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今年も若き精鋭に会える!『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2020』

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上の写真、左から、
植木咲楽(UEKI SAKURA)(25)   『毎日爆裂クッキング』 
木村緩菜(KIMURA KANNA)(28)  『醒めてまぼろし』
志萱大輔(SHIGAYA DAISUKE)(26)『窓たち』



日本日本映画の次世代を担う

若き3人の監督作品とコメントを紹介

 

まず、《ndjc:若手映画作家育成プロジェクト》とは――?

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次世代を担う長編映画監督の発掘と育成を目的とした《ndjc:若手映画作家育成プロジェクト》です。文化庁からNPO法人 映像産業振興機構(略称:VIPO)が委託を受けて2006年からスタート。今回も、学校や映画祭や映像関連団体などから推薦された中から3人の監督が厳選され、最終課題である35ミリフィルムでの短編映画(約30分)に挑戦します。第一線で活躍中のプロのスタッフと共に本格的な映画製作できるという、大変貴重な機会が与えられるのです。


このプロジェクトからは、先ごろ公開された『あのこは貴族』の岨手由貴子(そでゆきこ)監督も輩出されています。「東京」で生きる立場の違う二人の若い女性の生き方を、鋭い洞察力と瑞正な映像センスで観る者の心を掴む秀作です。他にも、『湯を沸かすほどの熱い愛』で数々の賞に輝いた中野量太監督や、『トイレのピエタ』の松永大司監督、さらに『嘘を愛する女』の中江和仁監督や、『パパはわるものチャンピオン』の藤村享平監督、そして『おいしい家族』『君が世界のはじまり』のふくだももこ監督などを輩出して、映画ファンも業界人も注目するプロジェクトです。


今年はどんな若手監督に出会えるのか?――日本映画の次世代を担う新たな才能、3人の監督に作品に込めた想いや作品についてご紹介したいと思います。



 

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■監督:植木咲楽(UEKI SAKURA)

■作品名:『毎日爆裂クッキング』

■作家推薦:PFF
■制作プロダクション: アルタミラピクチャーズ
■出演: 安田聖愛 肘井ミカ 駒木根隆介 今里真 小日向星一 大谷亮介 渡辺えり

■製作総指揮:松谷孝征(VIPO理事長)■プロデューサー:土本貴生 
■撮影:柳島克己
(2021年/カラー/スコープサイズ/30分/©2021 VIPO)


【あらすじ】
ndjc2020-「毎日爆裂クッキング」-pos.jpg味覚障害に苦しむ相島文(安田聖愛)は、あらゆる調味料をかけて無理やり食べていた。それというのも、<食>の情報誌『織る日々』の編集者として働く文は、上司・皆月によるパワハラ、というより執拗なイジメに遭っていたのだ。文が手掛ける連載記事「畑食堂」は読者や上層部にも好評なのだが、それを皆月は妬んでいるのか、文だけに嫌がらせをしていた。同僚は知らん顔、誰も助けてくれない。もうストレスゲージはMAX!そんな時に空想するのが、キッチンで大暴れする憧れのエッセイスト・芳村花代子(渡辺えり)だった。


食についての編集者が味覚障害とは!? ある日、取材に訪れた農家の妻に見破られ、益々自分を追い込んでしまう。さらに、文が敬愛する芳村花代子が出版社に打合せにやってきて、連載記事「畑食堂」のファンだと言われ大喜びする。ところが、なんとその記事の担当者はいつの間にか皆月になっていたのだ。大好評の自信作を皆月に横取りされて、ついに文の怒りが爆裂する!

【感想】
ストレスを抱えながら生きている人が多い現代、にっちもさっちも行かなくなることもあるだろう。だが、自分を追い詰める前に、まずはその原因となる障害に立ち向かおうよと、勇気をくれるような作品。明らかに理不尽なことを強要されれば我慢も限界となる。立場の弱い人々が置かれた現状に着目し、ストレスからくる障害も妄想シーンを交えてユーモラスに描出。さらに、青々とした田園風景の中で作物への愛を語るシーンからは、得意分野で輝ける希望を感じさせてくれる。キッチンで爆裂する渡辺えりが痛快!


【植木咲楽監督のコメント】
ndjc2020-inta-ueki-1.jpgベテランのプロの方々との初めての大規模撮影に緊張しましたが、皆さんに支えて頂いて心から感謝しています。また、渡辺えりさんに出演して頂けたことはとてもラッキーでした。可愛い衣装選びも楽しかったです。

元々「食」をテーマにした作品を撮りたいと思っていたので、コロナ禍で時間が出来たこともあり、今までの想いを全部詰め込んで書いてみました。

テーマについては、昨今の状況や自分の人生の中で、罵倒されたり不当な扱いを受けたりして心に傷を負うことも多くなってきて、そんな重い空気を笑い飛ばせるようなコミカルなテイストの作品を目指しました。

できるだけ重くならないように、弱っている人を追い詰めないように、最悪の事にはならないように、頑張っている人に失礼にならないように、人を傷付けることにならないように、というような事を大事にしながら書きました。

私は自然がある所に惹かれる性質のようで、今回の農家のシーンは、企画の段階から三浦半島で撮りたいと希望しました。豊かな自然を背景にした映画を撮っていきたいです。ラッセ・ハルスレム監督が好きなんですが、『ギルバート・グレイプ』や『サイダーハウス・ルール』でも自然の描写が活かされていると思いました。

今後は、なるべく誠実な映画を作っていきたいです。できれば、見過ごされてしまったり、蔑ろにされてしまいそうなもの、そういう経験で感じた悔しい思いや、また、そこから助けてもらった時の嬉しさとかを忘れないで映画を撮っていきたいと思っています。
 



【PROFILE】1995年大阪府生まれ。
京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)映画学科にて、高橋伴明、福岡芳穂らより映画制作について学ぶ。監督・脚本を務めた卒業制作『カルチェ』がPFFアワード2018にて入選、第19回TAMA NEW WAVEにてグランプリを受賞。大学卒業後は上京し、石井裕也監督のもとで監督助手を務め、映画・ドラマ・ドキュメンタリー作品の助監督および映像作家としても活動中。
 




ndjc2020-inta-kimura-2.jpg■監督:木村緩菜(KIMURA KANNA)

■作品名:『醒めてまぼろし』

■作家推薦:日本映画大学
■制作プロダクション: シネムーブ
■出演: 小野花梨 青木柚 遠山景織子 仁科貴 青柳尊哉 尾崎桃子
■製作総指揮:松谷孝征(VIPO理事長)
■プロデューサー:臼井正明、古森正泰 
■撮影:今泉尚亮
(2021年/カラー/ビスタサイズ/30分/©2021 VIPO)

【あらすじ】
ndjc2020-「醒めてまぼろし」-pos.jpg2009年、冬。高校二年生の清水あき子(小野花梨)は自宅から自分の学力で通える最大限に遠い都内の高校に通っている。家では眠れないあき子は常に睡眠不足で、教室や電車内でよく居眠りをしている。ある日、電車内で目覚めると、将棋に夢中になっている一人の少年・吉田(青木柚)が目に入る。吉田との出会いがあき子の暗くて単調な生活に変化をもたらすが、またしても共に過ごす時間が消え去ろうとする。

あき子は時々、昔一緒に住んでいた祖母の家に行って眠りにつく。と言っても、もう家は取り壊され更地になっているのだが、お構いなしに、優しい祖母との思い出に包まれるようにして地べたで寝てしまうのだ。そんな祖母を大切しなかった両親への反発もあり、家には居場所がないあき子にとって、そこが一番安心して眠れる場所だったのだ。

【感想】
大切な人を失って、その面影と温もりを求め過ぎて他を寄せ付けないこともあるだろう。ましてや、思春期のどうしようもない気持ちを持て余し、家族や級友らにも心を閉ざしてしまうこともあるだろう。そんな行き場のない気持ちを抱えた少女が、安心して眠れる場所を探すように他者とのコミュニケーションをとろうとする。その姿に冷ややかなニヒルさを感じさせる。終始仏頂面の少女と、安易な理解を拒むような展開は共感しづらいところもある。思春期の暗い面ばかりでなく、少女ならではの生命力はじけるようなシーンも盛り込んでほしかったなぁ。


【木村緩菜監督のコメント】
ndjc2020-inta-kimura-1.jpgコロナ禍での撮影は、マスクやフェイスシールドなどで相手の表情が見えにくく、気持ちも分かりにくかったように感じて、コミュニケーションを如何にとっていくかが大変でした。それでも、いろんな人が意見を言って下さったり協力して下さったりして作品ができたことにとても感謝しています。

テーマについては、「自分の居場所がないというか、帰る場所がないと思っている人が、どうやって一人で生きていったらいいのか?」と思った時に書いた脚本です。主人公は自己肯定感の低い少女ですが、過去の楽しかった思い出を拠り所にして、新たなコミュニケーションをとろうとしていきます。私が伝えたいテーマは分かりにくいと思うので、どこまで理解してもらえるか分かりませんが、自分の中でこれが正しいと思うことは曲げないようにしました。

好きな映画監督は、田中登監督や熊代辰巳監督に黒澤明監督、アンドレイ・タルコフスキー監督などが好きです。「感性が先行する映像派」と言われるかも知れませんが、今後は、言葉で説明できない感情をちゃんと映画にできたらいいなと思っています。
 



【PROFILE】1992年千葉県生まれ。

日本映画大学卒業。在学中からピンク映画や低予算の現場で働く。卒業制作では脚本・ 監督を務めた「さよならあたしの夜」を16mmフイルムで制作。卒業後は映画やドラマ、CM、MVなど様々な監督のもとで助監督として働く。
 




ndjc2020-inta-shigaya-2.jpg■監督:志萱大輔(SHIGAYA DAISUKE)

■作品名:『窓たち』

■作家推薦:PFF
■制作プロダクション:角川大映スタジオ
■出演: 小林涼子 関口アナン 瀬戸さおり 小林竜樹 里々佳
■製作総指揮:松谷孝征(VIPO理事長)
■プロデューサー:新井宏美 
■撮影:芦澤明子
(2021年/カラー/ビスタサイズ/30分/©2021 VIPO)

【あらすじ】
ndjc2020-「窓たち」-pos.jpg一緒に暮らして5年程が経つ美容師の朝子(小林涼子)とその恋人でピザ屋のアルバイトをしている森(関口アナン)。その関係性はもうときめくことはないが冷め切っているわけでもない。森には他の女性の気配がする上に、生活を向上させようとする意欲もない。このままこの関係を続けていいものだろうかと不安に感じ始めた朝子は、森に妊娠したことを告げる。

子どもがいる友人宅で父親としての自覚を感じ始めた森は、朝子に子どもを産んで欲しいと伝える。彼なりに正社員になろうとしたり女性関係を清算したりするが、朝子はなぜか冴えない表情のまま。そんな朝子が働く美容室に、森の彼女らしき女性がやって来る。笑顔で対応する朝子。その夜、朝子は森にある告白をする……。

【感想】
同棲も長くなると緊張感も薄れ不安がつのることもあるだろう。お互いの信頼感が揺らぎ始めると、相手の心を試したくなってくる。そんな二人の変化を日常の生活の一部分を切り取ったような描写は、微妙すぎて瞬時には理解しづらいところもあった。本当に一緒に生きていきたいのか、本当に必要な存在なのか、もう少し心情を吐露するようなシーンがあっても良かったのでは?と、単調なトーンで終始した展開にちょっと物足りなさを感じた。それでも、朝子役の小林涼子さんの美しさと芦澤明子カメラマンの陰影の効いた撮影に救われた気がした。


【志萱大輔監督のコメント】
ndjc2020-inta-shigaya-1.jpg私もプロの方々との大規模撮影に緊張しました。「監督」と呼ばれること自体初めてでしたので、監督としてどう振舞えばいいのか分からず戸惑いました。

テーマについては、「絶妙な男女のすれ違いを切り取ったストーリー」、自身の経験上、夫婦ではないが恋人同士とも違うという実感があったので、それを映画にできたらいいなと思って書きました。

設定の説明不足もあり、人物が登場するシーンなどで唐突に思われたシーンもあったかも知れませんが、基本的には脚本に忠実に撮影していきました。本当はもっと前の段階のシーンもあったのですが、30分に収めるが課題でしたので、どの段階から描き始めればいいのかと考えた結果、あのような構成になったのです。

好きな映画というか、何度も見返している映画は、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ザ・マスター』です。物語が好きという訳ではないのですが、無表情の登場人物をただ撮っているように見えて、心の中がありありと映し出されていくところが好きでよく観ています。他にホン・サンス監督も好きで、キム・ミニと一緒に撮っている作品が最高だと思います。

今後は、単純に霊感に興味があるので、そういうものを題材にした作品を撮ってみたいです。どんな撮り方ができるのか、とても興味があります。
 



【PROFILE】1994年神奈川県生まれ。

日本大学芸術学部卒。監督作「春みたいだ」がPFF2017、TAMA NEW WAVE正式コンペティション部門などに入選。また海外では、Tel Aviv International Student Film Festival(イスラエル)などに出品/上映された。現在はフリーランスの映像ディレクター/エディターとしてMVやweb CMを手がける一方、自主映画制作も行い、最新作「猫を放つ」(2019)が公開準備中。
 




★東京で開催された合評上映会のレポートはこちら▶ http://cineref.com/report/2021/02/ndjc2020.html



(シネルフレ・河田 真喜子)

 
 

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