(左から、阪本順治監督、吉永小百合、天海祐希)
・合同記者会見日:2025年10月17日(金)
・場所:ホテルニューオータニ大阪
・ゲスト:吉永小百合、天海祐希、阪本順治監督(敬称略)
女性初のエベレスト登頂を果たした登山家・田部井淳子の偉業にスポットを当てるだけでなく、家族との関わり、病と死に向き合う姿をオリジナル脚本で描く『てっぺんの向こうにあなたがいる』が、10月31日より全国ロードショーされる。
阪本順治監督と、世界的登山家の多部純子を演じた吉永小百合、多部と共に世界の山を登った長年の友人、北山悦子を演じた天海祐希がホテルニューオータニ大阪で行われた合同記者会見で本作への想いを語った。その模様をご紹介したい。
(最初のご挨拶)
吉永:20代のころは、ちょっとした山ガールで山に登ることが大好きでしたが、そのうちに登るのが辛くなりスキーに転向してしまいました。2012年に田部井淳子さんにお会いし、すっかり魅了され、今回このような形で作品に出演することができ、大変嬉しく思っています。
天海:今回は小百合さんの盟友という役を仰せつかり、小百合さんとまたご一緒させていただけるならと飛び込んだ世界でしたが、阪本監督やたくさんの方の熱意のこもった映画に仕上がりました。この想いが一人でも多くの人に伝わればと願っております。
阪本監督:私の監督作品は主演級が男性の作品が多いので、女優お二人と記者会見に挑むのははじめてです。(撮影中も)お二人には可愛がっていただきました。
■撮影が終わっても見守ってくれていた天海さんに感謝(吉永)
―――撮影中、印象に残ったできごとは?
阪本監督:それぞれ力のある場面を撮影したので選ぶのが難しいのですが、エンディングに向かって富士山で撮影したときは、天候に左右されるため何度もトライできないという状況でした。猛暑で海面温度が上昇し、早い時間にガスが出てしまうので、4日間の撮影で最終日の奇跡を願うしかないと、朝4時から山を登り始めました。おかげで素晴らしい景色の中で多部夫婦の画を撮ることができたのが一番印象に残っていますね。これで映画がうまくいくと安堵しました。
天海:純子と悦子が一緒に歩いた丘は、小百合さんにちなんで付けられた「吉永の丘」という名前の丘なんです。一般には解放されていない場所だそうで、その吉永の丘を小百合さんと二人で一緒に登るとは、なんて素敵なのだろうと、一歩一歩踏みしめて歩きました。わたしが出演していないシーンも、胸が詰まる温かいシーンがたくさんあり、映画全体を通して、人生は山登りのようで、何があっても一歩一歩、ゆっくりと歩いていくのだというメッセージをいただきました。全部が素晴らしいので、ぜひ楽しみにしていただけたらと思います。
吉永:天海さんと同じく、あの景色の素晴らしさや空気の美味しさ、天海さんと一緒にテントで歌を歌ったり、本当に友達という感じで演じられたのは、ずっと思い出に残ると思います。純子がチャリティーコンサートで歌を歌うシーンがあったのですが、天海さんは撮影を終えられたのにステージ袖でずっと歌っているところを見守ってくださいました。本当にありがたいですし、出演してくださったことも含めて感謝しております。
■「病気になっても病人にはならない」と前へ進むところをしっかり出したかった(吉永)
―――田部井さんにお会いされたとき魅了されたところや、役を演じる上で大切にしたことは?
吉永:2012年、わたしが担当しているラジオ番組にご出演いただきました。東北の高校生のための富士登山プロジェクトを一般の人にアピールしたいとのことで、とにかく明るく、なんでも話してくださり、耳にピアスをつけていらして大ファンになりました。「登山家」と申し上げると、「わたしは登山愛好者です」ととても謙虚で、大変な苦労をなさりながら、世界中の山を登っていらっしゃる方です。常に(演じる)チャンスがないかしらと思っていたら、今回実現しました。演じる上では、「一歩一歩前へ」という田部井さんの心や、大変な闘病をされながらも「病気になっても病人にはならない」と前へ前へと進んでいらっしゃるところをしっかりと出したいと思いました。
―――悦子は純子をずっと見守り、そばで支えるキャラクターだが、長年親友であるという役をどのような心持ちで臨んだのか?
天海:純子のことを悦子は大好きだったのだと思います。悦子の夢を実現しているというか、人としてのバイタリティーや生き方や純粋な想いが純子にはある。悦子からすればキラキラしたものを持っているにもかかわらず、純子はそれをひけらかすこともなく、自分を抱きしめ、相手を大切に生きています。そんな純子へ憧れる想いが私自身の小百合さんへの想いとリンクしていたので、特に工夫してお芝居をせずとも、純子を見つめる先に小百合さんがずっといてくださいました。
普段から小百合さんにいろいろなことを聞いたり、仲良くさせていただいているので、テントの中で純子が悦子に突っ込んだりしているのも監督が「よし!」と言ってくださって良かったです。わたしにとっては、憧れている人を見続けられた瞬間を切り取ってもらえた映画だと思います。
■のんさんは自在に生きているところが田部井さんと重なった(阪本監督)
―――吉永さんとのんさんの二人で田部純子を演じているが、どのように純子像の整合性を取ったのか?
阪本監督:田部井さんの書物の中から「言い訳しない」「おてんばである」など印象的だった言葉を箇条書きしてお二人に伝え、特にのんさんにはそこから外れないようにやってもらいました。のんさんは、自在に生きているというのが僕の強い感想で、田部井さんもそうだと思いましたし、吉永さんのデビュー当時の写真集の目元がのんさんにそっくりなので、のんさんに青年期をオファーしました。のんさんは、先に撮影している吉永さんが演じる様子を見学に来られていました。吉永さんが演じる純子のリズムをつかもうとしていたのだと思います。
―――今回初めてのタッグとなった阪本監督の印象は?
天海:現場では統率力があり、細かくお芝居を見てくださる。とても安心してそこにいられたし、監督が臨むものができるように何回もチャレンジさせてもらえたらと思っていました。真ん中に小百合さんがいらっしゃり、監督についていく出演者、スタッフがいるという理想的ですごく居心地のいい現場でした。次はもう少し、演出をしていただいたいです(笑)。楽しかったです。
阪本監督:北山悦子役は北村節子というモデルがいらっしゃるのですが、北村さんの立ち振る舞いやたくましさが非常に天海さんに似ていると思いました。悦子は多部純子との絆がありますが、天海さんは吉永さんと既に絆があり、それも含めてやっていただきたいと思いました。お二人は日米同盟より絆が強い。悦子が登場する場面数は少ないですが、重要な役割で強い存在感を残していただきました。またご一緒したいと思います。
吉永:いつも天海さんと二人で詐欺師や泥棒など悪い役をやりたいと話しているので、阪本監督、よろしくお願いします。
■浩市さんは精神的にも小百合さんを支えていた(天海)
―――佐藤浩市さんとの夫婦のシーンについて教えてください。
吉永:浩一さんは高所恐怖症だそうで富士山どうかしらとおっしゃっていましたが、撮影では富士山の7合目のあたりで(ストックづたいで)とても強い力で引っ張ってくださいました。(抗がん剤治療のため)純子の手が麻痺し、代わりに夫、正明が料理をするシーンも普段やっているのではないかというぐらいお上手で、安心して夫婦の関係を演じられました。
天海:本当に多部一家がお互いを想いあい、だからこそぶつかり合うところに心打たれました。正明と悦子が、女子登山クラブメンバーの墓参りに純子と訪れるシーンで、雨を待っている間に佐藤浩市さんとご一緒しましたが、ご自分が出演していない小百合さんと私のシーンのことを聞くんです。小百合さんは元気だったかとか、大丈夫だったのかと。
そういうところから役だけではなく、精神的に小百合さんを支えていらっしゃるんだなと思いましたし、わたしも事細かく浩一さんに報告しました。現場からは以上です(笑)
―――今回は役作りのためにピアスを開けたそうですが。
吉永:10年ぐらい前に一度ピアスを開けたいと思いましたが勇気がなくて。時代劇の役を演じるときにはよくないと思い、そのままだったんです。今回は思い切って田部井淳子さんになるんだと思って「開けます」と決めました。監督に伝えると、「3箇所ぐらいしか目立つシーンはないけれど大丈夫ですか?」と。でも、女は度胸でピアスを開け、気分が高揚しました。ただ1ヶ月間(日頃続けている)プールに入ってはいけないと言われて辛かったですが。
■体の続く限り俳優を続けたい(吉永)
―――続けていくことの大切さを感じる作品ですが、同じく映画界で長く活躍を続ける吉永さんが俳優を続けることのモチベーションは?
吉永:最初は映画が好きで10代のころはアルバイトのような気持ちで入りましたが、途中で大人の俳優になれなくて挫折しそうになりました。年が経ち、高倉健さんと共演の森谷司郎監督の『動乱』で映画づくりの素晴らしさを感じることができ、もう一度映画の世界でしっかり足を踏ん張ってやっていこうと思いました。それからかなり年月は経ちましたが、一本ずつ大事に、大好きな映画の仕事をやっています。出演することでキャストやスタッフのみなさまといろいろなコミュニケーションが取れますし、映画ができていくのはこの上なく嬉しいことなので、体の続く限りやりたいと思います。
(最後のご挨拶)
天海:女性初のエベレスト登頂という偉業を成し遂げた女性が、母であり妻であり、そしてバイタリティーのある方でした。私も初めてこの映画に参加させていただくことでこんな生き方をした女性がいたとすごく励まされました。当時女性だけの登山パーティーがすごく珍しかったことにも触れていただいたり、どんなことでもいいので自分の思う道を一歩一歩と歩いていくことを実感していけたらと思います。ぜひ映画を映画館で観ていただけたらと思います。
吉永:田部井さんは人生8合目からが面白いとおっしゃっていますが、わたしの人生もその辺にさしかかっています。これからも一歩ずつ田部井さんのように歩いていきたい。ご家族やお友達のこと、いろいろなことを考えて生きていけたらと思っています。
阪本監督:この作品は富士山を登る高校生たちがたくさん登場します。思春期の子どもたちにもぜひこの映画を観ていただきたい。昨今は道標になるような大人がなかなかいなくなったので、客層の裾野が広がるように願っています。
『てっぺんの向こうにあなたがいる』
(2025年 日本 130分)
監督:阪本順治 脚本:坂口理子 撮影:笠松則通
原案:田部井淳子「人生、山あり“時々”谷あり」(潮出版社)
出演:吉永小百合 のん 木村文乃 若葉竜也/工藤阿須加 茅島みずき 和田光沙
天海祐希/佐藤浩市
配給:キノフィルムズ
© 2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会
公式サイト:https://teppen-movie.jp/
2025年10月31日(金)~アベノアポロシネマ、イオンシネマ シアタス心斎橋、kino cinema(心斎橋・神戸国際)、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OSほか)、ほか全国ロードショー
(江口 由美)