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2016年1月アーカイブ

nekoyon-s-550.jpg生き物を飼うことの大変さと喜びと。『猫なんかよんでもこない。』インタビュー

ゲスト:山本透監督、原作者の杉作先生
(2015年11月21日 大阪にて) 


『猫なんかよんでもこない。』
nekoyon-550.jpg・2015年 日本 1時間43分
・原作:杉作(「猫なんかよんでもこない。」実業之日本社刊/全4巻+その後(公式ファンブック))
・監督・脚本:山本 透  共同脚本:林 民夫
・出演:風間俊介、つるの剛士、松岡茉優、内田淳子、矢柴俊博/市川実和子(猫:子供時代(チンとクロ)、大人時代(のりこ、りんご))

2016年1月30日(土)~TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS) ほか全国ロードショー
公式サイト: http://nekoyon-movie.com/
・コピーライト:© 2015杉作・実業之日本社/「猫なんかよんでもこない。」製作委員会
★風間俊介と山本透監督の舞台挨拶レポートはこちら



~独りではない、猫と共に乗り越えられた逆境の日々~

 
『グッモーエビアン!』や『探検隊の栄光』と、家族や仲間との絆を熱いハートで描く山本透監督が、“大人が泣ける猫漫画”として注目されている元ボクサーの漫画家・杉作著の『猫なんかよんでもこない。』を風間俊介主演で映画化。猫嫌いな主人公が猫の面倒を看ながら徐々に自立していき、さらに逆境を乗り越えられるほど成長していく物語は、静かだけど熱い想いが余韻として残る山本監督ならでの手腕が光る映画である。


本作の公開を控え、山本透監督と原作者の杉作先生が来阪。気まぐれな猫を相手に苦労された撮影中の秘話や、原作と映画についてのそれぞれの想いをうかがうことができて、より映画『猫よん。』への親近感がわいてきた。 
 



【映画化の意図と主人公ミツオについて】
――― 原作のどういうところに魅力を感じたのですか?
山本監督:まず、猫の描き方が愛玩動物的ではなく対生き物として対等に描かれて新鮮に感じられたことと、4コマ・8コマ漫画ですがとてもドラマチックな物語だったことです。猫嫌いなプロボクサーが猫の面倒を看させられて、さらに挫折を経て漫画家を目指すなんてよくある話ではなく、それが実話というところにも魅力を感じました。猫を撮るのは大変だということは分かっていましたが、とても感動した原作だったので、これは是非映画にしたいなと思いました。

――― 時代設定は?
山本監督:ちょっと前くらいです。DVDよりVHSを持っていたり、「あしたのジョー」とか読んでいる世代だったり、ブラウン管TVだったりしますが、昔の映画ですよと売りたかった訳でもないので、ぼやかしています。

――― 主人公のミツオをどんな若者と解釈して描いたのですか?
山本監督:人間そんなに簡単に変われるものではないので、ボクシングを諦めたからといってすぐに次の目標が見つかる訳でもない。それでも、猫の存在によって生きていくために何かしなければと前向きに物事を考えるようになる。簡単ではないが、そんな生き方ができる若者だと思いました。

 



【猫の撮影について】
nekoyon-s-240-di-1.jpg――― 飼い猫がこの映画を見てとても喜んでいたのですが、猫をこのようにリラックスして撮る秘訣は?
山本監督:秘訣という秘密兵器のようなものはなく、極力猫に合せただけです。2~3週間という短期間での撮影でしたが、猫がどんな状態かしっぽを見れば分かってしまうので、撮影現場となったアパートにも早めに入って慣れさせたり、お腹が空いたらエサをあげたり、できるだけ猫のリズムに合わせるようにしました。そのため役者さんやスタッフが大変だったと思います。突然「このシーンを撮るぞ!」と始めたり、「猫がどんな状態だろうがそのまま芝居を続けるように」と言ったり、アドリブもありで風間君も現場も大変でした。だからこそ、自然な猫の姿が撮れたんだと思います。

――― 風間さんと猫とのやりとりはアドリブが多かったのですか?
山本監督:そうですね。テレビから猫が落ちるシーンも、風間君の真剣な演技に猫が応えたというか、生き物対生き物の自然な反応ですね。

――― 猫目線で撮るための工夫や、いい表情を捉えるために溜め撮りとかされたのですか?
山本監督:いろんな猫の映画を見てきたのですが、猫の動きだけを切り離して撮ると温度が伝わらない気がしたんです。そこで、なるべく切り離さないで人間と一緒のシーンで撮るようにしました。

――― クロが病気になった状態はどうやって撮ったのですか?
山本監督:猫は基本濡らせば痩せて見えるので、猫用のトリートメントやヘヤワックスなどを使いました。目がしょぼしょぼして見えたのは、たまたまそんな状態の時の映像を使っただけで、何もしてないです。

――― 布団の中に入ってきたり舐めたりするシーンは、何か特別な工夫をされたのですか?
山本監督:あまり裏話はしたくないので書かないでほしいのですが(笑)、確かにちょっとした工夫はしました。でも、自然に舐めているシーンも沢山ありますよ。

――― 子猫時代のチン・クロは本当の捨て猫なんですか?
山本監督:スタッフの一人がもらってきて飼っている猫で、タレント猫ではありません。

――― 猫がとてものびのびしているように見えたのですが?
山本監督:トレーナーさんに預けても躾けられる訳でもないので、他のタレント猫たちと慣れさせたぐらいですね。

――― 猫のオーデションってどうするんですか?
山本監督:一応こんな猫が欲しいと伝えて沢山連れて来てもらったのですが、どれがどれだか分からなくなりました(笑)。一匹ずつ顔を撫でたりあやしたりしながら反応を見ました。人懐っこい猫かどうかで決めました。
 
 



【杉作先生と原作について】
――― 杉作先生は完成した映画を見てどう思いましたか?
nekoyon-s-240-sugi-2.jpg杉作先生:自分の頭の中のことが映画になったという不思議な感じでした。ほぼ実話ですので、映画の中に自分がいるみたいです。

――― 当時と比較して、今の状況をどう捉えておられますか?
杉作先生:今の状況がよく分からないんです(笑)。こうして映画になって不思議な感じなんですけど、今までにない面白さと驚きと、これも猫のお陰だなと改めて感じます。

――― 自分が映画になった感じは?
杉作先生:最初は違和感があったのですが、見始めたら映画は映画というひとつの作品の世界感を楽しみました。映画の中の自分は違うものと客観的に見ました。

――― ウメさんとか違う設定でしたが、拒否感みたいなものは?
杉作先生:それはなかったです。むしろ、自分もそうなったらいいなと、あんな所で働いてそういう出会いがあったらいいなと思いました(笑)。
山本監督:なるほどね、そういうこと初めて聞いた(笑)。

――― ウメさんとの出会いは、猫だけではなく明るさと温もりをもたらす重要な役ですが、事実とは違うのですか?
杉作先生:ウメさんは事実ですが、登場と設定の仕方が違います。
山本監督:1巻と2巻を合わせたような、いくつかの役を合せたようになっています。

――― この原作を映画にするには難しかったのでは?
山本監督:そうでもないですよ。1巻だけだとミツオの成長物語になるのですが、猫のことを教えてくれる人が必要だったので、猫の代弁者として大家さんやウメさんのキャラを膨らませました。

 



【山本監督の映画作りと本作について】
――― 過去の監督作品や本作から、現代人らしい絆を描くのが得意でいらっしゃるようですが?
nekoyon-s-240-di-2.jpg山本監督:極端な言い方をするとハッピーエンドの映画しか撮りたくないんです。映画館を出る時に気持ち良くありたい。映画文化そのものはいろんな作品があっていいのですが、自分は「明日も頑張ろう!」と思えるような作品を撮りたいと思っています。子供や孫たちにも気持ち良く見てもらえるような映画を撮り続けられたら幸せだと思っています。

――― 映画に独自性を持たせようと思って撮っているのですか?
山本監督:今度こうだったから次はこうしよう!というような考え方はしません。それぞれの作品に合った自分らしさが出ていればいいです。どこにでも転がっていそうな日常を描いているからこそ、そうでないものが潜んでいないかと探したりします。前作の『探検隊の栄光』では「くだらねえ!」と言ってほしかったし(笑)、「でもなんか熱いものを感じるよね」と思ってもらえたらいいなと。本作では、猫の可愛らしさだけではなく、避妊のことや病気のことなど、今まで避けられてきた問題も逃げないで描きました。生き物を飼うことの大変さをひとつひとつ描くことによって原作の良さに近付ける気がしたのです。

――― 猫を飼っている人にとっては「あるある」というシーンが沢山あったのですが?
山本監督:私自身今まで犬も猫も亡くした経験があり、今もまた猫を飼っていますが、原作の中でもグッとくるシーンが何度かありました。この映画をうちの3人の息子たちも見たのですが、「ちゃんとめんどうみるよ!」と言って、何だか知らないけど兄弟で話し合ってましたよ(笑)。

(河田 真喜子)



【STORY】
nekoyon-500-1.jpg猫嫌いのミツオ(風間俊介)は、兄貴(つるの剛士)が気まぐれで拾ってきた2匹の猫の世話をすることになる。ボクサーを目指し日々トレーニングしていたが、世界のリングまであと一歩というところで怪我のため挫折。それまで生活の面倒をみてくれていた兄貴は結婚を理由に田舎へ帰ってしまい、仕方なくアルバイトを始める。大家さん(市川実和子)やバイト先で知り合ったウメさん(松岡茉優)に猫のことを教えてもらいながら、猫と共に生きて行く。極貧の中でも独りではない。気まぐれな猫・チンとクロに振り回される日々を送るも、次第にミツオ自身の新たな目標掴んでいく。


【山本透監督プロフィール】やまもととおる
1969年生まれ、東京都出身。武蔵大学を卒業後、TV番組制作会社勤務を経てフリーランスの助監督になる。以後、ドラマや映画など多数の作品作りに関わり、山崎貴、利重剛、平山秀幸、中村義洋などの助監督として活躍。

長編映画初監督作は2008年の『キズモモ。』(脚本も担当)。2012年には麻生久美子と大泉洋が競演したホームコメディ『グッモーエビアン!』がスマッシュヒット。同作でヒロインの三吉彩花に第67回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞をもたらした。2015年10月16日に公開した冒険コメディ『探検隊の栄光』では藤原竜也とタッグを組んでいる。現在、短編映画『Do You Belive in Love?』の編集中。


【杉作先生プロフィール】すぎさく
元プロボクシング選手という異色の経歴をもつ人気マンガ家。新潟県新潟市(旧亀田町)出身。
1999年『イモウトヨ』で青木雄二賞受賞。
2000年『クロ號』でマンガ家デビュー。『猫なんかよんでもこない。』他、著書多数 

nekoyon-550.jpg風間俊介「出会えて良かったと思える映画」『猫なんかよんでもこない。』舞台挨拶

ゲスト:風間俊介、山本透監督
(2016年1月21日 大阪にて)


『猫なんかよんでもこない。』
・2015年 日本 1時間43分
・原作:杉作(「猫なんかよんでもこない。」実業之日本社刊/全4巻+その後(公式ファンブック))
・監督・脚本:山本 透  共同脚本:林 民夫
・出演:風間俊介、つるの剛士、松岡茉優、内田淳子、矢柴俊博/市川実和子(猫:子供時代(チンとクロ)、大人時代(のりこ、りんご))
2016年1月30日(土)~TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS) ほか全国ロードショー
公式サイト: http://nekoyon-movie.com/
・コピーライト:© 2015杉作・実業之日本社/「猫なんかよんでもこない。」製作委員会
★山本透監督と原作者の杉作先生へのインタビューはこちら



~気まぐれな猫に翻弄されながらも、心地いい撮影現場~

 

元ボクサーの漫画家・杉作著の『猫なんかよんでもこない。』を風間俊介主演で映画化した作品が1月30日(土)に全国公開される。猫嫌いの主人公ミツオが人生の挫折や低迷期を猫と暮しながら乗り越える物語は、猫でも犬でも人でも誰かと一緒に暮らすことは、決して良いことばかりではないが、生きる力が沸いてくる――と優しく教えてくれる。それは、猫を抱いてまどろむ休日の朝のような穏やかな余韻を残す映画だ。


nekoyon-bu-di-1.jpg猫嫌いのミツオ(風間俊介)は、兄貴(つるの剛士)が気まぐれで拾ってきた2匹の猫の世話をすることになる。ボクサーを目指し日々トレーニングしていたが、世界のリングまであと一歩というところで怪我で挫折。それまで生活の面倒をみてくれていた兄貴は結婚を理由に田舎へ帰ってしまい、仕方なくアルバイトを始める。極貧の中でも独りではない。気まぐれな猫・チンとクロに振り回されながらも、猫のためにも働いて生きていかなければならない。次第にミツオ自身の新たな目標も見えてくる……。


映画の公開を前に、風間俊介と山本透監督が試写会の舞台挨拶に立ち、大阪についての印象や撮影現場の様子など多くを語ってくれた。タイトル通り呼んでもこない気まぐれな猫に振り回されっぱなしの撮影現場だったようだが、主人公のミツオのように猫のペースに合わせると上手く撮影できたとか。猫と風間俊介との自然体の映像は、奮闘の結果、猫と暮らすように接した成果だった事に気付く。



――― 大阪では初めての試写会ですが、大阪の印象は?
風間:以前谷町四丁目に住んでいましたので、大阪に来ると「帰ってきた!」という感じになります。今日こうして黄色い歓声が聞こえてくると、ジャニーズ業をやってない僕としてはとても嬉しいです。ありがとうございます。
山本監督:お客様を目の前にしてとても嬉しいです。漫才やらなくてもいいのかな?
風間:大丈夫です!それは求められていませんから。
山本監督:やはり大阪は食べ物が美味しいですね。

――― お気に入りの食べ物や場所とかは?
風間:僕は谷町四丁目辺りだけ異常に詳しいですよ。谷六に「蔦屋」というミシュラン一つ星をとった蕎麦屋があるんですが、そこの「鴨せいろ」がメチャクチャ美味しんですよ!
山本監督:食べたいな~以前『ミナミの帝王』という作品をやっていた時に年に2回くらい大阪に来てました。十三にあるネギ焼きの美味しい「やまもと」へ行って、ネギ焼き食べてビール飲むのが最高の癒しになってましたね。前回キャンペーンで大阪に来た時何年かぶりに行ったのですが、ビール2~3杯飲んだら「はい、新幹線に乗って下さい!」と言われてゆっくりできませんでした。なんせ日帰りさせられたので。今回はゆっくりできそうです。

――― 風間さんは仲良しの芸人さんがおられるとか?
風間:去年天神祭に一緒に行った鶴瓶師匠です。噺家さんが乗る船に乗せて頂いて、それが道頓堀のど真ん中で降りたんですよ。すると鶴瓶師匠だとバレちゃって大騒ぎになったんです。危ないことになったので、その時まだバレてない僕が「すいません!危ないですから道を空けて下さい!」と言ったらバレちゃって、めんどくさいことになっちゃいました(笑)。
 

――― 完成した映画を見てどう思われましたか?
風間:観客としても出会えて良かったなと思える作品だと思いました。そしてエンドロールに自分の名前が一番先に出てきて、それまで頑張った自分がとても誇らしく感じられました。自分が主役の映画を褒めるのは恥ずかしいのですが、猫たちが主役だと思えば胸張って言えるなと。この映画は本当にいい映画なので、どうぞ楽しんで下さい。

――― 撮影から1年を経てこうしてお客様に観て頂くことができましたが、今のお気持ちは?
山本監督:本当に嬉しいです。どんなにいい作品を作ってもお客様に受け入れて頂かなくては意味がありませんので、この1年は悶々と過ごしていました。今こうしてご覧いただけることが本当に嬉しいです。

――― 主題歌「Morning Sun」を描き下ろしたのは、大阪出身の最強ガールズバンドのSCANDALですが、監督から何か特別にリクエストされたことはありますか?
山本監督:物語が終わってすぐに流れる曲によっては作品を台無しにする危険性があるので、物語に寄り沿った曲にしてほしいとお願いしました。
風間:ホント、猫と一緒に寝ているような、日曜の午前中まどろんでいるような感じの曲だなと思いました。
――― 「Morning Sun」というタイトルで、朝日が差し込むような心地良さの曲ですね。映画の公開日と同じ1月30日から配信が決定いたしましたので、こちらもチェックしてみて下さい。

――― さて、猫との共演は大変だったのは?
nekoyon-bu-di-2.jpg風間:一緒に生活するように撮影されましたが、あいつら台本覚えてこないし、先輩である僕に対して敬意をはらわないし、言う事きかないし、振り回される事ばかりでした。すべてが物語とリンクすることばかりでしたので、とても心地よく撮影できました。
山本監督:どこが大変だったかとよく聞かれるのですが、全部でしたね。
風間:呼んでも来ないし、呼んでない時に来るし(笑)こうなったら猫の動きに合わせようということになって、それが功を奏したと思います。
山本監督:人間の方が猫の動きに寄り沿うようにしました。台本を超えるような瞬間が何度もありました。
風間:僕が猫の動きにびっくりしているシーンがありますが、それは本当にびっくりしていたんです。真摯な気持ちで演じると猫もそれに応えてくれましたが、生半可な気持ちで演じているとソッポを向かれるので、最も厳しい共演者だったと思います。

山本監督:風間君の熱を感じてよく応えてくれてましたね。そうしたリアクションはいくつもありましたよ。
風間:クロがテレビから落ちるシーンがあるのですが、あれは「チャンピオンになれ!」という僕の語気だけで落ちちゃったんです(笑)。

――― 松岡茉優さんとの共演は?
風間:現場を柔らかい空気にしてくれました。撮影時は19歳ですが、僕を同年齢だと思わせてくれるくらい安心させてくれる女優さんです。彼女の撮影は2日で終わったんですが、あの気まぐれ猫たちを見て「可愛いね~」なんてホクホクで帰っていきましたよ。それにうちの猫たちは松岡の前だと超イイ子だったんですよ(笑)。
山本監督:何の苦労も知らずにね(笑)。「大変だったんだよ」と言っても、我々がいけなかったんだろうと悪者にしてるんですよ。

――― この映画は、猫との出会いが人生を大きく変えるキッカケになりましたが、風間さんにもそんな出会いがありましたか?
風間:17歳の時に芝居に出会ったことでしょうか。『金八先生』に出演してなかったら、ジャニーズで歌って踊ってもしてないだろうし、一体今頃何をやっているんでしょうねぇ。

山本監督:俳優としての風間君しか知らないので、想像もつかないね。

――― チャレンジする人生の選択という意味で、これまでの経験が活かされたことは?
風間:自分が動物に対する気持ちが杉作先生の原作に共感できたので、自分の経験から出てきたものは沢山ありました。


――― これからご覧になる方へのメッセージをお願いします。
山本監督:猫好きの方は楽しみにして下さっていると思いますが、猫だけではなく、人と人でも一緒に生きていくことはきれい事だけではないので、可愛いだけの映画にはしたくないと思っていました。汚いこともきれいなこともいろんな事をひっくるめて、かけがえのない時間だったり愛しくなったり、心が温かくなる映画を目指して作りました。年齢に関係なくいろんな方に通じるものがあると思いますので、多くの方に薦めて頂きたいです。今日は本当にありがとうございました。
風間:人生の中でうまくいかないことや辛いことは誰でもあると思います。そばに人でも動物でも何かが居てくれることによって、その後の乗り越え方が変わってくると思うんです。大切な人を思いながら観て頂ける映画だと思いますので、多くの方に薦めて下さい。よろしくお願いいたします。

(河田 真喜子)

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家族がいるから足腰が強くなり、突き抜けられる『十字架』五十嵐匠監督インタビュー
 

~十字架を背負ったまま、それでも前を向いて生きる家族、そしてあなたの物語~

 

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自ら死を選んだ少年フジシュンの家族と、遺書に親友と書かれた同級生ユウとサユ。彼らがフジシュンの想いを背負いながら生きてきた20年の心の軌跡を綴った重松清の感動作『十字架』を、『地雷を踏んだらサヨウナラ』の五十嵐匠監督が映画化、2月6日より有楽町スバル座、シネ・リーブル梅田他で全国公開される。
 
学校での執拗ないじめの様子や、学校側の無責任な対応など、親の知らないところで起きているいじめの実態やフジシュンが追い詰められていく経緯がリアルに描かれている分、家族や主人公が抱えてしまう十字架の重さが説得力を持って胸に迫る。ユウとサユがフジシュンの家族に言えなかった秘密、ユウとサユのフジシュンの死に対する向き合い方のズレ、フジシュンの家族の心の葛藤など、彼らが前を向いて生きるようになれるまでの20年を見ていると、どこか私たち自身が背負っているものと重なり、最後には、すっと救われる気持ちになるのだ。
 
本作の五十嵐監督に、原作で惹かれた部分や、小出恵介、木村文乃、富田靖子、永瀬正敏ら俳優陣との役作り、キャスティングについて、お話を伺った。
 

 


■人は十字架を背負ったまま前向きに、強く生きるしかない。

―――原作は重松清さんの同名小説ですが、五十嵐監督が特に心掴まれた部分は?
五十嵐監督:人はみな様々な形で十字架を背負っています。自分が背負っている十字架について、あえて他人に語ることはないでしょう。それでも自分自身で足腰を強くし、生きていこうというのが、重松さんの原作で一番好きなところです。それは、「いじめのことで20年も悩む」ということを越えたところにあるのです。僕は東北人ですが、TV取材で石巻に行ったときに、全く復興されておらず、海側に亡くなった人に向けての花束だけが置いてあったのです。そのような状況の中で、どういって生きていくのかと考えたとき、様々な十字架を背負ったまま前向きに、強く生きていくしかないと思うわけです。
 
―――この作品は、「十字架を背負ったまま強くなる過程」を描いた映画でもありますね。
五十嵐監督:もっと言えば、家族のことも描いています。木村文乃演じるサユも、自分の誕生日が自殺したフジシュンの命日だということを、一生背負います。でも、結婚して生まれた自分の子どもが熱を出し、その子どもに愛情を注いでいるうちに、自分の誕生日も命日も忘れてしまう。サユは、子どもがいることで足腰が強くなった。そういうことを、僕が描きたかったのです。
 
 
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■ドキュメンタリー出身ならではの視点。ワークショップで自由に演じさせ、子どもたちが実際に経験したいじめを作品に取り入れる。

―――物語の中心となるのは、フジシュンの家族と、彼の遺書に親友として名前を書かれたユウとサユであり、彼らの間の会話や心情がとても深く、そしてリアルに描かれていました。家族でどう乗り越えていくのかというテーマにつながりますね。
五十嵐監督:2年間いじめについて調べ、重松さんの原作を脚本化する際、実際に保護者や先生が言っていた言葉を取り入れています。例えば、フジシュンの母(富田靖子)が父(永瀬正敏)に、「あの子最近様子がおかしい。教科書も破られているし、ちょっと顔がキツくなった気がして」という台詞がありますが、実際にお子さんがいじめで自殺をしてしまった経験を持つお母さんが言った言葉です。なぜか分からないけれど、顔がキツくなったという言い方は、とてもリアルに感じます。
 
―――中学校のシーンでもフジシュン役を除き、全員素人の子どもたちを起用し、ワークショップを重ねながら作り上げたそうですね。
五十嵐監督:僕はドキュメンタリー出身なので、大人が思うことと違うような行動を子どもがとるとき、彼らなりの理屈があり、そこを撮りたかったのです。中学生、特に男の子はどう動くか分からない。人間とサルとの間だと思うので、いじめなどにも関心が一番強い。そこは脚本を書いて演じさせるより、彼らを自由に動かして、そこから面白いところを取ればいいのではないかと考えました。ワークショップでいじめ役といじめられる役、傍観役等を作り、彼らに演じさせると、自分で経験したいじめのお芝居をするのです。殴るいじめもあれば、無視するいじめ、LINEいじめなど色々ないじめの形が出てくるのを見て、僕らは脚本に取り入れ、誰が適役かを見分けながら、配役していきました。
 

■ユウだけは現代っ子っぽく、「いつまでも辛いことは引きずるな」

――20年に渡り、それぞれの立場で十字架を背負って生きていく姿を表現した俳優陣の演技が見事でしたが、キャスティングの経緯や、役作りについて教えてください。
五十嵐監督:木村文乃さんが演じたサユは、自分の誕生日がフジシュンの命日になったことをいつも気にしているし、責任を感じている繊細で揺れている役です。永瀬正敏さん演じる自殺したフジシュンの父は、寡黙で、何を考えているか分からないけれど、行動で示す男です。富田靖子さん演じるフジシュンの母は、息子が亡くなり、だんだん病んでいきます。最後は、息子に語りかけるように話すようになります。そういった登場人物の中、小出恵介さん演じるユウまでもが神経質で病んでいたら、観る方も結構キツいと思います。僕が小出さんにお願いしたのは、現代っ子で、根は優しいけれど、すぐ忘れてしまうようなキャラクターでした。「これだけ苦しんだから、もうフジシュンも赦してくれるよ」とか、カラオケで『リンダリンダ』を歌うとか、カラッとしたいのです。そういつまでも辛いことを引きずるなという部分で、観る方に共感してもらえるのではないかと思います。
 
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■役者、歌手としてだけでなく、一人の人間としていじめへの思いを抱え、この映画を成功させようと一生懸命やってくれた。

―――木村文乃さんが演じるサユの20年に渡る苦悩と成長ぶりにも、惹きこまれました。
五十嵐監督:木村文乃さんは『アダン』(05)のオーディションで知り合い、当時16歳でした。それから10年間、彼女はものすごく苦労をし、その分人間が深くなっているのが演技にも出ています。僕の映画で女優デビューしているので、映画に対する敬意を感じます。永瀬正敏さんは、この映画の初日が卒業式のシーンでした。500~600人の前で、息子が死んだ父親を演じなければならなかったのです。普通、簡単なシーンの撮影から入っていくのですが、最初から重要なシーンを演じる時にも、既に父親の役作りをされており、本当に映画俳優だなと思いました。富田靖子さんも映画に生きた人だと思います。いじめに対する思いというのは、役者としてだけでなく、一人の人間としての思いもあり、そこもプラスになっています。
 
―――エンディングの歌、『その先のゴール』もいじめで悩む子どもたちに優しいエールが込められていますね。
五十嵐監督:leccaさん自身が、いじめられた中学時代の自分に向けて詩を書いています。「もし私が、中学時代の私に会ったら、たくさんたくさん話を聞いてあげるのに」と。100人いて、99人がいじめたとしても、たった1人でも話を聞いてあげる人がいれば、死を選ぶことはない。今回集まった人たちは、それぞれいじめへの思いを抱え、この映画をなんとか成功させようと一生懸命にやってくれたのだと思うのです。
 
―――いじめを題材にした映画ということで、なかなか大手から企画への賛同を得ることはできなかったそうですが。
五十嵐監督:これぐらい巷に猟奇的な事件が起こり、性犯罪や役人の堕落や天災が起こっている中で、誰が1800円も払っていじめの映画を観に行くのか。楽しくなるために観に行くのに、いじめの映画など観に行く人がいるのかと、よく言われました。でも、僕が作ろうとしているのは、いじめの辛さを突き抜けて、前を向いて生きていく。重松さんの作品で言えば、暗さの先にある透明できれいな部分を撮ろうとしているのですが、なかなか理解してもらえませんでした。でも、観客を馬鹿にしてはいけないし、僕は観客を信じています。
 

■裏テーマは家族。最初からオリジナルでサッカーのシーンを撮りたい。重松さんに近づきたいと思っていた。

―――サユが背負った十字架は決して消えないけれど、時を経て、自分も親となり、確実に強く、そして前を向いて生きているところが、この作品の一番伝えたかった姿なのだと感じました。
五十嵐監督:最後に小出恵介演じるユウが手紙を読み、「俺だって子どもがいるよ」と言ってから、自分の子どもをサッカーに誘います。僕の子どももそうなのですが、サッカーは言葉ではなく、子どもと父親がやり取りできるスポーツだと思っています。ユウと息子とのサッカーシーンは僕のオリジナルなのですが、息子にパスする中で、かつて見て見ぬふりをしたフジシュンが幻として現れたらどうだろうかと考えたのです。その時、ユウは何と言うだろうか。生前はフジシュンと向き合えなかったけれど、今度こそ向き合いたいと思うのではないか。この作品の裏テーマは家族であり、そこで人は足腰が強くなっていくのです。
 
―――なるほど、父親になったユウがフジシュンにエールを送るサッカーのシーンは、原作にない五十嵐監督オリジナルのシーンだったのですね。
五十嵐監督:この映画を作ったときに、最初からサッカーのシーンを撮りたいと思っていました。原作にないものを入れて、重松さんになんとか近づこうとしたのです。もちろん重松さんは越えていませんが、僕の息子もユウの息子と同い年だったので書きやすかったです。
 
―――最後にこれからご覧になる皆さんに、メッセージをお願いします。
五十嵐監督:いじめの映画というだけではなく、家族の映画でもあり、子どもを持っている父親、母親の映画でもあります。家族で足腰を強くし、20年間抱えていたものを突き抜ける姿を、スクリーンで観ていただければと思います。
(江口由美)
 

 
<作品情報>
『十字架』
(2015年 日本 2時間2分)
監督・脚本:五十嵐匠 
原作:重松清『十字架』講談社文庫刊
出演:小出恵介、木村文乃、富田靖子、永瀬正敏、葉山奨之、小柴亮太他
2016年2月6日(土)~有楽町スバル座、シネ・リーブル梅田他全国公開
公式サイト⇒http://www.jyujika.jp/
 
Ⓒ重松清/講談社 Ⓒ2015「十字架」製作委員会(アイエス・フィールド ストームピクチャーズ BSフジ)
 

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