オダギリジョー、「久しぶりにいい映画を観たなと思った」『FOUJITA』記者会見@TIFF2015
登壇者:小栗康平氏(監督/脚本/製作)、オダギリジョーさん(俳優)、中谷美紀さん(女優)、クローディー・オサール氏(プロデューサー)
~天才画家フジタの生きたパリと日本から、文化や歴史の違いを提示する壮大な試み~
10月22日より開催中の第28回東京国際映画祭で、小栗康平監督の10年ぶりとなる最新作『FOUJITA』が、コンペティション部門でワールドプレミア上映された。
エコール・ド・パリの寵児でありパリで画家として成功を治めたフジタこと藤田嗣治の人生を通じて、1920年代のパリと1940年代前半の日本を描いた本作。フジタを演じたオダギリジョーは、2つの全く違う時代の中で、時には自分が望む作品を、時には時代に求められた作品を描く画家の佇まいを見事に表現している。フジタの5番目の妻、君代を演じる中谷美紀も、出番は少ないながら、戦時中に天才画家を静かに支える妻を独特の存在感で表現し、強く印象付けた。まるで絵のように美しいカットの数々に息をのむと同時に、後半の日本部分はこれぞ小栗作品の真骨頂といえる深淵な映像や表現を存分に堪能できるだろう。
10月26日に行われた記者会見では、監督/脚本/製作の小栗康平氏、主演のオダギリジョーさん、君代を演じた中谷美紀さん、プロデューサーのクローディー・オサール氏が登壇。小栗監督作品に出演した感想や、小栗作品での演じ方についての話、さらに小栗監督からは今フジタを取りあげた理由や、本作の狙い、さらにオダギリジョーが演じたフジタについて語られた。その内容をご紹介したい。
■小栗監督のおかげで、すごくいい俳優になれた(オダギリ)
日本にこれだけ素晴らしい画家がいたことを、改めて心に刻んだ(中谷)
(最初のご挨拶)
小栗康平監督(以下小栗):フジタは実在した人物で、彼が遺した素敵な絵画を映画の中で使わせていただきました。伝記的な映画にはせず、1920年代のパリと1940年代の戦時中の日本の二つを並べて文化や歴史の違いを浮かび上がらせました。オダギリさんはとても素敵なフジタになりましたし、中谷さんは5番目の妻ですが、いい妻になりました。
オダギリジョー(以下オダギリ)さん:小栗監督が10年ぶりに映画を撮られるということで、声をかけていただき、本当に光栄に思いました。正直、藤田嗣治はあまり知りませんでしたし、今もそんなに興味があるわけではありません。「小栗監督の作品に関わりたい」という気持ちで参加したのが正直なところです。出来上がった作品を観て、久しぶりに「ああ、いい映画を観たな」と思いました。今まで出演した自分の映画の中のオダギリジョーの幅を越え、小栗監督のおかげで、すごくいい俳優になれたな、とてもうれしく思っています。
中谷美紀(以下中谷)さん:小栗康平監督は『泥の河』、『死の棘』と映画史上に忘れがたき功績を残されていますが、その監督が久々に映画を撮られるということで、喜んで参加させていただきました。オダギリジョーさんが、フジタそのもののような佇まいで、映画の主軸としていてくださり、私は5番目の妻で、最後の妻を演じましたが、ただ映画にいさせていただくだけで幸せでした。フランスの撮影現場を覗かせていただいたときに「オグリ、オグリ」と皆さん小栗教の信者のように監督を慕っておられました。また「ジョーのフランス語も素晴らしい」とスタッフが口々に誉めており、同じ日本人として誇りに思いました。私もフジタという画家に今までそこまで愛情はなかったのですが、この作品をきっかけにフジタのアトリエに行ったり、ランスで最後に手がけた教会の絵を拝見し、日本にこれだけ素晴らしい画家がいたことを、改めて心に刻みました。ぜひ皆さん、ご支援ください。よろしくお願いいたします。
クローディー・オサール氏(以下クローディー):私はフランスを代表して来日しております。今回は小栗監督と一緒にお仕事をさせていただくことができ、本当に幸せに思っております。フランスのスタッフも日本のクルーと仕事をすることができ、お互いにリスペクトして仕事をすることができました。この場をお借りして、今や友人となったオダギリジョーさん、中谷美紀さんにもお礼申し上げます。小栗監督も、本当に素晴らしい作品でした。
■35歳で監督デビュー、人生の半分かかってフジタに辿りついた(小栗監督)
―――10年ぶりの新作ですが、この作品を映画化しようとした一番の動機は?
小栗監督:私は1945年に生まれ、今年70歳になります。35歳でデビューしましたから、約半分かかってフジタに辿りついたという印象でしょうか。藤田は矛盾の多い人物です。20世紀という戦争の世紀を生きた故に、多くの矛盾を抱えた。そういう人物を、戦後70年を機に撮れた。その歓びでしょうか。
―――フランス語はどのように勉強されましたか?一番難しかった点は?
オダギリ:台詞は決まっていましたので、時間も限られていたので丸覚えでした。ただ、声を吹き込んでくれた先生はフランス語の先生なので、棒読みです。ですから丸暗記しながら、どう普通のフランス人がしゃべる会話調にするのか。そこで、現地の俳優に来ていただき、芝居していただいたものを録音して、その中でどうにか感情を持った言葉にしていきました。
―――藤田という画家は日本では複雑な面を持った画家ですが、フランスではどんなイメージを持たれ、またどの程度知られていますか?
オサール氏:フジタはフランスでは大変有名で、本当に愛されている画家です。絵画に日本的な要素を入れ、白背景で書いたものが、フランスでは新鮮だと人気がありました。フランスでも当時絵画で生計を立てるのは難しかったですが、フジタはそれができた、大変いいイメージを持っています。後半部分の、フジタが日本に戻ってからどういった作品を描いていたかは、なかなか知られていません。私自身もこの映画を通じて、後半のフジタの日本での人生を知ることができ、フジタという画家を再認識しました。
■フジタの自由さに踏み込めない壁みたいなものを感じながら、妻役を演じた(中谷)
―――君代を演じるにあたって、どのような女性をイメージしましたか?
中谷:フジタのアトリエにはわずかに君代の写真が残っていたのですが、フジタの最後の作品や、教会で共に眠っている以外は、君代の資料はなかなかありませんでした。とにかく小栗監督が書かれた脚本の行間を探るようにして演じました。オダギリさん演じるフジタは稀代の天才ですので、せめてその方の傍にいて、自分は何も持っていないけれど、せめてこの中の美意識に沿う人間であるよう努めている人ではないか。そう思いながら、フジタの自由さに踏み込めない壁みたいなものを感じながら、演じさせていただきました。
■自分の我を出した芝居を見せるより、監督の手のひらで転がっていく方が、僕にとっても作品にとってもいいと思った(オダギリ)
―――フジタの人生ですが、前半のパリ編と後半の日本編では、まるで二人の主人公の人生を描いているように思えます。演じるのにどんなところに気をつけましたか?
オダギリ:簡単に監督に丸投げですね。というのも、今まで色々な作品で色々な役を演じてきましたが、小栗監督ほど言っていることが分かるようで分からないようで。非常によく分かるのですが、真実すぎてそれを現実にするのはなかなか度胸がいるようなことを自然に話されます。そこを探ったり、自分の我を出した芝居を見せるよりも、監督の手のひらで転がっていく方が、僕にとっても作品にとってもいいと思いました。確かに前半と後半には大きなギャップがあります。自分が狙って落としていくこともありましたが、8~9割は監督の言うことを素直に聞いて演じました。
■オダギリさんは、自分の身体感覚全体で芝居を掴むことができる俳優(小栗監督)
―――最初から、オダギリさんにフジタ役のオファーを考えていたそうですね。
小栗監督:先ほどのオダギリさんの話を補足しますと、芝居のハウツーではなく、いつも考え方を話し合っていたのです。先ほど、フランス語のことを答えたときに「丸暗記ですよ」、今回も「丸投げですよ」と、答えましたが、これはマイナスではないですね。何かに預けるということはとても勇気がいることです。20年代のパリと40年代の日本で、変わらなくてもいい、一つの命がそこをまたいでいるだけですから、変わるために何をしようかと話し合ったことは一度もしていません。
オダギリさんはフランス語を音で全体として覚えましたが、それはオダギリさんの芝居全体にも言えることで、彼は分析的に芝居をしません。フジタを伝記映画として演じるのではなく、佇まいとして20年代はこんな姿、40年代はこんな姿だったと表現するとき、オダギリさんがどう感覚的にいられるか。それを出来る役者は少ないのです。オダギリさんは、自分の身体感覚全体で芝居を掴むという難しいことができる俳優だと思います。
―――フジタを映画化するにあたり、どんなリサーチをされたましたか?
小栗監督:資料はたくさん残っていますし、エピソードもたくさんある人です。一通りは見ましたが、オダギリさんと一緒に「全部忘れてやろう」と。
―――最後に、今回映画を作り、藤田とお友達になりたいと思いましたか?
小栗監督:最後にイジワルな質問ですね。同じ時代に生きていたら、友達にならなかったと思います。2015年の今から1920年代や1940年代のフジタを思い描くと、私にとってのフジタは何かという問いが生まれますので、映画を撮った今は、とても親しい存在です。
(写真:河田真喜子 文:江口由美)
<作品情報>
『FOUJITA』
(2015年 日本=フランス 2時間6分)
監督:小栗康平
出演:オダギリジョー、中谷美紀、アナ・ジラルド、アンジェル・ユモー、マリー・クレメール、加瀬亮、りりぃ、岸部一徳
2015年11月14日(土)から全国ロードショー
第28回東京国際映画祭は10月31日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、TOHOシネマズ新宿、新宿バルト9、新宿ピカデリー他で開催中。
第28回東京国際映画祭公式サイトはコチラ http://2015.tiff-jp.net/ja/