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生き物を飼うことの大変さと喜びと。『猫なんかよんでもこない。』インタビュー

nekoyon-s-550.jpg生き物を飼うことの大変さと喜びと。『猫なんかよんでもこない。』インタビュー

ゲスト:山本透監督、原作者の杉作先生
(2015年11月21日 大阪にて) 


『猫なんかよんでもこない。』
nekoyon-550.jpg・2015年 日本 1時間43分
・原作:杉作(「猫なんかよんでもこない。」実業之日本社刊/全4巻+その後(公式ファンブック))
・監督・脚本:山本 透  共同脚本:林 民夫
・出演:風間俊介、つるの剛士、松岡茉優、内田淳子、矢柴俊博/市川実和子(猫:子供時代(チンとクロ)、大人時代(のりこ、りんご))

2016年1月30日(土)~TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS) ほか全国ロードショー
公式サイト: http://nekoyon-movie.com/
・コピーライト:© 2015杉作・実業之日本社/「猫なんかよんでもこない。」製作委員会
★風間俊介と山本透監督の舞台挨拶レポートはこちら



~独りではない、猫と共に乗り越えられた逆境の日々~

 
『グッモーエビアン!』や『探検隊の栄光』と、家族や仲間との絆を熱いハートで描く山本透監督が、“大人が泣ける猫漫画”として注目されている元ボクサーの漫画家・杉作著の『猫なんかよんでもこない。』を風間俊介主演で映画化。猫嫌いな主人公が猫の面倒を看ながら徐々に自立していき、さらに逆境を乗り越えられるほど成長していく物語は、静かだけど熱い想いが余韻として残る山本監督ならでの手腕が光る映画である。


本作の公開を控え、山本透監督と原作者の杉作先生が来阪。気まぐれな猫を相手に苦労された撮影中の秘話や、原作と映画についてのそれぞれの想いをうかがうことができて、より映画『猫よん。』への親近感がわいてきた。 
 



【映画化の意図と主人公ミツオについて】
――― 原作のどういうところに魅力を感じたのですか?
山本監督:まず、猫の描き方が愛玩動物的ではなく対生き物として対等に描かれて新鮮に感じられたことと、4コマ・8コマ漫画ですがとてもドラマチックな物語だったことです。猫嫌いなプロボクサーが猫の面倒を看させられて、さらに挫折を経て漫画家を目指すなんてよくある話ではなく、それが実話というところにも魅力を感じました。猫を撮るのは大変だということは分かっていましたが、とても感動した原作だったので、これは是非映画にしたいなと思いました。

――― 時代設定は?
山本監督:ちょっと前くらいです。DVDよりVHSを持っていたり、「あしたのジョー」とか読んでいる世代だったり、ブラウン管TVだったりしますが、昔の映画ですよと売りたかった訳でもないので、ぼやかしています。

――― 主人公のミツオをどんな若者と解釈して描いたのですか?
山本監督:人間そんなに簡単に変われるものではないので、ボクシングを諦めたからといってすぐに次の目標が見つかる訳でもない。それでも、猫の存在によって生きていくために何かしなければと前向きに物事を考えるようになる。簡単ではないが、そんな生き方ができる若者だと思いました。

 



【猫の撮影について】
nekoyon-s-240-di-1.jpg――― 飼い猫がこの映画を見てとても喜んでいたのですが、猫をこのようにリラックスして撮る秘訣は?
山本監督:秘訣という秘密兵器のようなものはなく、極力猫に合せただけです。2~3週間という短期間での撮影でしたが、猫がどんな状態かしっぽを見れば分かってしまうので、撮影現場となったアパートにも早めに入って慣れさせたり、お腹が空いたらエサをあげたり、できるだけ猫のリズムに合わせるようにしました。そのため役者さんやスタッフが大変だったと思います。突然「このシーンを撮るぞ!」と始めたり、「猫がどんな状態だろうがそのまま芝居を続けるように」と言ったり、アドリブもありで風間君も現場も大変でした。だからこそ、自然な猫の姿が撮れたんだと思います。

――― 風間さんと猫とのやりとりはアドリブが多かったのですか?
山本監督:そうですね。テレビから猫が落ちるシーンも、風間君の真剣な演技に猫が応えたというか、生き物対生き物の自然な反応ですね。

――― 猫目線で撮るための工夫や、いい表情を捉えるために溜め撮りとかされたのですか?
山本監督:いろんな猫の映画を見てきたのですが、猫の動きだけを切り離して撮ると温度が伝わらない気がしたんです。そこで、なるべく切り離さないで人間と一緒のシーンで撮るようにしました。

――― クロが病気になった状態はどうやって撮ったのですか?
山本監督:猫は基本濡らせば痩せて見えるので、猫用のトリートメントやヘヤワックスなどを使いました。目がしょぼしょぼして見えたのは、たまたまそんな状態の時の映像を使っただけで、何もしてないです。

――― 布団の中に入ってきたり舐めたりするシーンは、何か特別な工夫をされたのですか?
山本監督:あまり裏話はしたくないので書かないでほしいのですが(笑)、確かにちょっとした工夫はしました。でも、自然に舐めているシーンも沢山ありますよ。

――― 子猫時代のチン・クロは本当の捨て猫なんですか?
山本監督:スタッフの一人がもらってきて飼っている猫で、タレント猫ではありません。

――― 猫がとてものびのびしているように見えたのですが?
山本監督:トレーナーさんに預けても躾けられる訳でもないので、他のタレント猫たちと慣れさせたぐらいですね。

――― 猫のオーデションってどうするんですか?
山本監督:一応こんな猫が欲しいと伝えて沢山連れて来てもらったのですが、どれがどれだか分からなくなりました(笑)。一匹ずつ顔を撫でたりあやしたりしながら反応を見ました。人懐っこい猫かどうかで決めました。
 
 



【杉作先生と原作について】
――― 杉作先生は完成した映画を見てどう思いましたか?
nekoyon-s-240-sugi-2.jpg杉作先生:自分の頭の中のことが映画になったという不思議な感じでした。ほぼ実話ですので、映画の中に自分がいるみたいです。

――― 当時と比較して、今の状況をどう捉えておられますか?
杉作先生:今の状況がよく分からないんです(笑)。こうして映画になって不思議な感じなんですけど、今までにない面白さと驚きと、これも猫のお陰だなと改めて感じます。

――― 自分が映画になった感じは?
杉作先生:最初は違和感があったのですが、見始めたら映画は映画というひとつの作品の世界感を楽しみました。映画の中の自分は違うものと客観的に見ました。

――― ウメさんとか違う設定でしたが、拒否感みたいなものは?
杉作先生:それはなかったです。むしろ、自分もそうなったらいいなと、あんな所で働いてそういう出会いがあったらいいなと思いました(笑)。
山本監督:なるほどね、そういうこと初めて聞いた(笑)。

――― ウメさんとの出会いは、猫だけではなく明るさと温もりをもたらす重要な役ですが、事実とは違うのですか?
杉作先生:ウメさんは事実ですが、登場と設定の仕方が違います。
山本監督:1巻と2巻を合わせたような、いくつかの役を合せたようになっています。

――― この原作を映画にするには難しかったのでは?
山本監督:そうでもないですよ。1巻だけだとミツオの成長物語になるのですが、猫のことを教えてくれる人が必要だったので、猫の代弁者として大家さんやウメさんのキャラを膨らませました。

 



【山本監督の映画作りと本作について】
――― 過去の監督作品や本作から、現代人らしい絆を描くのが得意でいらっしゃるようですが?
nekoyon-s-240-di-2.jpg山本監督:極端な言い方をするとハッピーエンドの映画しか撮りたくないんです。映画館を出る時に気持ち良くありたい。映画文化そのものはいろんな作品があっていいのですが、自分は「明日も頑張ろう!」と思えるような作品を撮りたいと思っています。子供や孫たちにも気持ち良く見てもらえるような映画を撮り続けられたら幸せだと思っています。

――― 映画に独自性を持たせようと思って撮っているのですか?
山本監督:今度こうだったから次はこうしよう!というような考え方はしません。それぞれの作品に合った自分らしさが出ていればいいです。どこにでも転がっていそうな日常を描いているからこそ、そうでないものが潜んでいないかと探したりします。前作の『探検隊の栄光』では「くだらねえ!」と言ってほしかったし(笑)、「でもなんか熱いものを感じるよね」と思ってもらえたらいいなと。本作では、猫の可愛らしさだけではなく、避妊のことや病気のことなど、今まで避けられてきた問題も逃げないで描きました。生き物を飼うことの大変さをひとつひとつ描くことによって原作の良さに近付ける気がしたのです。

――― 猫を飼っている人にとっては「あるある」というシーンが沢山あったのですが?
山本監督:私自身今まで犬も猫も亡くした経験があり、今もまた猫を飼っていますが、原作の中でもグッとくるシーンが何度かありました。この映画をうちの3人の息子たちも見たのですが、「ちゃんとめんどうみるよ!」と言って、何だか知らないけど兄弟で話し合ってましたよ(笑)。

(河田 真喜子)



【STORY】
nekoyon-500-1.jpg猫嫌いのミツオ(風間俊介)は、兄貴(つるの剛士)が気まぐれで拾ってきた2匹の猫の世話をすることになる。ボクサーを目指し日々トレーニングしていたが、世界のリングまであと一歩というところで怪我のため挫折。それまで生活の面倒をみてくれていた兄貴は結婚を理由に田舎へ帰ってしまい、仕方なくアルバイトを始める。大家さん(市川実和子)やバイト先で知り合ったウメさん(松岡茉優)に猫のことを教えてもらいながら、猫と共に生きて行く。極貧の中でも独りではない。気まぐれな猫・チンとクロに振り回される日々を送るも、次第にミツオ自身の新たな目標掴んでいく。


【山本透監督プロフィール】やまもととおる
1969年生まれ、東京都出身。武蔵大学を卒業後、TV番組制作会社勤務を経てフリーランスの助監督になる。以後、ドラマや映画など多数の作品作りに関わり、山崎貴、利重剛、平山秀幸、中村義洋などの助監督として活躍。

長編映画初監督作は2008年の『キズモモ。』(脚本も担当)。2012年には麻生久美子と大泉洋が競演したホームコメディ『グッモーエビアン!』がスマッシュヒット。同作でヒロインの三吉彩花に第67回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞をもたらした。2015年10月16日に公開した冒険コメディ『探検隊の栄光』では藤原竜也とタッグを組んでいる。現在、短編映画『Do You Belive in Love?』の編集中。


【杉作先生プロフィール】すぎさく
元プロボクシング選手という異色の経歴をもつ人気マンガ家。新潟県新潟市(旧亀田町)出身。
1999年『イモウトヨ』で青木雄二賞受賞。
2000年『クロ號』でマンガ家デビュー。『猫なんかよんでもこない。』他、著書多数 

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