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2025年1月アーカイブ

現 役 AI エンジニアである下向拓生監督の最新作

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AI裁判を題材にした前作『センターライン』 (2019)にて、国内映画祭 9 冠及びサンフランシスコインディペンデント映画祭・審査員賞、ロンドン国際フィルムメイカー映画祭・最優秀編集賞、および、芸術文化選奨新人賞を受賞し、自身も現役AIエンジニアである下向拓生監督の最新作 『INTER::FACE 知能機械犯罪公訴部』が1月10日(金)に初日を迎え、翌1月11日に公開記念舞台挨拶を池袋HUMAXシネマズシネマにて実施いたしました。


■実施日時:1月10日(土)15:30の回上映終了後(16:55~17:15)

■実施場所:池袋HUMAXシネマズシネマ シネマ2

■登壇者:下向拓生監督、吉見茉莉奈、大山真絵子、合田純奈、澤谷一輝、平井夏貴(MC)


《以下レポート全文》

AIの“殺意”を立証する裁判の行方を3部作で描く近未来サスペンス映画『INTER::FACE 知能機械犯罪公訴部』の第1話「ペルソナ」の公開を記念して、1月11日(土)に東京・池袋の池袋HUMAXシネマズにて舞台挨拶が開催。下向拓生監督、主演の吉見茉莉奈、大山真絵子、合田純奈、澤谷一輝が登壇した。


INTERFACE-bu-下向監督1.JPG本作は2017年に公開された『センターライン』の続編となるが、下向監督は「(『センターライン』の)最後に“To Be Continued”と入れたんですけど、その時は全然、続編を作ると決めてなかったんです。『続きが見たければ応援してね』という思いを込めて入れさせてもらったんですが、そうしたら『(続編は)いつ上映するんですか?』と言ってもらうことが多くて『これは作らねばあかんな!』と思い、6年をかけてお届けすることができました」と続編公開にいたるまでの経緯を明かす。


主人公の米子検事を演じた吉見さんは「実は、『センターライン』を撮影した時、私は映画の経験がほとんどなかったんですが、撮影して公開されて、いろんな方に嬉しい言葉を掛けていただいて、『続編を作りたい』という話は下向監督とずっとしていました。念願かなって続編を撮影することになって、(『センターライン』撮影)当時は未熟な部分が多かったという反省点もあったので、“リベンジ”という裏テーマを掲げて、『いま演じるなら、米子検事も自分も成長しているはずなのでこう演じたい』と胸に秘めて演じました!」と今回の続編三部作への強い思いを口にする。


INTERFACE-550.jpg知犯部のドジな庶務・阿倍野を演じた大山さんは、「下向さんやよしみん(=吉見さん)とは、映画祭で『センターライン』が上映されてる時に出会って『またやるんですか? 出してください!』という話をしてたんです。同い年だし、仲良くなっておこうと(笑)。そうしたら『次作をやります』というご連絡をいただけて『やったー!』と思ったんですけど、こんなかわいらしい阿倍野という役をやらせていただけるとは思っていなかったです」と本作への出演の喜びを語る。セリフには専門用語も多く、苦労があったようで阿倍野さんは「難しい言葉ばかりで『?』となってました」と苦笑い。下向監督から「知能機械犯罪公訴部って言えなかったですもんね(笑)?」といじられると「メチャクチャNG出してました。すみません(苦笑)」と明かし笑いを誘っていた。


澤谷さんはアプリ開発者の役に加えて、米子が着用するしゃべる検察官バッジの“テンちゃん”の声も担当しているが、実は普段は名古屋を拠点に声楽家として活動し、オペラやミュージカルに出演しており、本作が映画初出演。「最初はアプリ開発者の役だけって話で、(撮影が終了して)『終わった!よかった!』と思っていたら、再度連絡があって『テンちゃんの声を入れてほしい』と(笑)。大丈夫かな? 思いつつやらせていただきました」と振り返る。下向監督は、これまで面識のなかった澤谷さんの起用について「声が特徴的で素敵だなと思って、声だけでも出てもらいたいなと思いました」と明かした。


ちなみに、テンちゃんの声は撮影終了後に収録されているので、撮影時には現場はテンちゃんの声はない状態だったが、吉見さんは「(澤谷さんが担当すると)知らなくて、映画を観て澤谷さんの声で『えー!?』ってなりました。現場ではテンちゃんの声が男か女かもわからなかったので…」と述懐。大山さんも「(誰がやるのか)決まってないのにテンちゃんのシーンが多かったので、スタッフも含めて一丸になって、みんなで代役をやっていました」と現場の様子を説明してくれた。


合田さんは自死した山田佳奈江という女性の人格と外見をコピーしたAIである“AIカナエ”を演じたが「前作の『センターライン』と私のデビュー作の『カメラを止めるな!』の公開時期が近くて名前は知っていたんですが、拝見しておらず、今回お話をいただいて拝見して『この世界に入るんだ!?』とワクワクしました。『どんな役ですか?』と聞いたら『AIです』と言われまして…。私のイメージだとすらっとした人間離れした人というイメージだったので『私で大丈夫ですか?』と思ったんですが、脚本を読んで『こういうことか! どうすればいいんだ…?』と。生身の人間でやるということで、ロボットの動きを研究しながらやらせてもらいました」と振り返る。


完成した映画のAIカナエを見た人の中には、CGなのではないか? と思う人も多いそうだが、合田さんは「そう思ってもらえたら嬉しいです! 撮影監督のおうちにグリーンバックを張って、(体の向きをスムーズに動かすために)ダイエット器具に乗って……めちゃくちゃアナログな撮影でした(笑)」と意外な撮影の様子を明かしてくれた。


INTERFACE-bu-吉見さん4.JPG撮影はかなりタイトなスケジュールだったようで、吉見さんは「三部作で1話、2話、3話と(順撮りで)撮影しましたと言いたいところですが……低予算の作品で、しかも監督は長野に住んでサラリーマンをしてるので、ゴールデンウィークやシルバーウィークにためた有給をくっつけて時間を確保して、2週間ずつに分けて撮りました」と明かす。当然、効率よく撮影するために、同じ場所のシーンはまとめて撮影することになり「執務室のシーンも今日は第1話で明日は第3話みたいな感じで、同じ日の午前は第1話で午後は第3話みたいなこともあって『いま、何の事件の捜査してるんだっけ?』と大混乱しながらなんとか撮りきりました」とキャスト、スタッフ一丸となっての苦難の撮影の日々を振り返った。


ちなみに、この日の舞台挨拶のMCを務めた平井夏貴は、1月24日公開の“歌詞生成AI”を題材とした第2話「名前のない詩」に出演しており、さらに2月7日には“贈収賄”をテーマにした第3話「faith」も公開となる。下向監督は苦労を重ねつつ三部作という形式にした理由について「前作の『センターライン』を何度も観ていただいたという方も多くて、嬉しい反面、新しい物語を届けたいなという思いがありました」と説明。「(2話、3話と)毛色の違う作品になっておりますので、ぜひお越しください!」と呼びかけた。


【STORY】『INTER::FACE 知能機械犯罪公訴部』

個人の趣味嗜好を学習した分身AI(デジタルツイン)が普及した平成39年。
AIを被告人として起訴可能とする法律が施行され、知能機械犯罪公訴部に配属された新任検事 米子天々音。
米子の相棒となる、 喋る検察官バッジ“テン”、少々ドジな庶務“阿倍野”と出会い、ともにAI犯罪事件の捜査を開始する・・・。


【キャスト】
吉見茉莉奈 大山真絵子 入江崇史 澤谷一輝 大前りょうすけ / 津田寛治
合田純奈 冥鳴ひまり(VOICEVOX)
松林慎司 みやたに 長屋和彰 荻下英樹 星能豊 南久松真奈 青山悦子 小林周平 中山琉貴 小松原康平 アビルゲン 松村光陽 辻瀬まぶき 澤真希 涼夏 美南宏樹 藤原未砂希 平井夏貴 長屋和彰 松本高士 香取剛 星能豊 松林慎司 もりとみ舞 橋口侑佳 長坂真智子 井上八千代 原田大輔 小川真桜

【スタッフ】
監督・脚本・編集:下向拓生
撮影監督:名倉健郎 撮影:名倉健郎 山縣幸雄 水島圭輔 照明:水島圭輔 
録音:風間健太 ひらつかかつじ   合成協力:山縣昌雄
スタイリスト:SHIKI ヘアメイク:伊藤佳南子 
美術:酒井拓人 スチル:内田綾乃 岡本ミヤビ 
音楽:髙木亮志 劇中歌:ワスレナ 小野優樹 青地徹 
エンジニア:平崎真澄
制作:美南宏樹 松田将大郎 倉橋健 村瀬裕志 涼夏 
法律監修:弁護士 鈴木成公 
衣装協力:国島株式会社  
名古屋空撮映像協力:前原桂太 宣伝デザイン:大井佳名子
ロケーション協力:いちのみやフィルムコミッション
岡崎市観光推進課 旧本多忠次邸 東海愛知新聞社
日本陶磁器センター 料亭菊水
知多半島フィルムコミッション 南知多ビーチランド 津島市シティプロモーション課
製作:Production MOZU / NAGURA TEAM
配給:サンタバーバラ・ピクチャーズ 制作年:2022年
公式HP:interface2027.com
クレジット:©2025 INTERFACE

2025年1月10日(金)より池袋HUMAXシネマズシネマ、TOHOシネマズなんば、松本シネマライツほか全国絶賛公開中


(オフィシャル・レポートより)

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 『心の傷を癒すということ 劇場版』(2021)を契機に、港町・神戸から世界へ響く映像作品を届けるため立ち上げられた「ミナトスタジオ」の船出作品で、神戸で暮らす人びとへの膨大かつ綿密な取材を基に、震災後をリアルに描くオリジナルストーリー『港に灯がともる』が、1月17日(金)よりテアトル梅田、第七藝術劇場、なんばパークスシネマ、シネ・ヌーヴォ、MOVIX堺、MOVIX八尾、MOVIX京都、京都シネマ、キノシネマ神戸国際、シネ・リーブル神戸、MOVIXあまがさき、元町映画館、シネ・ピピア、洲本オリオン他全国公開される。
 本作の安達もじり監督に、お話を伺った。
 

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■安克昌先生の著書と弟、安成洋さんとの出会いがすべてのはじまり

――――前作『心の傷を癒すということ 劇場版』や、モデルとなった安克昌さんとの著書を通じての出会いが、本作に大きく影響していますが、遡ってお話いただけますか。
安達:阪神・淡路大震災発生時、私は京都で暮らしていたので、カイロなどをリュックに詰めて被災地に運び、大変な光景を目の当たりにする一方、対岸の火事を見るような位置にいたことを自分の中で引け目に感じることがありました。
震災のことを自分の経験で描けないとずっと思ってきたし、今でも思っている部分はありますが、本作のプロデューサーでもある京田光広から薦められた安克昌先生の著書「心の傷を癒すということ 神戸…365日」を読むうちに、安先生のことを描いてみたいと強く思うようになりました。安先生は2000年に亡くなられているので、まずは弟の安成洋さんにご著書をもとに安先生の人生をドラマ化させてもらえないかとお願いに行ったことがすべてのはじまりです。安先生のご家族にも本当によくしていただき、2020年にNHKの土曜ドラマ(全4回)『心の傷を癒すということ』を放送することができました。このドラマをもっと色々な人に観ていただき、著書に触れる機会を増やしたいと考えた成洋さんが、1年後の2021年に劇場版として映画化してくださり、今でも全国の学校や自主上映会場で上映が続いています。成洋さんも可能な限り会場へ足を運んで観客との対話を続けていらっしゃいます。
 
――――映画を観た後に対話をすること自体が、ある種のケアになっていますね。
安達:そうですね。成洋さんがそういう活動の意義を感じる中で、「1本で終わるのはもったいない」というお声が多方面から寄せられたそうです。あるとき成洋さんから「震災から30年のタイミングで公開する、心のケアをテーマに、神戸を舞台にした映画を作ってもらえないか」と相談を受けました。成洋さんは本作を作るための会社「ミナトスタジオ」を一人で立ち上げ、その会社から正式に依頼を受け、私がNHKエンタープライズに在籍中に製作しました。
 
 

■30年という時間を通して描こうとしたことは?

――――完全オリジナル作品ですから何を取っ掛かりにするのか悩まれたのではないですか?
安達:『心の傷を癒すということ』を作ったことで成洋さんを含め様々なご縁が繋がっていったことを大事にしたかったし、原点となった安先生の著書を改めて紐解きながら、震災30年で描くべきことは何かを考えました。安先生が書かれているように「街はどんどん復興していくけれど、心の傷は簡単に癒えるものではない」ということを、30年という時間を通して描けないか。30年を見つめるなら、震災の年に生まれた人を主人公にしたら、その人をめぐる様々な人とのやりとりから、多くのことが見えてくるのではないかという仮説を立て、そこから話を考えていきました。
 
――――次は神戸のどこを描くかですね。
安達:一番被害の多かった長田地区は様々なルーツを持つ方が暮らしておられ、震災のときは垣根なく助け合ったという話をお聞きしましたし、丸五市場の雰囲気にも魅了され、ここを物語の核に設定しようと思いました。在日ベトナム人や華僑の方も多くいらっしゃいますが、在日コリアンの方が一番多く住んでおられるし、その歴史が長いので、在日コリアンの家族という設定にしました。また、世代によって悩みが違うとお聞きすると、そういう世代を描くこともキーポイントになり得ると感じました。
 

■世代間の体験や悩みの違いから構想を広げて

――――世代間の体験の差は大きいと思います。
安達:神戸の方とお話していると、ふとした時に「震災前は」とか「震災後」というこう言葉が出てきて、いくつで震災を体験したかも含めて、すごく大きなことだったと感じました。一方で震災後に生まれた人にも取材をすると、中には震災は教科書の中の話だとか、学校で教えられることというお話もある。いつ、どこで、幾つの時に経験するかによって、人というのは考えることや悩みが違うことを改めて感じ、そういう人たちが交差する物語にしていきたいと構想を広げ、最終的には「心のケア」に集約していきました。
 
――――心の傷をずっと抱えたまま生きている人たちの物語を丁寧に描いておられます。
安達:お話を聞いていると震災のことに触れたくない方も当然たくさんいらっしゃいます。ドキュメンタリーで撮ってもカメラの前になかなか出てこないのではないかという感情を大切に描いていきたい。劇映画だからこそ描けることを表現していきたい。そこは今回大事にした部分ですね。
 
 

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■主人公、灯役の富田望生の演出は「神戸で暮らしてみる」

――――今回は震災の1ヶ月後に生まれた灯が主人公ですが、富田望生さんの起用も含めてその狙いを教えてください。
安達:『心の傷を癒すということ』は精神科医の方の目線で描く物語でしたが、今回は心に傷を抱えた人の側から描いてみたいと思い、『心の傷~』の時にお世話になった精神科医の方にご相談しながら、登場人物の感情の流れを作っていきました。3きょうだいの設定ですが、ほんの少し生まれた時期が違ったり、性別や震災を経験したか否かで、それぞれの居住まいが違ってきます。姉の美悠は自分の思いをはっきり言うタイプなのに対し、次女の灯はちょっと家族の状況を一歩引いて見ているような女性なのではないかと思い、台本を作っていきました。
灯が自分のルーツや震災に関わることについて、知るのを避けてきたという設定でしたから、富田さんにはそれらについて事前に勉強することをお願いはしませんでした。一方で撮影の1〜2週間前から神戸に来ていただき、神戸の人と一緒にご飯を食べたり、神戸の人と一緒に日常を過ごしてもらい、灯がどのような空気を吸って生きてきたのかを感じ、体に落とし込んでいただきました。ほぼシーン順の撮影(順撮り)で、灯が30歳になるまでの人生を1ヶ月半ぐらい時間をかけて撮りましたので、灯がどういう場所で、どんな人と出会い、そこで何を感じるかを一つずつ確認しながら、灯のことを一緒に感じて撮っていきました。
 
――――きょうだい間の性格の違いもよく出ていました。震災当時大変だったという話をずっと聞かされてきた灯は家族の中で、迷惑をかけないように気づかずないうちに頑張りすぎていたのではないかと。
安達:灯はとても優しい子だと思うのです。他人の気持ちをすごく受け入れてしまうからこそ拒絶してしまうという彼女の心の機微を富田さんがすごく繊細に演じてくださり、こちらはほとんどその場で演出をすることがなかったぐらいです。富田さんはデビュー作の『ソロモンの偽証』(2015)からずっと拝見しており、素晴らしい芝居をされる方ですし、実際にお会いしてみるとすごく感受性の豊かな方で、繊細でありつつ真っ直ぐなピュアさがあり、いつかご一緒したいと思っていました。灯はすごく難しい役ではありましたが、年齢的にもちょうど当てはまりますし、思い切ってオファーをし、快諾していただけました。
 
――――神戸暮らしをされた富田さんの感想は?
安達:神戸のことをとても好きになっておられました。富田さんにご紹介した神戸の方のお話なども聞き、みなさんが神戸を離れたくない気持ちも伝わっていたみたいです。私の想像ですが、人の温かさの中にも港町ならではのほどよい距離感があり、外から来る人がいて当たり前という文化が形成されているのではないか。だからすごく居心地のいい場所と感じておられた気がします。
 
 

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■「少しだけ歩み寄る」ことの大事さ

――――在日三世の灯と在日二世の父、それぞれの想いがぶつかり合うシーンは、世代間のルーツに対する意識の差やコミュニケーションを取るのが難しい父娘関係という普遍的な問題を見事に映し出していましたね。
安達:在日コリアンの家族を描いたドラマは以前演出したことがあるので、当時も様々な方にお話を伺ってきましたが、今回新たに気づいたことがありました。映画でウクライナから来られた小さいお子さんのいる若いご夫妻に出演していただいたのですが、彼らは当然戦争が終われば母国に帰って子どもを育てたいと思っておられます。一時的に日本に来ただけで、もちろん子どももウクライナ人だという生のお声を聞いたとき、在日一世の方々の話を聞いたときに、わたし自身が昔語りとして聞いていたなと反省もしましたし、そこから在日二世や三世の人の想いも、その人が生きている事に対してちゃんと想像を馳せていかなくてはいけないということを痛感しました。灯も父の生き様にほんの少しですが想いを馳せることができたことで、少しですが父との折り合いをつけることができた。物語はそこで終わりますが、少しだけ歩み寄るという感じがすごく大事だなと、今回作りながら改めて感じました。
 
――――灯が不安に打ちのめされながら、何度も息を整えて父に向き合おうとする姿がとても印象的で、「呼吸」を大事にした作品であることが灯のロングショットからも伺えました。富田さんの芝居を切らない編集にその意気込みを感じたのですが。
安達:台本には「深呼吸をする」と書いてはいましたが、編集する際に富田さんの演じる灯の呼吸がとても繊細に表現されていることに気づき、これはもしかしたら灯がちょっとだけ息ができるようになる物語なのではないかと感じたのです。そこから呼吸を軸に編集し、灯の呼吸をとても大事に扱っていきました。通常なら息を吸って吐いたときをカット点にするのが観客から見ても気持ちいいと思うのですが、今回は息を吸ったところでカットをしたり、細かい作業をたくさんやっていますし、灯が父と口論をしている途中、お手洗いに駆け込んで息を整えるシーンもほとんど切らずに使用しています。
 
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■シンプルに父と娘の物語を紡ぐ

――――在日二世の父は、子ども世代とは違う在日一世の両親の苦労をリアルに見て、感じて来た世代ですが、演じた甲本雅裕さんにはどんな演出をしたのですか?
安達:甲本さんも最初はどうしたらいいのかと身構えていらっしゃるところがあったのですが、わたしからは一つだけ、「お父さんを演じてください」とシンプルなお願いをしました。あくまで父と娘の物語を紡いでいきたいと思っていましたから。
 
――――まさにコミュニケーションが苦手な父と娘が、どのように歩み寄っていくのかが作品を通底する軸ですね。
安達:灯が少しずつ自分と折り合いをつけようとしていく物語ではありますが、その中で父の一雄は本当に変わらない。物語の最後に、灯が少しだけきっかけを与えていると思うのですが、この先変わるかどうかはわからない。そういう生き方をしてきたことが、彼が自分で立って生きていられる唯一の根拠なのではないでしょうか。結局灯と似た者同士だからこそぶつかる一面があると思います。
 

■灯の居場所になった設計事務所のふたり

――――灯の転職先である設計事務所の建築士、青山勝智(山中崇)も心の中にトラウマを持つキャラクターです。コロナ時のビジネスが苦しくなる状況と重ねた描写は、自分のことで手一杯だった灯に大きな影響を与えますね。
安達:普段は明るくて普通に接することができる人でも、何らかの悩みを見えないところで抱えています。青山さんも設計事務所の桃生さんも、灯がこの場所だったら居ることができるという居場所になってくれたふたりですから、彼らの裏にはそれぞれ苦しんできたことがあり、だからこそ灯のしんどさがわかる。そういうことを描けたらと思っていました。青山役の山中崇さんと桃生役の中川わさ美さんがとても素敵に表現して下さいました。最高のおふたりでした。
 
――――設計事務所を通じて丸五市場の再建という案件に灯が携わることになりますが、改めて安達監督が感じた市場の魅力とは?
安達:まずは画になるということに魅力を感じました。最初は丸五市場に入るのにちょっとドキドキしましたが、取材で通ううちに、すごく居心地がいい場所で、気楽に立ち話ができるようになって。この居心地の良さは何なのだろうと考えるうちに、丸五市場はきっと灯にとっても居心地のいい場所になるし、そういう表現にしていきたいと思いました。写真展のシーンは、実際に大勢の方にご協力いただき、写真を提供していただいたのですが、あれだけの丸五市場や長田の昔の写真が集まると、それだけで説得力がありますね。写真展当日のシーンも多数の地元の方に登場していただきました。
 
――――『港に灯がともる』というタイトルについて教えてください。
安達:神戸の街を六甲の方から見下ろすと、山と海がキュッと近いんです。夕方から街に灯がともる様子を見ていると、すごく人が生きている感じがして好きな光景なので、そのままタイトルにしました。
 

■新しい対話が生まれるきっかけに

――――灯のように心の傷を抱えた人も多い中、震災30年の映画であるとともに、心のケアの映画だなと強く感じる作品ですね。
安達:いまだに震災の映画を観ることができないというお声もいただいていた中、震災30年のタイミングで作りましたが、心のケアの物語という入り口で観ていただけたらいいなと思っています。この映画を観たことがきっかけで、少し誰かに自分自身のことを話したくなるなど新しい対話が生まれていけば、そんな幸せなことはありません。
 (江口由美)
 

<作品情報>
『港に灯がともる』
2024年 日本 119分 
監督:安達もじり
出演:富田望生、伊藤万理華、青木柚、山之内すず、中川わさ美、MC NAM、田村健太郎、土村芳、渡辺真起子、山中崇、麻生祐未、甲本雅裕
1月17日(金)よりテアトル梅田、第七藝術劇場、なんばパークスシネマ、シネ・ヌーヴォ、MOVIX堺、MOVIX八尾、MOVIX京都、京都シネマ、キノシネマ神戸国際、シネ・リーブル神戸、MOVIXあまがさき、元町映画館、シネ・ピピア、洲本オリオン他全国公開
公式サイト:https://minatomo117.jp
配給:太秦
(C)Minato Studio 2025.
 

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国連平和維持警察隊「FPU」(フォームド・ポリス・ユニット)の激闘をリアルに映し出す超本格アクション映画『FPU 〜若き勇者たち〜』が、1月10日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開いたします。この度、ワン・イーボーが中国公開時のプレミア上映で語った“過酷なロケ現場”、初日プレゼント情報についてご紹介いたします。


『インファナル・アフェア』の大ヒットメーカー アンドリュー・ラウ製作総指揮!

大ブレイク中の俳優ワン・イーボーとホアン・ジンユーが夢の競演


中韓ボーイズグループUNIQのダンサー&ラッパーとしてデビューし、大ヒット時代劇ドラマ「陳情令」で世界中を虜にしたワン・イーボーが、人命救助に情熱を燃やす青年を熱演。過酷なハードアクションや困難な感情表現を自分のものにし、精悍なビジュアルとハイスペックな身体能力を披露している。さらに、高校生の青春BLドラマ「ハイロイン」の主役で鮮烈なデビューを飾ったホアン・ジンユーが、モデル時代に培った圧倒的オーラでリーダー役を好演。ミリタリーアクションを完璧にやり遂げ、若手トップ俳優の実力を証明した。またチョン・チューシージュー・ヤーウェングー・ジアチェンオウ・ハオなど人気俳優が脇を固める。


国連平和維持警察隊に派遣された中国の軍人が、現地の平和を取り戻すために奮闘する姿を描く本作は、『マトリックス』でキアヌ・リーブスのアクションコーチを担当した武術監督出身のリー・タッチウが監督を務め、VFXに頼らない臨場感のあるアクションを作り出した。さらに、香港映画『インファナル・アフェア』三部作の監督・製作・撮影で知られる巨匠アンドリュー・ラウが製作総指揮に名を連ね、戦場を舞台にした男たちの緊迫した生き様を活写する。臨場感あふれる銃撃戦、疾走感に満ちたカーチェイス、パルクールによる追走劇、ダイナミックな大爆破などド迫力な映像満載なアクション大作に仕上がっている。
 

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「この役が出来て、非常に光栄に思う」「フル装備で動き回るのは大変だった」ワン・イーボーが語る撮影秘話

本作は映画化の準備と撮影に3年以上の歳月を費やし、実際の中国平和維持警察にも取材を敢行したという。ワン・イーボーは「実際に国連平和維持警察隊に参加したことがあるベテランの警察の方を招いて撮影全体を指導してもらったんです。あまり知られていない特殊な警察なので、演じる前に色々と学ぶ必要があった」と語る。警察という職業に対し、ずっと尊敬と親しみの感情をいだいてきたそうで「小さい時から警察が好きでした。今回この国連平和維持警察隊の役ができて、非常に光栄に思います」と映画初主演作に本作を選んだ理由を明かす。また、コロナ禍での撮影ということもあり、広西チワン族自治区北海市に一から大掛かりなセットが建てられ、FPU隊員らしさを身につけるため撮影前から本格的なトレーニングを受けたという。「僕が演じたヤンという役は直接敵と殴り合う様な場面は少なかったのですが、ワイヤーなしで屋根から建物へと飛び移る様なシーンが多く、フル装備で動き回るのは大変でした」と撮影時の苦労を語る。しかし、「この撮影はオールロケだったのですが、出演してくれたアフリカの方々は謳ったり踊ったりするのが大好きで、本当に楽しそうだなと思いました」と語り、過酷な撮影の中にも楽しみを見出して取り組んだ様子がうかがえる。

ワン・イーボーが香港先鋭スタッフの指導のもと、血気盛んなスナイパー役を演じた『FPU 〜若き勇者たち〜』は、1月10日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開。


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初日プレゼント情報!

初日プレゼントでは、青をポイントとしたFPUの制服に身を包んだスナイパー役のワン・イーボーが凛々しく佇むポストカードを先着限定で配布します!制服の胸部分には役名である“ヤン・ジェン”と中国の国旗が誇らしく輝く、ファン必見のレアな姿をぜひ、劇場にて手に入れてほしい。
 


【STORY】我々は英雄ではない。すべき事をしているだけだ。

反政府武装集団と政府軍の武力紛争が続くアフリカの某国へ、国連の要請を受けた中国の国連平和維持警察隊「FPU」が派遣された。チームワークを重んじる分隊長ユー(ホアン・ジンユー)や人一倍正義感が強い狙撃手ヤン(ワン・イーボー)ら精鋭メンバーたちは、一触即発の雰囲気が漂う最も危険なエリアに向かう。大量虐殺、テロ攻撃、暗殺、大暴動、人質事件…。幾度となく危機に直面する彼らだったが、人々に平和な日常を取り戻すため、命がけの任務に邁進する。しかし、ユーとヤンの間にはある因縁があり、その対立は日に日に深まっていた。そんな中、予期せぬ凶悪事件が勃発して・・・。
 

監督:リー・タッチウ 
製作総指揮:アンドリュー・ラウ 
出演:ホアン・ジンユー、ワン・イーボー、チョン・チューシー、オウ・ハオ
2024年/中国映画/中国語/カラー/5.1chデジタル/101分
配給:ハーク 
公式サイト:www.hark3.com/FPU
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2025年1月10日(金)~TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開


(オフィシャル・レポートより)

 

 

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