現場でした。こうして皆さんに観てもらえて本当に嬉しいです。物質的な豊かさではなく精神的な豊かさで成長していくタケシを観て、楽しんで頂けたら嬉しいです。


――KENTARO監督は、初めての長編作品ということですが、『ターコイズの空の下で』というタイトルに込めた想いは?

K監督:モンゴルの詩人が「Oyuu」という言葉を使っておりまして、「ターコイズ」という意味なんですが、とても美しい言葉だなと思ったんです。

 

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――現地でそのターコイズの空をご覧になった訳ですが、如何でしたか?

柳楽:とても綺麗でした。

K監督:私が住んできた町というのは、東京もそうですが、海抜40m位しかないような所ばかりで、モンゴルは標高が高くて、ウランバートルでも1400m近くあるんですよ。さらに田舎へ行って撮影した所は2600~3000m位の所で、空気も薄くて雲がすぐそこにあって、星が近くてとても綺麗に見えました。プラネタリウムではない、本物の美しさがありました。


――ゲルでの生活がひと月近くあったようですが、一番印象に残っていることは?

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柳楽:アムラに教えてもらって、プレイリードッグを解体して焼いて食べました。僕も馬には乗れますし、アムラも200頭位の馬を持っているような人なんですが、監督の乗馬テクニックにはびっくりしました。ヒューっと急停止する時などプロ級のテクニックなんですよ。監督から乗馬の指導もしてもらいました。監督は、『タクシー』や『ラッシュアワー』にも出演されている俳優としての面もあるし、監督業も大学で学んでおられていて、いろんな知識もあるし、大好きです!

K監督:僕も大好きです。柳楽君を、“作った役”ではなく、一番ピュアな状態で見せられてとても嬉しかったです。演技は作って一方的に見せるものではなく、役者と役者との間にできたエネルギーで創り上げるものだと思います。この映画の評価はこれからですが、柳楽君と一緒に映画製作の体験できてとても嬉しいです。


――主人公のタケシは忘れられない経験をして成長する訳ですが、柳楽さんにとって忘れられない経験とは?

柳楽:沢山ありますが、節目節目で厳しく指導して下さった方々にお会いできたことです。デビュー作『誰も知らない』では是枝裕和監督に、その後の舞台『海辺のカフカ』では蜷川幸雄先生にとても厳しく指導して頂いて、成長にできたかな?と思っています。それから護身術の道場の先生にも厳しく指導されています。

――厳しくされた方がいいんですか?

柳楽:勿論、褒められた方が嬉しいのですが、厳しくされると「燃えてんな!」と熱くなってくるんです(笑)。

――KENTORO監督とはどうでした?

柳楽:厳しいとか怒る訳ではないのですが、目指しているもののハードルが高くて、そういう人と一緒にいると自分も成長できるような気がして、とても楽しかったです。撮影後も電話で相談するぐらい仲良しです。

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――KENTARO監督から見て柳楽優弥さんはどんな俳優ですか?

K監督:彼はとてもピュアで素直な人です。それは役者にとってとても大事なことだと思います。それに、彼は今英語を勉強していますので、今後は海外でも活躍する姿を見られると思いますよ。

柳楽:4か国語を喋れる監督は、何語が一番得意なんですか?

K監督:フランス語かな?今は日本語を何とか喋ってるけど、時々変な喋り方をすることがあります(笑)

緊急事態宣言が終わって、こうして大勢の皆さんに映画を観て頂いて本当に嬉しい。客席が空いていると、本当に寂しいですよ。私たちはドイツのマンハイム映画祭にこの映画を出品したのですが、700人位の満員の観客のエネルギーを感じることができました。何かを表現して映画を創るということは、こういうことなんだなと思いました。映画は一人で観るものではなく、エネルギーを感じながら楽しむものだと思います。


turquoise-bu-500-2.JPG――ここで、モンゴルの大スター、アムラさんからスペシャルメッセージを紹介。

アムラ:長い旅の最後に日本の皆様に映画を観て頂いて嬉しいです。

――アムラとの思い出は?

K監督:アムラはあんな低い声をしているので、学生の頃、「容姿的に無理だから役者辞めた方がいい」なんて言われたそうです。

――ええ!? モンゴルのスーパースターなんでしょう?

K監督:でも彼は諦めずに努力して、英語もマスターして、今ではハリウッドでも活躍するモンゴルのトップスターになったんです。街を歩いていても、5分も経たない内呼び止められて、「一緒に写真撮ってくれ」と言われるようです。

柳楽:アムラに「ブラザー」なんて言われちゃって嬉しい!ハリウッドでも活躍している人ですからね。ロケ先でも、アムラが頼みに行くと「OK」ということもあったりして、国民的大スターですよ。

――アムラさんから刺激を受けたこととは?

柳楽:男らしく、優しくて知的な人で、ほんとカッコ良いんです!背中を追い掛けたくなるような人です!


turquoise-bu-500-1.JPGK監督:ここで柳楽君の踊りを見せたい!

柳楽:ええ!? 急に何ですか?

K監督:映画の中の踊りはアドリブで動いてくれたんですが、実は彼はタップダンスが上手いんです。

(と、監督に促されて、戸惑いながらタップを踊る柳楽。)

柳楽:実は、『浅草キッド』という映画の撮影で、只今タップダンスを練習中なんです。

K監督:同じ「タケシ」同士ですので、よろしく!(笑)


turquoise-pos-2.jpg――最後のメッセージを。

柳楽:今日はドイツのマンハイム映画祭での満席を思い出すようで嬉しい気分です。精神的豊かさでタケシが成長する姿を楽しんで下さい。『浅草キッド』のタケシもよろしく!(笑)

K監督:ちょっと変わったファンタジーというか、寓話的な作品ですが、皆さんの感想をお聞きしたいです。SNSなどに投稿して下さいね。よろしくお願いします。
 


『ターコイズの空の下で』

監督・脚本・プロテューサー:KENTARO
出演:柳楽優弥 アムラ・バルジンヤム 麿赤兒 ツェツゲ・ビャンバ
2020年製作 日本・モンゴル・フランス合作 上映時間:95分
配給:マジックアワー マグネタイズ
公式サイト:http://undertheturquoisesky.com

(C)TURQUOISE SKY FILM PARTNERS / IFI PRODUCTION / KTRFILMS

2021年2月26日(金)~新宿ピカデリー、3月12日(金)~シネ・リーブル梅田、アップリンク京都、MOVIXあまがさき、4月9日(金)~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開


(河田 真喜子)

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