レポートインタビュー、記者会見、舞台挨拶、キャンペーンのレポートをお届けします。

2016年8月アーカイブ

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日々葛藤しながら仕事を頑張る全ての人へのエールに。
『にがくてあまい』川口春奈さんインタビュー

~“一物全体”食べ物も、人間もありのままを受け入れるオーガニック・ラブコメディ~

訳あって野菜嫌いのキャリアウーマンが、女が苦手な菜食主義男子と同居を始めたことからはじまる食べ物と愛が詰まったオーガニック・ラブコメディ『にがくてあまい』。人気WEBコメディの原作を映画化したのは、本作が本格的な商業映画デビュー作となる草野翔吾監督だ。『好きっていいなよ。』をはじめ、ドラマに大活躍の川口春奈が仕事と恋、家族の問題で悩みながらも全力でぶつかるヒロイン、マキをイキイキと演じている。相手役となる過去のトラウマを抱えたお料理男子、渚を演じるのは、『パレード』『花芯』の林遣都。「雑な食事をする姿を見るのは耐えられない」と、マキにお弁当を作るだけでなく、完食を要求するドSぶりをみせるかと思えば、真っ直ぐなマキを受け止め、まさに名コンビぶりをみせる。渚の初恋の相手、アラタ(淵上泰史)や学校の後輩(真剣佑)、バーのマスター(SU)と、美形のゲイ男子揃い。人生経験も様々なゲイ男子の含蓄ある言葉にハッとさせられながら、それぞれが自分らしく生きようとしている姿に励まされる作品だ。
 
本作のキャンペーンで来阪した主演川口春奈さんに、マキ役を演じての感想や、本作に込めた思いを伺った。
 

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―――高校生など、学生役が多かった川口さんですが、今回は肉食系キャリアウーマンという今までにない役にチャレンジされています。実際に演じてみての感想は?
川口:演じていて、とても楽しかったです。マキは、まっすぐで、嘘がなくて、物事をはっきりさせたい女性です。大人だけど、悩んだり、行き詰ったりする部分があるし、完璧でもない。それでも一生懸命なのがマキの魅力だし、弱さでもあると思います。どういう風に演じればそんなマキの魅力が伝わるか、観ている方に共感してもらえるか考えながら、演じていました。作品自体もそうですが、マキを演じる際にはメリハリを意識しました。表情もそうですし、全力で笑ったり、泣いたり、怒ったりと感情をぶつけたので、気持ちよかったですね。
 
―――大ヒットしたWebコミックが原作です。川口さんは今までも原作もののヒロインを演じていますが、役作りをするにあたり難しさはありますか?
川口:原作には原作のファンがいらっしゃり、ファンの皆さんが持っているイメージがあると思います。私はそのイメージをいつも覆したい。映画は映画として、全く別の作品として、原作を知っている人にも、知らない人にも受け入れてもらえるようなものを、作っていきたい。原作にはあまりこだわらず、映画オリジナルの良さを出していきたいですね。 
 
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―――ありのままが一つのテーマになっている作品ですが、監督からマキを演じるにあたりどんな演出がありましたか?
川口:きれいに映ろうとは思いませんでした。そもそもそんな役ではありませんから。本当に頑張る人は美しいです。葛藤しながら仕事を頑張る人へのエールでもあるので、とにかく全力でやろうという話をしていました。
 
―――林遣都さん演じる渚は、マキと一見正反対のように見えます。オーガニック料理と男を愛し、過去に家族とのトラウマを抱えている複雑な美系教師役で、マキとの化学反応にドキドキハラハラさせられました。
川口:渚も完璧なキャラクターではありません。色々なトラウマや苦手なものを抱えながら生きているところは、マキと共通しています。不器用だけど、人の痛みが分かるキレイな心を兼ね備えている。だからこそ惹かれ合い、恋愛感情でなくても、最終的には一緒にいると心が落ち着くような関係性に辿りつく。 友情とも恋愛ともまた少し違った関係性ですよね。マキとそのような関係を作っていく渚を、林さんは丁寧に演じて下さったので、私もマキとしてついていけましたし、色々な芝居を引っ張っていってくださいました。
 
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―――渚が作ったお料理を食べるシーンが度々登場し、マキが口に入れる時は真正面からのアップで、正にこの作品の肝になっています。撮影の時に監督から何かアドバイスや、川口さん自身が意識したことは?
川口:食べるシーンは一番、私の素の表情が出ています。それぐらい、食事が本当に美味しくて、思わず「美味しい!」と言いたくなるぐらいでした。作り込んだ「美味しい」よりも、素直に私が美味しいと感じた方が、観客の皆さんにも伝わるのではないかと思います。見た目だけでなく、お肉を使わない中でアイデアが活かされていて、どれを食べても美味しかった。「感謝!」ですね。日ごろは自分のためだけに時間をかけてお料理をすることがないので、劇中であっても、あれだけ健康的なご飯を毎日作ってくれる人がいるのはとてもいいな。マキが羨ましかったです。
 

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―――途中、マキの方が渚を押し倒して、「私のことを見て!」と訴えるシーンがあります。男性から壁ドンではなく、女性からアグレッシブに訴えるのが新鮮ですね。

川口:不思議なことに、マキはこんなことをしても嫌な女だとは思わない。どちらかといえば、子どものように見えて、「なんで、なんで」と可愛い部分があるような気がします。どれだけ外では取り繕っていても、実は乙女な気持ちが大人の皆さんの中にきっとあると思います。マキの姿を見て「(子どもっぽい部分があるのは)私だけじゃないんだ」と感じてもらえたら、うれしいですね。
 
―――マキと渚が喧嘩するシーンはかなり真に迫っていましたが、演じていて特に印象的だったことは?
川口:感情をぶつけ合うシーンが多かったのですが、カイカンというぐらいに言葉が湧き出てきて、相手にぶつけ、相手から言葉が返ってきたらムカついて…。そういうキャッチボールを(演技で)無理してやっているのではなく、本当に腹が立っていました。今思うと、本当に役を生きていたのかなという気がします。ゴーヤの冷製茶わん蒸しをマキが渚と一緒に作るシーンは、ずっとカメラが回りっぱなしで、監督からは「二人で楽しそうにやって」とだけ言われていました。付き合ってもいない男女が一緒にお料理を作るなんて恥ずかしいし、実際に演じている時も恥ずかしさがあったのですが、その距離感が二人らしくて良かったのかもしれません。
 
―――苦手なものと向き合うことを伝えるシーンもありましたが、川口さんご自身が今向き合っていることは?
川口:私も完璧ではないし、コンプレックスや、なかなか自分を好きになれない面があります。まずは自分を知ることが大事、そこから他人と向き合っていく。でも実際に他人と向き合うのは本当に気力、体力が要ることなので、今は日々小さな悩みと格闘しています。
 
 

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―――タイトルの『にがくてあまい』は、非常に深みのある言葉です。川口さんはどのように解釈していますか? 
川口:意外に深い言葉ですよね。上手くいきそうに思えて途中で狂ってしまい、「自分は運が悪いな」と落ち込むこともありますが、悪いことばかりではなく、良いことも訪れる。マキもなんとか前に進もうと頑張っている一人で、失敗することだってある大人に向けてのメッセージが含まれていると思います。
 
―――最後にメッセージをお願いします。
川口:「一物全体」(食べ物はできるだけ丸ごと食するのが一番いい)等、さりげなく自分たちに当てはめると響く、良い言葉が散りばめられています。年齢も性別も関係なく、自分の今の環境や、苦手なものを登場人物たちに投影して、少しでも勇気づけてもらえればと思います。ラブコメディーですが家族の話でもあるので、身近な人との向き合い方を改めて考えるきっかけになればうれしいです。
(江口 由美)
 

<作品情報>
『にがくてあまい』
(2016年 日本 1時間36分)
監督:草野翔吾
原作:小林ユミヲ「にがくてあまい」マックガーデン
出演:川口春奈、林遣都、淵上泰史、桜田ひより、真剣佑、SU、中野英雄、石野真子他
9月10日(土)~TOHOシネマズ新宿、大阪ステーションシティシネマ、神戸国際松竹、イオンシネマ京都桂川他全国ロードショー
(C) 2016 映画「にがくてあまい」製作委員会 (C) 小林ユミヲ/マッグガーデン
 
 
 

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映画界の人間だけで、お笑いの映画を作ってみたかった
『エミアビのはじまりとはじまり』渡辺謙作監督インタビュー
 

~M-1初戦突破で映画とリアルがシンクロする!?笑いを追求した男たちの愛と喪失の物語~

松本人志監督や、内村光良監督など、お笑い界のベテランが笑いのツボを心得た作品を映画界に送り出している中で、漫才師を主人公にした笑いと涙と感動の物語を紡いだ渡辺謙作監督(『舟を編む』脚本)の『エミアビのはじまりとはじまり』が、9月3日(土)からヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田、京都シネマ、10日(土)からシネ・リーブル神戸他全国順次公開される。
 
人気漫才コンビ、エミアビの実道を演じるのは、話題作の出演だけでなく、自身も映画監督としての活動を行っている森岡龍。そして、実道の相方で交通事故に遭い亡くなってしまう海野を演じるのは若手個性派俳優にして、最近はauの一寸法師役でも人気の前野朋哉。さらにエミアビコンビ結成のきっかけを作りながら、自身は引退した先輩芸人の黒沢役には新井浩文を配し、主役二人に負けない存在感を見せる。ゴスロリ風メイクで天然ぶりをみせるエミアビのマネージャー役を演じる黒木華も必見だ。
 
大事な人が亡くなった時、怒りに震えている時でも、笑える瞬間があり、笑うと何かが変わっていく。人を笑わせる大変さも含め、本当に真剣に何かをなそうとしたとき、奇跡のようなことが起こると思わせてくれるヒューマンストーリーに仕上がっている作品だ。
本作の渡辺監督に、漫才師を主人公にしたオリジナル作品に臨んだ理由や、撮影秘話についてお話を伺った。
 

emiabi-550.jpg―――森岡さんと前野さんは劇中コンビの「エミアビ」でM-1にエントリーされ、見事、初戦突破されましたね。
渡辺監督:彼らが、自分たちからM-1にチャレンジしたいと言い始めたんです。最初はシャレで言っているのかと思ったのですが、森岡君は高校生の時、3年間M-1にエントリーして、一回戦を突破したこともあるんですよ。先日の初戦は、森岡君がセリフを飛ばしてしまったそうで、やはり観客の前で漫才をやらないとダメだと実感したみたいですね。
 
―――そもそも漫才師が主人公の物語にしようと思ったきっかけは?
渡辺監督:元々やりたかったのは、身近な人の死からの再生でした。2010年前後に、僕の周りで身近な人の死が相次ぎ、しかもかなり若い人が多かった。お葬式で遺体と対面すると涙が止まらないけれど、控室に入れば知り合いと世間話をし、またお骨が出てくると泣いたり…。お葬式は案外涙と笑いがあり、そうやって故人を忘れるのではなく浄化していくのではないかと思ったのです。涙と笑いがセットであり、笑いがテーマとなるのなら、いっそのこと漫才師を主人公にした方がよりテーマが明確になるのでないか。そう考えて取り組みました。
 
―――実際に漫才師を主人公にし、笑いや涙と対峙する物語を作り上げるのは大変でしたか?
渡辺監督:とてもリスキーでしたね。映画界では、「泣かせるのは簡単、笑わせるのは難しい」と昔から言われています。泣かせる映画は、仮に観客が泣かなくても「いい映画だった」と思って帰ってもらえます。一方、こちらが笑わせようとしている映画で、観客が笑わないまま終わってしまうと「最低の映画だった」と言われる訳です。最初は脚本をプロデューサーらに見せると、漫才のネタ部分は全てプロ(漫才台本ライター)に任せた方がいいと言われました。もしくは、主役二人を吉本の芸人にすればとも言われましたが、それはイヤだった。僕の中で、この話は映画人でやりたいという気持ちが強かったのです。
 
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―――漫才師役の二人を普通の俳優に演じてもらうことは、監督にとって何よりも譲れないことだったのですね。
渡辺監督:漫才師の話となると、絶対止めた方がいい、絶対スベると、映画界も恐れているんですよ。出演者の新井さんですら「絶対、スベりますよ」と言っていましたから。どうやったら面白くなるかとポジティブに考えてくれたのは、主演の森岡君と前野君だけですね。でも、コイツらとなら闘えると思いました。今、お笑い界から映画の方へ、どんどん人材が流入してきています。お笑い界の方たちが作る映画は見応えのあるものもありますが、こちらからのカウンターパンチがあってもいいのではないか。映画人だけでお笑いの映画を作ってみたかったという部分はあります。
 
―――脚本を書く際に、お笑いは色々と勉強されたのですか?
渡辺監督:ツービートなどの80年代漫才ブームの時は見ていましたが、それ以降はあまり見ていなかったので、今回はYoutubeを見て研究しました。最終的には、サンドイッチマンさんの漫才から漫才コントのようになっていくあたりが、エミアビのイメージに近いかなと思っています。せっかく役者が演じるのですから、コントの要素のある方がいいですね。後は、ドリフターズのような昭和のコントへのオマージュとして、たらいやハリセンを使ったりもしています。
 
―――漫才のネタは何を参考にしたのですか?
渡辺監督:台詞のやり取りなので、案外シナリオと似ています。でも、漫才はより物語性を排除する方向になっている。僕が書くと物語性が強くなってしまうので、森岡君と前野君の二人が稽古をする中でディテールへのアイデアを取り入れたり、話し合いをしながら作っていきます。漫才に関しては、脚本家よりも演者の方が色々なアイデアが出ると思います。二人は漫才をやりつつ、俯瞰的な目線も持ってやれていたので良かったと思います。
 
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―――本作では、究極に“笑えない”状況の中で、「笑わせろ」と強いられるシーンが何度も登場し、登場人物たちがなんとか笑わせようと奮闘するところが大きな見せ場となっています。どのように、それぞれの“究極の状況下で人を笑わせる”シーンを演出したのですか?
渡辺監督:森岡龍という役者は随分前から知っていて、何か物足りないと思っていました。今回は主役ですから、逃げ場を全部塞いで、彼を追い詰めたかったのです。新井君が20代の時に一緒に仕事をし、新井君を責め立てるような演出をしたのですが、森岡君に対してそのやり方ではダメだろう。新井君演じる黒沢が、後輩芸人の森岡君演じる実道を責め立てる設定なので、新井君に「もっとやれ!」と何度も言わせ、僕は傍からニコニコ笑って見ていました。スタッフ側には逃げられないし、俳優側には責め立てられるので、森岡君は現場で寂しそうにタバコを吸っていましたよ(笑)。暑い中ヅラを被っていたので、本当にしんどそうでしたね。
 

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―――本当に満身創痍の中から、新しい一歩を踏み出す実道役は、新しい森岡さんの一面が垣間見えました。
渡辺監督:最初は、「ヅラとサングラスで、僕の顔、映ってないですよね」と文句を言っていましたが。実道は、物語の中では満身創痍なのですが、どこか傷ついていないとツッパっていて。自分の中の傷に気付いたところから、前野君演じる海野の渾身の飛翔(おならで宙に浮く)で笑う訳です。まずは泣けなくてはいけない。それで、笑えなければいけない。そこが重要なのだと思います。
 
―――実道の相方である海野を演じる前野朋哉さんも、恋物語があれば、暴漢に襲われ究極の状況下での一発ギャグを繰り広げたりと、笑って泣ける演技が印象的です。
渡辺監督:前野君は非常にフォトジェニックなんですよ。妙な芝居が達者です。例えばプロポーズのシーンで、後ずさりして後ろにコケるところも、実は難しい芝居なのです。普段やりそうでやらない動作で、嘘くさくなるかと思いましたが、とても上手に転んでくれました。すごく才能がある俳優です。プロポーズをすべく「YOKOHAMA HONKY TONK BLUES」を歌う場面もワンテイクOKでした。
 
―――前野さんが熱唱した「YOKOHAMA HONKY TONK BLUES」は、ザ・昭和の哀愁が漂い感動的でしたが、なぜこの曲を選んだのですか?
渡辺監督:僕の中で「YOKOHAMA HONKY TONK BLUES」は映画人の歌と認識しています。作詞が藤竜也さんですし、松田優作さんや原田芳雄さんが歌い続けてきました。それを前野君に流れとして受け継いでもらいたかったのですが、当の本人は「誰の歌ですか?」と聞いたこともない感じでした(笑)。原田芳雄さんだけでなく、全映画人への思いを込めていますね。
 
―――先輩芸人、黒沢役の新井浩文さんも、クールな中にお笑いへの熱い思いをたぎらせ、最後には新生エミアビの一人として漫才を披露していますね。
渡辺監督:最初は映画のシナリオが短く、シーンが分厚かったのですが、黒沢役が新井さんに決まってから打ち合わせをしたとき、黒沢役の出番をもっと増やした方が、役が生きてくるのではないかと提案されました。僕自身の気分的にも黒沢役を膨らませたかったので、諸条件との兼ね合いもありましたが、プロデューサーのOKをもらい、今の形になっています。
 
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―――実道のマネージャー役で、ゴスロリ風メイクの黒木華が登場し、今までのイメージを覆すような芝居をしているのも印象的です。
渡辺監督:黒木さんは『舟を編む』で面識がありました。山田洋次監督作品でみせる昭和風の黒木華はニセモノだと思っていたんです(笑)。本当はもっと腹黒い部分があると思って、マネージャー役は彼女にオファーしたいと考えていました。黒木さんは大阪出身なので、最初の打合せで「ちょっと微妙な関西弁を入れてほしい」と伝えました。この微妙なニュアンスは大阪弁ネイティブな人でないと再現できない。監督が演出するのにも無理がありますから。
 
―――実道が地面に投げ捨てたお弁当を食べるシーンは、黒木さんの女優魂が炸裂していましたね。
渡辺監督:僕も、なぜ彼女がそういう行動をしたのか分からずに脚本を書いたんです。黒木さんと会った時、脚本には書いたけれど、なぜ弁当を食べたのか理解できなければ、別のアイデアを出すよと話しをしたら、「私、なんとなく分かる気がします」と言ってくれました。映画が出来上がってからじっくり考えると、あの時点で夏海というマネージャーが相方を亡くして自暴自棄になっている実道に出来ることは、ああいうことぐらいしかなかったのだろうと。どうやって、実道をもう一度前向きにさせるかと思ったときに、夏海は漫才が出来る訳でもなく、落ちた弁当を食べることぐらいしか、彼の心を動かせない。そういうことなんだろうなと。
 
―――誰が主役になっても不思議ではない感じがしましたね。
渡辺監督:僕もそう思ってシナリオを書いていましたし、もし新井君が「僕を主役にしてください」と言ったなら、そのように書き直したかもしれませんが、案外今回は一歩引いて演じてくれました。黒木さんの役もフィクサー的ですが、森岡君と前野君が一番主役らしいですね。
森岡君は何か面白いことをする訳ではないですが、キングコングの西野さんのイメージが出ていればと思います。
 
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―――リアルとファンタジーの垣根がなく、死者を死者っぽく描いていないのが、渡辺監督の一番の狙いのように感じました。
渡辺監督:元々僕の中で、リアルとファンタジーの境界線はあまりありません。人間は死んだ後のことはわからない。人が死んで悲しむというのは、死者のことを思って悲しむというより、自分が悲しんでいるわけです。亡くなった身近な人間も、我々が知らないだけで、死んだ後も幸せに生きているのではないかと思うのです。勝手に生きている人が「可愛そう」と言っているだけではないかと。だから、最後に海野たちが登場するシーンは、幸せそうに出てきてほしかったのです。もしかしたら、本当に飛んでいるかもしれませんから。
(江口由美)
 

<作品情報>
『エミアミのはじまりとはじまり』
(2016年 日本 1時間27分)
監督・脚本:渡辺謙作
出演:森岡龍、前野朋哉、黒木華、山地まり、新井浩文他
2016年9月3日(土)~ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田、京都シネマ、10日(土)~シネ・リーブル神戸他全国順次公開
公式サイト⇒http://bitters.co.jp/emiabi/
(C) 2016『エミアビのはじまりとはじまり』製作委員会
 

french2016-parado-550.jpgC・ドヌーヴやB・マジメル相手に大健闘!『太陽のめざめ』新人俳優〈ロッド・パラド〉 初来日インタビュー

(2016年6月23日(木) パレスホテル東京にて)

 


『太陽のめざめ』
french2016-taiyou-550.jpg■La tete haute 2015年 フランス 1時間59分

■監督・脚本:エマニュエル・ベルコ
■出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ロッド・パラド、ブノワ・マジメル、サラ・フォレスティエ、ディアーヌ・ルーセル
■公開:2016年8月6日(土)~シネスイッチ銀座、8月27日(土)~テアトル梅田、9月3日(土)~シネ・リーブル神戸、9月10日(土)~京都シネマ、ほか全国順次公開
公式サイト: http://www.cetera.co.jp/taiyou/
■コピーライト:(C)2015 LES FILMS DU KIOSQUE - FRANCE 2 CINEMA - WILD BUNCH - RHONE ALPES CINEMA – PICTANOVO
 

2015年 カンヌ国際映画祭 オープニング作品
2016年 セザール賞 主要8部門ノミネート、助演男優賞(ブノワ・マジメル)、有望男優賞(ロッド・パラド)受賞

2016年 リュミエール賞 有望若手男優賞(ロッド・パラド)受賞
 


 

親の愛を受けられず深く傷ついた少年の心の軌跡
決して諦めず、忍耐強く、厳しい愛情をもって見守り指導していく女性判事の存在


french2016-taiyou-240-1.jpg自堕落な生活の果て育児放棄してしまったシングルマザーから6才の少年を守ろうとした女性判事(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、10年後、荒んだ生活を送る少年・マロニー(ロッド・パラド)と再会する。母親(サラ・フォレスティエ)の愛情を得られなくても一緒に暮らしたいと、母親をかばおうとして攻撃的になるマロニーの飢餓感は、彼の人生を大きく狂わせていた。判事は、マロニーと同じような境遇だった教育係(ブノワ・マジメル)を付けて、マロニーを更生への道へ導こうとするが…。


french2016-taiyou-240-3.jpg子供にとって、どんな親でも実の親ほどいいものはない。自分勝手な親でも愛されたい。満たされぬ想いや怒りを他者への攻撃に変えてしまう、そんな不良少年マロニーの荒んだ心の軌跡を、鋭い眼差しや繊細な感情表現で演じたロッド・パラド。その鮮烈なデビュー作となった『太陽のめざめ』を、オリジナル脚本で監督したのはエマニュエル・ベルコ。2015年のカンヌ国際映画祭で、女性監督史上2度目のオープニング作品を飾り、同時に、女優としての主演作『モン・ロワ』(2017年春公開予定)では、『キャロル』のルーニー・マーラーと共に女優賞を受賞している。


非行少年たちを見守る保護司の現状を映画化しようとリサーチを進めていくうちに、保護司には勤勉さや忍耐、辛抱強さや献身などが必要とされることに驚き、オリジナル脚本を書き上げたという。子供をとりまく環境の責任は大人にあり、罪を犯してしまった少年たちの救済もまた大人たちの責任である。大女優カトリーヌ・ドヌーヴ演じる判事が、辛抱強く見守り、厳しく指導する熱意と献身ぶりに心を熱くする感動作である。


少年マロニーを演じたロッド・パラドが、《フランス映画祭2016》に合せて初来日を果たした。日本滞在2泊3日というタイトなスケジュールの中、インタビューに応えてくれた。幸運なデビューを飾ることができた彼は、現在二十歳。本作の撮影前には完璧にセリフは入っていたようだが、心情面はベルコ監督と現場で細かく話し合いながら演技したという。役者を目指していた訳ではない17歳の少年が急におかれた環境は、さぞかし緊張の連続ではなかったのではと思われるが…? 演技派ベテラン勢を相手にした現場のことなどいろいろ訊ねてみた。
 


 

french2016-parado-240-1.jpg――― 最初役者志望ではなかったようですが、ベテラン俳優や演技派のプロの俳優たちの中で怖くはなかったですか?
怖くはなかったです。ちょっとドキドキはしたけどね。共演者と会う前は演技することに少し不安を感じていましたが、現場では私が緊張しないよう雰囲気作りをして下さったので、違和感なく演技ができました。

 
――― あなたとは全く違う環境で生きる少年マロニーをどう思いましたか?
手ごわいヤツだなと思いました。非行少年は自分で好んでそうなるのではなく、子供は生まれもって暴力的になるのではないのです。支援してくれる人がいなかったり、両親や家族など愛してくれる人が欠けていたり、何か満たされないものがあるからそうなるのだと思います。僕自身が大切な人に感じる愛情を彼も感じていて、とても愛情深い人だと思いました。


french2016-parado-240-5.jpg――― エマニュエル・ベルコ監督のオリジナル脚本ですが、監督としての演技指導は如何でしたか?
かなり正確に細かく演技指導されました。ベルコ監督と私の間の仕事量は膨大なものでした。ベルコ監督に対しては尊敬の念をもって、一緒に苦労しました。撮影の合間合間に、マロニーの心情について話し合ったり、視線の向け方など指導されたりしました。それは僕だけでなく、他のベテランの俳優も同じように細かな演技指導をされていました。

ベルコ監督はとても志が高い人ですので、監督が求めているものを自分が出し切れていない時には、「もう一度、もう一度」と何回もテイクを重ねられました。そんな時に、たまにイライラっとすることもありましたが(笑)。でも、そのイライラが真に迫った演技に繋がったと思います。


――― もろさを抱えた強い眼差しが印象的でしたが、暴力的なシーンでは感情を高ぶらせる工夫をしたのですか?
2か月間の撮影期間中、演技コーチもいましたので、みっちり役作りに集中しました。撮影初日には全てのセリフは頭に入っていました。どうしてこのようになるのか自分では判断できない点は、現場でベルコ監督に埋めてもらいました。本当に監督と共に創り上げたキャラクターでした。


――― 役者にならなかったら何になっていた?
バカンスクラブのアニメーターとか、人を笑わせることとか、接客サービスやエンタテイメント系など、人の役に立つ仕事に就いていたかも知れません。あるいは、この映画に起用されなかったら、そのまま家具職人になっていたかもね。


french2016-parado-240-3.jpg――― 完成品を観てどう思いましたか?
最初映画を観る前にポスターを見てびっくりしました。僕自身ぜんぜん気に入らなくて、まるででかい顔のETのようなエイリアンみたいで、変だ!(笑)。別の新しいポスターではETみたいな写真は消してありましたが、僕だけがニキビが目立っていました。


――― 次の作品は?
8月にクランクインする作品はエルザ・ディホンジェ監督の若者についての作品で、笑わせる役ではないのですが、恋をする若者のひとりを演じています。『太陽のめざめ』ほど号泣する作品ではありませんが(笑)。


french2016-parado-240-4.jpg――― 日本ではどこへ行きたいですか?
おみやげを買いたいです。でも、海や山や自然が美しい景勝地へも行きたいです。エアフランスの中でもらった日本のパンフレットに載っていたミニエッフェル塔?東京タワー?を物の見に行きたいです。本物のエッフェル塔はあまり好きじゃないので、是非東京タワーを見てみたいです。

 
――― 日本のどこに一番関心がありますか?
どちらかというと精神面ですね。穏やかで健全なものを持っている国民だと思います。そうしたところにとても興味があります。

 


french2016-6-24-parado-240-5.jpg【ロッド・パラド(Rod PARADOT)】

1996年サン=ドゥニ生まれ。
スタンにあるリセの職業訓練過程に在学中、本作のオーディションを受け、主役デビューを飾る。本作が2015年のカンヌ映画祭のオープニング作品でもあったため、彼の登場はセンセーションをもって受け止められ、その後、セザール賞の有望男優賞をはじめ、リュミエール賞の有望若手男優賞も受賞。


(河田 真喜子)