90年代、パリの音楽シーンを駆け抜けたDJの栄光と挫折~『EDEN/エデン』共同脚本スヴェン・ハンセン=ラヴ氏インタビュー
「最初の10年は実り豊か、その後の10年は時が止まってしまったようだった」
90年代パリ。親友とDJデュオを結成し、瞬く間にクラブシーンで有名になっていったポールを主人公に、彼が辿った栄光と挫折の道のりを、時代を彩るガラージミュージックやクラブミュージック満載で綴る青春群像劇『EDEN/エデン』が、9月5日(土)から劇場公開される。
監督は、『あの夏の子供たち』のミア・ハンセン=ラヴ。兄で20年間ガラージミュージックのDJとして活動してきたスヴェン・ハンセン=ラヴの体験を元に、90年代後半から00年代にかけてフランスのダンス・ミュージックシーンで起こったムーヴメント、“フレンチ・タッチ”の最中で生きた若者たちの姿をリアルに再現。20年に渡る軌跡を、「パラダイス・ガラージ」と「ロスト・イン・ミュージック」の2部構成で瑞々しく描き出した。実存する伝説のクラブで行われる音楽イベントやパーティーは、当時の様子そのままの熱気と華やかな空気が伝わってくる。DJたちがアメリカの人気DJたちとセッションする様子や、音作りする様子など、DJの活動を詳細に映し出しているのも興味深い。ガラージミュージックにハマった世代には懐かしく、初めて知る人にはその魅力が全編から伝わってくるだろう。
バブルのように人気が膨らみ、一転して挫折を味わうポールを演じるのは、22歳の時に本作の主役に抜擢されたフェリックス・ド・ジヴリ。若くしてアーティストだけでなく企業家の顔を持つフェリックスの、瑞々しくも堂々とした演技に注目したい。ポールと関わる女性たちには、ポーリーヌ・エチエンヌ(『愛について、ある土曜日の面会室』)、グレタ・カーヴィグ『フランシス・ハ』)、ローラ・スメット(『愛の残像』)、ゴルシフテ・ファラハニ(『彼女が消えた浜辺』)と、若手実力派女優が揃った。国籍もタイプも違う女たちとポールとの関係性の変化もリアルに描写され、ポールの揺れ動く内面を感じとることができるのだ。
フランス映画祭2015のゲストとして来日した共同脚本のスヴェン・ハンセン=ラヴ氏に、妹のミア・ハンセン=ラヴ監督と脚本を書くに至った経緯や、本作で描かれたガラージミュージックの魅力、当時の音楽的ムーヴメントを描くにあたって注力した点ついて、お話を伺った。また、『EDEN/エデン』トークショー@フランス映画祭2015でのスヴェン・ハンセン=ラヴ氏のトークも改めてご紹介したい。
―――ご自身の半生を反映させたような本作を妹のミア・ハンセン=ラヴ監督と作るに至ったきっかけは?
スヴェン:ミアは、以前に撮っていたのが三部作だったので、次は少し違う方向の映画を作りたいと考えていました。音楽が登場人物のように重要な映画であると同時に、90年代の若者についての映画を撮りたいと思っていたのです。私はその時代の音楽シーンである程度の役割を担っていたので、ミアの方から声がかかり、一緒に映画を作ることになりました。
―――脚本を書くにあたり、スヴェンさん自身の人生を振り返り、妹のミアさんが今まで知らなかったことを話すことは、大変な作業だったのでは?また、どのように分担したのですか?
スヴェン:ミアが描こうとした90年代はパリでも音楽的なムーヴメントが起こっていた時代です。日々、お祭りやパーティー、また友達の集まりなどがあり、そこからムーヴメントが起こってきました。ミアからは音楽的ムーヴメントを語るために、「当時、そこで何があったのか、思い出を語ってほしい」といわれました。決して、私自身のことを話してほしいと言われたのではありません。私の語った事柄をもとに、ミアがシナリオを書き、第一稿ができあがったのですが、そこにはすでに私が話したことからインスピレーションを得た話や、彼女自身が当時私を見ていた時の思い出から生まれたミアの創作も加わっていたのです。第一項の段階でフィクションが作られていき、そこに私が参加していきました。
―――冒頭に流れた曲で一気にガラージの世界に引き込まれたが、スヴェンさんから見たガラージミュージックの魅力とは?
スヴェン:どの音楽にも似ていないところが魅力的です。変わった音楽でもありますが、色々な音楽を合わせることにより、オリジナルな音楽が生まれています。ガラージは当時新しく、また革命的な音楽でした。ダンス的な踊り出したくなる要素がある反面、ゴスペル的な要素も入っています。有機的なところと構成音のコントラストも、非常に魅力がありますね。
―――映画では当時のDJの仕事ぶりや、クラブのライブなどが非常にリアルに再現されていましたが、それらを再現する際に一番こだわったことは?
スヴェン:ミアが重要視していたのは、嘘ではない本物を作ることです。そのためにディテールにこだわりました。DJが実際どうやって音楽を流すのか。それを正確に見せることが重要だと考えていたので、音楽シーンで重要な役割を担っている方に直接話を聞き、時には手取り足取りで教えてもらうこともありました。歴史ものを作っている時のように、お互いに意見を出し合い、専門家の助言を受け、間違いのないように注意して作っていきました。そこをいい加減にすると、後で非難されることをミアは分かっていたのです。
―――ポールの過ごした10年はポール自身だけでなくDJシーンの浮き沈みやパリで起こった音楽ムーヴメントの終焉を示唆しているようだったが、この時代を音楽シーンで生きたスヴェンさん自身は、この10年をどう捉えているか?
スヴェン:今振り返ってみると、最初の10年は実り豊かで、楽しかったです。毎日パーティーをし、様々な国にも行き、お金も儲けていました。全てが非常にうまくいっていたのです。ただ、未来のことは何も考えていませんでした。その後の10年は時が止まってしまい、まだ終わらないパーティーの中にいて、自分はずっとその中に浸かっているような感じがしていました。7~8年経ってようやく、私は目が覚めました。何も進化していない、ずっと同じことをしていると気づいた時から、私にとって人生で難しい時期が始まったのです。そこから未来を考えざるを得ない状況に追い込まれ、私は変わっていきました。
―――映画は音楽で始まって、ロバート・クリーリーさんの詩で終わるが、この詩への思いや、このようなエンディングにしようとした狙いは?
スヴェン:もともとロバート・クリーリーは私が好きだった詩人で、ミアに紹介しました。“The Rhythm”という詩を選んだのはミアです。最後に詩を挿入するのは、ミアの映画の世界観に合っていますし、詩の内容も映画にマッチしていたと思います。
―――スヴェンさんは、音楽から書くことへと今は方向転換したが、今後の活動予定は?
スヴェン:文学のマスターを得るのにあと1年あるので、それを終えたら一度フランスを離れてスペインに行きたいと思っています。そこでできれば書くことに没頭したいと思います。すでに作品は書いているのですが、また新しいものを海辺の小さな街で書ければと思っています。
(江口由美)
『EDEN/エデン』トークショー@フランス映画祭2015
―――『フランシス・ハ』に出演したグレタ・ガーヴィクさんをジュリア役に起用した理由は?
スヴェン:グレタさんは私もミアも大好きで、彼女が出演してくれるのは一つの夢でもありました。出演を了承してくれるかどうか不安でしたし、エージェントを通じて打診すると役が小さすぎると言われましたが、偶然にもグレタさんはミアの映画が好きで、すぐにやりたいと言ってくれました。少しのシーンですが、彼女の軽やかな感じが、作品に温かみを与えてくれたと思います。
―――今再びディスコやガラージが盛り上がってきているようですが、スヴェンさんから見て、この動きをどう思いますか?
スヴェン:一番大きな違いは、昔はこのようなクラブミュージックを聞いていた人が今より少なかったし、新しいミュージックを発見したという熱がありましたが、今は世界中で若者たちが様々なミュージックを聞いていて、彼らは自分たちの聞いている音楽の根っこが昔にあると知っています。
―――自身の役をフィリップさんにしようとした決め手は?
スヴェン:ミアがオーディションで、フィリップのことがすぐにいいと思ったのは、当時の若者の中にあったエネルギーを彼の中に感じたからです。フィリップスは音楽のことも知っています。音楽のことは門外漢という人は選びたくなかったのです。
―――フランスの文化を紹介する一方で、本作はアメリカの影響を強く受けていることを示していますが、その意図は?
スヴェン:確かにこの映画の中ではアメリカ文化のことを紹介していますが、フレンチ・タッチを紹介する映画でもあります。フレンチ・タッチというのはアメリカとフランスのつながりによって生まれた音楽です。フランスは昔からアメリカの黒人音楽に対する根強い愛着がありました。この映画は、ある意味フランスの伝統を表しているともいえますし、その絆がいかに美しいかということを示した映画でもあります。私の好きなシーンで、主人公がシカゴに行き、アメリカのDJに会うシーンがありますが、そこで二つの全く違う文化をもったDJの間に絆が生まれ、お互い違いはないのだということが分かります。
<作品情報>
『EDEN/エデン』
(2014年 フランス 2時間11分)
監督:ミア・ハンセン=ラヴ
出演:フェリックス・ド・ジヴリ、ポーリーヌ・エチエンヌ、ヴァンサン・マケーニュ
配給:ミモザフィルムズ
2015年9月5日(土)~新宿シネマカリテ、大阪ステーションシティシネマ、今秋~京都シネマ、元町映画館ほか全国順次ロードショー
公式サイト ⇒ http://www.eden-movie.jp/
© 2014 CG CINEMA - FRANCE 2 CINEMA – BLUE FILM PROD– YUNDAL FILMS
『EDEN/エデン』共同脚本スヴェン・ハンセン=ラヴ、主演フェリックス・ド・ジヴリトークショー@フランス映画祭2015はコチラ