レポートインタビュー、記者会見、舞台挨拶、キャンペーンのレポートをお届けします。

「この作品の中に佐々部監督の魂がきっちり入り込んでいる」 『大綱引の恋』西田聖志郎さん(企画、プロデューサー、出演)インタビュー

『大綱引の恋』西田さま(シネルフレ江口).jpg
 
 
「この作品の中に佐々部監督の魂がきっちり入り込んでいる」
『大綱引の恋』西田聖志郎さん(企画、プロデューサー、出演)インタビュー
 
 心温まる家族ドラマを数多くてがけてきた名匠、佐々部清監督の最新作にして遺作となる鹿児島県薩摩川内市を舞台にした『大綱引の恋』が、5月7日の全国公開を前に第16回大阪アジアン映画祭の特別招待部門作品として、関西プレミア上映された。
 薩摩川内市で400年の歴史を誇る大綱引に青春をかける青年・武志と、韓国からやってきた女性研修医・ジヒョンとの恋だけでなく、薩摩川内市と大綱引が縁で姉妹都市盟約を結んでいる韓国・昌寧(チャンニョン)郡との交流も描かれる。
 三浦貴大が武志を演じ、見事な一番太鼓を披露するほか、知英が武志一家と交流する研修医ジヒョンを好演している。比嘉愛未や升毅など佐々部組の常連俳優も顔を揃え、軽快かつ味わい深いヒューマンドラマに仕上がった。迫力の大綱引シーンはまさに圧巻だ。
 本作の企画、プロデューサーを務めるだけでなく、武志の父を熱演。長年、佐々部監督と交流の深かった西田聖志郎さんにお話をうかがった。
 

 

■佐々部監督とは共に遅咲き、シンパシーを感じた仲間

―――まずは佐々部監督との出会いについてお聞かせください。
西田:佐々部監督が44歳でデビュー作『陽はまた昇る』を撮ったのですが、僕は当時46歳でそのオーディションを受け、いわば東映の大作で役名がつくような役をいただけた。監督も長年助監督を務めた遅咲き組ですし、同世代として昭和のいい時代に青少年期を過ごしたという意味でも、シンパシーを感じたんですよ。ただ失礼なことをしたと思うのが、オーディションで、中央に監督と思しき方がが座っていて、周りをチョロチョロしている人がいて、その人は助監督なんだろうなと思っていたら、実はそれが佐々部監督で、僕が監督だと思い込んでいたのは、大御所カメラマンの木村大作さんだったんです。その後何年経っても、佐々部監督からそのことを言われてましたね(笑)
 
―――その後、佐々部監督とは『六月燈の三姉妹』でプロデューサーとして初タッグを組まれましたね。
西田:『六月燈の三姉妹』は僕が構想を練り、全国で上演した舞台です。再演した2011年に、違う映画製作会社の3人のプロデューサーが別々に観劇し、3人とも映画にしたら面白いのではと仰ったので、映画に向いているのかと僕もその気になったんですよ。佐々部監督しかいないと思い、演劇の台本を読んでもらい、公演映像を観て頂いたら面白いと快諾してもらえ、僕の初プロデュース作品でタッグを組むことが実現しました。
 

SS4_Love and the Grand Tug-of-war_main.jpg

 

■薩摩川内市と昌寧(チャンニョン)郡の関係を通して日韓の交流を描く

―――今回の大綱引は、西田さんご自身も馴染みの深いものだったのですか?
西田:僕は鹿児島市出身なので、川内大綱引のことを新聞やテレビのニュースでしか知りませんでした。『六月燈の三姉妹』が海外で上映される中、5カ国8都市を僕一人で行ったり、監督とともに周ったりしたのですが、鹿児島の経済界から依頼を受け、その体験記を「映画により鹿児島の魅力を世界に発信」という演題で県内3ヶ所で講演したことがあり、その中の一つが薩摩川内市でした。その時、「薩摩川内には400年の歴史を誇る大綱引がある。これを、どげんかして映画にできんですか?」と声をかけられ、その年の川内大綱引にお招き頂いたのです。3000人の男たちが本当に死に物狂いで激闘している姿を見ながら、この人たちそれぞれに家族や恋人がいるだろうし、その一人にスポットを当てながら主人公を取り巻く人間模様を描くと、面白いドラマができるのではないかと閃いたんです。
 
薩摩川内市は、綱引がご縁で韓国の昌寧(チャンニョン)郡と友好都市盟約を結んでおり、私も2018年の交流ツアーに同行させて頂いたのですが、国同士がどれだけギクシャクしていても、大綱引保存会の人たちは毎年交流していて、親睦を深めているんですよ。佐々部監督も『チルソクの夏』『カーテンコール』と韓国との交流を描く作品を撮っていますし、その関係性も映画の中に取り入れようと思っていました。また主人公、武志の相手役となる知英さん演じる韓国からの研修医・ジヒョンがどのように武志の家族に受け入れられていくかも最初からイメージができていたんです。そういう意味でも、日韓の交流を描いた『大綱引の恋』を大阪アジアン映画祭に呼んでいただけたのは本当に意義深いし、佐々部監督も喜んでおられると思います。
 
 
SS4_Love and the Grand Tug-of-war_sub1.jpg
 

■2年がかりで撮影した迫力の大綱引シーン

―――大綱引シーンの迫力に圧倒されましたが、どのように撮影されたのですか?
西田:2年がかりで撮りました。年に一度、秋分の日の前日に大綱引が開催されるのですが、その翌日から次の年に向けての人数集めが始まります。両チームとも綱の長さに収まる約1500人ずつを集めることになります。それだけではなく、毎年365m、直径40cm、重さ7tの大綱を作るのですが、その材料となる縄作りも始まるんですよ。ちょうど稲の収穫の時期でして、藁を確保し始めるタイミングでもありますので、諸々の準備も含めて一年がかりの祭りなのです。

そんな祭りを撮影するのに、本番の祭りに役者を入れるのはとても危険なので、2018年、2019年の本番の大綱引を撮り、2019年は本番の6日後に、中央でぶつかり合っていた両チーム約200人ずつの大綱引メンバーに、今度はエキストラとして参加してもらったんです。双方の一番太鼓を叩く三浦貴大さんと中村優一さんが入って撮った時は、エキストラの皆さんも本番さながらの熱気で挑んでくれました。

 
―――佐々部監督も相当気合が入ったシーンだったのでは?
西田:亡くなった佐々部監督も大綱引シーンは全神経を集中させて挑んでいました。国道3号線を封鎖して行う祭なのですが、国道を全面封鎖する祭は日本でも数少ないし、前週に本番をやったばかりなので、まずは警察に必死でお願いして、なんとか18時から22時まで時間を確保したのです。限られた時間の中で撮りきらなければいけない緊迫感がある中、佐々部監督は助監督経験が長かったので、段取りが全て頭の中に入っていたんですね。だから、きっちりと決められた時間内に撮影することができました。
 
―――大綱引の要となるのは一番太鼓ですが、三浦さんは相当練習されたのですか?
西田:三浦さん、中村さんに加え、一番太鼓経験者である父親役の僕も、写真だけしか登場しませんが、一緒に練習しました。実際に一番太鼓を経験された方々が指導をしてくださるのですが、皆さん、三浦さんは最初から上手いと褒めていましたね。大綱引では2時間近く叩き続けなければいけないのですが、「太鼓を掲げた手が下がったら負けだ」というプレッシャーがある中で、二人ともよく頑張ったと思います。一番太鼓は一生に一度のことですし、その人選については何年も前から取り組む姿勢などを先輩たちがしっかり見ているんですよ。今回、三浦さんは鹿児島弁に加え韓国語を喋るシーンもあり予習が多い現場でしたが、どれもしっかりとマスターされていました。
 

SS4_Love and the Grand Tug-of-war_sub2.jpg

 

■佐々部監督と作品作りの根底で共通していたのは「家族がテーマ」

―――一番太鼓をかけた青春物語だけではなく、家族模様を細やかに撮りきったのも、佐々部監督ならではだなと痛感します。
西田:これまでの僕のプロデュースする作品も家族がテーマですし、佐々部監督も家族をテーマにした作品を多く手がけてこられた。そういう面でお互い作品作りの根底で共通している部分があります。ただ、脚本のことなどで意見が対立することはもちろんあって、僕は、父親が息子の武志を呼び、ジヒョンとの交際を反対する場面を入れ、綺麗ごとではない日韓の間にある壁を描こうと思っていました。でも佐々部監督は直接的な方法ではなく、次のシーンの、病院でジヒョンが席を外している時の妻と娘との会話の中でそれを表現したのです。最終的には佐々部監督が気持ちよく撮れることが一番なので、信頼してお任せしましたね。
 
―――今まで佐々部監督と一緒に仕事をされてきた中で、思い出深いエピソードはありますか?
西田:まず驚いたのは、佐々部監督は撮影初日に全スタッフの名前を覚えているんですよ。助監督でもサードやフォースの人が自分の名前を覚えてもらっていれば、そりゃ頑張りますよね。ご自身の助監督時代が長かったからこそそうなれるし、一方若いスタッフの成長のために厳しく叱咤する時もある。佐々部監督の作品を見て温かい気持ちになれる根底には、その愛情深さがあるんですよ。佐々部監督と接した中で、深く心に響いたことですね。

■この作品の中に佐々部監督の魂がきっちり入り込んでいる

―――佐々部監督らしさが詰まったまさに集大成で、コロナ禍でしばらく川内大綱引の本番を迎えることが難しい今、本当に大きな役目を果たす映画となりそうですね。
西田:佐々部監督は街の人たちともすぐ仲良くなるし、必ず一緒に飲むんです。この作品は我々が東京から遠征し、単にロケ地として薩摩川内市で撮った映画ではなく、エキストラ、ボランティア合わせて1000人近い方が現場に携わってくださり一緒に作り上げた映画ですから、市民の皆さんもスタッフであり出演者なんです。佐々部監督は昨年の3月31日に亡くなった時点で、本作に関しては監督としての仕事を全てやり終えていました。しかし、ポスターやチラシ作りにおいて監督の意見を伺いたくて、亡くなる数日前まで頻繁にメールでやりとりをしていたのです。だから訃報を聞いた時は全く受け入れられず、脳も感情も時が止まったかのようにシャットダウンしてしまった。その事実を受け入れたくなかったんでしょうね。でも、この作品の中に佐々部監督の魂がきっちり入り込んでいるし、作品という形で監督は生きている。だんだん、そう思えるようになりました。今は監督の代わりに舞台挨拶やインタビューなどでお話しさせて頂くこともありますが、この作品について実際にあったことをそのままお話すれば、それだけで佐々部イズムが伝わると思っています。
 
(江口由美)

 
<作品情報>
『大綱引の恋』(2020年 日本 108分)
監督:佐々部清
出演:三浦貴大、知英、比嘉愛未、中村優一、松本若菜、升毅、石野真子、西田聖志郎
2021年5月7日(金)より全国公開
公式サイト→http://ohzuna-movie.jp/
©️2020「大綱引の恋」フィルムパートナーズ
 

月別 アーカイブ