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『この世界の片隅に』

 
       

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作品データ
制作年・国 2016年 日本
上映時間 2時間6分
原作 こうの史代(『この世界の片隅に』双葉社刊)
監督 監督:脚本:片渕須直
出演 (声の出演):のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、牛山茂
公開日、上映劇場 2016年11月12日(土)~シネ・リーブル梅田、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、MOVIXあまがさき、イオンシネマ京都桂川、イオンシネマ茨木、109シネマズ大阪エキスポシティ、イオンシネマ近江八幡 ほか全国ロードショー

 

~戦時下に生きる家族の日常の機微を丁寧にすくい上げる~

 

『君の名は。』が大ヒットを続けている中、日本アニメ映画界に珠玉の名作が生まれた。戦争で大切なものを失っても、前向きに懸命に生きる一人の女性の日常を丁寧にすくいとり、観る者の心に深い感銘を残す。


konosekai-500-4.jpg昭和19年の夏、18歳のすずは、請われて広島から呉へ嫁にいく。当時、呉は、戦艦大和の母港で、日本海軍の一大拠点。にぎわっていた街も、日本の敗色が濃厚になるにつれ、度重なる空襲で破壊され、人々の平穏な生活は奪われていく。映画は、おっちょこちょいのすずが、食糧事情が厳しくなる中、失敗もしながら、食事や衣服に工夫をこらし、義父や義母に囲まれ、日々の家事をこなし、好きな絵を描いたり、やりくりしていくさまを描いていく。しっかり者の小姑の径子が嫁ぎ先から帰ってきて一緒に暮らすことになり、すずの苦労はさらに増すが、その娘で5歳の晴美と仲良くなっていく様子にほっとする。4つ年上の夫とのつつましいやりとりも微笑ましく、家族のあたたかさが心にしみる。


konosekai-500-1.jpgすずの声を演じたのは、のん。「うちは、いつもぼーっとしとるじゃけー」と広島弁のおっとりした響きが心地よく、のんの柔らかい声にぴったり。すずの目線で描かれた戦時中の光景は身近で、すずの悲喜こもごもがまっすぐ心に飛び込んでくる。


原作は、こうの史代の同名漫画。登場人物は皆、適役といえる役者の声を得て、息づき、風に揺れる草や空など、繊細な色遣いで描かれた風景も美しく、映像の世界に見事に結晶した。監督は『マイマイ新子と千年の魔法』の片渕須直監督。取材や文献から徹底的に時代考証され、綿密に再現された当時の街や軍港の風景はリアルで、現実味を帯びて迫ってくる。とりわけ、実際の空襲の光景を、絵が好きなすずの思いを重ねて、空が絵の具で黒く染められていく場面はインパクトがあった。


konosekai-500-2.jpg戦時下にあっても、変わらない日々の営みの尊さに胸打たれる。当時の人々が、生活の中で、何をどう感じたのかリアルに描くことで、戦争の悲しみも痛みも身近なものとして伝わってくる。「みんなが笑うてくらせるといいのにねえ」と、つらくてもユーモアを忘れず、家族で笑いあい、つらさも共有する姿に反戦のメッセージを受け取らずにはいられない。


konosekai-500-5.jpg「この世界にそうそう居場所はなくなりゃせんよ」とすずが諭されるシーンがあるが、「ありがとう。この世界の片隅に、うちを見つけてくれて」とすずの柔らかな声を聞いた時、この映画は、あなたの心にずっと小さなともし火となって灯りつづけるだろう。


(伊藤 久美子)

公式サイト⇒ http://konosekai.jp/

©こうの史代・双葉社/『この世界の片隅に』製作委員会