「草太役は、監督から『あとはおまえに任せたぞ』とバトンを渡されたようなもの」(井浦)
「全てをさらけ出す楽人は、この仕事をしていれば絶対やりたい役」(成田)
「この映画で私の人生は大きく変わった」(紗羅)
都会の吹き溜まりで出会った大麻の売人と全身タトゥ―の赤髪モヒカン。バイオレンスもエロもロマンチックなラブもある。井浦新、成田凌、紗羅マリー出演で話題の、かなた狼監督長編デビュー作『ニワトリ★スター』が、3月17日からヒューマントラストシネマ渋谷、3月24日からシネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋他全国順次公開される。監督がオーナーを務める大阪・黒門市場の「道草アパートメント」を本作のメイン舞台「ギザギザアパート」に使用した他、尼崎のお好み焼き屋他関西各地でロケを敢行。大阪出身の草太役を演じる井浦新は、かなた狼監督が吹き込んだ台詞音源を聞き込み、自力で関西弁ことばをマスター。どこか初々しさのある関西ことばで物語を導いていく。楽人役の成田凌、楽人と深い縁を持つ月海役の紗羅マリーは、傷だらけになりながらも、月海の息子ティダのためになんとか温かい家族を築こうとする若い二人を熱演。生きづらい世の中にかすかな光を見出す感動作だ。
完成披露試写舞台挨拶のため来阪した井浦新さん、成田凌さん、紗羅マリーさんにお話を伺った。
関西弁にチャレンジの井浦新、聖地・大阪の観客を前に感動と緊張!『ニワトリ★スター』大阪完成披露舞台挨拶はコチラ
――――大麻の売人、草太を演じてみての感想は?
井浦:かなた監督が長い時間をかけ、タイトルや役が生まれる前からずっとこの作品に向かっている姿を見てきました。監督が悩み、楽しみながら作ってきたニワトリ★スターの世界。今回、草太という役をいただいて、「あとはおまえに任せたぞ」とバトンを渡されたようなものでした。10年前から一緒に映画を作ろうと約束していましたし、他の作品とは比べられない、自分の中でも特殊な位置にある作品です。役者として参加はしているけれど、一生懸命演じていたと言うには少し物足りない。むしろ、それを飛び越えたようなことを皆でずっとやっていました。大切なものになりました。
――――映画が出来るまで10年間見守ってきたとのことですが、かなた監督とのそもそもの出会いは?
井浦:先に旅立った共通の友人が、かなた監督を引き合わせてくれ、それが全ての縁でした。出会った時、「おもしろい人がいるな」と思ったんです。プロの方が見たら、長編映画にすぐには繋がらないと思うでしょうが、10年前出会った時に、この人と僕はけじめをつけなければならない関係だと感じました。「どんな映画になっても、絶対に作るから、その時は協力してほしい」とかなた監督から言われた時、「待っていますから」と約束しました。監督から、とにかく何か見せることができる時がくるまで待っていてほしいと言われていたので、僕はひたすらスタンバイしていました。そのうち小説ができ、そこから映画を作るためのスタッフが集まりはじめた。段々と自分の番が近づいてきているなと、ソワソワ、ワクワクしながら待っていたんです。
――――少しずつ自分の出番が近づく一方、途中で監督にアドバイスをすることはあったのですか?
井浦:一切なかったです。信じていたし、もし監督が映画を作れなければ、それはそれ。本当になれ合いの関係でいたくない人でしたから。こちらの力を表す時は、映画を作る現場であり、そこで監督に示し、勝負し、ケンカし、けじめをつけたかった。それまでに、こんなのがあるよとか、こういう風にすればいいということは一切言わないようにしました。監督も手探りで作っている時は本当に不安だったと思います。たまにアドバイスを求めることがあっても、無視していました(笑)。でも、それをやってしまった分、本当に撮影の時は怖いなと思いました。撮影が近づくにつれ、感じたことのないような気持ちになっていきました。
――――成田さんは楽人役をどうしてもやりたかったそうですが、楽人役のどの部分に強い魅力を感じたのですか?
成田:台本を読んで、楽人役を僕以外の人が演じるのは絶対にイヤだと思ったんですよ。素晴らしい台本で、内容としても素晴らしいし、台詞もいっぱいあり、最後はああいう終わり方をする。その中に出てくる楽人は全部の感情を出し、身体も差し出す。こんなに全てをさらけ出すことなんて、この仕事をやっているなら絶対にやりたい。他の人に演じてほしくない。みんなやりたいだろうから、かなた監督には「僕しかいない!」と言いました。
―――紗羅さんは今回演技が初めてで、井浦さんや成田さんと共演されましたが、影響を受けたことは?
紗羅:この映画で、私の人生が大きく変わりました。現場では、みなさんの演技をお芝居として見る余裕はなかったです。でも、あの時は皆がお芝居ではない。月海が私の日常だったので、皆の人生に入れたし、皆さんにも私の人生に入ってもらった。監督の人生にも入れたことがうれしいですね。
成田:演技なのか、リアルなのか、その境目がないような生活をしていましたから。
―――クランクイン前に井浦さんと成田さんは一緒に住む体験をされたそうですね。
井浦:とても大事な時間ではありました。ただ二人だけで完成してしまっても、何も意味がない。そうやって二人で作った時間を現場に持っていき、現場でそれが混じり合った時、俳優だけでは作れないような、とても高い温度になるんです。
―――紗羅さんは、ハードなシーンも多かったですが、監督からどんな指示があったのですか?
紗羅:かなた監督は、ひたすら精神面のケアをしてくれました。暴力を振るわれるシーンや、心が壊れている演技をしなければいけなかったので、かけてくれる言葉はとても優しくて、布団の中にいるようなあったかい感覚でした。
井浦:監督は師匠がいる訳ではないので、スタートも独特で、「よーい、行こうかー」とか「行くぞ!」とか。気合が入っている時は、「よーい、来い!!!」とか。カットも「撮った!」とか。
成田:スタートとカットシリーズが欲しいね。初日までに誰か作ってくれないかな(笑)
―――一番苦労したシーンは?
成田:僕は単純に長い台詞です。12分ぐらいしゃべるところは覚えるのが大変でした。
井浦:猛獣みたいな監督を中心にしている組なので、大変が当たり前になっていました。監督が言ったことを常に信じていました。
紗羅:初めての演技が最初の暴力を振るわれるシーンだったのですが、OKが出るまでかなり長回しをしたので、カットが入ったときは達成感がありましたね。なので、後のシーンが何も苦労がなく、平和に感じられました。
―――出来上がった作品をどう受け止めましたか?
成田:未だに客観的に観ることができません。観終わった後は、新さんと近寄らなかったですし。公開して、映画館に行って、1800円払って、予告編からお客さんと一緒に観て、映画館を出る。そうしてはじめて、映画になったと実感するんじゃないかと。今、言ってしまうとすり減りそうで…。
井浦:想像なんかを軽く飛び越えた作品ができたなと思います。現場でも、自分たちの出来るギリギリのところがそのまま映っていればと信じてやっていました。監督はさらにその素材を時間をかけて編集。秒単位で削り、最後に出来上がったものは、こんな映画なんだ!と思わされた時もありました。客観的に観ることができず、どんな言葉で表現すればいいのか。感想を未だに言い合えない状況です。
紗羅:台本を通しで読んだのですが、楽人が月海たちに見せないようにして頑張っていた世界は、私も終わるまで読むつもりがなかったので、本当に作品が出来上がるまで分からなかった。映画でそれを観るのを楽しみにしていたんです。でも、どうしても月海の気持ちで観てしまうので、「楽ちゃん、こんなにがんばっていたのね。だから私たちはそこを見なくてよかった…」と。まだ紗羅マリーとしては、全く観ることができていないです。
(江口由美)
<作品情報>
『ニワトリ★スター』(2017年 日本 2時間15分)
監督:かなた狼
出演:井浦新、成田凌、紗羅マリー、阿部亮平、LiLiCo、津田寛治、奥田瑛二他
2018年3月17日(土)~ヒューマントラストシネマ渋谷、3月24日(土)~シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、今春~元町映画館他全国順次公開
公式サイト⇒http://niwatoristar.com/
(C) 映画『ニワトリ★スター』製作委員会