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「世間の良識から排除された"ネガ画像"を敢えて描いてみせた」映画『無頼』井筒和幸監督インタビュー

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2020年12月1日(火) 大阪にて



◆はぐれ者がたどる裏の昭和史


久しぶりに対面した井筒監督は少々ご機嫌斜めだった。その日、取材が立て続けだったせいもあっただろうが、先に取材した質問者から「これが100パーセントですか」と聞かれた、という。井筒監督からすれば新作公開を前にして「何ちゅうこと聞くんや」という気持ちだったんだろう。


質問者の気持ちは分からなくもない。デビュー作「ガキ帝国」(68年)以来、「岸和田少年愚連隊」(96年)、「パッチギ!」(04年)など一貫してはみ出し者、はぐれ者たちを描いてきた井筒監督が昭和を生き抜いた無頼の徒たちに焦点を当てて描きあげた一作。昭和から平成、令和と時は移っても「貧困や差別、孤立の構造は何も変わっていない」。そんな“無頼の男”を2時間20分間にわたりみっちり描いたのは井筒監督の気概=反骨精神にほかならないだろう。


burai-500-1.jpg主演に初代EILEのパフォーマーで現在は俳優の松本利夫を抜擢、並みのスターシステムにはない、新顔の投入も新たな“井筒監督の試み”。見るからに“昭和の匂い”のするキャスティング=顔ぶれもまた、井筒戦略だろう。


「世間の良識から排除された“ネガ画像”を敢えて描いてみせた僕なりの昭和史。あらゆる抑圧に対して、1歩も引かなかった無頼の彼らの生き方を通した男たちがいたことを見せたかった」。確かに、無頼派・井筒監督の集大成と言ってもおかしくない。

 

◆アウトロー映画へのオマージュ


IMG_20201201_174053 (2).jpg映画には東映任侠映画、という裏街道の輝かしい伝統、遺産がある。オールドファンには“鶴田浩二、高倉健らそうそうたる任侠スターの記憶”が色濃く残る。だが井筒監督は「まだ中学、高校の時代。俺はほとんど見てない。あの頃はアメリカン・ニューシネマに(関心が)行ってた」という。だから「無頼」は伝統の任侠映画否定でもない。


ただ任侠映画が終焉を迎える頃、深作欣二監督らによる実録映画「仁義なき戦い」には影響を受けたそうで、実際、「仁義~」に出演した松方弘樹の“素晴らしいセリフ”も「無頼」で再現される。井筒監督はわざわざ作家協会に連絡し許可も得たという。マフィア映画「ゴッドファーザー」へのオマージュといい、アウトロー映画作りに命をかけてきた異端児監督にはより深い繋がりがあるのだろう。


最近はテレビのドキュメンタリーに時間を取られていた、という。映画では沖縄を舞台にした“沖縄ヤクザ戦争”を構想、さらに次の映画として九州の炭鉱地帯を題材に、“川筋もの”の歴史をと構想を膨らませている。異端派・井筒和幸監督作品「無頼」は「100%達成」どころか、まだまだ異端の羽を伸ばして行く「予感の映画」と言えそうだ。


(安永 五郎)
 


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『無頼』

・(2020年 日本 2時間26分 R15+)
・監督:井筒和幸 脚本:佐野宜志、都築直飛、井筒和幸 
・主題歌:泉谷しげる
・松本利夫、柳ゆり菜、中村達也、清水伸、松角洋平、遠藤かおる、佐藤五郎、久場雄太、阿部亮平
公式サイト: http://www.buraimovie.jp
・配給:チッチオフィルム
・(C)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

◆映画『無頼』作品紹介(安永五郎)⇒こちら

2020年12月12日(土)~K’scinema、12月19日(土)~第七藝術劇場、12月18日(金)~京都みなみ会館、出町座 他全国順次公開

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