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『ボヴァリー夫人とパン屋』アンヌ・フォンティーヌ監督インタビュー

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『ボヴァリー夫人とパン屋』アンヌ・フォンティーヌ監督インタビュー
 

~小説『ボヴァリー夫人』に美しき隣人を重ねて・・・文学好きパン屋の危険な妄想~

 
フランスを代表する小説家ギュスターヴ・フローベールの傑作『ボヴァリー夫人』をモチーフに、小説好きの主人公が、美しく奔放な人妻に『ボヴァリー夫人』の悲劇のヒロイン、エマを重ねることで起こる物語を描いた『ボヴァリー夫人とパン屋』。
 
文学好きのパン屋、マルタンを演じるのは、『屋根裏部屋のマリアたち』『危険なプロット』の名優、ファブリス・ルキーニ。隣人の英国人人妻、ジェマを演じるのは『アンコール!!』のジェマ・アータートン。はまり役と言わんばかりの2人の演技が、物語にリアリティーを添える。『ココ・ヴァン・シャネル』『美しき絵の崩壊』のアンヌ・フォンティーヌ監督が、美しいフランス西部ノルマンディーの小さな村を舞台に、官能的かつ、ユーモアを交えて描き出した覗き見の恋物語は、ファンタジックであり、探偵もののような趣もあり、プラトニックラブもあり、妄想物語でもある。まさに味わい深いジャンルレスな作品だ。
 
女優業をされていたこともあってか、インタビュー後の写真撮影では「私は笑わないの」と、キリリとした表情でこちらを見つめてくださったアンヌ・フォンティーヌ監督。キャスティングの経緯や、本作で描いた「欲望」についてお話を伺った。
 
『ボヴァリー夫人とパン屋』アンヌ・フォンティーヌ監督トークショー@フランス映画祭2015 はコチラ
 
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  <ストーリー>
マルタンは出版社務めの後に、ノルマンディー美しい村でパン屋を営む文学好きな男。ある日、向かいに引っ越してきた英国人のチャーリーとジェマ・ボヴァリーを見て、愛読している『ボヴァリー夫人』の悲劇のヒロイン、エマを重ねるようになる。毎日パンを買いに来るジェマと少しずつ世間話をするような仲になるマルタンだったが、ある日、ジェマが年下の男のもとに向かう現場を目撃。小説のエマのように服毒自殺を図るのではと妄想が膨らんでいったマルタンは、ある行動に出るのだったが・・・
 

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―――本作の原作と出会ったきっかけや、本作を映画化するに至った経緯は? 
アンヌ・フォンティーヌ監督(以下監督):私がよく仕事をしているプロデューサーの机の上に偶然ポージー・シモンズさんの本が置いてありました。本のタイトル(『Madam Bovery』)や、表紙の絵がミステリアスで興味を惹かれました。本を借りて読んでみるとファンタジーに満ちており、とても面白い方法でフランス文学における伝説的人物である『ボヴァリー夫人』をモチーフとして扱っていました。ポージーが持つ描き方のトーンに惹かれ、ぜひ映画にしたいと思ったのです。 
 
―――パン屋という設定は原作でもあったのですか? 
監督:主人公がパン屋であること、ノルマンディーという舞台や、隣に引っ越してきたのが英国人夫婦なのは原作どおりです。他に映画の中で私が書き足したシーンもあります。 
 
―――具体的に、どんなシーンを書き足して物語を膨らませたのですか? 
監督:例えば、ファブリス・ルキーニ演じるパン屋のマルタンが、ジェマにパンをこねることを教える少しエロチックなシーンは、映画のために書きました。またラストも映画のために書いたシーンです。原作コミックの精神を踏襲し、書き加えていきました。 
 
―――主人公マルタンを演じたファブリス・ルキーニは、彼なくして本作はありえなかったというぐらい、まさにはまり役でしたが、キャスティングの経緯は?
監督:ファブリス・ルキーニとは旧知の仲で、映画を一緒に作ったこともありますし、演劇でもご一緒しているので、原作本を読んだときに、知的な文学狂のパン屋を演じられるのは彼しかいないと思いました。彼個人がフローベールの大ファンで、普段からもボヴァリー夫人のことを話していますから。彼はとても面白い人なので、即興などももちろん取り入れて演じてくれました。(トークショーでは、ルキーニが自分の娘をボヴァリー夫人の名前、エマと名付けたことや、初めて一緒に食事をしたときからボヴァリー夫人について熱く語っていたエピソードを披露) 
 
―――冒頭はファブリス・ルキニ演じる主人公のモノローグが挿入されていますが、その狙いは? 
監督:冒頭、ファブリス・ルキーニが観客に向かって語りかけるのは、彼がまるであの作品の映画作家であるような印象を与えたかったのです。映画において、あのようにカメラに語りかけるのは珍しいのですが、一つのスタイルとして選択しました。 
 

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―――ヒロインのジェマを演じたジェマ・アータートンさんも、艶やかで、とても魅力的ですが、起用理由は? 
監督:ジェマ・アータートンは、ポージー・シモンズさん原作の作品に出演経歴があるので、あえて起用は避け、他の英国人女優をオーディションしていたのですが、あまりしっくりきませんでした。ジェマは偶然ヒロインと名前も同じですし、役に合っていることは分かっていたので、最終的にはジェマと会いました。彼女が部屋に入ってきた一瞬にして、すごく官能的で、親しみやすく、モダンでありながらもクラシックな感じを抱いたのです。この役はエマ(『ボヴァリー夫人』のヒロイン)とジェマを両方演じられるようなモダンかつクラシックな素養が必要ですが、ジェマ・アンダーソンはまさにそれを体現している人物でした。 
 
―――わさびは芸者のように日本に関係あるものが登場しますが、監督は日本文化に関心があるのでしょうか?また影響を受けた映画監督は? 
監督:日本料理や日本文化も好きですし、ユーモアの一環で、今回(わさびや芸者を)使ってみました。今まで日本に関する作品を撮ったことはありませんが、東京は映画作家にとってインスピレーションを与える街だと思います。おすすめの日本を題材としたテーマがあれば教えてください。また影響を受けたのは、小津安二郎監督です。 
 
bovary-500-1.jpg―――本作はフランスですでに大ヒットしていますが、フランスの観客の心を掴んだ理由をどう分析していますか? 
監督:そうですね。コメディーですが、洗練されていることや、笑いの質としては残酷であったり、ブラックなところもあり、アングロサクソン的な笑いが評価されたのかもしれません。いずれにせよ、いい映画と思っていただいているからヒットしたのでしょう。 
 
 
―――『美しい絵の崩壊』も本作も「秘めたる欲望」を堂々と描いている印象がありますが、その意図は?
監督:欲望という点でいえば、本作はファブリス・ルキーニ演じるマルタンの欲望、投影による愛を描いています。ジェマはマルタンの妄想の人物でありながら、同時に現実に存在している人物です。現実とフィクションの間で心理学でいうトランスファー(転移)の状態にあるわけですが、その投影の愛はプラトニックで、それがマルタンの愛の構造です。 
 
『美しい絵の崩壊』はドラマツルギーで前代未聞の親友の息子に恋してしまうという、ありえない状況の愛や欲望の実現を取り上げています。両方の共通点をあげるなら、普段描かれない影の部分、人間のコントロールから外れ、難しい道に入ってしまう人々を描いているところにあると思います。 
 
―――次回作について、教えてください。 
監督:撮影が終わり、現在編集中の作品があります。1945年終戦前のポーランドの修道院が舞台で、32人の女優が修道女を演じています。赤十字で働く主人公にはルー・ドゥ・ラージュを起用し、彼女が修道院の女性たちと関わっていく物語です。他はポーランドの女優を起用していますが、『イーダ』で叔母役を演じたアガタ・クレシャも出演しています。 
(江口由美)

 
<作品情報>
『ボヴァリー夫人とパン屋』“Gemma Bovery”
(2014年 フランス 1時間39分)
監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:ファブリス・ルキーニ、ジェマ・アータートン、ジェイソン・フレミング、ニールス・シュナイダー
配給:コムストック・グループ 
公式サイト ⇒ http://www.boverytopanya.com/
7月11日(土)~シネスイッチ銀座、8月1日(土)~テアトル梅田、T・ジョイ京都、今夏、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー
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