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『マンガ肉と僕』杉野希妃監督、主演三浦貴大さん記者会見レポート

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~3人の女と1人の男、抗い、寄生し、自分を見つけるまでの青春物語~

 
『歓待』(11)『ほとりの朔子』(14)『欲動』(14)と、女優、プロデューサー、監督として唯一無二の存在感を放つ杉野希妃。その初監督作品、『マンガ肉と僕』が2月11日からいよいよ劇場公開される。主人公サトミを演じ、監督業をこなしながら、自らの出演シーンはサトミとして演技に専念している様子を、撮影現場取材で実際に目にし、そのバイタリティーと頭の切り替えの早さに驚かされたが、出来上がった作品もうれしいサプライズに溢れている。
「杉野希妃初監督作『マンガ肉と僕』撮影に密着!主演も務める同作への想いを語る。」はコチラ
 
男に抗うために太ることを自分に課す主人公サトミを演じるために、真夏の撮影の中特殊メイクで挑んだ杉野と、杉野が寄生する大学の同級生ワタベを演じる三浦貴大とのやりとりは、奇妙だけど、どこか笑える。その後ワタベが付き合うことになったバイトの同僚菜子(徳永えり)就職直前から同棲状態だった弁護士志望の年上女性(ちすん)など、3人の女性と付き合いながら変貌を遂げるワタベは、男のリアルが滲み出て興味深い。成長する女と成長しきれない男。永遠の命題のようなテーマに加え、今までプロデューサーとして社会的な問題を作品に内在させてきた杉野希妃らしい、社会的な側面を盛り込み、現在日本の抱える問題も背景に滲ませた。和テイストの音楽が舞台となった京都の風情に馴染み、新しいのに懐かしい感覚を呼び起こす青春物語だ。
 
記者会見では、杉野希妃監督と主演の三浦貴大さんが登壇し、原作で惹かれた点や京都撮影の印象、そして役に対する思いについて語ってくださった。その模様をご紹介したい。
 

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■サトミは自分が演じたキャラクターの中で一番楽しく、アドレナリンが出ていた。(杉野)

 ワタベはメンタリティーの部分で、重なるところが多かった。(三浦)

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―――ユニークなシナリオですが、杉野監督からオファーを受けたときの感想や、現場での演出についてお聞かせください。
三浦:この作品の話をいただき、脚本を読ませたいただいた後監督にお会いしたのですが、おそらく杉野監督も役者と相談しながら、役の方向性を決めていきたかったのだと思います。ワタベと三浦貴大という俳優とは、リンクする部分がたくさんあり、メンタリティーの部分で重なりました。一方で、自分を出していくことになりますから、演じるとは別の部分で大変なこともあるだろうなと楽しみにしながら現場に入りました。年の近い監督とあまり仕事をしたことがないので、現場の前から楽しみでした。しかも今回はサトミ役でも出演されているので、大変さは想像を絶するのではないかと心配していました。今、僕が役者以外のことをヤレと言われても無理なので、単純にスゴイなと思って観ていました。
 
―――3人の女性に囲まれての撮影は楽しかったのでは?
三浦:楽しかったですよ。
杉野:いやいや、苦労されたと思います。とてもふり幅の大きいキャラクターばかりなので、相手をするのが大変だったのではないでしょうか。三浦君は吸収力がすごくて、10%伝えただけで、全てをわかって「やってみます」と言って、次のテイクで全てが修正されているのです。間合いやセリフの言い回しの微妙なニュアンスなど、言葉では言いにくいような部分なのですが。どんどん水を吸収するスポンジのような方ですね。私が演じるときは、毎回モニターチェックもしていたのですが、温かく見守ってくれ、一緒に映画を撮れてよかったなと思っています。そういう包容力を本来持っていらっしゃるのでしょう。
 

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―――サトミ役は最初から自分で演じようと思っていたのですか?
杉野:当初は吉本の芸人さんを起用する案もありましたが、私自身サトミのキャラクターに共感する部分があり、やってみたいと思っていたので自分から志願して演じることにしました。最初は本当に30キロ太ろうと考えたのですが、太ったあと痩せるシーンもあるので結局は特殊メイクにしました。動くのも大変でしたが、自分が演じたキャラクターの中で一番楽しく、アドレナリンが出ていた気がします。
 
―――三浦さんのキャスティングの経緯は?
杉野:『東京プレイボーイクラブ』を見たときから面白い役者さんだと注目していましたが、脚本を書いている段階でも、「これを三浦君がやってくれたら」と想定しながら執筆していました。リンクしそうだという何かが醸し出されていたのでしょうね。
 
―――三浦さんご自身は、どのあたりがリンクすると感じたのですか?
三浦:ワタベは、一番最初田舎から出てきた時は人見知りで、うまくコミュニケーションが取れません。この映画のオファーがくる少し前に小学校の時の先生にお会いしたのですが、小学校入学当時、僕はずっと机の下に「友達がいない」と隠れていたそうです。元々のメンタリティーでワタベと似ている部分があったのでしょうね。成長の仕方も自分と似ているなと思っていました。
 

■映画の聖地、京都で今の時代の女性像を意識して撮った。(杉野)

 京都は映画向きな街。出来上がった作品をイメージしやすい。(三浦)

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―――作品トータルのトーンやリズムなど、何か決めていたことはありますか?
杉野:クラッシックな映画を意識した部分はあるので、カット割を激しくしてテンポを良くすることはあまり考えませんでした。やはり役者さんの演技が一番大事なので、演じていただいた上で修正していく。役者の皆さんが元々持っている素質をどうやって活かすかが監督としての仕事ではないかと思っています。
 
―――意識したクラッシック作品とは、溝口作品ですか?
杉野:おこがましい言い方ですが、あの年代の監督の中で、女が描かれているという意味では、溝口作品を常に意識している部分はあります。「男に嫌われるために女が太る」という原作のモチーフ自身も、どこか溝口作品につながるテーマのような気がしますし、せっかく映画を撮るのなら映画の聖地、京都で撮ってみたいと主張させていただきました。そして京都で撮るなら溝口作品のような女性像とはまた違う、今の時代の女性像を意識し、ラストシーンは描いているつもりです。
 
―――『マンガ肉と僕』、そして既に公開された『欲動』とフィルモグラフィーを重ねてみて、見えてきた方向性や、気づいた変化などはありますか?
杉野:『マンガ肉と僕』と『欲動』は完全にスタイルが違う作品なので、自分のスタイルが何なのかがまだ確立はされていないです。自分自身が詰まっていると感じるのは『マンガ肉と僕』ですね。「これが等身大です」と言えるような作品になっている気がします。『欲動』は女性の解放を意識して撮りましたが、自分自身をさらけ出すというより、少し客観的に撮った気がします。

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―――京都で撮影した印象は?
三浦:役者として場所が与える影響はすごく大きくて、脚本の設定した場所で撮影できるのはすごく大きいです。セットでグリーンバックだとか、京都だけれどこのシーンは東京で撮るとなると、ここが京都だという気持ちを作らなければいけないので、一段階手間がなくなり、ありがたかったです。また、京都は歴史のある街並みで、こういう作品になるだろうというイメージがしやすい。なんて映画向きな街なのだろうと思いました。京都は建物もあれば、道が一直線に抜けている場所もありますし、新しいところもあれば、歴史もあり、自然もありますから。
杉野:京都の方々は映画の撮影をしていても、自然と見守りながら通り過ぎていかれるのがとても心地よく、街に見守られながら撮れている実感がすごく湧いていました。知恩院前のラストシーンは奇跡的なショットが撮れており、ある動物が奇跡的な演技をしてくれました。まさに映画の神様が舞い降りてきたと思う瞬間でしたね。

 

■映画は残るものだから、社会問題や自分自身が感じていることを入れるべき。(杉野)

 女性の成長に置いていかれる男の気持ちを反映させた。(三浦)

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―――ニュースで流れる映像や、ワタベが福島出身という設定など、杉野監督作品には、原作には多分なかったような社会性が盛り込まれている印象があります。
杉野:今の日本も溝口監督が撮られていた時代とは変わっていないなと思う部分はあります。未だに女性を軽視するような言葉が普通に飛び交っていますし、人それぞれ色々な生き方があって当然だと思いますが、例えば「子どもを産むのは当たり前」だとか、そういう趣旨の発言が出てくるのを見ると、釈然としないなと思う時もあります。そのようなときに、このお話をいただいたので、社会に抗う女たちをテーマにすると面白いなと思って進めていきましたので、必然的に福島の問題や、テレビのニュースで流れていた慰安婦問題なども含まれていきました。その時だけの問題ではなく、ずっと続いていく問題である気はしましたし、何十年後観た人たちには、当時こういうことが話題だったのだと感じていただけるはずです。映画は残るものですから社会問題や、自分自身がモヤモヤしているものを映画自身に入れるべきではないかと思ったのです。
 
―――この映画はワタベがサトミに寄生され、その後は彼女に寄生していきます。寄生することが悪いという風には描かれておらず、時には生き残るために必要といった表現もされていましたが、三浦さんは演じてみて「寄生」をどう感じましたか?
三浦:劇中でも言っていますが、「生態系を保つために、強いものに寄生して生きることは必要」だと僕自身も思います。ワタベの周りに3人の女性がいて、3人とも徐々に変化していきます。その中でワタベも成長しているのですが、女性の成長に置いていかれてしまう。ワタベが大学一年生の時は男性と女性が立場や内面性が同じぐらいの場所にいる感じで、ワタベは寄生される側なのですが、結局ワタベは置いていかれ、男が寄生する側になってしまいます。私生活でも僕は30歳になりましたが、同級生の女性から置いて行かれているなと思うことがあり、その気持ちをそのままこの作品にも反映させた感じです。女性を軽視している発言をよく聞くという話で僕が昔から思っていたことは、社会的な目から見て男も「働いて当たり前」という決めつけがあり、僕はそれが嫌なんです。実際にはそんなに働きたくないし、結婚して子どもができたなら主夫になっても構いません。社会的な男に対する目が嫌なので、杉野監督がおっしゃった「女性に対する軽視の発言が今でも変わらず多い」という部分も理解しやすかった気がします。
(江口由美)
 

<作品情報>
『マンガ肉と僕』(2014年 日本 1時間34分)
監督:杉野希妃
原作:朝香式『マンガ肉と僕』新潮社刊
出演:杉野希妃、三浦貴大、徳永えり、ちすん他
2016年2月13日(土)~シネ・ヌーヴォ、元町映画館、京都みなみ会館にて公開、
公式サイト⇒http://manganikutoboku.com/
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