『藁の楯 わらのたて』完成披露試写会舞台挨拶レポート
(2013年3月15日(金)梅田ブルク7にて)
登壇者:大沢たかお、三池崇史監督
WARA NO TATE (2013年 日本 2時間05分)
原作:木内一裕「藁の楯」(講談社文庫刊)
監督:三池崇史
出演:大沢たかお、松嶋菜々子、岸谷五朗、伊武雅刀、永山絢斗、余貴美子、 藤原竜也、 山﨑努
2013年04月26日(金)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ 他全国ロードショー
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★大沢たかお・藤原竜也 舞台挨拶(4/16)⇒ こちら
★公式サイト⇒ www.waranotate.jp
©木内一裕/講談社 ©2013映画「藁の楯」製作委員会
~SP大沢たかおvsモンスター藤原竜也、正義を貫くサバイバル~
今日本で最も多忙を極める三池崇史監督。時代劇やハードアクションがあるかと思えばアニメの実写版があったり、果てまたミュージカルやスプラッターものがあったり、多種多様な世界を映画化して楽しませてくれる。スピーディで迫力ある映像に魅了される映画ファンも多いと思うが、業界内、とりわけ俳優陣の信頼が厚く、出演希望者も多いという。今回の大沢たかおとの初タッグは、ファンならずとも待望のコラボレーションとなった。
昨年の『終の信託』での有無を言わさぬ検事役に続き、今年の『ストロベリーナイト』では竹内結子扮する刑事相手に情熱を秘めたクールさで魅了していた大沢たかお。本作でも、「いい人、優しい人」というソフトイメージを払拭した毅然とした男らしさで情感をぶつける演技に、スケールアップした新たな大沢たかおの魅力を堪能することができる。
今回は、残忍な殺人鬼を護送するという使命を課せられたSPを、松嶋菜々子と共に演じている。松嶋奈々子は、射撃・格闘術・語学堪能、あらゆる面で男性より勝るというSPを、ぼさぼさ頭にすっぴんといういでたちで挑んでいる。TVドラマ『家政婦のミタ』同様、淡々と使命を遂行する姿は、彼女の長身が活かされ、実にカッコいい! 一方、残忍な犯罪者を演じた藤原竜也もまた不気味さを漂わせている。大沢たかおとは対称的な役柄を、ストイックなまでに自分を追い込んだ演技で、その存在感だけで恐怖を感じさせるほどだ。
映画化は不可能とされてきた原作を、名古屋市の絶大な協力と、台湾まで行って撮った新幹線のシーンなど、不可能に挑戦し続けた結果完成した本作。大沢たかおという今最も注目を集める俳優をさらにグレードアップさせた三池組。その成果は、スクリーンをはみ出すほどの迫力と強烈な個性を発揮した俳優陣の熱演にも現れている。是非映画館でお楽しみ頂きたい。
4月26日(金)の公開を前に、劇場関係者だけの業務試写が行われ、そこに2日間で日本全国を回る弾丸キャンペーンの一環で、大沢たかおと三池崇史監督が来阪し、舞台挨拶を行った。
――― 最初のご挨拶を。
大沢:本日は映画を見て頂いてどうもありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。
三池:今日はありがとうございます。もう見てもらった後なので、ウソも言えないしどうすりゃいいんだ!?(笑) 去年の夏、自分たちの限界を超えて一所懸命作った映画なので、一人でも多くの人に見てもらいたいと思います。どうかお力添えをお願いいたします。
――― 昨年の夏1か月半に渡り、名古屋や台湾などで撮影されましたが、印象に残ったことは?
大沢:全て印象に残っているのですが、とにかく暑かった! ひとつひとつのシーンで、普段の汗をそのまま映像に乗せて、個人的な感情や状況がすべてリンクしているような感じでした。
三池:長く映画製作をしていると、この原作を読んでも映画化は無理だろうと考えるのが普通。「高速道路は止められないし、新幹線貸してくれないし、まあ無理でしょうね」と。そのために私鉄に変えたり、高速道路に入る前に事件が起き、一般道路に逃げる道など、“撮影の常識”に対する挑戦状でした。そこから逃げる訳にいかないので、原作に忠実にやろうと思って台湾まで行って撮影しました。行く先々で撮影が困難を極める中いろんな人の協力を得て、何とかここまで来れたこと自体が印象的です。
――― キャラクター作りの演出プランを立てるのに、原作から意識したことは?
三池:そもそも原作はハードボイル。SPがとんでもない怪物のような犯罪者を守るという。これを映画化するにあたって、生身の人間が演じるわけですから、SPだって家庭があったり、個人の事情や年齢やコンディションもあり、仕事としてそれを貫こうとしている。犯罪者の方も悪魔ではなく、誰しも自分の子供には自分の個性を大事に好きなように生きろと願うように、たまたまそういう趣向があっただけかもしれない。ルールとしての法律と人間としての欠陥があることをそれぞれに背負ってもらって、ハードボイルとしてではなく、人間ドラマになればと思ったのです。
――― 主人公の銘苅(めかり)をどのように考えて演じたのですか?
大沢:基本的には、SPをただのスーパーヒーローではなく、実際のSPの所作で、マインドを持つ人間を演じようと思いました。現場にSPの方に入ってもらって、監修してもらいながら、細かく丁寧に演じることができました。
――― 松嶋さんとの共演は?
大沢:なりふり構わず、男の中で対等で居たというか、変に気を遣うこともなく、いい意味で男性的でとても仕事をしやすい素晴らしい女優さんでした。
三池:大体女優さんは大物になると、スタッフとしては気を遣うのですが・・・「暑い」、「まだかしら」、「こんな衣裳なの?」とかね(笑)。でも、そのような距離感が大女優として輝くためには必要なことなんです。それを松嶋さんは超越して、今回SPということでノーメークに近かったので、どんな風に映っているか気になるはずですが、撮影が終わってもモニターを覗くこともしなかったですね。
――― 強烈にどぎつい清丸役の藤原竜也さんについては?
三池:彼はそもそもそういう感じの人(笑)。TVや映画などでいい人を演じているけど、清丸を演じるために生まれてきたような人なんです(笑)。それは冗談ですが、彼の中にも人との違いを強烈にアピールすると社会から排除されるという感覚を持っている。役者はいろんな役を演じる訳だから、毎日自分に正直に問いかけているので、彼なりにきちんと清丸像を創り上げていました。それは原作とは少し違うのですが、犯罪のシーンがないので清丸の異常な残忍性は藤原君の存在感だけで示す必要があったのです。普段とは違う現場を楽しんでいました。
――― 藤原さんとは初共演でしたが?
大沢:凄く役に集中していて、それでいて嫌味がなく、いつも綺麗な空気が流れているようでした。でも芝居になるとスッと清丸役に入れる。同じ作品を作る同志として信頼できるし、一緒に仕事ができてとても楽しかったです。
――― 去年『終の信託』では検事役を、今回SP役ということで、法治国家日本の正義を象徴するような存在感のある演技でしたが、特に意識したことはありますか?今回は射撃シーンが多く、上腕部を鍛えられたとか?
大沢:射撃シーンがあるから上腕部を鍛えるということはなかったです(笑)。でもSPの所作とか、銃を構えたり撃ったりするのが浮き足立って変になってはいけないと考えていました。それは松嶋さんも同じですが、拳銃を抜いてから構えて戻すまでというのを、家でも練習していました。何回繰り返しても難しいんですよ。ハードボイルだからといって特に意識することはなかったですね。後は監督に任せていました。現場に入っただけで異常な緊迫感があり、それだけで自然と役に入っていけましたね。
――― 三池監督、大沢さん、お互いの印象は?
大沢:僕たち俳優の中で三池監督はとても有名で、殆どの人が一緒に仕事をしたいと思い、さらに再度仕事したいと思えるような方です。僕はそういう経験を味わえずに俳優人生を送ってきて、今回この作品が初めてなので、どういう人かよく分からず、写真で見る限り目つきが怖いなと。でもお会いして、監督としてと言うより、人として魅力的な方だなと思いました。現場はこんなにも楽しいものかと、映画を作っていることをこんなにも楽しませてくれるのかと感心しました。撮影は大変だったのですが、誰も嫌な顔をせず、愚痴もこぼさず、全員が同じ方向を向いているのが素晴らしかった。そういう空気を作っている監督って、ホント凄い人なんだなと思いました。言葉でも説明できるし、自ら演じて表現されるし、とても助かりました。迷った時には、表情の雰囲気も作って示して下さり、それを参考にして演じることができました。毎日新しい発見があり、ドキドキしました。
三池:大沢さんは、このように言ってくれる優しい人です(笑)。自分の内面に厳しい人ですが、周りに余計なプレッシャーを与えてしまうのでそれを全く見せない。ずっと自分を押し殺して、ある一瞬で爆発させることがあっても、一歩引いて、役者としての自分を冷静に見ている目がある。普通はのめり込むと客観的に見られなくなって自己完結してしまうが、いろんな現場でいろんな監督と経験を積んだ人しか持てない視点を持っている人だなと思った。僕自身びっくりすることが何度かありました。
――― 最後のご挨拶を。
大沢:これからキャンペーンで全国を回りますが、すでに作品は皆さんのものになっています。皆さんのお力をお借りして、ひとりでも多くの方に見て頂きたいと思っています。どうかよろしくお願いいたします。
三池:同じです(笑)。スタッフ・キャストがひとつになって作り上げました。普段やれないことや諦めていたことを何とか作り上げた作品ですので、これが興行的に成功すれば、これからの日本映画を変えていける力になると思います。どうかよろしくお願いいたします。
いつもだったら、三池節炸裂トークに爆笑して終了するところだが、今回は少し違う雰囲気だった。今回の舞台挨拶ではプレス記者からの質問も可能で、大沢たかおさんにひとつ質問をしてみたら、目を見て丁寧に答えてくれた。その目力(めぢから)に耐え切れず、途中何度か下を向いてはメモするフリをしてしまった。質問した本人は勿論だが、その様子があまりにも美しくて、その場にいた女性陣の心を捉えたことは言うまでもない。『ストロベリーナイト』で竹内結子と初めて出会うシーンを彷彿とさせる息をのむほどの魅力に、皆が酔いしれた。
(河田 真喜子)