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「毎朝、窓を開けて外を眺めるときの心情の変化を一番大事に」 『「桐島です」』主演、毎熊克哉さんインタビュー

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『夜明けまでバス停で』の脚本家、梶原阿貴と再タッグを組み、東アジア反日武装戦線「さそり」の元メンバー・桐島聡の半生を映画化した高橋伴明監督最新作『「桐島です」』が、2025年7月4日(金)よりなんばパークスシネマ、MOVIX京都、MOVIXあまがさき、イオンシネマ和歌山、京都シネマ、7月5日(土)より第七藝術劇場、元町映画館にて公開される。
 本作で半世紀に渡る桐島の逃亡人生を一人で演じきった主演、毎熊克哉さんにお話を伺った。
 
 
1毎熊克哉、伊藤佳範、奥野瑛太スクリーンショット 2024-11-30 000109.png

 

■ピースを少しずつ集めて埋めていくイメージの役作り

――――キャスティングの経緯について教えてください。
毎熊:2024年1月に桐島聡と名乗った男性の死亡を伝えるニュースが流れ、その数ヶ月後には脚本ができたぐらい、撮影まですごくスピード感があった企画でした。桐島役で声をかけていただき、迷わず「やらせてください」と伝えました。
 
――――大役ですが、役作りをはどのようにされたのですか?
毎熊:役作りは無限にある。つまり正解がないものだし、どこに突破口があるのかと、どの役でも毎回試行錯誤しています。桐島の場合、「さそり」として活動していたのがどんな時代だったのかを調べました。「ウチダヒロシ」として生きていた時代は情報も少なく、また人によってウチダに対する印象も変わるわけです。自宅にギターがあり、音楽が好きだったという証言もあったので、ギターの練習をするのも役作りの一つでした。そういう風に、今回はピースを少しずつ集めて埋めていくようなイメージの役作りになっていました。
 
――――ちなみに、桐島のニュースを聞いたときの印象は?
毎熊:みんながずっと気になっていた人物がやっと捕まったというより、昔埋めたタイムカプセルがやっと見つかったという感覚でした。リアルタイムにその事件を目の当たりにしたわけではないので、何をやったのか詳細はわかっていなかったけれど、指名手配写真によって桐島のことが頭の中に勝手に刷り込まれていたのでしょう。ニュースを見た時も「まだ桐島は生きていた、しかも(自分の)近くで」と思いましたね。
 
――――しかも桐島は毎熊さんと同じ広島出身ですね。
毎熊:ちょうど地元も同じで、桐島が登場する20代最初のころは、まだ方言の名残があってもいいのではないか。より地方出身者の雰囲気が出ればと思い、伴明監督に相談して序盤は備後弁という広島市内の安芸弁とは少し違う方言を取り入れました。
 
――――広島弁も場所によって違いがあるんですね。
毎熊:僕も出身が岡山のすぐ隣の福山市だったので、岡山弁が少し混じっているんですよ。後半にウチダが出身地の話で桃太郎に言及するシーンがありましたが、広島の福山とは言わず、岡山を代表する桃太郎を持ってくるあたりがなんだか可愛らしいし、序盤の備後弁が効いてくるんですよ。
 
――――台本を読んで、桐島の印象は変わりましたか?
毎熊:ものすごく淡々と出来事が起きていくのに、桐島の優しさや、時代に取り残されていく寂しさ。さらに、ウチダとして約50年生きてきたからこそ、現代に対するやり場のない怒りも感じましたね。
 
 
2北香那、毎熊克哉スクリーンショット 2024-12-03 005829.png

 

■桐島役の醍醐味とは?

――――無口なキャラクターなので、動きや歩き方など、全身で桐島がウチダとして生きた人生を表現されていましたね。後ろ姿も儚い感じがしました。
毎熊:俳優として、セリフで何かを伝えるために声に意識を向けてトレーニングをすることもあります。一方、映画はスクリーンで観ることを前提にしていると思っていますから、スクリーンで鑑賞をすると圧倒的にセリフよりも表情や姿の方が強烈に情報として入ってくるのです。例えば高倉健さんは、出演作でそんなにしゃべらないけれど、その姿をスクリーンで観る側が自然とその演技から情報を受け取るわけです。
 
今回の場合、セリフよりも人の話に対するリアクションで心情の変化を見せるところが、この役の醍醐味だと思いました。外でウチダとして仕事をしたり、音楽バーにいる姿と、ひとりで家にいる姿は全然違います。家では淡々とルーティーンが繰り返されるだけですが、その中でも毎朝、窓を開けて外を眺めるときの心情の変化は一番大事にしていましたね。
 
――――特に最晩年の桐島は演じるのが難しかったのでは?
毎熊:伴明監督は75歳ですが、その後ろ姿に生きてきた長さだけではない色々なもの、雰囲気を感じ取るところがありました。この桐島聡が生きてきた70年という長さを、歩く足取りの重さでちゃんと表現できれば、セリフよりもその哀愁を感じていただけるのではないかと思っていました。
 
――――桐島を演じてみて、彼に共感を覚える部分はありましたか?
毎熊:ふと闘争の道に足を踏み入れてしまった人のような気がするのです。元々過激な思想を持ち、自らが先頭に立ってというタイプではなく、たまたまそういう仲間と出会い、爆弾闘争の道に入ってしまったというイメージがあります。僕はずっと映画をやりたいと思い、気づいたら20年近く俳優をやっていますが、このまま続けて70代になったとき、「他の人生があったかも」と思うかもしれない。だからやり続けるという気持ちと、どこかで足を止めるという気持ちが桐島には両方あったのではないでしょうか。僕も他に趣味があるわけでもなくて、毎朝、今日も(俳優を)やるか…という感じなので、そこは共感する部分かもしれません。
 
 
6毎熊克哉_指名手配スクリーンショット 2024-12-03 004829.png

 

■ “名乗り出るシーン”に込めた想い

――――高橋伴明監督とは撮影前や撮影中にどんな話をしたのですか?
毎熊:撮影前はオファーを受けるかどうかで、わざわざ監督が時間を作ってくださり、桐島ら「さそり」のメンバーが爆破事件を起こした当時、どう思っていたのかなど1時間ぐらいお話をしました。ただ桐島をどのように演じてほしいというような具体的な指示は現場に入ってもほとんどなかったです。
 
特に病棟で看護師に「桐島です」と名乗るところは、撮影の旅の間、どういう感じで言えばいいのかとずっと考えていました。中盤で撮影メンバーが晩御飯を一緒に食べる機会があり、伴明監督にそのことを相談してみたのです。桐島のそれまでの人生を踏まえ、いろいろな考えがある中で「闘いに勝った」という気持ちや、最後ぐらい自分の名前を公にしたいなど、さまざまな気持ちがあったはずです。でも、あまりどれかに寄らない方がいいとその段階では思っていることを伝えました。すると伴明監督も「俺もそう思っているんだよね」と。
 
――――ある意味、ご自身で自由に桐島像を作り上げていかれたと?
毎熊:演じる環境はきちんと用意されていますから。しかも伴明監督は場合によってはリハーサルもしないぐらい、撮るのが速いんです。特に問題がなければ、大体ほぼ一発撮りでした。まさに、さらっと撮る感じですね。「桐島です」と名乗るところは、お客さまからすれば肩透かしになるかもしれませんが、映画としてはいろいろなものを受け取ってほしいと思って演じました。感情を煽るような形でウエットな言い方は嫌だなとか、逃げ切ったという気持ちの強さを出すとウエットな部分が弱くなってしまうなとか。あくまでもいろいろなことがあった上で、桐島が意識朦朧の中で、ただ「さそりの桐島です」と言ったように聞こえてくると、お客さまが映画の中で見た光景の中から、それぞれ感じ取ってもらえるのではないかと思っています。
 
 

5毎熊克哉、和田庵DSC_0562.JPG

 

■高橋伴明監督自身の想いでもある「やさしさを組織せよ」

――――劇中の桐島の信念は50年間変わらなかったけれど、その間世の中は大きく変化し、人々の価値観や行動倫理も変わってしまいました。だからこそ桐島にはそういう世の中に対する怒りもあったのではと思ったのですが。
毎熊:若い頃は搾取に対する正義感があったし、もっと他のやり方があったはずですが、彼らはあのときは爆弾しか思いつかなかった。そこからどんどん時代が進み、自分たちが具体的に活動していた頃より、さらにダメな世界になっていないかというすごく残念な気持ちを抱いていた気がします。後半、人種差別の言葉を吐く若い同僚に対して怒るシーンがありますが、彼に怒っているのではなく、彼のような青年がいる現実に対して、なぜなんだ!という気持ちが渦巻いていた。映画でも「やさしさを組織せよ」という言葉が登場しますが、なぜやさしい世界はないのかと、より感じていた気がします。そして、それは前作の『夜明けまでバス停で』と同様に伴明監督自身の想いでもあると思います。
 
――――最後に、本作は第20回大阪アジアン映画祭のクロージング上映作品となりましたが、暉峻プログラミングディレクターはインタビューで、この作品が毎熊さんの代表作になるのは間違いないと太鼓判を押しておられましたが、毎熊さんにとってどんな作品になりそうですか?
毎熊:僕も20代は俳優の仕事がなく、アルバイトで食いつなぐ生活でそれでも辞めずに続けてきた結果、30代直前に自主映画『ケンとカズ』で人に自分の名前を知ってもらえるような名刺代わりの作品ができました。そこからいろいろな役を演じ、いろいろな経験を積み重ねてきました。その上で演じた『「桐島です」』は、僕自身がまた違う何かになる可能性を秘めた作品だと思っています。それがいいのか、悪いのか、どれぐらいの大きさのものなのかはわからないけれど、僕自身は伴明監督が撮る映画で、最初から最後までずっと出演している大当たりの役をいただいたと思っています。
(江口由美)
 

<作品情報>
『「桐島です」』
2025年 日本 105分 
監督:高橋伴明 脚本:梶原阿貴、⾼橋伴明
出演:毎熊克哉
奥野瑛太 北⾹那 原⽥喧太 ⼭中聡 影⼭祐⼦ テイ龍進 嶺豪⼀ 和⽥庵
伊藤佳範 宇乃徹 ⻑村航希 海空 安藤瞳 咲耶 ⻑尾和宏
趙珉和 松本勝 秋庭賢二 佐藤寿保 ダーティ⼯藤
⽩川和⼦ 下元史朗 甲本雅裕
⾼橋惠⼦
2025年7月4日(金)よりなんばパークスシネマ、MOVIX京都、MOVIXあまがさき、イオンシネマ和歌山、京都シネマ、7月5日(土)より第七藝術劇場、元町映画館にて公開
 
公式サイト→https://kirishimadesu.com/
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