杉野希妃、最新主演作の見どころ&復帰後の心境を語る
『3泊4日、5時の鐘』記者会見&インタビュー
~作品の中の誰かに共感したり、反発したりするうちに自分を見つめ直せる「ミラーボール」のような映画~
日本を代表する名匠小津安二郎監督の定宿・茅ヶ崎館を中心として描かれる、ちょっと大人の青春群像劇『3泊4日、5時の鐘』。新鋭、三澤拓哉監督が脚本も担当し、長編デビューを果たした本作は、4月に北京で開催された第5回北京国際映画祭で注目未来部門、最優秀脚本賞を受賞しただけでなく、続々と海外映画祭出品が決定している。日本でも9月から東京で公開され、杉野希妃をはじめ、『花宵道中』の演技も記憶に残る小篠恵奈、キム・ギドク監督最新作『STOP』で主演を務め、今後更なる活躍が期待される青年団の堀夏子、本作でスクリーンデビューを果たした新星、福島珠理と4人の女たちの火花散るリアルな女子トークや、思いを寄せる男性とのすれ違いぶりが共感を呼んでいる。
9月末に大阪、シネ・ヌーヴォXで開催された記者会見では、今冬、ロッテルダム国際映画祭来訪時の交通事故で長期療養中だった本作の主演兼エグゼクティブプロデューサーの杉野希妃が、約9カ月ぶりに報道陣の前に姿を見せ、記者からの質問に笑顔で答えた。シネ・ヌーヴォは、大阪アジアン映画祭2011で主演兼プロデュース作『歓待』を上映して以来、映画祭や新作公開の際必ず訪れていた、杉野にとってはまさにホームのような場所。冒頭の挨拶では、杉野も記者団も感極まって涙が混じる一幕もあった。
記者会見後の単独インタビューでは、『3泊4日、5時の鐘』についてのお話だけでなく、復帰した今だからこそ明かせる入院中の心境、そして今後の抱負をざっくばらんにお聞かせいただいた。その内容をご紹介したい。
<記者会見>
━━━復帰した現在の心境をお聞かせください。
見慣れた顔が揃っていらっしゃるので、それだけで目が潤んでしまいました。東京でも感傷的になることはなかったのですが、大阪はホームなのだと改めて思いました。本当に表舞台に立つことができるのか、事故後一カ月ぐらいは分からなかったので、今日はこのように記者会見の時間をいただけて、本当にうれしいです。ありがとうございます。
━━━『3泊4日、5時の鐘』について、制作の経緯を教えてください。
監督の三澤くんは、2012年から私のアシスタントとして活動しています。私の初監督作『マンガ肉と僕』では制作を、2作目の『欲動』では助監督を、短編の『少年の夢』ではプロデューサーを務めてくれました。『欲動』撮影の直後、「日本映画大学を卒業する前に一本、私の会社(和エンタテイメント)で監督作を作ってみてはどうか」と私から声をかけました。そこから三澤くんがプロットを書き、一緒に作った作品が『3泊4日、5時の鐘』です。ロッテルダム映画祭に到着した日に『3泊4日、5時の鐘』の舞台挨拶をし、その直後に交通事故に遭ったので、この作品には色々な思いが入り交じっています。日本の公開を迎えて嬉しいです。
━━━杉野さんの今までのイメージを逆手にとったようなキャラクターが非常に面白かったです。三澤監督と一緒に作り上げていったとのことですが、どの程度ご自身を分析して、キャラクターに反映させているのでしょうか?
私は、いつも様々なキャラクターを演じるとき、自分のようであり、でも自分とは違うと感じています。本作の真紀はジェットコースターのようなキャラクターだったので、悩むというより、「こんな時に、こんな感情が湧くのか」とどこか客観的に思いながら、楽しんで演じることができました。脚本に関しては、キャラクターを増やして物語を肉付けしたり、台詞についてのアドバイスなどは私も一緒に行いました。ただ、基本的には三澤くんの観察力や女性に対する目線が、全面的に反映されていると思います。
━━━トランプや卓球など、オーソドックスな遊びをする中でそれぞれの思いを交差させる演出が光りましたが、どのような意図で取り入れたのでしょうか。
卓球は、ピンポン玉の打ち合いから人間関係がどう変わっていくかを描くために、どうしても取り入れたかったそうです。三澤くんの中に「積み重ねていく」「ペア探し」というモチーフがあり、トランプや、遺跡を発掘するシーンなどで、そのイメージを反映させています。
━━━以前のインタビューで、三澤監督は「ご当地映画みたいに、その場所だけで終わってしまう作品にはしたくないという思いがあった」と語っておられましたが、企画段階でどのような話し合いをされたのですか?
ある監督の言葉で印象的だったのが、「ローカルを描けば描くほど、ユニバーサルになる」。まさにその通りだと思います。深田監督の『歓待』は、東京の下町を舞台に、ローカルなものを描いたからこそ、ユニバーサルなものが生まれたという感覚が私自身の中にあります。この『3泊4日、5時の鐘』も、非常にローカルなことを描いていますが、地元の方も、海外の方も楽しめる作品にしたいという気持ちがありました。現在、海外の映画祭に招かれていますが、それは作品を受け入れていただけた結果と捉えています。
━━━プロデューサーや女優、時には監督と一人で様々な役割をこなしていますが、仕事の違いや、特に気を付けていることはありますか?
自分の中では、特に違うことをしている感覚はありません。私は2008年頃からプロデュースの仕事を始めたのですが、経験のない中、女優業と兼務だったので、周りからは怪訝な顔で見られることも多かったです。ですから、私よりも年下世代の人たちには、一緒に映画を学び、作っていける場を提供していけたらと考えています。私は、まだまだ肉体を使って表現していきたいので、自分がプロデュースに入っていなくても、女優として作品に参加したいですし、逆に女優として出演せず、監督だけに専念することもいずれあるかもしれません。色々なことに挑戦していきたいですね。
━━━これからご覧になる皆さんに、どう観ていただきたいですか?
自分が作った映画に関して「こういう風に観てほしい」という考えは、一切ありません。逆にみなさんが、全然違うことを考えて下さった方が面白いのではないでしょうか。『3泊4日、5時の鐘』はミラーボールのような映画だと思っています。作品の中の誰かに共感したり、反発したりするうちに、それが自分に跳ね返り、「私ってこういう人間なのかな」「こういう面があると思っていたけれど、違うのかも」と見つめなおすことができるのではないでしょうか。男性からしてみたら女は怖いと思うかもしれませんし、ガールズトークの話のネタにできます。お酒のつまみになりそうな映画ですね。
<インタビュー>
━━━三澤監督は、脚本も初めての作品となりますが、杉野さんはかなり評価されていたのですね。
2012年から三澤くんとは一緒に仕事をし、色々な作品の脚本を見てもらったり、企画段階から参加してもらい意見を聞いていました。20代とは思えない映画の知識量の豊富さや、モノの見方の鋭さを持っていますし、観察力も非常に優れています。真面目な好青年ですが、少し斜めからモノをみているような発言もするので、監督として絶対いいものを作ることができるという直感が私の中にありました。彼は元々プロデューサー志望だったのですが、ウディ・アレンが好きだと言っていたので、「自分で出演し、監督もすればいいじゃない」とずっと話していました。今回は初監督作品なので、演出に集中し、出演は控えたようですが。
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━━━三澤監督と同じく、本作で映画初出演を果たし、杉野さんのように女優兼プロデューサーの道を目指している福島珠理さんへ、何かアドバイスはありますか?
色んな困難はあるかもしれませんが、めげずに本当に頑張ってほしいですね。自分自身の中にある固定観念や、周りにある固定観念もどんどん取っ払っていきたいという思いがありますので、福島さんのような若い世代から作り手にも演じ手にもなりたいという人が出てくることで、日本映画界の風通しも良くなる気がします。
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━━━今回の杉野さん演じる真紀は、一生懸命すぎるところが逆に空回りする、コメディエンヌ的要素のあり、今までにない魅力がありました。
脚本を読んだときに、ジェットコースターみたいな感情の起伏が激しい性格で、変わり者だなと思いましたが、どこか共感できる部分もあり魅力を感じました。真面目で一生懸命なところがいつも空回りしていて、後から客観的に見ると痛々しさが笑えますね。(大阪アジアン映画祭のQ&Aで一生懸命すぎる真紀に共感したという声が挙がっていたという話を聞き)それは、とてもうれしいです!
━━━仕事に復帰するまでの半年間は、復帰した今から思うと長かったですか?
入院している間は長いなと思っていましたが、今から思うと短かったような気もします。入院中は、色々な方からお手紙をいただいたり、メールをいただいたりし、今まで感じていなかったような感情が湧いてきました。そして、空っぽの言葉と心からの言葉の違いにもより敏感になりました。今後は言葉一つにしても、自分の気持ちに素直になり、自分の心と言葉を一体化させるような作業を丁寧に行っていきたいです。
━━━映画制作の現場を離れている間は、映画と客観的に向き合う時間にもなったのではないかと思いますが、これから撮りたい作品ややりたいことに変化が起きましたか?
当初は、また表舞台に立てるかどうか分からないという絶望感があったのですが、色々考えても、改めて「映画と心中したい」と思いました。寝たきりの時はベッド上で撮影が可能なお話を、車椅子の時は車椅子で可能なキャラクターを考えたり…。どうやったらその時の状況下で映画作りや演技ができるのか考えていましたが、考えている内に体はどんどん回復していきました。今まではがむしゃらに映画を作ってきた訳です。ただ、映画とは向き合ってきたけれど、一番重要な自分とは向き合ってこなかった。今回思わぬ時間が与えられたことで、映画と向き合うだけでなく、自分とも向き合えました。
━━━なるほど、自分自身と向き合い、映画への思いを再確認されたのですね。
私たちは「生きるも死ぬも表裏一体」という曖昧な中で、生きています。だから、誰も見たことのないものを見たいし、誰も解読できないことを映画制作しながら探っていきたい。それが、自分の表現方法なのだと思い知らされました。答えがすでにある上で映画を作るという方法は、私には向いていません。むしろ、宇宙の不思議を探る研究者のような感覚で、映画に接している気がします。
━━━「映画制作をしながら探る」という杉野さんのスタンスは、過去作品を思い返しても頷けます。療養生活を経た今、映画で描きたいことや実現させたいアイデアはありますか?
入院中は音楽が印象的な、死にまつわる作品にも数多く触れながら、生と死のはざまのミュージカルのようなものを私なりに描いてみたいという思いが強まりました。今まで私が手がけたものは、人間の感情や社会問題をえぐり出すような作品が多く、あまりキラキラしたものは描いていません。何かのはざまにいるからこそ輝くようなものを作ってみたい。色々な国の方が出演するような無国籍のミュージカルも、いつか実現させたいです。
(江口由美)
<作品紹介>
『3泊4日、5時の鐘』
(2014年 日本 1時間29分)
監督:三澤拓哉
出演:小篠恵奈、杉野希妃、堀夏子、福島珠理、中崎敏、二階堂智、栁俊太郎
2015年10月31日(土)~シネ・ヌーヴォ、11月21日(土)~元町映画館、京都みなみ会館他全国順次公開
<ストーリー>
花梨(小篠恵奈)と真紀(杉野希妃)は休暇を取り、茅ヶ崎の老舗旅館・茅ヶ崎館に訪れる。元同僚で同館の長女でもある理沙(堀夏子)の結婚パーティーに出席するのが目的だったが、花梨は茅ヶ崎館でバイトする大学生、知春(中崎敏)にちょっかいを出す一方、生真面目な性格の真紀とは衝突してばかり。花梨のせいで予定を狂わされ、腹ただしさを隠せなかった真紀だが、大学時代のゼミの教授、近藤(二階堂智)と偶然再会し、気分が高まっていく。近藤ゼミのゼミ長を務める彩子(福島珠理)は、同じゼミの知春に思いを寄せる一方、仲良さそうにしている花梨のことが気にかかって仕方がない。理沙の弟の宏太(栁俊太郎)も加わった男女7人の関係が、次第に絡まりあっていくのだったが・・・。