映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2014年9月アーカイブ

batuichi-b-550.jpg『バツイチは恋のはじまり』主演のダニー・ブーン トークレポート《フランス映画祭2014》

(2014年6月30日 東京有楽町・朝日ホールにて)

《フランス映画祭2014・観客賞受賞作》
(Fly Me to the Moon 2012年 フランス 1時間44分)
監督:パスカル・ショメイユ
出演:ダイアン・クルーガー、ダニー・ブーン、アリス・ポル、ロベール・プラニョル、ジョナタン・コアン

2014年9月20日(土)~ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、11月~京都シネマ 他全国順次公開

★公式サイト⇒ http://www.batsu-koi.com/

(C)2012 SPLENDIDO QUAD CINEMA / TF1 FILMS PRODUCTION / SCOPE PICTURES / LES PRODUCTIONS DU CH'TIMI / CHAOCRP DISTRIBUTION / YEARDAWN


 ★ダニー・ブーン、コメディアン本領発揮!
こんなダイアン・クルーガー見たことない!クール・ビューティも破顔の爆笑コメディ!!

 
batuichi-1.jpg家系的に1度目の結婚は必ず失敗するというジンクスを抱えたイザベル(ダイアン・クルーガー)は、10年も同棲中の恋人との結婚を成功させるため、誰でもいいから偽装結婚してバツイチになろうとする。そこで選んだ相手がツアーガイドのジャン=イヴ(ダニー・ブーン)だったが、中々離婚できずに悪戦苦闘するという物語。お話に無理があるだろうと思って見たら、とんでもない!パリからデンマークへ、さらにケニアやモスクワへとワールドワイドのロケも魅力的だが、何と言ってもお人好しジャン=イヴを演じたダニー・ブーンの美女イザベルに翻弄されまくる“困ったチャン”ぶりが可笑しい!


batuichi-7.jpg特に、ケニアでのライオンに遭遇するシーンや歯医者さんでのシーンや脱毛のシーンなどは傑作!行く先々で繰り広げられる二人の珍道中を見ているうちに、いつしか「自分にとっての本当の幸せとは何か」を考えさせられる。イザベルのどんな嫌がらせにも寛大に応えるジャン=イヴの一途さがいい。「気持ち良く心の底から笑えるのが一番!」というダニー・ブーンの品のいいコメディセンスが心に響く、傑作コメディだ。
 


2014年6月30日、東京有楽町にある朝日ホールにて開催された《フランス映画祭2014》のクロージングを飾った本作は、上映後に主役のダニー・ブーンが登壇して、増々会場は大盛り上がり! 観客の質問にもジョークで切り返すあたりは、さすがだ!


batuichi-b-3.jpg――― オープニングセレモニーに登壇されなかったので、来日できないのかと心配しましたが?
フランスから日本へ車で来たものですから、ちょっと時間が掛かってしまいました(笑)

――― コメディの王様と言われているダニー・ブーンさんですが、本作への出演理由は?
やっぱダイアン・クルーガーでしょう!? 他にどんな理由があると言うんです?(笑)
とにかくシナリオが面白くて!ラブコメも好きですが、パスカル・ショメイユ監督の作品へのアプローチの仕方や映画の撮り方が好きでしたので、出演したいと思いました。それに、今回シネマスコープによる撮影だったり、フランスだけでなくケニアやモスクワへ行ったりととても大変でしたが、素晴らしく美しい映像や、エレガントなユーモアで綴られているころが良かったです。

――― お好きなシーンは?
面白かったのは歯科院でのシーンですね(笑)。顔にいっぱいメイクされましたが。ワンマンショーでは体を使って笑わせることが多いので、それを映画に取り入れることができました。それと、髪の毛を失くしてしまうシーンです(笑)。

――― ジャン=イヴみたいに、女性にどんな身勝手なことをされても平気ですか?
もし私の妻が脱毛剤を使ったら、やはり怒るかな?20年前だったら、彼みたいに優しかったけどね(笑)。

batuichi-6.jpg――― 理想とする笑いのとり方とは?
心からくる笑いが一番好きです。言葉による笑いと体によるものとを結び付けるのが重要だと思います。リアリティのある状況を演じないと心から笑えません。そのためには、心のこもった人間味を出していかなければなりません。そのシチュエーションをリアルに生きることが笑いに繋がると信じています。下品なことを言って笑いをとるのは好きではありません。子供が笑ってくれるかどうかが私の基準です。

――― ライオンが登場するシーンは?
最初ライオンと一緒に出演して下さいと言われましたが、ライオンが「イヤだ!」と言ったので別々に撮影しました(笑)。いくら調教師が優秀でも、もしもの事が起きると、テイクの度に交代の俳優を用意しなければなりませんからね(笑)。
ケニアのセレンゲティ国立公園での撮影でした。宿泊していたロッジの近くにヒョウの家族が住んでいるので注意するよう言われていたので、ダイアンにもその事を伝えたのですが、彼女は「また冗談ばっかり言って!」と本気にしなかったんです。ところが、夜ダイアンがシャワーを使おうとしたら、そこにヒョウが待っていたんです。「ヒョウに会ったら叫ばず、背中を向けるな」と教えられていたので、彼女はそのまま後ずさりして無事でした。ヒョウの方も、裸のダイアンに興味なかったようです(笑)。ボクもヒョウの前を通ったのですが、大きなネコだと思って気付きませんでした(笑)。
その後も、サファリカーが火事になったり、灌木の中で道に迷ったりと、いろんなことが起こって、大変なロケでした。

――― マサイ族の人たちについて?
セリフのあるマサイ族の酋長役の人は、フランス語ができる弁護士で、演劇学校へ行って勉強した人なんですが、彼が一番NGを出していました。言葉の通じない他のマサイ族の方が上手に演じていました(笑)。

batuichi-b-4.jpg――― 監督もされていますが、製作意欲は?また、役者として出演する時のポイントは?
監督として大切なことはアイデアを出すことです。そのためにはシナリオに時間をかけること。1年~2年ぐらいは物語やアイデアをずっと考えて温め続けています。
役者と監督との違いは、シナリオの読み手として面白いかどうかを判断できることです。自分の出番が何ページあるかと数えたりはしません、他の俳優さんのようにね(笑)。出番は少ないのにポスターでは一番前にしてくれとか、そんなことを言う俳優さんを後で教えますね(笑)。
物語が感動を与えられるか、笑えるか、監督がそれまでどんな作品を作ってきたかなどを考え、監督とシナリオの読み合いをして決めます。今まではいい監督と作品に恵まれてラッキーでした。これからも続くかどうか分かりませんが(笑)。

――― 監督経験のある役者は、物分かりが良く使いやすいとジャン=ポール・サロメ監督が仰ってましたが、ご自身は如何ですか?
監督をしてみて分かったことは、待機時間が長い理由です。待たされるからいい椅子を選んでおいた方がいいよと言われました。監督の経験があるので、自分の身を監督に任せようという気持ちになれます。さらに、編集の重要性を分かっているので、シーンとシーンの繋がりを重要視するようにもなるのです。

――― アドリブはどの程度入れるのですか?
割と沢山入れます。ジャン・ピエール=ジュネ監督の『ミックマック』の場合は、アドリブを制限されていました。クローズアップのシーンで、涙を流して下さいと言われたので流したら、監督が「反対側の頬で」と言われました(笑)。


終始冗談ばかり言って会場を沸かせていたダニー・ブーン。ダイアン・クルーガーが「ヒョウに気を付けろ」と言われても本気にしなかった理由がよくわかる。きっと撮影中もこの調子だったのだろう。毒舌で他者をけなしたり、下品なことを言ったりして笑いをとるのではなく、チャップリンのような悲哀を秘めた人物像で喜劇を演じられる役者のように感じた。心の底からこみあげる笑いで人々を魅了し、《フランス映画祭2014・観客賞》に輝いたのもうなずける作品だ。

(河田 真喜子)

ive-t-550.jpg『イヴ・サンローラン』ジャリル・レスペール監督トークレポート 
《フランス映画祭2014》

日時:2014年6月27日(土)16:50~17:30/場所:有楽町朝日ホール
登壇者:「イヴ・サンローラン」ジャリル・レスペール監督、「エルジャポン」塚本香編集長、東京国際映画祭プログラミングディレクター矢田部吉彦氏

(2014年 フランス 1時間46分)
監督:ジャリル・レスペール 
出演:ピエール・ニネ、ギョーム・ガリエンヌ 、シャルロット・ル・ボン、ローラ・スメット、ニコライ・キンスキー 

2014年9月6日(土)~角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、T・ジョイ京都 他全国ロードショー

★作品紹介⇒ こちら
★ピエール・ニネ来日レポート⇒ こちら
★公式サイト⇒ 
http://ysl-movie.jp/
(C)WY productions - SND - Cinefrance 1888 - Herodiade - Umedia


 ★フランスモード界の寵児イヴ・サンローラン、財団初公認の本格伝記映画 

~繊細過ぎた天才デザイナーの華麗なる人生の光と影~

 

ive-1.jpg日本でも大人気ブランドの創始者、イヴ・サンローラン。若くしてモード界のトップに立ち、時代が大きく変わろうとした50年代後半から70年代にかけて、時代を先取りしたデザインで社会変革をファッション界から推進した先駆者でもある。それまでの女性のスタイルを根本から変えたパンツスタイルを生み出し、女性の社会進出と地位向上に貢献した。本作は、その天才的ファッションデザイナー、イヴ・サンローランの華麗なる人生の光と影を、公私共にパートナーだったピエール・ベルジェの視点から描いたラブストーリーである。
 

ive-2.jpg今回の映画製作には、ピエール・ベルジェ氏が全面協力し、イヴ・サンローラン財団所有の貴重なデザイン画や衣装が使用された、財団初公認作品ということにも注目が集まっている。また、イヴ・サンローランを演じたピエール・ニネは、持ち前のエレガントさと熱意が認められて起用され、ミステリアスな天才の人生を繊細に体現している。さらに、今回天才へのアプローチ役となったピエール・ベルジェを演じたギョーム・ガリエンヌ。二人とも国立劇団コメディ・フランセーズ在籍する俳優だが、ギョームの役者として人生の先輩としての貫録ある演技が、作品のクオリティを高める要因となっている。

 


 《フランス映画祭2014》で来日したジャリル・レスペール監督が登壇し、会場の観客からの質問に答え、制作秘話や撮影の裏話などを披露。この上映会では、前売チケットが真っ先に完売する売れ行きを見せ、当日は有楽町朝日ホールが満席となった。

(敬称略)

――― 塚本さんにとって、イヴ・サンローランとはどのような存在?
塚本:20世紀を代表するデザイナーの一人であると同時に、洋服のデザインだけでなく、女性や社会の意識を変えた重要な人です。それまで男性の服だったスモーキング・スーツを女性が身に着けることは、女性解放という時代の空気を生み出した重要な事件だったと思います。

 

ive-t-1.jpg―――「イヴ・サンローランに、ソックリ!!」ですが、俳優ピエール・ニネは「つけ鼻」?
レスペール監督:映画の冒頭は彼自身の鼻のままですが、晩年病気とアルコールの影響で老化した姿の最後のシーンは特殊メイク(つけ鼻)を使用。ニネの素顔はイヴ・サンローランに似ている訳ではなく、むしろ天性のエレガンスと立ち振る舞いが似ていたのです。この役を演じるには、若くて、準備が大変なので仕事熱心、舞台経験があり演技の基礎がしっかりしている俳優が条件でした。
ピエール・ニネとの出会いで「彼しかいない!」と思いました。5カ月の準備期間には、数々の記録映像を参考に、振る舞いや声、話し方のボイストレーニングを受けたり、デッサンのコーチについてマスターし、サンローランの現デザイナー、エディ・スリマンのスタジオに行き実際のクチュリエの仕事を体験したり、ショーのバックステージを見学したりしました。

 

ive-3.jpg――― イヴ・サンローラン財団から貸し出された、大量の本物の衣装と圧巻のファッションショーはどうやって実現!?
レスペール監督:私は最初からオリジナルのデザインやデッサンを使いたいと思っていましたので、ピエール・ベルジェ氏に会って協力して頂くことが最優先でした。そこで、1年位の準備期間中、アドバイザーとして、さらに、財団が保管する美術品のような衣装を使わせてもらえるという、全面的な協力を得ることに成功したのです。
ピエール・ベルジェ氏は、「バレエ・リュス」のショーの撮影で、当時を思い出したのかモニターの前で号泣していました。その時、現場に遊びに来た僕の3歳の娘が、ベルジェの膝の上に乗って彼を慰めていたのが、何とも感動的でした。
でも、モデルのウォーキングを注意したり、色々とダメ出ししたりしてきたので、次のカットでは、バックステージで彼が当時やっていたようにショーを取り仕切ってもらったんです。

 

――― 主演ピエール・ニネが、あまりに似すぎて、サンローランの飼っていた犬が懐いたというのは本当!?
レスペール監督:それは本当です。映画の撮影前に写真撮影をしにイヴ・サンローランのアトリエを訪れた際、サンローランが飼っていた犬がたまたまアトリエにいて、ピエール・ニネに大興奮で飛びついてきたんです。ただ私は犬の言葉がわかりませんので、サンローランだと間違えて懐いていたのか、犬の本当の気持ちはわかりませんが(笑)。

 

ive-t-2.jpg――― ギョウム・ガリエンヌ起用については?
レスペール監督:50~60年代のピエール・ベルジェ氏はそんなに有名な人ではなかったので、肉体的に似せる必要はありませんでした。ただ、とても教養のある文化人でしたので知性面を体現できて、さらに、カッとしたり暴力的になったりと感情的な面もあったので、そうしたものを秘めた演技ができることが重要でした。また、ピエール・ニネがとても若いので、役者としても成熟したピュアなもの持った人を選考しました。
ギョーム・ガリエンヌは、感動的な存在感を示せるとても優秀な役者です。今フランスでは彼が監督主演した『不機嫌なママにメルシィ!』という映画が大ヒットしていますが、それは彼が持つマルチな才能の証明だと思います。

 

――― ヴィクトワールとの関係性については事実ですか?
レスペール監督:それは史実です。どんなカップルにも波乱はあります。特に、ヴィクトワールの存在が大きく成り過ぎて、三角関係が危うくなってきたのです。彼女はブランド立ち上げにも全面的に協力した功労者の一人でしたが、会社はあくまでもイヴ・サンローランとピエール・ベルジェの二人のものであって、3人目のヴィクトワールは余計な存在となってきたのです。それであのように強引な方法で彼女を追放してしまったのです。

 

ive-t-3.jpg――― 塚本さんはイヴ・サンローランの史実についてはご存知でしたか?
塚本:彼の人生については大体知っていました。ルル・ド・ラ・ファレーズやベティ・カトルーとの関係も知っていました。ですが、ジャック・ド・バシェールがカール・ラガーフェルドの恋人だったなんて、全く知らなかったので驚きました。カール・ラガーフェルドはこの映画を見てどう思ったのか?それを知りたいです。
レスペール監督:カール・ラガーフェルドの所で働いている人を通じて聞いた話だと、この映画の公開時にカール・ラガーフェルドは戦々恐々としていたが、映画を見に行った人から「君のことを侮辱して描いているシーンは一つもないよ」と聞いて、とても安心したようです。

 

――― ドキュメンタリー映画『イヴ・サンローラン』が公開されているので、今回ドラマを製作する際に気を遣った事とは?
レスペール監督:それは障害にはなりませんでした。監督というものは、なぜだか分からないが撮りたくなる。それはどこへ行くか分からない夜行列車に乗るようなものだ(フランソワ・トリュフォーの言葉)。イヴ・サンローランとピエール・ベルジュのラブストーリーは、私の心の琴線に触れたので描きたかったのです。今まで撮ってきた3本の映画全てがそうですが、愛の中でパートナーと一緒にいることの必要性、一人ではできないことでも二人なら生きていけるということを常に描いてきました。理想のカップルが様々な困難を乗り越えて、人生を共に過ごすことは可能なんだということを示しています。それこそが、人生に意味を与えていることを描きました。


 ive-4.jpg<STORY>
1957年、パリ。クリスチャン・ディオールの死後、21歳の若さでディオール社の主任デザイナーに就任したイヴ・サンローランは、一躍世界の注目を集める。その若き天才は、初めてのコレクションを大成功させ、センセーショナルなデビューを飾る。その後、芸術家の支援をしていた26歳のピエール・ベルジェにディナーの席で出会い、二人は恋に落ちる。デザイナーとしての才能と、エレガントで美しい容姿のイヴにベルジェが一目惚れ。兵役に行ったイヴが精神的に病んで苦境に陥ったところをベルジェが助け、デザイナーとして独立させたり、イヴ・サンローラン社を設立したり、公私共にパートナーとなる。そして、運命を共にするふたりは、世界のファッション界を変えるほどの影響力を発揮していくことになる。
しかしその一方で、繊細すぎる天才肌のイヴは、次々と新作を発表しなければならないクリエーターとしてのプレッシャーに耐えられなくなり、薬物やアルコール、セックスに依存するようになっていく……。

 (河田 真喜子)