『この世界の片隅に』公開記念大阪編!ネタバレ爆発とことんトーク!
ゲスト:片淵須直監督+原作者のこうの史代氏
~すずさんの魅力について、監督と原作者が語る~
11月24日、日本橋のロフトプラスワンウェストで、『この世界の片隅に』公開を記念して、片渕須直監督と原作者のこうの史代さんを迎えてトークライブが行われました。会場には、午後7時半から3時間という長丁場にもかかわらず、立ち見もあわせて約150人もの観客が集まり、熱気あふれる中、監督が集めた資料の写真や、イラストもスクリーンで披露され、ざっくばらんな、楽しいトークが展開しました。その中でも、主人公のすずさんについてのお話を中心に、その一部をご紹介致します。
「すずさんはどこから出てきたのですか」との片渕監督の問いに、こうのさんは「戦時中の生活を書こうとしたら、ぼーっとしている人の方が、まわりが説明してくれるし、お嫁にいくという設定なら、街の様子も新鮮な感動とともに入ってきます。その方が読者としても入り込みやすいし、自然とこういうキャラになりました」、「すずさんが主人公のようにみえて、実は戦争が主人公の漫画です。すずさんは主人公をひきたてるようなキャラで、あまりあくがないと思って書いたつもりです」
片渕監督が「こうのさんの漫画には、ぼーっとしているヒロインが多いですね。ぼーっとしている人が主人公だと居心地がいいです」とつっこむと、こうのさんは「いつのまにかこんなことしてました、というほうが、作品としてはおもしろいんです」と答え、主人公よりも脇役の方が漫画家本人に似ているケースが多いとのこと。監督補・画面構成の浦谷千恵さんが、想像を膨らませて、すずさんが床下で豆もやしを育てているイラストなど、原作にないイメージを描いたりしていたとの微笑ましいエピソードも紹介され、会場はあたたかい笑いに包まれました。
すずさんの声を務めたのんさんについては、「演じていない時は、本当に全然普通の女の子なんです」と片渕監督。すずさんのキャラクターについて、監督がのんさんにどう伝えたかというと、「野太い」、「雑草みたいにパワフルで、でも、パワフルなだけでなく、ナイーブでもあり、どこかデリケートな感じも入れてもらいました」
すずさんの声をのんさんに決めたのはいつか、との問いについて、映画化の話が出た当初から、監督は、どんな声がいいか考えながらドラマを幾つも観ていて、NHKで『あまちゃん』を観た途端、ピンときたそうです。
音楽を務めたコトリンゴさんについて、片渕監督は、コトリンゴさんの「picnic album1」というカバー集のアルバムをもらって聴いているうちに、ふとひらめいたとのこと。「すずさんのぼーっとしているところも、ものうい感じも出せるし、すずさんは心の中にたぎるような情熱を秘めていて、そういうことも描ければいいなと考えました」
トークは、戦前の呉市のバスがどんな色だったか記録が残っておらず、片渕監督が苦労した話から始まり、監督もこうのさんも、当時の文献資料を徹底的に調べ上げ、多くの人から話も聞いて、少しでも当時の街の姿をリアルに再現しようと骨身を尽くしたことが、伝わりました。こうのさんは、すずさんが段々畑で絵を描いていて、官憲につかまってしまう話を聞いて、漫画の中に必ず入れようと思ったそうで、実際、当時、段々畑には官憲がうろうろしていたそうです。
「戦争ものは、需要はすごくあると思うけれども、書く側は心身ともに削られるから、書き手があまりいない」とこうのさん。片渕監督も戦争を扱うことの難しさと重さについて、「戦争を描くのは、本当に堪えるんです。正直言うと、本当に怖くなっちゃったので、二度とやりたくないという感じがずっとありました。最初に音が入った画面を観た時、対空砲火のシーンを観て、映画を公開するのをやめようと思ったほどで、自分のトラウマになってしまいました。映画が終わった時点で、すずさんが傷ついて、立ち直っていないのではないかという気がしてきたのです。でも、コトリンゴさんの「たんぽぽ」という歌を聴いた時、すずさんの魂がよみがえるみたいな歌だと思いました。これに絵をつければと思って、画面構成の浦谷さんに、エンディングロールで流れる絵を、ほぼ一日で一気に描いてもらって、救われたような気がしました。戦争が終わってもその先があるんだなと、やっていけるような気がしました」と実感のこもったお話を語り、エンディングの絵について、そういえば周作さんも髪の毛が伸びていたという話には、会場から笑いが起きました。
片渕監督が子どもの頃、大阪の枚方に住んでいたお話や、こうのさんが、小学校の授業で好きな食べ物を尋ねられて、「うどんとたくあん」と答え、後で、母親に、他の子はカレーとかハンバーグと答えているのに、うどんしか食べさせてないと思われるじゃないと叱られたそうで、服装についてもよく怒られていたなど、すずさんの義理の姉の径子を思い出すような話も出ました。ちなみに、すずさんの妹のすみは、こうのさんの妹がモデルだそうです。
監督は、最後の挨拶で、「僕とこうのさんだけで以前、少しトークをした時、親戚同士の会話をしていたと言われましたが、すずさんは、こういう文化の中で育ったということも伝わればいいなと思います」監督は、すずのことをずっと「すずさん」と呼んでいて、まわりの人にも呼び捨てにしないで、と言っていたそうですが、「すずさんが、スクリーンの上で動いている時間ができるだけ長く続くように」と映画への思いを述べて、熱いトークが締めくくられました。
(伊藤 久美子)
★公式サイト⇒ http://konosekai.jp/
★作品紹介⇒ http://cineref.com/review/2016/11/post-746.html
★片淵須直監督インタビュー⇒ http://cineref.com/report/2016/10/post-238.html