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『ボヴァリー夫人とパン屋』アンヌ・フォンティーヌ監督トークショー@フランス映画祭2015

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『ボヴァリー夫人とパン屋』アンヌ・フォンティーヌ監督トークショー@フランス映画祭2015
 
『ボヴァリー夫人とパン屋』“Gemma Bovery”
(2014年 フランス 1時間39分)
監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:ファブリス・ルキーニ、ジェマ・アータートン、ジェイソン・フレミング、ニールス・シュナイダー
配給:コムストック・グループ 
7月11日(土)~シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
© 2014 – Albertine Productions – Ciné-@ - Gaumont – Cinéfrance 1888 – France 2 Cinéma – British Film Institute
 

~小説『ボヴァリー夫人』に美しき隣人を重ねて・・・文学好きパン屋の危険な妄想~

 
フランスを代表する小説家ギュスターヴ・フローベールの傑作『ボヴァリー夫人』をモチーフに、小説好きの主人公が、美しく奔放な人妻に『ボヴァリー夫人』の悲劇のヒロイン、エマを重ねることで起こる物語は、思わぬ展開に最後はニンマリせずにいられなくなる。『ココ・ヴァン・シャネル』『美しき絵の崩壊』のアンヌ・フォンティーヌ監督が、美しいフランス西部ノルマンディーの小さな村を舞台に、官能的かつ、ユーモアを交えて描いた覗き見の恋物語は、文学的エッセンスが心地よく、フランス人社会で格闘するイギリス人の描写も興味深い。
 
文学好きのパン屋、マルタンを演じるのは、『屋根裏部屋のマリアたち』『危険なプロット』の名優、ファブリス・ルキーニ。隣人の英国人人妻、ジェマを演じるのは『アンコール!!』のジェマ・アータートン。はまり役と言わんばかりの2人の演技が、物語にリアリティーを添える。
 
本作のアンヌ・フォンティーヌ監督が、上映後のトークショーに登壇。キャスティング秘話や、『ボヴァリー夫人』の解釈について多彩なトークが展開した。その模様をご紹介したい。
 
 
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<ストーリー>
マルタンは出版社務めの後に、ノルマンディー美しい村でパン屋を営む文学好きな男。ある日、向かいに引っ越してきた英国人のチャーリーとジェマ・ボヴァリーを見て、愛読している『ボヴァリー夫人』の悲劇のヒロイン、エマを重ねるようになる。毎日パンを買いに来るジェマと少しずつ世間話をするような仲になるマルタンだったが、ある日、ジェマが年下の男のもとに向かう現場を目撃。小説のエマのように服毒自殺を図るのではと妄想が膨らんでいったマルタンは、ある行動に出るのだったが・・・
 

■小説『ボヴァリー夫人』に心酔するファブリス・ルキーニ、主人公は彼以外には考えられなかった。

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―――監督はファブリス・ルキーニさんとは長い付き合いがあるそうですが、最初の出会いは?
アンヌ・フォンティーヌ監督(以降監督):ファブリスさんはとは私が若い頃、女優をしていた時代に、『フロップ』という映画の撮影現場で会いました。ファブリスさんは、とても変な絵の先生役をしていたのですが、ディナーの誘いを受けたので、ナンパされたのかと思ったら、そこで『ボヴァリー夫人』の話を延々聞かされたのです。ファブリスさんはそれぐらい『ボヴァリー夫人』のことが好きなのです。なにせ、自分の娘をエマと名付けるほどですから。
 
 
―――今回のオファーは、二つ返事だったのでは?
監督:もちろん彼としては拒絶するなんて考えられないでしょう。彼はもちろんフランスでとても有名な俳優ですが、様々なものが混合している不思議なところがあり、セレブだけれど、それだけではない部分もあります。主人公の知的なパン屋というのは彼以外には考えられませんでした。
 
 
―――次の監督作品にルキーニさんが出演されるなら、監督がぜひ彼を連れてきてほしい。
監督:ルキーニは決して飛行機に乗らない人なのです。彼は変わった人物なので、奇妙なことをするのを許してください。お客様からのメッセージは、伝えておきます。(船て来てはどうかと振られて)それはいいですね。船は時間がかかるので、今、この場に日本のプロデューサーもいらっしゃるでしょうから、船で移動する間に映画を撮るプロジェクトにお金を出していただければ(会場から拍手!)。
 

■出会って2秒でジェマ・アータートンをヒロインと確信

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―――ジェマさんをヒロインに起用したきっかけは?
監督:彼女に会う前に、何人か英国人女優に会いましたが、これと思える方に出会えずにいたところ、最終的にジェマさんが部屋に入ってきました。入室してマフラーをとった2秒間で、この人物しかいないと思いました。本当に彼女の魅力には女性であれ、男性であれ、ゲイであれ、犬であれ抵抗できないと思います。
 
 
―――(女優のお客様から)監督の作品に出演するにはどうしたらいいですか?
監督:何語を話されますか?実はヒロインのジェマさんは最初、「ボンジュール、アンヌ」しかフランス語を話せなかったのです。そのあと、ジェマさんは撮影前に3ヶ月フランスに滞在し、言葉と文化を学びました。撮影では即興でセリフを繰り出すファブリスさんにその場で対応できるようになっていました。ですから、あなたも希望がありますよ。
 

■『ボヴァリー夫人』のエマは時空を超え、誰もが自己投影できるヒロイン

―――監督ご自身は『ボヴァリー夫人』という小説をどのように解釈しているのか? 
監督:私は17歳で初めて『ボヴァリー夫人』を読みました。そして、エマは時空を超えた普遍的なヒロインで、21世紀のどこにでもいるような女性です。私が彼女を定義するなら、リンゴの木の下に立っていてナシを欲しがる女性です。イギリスの絵本作家、ポージー・シモンズさんは原作の小説をオリジナルの手法でマンガにしていますが、原作のバイオレンスな自殺とはトーンが違いました。フランス文学のヒロインの運命を現在のイギリス人の運命に重ねるところが面白いと感じました。
 

■辛辣なコメディーと特別なエロチシズム(妄想)の物語

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―――フランスでは一般教養として皆が『ボヴァリー夫人』を読んでいるのか?
監督:フランスでも全員読んでいるわけではありませんが、学校で課題として読むものなので、多くの人が目にしていると思います。フローベールは男性なのにも関わらず、こんなに細やかに女性心理を描写してみせるところが、素晴らしいです。私たちは皆ボヴァリー夫人のような部分、人生の中に何かもっと楽しいものがあるのではないかと思っていますから、誰もがポヴァリー夫人に自己投影できるのではないでしょうか。ファブリスさん演じる文学好きのパン屋役は、ウディ・アレンさんのように演じてほしいとお願いしました。まさに、現実生活よりもフィクションの方が楽しいと思っている人物にしたかったのです。
 
 
―――この作品はコメディーやサスペンスなど様々な要素が含まれているが、監督ご自身はどう捉えているのか?
監督:これは辛辣なコメディーだと思います。最後は可笑しいですよね。このお話は原作のグラフィック・ノベルのアングロサクソン的な残酷さと辛辣さが混じったトーンになっています。この映画で描かれるもう一つのテーマは直接的ではなく、特別なエロチシズムで、パンをこねるシーンでも、間接的に(ジュマとの愛を)妄想している人物なのです。
(江口由美)

フランス映画祭2015
6月26日(金)~29日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場)にて開催!