日時:2022年11月4日(金)18:30
会場:大阪ステーションシティシネマ 【シアター3】
ゲスト:寺島しのぶさん、豊川悦司さん、瀬尾まなほさん(瀬戸内寂聴さん 秘書)
寺島:「また一緒に仕事できる喜び、縁(えにし)を大切に思える映画」
豊川:「寺島しのぶさんは特別な存在の女優」
昨年99歳で他界した瀬戸内寂聴が53歳で出家するキッカケとなった井上光晴との7年に及ぶ不倫関係を、井上光晴の長女・井上荒野が小説に著した『あちらにいる鬼』が映画化され、11月11 日(金)より全国公開されます。
お互い結婚に辿り着けない関係と知りつつ不倫を重ねる主人公・長内みはるを寺島しのぶが、みはるを始め多くの女性と関係を持っていた奔放な白木篤郎を豊川悦司が、そして夫の放蕩を静観していた白木の妻・笙子を広末涼子が演じています。当時まだ子供だった著者にはこの大人たちがどう見えていたのだろうか。夫の不倫を知りつつ激昂することなく、粛々と夫の原稿を清書し、家庭を守り、夫の不倫の尻ぬぐいまでする妻。当代気鋭の小説家として大人の恋愛にインスピレーションを見出していく二人。高度成長期の昭和という時代を背景に男と女の割り切れない想いを色濃く表現したのは、廣木隆一監督と脚本家の新井晴彦。寺島しのぶと豊川悦司とのコラボも多く、正に熟練の技が魅せる大人の映画となりました。
1週間後の公開を控え、大阪ステーションシティシネマで舞台挨拶が開催され、寺島しのぶさんと豊川悦司さん、そして瀬戸内寂聴さんの秘書をしていた瀬尾まなほさんが登壇。生前の瀬戸内寂聴さんの映画化に対する期待や、寂聴さんを演じた寺島しのぶさんの撮影に臨む想い、そして「難しい役だった」と述懐する豊川悦司の本音などを披露してくれました。
〈詳細は以下の通りです。〉(敬称略)
――最初のご挨拶。
寺島:本日は皆様にお会いできることを、またこの映画を観て頂けることをとても幸せに思っております。本日はどうぞよろしくお願い致します。
豊川:今日はチケット買って頂いてこの映画を観て下さるということで、少し緊張もしますが、いい映画なのでどうぞ最後までお楽しみ下さい。
――今日は朝から大阪で宣伝をされていましたが、如何でしたか?
寺島:今日と明日、お客様に映画を観て頂かないと始まらないので、そのために宣伝させて頂いております。今日はお客様に直接お会いできるとあってとても嬉しく思っております。
豊川:まだ全然街に出ていないので、今日は朝からずっと毎日放送局内で取材を受けておりました。それにしても、大阪駅前の辺りが随分と変わっているのにびっくりしました。あれ?こんなんやったかな~?って。
――オシャレになったでしょう?
豊川:なんか似合わない気もしますが、大阪の街に(笑)。
――寺島さんは大阪の街へは?
寺島:そうですねぇ、松竹座へ伺うことはありますが、遊びで来ることはないですね~。撮影で京都へは来ることはあるのですが、コロナ禍で関西に来る機会も少なくなってしまいました。
――それでは、今日は短い時間ではありますが、大阪を満喫して頂きたいと思います。大阪らしくない大阪駅辺りも…。
寺島:はい、豊川さんに案内して頂こうかと思います。
――大阪らしくない大阪駅辺りを、豊川さんに案内してもらって下さいね。
豊川:失言でしたかね…?(笑)
――いえ、そんなことはありません。大阪の人も皆そう思ってますから…。
――さて、ここでもうお一方のゲストをお迎えしたいと思います。寺島しのぶさんが演じておられる長内みはるは瀬戸内寂聴さんがモデルとなっていますが、その寂聴さんと66歳も歳の離れた秘書の瀬尾まなほさんです!
瀬尾:本日はこのような豪華なゲストの方とご一緒させて頂くのが申し訳ないくらいなのですが、本当に素晴らしい作品なので、皆様にこうしてご覧頂けるのをとても嬉しく思っております。
――寺島さんは瀬尾さんとはお会いになってますよね?
寺島:撮影前に廣木監督とご一緒に寂庵へ伺って、ちょっとお話させて頂いたのと、寂聴さんに「どうかパワーを下さい!」とお願いしました。撮影後もご報告に伺いました。また、瀬尾さんからは、映画の感想をとても丁寧に綴ったお手紙を頂いて、すごく嬉しかったです。
――豊川さんは?
豊川:今日初めてお会いしました。
――それでは映画について伺っていきましょう。映画のオファーがあった時の率直なお気持ちは?
寺島:原作者の井上荒野さんの本は大好きで、他にも何冊か読んでいました。廣木監督と豊川さんとは、共演の回数は多いのですがホント久しぶりだったので、是非やらせて頂きたい!と。本とキャストで決めたという感じです。
豊川:最初にお話を頂いた時は、再び廣木監督と寺島さんと一緒にお仕事ができるのがとても嬉しくて、是非やりたい!と手を挙げさせて頂きました。脚本読んだ時は、正直「難しいな」と思いました。映画のオリジナルではあるのですが、とても有名な方がモデルになっていて、そうした方々にゆかりのある人や仕事をしている人もいっぱいいらっしゃるので、自分がこの白木(井上光晴)という人物にどのようにアプローチできるか、結構難しい仕事になるなと思いました。
――お二人は『やわらかい生活』や『愛の流刑地』などで共演されてますが、撮影に関してお話とかされたのですか?
寺島:いや、私たちあんまり喋んないんです。
――(笑)ええ?そうなんですか?
寺島:久しぶりにメール交わして、「ワンシーン、ワンシーン、丁寧に仕事しましょう」と一言交わしたくらいかな~、ね?
豊川:一応脚本の流れはあるのですが、彼女との仕事はセッションというか、その場で自分の体や想いがどういう風に変化していくか、肌触りや手触りなどを大切にしながら丁寧に演じるようにしているので、今回もそれが良かったんじゃないかなと思います。
――寺島さんが演じておられるシーンでとても力強く胸に響くシーンが多かったのですが、演技に入っていくために苦労されたこととかありますか?
寺島:豊川さんのファンを目の前にして言う事ではないのかも知れませんが、「豊川さんに身を任せていれば何とかなる」という感じです。
豊川:僕の方が身を任せていたと思うんですけど…。僕にとっては寺島さんは特別な存在の女優さんです。一緒にやっていて楽しいし、役とかセリフを超えて、向こう側にある感触のようなものに手が届く感じがするんですよね。それが自分の中ではとても楽しいんです。
――瀬尾さんは映画の感想を寺島さんに丁寧に綴られたそうですが、一節でもご紹介頂きたいのですが?
瀬尾:私はどうしても客観的に観られないというか、瀬戸内の秘書でしたのでいろんな感情が溢れてしまったんです。私の知る瀬戸内は 88 歳からという最晩年でしたので、出家した当時の瀬戸内の気持ちを寺島さんを通して知ることができました。それから、映画化になることを瀬戸内がとても楽しみにしていて、寺島さんと豊川さんに演じてもらえることを本当に大喜びしていたんです。きっとこの場にいたら、「トヨエツって、ホントいい男よ~!」とか「寺島しのぶって、凄い女優よ~!」って言っていたと思います。10 年間一緒にいたので、大体言うことはわかりますので。
――寺島さんはそれをお聞きになってどう感じられたのですか?
寺島:この映画は完成までに 3 年掛かっているんです。コロナ禍で撮影が延び延びになってしまって。勿論、映画化のことはご存じでした。京都でお芝居のお仕事があった時にお食事する約束をしていたのですが、コロナ禍でそれも叶わず、結局会えず終いだったんです。頂いたお手紙の中で、「残念だったのは、先生と一緒に拝見できなかったことです」と書かれてあって、(こみあげる想いを抑えるように)それは寂聴先生ご本人の言葉として受け取り、とても嬉しかったです。
豊川:寂聴先生とは一度はお目に掛かりたかったのですが…今日もどこかで見ておられると思います。
――御命日が 11 月 9 日、来週の水曜日なんですよね?
瀬尾:はい、早いもので一周忌を迎えます。
――それから 2 日後にこの『あちらにいる鬼』が公開されます。寂聴さんの想いが掛っているのでしょうか。
――さて、「この映画のここが凄いよ!」という処を、言える範囲でご紹介頂けますか?
豊川:僕が一番自信がないのは、最初このお話を頂いた時に設定の年齢が40 歳だったんですよ。それで「ちょっと俺ではキツいんじゃないの?」と言っていたんですが、それから20年から30年近く経っていきながら、キャラクターが変化したり関係性が変化していくのも、またその時その時の時代背景も含めて、ちょっと古いお話ではありますがとても楽しめるものだと思います。
――家の中の光景やウィスキーなど、昭和だな~と感じさせる作品ですが、寺島さんのおススメは?
寺島:やはり、みはる・篤郎・笙子という 3 人の人間関係です。それは誰にも真似はできないし、それを他人がとやかく言うことでもないし、その3人の鬼ごっこのような感じでしょうか。その鬼ごっこのルールを守っている人たちの物語なんですが、ルールを守ってない人も登場してきて、やっぱりそれは違うんですよ。その 3 人のルールを見て理解できるかどうか。私がこの映画観終わって思ったことは、その時その時に出会う人の縁(えにし)は、愛おしくて、切なくて、尊いものだと。今回こうして再び廣木監督や豊川さんと一緒に仕事ができたのも何らかの縁のお陰だし、そういうことを幸せに思える映画だなと思いました。
――廣木監督と寺島さん、豊川さんは長い年月を共にお仕事されているので、人生の節目節目を共にされていますが、その辺りがこの映画と重なっているのではありませんか?
寺島:私は完璧に重なっていました。
――人間って面白いなと思わせる映画ですね。
――最後のご挨拶。
豊川:多分、百人観たら百通りの感想があるような映画だと思います。決して派手ではありませんが、何か皆さんの心に響くものがあると思いますので、是非応援の程、よろしくお願い致します。
寺島:スクリーンの中で精一杯頑張って協力して、一つ一つ積み上げていった作品です。私自身とても満足できる映画となりました。こういう地味な映画ですけども、こういう映画がそこそこ入って頂けないと大人の映画は衰退するばかりなので、今日ご覧頂いて気に入って下さいましたら、是非宣伝をよろしくお願い致します。本日はどうもありがとうございました。
(以上)
『あちらにいる鬼』 シネルフレ作品紹介はこちら
「髪を洗ってやるよ」。それは、男と女でいられる最後の夜のことだった。
【物語】1966 年、講演旅行をきっかけに出会った長内みはると白木篤郎は、それぞれに妻子やパートナーがありながら男女の仲となる。もうすぐ第二子が誕生するという時にもみはるの元へ通う篤郎だが、自宅では幼い娘を可愛がり、妻・笙子の手料理を絶賛する。奔放で嘘つきな篤郎にのめり込むみはる、全てを承知しながらも心乱すことのない笙子。緊張をはらむ共犯とも連帯ともいうべき 3 人の関係性が生まれる中、みはるが突然、篤郎に告げた。 「わたし、出家しようと思うの」。
作者の父井上光晴と、私の不倫が始まった時、作者は五歳だった。
五歳の娘が将来小説家になることを信じて疑わなかった亡き父の魂は、
この小説の誕生を誰よりも深い喜びを持って迎えたことだろう。
作者の母も父に劣らない文学的才能の持主だった。
作者の未来は、いっそうの輝きにみちている。百も千もおめでとう。
――瀬戸内寂聴 ※(「あちらにいる鬼」/朝日新聞出版 刊行時の瀬戸内寂聴コメント)
原作:井上荒野「あちらにいる鬼」(朝日文庫)
監督:廣木隆一 脚本:荒井晴彦
出演:寺島しのぶ 豊川悦司/広末涼子
製作:「あちらにいる鬼」製作委員会 製作幹事:カルチュア・エンタテインメント
企画・制作:ホリプロ
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
©2022「あちらにいる鬼」製作委員会 R15+
公式 HP: https://happinet-phantom.com/achira-oni/
Twitter:@achira_oni
2022年11月11日(金)~新宿ピカデリー/大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、 kino cinema神戸国際 他全国ロードショー!
(河田 真喜子)