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2017年6月アーカイブ

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“だまされたいオトコNO.1!”ディーン・フジオカ主演映画『結婚』舞台挨拶

ゲスト:ディーン・フジオカ(36) 、西谷真一監督(57)
(2017年6月13日(火)なんばパークスシネマにて)


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『結婚』
■2017年 日本 1時間58分
■原作:井上荒野「結婚」(角川文庫刊)
■監督:西谷真一 ■脚本:尾崎将也
■主題歌:DEAN FUJIOKA「Permanent Vacation」(A-Sketch)
■出演:ディーン・フジオカ、柊子、中村映里子、松本若菜、安藤玉恵、古舘寛治、萬田久子、貫地谷しほり
公式サイト: http://kekkon-movie.jp
■©2017「結婚」製作委員会

■2017年6月24日(土)~テアトル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、109シネマズHAT神戸 他全国ロードショー
 



きらめく満面の笑顔で登場!
ディーン・フジオカの完璧な美しさこそ、罪だ。

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すべてをトロけさせるよなディーン・フジオカの笑顔に、大阪の街はひときわ明るくきらめいた。NHK朝の連続小説「あさが来た」(2014年~2015年)で、ヒロインに大きな影響力をもたらす五代友厚役を演じ一躍“時の人”となったディーン・フジオカ。それまで台湾や香港などアジアを中心に活躍してきた逆輸入タイプのスターだ。今後、語学力や音楽など多方面の才能を活かして日本での活躍が期待されている。そんな完璧なビジュアルと才能を持つディーン・フジオカが結婚詐欺師役に挑戦!・・・「そりゃダマされるでしょう?いや、ダマされたい!」と思えるようなストレートなキャスティングだが、古海健児(うるみけんじ)という結婚詐欺師の悲哀をスタイリッシュな役作りで浮き彫りにしていく。


現代劇でありながら、どこか昭和の雰囲気のするメランコリックな感覚で表現したのは、「あさが来た」の演出を手掛けた西谷真一監督。ディーン・フジオカとは3回目のコラボ。結婚詐欺師とはいえ、女たちを最高に幸せな気分にさせて一律100万円をせしめるという手法。騙された女たちは、お金の問題より、古海健児を愛するあまりその真意知りたさに彼を追い駆ける。男も魅了されるというディーン・フジオカの色気が、女優陣がかすむほどの美しさでスクリーンを駆け抜ける。


kekkon-550.jpg6月24日(土)の公開を前に開催されたなんばパークスシネマの先行上映会では、主演のディーン・フジオカと西谷真一監督が舞台挨拶のため登壇。超満員の会場は割れんばかりの歓声に包まれ、すっかり「五代様」が板についたディーン・フジオカに、「おかえり~!」の声援が上がった。詳細は以下の通りです。(敬称略)


 

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――ハードな撮影だったのでは?
監督:撮影期間は予備日なしの2週間でした。ディーンさんからもアイデアを頂きながら撮影を進めました。
ディーン:監督とは3回目のコラボとなりましたが、ディスカッションしながらアイデアを出していきました。

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――最初に結婚詐欺師という役を聞いてどう思いましたか?

ディーン:犯罪者か…? でもやりましょう。どんな作品でも監督が選んで下さるのならやりたい。

監督:原作の主人公・古海健児は40代半ばの背の低い男なんですが、それをディーンさんがされたら、古海健児というキャラクターが引き立つのではと思いました。


――撮影終わってどんな気持ちでしたか?
ディーン:不思議な感じでした。2週間「古海健児」として生きて、とても密度の濃い日々でした。今回主題歌も担当させて頂いたので、すべてがひとつの作品に仕上がったときには、感無量でした。


――ディーンさんのアイデアも色々取り入れられたとか?
ディーン:シャインマスカットは僕の好物なんで、提案しました。シャインマスカットの美し過ぎる色や形、まるで人工物みたいに甘くて美味しい、食べ終わった後の茎のシュールさもいいなと思ったんです。


kekkon-500-4.jpg――ピアノを弾くシーンではとてもエレガントに弾いておられましたね?
ディーン:ただピアノを演奏するだけなら練習すればある程度はできると思います。今回は、ピアノを弾きながらセリフを言い、さらに相手の松本さんのセリフに呼応するという、とても難易度の高いシーンでした。普通は予め音を録っておいて、それを聴きながら演技をするケースが多いのですが、まるでミュージカルの舞台をやっているようでした。


kekkon-Di-240-1.jpg――ディーンさんがNHK朝の連ドラ「あさが来た」(2014~2015)に出演されていた頃に比べて凄いなと思われた点は?
監督:元々凄い人だなと思ってましたが、さらに大きくなっていかれる方だと感じています。


――監督から見たディーンさんの魅力は?
監督:僕が言うのもなんですが、「色気」ですね。男でもコロッといくような色気は、他の俳優さんには無いものです。

――どのシーンでそう感じましたか?
監督:全部です。観る方によって感じ方も違うと思うので、全部のシーンが凄いです。


――撮影中“びっくりぽん!”のような出来事はありましたか?
kekkon-Dean-240-5.jpgディーン:アイデアを出したりディスカッションする中で予定外のシーンを踏み込んで撮影したり、その場でいろんなことを試して、すごくライブ感のある撮影現場でした。

――今回の役は多くを語らず目線や動きで表現していますが?
ディーン:そうですね、ジェスチャー表現は多かったですね。ひとつひとつの動作に意味を持たせることに監督と相談しながら演じました。例えば、手で髪の毛を触るにしても繰り返していると法則性ができ、そこに情緒が生まれます。ポケットに手を入れる立ち方にしても、グラスの持ち方やコスチューム・小道具など、シンボルとなるものにこだわりました。


――この映画を通じて、結婚っていいものだなと感じることは?
ディーン:普段一緒に住んでいないので、家族が居る所が僕の帰る場所だと実感できたことでしょうか。

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――主題歌について?
ディーン:最初から主題歌を担当させて頂くことは聞いておりました。リフを刻むことが古海健児のうごめいている心情を表現できるように、歌詞も彼の日常をもとにテーマを込め、言葉を突き抜けていく音みたいで手応えを感じました。NHK連ドラ「あさが来た」から始めようと思い、言葉遊びになるように「あさが来てからスタート」というスタンスで作りました。当時の連ドラの関係者の方にも聴いて頂きたいとメッセージを込めました。監督さんからも映画を〆るような歌になるようにとのオファーを受けておりましたので、作品の内容をちゃんと受け止めてもらえるように、物語を引っ張っていけるような曲を作りました。


――ディーンさんの今後に期待することは?
監督:できれば続編を作りたい。あるいは、「やすらぎの郷」ではありませんが、高齢の女性とのラブストーリーも作りたい。

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――大阪はどこがお気に入りですか?

ディーン:北浜の証券取引所の前を車で通るだけでも、「五代友厚」と心の中で対話をしてしまいます。大阪に着く度に思うのですが、風水を考えて作った街というのはエネルギーを感じて元気になれます。歩いているだけでも気持ちいいです。


――お好きな関西弁は?
ディーン:お気に入り・・・?(「そやな~」「すきやで~」「ほんまやで」等々と会場から声がかかる)

監督:大阪は独特です。大阪は東京と違って情がアツイ。住めるもんなら住みたい!


(最後のご挨拶)
監督:1回目はストレートに観て頂いて、2回目は古海健児の気持ちで、3回目は女優陣の気持ちで観て頂きたいです。できれば3回観て頂きたいと思っております。どうぞよろしくお願い致します。

ディーン:3回と言わず、何回でも観て頂ければ嬉しいです。古海健児がこの後どうなっていくのか?主題歌が流れる最後までじっくりと観て頂きたいです。本日は本当にありがとうございました。



kekkon-Dean-240-6.jpgこれほど笑顔を絶やさないゲストは初めて。会場のお客様の声援にも笑顔で応え、司会者の質問にも言葉を選びながら慎重に答え、西谷監督への敬意を欠かさず、取材する側もこんなに気持ちのいい取材は珍しい。周囲の人々すべてをハッピーにするディーン・フジオカに、改めて魅了されてしまった。

(河田 真喜子)

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「冬ソナみたい」と言われるより、「日本の映画みたい」と言われる方がうれしい。
『心に吹く風』ユン・ソクホ監督、主演真田麻垂美さんインタビュー
 
北海道・富良野、美瑛を舞台に初恋を忘れられない男女の再会と奇跡の2日間を描いた純愛ラブストーリー『心に吹く風』が、6月17日(土)から新宿武蔵野館、7月8日(土)からテアトル梅田他全国順次公開される。
 
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本作は、『滝を見に行く』(沖田修一監督)、『恋人たち』(橋口亮輔監督)、『東京ウィンドオーケストラ』(坂下雄一郎)に続く松竹ブロードキャスティングオリジナル映画製作プロジェクト第四弾。「冬のソナタ」をはじめとする四季シリーズなど数々の大ヒットテレビドラマを手掛けてきたユン・ソクホ監督の初劇場用映画で、脚本も自らが担当している。主演の主婦、春香役には、俳優ワークショップから選ばれた真田麻垂美(『月とキャベツ』)。本作で16年ぶりの女優業復帰を果たしている。同じく主演のリョウスケ役には、映画やドラマで幅広く活躍している眞島秀和。富良野や美瑛の美しい丘陵地や白樺並木の中で、学生時代のモノクロの思い出と共に、当時の気持ちに戻って心の距離を近づけていく二人の二日間が、ロマンチックに描かれる。自然、とりわけ風を目で、耳で、そして心で感じられる作品だ。
 
本作のユン・ソクホ監督と主演の真田麻垂美さんに、映画ならではの試みや、オーディション秘話、春香の役作りについてお話を伺った。

 


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■「北の国から」がきっかけで富良野へ。「いつかはこの美しい場所を自分の絵の中に収めたい」と思っていた。(ユン監督)

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―――日本で映画を撮るにあたり、なぜ北海道、しかも札幌や函館など一般的に有名な場所ではなく、美瑛や富良野のような場所を舞台にしたのですか?

ユン監督:札幌や函館は都会ですから、ビルが視界を遮り、視野が開けていない印象があります。一方、美瑛や富良野はパッと視界が開けて、自然そのままの姿が生きている場所です。映画で登場する畑や雲の姿、その畑も場所によって新芽が出ていたり、湿って黒っぽい色だったりと表情が違って、パッチワークのようになりとてもキレイですが、それも偶然生まれたものです。また車で移動しているときに眺める空の雲も、毎回変わっていきます。今回の映画の一つのテーマでもある偶然性を、自然の中でたくさん感じられ、それがとても印象的な場所だったので、ここを舞台にしようと決めました。
 
―――ユン監督はドラマでも四季シリーズを手掛け、自然がいつも印象的に使われますが、自然を好きになった原点は何ですか?
ユン監督:私はソウルのど真ん中で生まれ育ちましたが、自然がたくさんある場所でした。実は父がソウル農業大学の教授だったので、大学の中に自宅がありました。牧場やお花畑、森、湖など自然が揃っている特殊な環境で育ったので、大きな影響を受けていると思います。大学の門を出るとソウルの街中なのですが、学校から家に帰ると森でしたから(笑)
 
―――富良野に関心を持たれたのは、ドラマ「北の国から」の影響もあるのでしょうか?
ユン監督:随分前ですが、日本に留学していた先輩から、日本に本当に美しいドラマがあると紹介され、「北の国から」を見たことがありました。その後「冬のソナタ」が日本でも大変愛され、札幌の放送局に招待されて初めて北海道に行ったのです。その時に「北の国から」の話をすると、関係者の方が富良野と美瑛に連れて行ってくださり、倉本先生にもお会いすることができました。またドラマのスタッフも紹介していただき、それからは何度も富良野に足を運ぶようになったのです。いつかはこの美しい場所を自分の絵の中に収めたい。好きなものを誰かと共有したいという気持ちをずっと持っていました。
 

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■ユン監督は人の気持ちをうまく引き出すマジックをかけられる方。(真田)

―――真田さんは女優復帰作となりましたが、ユン監督との撮影はいかがでしたか?
真田:6年前にアメリカに留学し、その後結婚、出産を経て、ヨガのインストラクターとして活動していました。ユン監督の作品は大好きで、全部見ていたのですが、16年ぶりにワークショップに参加したのは本当に偶然で、とてもありがたい出会いだったと思います。ユン監督は、人の気持ちをうまく引き出すマジックをかけられる方です。眞島さんと私が美瑛に撮影で滞在したのは3週間でしたが、その間は完全にユン監督のマジックの中で生きていた気がします。

 

■長年女優業を離れていたけれど、ユン監督の作品に出会うための準備を長年かけてやっていたのかなと思える。(真田)

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―――家庭がありながら青春時代の恋人と再会し、心が揺らぐという精神面の表現が必要な役どころですが、演じた感想は?
真田:ヨガに絡めてお話すると、ヨガのポーズというのは練習の一部に過ぎないんですね。ヨガは自分が何者なのかと考えていく時間がとても大切で、アメリカでヨガを勉強している時代に、私はずっとそれに取り組んできました。それは、女優として役に自分を近づける行為とリンクするのです。私は長い間、演じることから離れていたけれど、ユン監督の作品に出会うための準備を長年かけてやっていたのかなと、後からそう思えるようになりました。というのも、ワークショップで春香役が私に決まったときも、信じられなくて半信半疑。何もしていなかった私が決まるとは、どういうことなのか。本当にその答えが欲しかった。でもそう簡単に答えなど見つからないので、それならば目の前にあることを一生懸命やろうと決め、撮影に挑みました。撮影を通じて、今の自分が何者なのかを毎回考えながらやっていたことはここに繋がるのだと、今ままでの点が一気に線になって繋がったような不思議な感覚になりました。
 
―――具体的に、どのようにして春香役にアプローチしていったのですか?
真田:春香という人物にどこまで自分を投影できるか、春香の感情に自分の感情がどこまで近づけるか、という作業をしました。そして、本読みやリハーサルの度に、ユン監督と春香についてたくさん話をしました。その中でユン監督から「女優ならば美しくと映りたいと思うかもしれないが、春香は痩せないでほしい。むしろ今より太ってくれてもいい」と言われました。その意味はどういうことなのか、自分なり考えました。春香は、色々なものを諦めてきてはいるけれど、日常を大切に生きる女性だと理解したので、家族のためにきちんと三食を用意し、自分も一緒にしっかり食べるという、春香がやっている生活を続けていたら半年で10キロ増えていました。そう生活することで、少しずつ春香という人物になっていくことができたと思います。
 
―――ワークショップやオーディションを通じて真田さんを春香役に起用した決め手は?
ユン監督:私は外国人監督で、過去の情報もないため、今、目の前にいる真田さんを見て感じるものが全てでした。私は韓国でも新人を多く起用するタイプです。その時大事にするのは自分自身のフィーリングで、理由は分からないけれど、もう一度会いたいとか、魅力を感じて飽きないと感じる人を起用するようにしています。真田さんも自分が惹かれるかどうかを第一に選びました。自分が作品の中でこうしたいと感じることが何より大事なのです。春香は、あまり女優っぽい感じがしてはいけないキャラクターです。私が初めて真田さんに会った時は、本当に主婦の女性でしたが、なぜか分からないけれど惹かれるし、美しさを感じました。今、目に見えない美しさは私が演出家として引き出せばいい。見た目の平凡さは映画の中でリアリティーを担当してくれるだろう。たくさんの方の中で、唯一真田さんは最初のイメージからどんどん新しくいいものが見つかっていく方で、最終的に選ぶとき、何の迷いもなく決めることができました。

 

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■編集でロマンチックな部分がそぎ落とされ、本当に自分の作品かと思うぐらい新鮮。(ユン監督)

―――日本の監督は撮れないだろうと思うぐらい、とてもロマンチックな映画ですが、監督はご自身のことをロマンチックと思っていますか?
ユン監督:私が感じる真田さんはとてもロマンチックな女性ですし、私もロマンチックなことは好きです。ただ現実ではそれを表現し続けることはできないので、自分の好きなロマンチックな部分を映画の中で表現しています。
真田:私もすごくロマンチックなことが好きです。リョウスケが足にキスをするとか、実はもっとロマンチックなシーンがあったのですが、眞島さんは「日本人の男性はこんなことはしない」とおっしゃって。私は好きな人ならしたらいいのにと思ったんですけどね(笑)
ユン監督:自らシナリオを書いたので、自分の中では二人の関係ならあり得ると思っていたのですが、意外と眞島さんは恥ずかしがっていました。そこは日本と韓国の感情の違いなのかもしれません。ロマンチックなものをそぎ落とされましたが、実はそれは私がいつも書き慣れている部分なので、ちっとも残念ではなかったです。編集も日本の女性の方でしたが、最終的に仕上がったものは本当に自分の作品なのかと思うぐらい、とても新鮮でした。淡白で、控えめな感じになり、かえって良かったと思っています。「冬ソナみたい」と言われるよりは、「日本の映画みたい」と言われる方がうれしいですね。
 
―――「冬のソナタ」ら一連の四季シリーズとの共通点や、またそれらとの違いは?
ユン監督:共通点は、変わらない愛、初恋の純粋な愛です。愛の美しさは変わらないですから。映画だからできたことは、作家主義を大事にすること。つまり、何かを意識せずに私がやりたいことを、やりたいように表現することだと思います。テレビでできなかったことをやってみようと、ロングショットや、観客とゆったり考える時間を共有するロングテイク(長回し)を取り入れています。メタファーもたくさん使うことができました。テレビでは本当に不特定多数の様々な年齢層の方が見るので、親切な案内が必要です。今回はそんな制約を外して、映画だからできることをやれたと思います。

 

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■人間と自然とのつながり、時間と偶然に対して感じたことを、『心に吹く風』で表現したかった。(ユン監督)

―――ロングショットで美しい風景とその中にいる二人が描かれていましたが、風景に込めた思いとは?
ユン監督:映画の中でキーワードとなるのは、一つは偶然、もう一つは過去と現在の出会いです。それが二人の男女の中で起こる訳ですが、それを自然の中でも見せたいと思いました。ロングショットのシーンが意味するのは、自然と人間を対等な立場に置き、物語を引っ張っていきたかったのです。『心に吹く風』というタイトルも、心は人間の現象、風は自然の現象で、それを一つの言葉とし、人間と自然が繋がっていることを表しました。過去と現在の出会いというのは、時間を表しています。時間は過ぎていくもので、人間は過去に戻ることはできません。ただ自然の中ではそれが可能な時もあります。例えば劇中で倉庫の壁が出てきますが、色あせている壁に雨粒が落ちます。壁は過去のものですが、雨は現在のもので、過去と現在がこの瞬間存在するのです。青池も外側の木は生きていますが、中にある木は全て死んでおり、死んだ木と生きた木が同じ画面の中に収まっています。また、オープニングのロングショットでは、リョウスケが乗る赤い車がずっと道を走っていくのですが、その背景の山々の頂きには過去に降った雪が残っています。その手前には新芽が徐々に芽吹いている緑色の畑があり、自然の中の過去と現在の共存も、一つの画面に収めています。軸として引っ張るのはラブストーリーですが、時間と偶然に対して感じたことを、私はこの作品で表現したかったのです。
 

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<作品情報>
『心に吹く風』(2017年 日本 1時間47分)
監督・脚本:ユン・ソクホ 
出演:眞島秀和、真田麻垂美、長谷川朝晴、菅原大吉、駒井蓮、鈴木仁他 
2017年6月17日(土)~新宿武蔵野館、7月8日(土)~テアトル梅田他全国順次公開
公式サイト⇒http://kokoronifukukaze.com/
(C) 松竹ブロードキャスティング
 

hikari-bu-550.jpg「すべての人々へのラブレター」『光』舞台挨拶

登壇者:永瀬正敏(50歳)、河瀬直美監督(47歳)
(2017年6月3日(土)梅田ブルク7にて)


『光』
■(2017年 日本 1時間42分)

■監督・脚本:河瀨直美
■出演:永瀬正敏、水崎綾女、神野三鈴、小市慢太郎、早織、大塚千弘、大西信満、堀内雅美、藤竜也他
■作品紹介⇒ こちら
■公式サイト⇒ http://hikari-movie.com/
(C) 2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS / KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE

■2017年5月27日(土)~新宿バルト9、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、MOVIX京都他全国ロードショー


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第70回カンヌ国際映画祭 エキュメニカル審査員賞受賞

 

5月29日(日本時間)に閉幕した第70回カンヌ国際映画祭から帰国したばかりの河瀨直美監督と主演の永瀬正敏さん。カンヌの常連でもある河瀨監督は、人間の内面を豊かに描いた作品に与えられる《エキュメニカル審査員賞》を日本人女性監督として初受賞。視力を失ったカメラマンとボランティア女性との心の触れ合いを通して、不安や悲しみ、絶望の先に生きる光を見出していく感動作『光』は、日本でも5月27日に公開されたばかり。河瀨監督と永瀬正敏さんのお二人は初日の舞台挨拶には間に合わなかったものの、作品に込められた思いやカンヌでの興奮と感動の日々について、各地の劇場をまわって伝えようとしています。

この日開催された大阪の梅田ブルク7では、カンヌ国際映画祭エキュメニカル賞受賞のお祝いに観客から花束が贈呈されました。詳細は以下の通りです。(敬称略)



hikari-bu-di-240-1.jpg(最初のご挨拶)
河瀨監督(以降、「監督」と表記):観て頂いたばかりで雅哉と美佐子の想いを噛みしめて頂いていると思いますが、私達もカンヌから帰って来たばかりです。ただいま!(会場から拍手)

永瀬正敏(以降、「永瀬」と表記):こんにちは、永瀬です。本当は私達の方が皆様に花束を差し上げたいくらいです。本日は誠にありがとうございます。

――カンヌ国際映画祭での上映後の反応は如何でしたか?
監督:最高でした!エンドクレジットが流れると共に2300人が心からの拍手をしてくれました。永瀬さんも私も言葉が発せられず涙が止まりませんでした。カンヌ滞在中、どこへ行っても声を掛けられ、一人一人の心の中に沁み込むものがあったことを実感しました。お陰で35か国での上映が決まりました。

永瀬:街中でも国籍が違う方々が立ち止まって、手をグッと握り締めて熱く語って下さいました。今回のカンヌは今までとは違いました。「伝わっている!」と実感できました。

hikari-bu-na-240-1.jpg――永瀬さんは上映後立ち上がれなかったとか?
永瀬:すみません。もっとカッコ良く立ち上がりたかったのですが…。
監督:そんな永瀬さんを拍手で励ましてくれて、
こんなにも映画が人々を熱くさせるとは・・・映画のチカラを再認識しました。

――エキュメニカル賞を受賞されましたが、最初にこの報せを聞いたのは永瀬さんだったとか?
永瀬:はい。監督とは連絡がつかないので、私に電話を回してきたんです。もうびっくりしましたよ~。映画祭では最初に発表される賞で、4時間後には授賞式に出なければならなくて、慌てました。

――監督はどこへ行っておられたんですか?
監督:グラースという香水で有名な所へ観光に行ってました。審査員全員一致で決まったということで、何とか間に合うように帰りました。この賞は、キリスト教文化の根強いヨーロッパの作品が受賞することが多いのですが、宗教の壁を乗り越えて、人間として深いところに届く作品として評価して頂いたようです。

hikari-bu-na-240-2.jpg――永瀬さんもカメラマンとしてご活躍ですが、主人公の雅哉とリンクすることが多かったのでは?
永瀬:祖父もカメラマンをしていたのですが、戦後の混乱の中、途中で辞めざるを得なくなり、その胸中を思いやることはありました。

監督:雅哉が使っていたカメラにはこだわりました。上からのぞくタイプで、被写体が緊張せずにすむ、人と人が向き合う時の柔らかな表情を捉えられるポートレートに適しているとカメラです。

――様々な表情を捉えられていますが、撮影時意識したことは?
永瀬:意識せずに雅哉として完全になりきらないと監督に叱られますので(笑)。

監督:雅哉の内面に触れていたいと美佐子に思わせる必要があったので、表情の細かな変化も捉えていきました。

――現在、小豆島で永瀬さんの写真展が開催されているとか?
監督:永瀬さんの未発表の作品を雅哉の部屋に飾っていたので、それが完全に復元されているようです。8月まで開催されています。

――心と心が出会う瞬間の人間関係について?
監督:この映画のキッカケは、前作『あん』に音声ガイドを付けることから始まりました。セリフの少ない私の作品に音声ガイドを付ける上で特に大事なことは繊細さです。それを見事に表現されていて、映画への愛を感じました。今度はそんな人を主人公に据えて、人と人が繋がり合えることをテーマにしようと思いました。さらに、カメラマンが視力を奪われる過程で、見ることへの執着心を放棄した時に、新しい光を見出せる。混沌とした時代だからこそ、生きるための光輝くものを見せたいと思ったのです。

(最後のご挨拶)
永瀬:カンヌであるスペインの方に、「この映画は特定の人にだけでなく、すべての人々に対するラブレターだ」と言われた言葉に感動しました。是非このラブレターをリレーにして頂いて、沢山の方に劇場に来て頂ければ嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。

hikari-bu-240.jpg監督:そんな“ラブレター”を作って良かった!カンヌのクロージングでジュリエット・ビノシュが、「映画は光、映画は愛」と言ってくれたのが、もうパルムドールに値するほど嬉しかったです。愛とか光とか輝ける方向へ自分たちの心を向けていくことが次の原動力になると思うので、この映画を皆さんと共有していきたいです。

また河瀨監督は、「奈良市を中心に京都・大阪でロケした作品なので、関西の方にもっと沢山観てほしい」と締めくくった。

 


 (河田 真喜子)

 

 

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“奪われる側の痛み”を刻み込んだ映画『昼顔』 西谷弘監督インタビュー

人の痛みを感じてこそ、人間らしく生きられる。
「不倫、されど純愛」から「奪われる側の痛み」を刻み込む、愛の結末とは? 

 



映画『昼顔』
■2017年 日本 2時間05分
■出演:上戸彩 斎藤工 伊藤歩 平山浩行 
■監督:西谷弘  ■脚本:井上由美子  ■音楽:菅野祐悟

■(C)2017 フジテレビジョン 東宝 FNS27社
公式サイト: http://hirugao.jp/

2017年6月10日(土)~全国東宝系にてロードショー


 

「夫のある身で奥さんのいる人を好きになってしまった私は、罰を受けました。」というモノローグから始まる映画『昼顔』。2014年の夏、センセーショナルを巻き起こした上戸彩主演のTVドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』の3年後を描いている。「不倫、されど純愛」というテーマがさらに昇華して、「奪われる側の痛み」を刻み込みながら衝撃のラストへと疾走する。ドラマファンならずとも、運命の恋の道行に引き込まれる快感と、さらに、抗えない“人間の業”を鮮烈に植え付けられる衝撃作である。


hirugao-550.jpg不倫によって多くの人を傷付け多くのものを失った主人公・紗和(上戸彩)。紗和への想いを封印することによって紗和を守ろうとした北野(斎藤工)。強引に夫を取り戻したものの孤独を抱えて生きる北野の妻・乃里子(伊藤歩)。二度と出会ってはいけない紗和と北野が再会した瞬間の溢れ出た感情に、胸キュン必至。そして、奪い、奪われる女たちの対峙には、怒りと絶望と悲しみが入り交じった恐怖の緊張が走る。


男と女のドロドロより、女同士の対峙に重点を置いた、大人のための新しいラブストーリーを完成させたのは、TVドラマに引き続いてメガホンをとった西谷弘監督。敢えて「一番不倫が似合わない人」をイメージして上戸彩を主役に抜擢。「逆境の中でも生きる力を失わない強さと色っぽさを表現してくれた」と絶賛。いつも明るい笑顔の上戸彩が世間から冷たい言葉でボコボコにされる様は、か弱い中にも意外な強さを感じさせて新鮮。


hirugao-500-2.jpgまた、俳優として絶大な人気を誇る斎藤工には恋に奥手な純真な教師役を。「どんな役にも染まる覚悟を持った俳優」と絶大な信頼を寄せる。そんな二人の前に立ちはだかる乃里子を演じた伊藤歩は、最初、役柄に感情移入できず苦しんだという。それを「一所懸命生きている一人の女性を演じてもらいたい」と話し合いを重ねたそうだ。ようやく取り戻した夫を気遣ったり、心ここに在らずの夫との生活に孤独感を覚えたりと、それまでの人物の関係性を明確に表現。再び紗和と対峙して激情をぶちまけるシーンでは目が覚めるような迫力で圧倒する。さらに理性で感情を抑え込むシーンなど、彼女の的確な演技に激しく共感してしまった。


不倫に対する風潮も変化する中、「自分の気持ちに正直に生きることをよし」としながらも、「いかに奪われる側の痛みを刻み込めるか」という西谷弘監督の強い想いが伝わってくる。人の痛みを感じてこそ人間らしく尊厳ある生き方ができるのではと、映画『昼顔』は教えてくれているようだ。


【西谷弘監督のインタビューの詳細は下記の通りです。】



――TVドラマ以上に衝撃的なラストでしたが、映画化するにあたり特に工夫した点は?
ドラマから3年の月日の間に不倫への世間の意識は変わりました。映画化が決まる頃には風当たりが強くなってた。今、映画にするべきか否か躊躇もしましたが、折角吹いた風。追い風にするか?向かい風と捉えるのか?は、我々制作側にかかってると前向きに考えるようにしました。ドラマ当初は「不倫、されど純愛」と掲げていましたが、「奪われる側の痛み」をどれだけ制作側が意識できるのかが重要だと思いました。その痛みを紗和の胸にどう刻みこむかが映画作りの起点でもありました。但し、ドラマからのアンサーだけの映画ではなく、独立した新たな一作品を目指しました。

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――表情の変化を細かに捉えた映像が印象的でしたね?
雑多な中で視聴するTVは「わかりやすさ」が常に求められますが、整った環境の映画は観客がスクリーンといかにコミュニケーションとれるかが大事。ドラマで多投した“紗和の独白”を映画では物語が進むにつれて削っていきました。紗和の言葉で感情を知らせるのではなく、その表情で伝え、探ってもらえればと。よりヒロインに感情移入していただけると思います。


――現場での演出は細かい方ですか?
ドラマ当初は、紗和と北野への注文は細かく厳しかったと思います。でも、今作は上戸さんも斎藤さんも2年振りに役を演じたのですが、二人とも紗和と北野がしっかりと体の中に浸みついていました。だから、二人の体内から湧き出す芝居を大切にしました。できる限り、自然体を生かしドキュメントを撮るように描きました。


――それまでのイメージを払しょくするような演技を見せた上戸彩さんについて?
ドラマ撮影の時以上に、演技の幅を感じましたね。劇中、説明的なセリフがあっても、喉を絞ったり、開いたり、時に声を胸の奥から発したり。そうすることによって、紗和の言葉になり、自然なカタチで観客に伝わる。また、セリフのない長回しのシーンでも、その表現力は圧巻でした。とてもスクリーン映えする女優さんだと思います。今後は映画女優としても活躍していくのではないでしょうか。


hirugao-500-6.jpg―――親しみやすい笑顔が魅力の上戸彩さんだからこそ、共感しやすい?
最初、上戸さんにキャスティングのオファーを入れたとき断られたんです。恋愛ものを演じるのに苦手意識があり、不倫に対しても嫌悪感があると。でも、そんな背徳の似合わない上戸さんだからこそ演じて欲しいと、粘り強く口説きました。ドラマの第1話は、紗和が隣町の火事を眺めているところから始まり、最終回では自分の家に火をつけてしまう。不倫は決して“対岸の火事”ではない。昼顔は上戸さんが紗和を演じたからこそ多くの共感を得られたのだと思います。


――斎藤工さんについては?
最初、プロデューサーに斎藤さんを薦められましたが、映像や写真で見る限りカッコ良すぎるのでピンと来ませんでした。紗和同様、背徳の似合わない俳優を求めていたので。でも、お会いしてみたらとても好感が持てました。飾らず気負わない、斎藤さん本来の姿が窺えたからです。ここから北野先生を創っていけるなとワクワクしたのを今でも覚えています。彼自身、監督もする作り手でもあるせいか、とても染めやすい役者、常に役柄に染まる覚悟を持っています。いつもニュートラルで挑むことのできる、勇気ある俳優です。


hirugao-500-4.jpg――乃里子役の伊藤歩さんの存在がドラマに深みを出していましたね?
昼顔の核はラブストーリー以上に女同士の生き様のぶつかり合いです。連ドラでは利佳子(吉瀬美智子)との女同士の友情でしたが、映画は敵対同士。避けては通れないシーンであり、観客が観たいシーンだと思います。クランクイン前、伊藤さんはどちらかといえば紗和の心境に同情的でもありました。それが、本番では「絶対に紗和を許せない!」と言い切るまで乃里子に同化してました。とてもスキルの高い女優さんです。ドラマから映画に至るまで、乃里子という苦しい役を演じきった伊藤さんに感謝しています。

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――接見禁止の誓約書まで交わした北野先生に会おうとする紗和の行動について?
行動原理は“人間の業”でしかありません。紗和と北野が再会してからの物語にウエイトを置くために、紗和の自制心や揺れの表現はテンポを上げて描きました。ルール違反すれすれの逢瀬は、二人にとって、もどかしくも甘い至福の時だったのです。


hirugao-500-1.jpg――紗和が乃里子のマンションに会いに行き対峙するシーンで、乃里子が一瞬見せた夜叉のような表情が衝撃的でしたが?
あのシーンがその後の全てを決めることになります。まさに女同士の生き様のぶつかり合いです。もしも二人に、その先の未来が予測できたとしても、同じ言葉を使い、同じ感情になるのだと思います。それは、人間の「愛」なのか?「業」なのか?観客の皆さんも、自分自身に問いかけてみてはいかがでしょうか?


――「映画はTVドラマのアンサーにしたくない」と仰ってましたが、TVドラマを観てない人でも人物の関係性が分かりやすく作られていましたね?
紗和と北野のラブストーリーの行方や、乃里子との人間模様をより深く掘り下げたかった。もちろん「吉瀬(美智子)さんや木下(ほうか)さんなど、連ドラのオールキャストを見たい!」という声はたくさん聞こえてきましたが、2時間の映画で全てを消化するのは、事象の羅列になるだけなのでキャストを絞り込みました。但し、紗和と北野の素性を知らない、二人を客観視できる人物が必要だなと思いました。さらに、紗和にとって元夫の亡霊となる存在が欲しかった。それは、元夫本人を登場させるのではなく、他人からの言葉で紗和に影響を与えたかったからです。そこで新たに、杉崎という色気のある大人の男を登場させました。また、今まで登場した男たちは、生物教師、画家、編集者といった文化系が多かったので、体育会系キャラに色合いを変えてみました。

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――自分の気持ちに正直に生きようとする紗和のように、今後のラブストーリーの表現が変化してくのでは?
どうでしょうか?日本人には「本音と建前」という文化や、「やせ我慢」を美学とするところがありますからね。


――ラブシーンについて?
紗和と北野のラブシーンは、とても魅力的でした。エロスを醸し出すのに裸で抱き合えばいいという訳ではないと思います。エロスは“生きる欲望”という考えで、逆境の中でも生きる力を失わない強さ。それが二人のラブシーンです。

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――瑞々しい映像でしたね?
許されぬ愛の物語です。悲しみや切なさは必然にやってくる。それは、きっと淋しさを生むことになるだろうと。淋しさを少しでも埋めてくれるのは美しいものを見ることだと思います。ロケーション、シチュエーション、そして人物描写に美しさを追求しました。


――今後、自由企画で撮れる機会があったら?
青春映画です。でも“キラキラ”ではなく“キラ・ギラ”したものを撮りたいです(笑)。


(河田 真喜子)

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