『赤鉛筆、青鉛筆』 ジュゼッペ・ピッチョーニ監督トーク《イタリア映画祭2013》
(Il rosso e il blu 2012年 98分)
監督:ジュゼッペ・ピッチョーニ (Giuseppe Piccioni)
出演:マルゲリータ・ブイ、リッカルド・スカマルチョ、ロベルト・エルリッカ
(大阪では、5/12(日)11:00~上映)
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~教育現場に射す一条の光を求めて~
若き教師ジョヴァンニは、臨時教員としてローマの高校に赴任する。そこには、「教育は学校の中だけでいい。」というクールなジュリアーナ校長と、「未熟なままでも卒業させる。困るのは本人だ。」と教育への情熱を失い、学校そのものに幻滅を感じているベテランのフィオリート先生がいた。この3人の教師が出会う生徒たちの変化によって、失いかけていた教育への希望を見出していく。出席日数が足りない女子生徒や、親に見捨てられ転校を余儀なくされる男子生徒、かつて聴き逃した授業を大人になってから聴きにくる生徒、授業中ふざけてばかりいる生徒など、どこの国にでもいるような問題を抱えた生徒たち。そして混乱した教育現場で悪戦苦闘する教師たちの様子が、3人の教師を照合しながら味わい深く描出されている。
この3人の教師を演じた俳優たちがまた凄い!『もうひとつの世界』『イタリア的、恋愛マニュアル』『素晴らしき存在』などで定評のあるベテラン女優:マルゲリータ・ブイがクールなジュリアーナ校長を、『西のエデン』『あしたのパスタはアルデンテ』『昼下がり、ローマの恋』などでキラキラ輝く瞳で魅了するリッカルド・スカマルチョが新人教師を、イタリア演劇界の至宝と呼ばれるロベルト・エルリッカが知的人生を否定しながらも希望を見出していくベテラン教師を演じて、それぞれ存在感を示して爽やかな印象で締めくくっている。教育現場の問題だけをクローズアップして描くのではなく、教師の立場から、人と人とのつながりを優しく見つめたジュゼッペ・ピッチョーニ監督ならではの職人技が光る作品だ。
(河田 真喜子)
――― はじめに。
監督:日本へはしばしば来ております。この映画祭も5回目です。本日はお出で下さいましてありがとうございます。この映画はイタリアの高校を舞台にしておりますが、教師と生徒に焦点を当てて描きました。フランソワ・トリフォーの格言「現実をありのままに伝えよ」の通り、イタリアが抱える問題の一部を悲劇的に捉えず、喜劇的にごくシンプルに捉えたつもりです。
――― イタリアの学校や生徒の状況が抱える問題は日本と似ているのでは?
学校を舞台にしておりますが、退学、無知、信頼できない教師など、教師や生徒の問題をリストアップするつもりで作った訳ではありません。知識を授ける者、授かる者との関係を描きたかったのです。私が問題提起したかったのは、「若者を信じよう。教育はまだ何かできるはずだ!」ということです。
学校の外で起きるネガティブな事でも、学校で何か手を差し伸べられるのでは?と。先生と生徒の関係について描きたかったのです。ディケンズ作品に出てくるような過去を背負って生きている存在の年老いた先生は、高貴なイメージだが現実に失望しています。彼の皮肉はファウストのようで、今までの知識は何の役にも立たなかったという、まさに今の教育の現状を表現しているのです。
――― それでもまだ学校に希望があると信じたいです。
まだ希望は消えていません。ジュリアーノ校長が、親に見捨てられ他の高校へ転向して行った生徒を訪ねるシーンで、「何を持ってきたの?」と聞かれ、かつては「馴れ馴れしく言わないで」と言っていた彼女が、嬉しそうにバッグの中を見せようとします……そこでカメラはパンして終わります。それは、「教師は学校の中だけで生徒に構えばいい」とか、「子供は要らない」とか言っていたクールな校長自身の変化を象徴しています。彼女がその生徒に持ってきたのは「希望」なんです。今後も彼を見守っていくことでしょう。それが大人の役目であり責任でもあるのです。かつての生徒が老先生の「古典主義とロマン主義」の授業を聴きに来ます。まだ学校教育も何か出来るのではないか?それを描くのが映画の義務なのではないかと考えます。
――― 先生も生徒も意図せずに何かを探していたのですか?ソフィアのペンの意味は?
そうですね~二重構造になっているのが映画の秘めたる魅力です。皆さんが独自に解釈していくものです。私の意図は、若い先生と老先生は合せ鏡のような関係にあり、若い情熱を持って教育現場に入って来て、疲れ果てて出ていくのです。
お気付きでしょうか?最初のナレーションで、老先生が「これが私の姿だ。かつては情熱を持っていた。」と語ります。若い教師に反感を持ちながら、同時に興味を持っていたのです。情熱のある若い教師だって間違いを犯します。先生も生徒も皆何かを探し求めているのです。最初は確信を持っていたが、絶望、楽観、厳格な規則、混沌とした世界が彼らの確信を揺るがすのです。生徒たちの中の多様性や無秩序がそうなんです。大人が知恵を授けるだけではなく、生徒が学ぶためには「人を笑わせるのも知性の活路なんだ」というセリフのように、お互いを求めあって成長する場が、学校なんです。
――― 『もうひとつの世界』が6月に公開されますが・・・?
13年前に発表した作品なんですが、公開して下さって感謝しています。
作品の中の言葉で、自分たちを捨てた母親を探しているが、「なぜこの娘はシスターになった?」「神はいると仮定したとしても、祈り過ぎなのでは?」「愛し過ぎることなしに、人を愛したことにならない」。この映画は、二人の人間がリミットを超えて愛する映画です。
【『Viva!イタリア』上映のお知らせ】
上映作品『ハートの問題』『最後のキス』『もうひとつの世界』
- 2013年6月29日(土)~7月19(金)⇒ヒューマントラストシネマ有楽町
- 2013年8月開催予定⇒テアトル梅田