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それぞれの想いで感じてほしい『風の電話』舞台挨拶

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2020年1月25日(土)大阪・なんばパークスシネマにて

ゲスト:モトーラ世理奈(21)、西島秀俊(48)、諏訪敦彦監督(59)



少女は故郷を目指す――

悲しみと向き合う勇気を優しく教えてくれるロードムービー。

 

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岩手県大槌町に実在する電話ボックス、〈風の電話〉。2011年、東日本大震災の後、ガーデンデザイナーの佐々木格氏が自宅の庭に設置した電話ボックスは、亡くした大切な人に想いを伝えられる「天国につながるただ一つの電話」として、未だに訪れる人が絶えないという。そのドキュメンタリー番組をTVで見て、後悔や傷心、悲しみを抱えて生きる遺された者の苦悩が不思議と癒される様子に、驚きと共に強く心を動かされたことを覚えている。


kazedenwa-bu-suwa-1.jpgこの〈風の電話〉を題材に、震災で家族を失い心を閉ざした少女の物語を映画化したのがフランスで活躍してきた諏訪敦彦監督である。映画『風の電話』は1月24日から公開され、大阪では25日に主演のモトーラ世理奈と西島秀俊と諏訪敦彦監督による舞台挨拶が行われ、作品に込めた想いを語ってくれた。


諏訪監督は、泉英次プロデューサーから企画を持ちかけられ初めて〈風の電話〉のことを知り、18年ぶりに日本映画でメガホンを執ることに。明確な脚本を示さず俳優の感性が試されるような演出法が特徴の諏訪監督だが、監督作に出演経験のある西島秀俊や三浦友和、渡辺真起子らが集結。西島も、「今日何やるんだろう?」とスタッフと待つことが多い現場だったと振り返りながら、「今回はちゃんとしたストーリーがあったが、当日の朝に脚本を渡され、その日その日で話し合って撮影した」と、変わらぬ諏訪組の現場を語った。


kazedenwa-bu-serina-1.jpg震災後、心を閉ざしてしまった主人公・ハルを演じるのはモデル出身のモトーラ世理奈。遺された者の喪失感と孤独に苛まれる難しい役どころを、寡黙な中にも寄る辺ない心情を滲ませて秀逸。諏訪監督は、オーディションで初めて会った時、「質問しても返事に時間がかかったが、彼女特有の時間の流れを感じて、ハルは彼女しかいない」と即決したそうだ。モトーラも、「諏訪監督のやり方が好き。その場でどんな風が吹いているのか、何を感じているのか…」。「その場で感じることが大事」という諏訪監督の期待通り、順撮りの最後となるラストシーンでは、本番で初めて電話ボックスに入った。「撮影前、不安だったのでホテルで練習してみたのですが、何か違う。電話ボックスに入って感じるものがあるはずなので、練習するのとは違う」。監督も「その時のハルに任せよう」と10分以上に渡る電話ボックスのシーンを撮り上げたという。


kazedenwa-550.jpg広島で叔母と暮らしていた少女・ハルが、叔母の病気をきっかけに故郷の岩手県大槻町を目指す旅に出る。果たして、ハルはつらい過去と向き合うことができるのか――道中、認知症の老母と暮らす公平(三浦友和)に助けられ、戦争の悲惨さを知る。さらに、親切な姉弟に拾われ、妊娠中の胎動を感じて新しい生命の歓びを知る。その後、深夜に不良に絡まれていたハルを助けた森尾(西島秀俊)を通して新たな出会いを経験する。難民として日本で暮らすクルド人一家は、帰る国も家もなく、父親は不法滞在者として収監されたままだが、それでもハルと森尾を温かくもてなしてくれる。どんな状況下でも他者への思いやりを忘れない優しさが人を救うことを知る。


kazedenwa-bu-nishijima-1.jpgそして、森尾が車上生活をしている理由を知り、その知人である今田(西田敏行)との出会いが、震災の悲しみを引きずりながらも生き抜く人々の苦悩を知る。福島県出身の西田敏行の、地元の人々の心情を代弁するような白眉の即興演技が深みを醸し出す。そのシーンについて監督は、「西田さんは、打ち合わせしている最中にスイッチが入っちゃって、慌てて撮影し始めたんです。すべて西田さんオリジナルの独白で、流れに任せていくつかのシーンも撮りました。その内すいとんのことでケンカになったりして(笑)」。西島は、「自然の流れで相槌打ったりお酒飲んだりしていましたが、森尾が故郷へ帰って来ようかな、と思えるような流れに導いて下さって、とても重要なシーンとなりました」と述懐。


諏訪監督:「自分の想像通りの映画になったら面白くない。意外性が面白いのです。ハルも世理奈も、いろんな人との出会いで何かを心に蓄積していけたからこそ、ラストの電話ボックスでのシーンでは自分の言葉で語れたのだと思います。」

西島:「脚本がないからこそ、日頃の考えが言葉として出て来るのでしょう。」

モトーラ:「この映画は、優しく温かな空気に包まれる作品。それを感じて、いつかハルのことを思い出して下さったら嬉しいです。」


kazedenwa-bu-2-240.jpg撮影中、西島は、「モトーラと打ち合わせした方がいいかな?」と思ったが、その必要はない程自分の世界に浸っていたそうだ。モトーラも、ずっと西島のことを「森尾」と呼んでいて、最近になってようやく「西島さんに会っている感じがしてきた」と語る。諏訪監督が言うように、他の女優にはない独特の雰囲気と彼女のペースがあり、心を閉ざした少女・ハルの持つ想いの深さを反映させている。ハルが辿る故郷への道は、あらゆる苦悩を抱えた人々の共感を呼び、生きる勇気を優しく教えてくれているようだ。


(河田 真喜子)


■モトーラ世理奈:1998年10月9日生まれ、東京都出身。2015年、雑誌『装苑』でモデルデビュー。2018年、映画『少女邂逅』で女優デビュー。2018年にNHKドラマ『透明なゆりかご』、2019年、映画『おいしい家族』、映画&シンドラ&Hulu『ブラック校則』。2020年2月公開予定『恋恋豆花』が控えるなど、今後さらなる活躍が期待される注目の新人女優である。

■西島秀俊:1971 年 3 月 29 日生まれ、東京都出身。

■諏訪敦彦監督:1960 年生まれ、広島県出身。


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『風の電話』

(2020年 日本 2時間19分)
監督:諏訪敦彦
出演:モトーラ世理奈、西島秀俊、西田敏行(特別出演)、三浦友和、渡辺真起子、山本未来
配給:ブロードメディア・スタジオ
© 2020 映画「風の電話」製作委員会
公式サイト:http://kazenodenwa.com/

2020年1月24日(金)~なんばパークスシネマ 他全国公開中!

 

 

 
 

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