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『HAPPYEND』

 
       

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作品データ
制作年・国 2024年 日本・アメリカ
上映時間 114分
監督 ・脚本:空音央
出演 栗原颯人、日高由起刀、林裕太、シナ・ペン、ARAZI、祷キララ、中島歩、矢作マサル、PUSHIM、渡辺真起子、佐野史郎
公開日、上映劇場 2024年10月4日(月)よりテアトル梅田、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル神戸、MOVIX京都、MOVIXあまがさき他全国ロードショー

 

~共に葛藤し、闘った青春は消えない~

 
 最近、青春映画、特に日本で公開されているメジャー系の青春映画はもう完全に卒業気分で触れる機会が減ってしまったが、普遍的かつ世界に通用する視座と飛躍力、そして映画の魅力を兼ね備えた新時代の青春映画がついに誕生した。監督は、坂本龍一自身が選曲し、最後のピアノ・ソロ演奏を記録した最初で最後の長編コンサート映画『Ryuichi Sakamoto | Opus』の空音央。父の坂本から受け継いだ音楽の遺伝子は、初の長編劇映画となった『HAPPYEND』にも遺憾なく発揮されている。そして、自身がアメリカと東京で育った経験から日本の近未来像を立ち上げ、この業界に染まっていない、まっさらな若い世代たちと共にますます窮屈になっていくこの社会に楔を打つのだ。
 
 
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 今からXX 年後、日本のとある都市の話。大親友のユウタ(栗原颯人)とコウ(日高由起刀)はイツメン五人組で音楽や悪ふざけに興じる日々。高校卒業間近のある晩、いつものようにコウたちとこっそり学校に忍び込んだユウタはとんでもないイタズラを思いつく。翌日、いたずらを発見した校長(佐野史郎)は激怒し、学校に生徒を監視する AI システムを導入し、問題を起こす生徒をその場で減点していく方針を打ち立てる。コウは、在日韓国人という自身のアイデンティティと社会に対する違和感について深く考え、デモに参加するクラスメイトのフミ(祷キララ)と交流するようになる。一方で、コウタは今までと変わらないものの言葉にならない苛立ちを抱えながら、卒業を迎えようとしていた。
 
 
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 冒頭、シンセサイザーの音が重厚に鳴り響いた瞬間、坂本龍一の音楽を思わせ、ハッとさせられる。男子4人に女子1人という構成のイツメン五人組は、さまざまな出自を持ち、性別を超えてフラットにお互いを受け入れ、そして思春期を共に葛藤しながら過ごしている姿がとても清々しい。本作で映画デビューするような新人の多くをメインの五人組として起用しているのに対し、現在の政治に対する不満をぶちまけ、それを変えるために自分たちで動こうとするフミ役に祷キララを起用したところが心憎い。彼女は主演を務めた山﨑樹一郎監督の『やまぶき』(22)でもスタンディングデモを行う高校生を演じており、空監督は、誰もリアルの世界で何も言わない世の中に対するレジスタンスの姿勢を、彼女に込めているのではないかと感じずにはいられない。度々歌われるフォーク歌手、岡林信康の「くそくらえ節」を起用し、あっけらかんと今の社会システムを風刺するなど、骨太な一面を覗かせているのもいい。
 
 

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 コウが誰もいない綺麗なマンションで寝っ転がり、彼を照らす洒落た照明器具が映った次の瞬間、裸電球にショットが切り替わり、そのままユウタの母が営む韓国料理店に舞台が映っていく。多くを語らず、見事な編集とカメラワークで親友ふたりの生きてきた環境の違いを見せるところも印象深い。彼らがいつも一緒に歩き、そして左右に分かれていく歩道橋は、単なる通学路ではなく、人生というもっと長く大きな道の一部のようにも見える。「身の安全」を免罪符にして人は監視され、自然から切り離されていく今、共に学校という権力側に抗い、時には羽目を外して遊んだ仲間たちこそ、これからもずっと信じられる存在なのだ。愛や初恋を語るだけの青春映画と一線を画した、これからの日本を見据えたリアルな青春映画を、ぜひ目撃してほしい。
(江口由美)
 
 

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