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『光』

 
       

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作品データ
制作年・国 2017年 日本 
上映時間 1時間42分
監督 ・脚本:河瀨直美
出演 永瀬正敏、水崎綾女、神野三鈴、小市慢太郎、早織、大塚千弘、大西信満、堀内雅美、藤竜也他
公開日、上映劇場 2017年5月27日(土)~新宿バルト9、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、MOVIX京都他全国ロードショー
受賞歴 第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作

 

~目が見えなくなっても、そこにあるのは“光”~

もうこれしかないというぐらい、ぴたりとくるタイトルだ。山肌に沈む太陽や月夜の光、セミの抜け殻に透けて映る森の木漏れ日、部屋に吊るされたガラスのプリズムで乱反射する西日…。映像から感じられる表情豊かな光だけではなく、視力を完全に失いつつある男の絶望的な気持ちや、仕事の壁にぶつかり、悩み抜く女の焦る気持ちにいつの日か射す心の中の「光」まで、じっくりと時間をかけて映し出す。簡単に見ることができないからこそ尊く、二人が出会い、ぶつかり合い、抱きしめ合ったからこそ感じられる「光」がそこにある。

 

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樹木希林、永瀬正敏主演の『あん』(15)に引き続き、河瀨直美監督が永瀬正敏を主演に脚本を書き上げたオリジナル作品。本作で取り上げられるのは水崎綾女が演じるヒロイン、美佐子が携わっている映画の音声ガイドのシナリオ作成だ。シナリオを作成するため、実際に視覚に障がいのある方を招き、映像を見ながら音声ガイドを読み上げ、内容が適切かを何度も吟味するシーンは、今まで知らなかったもう一つの映画制作現場を疑似体験している気分になる。できるだけ丁寧に説明しようとする美佐子の気持ちとは裏腹に、「視覚障がい者の想像力は相当なものよ」と参加者から過多な説明への疑問が呈される。本当に相手のことを考えたガイドができているかを吟味し、映画と言葉に向き合うためにも、もっと深い想像力が必要なのだ。若い美佐子に立ちはだかる大きな壁も、相手の立場になって考えるそこだった。
 
 
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弱視の天才カメラマン、雅哉は、美佐子が読んだ音声ガイドに鋭い指摘をした一人だ。祖父がカメラマン、そして自身も常にカメラを手に写真を撮り、個展を開いたこともある永瀬正敏は、雅哉の部屋に貼ってある写真から、雅哉が出版したという写真集の写真まで自らがセレクト。様々な役へのアプローチになる体験を重ねて役と一体化していったという。どんどん雅哉の視力が失われていく様や焦燥していく様、写真が撮れなくなる最後の最後まで、カメラマンであることに執着した雅哉を全身全霊で体現。河瀬監督ならではのアプローチで、役を生きる永瀬をあますところなく映しだした。自暴自棄になりそうな時にも、くじけそうになりながら頑張っている美佐子を心の目で見て、そして励まし、心を通わせていく雅哉。一人では見えなかった光が、そこに射しこもうとしている瞬間を感じられる。
 
 
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本作では、美佐子が音声ガイドをつける劇中映画『その砂の行方』の監督兼主演役として、藤竜也が出演している。砂浜で砂まみれになりながら自らの老いをさらし「この年になると生と死が曖昧になる」と鬼気迫る演技をみせる一方、監督として美佐子の取材に応えるときは「映画の中に確かな希望がほしい」と本音をちらつかせる。本筋ではないが作品にぐっと奥行きが加わる、私の好きなシーンだ。そんな含蓄のある劇中映画のラストシーンに、美佐子が熟考を重ね、どんな音声ガイドをつけたのか。深い感動が押し寄せる二重のラストは、目を閉じて耳を傾けると、更に味わい深くなることだろう。
(江口由美)
 
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公式サイト⇒http://hikari-movie.com/
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