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「神戸の二つの高校の協力がなければ撮れなかった」『HAPPYEND』の空音央監督、撮影地でエピソードを語る

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 ありえるかもしれない未来を舞台に、高校生の友情の危うさと管理社会への反抗を描いた唯一無二の青春映画、『HAPPYEND』がテアトル梅田、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル神戸、MOVIX京都、MOVIXあまがさき他全国で絶賛上映中だ。
 
 撮影地・神戸にあるシネ・リーブル神戸で上映後に行われた空音央監督の舞台挨拶では、撮影に協力した二つの高校の関係者や生徒も劇場に駆けつけ、撮影時の熱気そのままの感動が押し寄せた。その模様をご紹介したい。
 
―――撮影場所が神戸になった経緯は?
監督:学校がすべてです。神戸工科高等学校、神戸市立科学技術高等学校の二つの高校がなければ撮れなかった作品です。拍手を送りたいです。本当に深いふところで受け入れてくださいました。神戸という街自体も、電車を降りた時から、道で座っていたおじいちゃん、おばあちゃんから手を振られたり、街自体に受け入れられた感覚があります。神戸フィルムオフィスのみなさんも、映画愛や神戸愛がアツく、いろいろな場所を紹介してもらいました。ロケハン中は、神戸の家賃を検索していたぐらい神戸が好きになったので、戻ってこれて本当に嬉しいです。
 
 
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―――昨年夏の撮影していますが、印象的なことは?
監督:本当に暑く、台風が2つぐらい直撃する感じだったのですが、高校の冷房設備を全部取り換えしている時期だったんです。学生のエキストラが多かったので、熱中症だけは気をつけましたが、みなさんのおかげで無事に撮影できました。学校の先生たちもいろいろと動いていただき、ありがとうございました。
 
―――(以降、観客より)表情をクローズアップしている印象をうけたが、心情の変化を撮る上で監督が大事にしていることは?
監督:今回の俳優陣でメインの5人のうち4人が今回初出演で演技未経験でした。キャラクターの似ている人たちが奇跡的にみつかったので、一番気にしていたのは、空想上の設定の中でいかに自分らしくいられるかをワークショップでずっと練習しました。もし映画の設定に自分が置かれたら、どのような反応をするのかをしつこく聞きましたし、一緒に演じている相手にどれだけ集中して自然な反応をえられるかを繰り返しやりました。演技の技術は経験はありませんが、自然体にできていたと思うし、いい表情のときは、本人たちにとっても感情が少し動かされているような状況だったと思います。
 
 
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―――音楽面について、どのようなものにインスピレーションを得て、劇伴を作ったのか?
監督:音楽は本当にこだわりがあり、撮影や音楽を通して重要な核と言えるコンセプトがありました。近未来の設定ですが、ショットの構成の仕方や照明の作り方、音楽の感情を作る際に、彼らが今の僕と同じ33歳ぐらいになったときに、自分の高校時代を思い返すような感覚で撮ろうと決めました。さらに近未来から、近未来を撮りたいと思い、それを踏まえて音楽を作りました。だから楽しいシーンでも必ずしも楽しいものではなく、ちょっと悲しかったり、喧嘩のシーンでも初めて言い合える仲になってよかったねという感じにしたり。物語で実際に彼らが感じているのとちょっと違う視点で考えたので、お客さまから「懐かしい」と言われるのもそこから来ていると思います。僕自身が高校生のころを思い返しながら、脚本を書いているのでそうなっているのかもしれませんが。
 
 
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―――どうして近未来を舞台にしたのか?
監督:発案したきっかけはいくつかあります。大学自体に311(東日本大震災)がきっかけで企業や政府の行動を注意深く追い、様々な本を読んで調べるようになったのです。政治性が芽生えた時期で、当時アメリカでは政治運動がより盛んだったのですが、オキュパイ・ウォールストリート(経済格差の是正などを訴えるウォール街デモ)やブラック・ライヴズ・マター(人種差別抗議運動)があり、その後、トランプが大統領になった激動期にこの作品を発案しました。それと同じ時期に、日本の地震の歴史を調べた結果、衝撃的だったのが1923年に起きた関東大震災と、その際に起きた朝鮮人虐殺という大事件です。その事件を調べていた2014年から15年当時、ヘイトスピーチが大久保で多かったのです。その事象と歴史を見ると、そのときに起きてしまった虐殺の原因となる差別が現代に残っていたのではないかと感じました。東京に戻ったとき、よく言われるのは「30年以内に大地震があるだろう」という話で、差別や植民地主義の歴史に起因する構造的な暴力が反省されないまま、大地震が起きてしまったらどうなるのだろう。そういうことは起こり得るという危機感から未来のことを考え始めたのがこの映画を作りたいと思う衝動の一つです。
 だだ、そのことが書きたいわけではなく、大学時代に体験した友情の決裂の感情や、友人たちと政治性の違いで自分から距離を置いたり、切り離されたりしたのがすごく悲しい出来事として残っており、その感情を描きたかった。歴史的事実を知った危機感と、大学時代の感情が合わさって、この作品ができました。
 
―――タイトルがどんどん変わったそうですが、『HAPPYEND』に落ち着いた理由は?
監督:最初は、この映画を発案するきっかけの自然現象である『地震』と仮につけていたのですが、『地震』はメタファーなので、それが起こすトラウマと本当に向き合っている映画ではないし、本当に地震を体験した人たちに変な印象を与えるのではないかと思っていました。次に『トレモロ』というタイトルにしていた時期もありましたが、映画を観終わったあとにタイトルが出ると、違和感があったのです。50個ぐらいの候補の中でずっと頭の中に『HAPPYEND』ハッピーエンドが残っていました。よく考えてみると、シンプルなフレイズだけど、“HAPPY”が持っている溌剌とした語感と、”END“が持っている終末的な世界観が合わさったとき、映画の一番最後に感じる感情、友情関係は終わってしまうけれど、若者のエネルギーが現れているのではないかと思いました。
 
 
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最後に神戸市立科学技術高等学校の河野彰信校長が、2校を代表して空音央監督に花束を贈呈。河野校長は「物作りをやっている学校なので子どもたちにも刺激になると思い、二つ返事でお受けしました。映画を拝見すると、背景の中でたくさん使っていただき、映画は背景のロケ地が重要な役割を果たしていると感じました」と、今後も撮影協力することを明言。空音央監督も、作品を作る際に参照した資料や、パレスチナ支援窓口が掲載されているスペシャルペーパーを来場者にプレゼントし、「神戸素晴らしかったです」と最後に改めて感謝の言葉で締めくくった。
(江口由美)
 
『HAPPYEND』映画レビューはコチラ
 

 
<作品情報>
『HAPPYEND』
(2024年 日本・アメリカ 114分)
監督・脚本:空音央 
出演:栗原颯人、日高由起刀、林裕太、シナ・ペン、ARAZI、祷キララ、中島歩、矢作マサル、PUSHIM、渡辺真起子、佐野史郎 
テアトル梅田、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル神戸、MOVIX京都、MOVIXあまがさき他全国で絶賛上映中
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