レポートインタビュー、記者会見、舞台挨拶、キャンペーンのレポートをお届けします。

インタビューの最近の記事

IMG_6634.jpg
 
 歌舞伎町を舞台に、擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」をこよなく愛するも自分のことは好きになれない27歳の主人公の新たな世界との出会いを描いた金原ひとみの原作小説を松居大悟監督(『くれなずめ』『ちょっと思い出しただけ』)が映画化した『ミーツ・ザ・ワールド』が、10月24日よりT・ジョイ梅田、なんばパークスシネマ、kino cinema 神戸国際、T・ジョイ京都ほか全国ロードショーされる。
主人公の由嘉里を演じるのは、主演作が続く若手実力派俳優、杉咲花。由嘉里が歌舞伎町で出会った希死念慮を抱えた美しいキャバ嬢・ライにはオーディションで抜擢された南琴奈が扮している。さらに不特定多数から愛されたい既婚者のホスト・アサヒをTVや映画の話題作への出演が続く板垣李光人が演じているのも見逃せない。自分の価値観の枠を外すことで、見える世界が変わってくる。ライやアサヒらとの出会いを経て、自分を見つめ直す由嘉里と共に、残酷さと優しさに満ちた世界へ手を伸ばしたくなる作品だ。本作の松居大悟監督に、お話を伺った。
 

 
――――金原ひとみさんの原作「ミーツ・ザ・ワールド」を読まれた時、一番魅力を感じた点は?
松居:全体的に、由嘉里というキャラクターを通してライを見つめている所です。生きることに執着のないライに対し、由嘉里はライを死なせたくなくて『ライさんの死にたみ半減プロジェクト』を立ち上げ、一生懸命助けようとする所に、今までの金原ひとみさんの作品にはない優しい目線を感じました。そこからいろいろな展開があるのですが、入り口がすごく自分の中でしっくりときて、ライを助けたいという由嘉里と同じ想いを抱きながら読んでいました。その後のブーメランのような展開も含め、やりたいと思ったのです。
 
特に好きなのは後半のパーティーで床がツルツル滑るからと、由嘉里たちがそこでシューッと滑って遊んでいる愛しいシーンです。本を読んでいてこれだけ満たされるなら、映画にしたらきっととてもいいシーンになるだろうと思いましたし、僕の中でも心に残っているシーンです。
 
 
main_Meets_the_World.jpg

 

■信頼を寄せる杉咲花は「人間として地に足がつき、ずっと芝居と作品のことを考えている」

――――舞台挨拶では「杉咲さんを由嘉里に当てはめて原作を読んでいた」とおっしゃっていましたが、杉咲さんの魅力は?
松居:杉咲さんはテレビや映画にも多数出演されていて、とても遠い存在なのに、すごく人間として地に足がついて、丁寧に生活していることが伝わってきます。芸能人らしくないというか、小さなことに喜んだり落ち込んだりする様子も見てきましたし、知り合ってからの10年ぐらいで本当に有名になったのに、彼女自身は変わらずにずっと芝居のことと作品のことを考えている。そして優しいです。そういうところが表現者として魅力的だと思いますし、いつか作品でご一緒したいと思っていました。
 
――――杉咲さんは台本段階から加わっていたそうですが、「作品のことをずっと考えている」という点と重なりますね。
松居:杉咲さんは原作や台本を何度も読まれ、まずはこの台本になった経緯を知りたいということで、原作では心理描写が多いので、どのようにそれをセリフに落とし込んだかや、早めにアサヒたちと出会うために構成を少し変えたことなどを伝えました。また台本を作る中で無意識にこぼれ落ちてしまっていた原作のエッセンスについて、なぜそれを落としたのかという指摘や、このシーンはどうやって生まれたのかとの質問もありました。
 
また杉咲さんから、原作で涙した由嘉里のセリフを台本に入れられないかと言っていただき、由嘉里を演じる本人がそう言うなら、映画でもいいセリフになるだろうと思い、台本に加えたケースもありました。本当に台本を読み込んでおられ、シーン1から全てを確認していく感じでしたね。
 

■歌舞伎町は誰も干渉しない、どんな考え方でも受け入れてくれる町

――――歌舞伎町が舞台の作品ですが、実際に歌舞伎町にこだわって撮影した今、歌舞伎町という街をどのように捉えておられますか?
松居:映画を撮影した今思うのは、歌舞伎町はどんな人も受け入れてくれる、許してくれる場所ではないでしょうか。酔っ払いもいれば、寝ている人も、大声を出している人も、ちょっと怪しげな人もいる。僕は福岡出身ですが、道で寝ている人がいれば周りが声をかけるし、ちょっと特殊な人がいればその人が特殊であることを指摘するというイメージがあります。歌舞伎町はどんな人が何をしていても、誰も干渉しない。どんな考え方でも受け入れてくれる町なのかもしれないと思いました。
 
――――なるほど、だから今の生活に居場所のなさを感じていた由嘉里が歌舞伎町でさまざまな人生と出会い、彼女もここにいていいという実感を持てたのですね。
松居:由嘉里は27歳だから婚活しなくてはと思っていたけれど、歌舞伎町でライをはじめさまざまな人と出会うことで、いろいろな考え方があるから感じたままでいいんだと気づくわけです。この町はこういう場所だからこうしなくてはというプレッシャーがないんです。
 
 
sub1_Meets_the_World.jpg

 

■自分たちの常識を横に置き、南琴奈やスタッフとライのキャラクターを話し合う

――――歌舞伎町で酔い潰れていた由嘉里に手を差し伸べ、部屋に連れてきたキャバ嬢のライは人生を達観していて、どこかミステリアスなキャラクターです。そして由嘉里を変えていく存在ですが、演じた南琴奈さんとどのように役を作り上げていったのですか?
松居:セリフを言葉にしたときの雰囲気は、南さんがやってくれるならと安心していましたが、ライのキャラクターについては南さんや美術、衣装スタッフと何度も話し合いました。由嘉里が訪れたライの部屋は足の踏み場がないぐらい散らかっていましたが、散らかそうとしているのではなくその状態が落ち着く人なのではないか。ごちゃごちゃと物が多くても、キレイに収納しなくてはいけないとか片付けなくてはいけないという価値観はない。それは食べたまま放置されていることにもつながります。
 
自分たちの常識を一旦横に置いて、ライのキャラクターを考えていくうちに、少しずつ彼女の行動原理が掴めてきました。洗濯はしているので不潔というわけではないし、他人への配慮や由嘉里への関心もある。人間嫌いというわけでもないし、何かを憎んでいるわけでもない。本当に属性が違う人なのだということが、ライの部屋を作ったり、衣装を考えたり、南さんがお芝居をしていくうちに見えてきたことです。
 
――――ライが着ていたVAN HALENのライブTシャツを由嘉里が着ているのも印象的でした。二人とも着ていたのが大阪でしたし。
松居:今回スタイリストで入っていただいた山本マナさんは、日頃はアーティストやモデルのスタイリングをされており、映画のお仕事が初めての方です。山本さんが思うライは、キレイに見せるというのではない価値観で生きている人で、元恋人の鵠沼と暮らしていたときの服がまだ残っているという設定で、VAN HALENのTシャツも用意していただきました。着用したときのクタッとした感じもいいですよね。
 

■劇中漫画「ミート・イズ・マイン」の脚本秘話

――――由嘉里が熱愛する擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」の各種グッズや劇中劇をはじめ、由嘉里のリアルな推し活を体感できるのも魅力ですが、松居監督自ら「ミート・イズ・マイン」の脚本も書かれたそうですね?
松居:焼肉を擬人化したキャラクターで学園もののアニメ、そして何も起きない系なのですが、その中の目立たないキャラクター二人が由嘉里の中で気になっているんです。その二人のキャラクターがちょっとボーイズラブ的な雰囲気になっていく妄想を由嘉里はしていくのですが、作るとだんだん愛着が湧いてきて、どんどんキャラクターが育っていきましたね。
 
 
sub2_Meets_the_World.jpg

 

■板垣李光人がアサヒを演じてくれたことで救いになった

――――板垣李光人さんが演じるアサヒは、この映画の中で自身のしんどさは表に出さず、光を放つ存在でした。
松居:僕はもっと柔らかい感じのアサヒになると思っていたのですが、板垣さんが台本を読み込み、自らホストの方を取材して、考えて実践してくれたと思うんです。アサヒがグイグイくるから物語が動き出すし、由嘉里とライも動き出すところもある。きっとアサヒも由嘉里のように、死にたいと願うライのことをなんとかしたいと思ったことがあるのでしょうが、それを経て由嘉里とライと一緒にいるわけで、板垣さんがアサヒを演じてくれたことで救いになりました。
 
――――相手の幸せを思っての行動や言動が、逆に相手を苦しめることもあると映し出している作品でもありますね。
松居:由嘉里は確執を抱えた母とのやりとりで、自分がライの幸せを思ってやっていることが逆に相手を苦しめているかもしれないと気づくという残酷さもありながら、一方でそうだよなと納得する感覚もあります。
 
――――この映画を撮ったことで、監督ご自身にとっての「ミーツ・ザ・ワールド」は何かありましたか?
松居:なんとなくですが、物語というのは起承転結や目指すべきゴール、主人公の成長など何かしらがあって組み立てられるものだと思っていて。でも本作を撮ることで、物語のための展開というより、みんなが生きているからこうするんだという連なりが最終的に一つの映画になり、それで十分いいと思えたというか。物語のための物語ではなく、人のための物語があるんだなと実感しました。
 
 
sub4_Meets_the_World.jpg

 

■映画と演劇、双方のいいところや特色を感じて反映することも

――――それは本当に大きな気づきですね。わたしもこの作品の中に入って、時には由嘉里、時には由嘉里の母に自分を重ねながら観ていました。
松居監督は演劇と映画の両方で作品を毎年コンスタントに発表しておられますが、そのような活動をすることで見えてきたことはありますか?
松居:演劇はお客さまの想像力を信じながら見せる芸術で、役者の身体と音と光だけで表現します。逆に映画は全てが情報と言えるし、全く別物です。映画はずっとあらゆる要素をガチガチに決めていくのですが、それをまるで何も決まってないかのように見せていく。演劇はずっと決めないでいられるんです。各ステージで形が変わってもいいですし。
 
一方で、映画で決めすぎないことも美しかったりしますし、演劇であえて決めてみることもできる。両方をやっていることで、双方のいいところや特色を感じますし、お互いに反映させたりします。そういう景色が見えるのが好きだから、演劇も映画も両方やっているのかもしれません。
(江口由美)
 

<作品情報>
『ミーツ・ザ・ワールド』
出演:杉咲花、南琴奈、板垣李光人、くるま(令和ロマン)、加藤千尋、和田光沙、安藤裕子、 中山祐一朗、佐藤寛太、渋川清彦、筒井真理子 / 蒼井優
(劇中アニメ「ミート・イズ・マイン」) 声の出演:村瀬歩、坂田将吾、阿座上洋平、田丸篤志
監督:松居大悟
原作:金原ひとみ「ミーツ・ザ・ワールド」(集英社文庫 刊)
2025年10月24日(金)よりT・ジョイ梅田、なんばパークスシネマ、kino cinema 神戸国際、T・ジョイ京都ほか全国ロードショー
公式サイト→https://mtwmovie.com/
©金原ひとみ/集英社・映画「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会
 

tanemakutabibito5-8.30-inta-shinohara-550-1.JPG

●日時:2025年8月30日(土)

●場所:大阪・関西万博2025関西パビリオン内



爽やかな香りと味わいが余韻として残る『種まく旅人』シリーズ第5弾、

淡路島が2度目の舞台となる篠原哲雄監督――撮影を振り返って。

 

tanemakutabibito5-pos.jpg

「皆の心に幸せの種をまく旅人」――日本各地の第一次産業に携わる人々の人生に寄り添いながら諸問題を解決しては去っていく、まるで「シェーン」のような農林水産省官僚の活躍を描いた映画『種まく旅人』シリーズは本作で5作目となる。しかも淡路島が舞台となるのはシリーズ第二作『種まく旅人~くにうみの郷~』(2015)以来2度目で、引き続き篠原哲雄監督がメガホンをとったオリジナル企画。前作では海苔養殖と玉ねぎ生産に従事する兄弟の物語だったが、今回は伝統的な酒造技術の継承や酒蔵経営に苦労する父子の物語で、淡路島の美しい自然や豊潤な銘酒の香りが安らぎを与える心温まるヒューマンドラマである。


久しぶりのスクリーン復帰となった菊川怜が、エリート官僚という役柄ながら、熱く日本酒を語り美酒に酔いしれたり、本気で酒造りを学ぼうと低姿勢で臨んだり、さらには確執を抱える父子の壁を真剣に取り除こうとしたり――以前のイメージを覆すような人間臭い演技で親しみを感じさせる。菊川怜の女優としての新たな魅力を引き出した篠原哲雄監督は、兵庫県の斉藤元彦知事からも地方再生の一助を担うためにもまた兵庫県を舞台にした作品を撮ってほしいと期待が寄せられた。

 

10月10日(金)からの公開を前に、8月30日(土)に【大阪・関西万博2025】内の《関西パビリオン》で開催されたイベントと記者会見の後、篠原哲雄監督のインタビューという好機に恵まれた。『種まく旅人』シリーズで再び淡路島を舞台にした理由や、菊川怜を始めとするベテラン俳優の存在の大きさや、撮影秘話についてなど、いろいろなお話を伺うことができた。詳細は下記をご覧ください。
 


――再び淡路島を舞台にした理由は?

tanemakutabibito5-8.30-inta-shinohara-240-1.JPG

篠原監督:10年前の『種まく旅人~くにうみの郷~』の撮影で、農業用のため池の維持管理のため掻い掘りをした時、島と海でミネラル分が循環することによって豊潤な作物や海産物の生産に繋がっていることを知って、農家の方々のご苦労を垣間見たような気がしたのです。去年の夏頃に兵庫県の特産物を紹介するブースを訪れる機会があり、淡路島の銘酒や産物を通して改めて島の豊かさを知り、生産者の想いを伝えたいという気持ちになりました。

今回の舞台となった酒蔵「千年一酒造」は、前回の撮影でお世話になった海苔業者の方の近くにあったので、お土産用にお酒を買いに行ったのがキッカケで知りました。


――今までも農業への関心は高かったのですか?

篠原監督:特別に関心が高かった訳ではないのですが、学生時代に観光牧場でアルバイトをしたことがあって、少しは興味がありました。私の作風から「土臭い感じの監督かな?」と思われていますが(笑)。前回の『種まく旅人~くにうみの郷~』も『深呼吸の必要』と繋がるところがあり、産業そのものではなく、宮古島の生活の中で作られているサトウキビをアルバイトの人たちが刈って砂糖になる、製糖工場に至るまでの人間模様が主体となっているのです。

今回は酒造りの行程もしっかり撮ろうと思っていました。クランインは去年9月で、仕込みには少し早かったのですが、撮影用に小さな樽で実際に醸造して頂きました。丁度お米が高騰する寸前だったのでギリギリで助かりました(笑)。


――久しぶりの女優復帰となった主役の菊川怜さんについて?

tanemakutabibito5-8.30-2shot-240.JPG

篠原監督:本読みの時からセリフは覚えていて、彼女なりのプランを持っておられて、熱心な方だなあと思いました。

今回の役は、農林水産省の官僚というお堅いイメージではなく、酒好きで猪突猛進なところもあるユニークなキャラクターで、菊川さんには合っていたと思います。現場で細かな修正はありましたが、大体において彼女の演技プランのままで撮影しました。


――菊川さんは真っ直ぐで素直な方なのでしょうが、今まで少し硬いイメージがありました。今回は砕けた演技でとても親しみを感じたのですが?

篠原監督:彼女自身は言葉豊かに発言できる人なので、これまでのキャリアからも何かを引き出して伝えるということは得意なはずです。今回は確執のある父と息子の間を熱心に取り持つシーンではそれが活かされていたと思います。彼女の女優としての新たな魅力だと言えるでしょう。


――ベテラン俳優の存在が光っていましたね?
tanemakutabibito5-8.30-inta-shinohara-240-2.JPG篠原監督:今回、たかお鷹さんとは初めてお仕事をさせて頂いたのですが、さすがに大きな存在だと感じました。あの佇まいは杜氏(とじ)という役にぴったり! たかおさんは文学座の大ベテラン俳優です。こういう方が演劇界を支えて来られたんだなあと実感しました。

白石佳代子さんも、歌うシーンで「これでいいかしら?」としきりに仰っておられました。認知症という難しい役を過剰にやり過ぎるとよくないと判断されたのでしょう、微妙なさじ加減で白石さんなりに模索しながら演じておられたようです。


――ベテランと若手の俳優の演出については?

篠原監督:今回、たかお鷹さんと白石佳代子さんという後光のように輝く大ベテランがいて、その手前に升毅さんという渋い中堅がいる。升さんは関西弁も堪能で色々と研究もされていたので、今回の父親役を安心して委ねることができました。若い俳優さんは芝居に対する姿勢や考え方が生半可になることがあるので、時々注意しながら演出しました。酒蔵は上下関係や礼儀を重んじる場所ですので、金子隼也君もどう佇んでいいのか分からず悩んでいたようで、「もっと自然体でやった方がいいよ」と声をかけました。確かにある事情を抱えた息子の立ち位置が難しくて、女杜氏を目指す役柄同様、清水くるみさんが金子君に一所懸命に発破をかけてくれていました。


――撮影について?
tanemakutabibito5-8.30-inta-shinohara-240-4.JPG篠原監督:今回の撮影は大ベテランの阪本善尚さんが2カメラ体制で撮ってくれました。特に酒造りの生きた酵母や発酵を捉えるシーンなどでは撮り逃してはいけないと、2台のカメラで撮影。狭い空間で暑くて大変でしたが、リアルな映像が撮れてよかったです。実景は最後にまとめて撮っています。淡路島のいろんな場所を撮影して、夕景のシーンも最後の日にうまい具合に撮れました。それに撮影の小林元さんはドローン操縦もできるので、ドローンを活用した撮影も活かされていると思います。

さらに、限られた予算内で撮ってくれた阪本撮影監督の仕事ぶりには改めて凄いなと感じました。照明や美術は京都の松竹撮影所のスタッフを起用して、東京と京都のスタッフとの共同作業はとても面白い試みだったと思います。『種まく旅人~くにうみの郷~』の撮影の時は冬だったので、今回は陽の光を存分に使おうと意識して撮影しました。


――あまり聞きなれない「M&A(企業の合併や買収)」について、冒頭のシーンで主人公のキャラクターと併せて分かりやすく表現されていたように思いますが?

tanemakutabibito5-main.jpg

篠原監督:主人公は農林水産省官僚というお堅いイメージですので、先ずはお酒に並々ならぬ情熱を抱くユニークなキャラクターだということを紹介。さらにM&Aについては、売上減少や後継者問題などの難題を抱える日本の酒造業界の現状を提起し、具体的な問題点や販路拡大に繋がる新商品の開発や、伝統的酒造りを支援するために役人が派遣されることを明示する必要があったのです。


――様々な作品を多く監督されてきましたが、作品選びについては?

篠原監督:今回はオリジナルですが、『種まく旅人』シリーズを手掛けてこられた北川プロデューサーの土台があって、脚本家の森脇京子さんとの間で酒造業界の話になって、僕が来た時点でそれを如何に深めるか、父と息子の物語をどう広げていくかということになったのです。例えば、今回は菊川怜さんが主役ということで主人公のキャラクターを変化させる必要がありましたし、M&A関連では怪しげな人を登場させて酒蔵存続の危機感を煽ることなどです。
 



篠原哲雄監督といえば『月とキャベツ』…初めて観た時の感動は未だに忘れられない。一途な熱い想いとせつなさは、時を経ても心に深く刻み込まれている。他にも『はつ恋』『天国の本屋~恋火』『深呼吸の必要』『山桜』等など、観る者をロマンチストでいさせてくれる、その誠実な作風に魅了される映画ファンも多いと思う。『種まく旅人~醪(もろみ)のささやき~』から受ける癒しは、自然に恵まれた淡路島の豊かさと、それを守ろうとする人々の誠実な想いから感じられるものなのかもしれない。
 


監督:篠原哲雄
脚本:森脇京子
エグゼクティブプロデューサー:北川淳一
出演:菊川怜、金子隼也、清水くるみ、朝井大智、山口いづみ、たかお鷹、白石加代子、升毅、永島敏行

撮影監督:阪本善尚 撮影:小林元
製作:北川オフィス
制作プロダクション:エネット
配給:アークエンタテインメント
©2025「種まく旅人」北川オフィス

公式サイト: https://tanemaku-tabibito-moromi.com/

2025年10月10日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ(なんば、二条、西宮OS、くずはモール)、イオンシネマ(京都桂川、加古川、明石)、元町映画館 ほか全国ロードショー


【『種まく旅人』シリーズの紹介】

  • 『種まく旅人〜みのりの茶〜』大分2012年 監督:塩屋俊 出演:陣内孝則 田中麗奈
  • 『種まく旅人~くにうみの郷~』淡路島2015年 監督:篠原哲雄、出演:栗山千明 桐谷健太 三浦貴大
  • 『種まく旅人〜夢のつぎ木〜』岡山2016年 監督:佐々部清 出演:斎藤工 高梨臨 
  • 『種まく旅人〜華蓮のかがやき〜』金沢2020年 監督:井上昌典 出演:栗山千明 平岡祐太
  • 『種まく旅人~醪のささやき~』淡路島2025年 監督:篠原哲雄 出演:菊川怜 金子隼也

(河田 真喜子)

 

IMG_5926.JPG
 
 村上春樹の短編連作『神の子どもたちはみな踊る』にオリジナル設定を加えて映像化した『アフター・ザ・クエイク』が、10月3日(金)よりテアトル梅田、なんばパークスシネマ、イオンシネマ茨木、MOVIX堺、MOVIX八尾、ユナイテッド・シネマ岸和田、アップリンク京都、イオンシネマ京都桂川、イオンシネマ久御山、シネ・リーブル神戸、MOVIXあまがさき、イオンシネマ草津他全国公開される。
 監督は、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」や大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」をはじめ、劇場版にもなった『その街のこども』の演出を務め、天災を描き続けてきた井上剛。阪神・淡路大震災から30年を迎えた今、この30年の日本やこれからの日本を見つめる本作を作り上げた井上剛監督に、お話を伺った。
 

 

■阪神・淡路大震災から15年後が舞台の『その街のこども』を振り返って

――――井上監督の手がけた『その街のこども』は今でも毎年上映が続き、阪神・淡路大震災のその後を描いた映画の代名詞になっていますが、この作品が末長く上映され続けている理由をどのように分析されていますか?
井上:この作品は震災の映像が出てきませんし、震災で家族を失ったお話というわけでもなく、一見すると悲惨さを訴えている物語ではない。誰でも(自分の震災体験について)しゃべりたくなるようなリアリティーがあるからではないかと思っていますし、実際、作るときに心がけていたことでもありました。その描き方は本作にも通じるところがあります。
 
――――というのは?
井上:『その街のこども』は阪神・淡路大震災から15年後の話で、佐藤江梨子さんが演じた美夏は友人を亡くし、森山未來さんが演じた勇治は知り合いに亡くなった人はいなかったけれど、震災時に父親が周りの人から不名誉な扱いを受けたことがトラウマになっているという設定です。15年ぐらい経ち、少し時間や距離を置いたからこそ、たまたま出会った二人がたまたま語り出した。この“たまたま感”が良かったのだと思います。
 
――――拝見した当時、こういう視点での震災の描き方があるのかとすごく新鮮でした。
井上:タイトルに「こども」を入れたのも、こども時代の話を大人になった主人公二人がしているというのが、観客のみなさんに寄り添いやすかったのではないでしょうか。お互いの記憶の違いがあるので、会話をしていて通じるところもあれば、そうでないところもある。そういう日常の会話で起こりそうなことが映画の中で繰り広げられるので、観客のみなさんが自分ごととして捉えていただけたのかもしれません。
 
――――夜の街を歩きながら話すというシチュエーションが非日常感を出していたのでは?
井上:1995年、被災した当時の神戸は描けないけれど、夜のシーンにすることで、当時被災した街に住んでいた人は想像することができるでしょうし、そうでない人は会話に集中していただける。震災を扱った題材ですが、若い男女の話でもあり、鑑賞する敷居が低かったように思います。
 
 
sub10.JPG

 

■95年、同時期に地下で起きた天災と人災を捉えた原作『神の子どもたちはみな踊る』

――――『その街のこども』製作時、『神の子どもたちはみな踊る』を読んでおられたそうですが、その魅力や、参考になった点は?
井上:NHK大阪放送局にいた頃で、「震災のドラマを作ってほしい」というオファーに対し、どういう題材で、どういう人に何を届ければいいのかを悩んだのです。そこで出会った本が村上春樹さんの『神の子どもたちはみな踊る』でした。95年に自分の故郷(芦屋)が震災で壊されてしまったことだけでなく、同年3月の地下鉄サリン事件と、同時期に天災と人災がいずれも地下で発生しているわけです。その二つが作家ならではの想像力で捉えて表現されており、着眼点や考え方がとても参考になりました。
 
――――時を経ての映画化は、阪神・淡路大震災から30年というタイミングを意識して作られたのですか?
井上:『その街のこども』以来になりますし、神戸で撮影をさせていただいたので、何か震災から30年のタイミングで自分にできることはないかと思い、『その街〜』のプロデューサーだった京田光広さんに企画を相談していたところ、同じタイミングで本作のプロデューサー、山本晃久さんが『神の子どもたちはみな踊る』を映像化したいと声をかけてくれました。
『その街のこども』も、ある不幸をどうやって乗り越えるのかと二人で語りかけるシーンで脚本の渡辺あやさんが「工夫するしかないんだよ」というセリフを書いていますが、阪神・淡路大震災からの30年は地震だけではなく、様々な不幸な出来事が起きました。繰り返される天災だけでなく、人間の無意識下、地下にある黒々としたものが全く衰えていないし、分断が起き、世の中が本当に良くなっているのかと考えたとき、話のスタートを95年においてはどうだろうかと考えたのです。だから神戸のことを思っての一面と、今に向けて作るにあたり、話のスタートのタイミングとして設定した面と両方の側面があります。
 
 
main2.jpg

 

■かえるくんは徹底的に善であり、揺れない存在

――――原作の中で銀行員片桐の前にかえるくんが登場する「かえるくん、東京を救う」は印象的ですが、本作ではその部分はナレーションにし、映画オリジナル部分で新たなエピソードとして二人を登場させています。その狙いは?
井上:登場人物たちのテーマはみんな「からっぽ」なんです。1995年の小村(岡田将生)は本当に頭の中がからっぽですが、2025年の片桐(佐藤浩市)はからっぽなのだけど、想像力で目の前のことが豊かに見えることもある。だから片桐にはかえるくんが見えるんです。
かえるくんは徹底的に善であり、揺れない存在です。ひょっとしたら(闘う羽目になる)みみずくんとも仲が良かったかもしれない関係性の象徴でもある。神の化身のようでもあり、いろいろなことを想像させるかえるくんが、ナレーションだけではなく実物で、コミカルに登場し、片桐とユーモラスなやりとりをし、戯れ、そして冒険するかのように日本を救うストーリーはファンタジックで面白いと思ったんです。
95年の第1章から共通しているのは地下に潜るということで、それまで意識の地下に潜っていたのが、25年の第4章では実際の地下に片桐とかえるくんが潜っていき、お互いに無意識の中に入って何かと闘っていく。闇に飲まれていくかえるくんは、人間の善なのか、失くしてしまったものなのか、いろいろと想像できるかえるくんを具現化してみたいと思ったのです。
 
――――今回、このかえるくんの声をのんさんが演じていますね。
井上:さきほど言及したかえるくんのイメージと重なりますが、イノセンスなものであってほしいという想いがあり、のんさんにオファーしました。少年のようでもあり、違うようでもあり、悪意がなく、でもコミカルなことができて、何よりもイノセンスな感じが出るといいなと思ったのです。
 
 
sub3.JPG

 

■ドキュメンタリー的な要素を取り入れた第2章

――――登場人物はみな、孤独を抱えた人たちですが、そこに何かの仕掛けがあることで、見知らぬ者同士が胸の深い想いを打ち明けられるということが描かれた2011年のエピソードが印象的でした。
井上:2011年の第2章は舞台装置的には海岸がメインで、とにかくシンプルかつナチュラルにやることがテーマでした。ほかの3つの章とは一番演出スタイルが違い、ドキュメンタリー的な要素を取り入れました。大江崇允さんの脚本では「順子は地に足がついていない」と書かれていたのでその感じを掴みたくて、順子(鳴海唯)が電車に乗っているシーンは実際の京王線で撮っていますが、なんども何時間も彼女の佇まいを近くから、時に遠い距離から長回しで撮影し、キャラクターをみんなで探りました。
 
――――「地に足がついていない」のも、キャラクターに共通することですね。
井上:地面がとても大事なお話なので、どういう立ち方をするのかをどの章も大事にしました。第2章は毎日海辺で、関西弁の男・三宅(堤真一)が焚き火をするのですが、その火だけが厳然とそこにあり、でもいつかは消えるという当たり前のことが人生のようでいいなと思っていました。また僕たちは現在からの視点で見ているので、いずれはその浜に東日本大震災による津波が押し寄せることもわかっているので、「アフター・ザ・クエイク」と言いながら「ビフォア・ザ・クエイク」であることも表現しているのです。堤さんも、ご自身は阪神・淡路大震災での被災経験はないそうですが、震災についての話をせずとも、現場では当時神戸市東灘区で被災した三宅としてその場におられた。すべてナチュラルに撮影が進んだ感じがありました。
 

under_main.jpg

 

■「からっぽ」を表現する難しさ

――――一方95年の第1章は、登場人物の「からっぽ」感が非常に出ているエピソードですが、小村を演じた岡田将生さんをはじめ、妻、未名役の橋本愛さん、北海道で出会うシマオ役の唐田えりかさんと、それぞれが独特の存在感を示していました。
井上:俳優のみなさんは、演じるのが難しかったと思います。答えのない内容の難しさだけでなく、本当にこの演じ方で、「からっぽ」な感じを観客に受け取ってもらえるのかどうか。岡田さんをはじめ、みんないくばくかの「からっぽ」感を抱えたキャラクターの表現について、悩まれていました。
 また第1章だけ、意図的に小説の言葉遣いを用いているのですが、それでも不自然になることなく、言葉をしゃべっているのに、とてもスカスカな感じとか、不穏さを感じとっていただくにはどうすればいいのかと。岡田さんや唐田さんが見事に演じていましたね。橋本愛さんはセリフのない役でしたが、未名を演じてもらうためにお呼びしました。
 
――――セリフがないというのも、逆に生々しい感情が伝わりますね。
井上:同じ震災を体験しても、感じ方は人それぞれです。小村のように、それでも日常を歩んで行く方に意識を置く人と、未名のようにそこで留まって動けなくなってしまう人と。震災に限らず何かの局面が訪れたとき、どこか空虚な気持ちを抱えてしまうことはよくあると思うのですが、それを演じるのは難しいですね。
 
 
sub4.jpg

 

■祈りと神の存在について考える第3章

――――表題作「神の子どもたちはみな踊る」を2020年に置き換えた第3章は、祈ることがテーマでもあります。地下鉄サリン事件以降、宗教や祈ることへ否定的な見方も多くなったのではないかと。
井上:地下鉄サリン事件を引き起こしたオウム真理教はカルトで胡散臭いと捉えられてきましたが、2020年ごろに宗教二世の問題が大きく報じられ、何が正しいのかと考えていくと、陰謀論も含めて何が正しくて、一体どこに向かっていくのかと誰もが思っているでしょう。みんなが聡明で正しければ戦争はないわけで、そうでないから戦争が各地で起こっている今、神と呼ばれる存在は一体何をしているのか。宗教二世の善也を演じた渡辺大知さんが発したセリフは、よくわかる。一方で宗教指導者の田端(渋川清彦)が「それでも祈る」というのは、人間の業が出ている気がします。
 
――――太古の昔から人々は神に祈りを捧げてきた事実があり、確かに祈るだけで戦争は終わらないけれど、そこで武器を手にして良いのかと、いろいろと考えを巡らされますね。
井上:95年から第1章がはじまり、20年近く経った第3章で改めて祈りとは何かを問う。辛い時があったとき、どうすればいいのか。本作では現場でギターの大友良英さんが弾いてくれている中、渡辺さんに善也として踊ってもらいましたが、善也が動きたくなった理由も自分で見つけもらうようにしました。
 
 
sub16.jpg

 

■神戸の地下に潜る撮影で「スタート地点に戻ってきた」

――――2025年の第4章は、片桐を含め、どのように設定を考えていったのですか?
井上:今、もう一度かえるくんが現れて、意識の底に向かっていったとき、95年からの30年を片桐がどのように生き、何に責められたり、何と闘っているのかを想像するところからスタートしました。また村上春樹さんの『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』や『ねじまき鳥クロニクル』などの冒険譚を映像でやってみたいという想いもありましたので、第1章から続いてきた意識下に入ることを実際に地下に潜ってやること、最後は(地上/通常)に戻るという構成で大江さんに脚本を書いていただきました。
 
――――その地下のシーンは、非常にスペクタクルで迫力がありましたね。
井上:あの地下のシーンは神戸で撮影したんですよ。神戸の地下にこんな場所があるなんてと感動しました。15年前の『その街のこども』は神戸の地上の話でしたが、スタッフ・キャストと神戸の地下に潜り、本当に真っ暗で恐怖すら感じる中で撮影できたのは、スタート地点に戻ってきた感覚で良かったです。
 
――――ありがとうございました。95年から30年後の今、この作品を届けるにあたり、メッセージをお願いします。
井上:震災を経験してきた日本が、95年からどのように歩み、また人の心はどうなってきたのかを考えて作りました。あの揺れは時や場所が変わったとしても、今でもどこかで揺れています。大事な地面が揺れると人の人生に当然影響してくると同時に、ただ想像することもできる。想像することで人と人とが繋がっていければと思っています。
(江口由美)
 

<作品情報>
『アフター・ザ・クエイク』
2025年 日本 132分 
監督:井上剛  脚本:大江崇允
原作:村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』(新潮文庫刊)
出演:岡田将生、鳴海唯、渡辺大知、佐藤浩市、橋本愛、唐田えりか、吹越満、黒崎煌代、黒川想矢、津田寛治、井川遥、渋川清彦、のん、錦戸亮、堤真一 
10月3日(金)よりテアトル梅田、なんばパークスシネマ、イオンシネマ茨木、MOVIX堺、MOVIX八尾、ユナイテッド・シネマ岸和田、アップリンク京都、イオンシネマ京都桂川、イオンシネマ久御山、シネ・リーブル神戸、MOVIXあまがさき、イオンシネマ草津他全国公開
(C) 2025 Chiaroscuro / NHK / NHK エンタープライズ
 


RTB-JP-550.jpg

1969年、一枚のアルバムに全世界が震えた!伝説的ロックバンドの知られざる起源がここに!メンバー自らが語る奇跡のドキュメンタリー『レッド・ツェッペリン:ビカミング』が、9/26(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開となり、全国のIMAX®劇場でも同時公開となります。


メンバー自身による貴重な証言やアーカイヴ映像満載!

4人のメンバーとともに当時を再体感する没入型映画オデッセイ


RTB-pos.jpg60年代末、イギリスで産声を上げたロックバンド「レッド・ツェッペリン」。ジミー・ペイジ、ジョン・ポール・ジョーンズ、ジョン・ボーナム、ロバート・プラント。およそ12年間の活動の中で、彼らが起こした現象はまさに事件であり、予言であり、そして未来であった。デビューアルバムでいきなり世界を熱狂の渦に巻き込んだバンドの出発点にはいったい何があったのか。未公開のジョン・ボーナムの生前音声のほか、メンバーの家族写真や映像、初期のライブシーンなど貴重なアーカイヴ映像とともに、その知られざる歴史を語る証言者はオリジナルメンバーのみ!


さらに、部分的ではなく1曲まるごと演奏シーンを映し出すことで、私たちはまるでその場に居合わせたかのようにメンバーの声を聞き、当時のライブをリアルタイムで目撃した感覚になるだろう。4人のメンバーとともに当時を再体感する、まさにユニークにして最高の没入型「映画オデッセイ」である。
 


この度、2021年9月4日にベネチア国際映画祭でジミー・ペイジが記者会見で語ったことをお届け致します。

RTBJP-500-1.jpg

 

2017年の冬にプロデューサーのアリソン・マクガーティより、革装丁の書籍のように仕上げられた物語の始まりから終わりまでを一望できる絵コンテを手渡されたジミー・ペイジは「その正確さ、そして非常に深いリサーチの成果が随所に表れていた。ページをめくるたびに、私の記憶に残る重要な出来事が次々と現れ、「彼らは本当に理解している、本質を捉えている」と確信したよ」と語る。これまでもバンドの映画を製作したいというオファーは何度もあったとそうで、「どれも期待には遠く及ばず、中には、音楽そのものではなく、周辺の要素ばかりに焦点を当てたものもあり、距離を置いていたんだ。今回の作品は、まさに音楽そのものに焦点を当てていた。音楽がどのように生まれ、どのように演奏されるのか。その魅力に深く踏み込んでいて、楽曲も断片的にではなく、完全な形で提示されている。よくあるような、楽曲の途中でインタビューに切り替わる形式ではなく、音楽を中心に据えた構成がなされており、これは従来の音楽映画とは一線を画す、まったく新しいジャンルの作品だと感じたんだ」と映画製作を了承した経緯を明かす。


メンバー4人はそれぞれが卓越したミュージシャンで、まさに“星の巡り合わせ”とも言えるような奇跡的な出会いによって、一つのバンドとして結集したんだ。物語を追っていくと、4人それぞれが異なるキャリアやアプローチを持っていたことがわかると思う。しかし、一度集まった瞬間、その融合はまるで止まることのない爆発のようで、その勢いはツアーへ、そしてレコーディングへと繋がっていった。アメリカとイギリスを行き来するツアーの合間に録音や映像撮影を行いながら、その勢いはとどまることを知らなかった。まるで時速100万マイルで駆け抜けているような感覚だった。その熱量こそが、この映画で見事に表現されており、観てもらえれば、きっとその迫力と本質を感じていただけるはずだよ」と本作の出来を絶賛する。
 


監督・脚本:バーナード・マクマホン(「アメリカン・エピック」) 共同脚本:アリソン・マクガーティ 
撮影:バーン・モーエン 
編集:ダン・ギトリン
出演:ジミー・ペイジ ジョン・ポール・ジョーンズ ジョン・ボーナム ロバート・プラント
2025年/イギリス・アメリカ/英語/ビスタ/5.1ch/122分/日本語字幕:川田菜保子/字幕監修:山崎洋一郎/
原題:BECOMING LED ZEPPELIN
配給:ポニーキャニオン 
提供:東北新社/ポニーキャニオン
©2025 PARADISE PICTURES LTD.     
[公式HP]https://ZEP-movie.com 
[公式X]@zepmovie

2025年9月26日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかIMAX®同時公開


(オフィシャル・レポートより)

 

martines_main.jpg
 
  頑固で孤独な初老の男のほろ苦い日常と、思わぬ恋心をメキシコ出身の若手女性監督ロレーナ・パディージャが描く長編デビュー作『マルティネス』が、8月22日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショーされる。
チリ人俳優フランシスコ・レジェス(『ナチュラルウーマン』)が、仕事のため移住したメキシコでキャリアの終盤を迎え、老いや死、孤独に直面しながら愛に迷う曲者の主人公・マルティネスを絶妙のさじ加減で演じている。淡々とした日常に訪れる変化と共に思わぬ方向へ変わっていくマルティネスに、監督はどんなメッセージを込めているのか。パディージャ監督(写真下)にオンラインでお話をうかがった。
 
 
ロレーナ・パディージャ監督.jpg
 

■どこにも居場所や所属がない感覚を表現

――――ご自身の初長編で、初老の移民男性を主人公にした物語を描いたいきさつを教えてください。
パディージャ監督:わたしはメキシコ人ですが、過去15年間で5カ国10都市に居住経験があります。だから故郷でも、母国ではない国でも属していないという感覚が強くなりました。移民の方も、わたしの感覚と同様に、どこにも居場所や所属がないと感じているでしょうから、共感や興味を覚えるようになったのです。
 
――――なぜ、そんなに多くの場所を訪れながら暮らしておられたのですか?
パディージャ監督:元々どの世界にも所属していないという感覚があったので色々な国で住んでみたのですが、最終的にはメキシコに帰り、とても満足しています。それは国に対する満足ではなく、わたしがこれでいいんだと自分の内面に向き合った上で、満足できるようになったということなのです。
 

martines_sub1.jpg

 

■フランシスコ・レジェスは、マルティネスのイメージそのもの

――――様々な場所を訪れながら、ご自身と向き合う旅をされてきたんですね。
次に、孤独で偏屈な主人公、マルティネスを演じたフランシスコ・レジェスとの出会いについて教えてください。
パディージャ監督:マルティネスというキャラクターのルックスについて、元々かなりしっかりしたイメージがありました。最初はメキシコでキャスティングを行いましたが、なかなかイメージ通りの俳優が現れなかった。ある日、セバスティアン・レリオ監督の『ナチュラルウーマン』の予告編を見る機会があり、そこに登場したフランシスコ・レジェスさんを見た瞬間に「彼こそがマルティネスだ!」と思いました。すぐにレジェスさんにコンタクトを取り、脚本を送ってオンラインミーティングをしたところ、オファーを受けてくれたのです。わたしの頭の中に、会ったこともないレジェスさんが演じるマルティネスの顔が浮かんでいたので、本当に驚きましたね。
 
 
martines_sub6.jpeg

 

■即興的に長回しに変えることでできたベストシーンは?

――――レジェスさんとの役作りについて教えてください。
パディージャ監督:レジェスさんとの役作りはとてもやりやすかったです。わたしは大学で映画を教えているので(メキシコのモンテレイ工科大学グアダラハラキャンパスで脚本・監督コースを担当)、その給料を貯めてチリに行き、彼と役作りや撮影を行いました。わたしは撮影現場で脚本にないことを取り入れ、即興的に変えていくことが好きで、レジェスさんがそのやり方を受け入れてくれるか不安でしたが、快く受け入れてくれました。本当に良かったです。しかも彼は本当にハンサムなんですよ(笑)。
 
――――即興の演出がうまく作用したと思うシーンは?
パディージャ監督:マルティネスが同僚のコンチタとパブロ、(孤独死した隣人の)アマリアについての作り話をしていたシーンは、現場で脚本を変更し、かつわたしが最も重要だと思っているシーンです。わたしは長回しも多用するのですが、カットと言わずに回し続けていると、彼らは舞台経験が豊富な俳優たちなのでひたすら演技を続けてくれ、その結果とてもいいシーンになりました。
 
 
martines_sub7.jpg

 

■人はいくつになっても変われると強く信じて

――――本作は年をとることをネガティブに捉えるのではなく、自分次第で変わっていけるとポジティブに捉えているように感じました。今のお話を聞くと、パディージャ監督自身のお父様に対する願望を描いたようにも映りますね。
パディージャ監督:面白いことに、母にこの映画を見せた時は、「この映画は、実家であなたのお父さんを撮ればよかったんじゃないの」と言われたのですが、父に見せたときは「わたしはマルティネスとは違うし、こんな偏屈じゃない」と言われました。それが現実なのです。わたし自身は、人はいくつになっても変われると強く信じていますし、そこにこそ映画の力があると思っています。
 
――――アキ・カウリスマキ作品のような、ミニマムな描写の中に哀愁やユーモア、働く人間の心情が描かれていましたが、影響を受けた監督や、このようなテイストの作品にした狙いについて教えてください。
パディージャ監督:アキ・カウリスマキはとても好きな監督です。わたしは華やかさや特別なことはなくても、シンプルなストーリーや、市井の人々が主人公の作品が好きです。ミランダ・ジュライも素晴らしい監督で、作品で登場するキャラクターもシンプルですが、どこかユニークさがあって好きです。他にはアレクサンダー・ペイン監督の『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』も好きですね。わたし自身も祖父母や叔母といい関係を築いているので、人が好きですし、とにかく人にまつわる話が好きなのだと思います。シンプルなテイストの映画が好きだからこそ、自分で撮るときはシンプルなトーンの映画を目指しているのです。
 

■もっとわたしたち女性監督には映画を作る機会が必要

――――ありがとうございました。最後にメキシコ映画界、しいてはラテンアメリカ映画界における女性監督の状況や今後の展望について教えてください。
パディージャ監督:今は多くの女性監督が台頭しており、すごく興味深い時期に身を置いていると思います。ただ、女性監督と一言でいっても、皆それぞれに個性があり、違う状況にありますので、もっとわたしたちには映画を作る機会が必要だと感じています。わたしはニューヨーク大学の芸術学部(ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アーツ)でフルブライト奨学生としてドラマティック・ライティングの修士号を取得しましたが、そこには世界各国から女性監督が集まっていました。彼女たちは脚本や撮影も担当しますし、母親業をこなしながらそれらをやっている人もいます。彼女たちの撮影や物語へのアプローチ、クルーとの関係性づくりなど、本当に様々です。だからこそ、色々な観点から描く女性の作品が観ることができると思っていますし、わたし自身も観たいと思っています。
(江口由美)
 

『マルティネス』“MARTÍNEZ”
2023年 メキシコ 96分 
監督・脚本:ロレーナ・パディージャ 
出演:フランシスコ・レジェス、ウンベルト・ブスト、マルタ・クラウディア・モレノ
8月22日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー
© 2023 Lorena Padilla Bañuelos
 



 

Elevation-pos.jpg

『クワイエット・プレイス』プロデューサーが仕掛ける新たな絶望。全米トップ10入りのサバイバル・ホラー『エレベーション 絶滅ライン』が、7月25日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿ほか全国公開いたします。
 

人類の95%が死滅 生き残るためには、地上2,500m以下に下りるな。
 

『クワイエット・プレイス』『パージ』シリーズを手掛けた名プロデューサー ブラッド・フラーが、『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』主演で世界中を熱狂させたアンソニー・マッキーとタッグを組み、新たな絶望を届ける。人類を襲うモンスターのクリーチャー・デザインは『猿の惑星/キングダム』『ゴジラvsコング』を手掛けたクリエイターが参加。極限の緊張と恐怖の連続に、あなたは耐えられるかー!

 

『クワイエット・プレイス』『パージ』プロデューサー・ブラッド・フラー ×

 『ボーン・アルティメイタム』『オーシャンズ12』脚本家が仕掛ける新たな絶望は未来への危惧⁉


Elevation-500-1.jpg音を立てることが命取りとなるという独特の設定と、家族の絆を描いたストーリーで高い評価を受けた『クワイエット・プレイス』、社会の闇や格差、暴力の連鎖といったテーマを、「一晩だけすべてが許される」という衝撃的な設定であぶり出し、観客に強烈なインパクトを与えた『パージ』シリーズを手掛けた名プロデューサーのブラッド・フラー。本作では、人類の95%が死滅した世界で、生き残るためには地上2500m以下には降りてはいけないという条件のもと、スリル溢れるサバイバル・ホラーを生み出した。


Elevation-500-2.jpgこの設定についてジョージ・ノルフィ監督は「人口の95%が滅び、残りの5%が標高2,500m以上の静寂な山頂のコミュニティに住み、眼下の死と破壊とは無縁の世界を想像してみてほしい。このバーチャルなエデンの園は、食料、水、安全、そして素晴らしい自然の美しさなど、人が必要とするものすべてを提供している。私が興味をそそられたのは、このような世界で人類は本当に繁栄できるのだろうかという疑問だった。物理的なニーズはすべて満たされているのに、世界から隔離されたら、人はどうなるのか?私たちの進化と偉大な文明の創造を助けたテクノロジーと知性は、私たちを破滅に向かわせるものなのか?」と語る。


『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』で主演を務め世界中を熱狂させたアンソニー・マッキーや、『デッドプール』でライアン・レイノルズのタフでウィットに富んだ恋人ヴァネッサを演じたモリーナ・バッカリンらキャストの起用や美しい山脈での撮影については、「この物語に命を吹き込むこと、アンソニー・マッキーと3度目のタッグを組むこと、そしてモリーナ・バッカリンをはじめとする素晴らしい才能を持つキャストたちとの共演は、挑戦的でありながら爽快でもあった。コロラド・ロッキー山脈の営業中のスキーリフトから、地下1マイルの現役鉱山の奥深くまで、息をのむような絶景と、しかし過酷なロケーションで撮影を行った。これらの舞台は単なる背景ではなく、映画の緊張感と緊迫感を高め、真に没入できる演劇的な体験を作り出した」とコメント。


最後に「私たちのチームは全員、この映画が単に楽しませるだけのものでなく、人類の未来に疑問を抱かせるものであるよう、限界に挑戦し、総力を挙げた」と、映画のテーマについて明らかにした。
 

標高2500m以下は“死”という新たな絶望を生み出した『エレベーション 絶滅ライン』は7/25(金)より、全国公開!


【STORY】

Elevation-550.jpg

“リーパー”と呼ばれる謎のモンスターが地下穴から多数出現。人類の95%を死滅させて3年が経った。生き残った人々は、リーパーが侵入してこない標高2,500メートル以上の山岳地帯の孤立したコミュニティで暮らしていた。ロッキー山脈の避難所で幼い息子ハンターと暮らすウィル。妻はリーパーに殺された。肺の病気を患う息子の薬が不足し、ウィルは薬を求め、リーパーを倒す方法を研究している元科学者ニーナらと麓の病院へ向かうため2,500メートルのラインを越え下山することを決意するー。
 

■監督:ジョージ・ノルフィ『ボーン・アルティメイタム』(脚本) 
■製作:ブラッド・フラー『クワイエット・プレイス』『パージ』
■出演:アンソニー・マッキー『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』、モリーナ・バッカリン『デッドプール』シリーズ、マディー・ハッソン『マリグナント 狂暴な悪夢』
■2024年/アメリカ/英語/91分/カラー/シネスコサイズ/原題:Elevation
■配給:アット エンタテインメント
■© 2024 6000 Feet, LLC. All Rights Reserved.  
■公式サイト:elevationmoviejp.com

2025年7月26日(金)~ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿ほか全国公開

 


(オフィシャル・リリースより)

 
毎熊さまphoto(シネルフレ江口).JPG
 
『夜明けまでバス停で』の脚本家、梶原阿貴と再タッグを組み、東アジア反日武装戦線「さそり」の元メンバー・桐島聡の半生を映画化した高橋伴明監督最新作『「桐島です」』が、2025年7月4日(金)よりなんばパークスシネマ、MOVIX京都、MOVIXあまがさき、イオンシネマ和歌山、京都シネマ、7月5日(土)より第七藝術劇場、元町映画館にて公開される。
 本作で半世紀に渡る桐島の逃亡人生を一人で演じきった主演、毎熊克哉さんにお話を伺った。
 
 
1毎熊克哉、伊藤佳範、奥野瑛太スクリーンショット 2024-11-30 000109.png

 

■ピースを少しずつ集めて埋めていくイメージの役作り

――――キャスティングの経緯について教えてください。
毎熊:2024年1月に桐島聡と名乗った男性の死亡を伝えるニュースが流れ、その数ヶ月後には脚本ができたぐらい、撮影まですごくスピード感があった企画でした。桐島役で声をかけていただき、迷わず「やらせてください」と伝えました。
 
――――大役ですが、役作りをはどのようにされたのですか?
毎熊:役作りは無限にある。つまり正解がないものだし、どこに突破口があるのかと、どの役でも毎回試行錯誤しています。桐島の場合、「さそり」として活動していたのがどんな時代だったのかを調べました。「ウチダヒロシ」として生きていた時代は情報も少なく、また人によってウチダに対する印象も変わるわけです。自宅にギターがあり、音楽が好きだったという証言もあったので、ギターの練習をするのも役作りの一つでした。そういう風に、今回はピースを少しずつ集めて埋めていくようなイメージの役作りになっていました。
 
――――ちなみに、桐島のニュースを聞いたときの印象は?
毎熊:みんながずっと気になっていた人物がやっと捕まったというより、昔埋めたタイムカプセルがやっと見つかったという感覚でした。リアルタイムにその事件を目の当たりにしたわけではないので、何をやったのか詳細はわかっていなかったけれど、指名手配写真によって桐島のことが頭の中に勝手に刷り込まれていたのでしょう。ニュースを見た時も「まだ桐島は生きていた、しかも(自分の)近くで」と思いましたね。
 
――――しかも桐島は毎熊さんと同じ広島出身ですね。
毎熊:ちょうど地元も同じで、桐島が登場する20代最初のころは、まだ方言の名残があってもいいのではないか。より地方出身者の雰囲気が出ればと思い、伴明監督に相談して序盤は備後弁という広島市内の安芸弁とは少し違う方言を取り入れました。
 
――――広島弁も場所によって違いがあるんですね。
毎熊:僕も出身が岡山のすぐ隣の福山市だったので、岡山弁が少し混じっているんですよ。後半にウチダが出身地の話で桃太郎に言及するシーンがありましたが、広島の福山とは言わず、岡山を代表する桃太郎を持ってくるあたりがなんだか可愛らしいし、序盤の備後弁が効いてくるんですよ。
 
――――台本を読んで、桐島の印象は変わりましたか?
毎熊:ものすごく淡々と出来事が起きていくのに、桐島の優しさや、時代に取り残されていく寂しさ。さらに、ウチダとして約50年生きてきたからこそ、現代に対するやり場のない怒りも感じましたね。
 
 
2北香那、毎熊克哉スクリーンショット 2024-12-03 005829.png

 

■桐島役の醍醐味とは?

――――無口なキャラクターなので、動きや歩き方など、全身で桐島がウチダとして生きた人生を表現されていましたね。後ろ姿も儚い感じがしました。
毎熊:俳優として、セリフで何かを伝えるために声に意識を向けてトレーニングをすることもあります。一方、映画はスクリーンで観ることを前提にしていると思っていますから、スクリーンで鑑賞をすると圧倒的にセリフよりも表情や姿の方が強烈に情報として入ってくるのです。例えば高倉健さんは、出演作でそんなにしゃべらないけれど、その姿をスクリーンで観る側が自然とその演技から情報を受け取るわけです。
 
今回の場合、セリフよりも人の話に対するリアクションで心情の変化を見せるところが、この役の醍醐味だと思いました。外でウチダとして仕事をしたり、音楽バーにいる姿と、ひとりで家にいる姿は全然違います。家では淡々とルーティーンが繰り返されるだけですが、その中でも毎朝、窓を開けて外を眺めるときの心情の変化は一番大事にしていましたね。
 
――――特に最晩年の桐島は演じるのが難しかったのでは?
毎熊:伴明監督は75歳ですが、その後ろ姿に生きてきた長さだけではない色々なもの、雰囲気を感じ取るところがありました。この桐島聡が生きてきた70年という長さを、歩く足取りの重さでちゃんと表現できれば、セリフよりもその哀愁を感じていただけるのではないかと思っていました。
 
――――桐島を演じてみて、彼に共感を覚える部分はありましたか?
毎熊:ふと闘争の道に足を踏み入れてしまった人のような気がするのです。元々過激な思想を持ち、自らが先頭に立ってというタイプではなく、たまたまそういう仲間と出会い、爆弾闘争の道に入ってしまったというイメージがあります。僕はずっと映画をやりたいと思い、気づいたら20年近く俳優をやっていますが、このまま続けて70代になったとき、「他の人生があったかも」と思うかもしれない。だからやり続けるという気持ちと、どこかで足を止めるという気持ちが桐島には両方あったのではないでしょうか。僕も他に趣味があるわけでもなくて、毎朝、今日も(俳優を)やるか…という感じなので、そこは共感する部分かもしれません。
 
 
6毎熊克哉_指名手配スクリーンショット 2024-12-03 004829.png

 

■ “名乗り出るシーン”に込めた想い

――――高橋伴明監督とは撮影前や撮影中にどんな話をしたのですか?
毎熊:撮影前はオファーを受けるかどうかで、わざわざ監督が時間を作ってくださり、桐島ら「さそり」のメンバーが爆破事件を起こした当時、どう思っていたのかなど1時間ぐらいお話をしました。ただ桐島をどのように演じてほしいというような具体的な指示は現場に入ってもほとんどなかったです。
 
特に病棟で看護師に「桐島です」と名乗るところは、撮影の旅の間、どういう感じで言えばいいのかとずっと考えていました。中盤で撮影メンバーが晩御飯を一緒に食べる機会があり、伴明監督にそのことを相談してみたのです。桐島のそれまでの人生を踏まえ、いろいろな考えがある中で「闘いに勝った」という気持ちや、最後ぐらい自分の名前を公にしたいなど、さまざまな気持ちがあったはずです。でも、あまりどれかに寄らない方がいいとその段階では思っていることを伝えました。すると伴明監督も「俺もそう思っているんだよね」と。
 
――――ある意味、ご自身で自由に桐島像を作り上げていかれたと?
毎熊:演じる環境はきちんと用意されていますから。しかも伴明監督は場合によってはリハーサルもしないぐらい、撮るのが速いんです。特に問題がなければ、大体ほぼ一発撮りでした。まさに、さらっと撮る感じですね。「桐島です」と名乗るところは、お客さまからすれば肩透かしになるかもしれませんが、映画としてはいろいろなものを受け取ってほしいと思って演じました。感情を煽るような形でウエットな言い方は嫌だなとか、逃げ切ったという気持ちの強さを出すとウエットな部分が弱くなってしまうなとか。あくまでもいろいろなことがあった上で、桐島が意識朦朧の中で、ただ「さそりの桐島です」と言ったように聞こえてくると、お客さまが映画の中で見た光景の中から、それぞれ感じ取ってもらえるのではないかと思っています。
 
 

5毎熊克哉、和田庵DSC_0562.JPG

 

■高橋伴明監督自身の想いでもある「やさしさを組織せよ」

――――劇中の桐島の信念は50年間変わらなかったけれど、その間世の中は大きく変化し、人々の価値観や行動倫理も変わってしまいました。だからこそ桐島にはそういう世の中に対する怒りもあったのではと思ったのですが。
毎熊:若い頃は搾取に対する正義感があったし、もっと他のやり方があったはずですが、彼らはあのときは爆弾しか思いつかなかった。そこからどんどん時代が進み、自分たちが具体的に活動していた頃より、さらにダメな世界になっていないかというすごく残念な気持ちを抱いていた気がします。後半、人種差別の言葉を吐く若い同僚に対して怒るシーンがありますが、彼に怒っているのではなく、彼のような青年がいる現実に対して、なぜなんだ!という気持ちが渦巻いていた。映画でも「やさしさを組織せよ」という言葉が登場しますが、なぜやさしい世界はないのかと、より感じていた気がします。そして、それは前作の『夜明けまでバス停で』と同様に伴明監督自身の想いでもあると思います。
 
――――最後に、本作は第20回大阪アジアン映画祭のクロージング上映作品となりましたが、暉峻プログラミングディレクターはインタビューで、この作品が毎熊さんの代表作になるのは間違いないと太鼓判を押しておられましたが、毎熊さんにとってどんな作品になりそうですか?
毎熊:僕も20代は俳優の仕事がなく、アルバイトで食いつなぐ生活でそれでも辞めずに続けてきた結果、30代直前に自主映画『ケンとカズ』で人に自分の名前を知ってもらえるような名刺代わりの作品ができました。そこからいろいろな役を演じ、いろいろな経験を積み重ねてきました。その上で演じた『「桐島です」』は、僕自身がまた違う何かになる可能性を秘めた作品だと思っています。それがいいのか、悪いのか、どれぐらいの大きさのものなのかはわからないけれど、僕自身は伴明監督が撮る映画で、最初から最後までずっと出演している大当たりの役をいただいたと思っています。
(江口由美)
 

<作品情報>
『「桐島です」』
2025年 日本 105分 
監督:高橋伴明 脚本:梶原阿貴、⾼橋伴明
出演:毎熊克哉
奥野瑛太 北⾹那 原⽥喧太 ⼭中聡 影⼭祐⼦ テイ龍進 嶺豪⼀ 和⽥庵
伊藤佳範 宇乃徹 ⻑村航希 海空 安藤瞳 咲耶 ⻑尾和宏
趙珉和 松本勝 秋庭賢二 佐藤寿保 ダーティ⼯藤
⽩川和⼦ 下元史朗 甲本雅裕
⾼橋惠⼦
2025年7月4日(金)よりなんばパークスシネマ、MOVIX京都、MOVIXあまがさき、イオンシネマ和歌山、京都シネマ、7月5日(土)より第七藝術劇場、元町映画館にて公開
 
公式サイト→https://kirishimadesu.com/
©北の丸プロダクション
 


higan-550.jpg

 

韓国映画初登場No.1、19歳未満鑑賞禁止にもかかわらず観客動員数100万人突破の快挙を達成した、<劇薬>サスペンス・スリラー『秘顔-ひがん-』が

6月20日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開いたします

 

消えたはずの婚約者が、鏡の中から覗くのは、

一線を越えた<秘密の顔>。

 

higan-pos.jpg

「格が違う!<19禁>密室スリラー(JoyNews24)」 、「大胆露出、それ以上の衝撃!(StarNews)」、「鏡の後ろに隠された欲望、予測できないエンディング(アン・テジン(『梟-フクロウ-』監督)」と観る者の度肝を抜き、大ヒットを記録した<劇薬>サスペンス・スリラーが禁断のベールを脱ぐ。激しい情愛に溺れる男女と、そのすべてをすぐ“そこ”から見つめる婚約者の3人には〈秘密の顔〉があった。その〈秘密〉が剥がされるたびに、どんでん返しが連続する予測不能のストーリーに心をつかまれ、生々しくもエレガントなエロティシズムに息をのむ――。


出演は「エデンの東」ソン・スンホン、『パラサイト 半地下の家族』チョ・ヨジョン、「財閥 x 刑事」パク・ジヒョン。心ゆさぶる体当たりの演技合戦、格調高いクラシック音楽、そして深い闇さえも美しい映像表現が、欲望の螺旋の果てに待つ<超劇的>クライマックスへと観客を誘う。すべての纏が剥がされたとき、私たちの見ている世界は一変する―。
 



キム・デウ監督「感情のIMAX体験ができる映画です」


時代とジャンルを超えて独自のスタイルを確立してきたキム・デウ監督が、本作で再び人間関係と心理を深く掘り下げ、驚くべき演出力を見せた。映画『春香秘伝 The Servant』で朝鮮時代の古典小説「春香伝」を再解釈したキム・デウ監督は、古典を新たに蘇らせたストーリーテリングと大胆な演出、美しい映像表現で観客の支持を獲得。続く『情愛中毒』では、ソン・スンホンを起用し、1960年代のベトナム戦争後を舞台に抑圧された欲望と禁断の愛を描き、高ぶる緊張感とビジュアルの美しさを両立してジャンル映画の巨匠としての地位を確立した。作品ごとに新たな視点と挑戦を試みるキム・デウ作品は、常に社会通念を揺るがしながら本能的で原始的な感情を掘り下げ、観客に深い余韻を残す。10年ぶりの監督復帰作となった本作は、観客の好奇心を刺激する異色の密室スリラー。ソンジン(ソン・スンホン)とスヨン(チョ・ヨジョン)、ミジュ(パク・ジヒョン)の秘密と抑圧された感情の衝突を繊細に描いたキム・デウ監督は、「人に言えない秘密は誰にでもあるものだ」と語る。「所有したい、という欲望同士が衝突することはよくあるもの。今回は、秘密がさらなる秘密を呼び、ぶつかり合ったらどうなるかと考えた。魂や本能の暗い道筋を描いてみたかった」と製作経緯について明らかにした。


higan-500-1.jpg本作と以前のキム・デウ監督作品との違いについて、「以前は、コミカルさを入れたり表現したいと思っていましたが、今回はそういった部分がない、密度のある真剣で内的な作品を作ってみたかったんです」とし、各キャラクターについては「互いに持っている好意や善意だけではなく、反転を繰り返し、ある意図と欲望が互いに交差し瞬間的に決定されていくことで、人間というものは良い人も悪い人もいなくなるのです。こういったことを、作品を通して表現したかった。俳優たちは、私の意見を本当によく聞いてくれましたが、そんな彼らに投影したかったのは、善悪が不明な人物でした。またそういった人物を演じたという記憶を持っていて欲しかったんです」と、本作で表現したかった人間性についてあげながら答えた。


風変わりな密室スリラーを描くうえで神経を使った点は「まず、熟練していて経験豊富なヘッドスタッフたちと仕事をすることに重きを置きました。各々に十分な自律権を与えながら私が何か細かく指示するというよりかは、彼らがすでにディテールに富んでいましたので、彼らの助けを沢山もらわないと、と思いました。撮影、美術、音楽を担当した監督には本当に細やかさを要求しましたね。それを十分に表現してもらえるよう私の役割は、環境を保証することでした」という。


higan-500-2.jpgこの点について主演のソン・スンホンも「『情愛中毒』の時よりもさらにディテールに焦点を当てていましたね。簡単なセリフ一つにしても、何十回も撮りました。映画を観ていただくとソンジンというキャラクターは、僕が今まで演じてきたキャラクターとは一味違うと感じられると思います。僕自身凄く期待しています。監督との間には信頼関係があるので、とても幸せな時間でした」とした。


ソン・スンホンとは2回目、チョ・ヨジョンとは3回目となるタッグだが、それについては「二人とも、永遠に色褪せない俳優です。人々に対していつも謙虚で、演技者として自分を持っていて、活力があって、二人と一緒ならどんな難しい課題も簡単に解決できる俳優です」と絶賛。


最後に観客に向けて「オーディオに本当に気を使いました。携帯よりも、劇場の巨大なサウンドで視覚的衝撃や経験をしていただきたいです。とてもいい経験になると自信を持って言えます。あなたは感情のIMAX体験をするでしょう」と語った。



併せて公開まで1週間を控え、ソン・スンホン×チョ・ヨジョン×パク・ジヒョンよりコメント動画が到着!

「『秘顔-ひがん-』の公開まであと1週間です。皆さん、たくさん期待してください!公開を心待ちにしている日本の観客の皆さま、こんにちは。あと1週間で公開されますが、ぜひ劇場にお越しになって面白い設定とストーリーを体感してください。映画館でお会いしましょう!」とした。

▶キャストコメント映像YOUTUBE:https://youtu.be/L9aW9xqNa5s
 


【STORY】

婚約者が消えた。残された手がかりは、「あなたと過ごせて幸せだった」というビデオメッセージだけ――。

将来有望な指揮者ソンジンは、オーケストラのチェリストでもある婚約者スヨンの失踪に動揺していた。喪失感に苦しむなか、ソンジンは公演のためにチェリスト代理のミジュと対面する。スヨンの代わりはいないと考えていたソンジンだったが、言葉にしがたいミジュの魅力にたちまち惹かれていった。大雨の夜、ソンジンとミジュは、スヨンのいない寝室で許されない過ちを犯す。しかし、欲望のままに求め合う2人を失踪したはずのスヨンがすぐ<そこ>で覗いていた―
 

監督:キム・デウ『情愛中毒』 
出演:ソン・スンホン「エデンの東」  チョ・ヨジョン『パラサイト 半地下の家族』  パク・ジヒョン「財閥 x 刑事」
2024年/韓国/115分/1:2ユニビジョン/カラー/5.1ch/字幕翻訳: 田村 麻美/原題:히든페이스/R18
© 2024 [STUDIO&NEW, SOLAIRE PARTNERS LLC]. All Rights Reserved.
配給:シンカ/ショウゲート 
公式サイト:https://synca.jp/higan/

2025年6月20日(金)~新宿ピカデリーほか全国公開


(オフィシャル・レポートより)

IMG_2873.jpg
 
 安倍晋三元首相銃撃犯を描いた『REVOLUTION+1』の足立正生監督が、半世紀に及ぶ逃亡の末、病室で自身の名前を明かし、4日後に末期がんで亡くなった東アジア反日武装戦線「さそり」の元メンバー・桐島聡の半生を映画化。古舘寛治主演の『逃走』が、2025年4月4日(金)より京都シネマ、4月5日(土)よりシネ・ヌーヴォ、第七藝術劇場、元町映画館にて公開される。
 本作の足立正生監督に、お話を伺った。
 
 
main1.JPG

 

■「なぜ桐島聡はわざわざ本名を名乗ったのか」を考え続けて

――――足立監督は、桐島聡が指名手配された70年代当時、どのような印象を持っていたのですか?
足立:75年〜78年にかけて、自分たちが大きく敗北した問題を総括しなければ先に進めないので、先に進めるために東アジアの同志たちに来てもらったりしていたのです。ですから桐島君という名前は聞いたこともなかった。しかも海外にいたものだから、彼に対して何の知識もない状態でした。東アジア反日武装戦線の人たちは、その世代だけでなく、一世代上の僕らの運動の仕方を毛嫌いしていました。そこには組織官僚主義への反発や、新左翼のイデオロギー風言論への反発があったのでしょう。でも、この映画を作り終わり、新宿に飲みに行ったら、そこで「足立さん、やっぱりこの映画作ったね。だって、昔、何度も一緒にここで酒飲んでいたじゃない」と言われ、こちらがえっ!と驚いた(笑)それぐらい、桐島君と認識すらしていなかったし、何のイメージもなかったです。
 
――――2024年1月に入院患者が、自分が桐島聡だと名乗り出たというニュースを聞いた時はどうでしたか?
足立:(2000年に)強制送還されて日本に戻ってきたら、警察は何か知っているだろうと推測して「桐島、向こうに行ってるんだろ?」と。逆に「桐島って誰だ?」と聞き返しましたが、それが桐島聡という名前を聞いた最初でした。それから長く時が過ぎ、病床で死にかかっている男が「桐島聡」という本名を名乗ったと知り、まさにガン!ときた。ショックでしたね。名乗らないまま死ぬことで逃走貫徹になるわけですから、なぜ今、わざわざ本名を名乗るのか。とても考えさせられました。
 
 
tousousub5.jpg

 

■逃げる闘いを続ける人へのメッセージではないか

――――桐島さんが名乗り出てから、何度もその理由を考え続けておられたんですね。
足立:色んな思いを整理して結論づけてみたのは、桐島が本名を名乗るのは、いわゆる自己顕示欲では全くない。わざわざ名乗ることで逃走のレベルをもう一つ上の段階に引き上げる“闘い”にしようとした。自分の逃げる闘いの表現を、自分の死をメディアにしてメッセージにしたのではないか。すでに死んだ仲間や逮捕された仲間、さらに言えば、全共闘以降、1万人ぐらいが逃走していると言われています。大半は既に時効が成立していますが、そのような逃げる闘いを自分と同じように続ける人たちへのメッセージなんです。桐島自身が「俺、頑張ったよ」というだけではなく、おそらく仲間や逃げている人たちに頑張ってほしいというメッセージだし、桐島が最後の自分の死をメディアにして、表現を実現したのなら、映画というメディアを持っている我々がそれに応えないでどうする!と思った。それがこの映画を作った根拠です。
 
――――名乗り出るまでは、本当に孤独な闘いでした。
足立:桐島は逃げているというより、地下活動を継続していたのでしょう。桐島みたいに徹底して友人、知人や支援する団体とコンタクトを取ることなく逃げ切るという、この研ぎ澄ました感じは相当苦労が要るわけです。その辛さの中で磨いていたからこそ、最後に本名を名乗るところを推測しながら(脚本を)書けたのです。
 
加えて言えば、東アジア反日武装戦線“狼”部隊の大道寺将司は死刑判決を受け(のち獄中で病死)、たくさんの死傷者を出した敗北的なミスについての贖罪を延々と俳句で詠んできましたが、その中には自分たちが闘おうとした意思がぬぐいきれずに溜まっていた気持ちを詠んだものもありました。その句集を桐島が読み、自分ならどうするのかと考えた末の本名を名乗るという決断ではないかと考え、大道寺の俳句に影響を受けたであろうということも、桐島の真意を推測判断する根拠にしました。
 
――――半世紀にわたる桐島の人生を描くため、色々調べる中で新たに発見したことは?
足立:大枠の人物像はありましたが、それよりも非常に純粋で、モラリスティックで、一直線にバンドをやったと思えば、連続企業爆破のキャンペーン闘争に入っていき、そのまま逃げるという闘争をやっていた。考えていた以上に、人のいい青年が歳を重ねて老けていく中でも人々に愛されるような大人になっていったということが、リサーチした中でさらに明確になったことでしたね。
 
 
tousousub9.jpg

 

■若い頃の桐島役に入れ込んでいた杉田雷麟

――――笑顔の指名手配写真が非常に印象的でしたが、若い頃の桐島を演じた杉田雷麟さんは風貌も非常に似ていました。
足立:杉田君自身がこの役に入れ込んでいて、桐島本人になっているような気分だったのではないかな。若さがほとばしる一直線でイキイキした感じがないと成立しない映画なので、杉田君は良くやってくれたという感じがありますね。
 
――――チラシでは「最期の4日」と書かれていましたが、実際は逃走前から逃走直後の数年間の若き日を杉田さんが、まさに若さほとばしる感じで演じていましたね。
足立:宇賀神寿一と二人で彼のアパートへ逃げた後、指名手配写真が出回っていたことから、実際には宇賀神が桐島の逃走前に彼の髪を切っているんですよ。それではあまりにも出来過ぎだったので、映画では桐島が自分で切るシーンになりましたが、結局二人は神社で待ち合わせを決めたものの会うことができず「僕がしてあげられたのは髪を切ったことだけだった」と。映画パンフレット用に宇賀神寿一と、大地の牙の浴田由紀子と鼎談をしたとき、本人が語っていましたね。
 
 

tousoumain2.jpg

 

■中年以降の桐島を演じた古舘寛治

――――本作の主役である中年以降の桐島を演じた古舘寛治さんのキャスティングについて教えてください。
足立:たくさんの候補の中から絞り込み、最後の2〜3人になったときに古舘さんの写真を見たら「もう桐島がいるじゃないか!」と。それですぐにオファーしました。古舘さんは最初、僕を警戒していたみたいですが。
 
――――古舘さんは深田監督作品でも知られる演技派俳優ですが、目立たないように生きてきた桐島の雰囲気がよく出ていましたね。
足立:出しゃばらない感じや、突き飛ばされてもひっくり返らないようなしぶとさがちゃんと混在して、桐島という人物が実在した感じが出ている。古舘さんはちゃんと人物像を整理してくれたと思うし、できるだけ芝居をしないようにという共通認識を持って演じてもらいました。自分のやりたいようにト書きやセリフを変えていいと言ったら、最初から最後まで真っ赤に書き込みをしてくるから「全部書き直してるじゃないか」というと、「赤く書いている部分を全部足立さんに聞いてから、判断しようと思います」と言われて。結局セッションをして全部解決したり、なかなか楽しかったですよ。
 
――――死の間際まで演じておられ、俳優冥利に尽きる役だったのでは?
足立:長セリフもあるし、自分の分身である坊主との禅問答など大変だったと思いますが、古舘さんも楽しくやっていたと思いますよ。「こんなに詰めた撮影をされるのは初めてだ」と言っていましたが。彼のスケジュールに合わせ、10日間の撮影だったので「余裕じゃないか」と言ったら、(古舘さんは)怒ってましたね(笑)。
 
――――映画の中で特にしっかり見せようと思ったシーンは?
足立:最期の4日間という時間のくくりの中でまとめなければ、3時間ぐらいの映画になってしまう。だからそのくくりの中で、現実の桐島は死ぬ間際に病室のベットにいるだけの姿なのですが、その全ての過去を回想し、妄想して思いを馳せながら本名を名乗るところに帰結していく。妄想の側から回想シーンや病室の現実シーンを見るという編集にしたいというのが僕の要求で、ある人が「妄想、回想、現実がポップに編集されているから、しんどくなかった」と感想をくれたけれど、そういう編集にしているから当然なんです。
 
 
tousousub11.jpg

 

■ラッキーを呼び込んでいた桐島の人となり

――――70年代、履歴書や自分を証明するものを提示しなくても、住み込みで雇ってもらう様子や、桐島の人生を通じて日本社会の変遷も映し出していますね。
足立:高度成長期でしたから、履歴書は全く関係なかったし、特に日雇い仕事には底辺労働者が群れをなしていた。よくて山谷や釜ヶ崎、もっと悲惨な寄せ場もたくさんありました。桐島たちも大学を追い出されてから山谷に入りますが、そこで仕事をすると目立つので他の手配所から仕事を得ていたんです。その後藤沢に流れ着いて38年間過ごします。大規模工事をするような土建会社ではないとか、桐島が原則的にやればやるほど、ラッキーを呼び込むようなところがありましたね。
 
――――変な欲を出さない限り、平穏な暮らしを続けられる人物だったと?
足立:自分より随分若い女性に惚れられることがあっても、自分が逃亡者でいずれ迷惑をかけるので「結婚できない」と自制する部分も桐島にはありました。何よりも最期に今まで貯めてきた250万の現金を病院に持っていき、自分の入院費を支払っているんです。一事が万事。そのエピソードに彼の性格が象徴されていますよ。
 
――――阪神淡路大震災など、逃走の間日本で起きた歴史的な事象も挿入していますね。
足立:桐島は逃げているだけですが、同時にキャンペーン闘争をまだ続けたいと思っているので、時代の動きが彼には生々しく伝わってくるんですよ。それなのに何もできない、何もやれないという気持ちが積み重なった49年間なのです。ただ、のっぺらぼうに過ぎたわけではない。日々逃げるしんどさはあるけれど、逆にこれはどうするのという感じは、僕も多少わかるんです。その切なさの中で、宇賀神の亡霊が「切ない、苦しい闘いでも幸せはある。お前やってみてくれないか」と言います。あんな無責任なセリフは誰にも書けないですよ。でも僕は、ぜひ宇賀神にそれを言わせたかった。
 
 

tousoumain3.jpg

 

■現代の閉塞感との共通性を捉え、桐島世代の人々の生き様がもう一度広く論議されれば

――――桐島に対する映画でのアンサーだとおっしゃっていましたが、実際に映画が完成してのお気持ちは?
足立:所詮、自分でイメージした桐島しか描けないので、できるだけリサーチしたものを反映して俳優に演じてもらうことで突き放していくというプロセスを取って作りました。試写を終わって、身につまされて泣いて出てくる同時代の方もいらっしゃるし、若い方には現代の閉塞感との共通性を捉えてもらえるところまで、見ていただければもう言うことはないですね。
 
――――高橋伴明監督も「桐島です」を作られていますが、足立監督と同時期にお二人が桐島聡の映画を作って公開するということにも、大きな意味を感じますね。
足立:最初はもう一人、桐島聡の映画を撮ろうと考えていた人がいたんですよ。それぐらい彼が本名を名乗ったことで高い関心が寄せられていたし、高橋伴明さんは桐島と同世代だから余計にそうでしょう。映画が公開された後で、桐島像や桐島世代の人々の生き様がもう一度広く論議されたり、捉え直されたりすればいいのではないかと思います。
(江口由美)
 

 
<作品情報>
『逃走』
2025年 日本 114分 
脚本・監督:足立正生 
出演:古舘寛治
杉田雷麟  タモト清嵐 吉岡睦雄 松浦祐也 川瀬陽太 足立智充  中村映里子
2025年4月4日(金)より京都シネマ、4月5日(土)よりシネ・ヌーヴォ、第七藝術劇場、元町映画館にて公開
4月5日(土)にシネ・ヌーヴォ、京都シネマ、4月6日(日)に第七藝術劇場、元町映画館にて足立正生監督、中村映里子さんの舞台挨拶あり(予定)
公式サイト:kirishima-tousou.com
(C) 「逃走」制作プロジェクト2025
 

激しく、美しく、破滅的 心揺さぶるラブ・サスペンス

femme-logo.jpg

「現実に生きるキャラクターたちの葛藤と生存の物語を描きたかった」


ネイサン・スチュワート=ジャレットとジョージ・マッケイW主演で贈る、心揺さぶるラブ・サスペンス『FEMME フェム』が、3月28日(金)より新宿シネマカリテほか全国公開となります。


FEMME_poster.jpgナイトクラブのステージで観客を魅了するドラァグクイーン、ジュールズ。ある夜、ステージを終えた彼は、タトゥーだらけの男プレストンと出会う。だが、その出会いは突然、憎悪に満ちた暴力へと変わり、ジュールズの心と体には深い傷が刻まれる。舞台を降り孤独な日々を送りながら、彼は痛みと向き合い続けていた。数ヶ月後、偶然立ち寄ったゲイサウナでジュールズはプレストンと再会。ドラァグ姿ではない彼を、プレストンは気づかぬまま誘う。かつて憎悪に駆られジュールズを襲った男が、実は自身のセクシュアリティを隠していたことを知ったジュールズ。彼はその矛盾を暴き、復讐を果たすため、密会の様子を記録しようと計画する。ところが、密会を重ねるたび、プレストンの暴力的な仮面の奥にある脆さと葛藤が浮かび上がる。プレストンの本質に触れるたび、ジュールズの心にもまた説明のつかない感情が芽生え始める。待ち受けるのは復讐か、それとも──。

 

ベルリン国際映画祭で初披露され、英国インディペンデント映画賞で11部門ノミネートされるなど、賞レースを賑わせた。主演には『キャンディマン』のネイサン・スチュワート=ジャレット、最新作『けものがいる』が日本公開を控えるジョージ・マッケイ。差別的な動機による暴力で心身に深い傷を負ったドラァグパフォーマーが、自らを襲撃した男と危うい駆け引きの渦に引き込まれていく。支配と服従が交錯する先に待つのは、復讐か、それとも赦しか──。


本作のメガホンをとったサム・H・フリーマンとン・チュンピンからコメントが到着しました。
 

Femme_sub06.jpg

『FEMME フェム』の発端となったのは、ネオノワール・スリラーというジャンルに根付く「ハイパー・マスキュリニティ(過剰な男らしさ)」の概念を覆したいという思いから始まった。私たちはこのジャンルを愛しているが、そこにクィアな視点が欠落していることを以前から感じていた。そこで、リベンジ・スリラーの中心にクィアの主人公を据えることで、新たな価値観を提示できると考えた。


しかし、制作が進むにつれ、本作は単なる復讐劇にとどまらず、セクシュアリティ、マスキュリニティ(男らしさ)、家父長制、アイデンティティといったテーマを深く掘り下げる物語へと発展していった。私たち自身の経験や恐怖、怒りを見つめ直すことで、よりリアルで観客に共鳴する物語が形作られたのだ。


Femme_sub01.jpg最終的に、この映画は「ドラァグ」そのものについての物語だと確信した。ジュールズが纏うフェミニンな「ドラァグ」はもちろん、本作に登場するすべてのキャラクターが何らかの「ドラァグ」を纏い、それを通じて自らの力や社会的地位を築いていることに気づいたからだ。本作は、その仮面が剥がれたときに生じる変化を描いている。


また、映画の道徳的な枠組みに縛られることなく、善人が正しい道を歩み、悪人が報いを受ける──そんな単純な構造ではない、現実に生きるキャラクターたちの葛藤と生存の物語を描きたかった。この映画を作ることは、私たち自身にとってもエキサイティングで、カタルシスをもたらす経験となった。観客の皆さんにも、ぜひこの旅に加わってもらいたい。
 

観る者の心をかき乱すラブ・サスペンスの傑作『FEMME フェム』は、3/28(金)より新宿シネマカリテ、テアトル梅田、アップリンク京都、シネ・リーブル神戸 ほか全国公開。


STORY誘惑こそ復讐

Femme_main-550.jpgのサムネイル画像

ヘイトクライムの標的にされたドラァグクイーンのジュールズは、自分を襲ったグループの一人プレストンとゲイサウナで顔を合わせる。性的指向をひた隠しにしているプレストンに復讐するチャンスを得たジュールズは、巧みに彼に接近していくが、徐々に説明のつかない感情が芽生え始める。待ち受けるのは復讐か、それとも──。


監督・脚本:サム・H・フリーマン、ン・チュンピン 
製作:ヘイリー・ウィリアムズ&ディミトリス・ビルビリス 
撮影:ジェームズ・ローズ 編集:セリーナ・マッカーサー
出演:ネイサン・スチュワート=ジャレット、ジョージ・マッケイ、アーロン・ヘファーナン、ジョン・マクリー、アシャ・リード
2023年/イギリス/英語/98分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
原題:FEMME/字幕翻訳:平井かおり/映倫R18+
配給:クロックワークス
© British Broadcasting Corporation and Agile Femme Limited 2022   
公式サイト:https://klockworx.com/movies/femme/

2025年3月28日(金)~新宿シネマカリテ、テアトル梅田、アップリンク京都、シネ・リーブル神戸 ほか全国公開。


(オフィシャル・レポートより)

月別 アーカイブ