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杉野希妃初監督作『マンガ肉と僕』撮影に密着!主演も務める同作への想いを語る。

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 女優だけでなく、プロデューサーとしてリム・カーワイ監督『マジック&ロス』(10)、深田晃司監督『歓待』(10)、イム・テヒョン監督『大阪のうさぎたち』(11)、内田伸輝監督『おだやかな日常』(12)などを世に送り出し、国内外を問わず精力的な活動を続け、映画界で独自の存在感を放つ杉野希妃さん。『歓待』以降の作品はいずれも東京国際映画祭や東京フィルメックスのコンペティション部門(『大阪のうさぎたち』はアジアの風部門コンペ対象作)入賞を果たし、今年の台北映画祭では杉野希妃特集上映「Filmmaker In Focus: Kiki Sugino」が組まれ、日本未公開作品をはじめとする全7本が上映されるなど、海外の映画祭でも高い評価を得ている。

 来年1月、二階堂ふみを主演に迎えたプロデュース兼出演作『ほとりの朔子』(14)の公開も待望される杉野希妃さんが、自身が主演する最新作「女による女のためのR18文学賞」シリーズ第三弾『マンガ肉と僕』で、いよいよ監督デビューを果たす。主演に三浦貴大さんを迎え、三浦さん演じる青年ワタベと杉野さん演じるサトミをはじめとした3人の女の8年に渡る関係を描く、女の本音が満載の本作は、ほぼ全編京都ロケで京都の名所が多数登場するのも大きな見どころだ。

 

manga4.jpg 9月後半、12日間をかけて行われた撮影のうち、私は物語の大きなターニングポイントとなるシーンの撮影に立ち会うことができた。今まで『歓待』、『大阪のうさぎたち』、『おだやかな日常』と来阪のたびにインタビューさせていただいた杉野希妃さんが、プロデューサー、主演をしながら今回は監督業にもチャレンジ。記念すべき初監督姿をぜひ現場で見てみたい!その一心で早朝の撮影に合流し、まずは現場の緊迫した空気に圧倒された。杉野監督は、自身もずっと現場で登場するシーンのため、自ら「用意、スタート」と言った途端に演技に入り、演技を終えて「カット!」と声をかける。カット後は、真剣な表情で早速モニターチェックをし、三浦さんやワタベの恋人サヤカ役のちすんさんに細かな演出を行い、まさにフル回転だ。開店前の店舗を借り、時間に限りのある撮影だったため、杉野監督の「もう1回やらせてください」の声に周りもどんどん集中力が高まる。ちょっとした間合いや、顔の角度など納得のいくまでテイクを繰り返すこだわりぶりをみせた杉野監督をバックアップする周りのスタッフの声掛けも見事で一体感のある現場だった。

 朝一の撮影を終了し、次の現場に向かう移動の車中で、初監督作となった本作への想いや、杉野監督が表現したい女性像、初挑戦したプロデューサー兼監督兼主演のメリット、デメリットについてお話を伺った。


━━━長編監督デビュー、おめでとうございます。20代のうちに監督デビューというのは予定通りですか?
杉野:30歳までにデビューできればいいなと思っていました。昨年釜山国際映画祭のAPMという企画マーケットに日本、韓国合作映画の企画を提出し、それを長編一作目にしたいと考えていたのですが、合作ですし時間もかかるし、監督デビューは三十路をすぎるかもしれないなと思っていました。ちょうどそのとき本作のお話をいただき、タイミングがよかったです。

 

━━━今まで杉野さんはオリジナル脚本にアイデアを出され、脚本に対するこだわりを見せていましたが、今回杉野さんが携わる作品としては初めての原作ものとなりましたね。
杉野:今まで原作ものはやったことがないのですが、今回お話をいただいて5作品ほどの短編小説を読みました。その中で圧倒的に『マンガ肉と僕』が面白いと思ったら、そのすぐ後に「R18文学賞」大賞を受賞したので、この作品をやりなさいということだなと(笑)。
原作は原作の面白さがあるのですが、その設定をそのまま映画に持っていくと、マンガ的になってしまいます。結構突拍子もない設定なので、それをどう映画的に置き換えていくか、リアルに持っていくかというところから考え始めました。
一番原作で惹かれた点は、主人公のワタベとヒロインのサトミの関係性が人間の食物連鎖的なものを描いている感じがして、その構図が面白かったことです。ちょうどその頃、橋下知事の慰安婦問題の発言が取りざたされていて、原作が持っている「男にあらがう女たち」というテーマでやれるのではないかと思ったときに、すごく面白い映画になる直感が働きました。「男にあらがう女たち」ということで3人の女性を登場人物にし、全員関西弁をしゃべらせることにし、彼女たちの設定や背景を少しずつ変えていきました。

 

manga1.jpg━━━最初から監督、主演の両方をされるつもりだったのですか?
杉野:製作の吉本興業さんから、私が監督でヒロイン役もやれば面白いのではないかという案をいただき、そこから話が進んでいきました。ただヒロインのサトミが太ったり痩せたりしなければいけないので、そこが悩みどころでした。本気で20kgぐらい太ろうかと思ったのですが、コンパクトに撮影しなければならなかったので、10日間で20kgも太ったりやせたりするのは現実的に無理ですよね。そして、20kgの増減では見た目がそんなに変わらないという指摘もありました。結局は特殊メイクで毎回3時間かけて太ったサトミを演じています。

 

━━━役者としてもチャレンジですね。太って卑屈になってしまう気持ちなど、杉野さんに今まで無縁の感情だと思いますが。
杉野:人間って誰でも卑屈な部分は持っていると思いますし、私も「自分のこの性格を直したい、自分の身体のここが嫌い」とコンプレックスの塊ですよ。でもその悔しさをバネにして人間は生きている部分があると思うので、自分の中の自虐的だったり、あらがう感情みたいなものから役作りをしていった感じですね。サトミの場合は、卑屈さよりも反抗心の方が強く、そういう部分も自分と近いかもしれないです。
 

━━━今までプロデューサーや女優として様々な監督と仕事をされてきた杉野さんですが、ご自身が監督をされるにあたり、作品づくりや現場演出で影響を受けている監督は?
杉野:私が尊敬する溝口健二監督も「男にあらがう女たち」というテーマでずっと京都で撮影されていましたし、この作品も、ある種溝口健二監督を意識した形で、京都で撮ったら面白い作品になるのではないかと考えたんです。また、フランソワ・トリュフォーやウディ・アレンは「女に翻弄される男」を描くことが多いですよね。主人公のワタベに関してはウディ・アレンからインスパイアされた部分があります。ワタベ役の三浦さんやサヤカ役のちすんさんには『アニー・ホール』を観てもらうように言いました。

実際の現場では、今まで一緒にお仕事をしてきた監督さんの影響はやはり受けています。例えば深田晃司監督はある程度役者の個性を生かしつつ、「動詞」で演出されます。形容詞を使わないで「もっと攻撃してください」という風にアクションで演出される方です。それが私もすごくやりやすかったし、形容詞を使われるとイメージが制限されてしまうので、私もなるべく役者のイメージを膨らませるような演出ができればいいなと思っています。

先日福岡で撮影した『sala』の和島香太郎監督の現場も勉強になりました。ものすごく役者の気持ちや考えをリスペクトし、役者のタイミングを最優先される方だったので、そういうところも影響を受けていますね。本作では私の「どういう作品にしたい」「どういうキャラクター像にしたいか」「どういう台詞を言わせたいか」を全部伝えた上で、脚本を書いて下さっています。

 

━━━朝の撮影では、細かい間合いや顔の角度など演出のこだわりを感じました。
杉野:ここはこの構図にこだわりたいという部分と、ワンシーンワンカットでエネルギー重視の部分を決めて撮影しています。例えばフォーカスが合わなかったり、役者がフレームアウトしたとしてもその画面の中におさまるエネルギーみたいなものが凝縮していることが大事なシーンもあります。そこはバランスを取りながらやっていきたいです。(早朝のシーンは)視線が交差するので、結構こだわりました。

 

━━━監督と主演を兼ねることで、プラスになっていることや新たな発見はありますか?
杉野:「自分だったらどういわれたら動きやすいか」とか、「自分だったらどう考えるか、想像を膨らませるか」というところまで考えて、演出をするというのがすごく楽しいです。そういう自問自答や、こちらが説明した後の役者さんの反応を見るのも刺激的です。でもそれは、今回携わって下さっているスタッフやキャストのみなさんが、人間的にもすばらしい方々なので余計にそういうことがやりやすいのだと思います。予想した以上にやりやすい現場を作っていただいている感じですね。

 

manga6.jpg━━━今までと違い、自分で自分の演技をつけることについては、いかがですか?
杉野:テストやテイクごとにモニターチェックをしなければいけないのですが、チェックすることで自分の演技を客観的に直していけるので、自分の中でバランスを保ってコントロールをしなければいけないという感じが、新しいチャレンジだと思えますね。これまでは常に役に寄り添って、監督のおっしゃることを聞いていくというスタンスだったのが、もっと俯瞰的でいられるという感じがします。

 

━━━監督、主演だけでなく今まで通りプロデューサーもされていますね。
杉野:監督とプロデューサーを一緒にするのはかなり矛盾していることなので、大変ですね。まだ役者とプロデューサーとか、監督と役者ならバランスを取りやすいのですが、プロデューサーと監督はお金を管理する側とわがままを言いたい側なので、できる限り現場では監督で居続けたいという気持ちが強いですね(笑)。

 

━━━「女による女のためのR18文学賞」シリーズの映画化は今まで男性監督が手がけてこられましたが、今回杉野さんが監督されることで初めて女性の手で完結します。女性監督にしか出せない「女性のえぐみ」が出るのではないかと期待しています。
杉野:出せるといいなと切実に思いながら作っています。「女による女のためのR18文学賞」は元々エロスの要素を入れるようにという規定がありましたが、昨年ぐらいから女の目線の小説を描けばいいという風に変わりました。映画界でも例えばベッドシーンを描くとき、そのシーンだけのために物語を持っていかなければならず、そこだけ急にミュージカルが始まるような雰囲気にすごく違和感を感じていたんです。男目線という部分を変えていきたいと思っています。女性が感じるエロスは男目線のものとは少し違って、行為をすることだけがエロスではなく、ふとした横顔だとか普段着替えをしたり顔を洗ったりするときの裸の方がすごくにナチュラルで美しく、ドキリとするのではないでしょうか。性行為だけを強調してエロスと言ってしまう風潮に違和感があるので、今回の作品もそういうものは避けて、もっと女性目線で撮りたいと思っています。

 

manga5.jpg━━━共演の三浦貴大さんは「女に惑わされる男」ワタベ役ですが、キャスティングの理由は?
杉野:三浦さんと初めての顔合わせの時に、脚本を読んで何でも言ってくださいとお願いしたのですが、「いや、ないんですよ。ワタベに共感してしまって、聞くことがないです」と言われたのが意外でした。三浦さんをキャスティングしたのは単純に一緒に仕事がしたかったということが一番大きいです。色々な出演作を拝見し、陽の要素も陰の要素も持っていて、どちらにも振り切れる役者さんだと感じました。今回のワタベ役は19歳から27歳までを描いていて、はじめ純粋のように見えたワタベがサトミの影響を受けて、今度は別の女性たちに影響をもたらしていく非常に難しい役で、感覚の鋭さを持っていて、頭もちゃんと使える役者さんと考えたとき、三浦さんは絶妙なバランス感覚を持っているんですよね。こちらが指示したこともすぐに修正してくれ、びっくりするぐらい吸収力もいいですし、とても信頼しています。

 

━━━女性監督で、影響を受けたり、目指している人は? 
杉野:ヤスミン・アフマド監督(マレーシア)ですね。彼女の包容力や愛の深さ、人間の大きさは言葉では表現できないくらいで、ものすごく影響を受けている方です。例えば草の上で男女が横たわっているところを切り取っただけでも、愛や感情の深さを描けてしまう。宇宙レベルで人間が大きいんだなと思います。これまで日本や韓国、東南アジアなどでの沢山の女性監督たちとお会いしていますが、結構男化してしまう方が多い気がします。正に男にあらがいすぎているように見受けられるのですが、自分はそうなりたくはないという思いが強いです。本作では男にあらがう女たちを描いていますが、男に対抗するのではなく、生まれ持ったものを大事にしたいよねということを、簡単にいえば一つのテーマにしているので、自分もそういう感覚は忘れたくないですね。

 

━━━杉野さんは国際的に多彩なキャリアを積まれていますが、自分でしかできない表現方法や出していきたい「杉野色」はありますか?
杉野:役者も人間なのでちょっとしたことで動揺することもありえますし、緊張を強いるのではなく、リラックスして望めるような環境を作りたいです。誰もが絶対ではないし、常にディスカッションできるようなオープンな雰囲気を大切にしつつ、撮影現場の中でもしきたりや慣習に囚われず、枠を超えた新しいやり方を見出していけたらと思っています。あとこの作品に関しては、女の静かな狂気が過剰ではなく、ふとしたところで出てくる作品になればと思っています。

 

━━━監督業の体験を踏まえて、これからはどの方面に軸足を置いて活動したいと考えていますか?
杉野:今回監督をして、役者の演技を見ながら自分がめまいを起こしそうになることがあるんです。役者の演技を、自分が演じているかのように観てしまうので、2人で演じるシーンなら2人共の感情を交差させながらモニターで見ていると、ぐっときてしまうんです。もちろん今後の活動でプロデューサーや監督もやっていきたいと思いますが、演技そのものが好きで、演技を見るのも自分が演じるのもやはり好きなのだと、監督をしながら改めて感じていますね。そもそも人間の感情や動作の起源に興味があるのかもしれないですね。ただ何でも挑戦していきたいという気持ちは今後も変わらないです。

 

━━━最後に、『マンガ肉と僕』はどんな方に観ていただきたいですか?
杉野:ほぼ全編京都で撮影している作品です。特に女性に観ていただきたいですし、昔の映画が好きな方にも観ていただきたいです。いろいろなことにチャレンジをしていて、うまくいっているかどうかまだ分かりませんが、全身全霊で作りますのでぜひ観に来てください!


車中でインタビューさせていただいている間に、次の現場である哲学の道に到着。まだ夏のような陽気の日だったが、さっと日焼け止めを塗り、帽子をかぶって軽やかにワゴンから飛び出していく杉野監督を見送った。初体験の監督業も「楽しい!」と語り、監督をすることで吸収できることを、自身の演技にも生かしている“杉野希妃パワー”は全開だ。女性だからこそ描ける世界観や、男にあらがう女たちをどう表現するのか。作品が完成するまで、楽しみにしていたい。(江口由美)

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