『クリーピー 偽りの隣人』 黒沢清監督インタビュー
(2016年6月8日(水)堂島ホテルにて)
『クリーピー 偽りの隣人』
■2016年 日本 2時間10分
■原作:前川裕(『クリーピー 偽りの隣人』光文社文庫刊)
■監督・脚本:黒沢清 共同脚本:池田千尋
■出演:西島秀俊 竹内結子 川口春奈 東出昌大 香川照之 / 藤野涼子 戸田昌宏 馬場徹 最所美咲 笹野高史
■公開:2016年6月18日(土)~全国ロードショー
■コピーライト:(C)2016「クリーピー」製作委員会
■作品紹介:http://cineref.com/review/2016/05/post-668.html
■舞台挨拶:http://cineref.com/report/2016/06/creepy.html
■公式サイト:http://creepy-movie.com
黒沢清監督の話題のサスペンス・スリラー『クリーピー 偽りの隣人』が完成、6月18日公開を前に8日、監督が大阪・北区のホテルでPR会見を行った。
――― 前川裕氏の原作だが、かなり脚色している?
原作読んでとても面白かった。だけど、長くて複雑で、このままやると5時間ぐらいの映画になってしまう。前半部分の“隣が怪しい”という本筋をもとに脚色しました。(原作の)前川さんも映画好きな方で、脚色に賛成してもらいました。都市と郊外の境目辺りに邪悪な何かが棲息している、そこだけに絞った。
――― ご近所関係の希薄さという社会現象?
神戸市内の生まれなので都会は知っている。普通に挨拶はして顔見知りだが、それ以上は何も分からない。たいがい、それで問題ないけれど、よく考えると、邪悪なことが人知れず起ってもおかしくない。近年も、いくつか似たような事件が本当にあった。原作も実際の事件を元に書かれている。
――― キャラクターも変えている?
無理やり変える意図はなかったが、物語を作り直していく過程でボク好みになったかな。香川(照之)さんとはこの映画でチャレンジすることを約束した。分かりやすい悪ではない。悪の象徴でもない。モラルや法律に縛られない自由奔放な男。昔で言えば織田信長みたいな、映画なら適当に自由に生きている植木等かな。うまくやれば世間で大成功するタイプ。香川さんも“よく分かる。そういう人、いる”、と言ってくれました。
――― 対照的に高倉(西島秀俊)は地味で受け身タイプ?
大学教授は頭はいいけどあまり行動的ではない。それだと物語を引っ張ってくれないので元刑事にした。ただ、一直線で脇が甘いので隣の西野につけこまれる。信頼出来るように見えるけど、穴だらけで危うい。そこが面白い。ハリウッドならハリソン・フォードですね。
――― 高倉の妻・康子がずいぶん重要になるが?
脚本を書いてるうちに康子がどんどん大きくなってきた。物語の要になるのは康子ですね。ダメもとで竹内結子さんに頼んだら、引き受けてもらえて助かりました。
――― これまではオリジナルものが多くて原作ものは少なかったが?
確かに…。実は『トウキョウソナタ』(08年)のあと仕事が来なくなった。自分では中国の歴史ものなどを企画していたが、ちょっと映画化しにくく、ものにならずで、もう撮れなくなるかと思った。そんな時にWOWOWの連続ドラマ『贖罪』の話がきた。テレビだから軽い気持ちでやったらこれが案外うまくいき、原作ものも意外にいいな、と思った。
――― 黒沢監督と言えばホラー、代名詞にもなっている。映画で怖がらせるコツは企業秘密?
コツはあります。“怖いですよ”と分かりやすくすると怖くなくなる。怖いか、怖くないか、どっちか、ギリギリまで引っ張っていくのが本当に怖いんですよ。『クリーピー~』ではお隣が怪しい、と普通の家をだんだん怖くしていく。玄関開けて、廊下が見えて、しかし特に何も起こらない。そんなはずはないと観客が身構えてくれれば成功です。スリラーは好きですが、ユーレイや化け物が出て脅かす訳じゃない。犯罪が発覚していく過程が怖いんです。
――― 黒沢監督は早くから海外に進出して、非常に評価が高い。それは方針だったのか?
私の場合は『CURE』('97年)からですね。この頃、北野武監督や塚本晋也監督たちが認められて、日本ブームが起こった。大島渚監督や今村昌平監督らに続く日本映画の新しい世代が出てきた、という感じで注目された。私もその流れの中に乗った、というところでしょうか。海外メディアでは今の世界の映画は、ジャンル的な映画か、作家的な映画に分かれる。自分で言うのも何ですが『両方を兼ね備えるのは珍しい』と評価して頂いています。
――― となると、次の映画が注目されるが?
ええ、次の映画は『クリーピー ~ 』より前に撮った映画でフランス、ベルギー、日本合作の『ダゲレオタイプの女』で、すでに出来上がってます。オール外国人キャストで、全編フランス語の異色作です。
◆『クリーピー 偽りの隣人』
日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した前川裕の原作小説を、名匠・黒沢清監督が映画化したサスペンス・スリラー。犯罪心理学者の高倉(西島秀俊)が、刑事の野上(東出昌大)から6年前に起きた一家失踪事件の分析を頼まれる。だが、事件唯一の生き残りである長女・早紀(川口春名)の記憶は頼りない。一方、高倉の妻・康子(竹内結子)は引っ越し先の隣人・西野(香川照之)の奇妙な言動に翻弄され、その中学生の娘・澪(藤野涼子)の言葉に驚く。それは異常な事件の幕開けだった…。
■公開:2016年6月18日(土)~全国ロードショー
◆黒沢清監督プロフィール
1955年7月19日、兵庫県生まれ。立教大学在学中から8㍉映画を撮り始め、88年『スウィートホーム』で商業映画デビュー。97年『CURE』で世界的な注目を集め、以後『人間合格』(98年)、『大いなる幻影』(99年)、『カリスマ』(99年)が国内外で高く評価される。『回路』(00年)はカンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞。日本、オランダ、香港合作『トウキョウソナタ』(08年)ではカンヌ国際映画祭「ある視点部門」審査員賞とアジア・フィルム・アワード作品賞を受賞した。近年は『リアル~完全なる首長竜の日~』(13年)、『Seventh Code』(13年)、『岸辺の旅』(14年)などでも海外映画祭で受賞している。
(安永 五郎)