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家族がいるから足腰が強くなり、突き抜けられる『十字架』五十嵐匠監督インタビュー

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家族がいるから足腰が強くなり、突き抜けられる『十字架』五十嵐匠監督インタビュー
 

~十字架を背負ったまま、それでも前を向いて生きる家族、そしてあなたの物語~

 

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自ら死を選んだ少年フジシュンの家族と、遺書に親友と書かれた同級生ユウとサユ。彼らがフジシュンの想いを背負いながら生きてきた20年の心の軌跡を綴った重松清の感動作『十字架』を、『地雷を踏んだらサヨウナラ』の五十嵐匠監督が映画化、2月6日より有楽町スバル座、シネ・リーブル梅田他で全国公開される。
 
学校での執拗ないじめの様子や、学校側の無責任な対応など、親の知らないところで起きているいじめの実態やフジシュンが追い詰められていく経緯がリアルに描かれている分、家族や主人公が抱えてしまう十字架の重さが説得力を持って胸に迫る。ユウとサユがフジシュンの家族に言えなかった秘密、ユウとサユのフジシュンの死に対する向き合い方のズレ、フジシュンの家族の心の葛藤など、彼らが前を向いて生きるようになれるまでの20年を見ていると、どこか私たち自身が背負っているものと重なり、最後には、すっと救われる気持ちになるのだ。
 
本作の五十嵐監督に、原作で惹かれた部分や、小出恵介、木村文乃、富田靖子、永瀬正敏ら俳優陣との役作り、キャスティングについて、お話を伺った。
 

 


■人は十字架を背負ったまま前向きに、強く生きるしかない。

―――原作は重松清さんの同名小説ですが、五十嵐監督が特に心掴まれた部分は?
五十嵐監督:人はみな様々な形で十字架を背負っています。自分が背負っている十字架について、あえて他人に語ることはないでしょう。それでも自分自身で足腰を強くし、生きていこうというのが、重松さんの原作で一番好きなところです。それは、「いじめのことで20年も悩む」ということを越えたところにあるのです。僕は東北人ですが、TV取材で石巻に行ったときに、全く復興されておらず、海側に亡くなった人に向けての花束だけが置いてあったのです。そのような状況の中で、どういって生きていくのかと考えたとき、様々な十字架を背負ったまま前向きに、強く生きていくしかないと思うわけです。
 
―――この作品は、「十字架を背負ったまま強くなる過程」を描いた映画でもありますね。
五十嵐監督:もっと言えば、家族のことも描いています。木村文乃演じるサユも、自分の誕生日が自殺したフジシュンの命日だということを、一生背負います。でも、結婚して生まれた自分の子どもが熱を出し、その子どもに愛情を注いでいるうちに、自分の誕生日も命日も忘れてしまう。サユは、子どもがいることで足腰が強くなった。そういうことを、僕が描きたかったのです。
 
 
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■ドキュメンタリー出身ならではの視点。ワークショップで自由に演じさせ、子どもたちが実際に経験したいじめを作品に取り入れる。

―――物語の中心となるのは、フジシュンの家族と、彼の遺書に親友として名前を書かれたユウとサユであり、彼らの間の会話や心情がとても深く、そしてリアルに描かれていました。家族でどう乗り越えていくのかというテーマにつながりますね。
五十嵐監督:2年間いじめについて調べ、重松さんの原作を脚本化する際、実際に保護者や先生が言っていた言葉を取り入れています。例えば、フジシュンの母(富田靖子)が父(永瀬正敏)に、「あの子最近様子がおかしい。教科書も破られているし、ちょっと顔がキツくなった気がして」という台詞がありますが、実際にお子さんがいじめで自殺をしてしまった経験を持つお母さんが言った言葉です。なぜか分からないけれど、顔がキツくなったという言い方は、とてもリアルに感じます。
 
―――中学校のシーンでもフジシュン役を除き、全員素人の子どもたちを起用し、ワークショップを重ねながら作り上げたそうですね。
五十嵐監督:僕はドキュメンタリー出身なので、大人が思うことと違うような行動を子どもがとるとき、彼らなりの理屈があり、そこを撮りたかったのです。中学生、特に男の子はどう動くか分からない。人間とサルとの間だと思うので、いじめなどにも関心が一番強い。そこは脚本を書いて演じさせるより、彼らを自由に動かして、そこから面白いところを取ればいいのではないかと考えました。ワークショップでいじめ役といじめられる役、傍観役等を作り、彼らに演じさせると、自分で経験したいじめのお芝居をするのです。殴るいじめもあれば、無視するいじめ、LINEいじめなど色々ないじめの形が出てくるのを見て、僕らは脚本に取り入れ、誰が適役かを見分けながら、配役していきました。
 

■ユウだけは現代っ子っぽく、「いつまでも辛いことは引きずるな」

――20年に渡り、それぞれの立場で十字架を背負って生きていく姿を表現した俳優陣の演技が見事でしたが、キャスティングの経緯や、役作りについて教えてください。
五十嵐監督:木村文乃さんが演じたサユは、自分の誕生日がフジシュンの命日になったことをいつも気にしているし、責任を感じている繊細で揺れている役です。永瀬正敏さん演じる自殺したフジシュンの父は、寡黙で、何を考えているか分からないけれど、行動で示す男です。富田靖子さん演じるフジシュンの母は、息子が亡くなり、だんだん病んでいきます。最後は、息子に語りかけるように話すようになります。そういった登場人物の中、小出恵介さん演じるユウまでもが神経質で病んでいたら、観る方も結構キツいと思います。僕が小出さんにお願いしたのは、現代っ子で、根は優しいけれど、すぐ忘れてしまうようなキャラクターでした。「これだけ苦しんだから、もうフジシュンも赦してくれるよ」とか、カラオケで『リンダリンダ』を歌うとか、カラッとしたいのです。そういつまでも辛いことを引きずるなという部分で、観る方に共感してもらえるのではないかと思います。
 
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■役者、歌手としてだけでなく、一人の人間としていじめへの思いを抱え、この映画を成功させようと一生懸命やってくれた。

―――木村文乃さんが演じるサユの20年に渡る苦悩と成長ぶりにも、惹きこまれました。
五十嵐監督:木村文乃さんは『アダン』(05)のオーディションで知り合い、当時16歳でした。それから10年間、彼女はものすごく苦労をし、その分人間が深くなっているのが演技にも出ています。僕の映画で女優デビューしているので、映画に対する敬意を感じます。永瀬正敏さんは、この映画の初日が卒業式のシーンでした。500~600人の前で、息子が死んだ父親を演じなければならなかったのです。普通、簡単なシーンの撮影から入っていくのですが、最初から重要なシーンを演じる時にも、既に父親の役作りをされており、本当に映画俳優だなと思いました。富田靖子さんも映画に生きた人だと思います。いじめに対する思いというのは、役者としてだけでなく、一人の人間としての思いもあり、そこもプラスになっています。
 
―――エンディングの歌、『その先のゴール』もいじめで悩む子どもたちに優しいエールが込められていますね。
五十嵐監督:leccaさん自身が、いじめられた中学時代の自分に向けて詩を書いています。「もし私が、中学時代の私に会ったら、たくさんたくさん話を聞いてあげるのに」と。100人いて、99人がいじめたとしても、たった1人でも話を聞いてあげる人がいれば、死を選ぶことはない。今回集まった人たちは、それぞれいじめへの思いを抱え、この映画をなんとか成功させようと一生懸命にやってくれたのだと思うのです。
 
―――いじめを題材にした映画ということで、なかなか大手から企画への賛同を得ることはできなかったそうですが。
五十嵐監督:これぐらい巷に猟奇的な事件が起こり、性犯罪や役人の堕落や天災が起こっている中で、誰が1800円も払っていじめの映画を観に行くのか。楽しくなるために観に行くのに、いじめの映画など観に行く人がいるのかと、よく言われました。でも、僕が作ろうとしているのは、いじめの辛さを突き抜けて、前を向いて生きていく。重松さんの作品で言えば、暗さの先にある透明できれいな部分を撮ろうとしているのですが、なかなか理解してもらえませんでした。でも、観客を馬鹿にしてはいけないし、僕は観客を信じています。
 

■裏テーマは家族。最初からオリジナルでサッカーのシーンを撮りたい。重松さんに近づきたいと思っていた。

―――サユが背負った十字架は決して消えないけれど、時を経て、自分も親となり、確実に強く、そして前を向いて生きているところが、この作品の一番伝えたかった姿なのだと感じました。
五十嵐監督:最後に小出恵介演じるユウが手紙を読み、「俺だって子どもがいるよ」と言ってから、自分の子どもをサッカーに誘います。僕の子どももそうなのですが、サッカーは言葉ではなく、子どもと父親がやり取りできるスポーツだと思っています。ユウと息子とのサッカーシーンは僕のオリジナルなのですが、息子にパスする中で、かつて見て見ぬふりをしたフジシュンが幻として現れたらどうだろうかと考えたのです。その時、ユウは何と言うだろうか。生前はフジシュンと向き合えなかったけれど、今度こそ向き合いたいと思うのではないか。この作品の裏テーマは家族であり、そこで人は足腰が強くなっていくのです。
 
―――なるほど、父親になったユウがフジシュンにエールを送るサッカーのシーンは、原作にない五十嵐監督オリジナルのシーンだったのですね。
五十嵐監督:この映画を作ったときに、最初からサッカーのシーンを撮りたいと思っていました。原作にないものを入れて、重松さんになんとか近づこうとしたのです。もちろん重松さんは越えていませんが、僕の息子もユウの息子と同い年だったので書きやすかったです。
 
―――最後にこれからご覧になる皆さんに、メッセージをお願いします。
五十嵐監督:いじめの映画というだけではなく、家族の映画でもあり、子どもを持っている父親、母親の映画でもあります。家族で足腰を強くし、20年間抱えていたものを突き抜ける姿を、スクリーンで観ていただければと思います。
(江口由美)
 

 
<作品情報>
『十字架』
(2015年 日本 2時間2分)
監督・脚本:五十嵐匠 
原作:重松清『十字架』講談社文庫刊
出演:小出恵介、木村文乃、富田靖子、永瀬正敏、葉山奨之、小柴亮太他
2016年2月6日(土)~有楽町スバル座、シネ・リーブル梅田他全国公開
公式サイト⇒http://www.jyujika.jp/
 
Ⓒ重松清/講談社 Ⓒ2015「十字架」製作委員会(アイエス・フィールド ストームピクチャーズ BSフジ)
 

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