ニューヨークで暮らすとあるアジア人夫婦。ある日、息⼦の誘拐事件をきっかけに夫婦が抱える秘密が浮き彫りとなり、崩壊していく家族を描いたヒューマンサスペンス『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』(英題:『Dear Stranger』)が9月12日(金)に公開いたします。
主演は、米アカデミー賞で最優秀国際長編映画賞に輝いた『ドライブ・マイ・カー』や、A24製作のシリーズ『Sunny』など国際的な活躍の場を拡げる俳優・西島秀俊。その妻役には、ベルリン国際映画祭の最優秀作品賞を受賞した『薄氷の殺人』や『鵞鳥湖の夜』に出演するなど、人気と実力を兼ね備えた、台湾を代表する国民的女優のグイ・ルンメイ。日本と台湾、それぞれの国を代表する俳優2人が夫婦役で共演します。
監督は、社会問題を鋭くえぐり、予測不可能な展開で観客を魅了する映画監督・真利子哲也。2016年に『ディストラクション・ベイビーズ』 でロカルノ国際映画祭の最優秀新進監督賞を受賞。同作は2022年、『宮本から君へ』 とともにフランスで劇場公開され、好評を博しました。
新作が待ち望まれていた真利子監督の6年ぶりの最新作となる本作は、全世界に向けて各々の文化圏の人々に届く濃密なヒューマンサスペンス。撮影は、多国籍のスタッフが集結し、2024年11月~12月末までオールNYロケを敢行。ブルックリンを中心に、チャイナタウンやハーレム等、リアルなNYの日常を映しています。
【日程】 2025年8月5日(火) 16:00 ※上映・観客無し
【場所】 丸の内TOEI① (中央区銀座3丁目2−17)
【登壇者】西島秀俊、グイ・ルンメイ、真利子哲也(敬称略)
<以下、レポート全文>
2025年7月27日に閉館を迎え、すでに営業が終了した丸の内TOEI。本作では主人公が「廃墟」を研究していることから、「廃墟」さながらの会場で会見が行われ、主演の西島秀俊、台湾から来日したグイ・ルンメイ、そして真利子哲也監督が登壇した。
登場した西島は「力強い作品が完成しました」と堂々たる挨拶をし、監督は「西島さんとルンメイさんと日本でこうして舞台に立てることが嬉しい」と感動を表現。そしてルンメイは「みなさんこんにちは、私はルンメイです、どうぞよろしくお願いします」と流暢な日本語で挨拶をして会場を驚かせた。
本作のオファーを受けた時の印象、出演の決め手について聞かれた西島は「真利子監督のファンだったのでとにかくご一緒したいと思いました。脚本を読んで、文化の衝突や家族の関係の難しさという、今社会が直面している問題、だけど解決方法が見つかっていないというテーマが多く含まれていて、自分自身もこの作品と向き合ってみたいという思いが生まれました」と、本作への強い熱意を明らかにし、ルンメイは「監督からオファーがあった時に光栄に思いました。今回の脚本には、廃墟というモチーフや、人形を用いて登場人物たちの内面を特別な方法で表現しようとしている素晴らしさを感じました。二人は国籍も言葉も違うけれども愛があるから結ばれた。しかしそこには隔たりがあって、どう向き合っていくのか、乗り越えていくのかというところにとても心惹かれてこの作品に参加したいと思いました。」と、二人ともが監督と作品への信頼を示した。
さらに、三人は初タッグであったことについて、真利子監督は西島に対して「西島さんは好きな俳優さんだったのでオファーさせていただいたのですが、映画に対する愛情がすごく強いという印象で、信頼できる方だと感じていました。ボロボロになる役が似合う印象があって、言語が何であっても、言葉に頼らず役を生き抜いてくれる印象がありました」と印象を語り、ルンメイに対しても「ルンメイさんも一映画ファンとして映画にご出演されるところを見て、繊細なことができる女優さんであり、強さも持っていらっしゃるのでお願いしたいと思った」と想像しながら、実際に撮影した際には「何事にも感謝して過ごしている方だと思いました。全てのことに献身的で全力でやってくれる、何もかも空っぽで挑んでくれるすごい俳優さんです」と映画ファンとして、監督としての感謝を伝えた。
また、西島のことを「追い込まれてボロボロになる役が似合う」と評する真利子監督だが、本作でも追い込まれていく西島の姿について「共に同年代で、同じように映画を観てきた信頼できる相手ということで、“どこまでいけるか”ということを西島さんと共有できました。信頼関係があったからできたことですが、そもそも英語の脚本なので、最初から追い込んでいる自覚はありましたが…(笑)そういう負担はあるだろうと思っていたので、西島さんともルンメイさんともコミュニケーションは取るように努めましたが、二人とも普通にそれをお芝居として成立させていたのはさすがでした。」と撮影の様子を振り返った。
また西島は共演したルンメイの印象を聞かれると「(ルンメイさんは)アジアを代表する素晴らしい俳優さんだと思います。とにかく全てを作品に投げ出す方で、1ヶ月半の撮影期間中、休みの日も含めて準備を丁寧にやっていらっしゃっていました。こんなにナチュラルに演技をする方がいるんだと感動しました。何度テストや演技をやっても集中力を切らさない方で、改めて自分がどういう演技が、どういう俳優が理想だったのかということを、見つめ直す機会を与えてくださった、本当に素晴らしい俳優さんです」と感謝と尊敬しきり。
それを受けルンメイは「そのようにおっしゃってくださってありがたいです。西島さんとご一緒することはとても光栄なことでした。西島さんはとても落ち着いていて冷静なのですが、心の中には無尽の情熱が渦巻いていると思うんです。例えば、芝居自体は変わっていないんですが、演技やリアクションが毎回微妙に違うんです。西島さんは大きな木で、その下で私は思う存分遊ぶことができる。毎回異なるエネルギーを受けさせていただいて、俳優として共演ができることはとても幸せです。だから私は準備を万全にして、現場ではエネルギーを浴びながら自由に演技させていただいたんです」と西島の俳優としての度量を褒め称えた。
続いて真利子監督の現場について西島は、「人間の根源的なエネルギー、本能みたいなものを突き詰めていて、それが哲学的に感じる瞬間がありました。監督は、今作では今まで描かれてきた肉体のぶつかり合いや暴力ではなく、社会のようなものにぶつかって向かったんだなと思いました。またもっと先へ進んでいくんだろうなと思います。また現場ではテストを繰り返して全てが揃う形を望んでいるのではなく、常に何か新しく生まれる、生々しい瞬間を捉えようとしていると感じました」と監督との仕事を述懐し、ルンメイは「監督は素晴らしい耳を持っていると思いました。今まで様々な監督とご一緒しましたが、我々が喋っているトーンや体現して成長しているところを監督はどこかでわかっている。“違うやり方でやって”と言われることもあって、その時は私たちの発しているセリフから人間の情感の表現を全部感じ取っている。こういう調整を通して我々の演技を引き出してくれるやり方は新鮮でした」と稀有な存在であったことを語った。
本作が生まれたきっかけを問われた監督は「コロナ禍になって世界が一変して、全てが失われて変わった経験をみなさんされていると思うんです。それをきっかけに夫婦を通して『愛』を描きたいと思った」と本作のテーマを語った。さらに本作で描かれる象徴的な廃墟と人形劇に関しては、「様々な場所をロケしながら、西島さん演じる賢治が、廃墟が自分の過去と紐づくことで惹かれていくところに絡めたいと思いました。さらに、滞在時に大きな人形で演じる大人向けの人形劇がカルチャーショックでした。身体的な表現が素晴らしいルンメイさんなので、ぜひ取り入れてみたいと思ったんです」と自身の経験から生まれた設定を明かした。
そして、全編NYロケという撮影に関して西島は「雪が降っているシーンは本当に降っていて、寒さが想像以上でした。皆さんがイメージするNYとは違って、片隅で一生懸命生きる家族の姿、古いチャイナタウンなど、人がかつて生きていた、これからは忘れ去られていくであろう場所でロケをしていたのは非常に印象深いです」と語り、ルンメイは「るつぼのような街。なんでも受け入れるような街だと思いました。でもその反面、人間一人一人が孤独なんだと思います。この夫婦ふたりもそうなんだなと思いました。NYを舞台にして英語を共通語として話しますが、心のコミュニケーションはなかなか取れない、そういう意味でロケーションとしてはピッタリだったと思います。」と振り返った。
さらに、全編ほぼ英語でのセリフを選んだ経緯について真利子監督は「夫婦の中でお互いの思いやりがすれ違ってしまうという関係を描きたくて、その中で第三ヶ国語を入れることによって、その少しのすれ違いを描くのに有効でした。」と明かした。そんな英語での演技について西島は「研究が評価されてNYに呼ばれている役なので、ネイティブである必要がなかったこともありますが、目の前にルンメイさんがナチュラルな感情のままにいてくださったので、現場に入った瞬間に不安はなくなりました。内面に集中してその後に言語がついてくる感じになりましたし、“映画を撮る”という共通言語があってそれは世界中変わらない。みんなが監督をリスペクトして撮影する、同じ方向を向いていたので、改めて海外の企画で様々な国の人が集まることは挑戦のしがいがありましたし、豊かで分かり合える時間が過ごせるんだと思いました」と国境や言語の壁を超えた作品作りがあったことを明かした。ルンメイは「英語の脚本を読んでいたのですが、そもそも日本語からの英訳なので元々の日本語の意味などをお伺いしたんです。日本語はニュアンスが微妙な表現、行間の表現を重んじる表現だと思いますので、監督の本当に言いたかった内容をキャッチして英語の中に溶け込むようにさせていたと思います。」と、言葉の奥深くまで理解をする努力を語った。
最後に監督は「アメリカという地で、西島さんもルンメイさんも素晴らしい演技でやりきってくれました。不思議なことに観る人の立場によって印象が変わる映画なので、観た人と一緒に語り合ってくれると嬉しいです。自分の中でもラストが震える映画になっていますのでどうぞお楽しみください」と語り、ルンメイは「久しぶりの来日で、集まってくださった日本の皆さんに感謝します。本作での二人の関係性において様々な課題、問題を提起して崩れても、結局は愛がある。それぞれの立場から見て感じ取っていただけたらと思います」と伝えた。西島は「過去に囚われてなかなか抜け出せない人、自分が生きていくうえでかけがえのないものが周りから理解されない人、やりたいことと実際の生活のバランスが取れない人。今、懸命に生きている人にぜひ観ていただきたいです。ある人には希望の光に見えるかもしれないし、ある人には何も解決しないように見えるかもしれないけれど、ラストは不思議な爽快感がある映画だと思います。映画の中での登場人物たちも生々しく生きて、困難を乗り越えていきます。ぜひ劇場に足を運んでそんな姿をご覧になって欲しいです。」と締め括った。
ニューヨークで暮らす日本人の賢治(西島秀俊)と、台湾系アメリカ人の妻ジェーン(グイ・ルンメイ)は、仕事や育児、介護と日常に追われ、余裕のない日々を過ごしていた。ある日、幼い息子が誘拐され、殺人事件へと発展する。悲劇に翻弄される中で、口に出さずにいたお互いの本音や秘密が露呈し、夫婦間の溝が深まっていく。ふたりが目指していたはずの“幸せな家族”は再生できるのか?
2025年9月12日(金)~ TOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、京都シネマ、シネ・リーブル神戸ほか 全国ロードショー
(オフィシャルレポートより)