映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2019年6月アーカイブ

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6/20(木)~23(日)の期間に開催された「フランス映画祭2019 横浜」は大好評のうちに閉幕し、上映時に配布したアンケートによって集計される「エールフランス観客賞」は、ミッシェル・オスロ監督の『ディリリとパリの時間旅行』が見事受賞した。ベル・エポックの美しいパリを散歩するような楽しさと、主人公ディリリたちと真相を究明する探偵もののようなスリリングさ、そしてクライマックスのエッフェル塔で繰り広げられる幻想的なシーンなど、見どころ満載。名匠ミッシェル・オスロ監督のアニメーションが持つ魅力を存分に堪能した観客に大いに支持された、本作は、8月24日からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開される。

ベル・エポック時代のパリ散歩を楽しんで!『ディリリとパリの時間旅行』ミッシェル・オスロ監督トークショーはコチラ

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満席となったオープニング作品『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』の上映を皮切りに、長編15作品と短編1作品を上映。6/21(金)夜には、フランス代表団・団長のクロード・ルルーシュ監督の新作『男と女 人生最良の日々』の上映に、横浜生まれで女優の岸惠子さんが登場。ルルーシュ監督とトークを繰り広げ、名匠と名女優の共演に会場は大いに盛り上がった。

「二人の老い方がとっても素敵だと思いました。日本でも若い人の話ばかり作らないで、年寄りがたくさんあふれているのですから、大人が観るのに耐えうる映画を作ってほしいと思います」と本作の魅力と共に日本映画界への本音を語った岸恵子さん。幸運なことに、82年間私は映画に恋をし、人生に恋をし、この2つを愛し続けてきました。この二重のラブストーリーのおかげで、私は50本の映画を作ることができたのだと思います」と映画の力について語ったルルーシュ監督。実に若々しい名匠の魂の言葉に会場全体が大きな拍手に包まれた。

ルルーシュ監督をはじめ、来場ゲストが横浜市立大学、東京藝術大学、早稲田大学で学生に向けたマスタークラスを開催し、若い世代と交流したのも非常に意義深い。劇場未公開作品も多数上映され、社会派の作品がいつになく多かったのも今年の特徴だった。

 

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関連企画として横浜赤レンガ倉庫1号館で「ミッシェル・オスロ『ディリリとパリの時間旅行』展」を開催。制作の裏側や登場人物のキャラクターデザイン、スケッチが展示され、映画の魅力をより感じられる企画だった。京都会場での上映や劇場で、「フランス映画祭2019 横浜」で上映されたフランス映画をぜひ楽しんでほしい。

(江口由美)


フランス映画祭2019 横浜

期間:620日(木)~623日(日)

会場:みなとみらい地区中心に開催

(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)

主催:ユニフランス

公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2019/

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『カブールのツバメ』ザブー・ブライトマン監督、エレア・ゴべ・メヴェレック監督インタビュー
 
 1998年、タリバン勢力下にあるアフガニスタンのカブールを舞台に、女性の人権が徹底的に奪われた環境に抗い、国外脱出を夢見るカップル、ズナイラ、モーゼンと、女性死刑囚の看守アディク、病床の妻ムラサトの運命が絡み合う社会派アニメーション『カブールのツバメ』が、6月21日、イオンシネマみなとみらいで開催中のフランス映画祭2019 横浜で日本初上映された。
 
 監督は『ラ・ブーム2』他に出演し、女優として活躍する他、映画監督やオペラ演出も手がけているザブー・ブライトマンと、初監督作の短編「MADAME」(06)がアヌシー国際アニメーション映画祭に出品され、本作が初の長編作品となるエレア・ゴべ・メヴェレック。フランス在住のアルジェリア人作家、ヤスミナ・カドラによる「カブールの燕たち」を原作に、非常に重たいテーマをアニメーションの水彩画のタッチとシンプルな線で描写し、想像の余地を残したヒューマンドラマになっている。
 
 ジタ・アンロ、スワン・アルロー、シモン・アブカリアン、ヒアム・アッバスら声の出演者も名優揃いで、キャラクターデザインは演じた俳優たちから描かれているので、劇映画のような味わいもある。イスラム原理主義に基づくタリバンの指揮下で、女性を虐げることが当然のような空気の中、ある出来事がきっかけで、自分の中の良心に問いかけ、人として正しいことをしようと格闘する登場人物たちの姿は、辛い現実を超えて、ささやかでも確かな希望の火を灯す。日本ではなかなか見ることのできない社会派アニメーションは、まさに必見だ。
 
 本作のザブー・ブライトマン監督とエレア・ゴべ・メヴェレック監督に、お話を伺った。
 

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■アニメで描くことで残酷なシーンも想像の余地を残し、和らげることができる(ブライトマン監督)

―――ヤスミナ・カドラさんの原作と出会ったのはいつ頃ですか?また本作をアニメーションで映画化した狙いについて教えてください。
ブライトマン監督:映画の第一稿を先に読んでから、ヤスミナ・カドラさんの原作を読み、もう一度シナリオを読み込みました。それから作画を誰にするかを決めるために、アニメーション作家の作品を見て、エレアさんを選ぶという手順で進めていきました。
 
実際は重いテーマの原作をアニメにするという企画をいただき、それはいい提案だと思いました。実写で同じ題材を扱うのは、とても厳しかったでしょう。今回アニメで描くのは理想的だったと思います。実写で描いていれば、一つの決められたイメージ、想像上ではない実写のイメージを観客に上から押し付ける形になってしまいます。アニメで描くことで公開処刑のシーンも想像の余地を残し、残酷さを別の意味で和らげています。
 
―――本作が初長編となるエレア・ゴベ・メヴェレック監督を抜擢した理由は?
ブライトマン監督:この作品を制作するにあたり、現実を見せる部分も必要です。この映画をアニメで制作する前に役者たちに演じてもらいました。狙いとしては、人間関係における真実を描きたかったということでした。エレアさんの水彩画はあまりリアリスティック過ぎずに、少し距離を保ち、遠くから見ているようなビジョンで描いていました。水彩画は遠くから見た方がより現実的、俯瞰的になりますし、彼女の絵からは抽象性も表れていました。観客に想像性を与えるという点でも、エレアの絵は理想的だったのです。

 

■ストーリーが言わんとしていることをどれだけ絵で表現できるか、難しかったがいい挑戦に(メヴェレック監督)

―――この作品は社会派アニメーションという点でも意欲作ですし、初長編ということで、非常にチャレンジングすることが多かったと思いますが、このプロジェクトに参加した感想を教えてください。
メヴェレック監督:初めての経験だったので、発見も日々ありました。この映画は絵で表現した方が良いということから、デッサンが非常に大事で、絵が語っている部分があったと思います。ストーリーが言わんとしていることを、どれだけ絵で表現できるかが私に求められたことでした。難しかったけれど、いい挑戦になりました。この映画特有の求められているものを、技術スタッフがチームとなって作り上げたということが、とても面白かったです。
 
―――水彩の色合いであったり、描きすぎることなく、シンプルな線で表現する手法は普通のアニメーションとは違う余韻を感じさせました。今までに、インスピレーションを受けた作家は?
メヴェレック監督:あまりにもたくさんいるので、ここで全てを挙げることはできませんが、水彩画の手法は水彩画のアニメーション作家、ユーゴ・プラットから影響を受けています。
 
 
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■アディクとムラサトは、中東出身の役者が演じることが重要だった(ブライトマン監督)

―――先ほどブライトマン監督が作画の前に俳優たちに演じさせたとおっしゃっていましたが、この作品はキャスティングが非常に重要だと思います。主要キャストのキャスティング理由について教えてください。
ブライトマン監督:この作品でキャスティングは本当に重要でした。私は多くの映画と共に演劇も演出したことがあるので、役者がどれだけ重要な役割を占めているかも知っていますし、役者と仕事をするのが大好きなのです。それぞれの人物はそれぞれの役者をまさに反映しています。例えば主役のアディクを演じたシモン・アブカリアンはレバノン出身です。レバノン人の役者を使うことで日々の振る舞いやお祈りなどの慣習の所作が身についているので、実際に演じてもらうときにも非常に役立ったと思います。モーゼン役のスワン・アルローは、『ブラッディ・ミルク』で大ブレイクし、さらに素晴らしい役者になりましたよね。ズナイラ役のジタ・アンロさんは、後から参加したのですが、私から何も言うことがないほど素晴らしい演技を見せてくれました。ナディッシュ(町の長老)役のジャン・クロード・デレは私の父です。撮影当時は93歳で今は亡くなってしまったのですが、この作品に出演できたことは私にとって非常に大きな意味を持っています。そして、アディクの病床の妻、ムラサト役のヒアム・アッバスさんは、中東において偉大な女優さんで、中東の方に演じていただくことが非常に重要でした。
 

■作画はディテールを落とし込まないことがポイント(ブライトマン監督)

―――モーゼンはまさにスワン・アルローさんの雰囲気が出ていましたが、どのような手法でキャラクターを描いていったのですか?
メヴェレック監督:人物のデッサンにおける作り込みは非常に時間がかかりました。より客観性や距離を保ちながら描く必要がありました。先に演じてもらった役者さんを絵に落とし込むのですが、あまりディテールを落とし込まないことがポイントでした。シワまで細かく描いてしまうとリアルになりすぎてしまうので、例えばスワンさんだと分かるぐらいの頃合いで描くというのは手間がかかっているのです。
 
―――アニメーションでこういう手法は珍しいのでしょうか?
ブライトマン監督:あまりよく使われる手法ではありませんね。水彩画のイメージを選んだのは動きや演技をより表現できるということと、水彩画の微妙なタッチによって、「スワン・アルローに見えるけど、そうなのかな?」と観客が想像するような抽象性が表現できるという2点ですね。
 
―――相当繊細な作業ですが、ブライトマン監督の細かいチェックがあったのですか?
ブライトマン監督:数えるほどですが(笑)。例えばある人物が何かを飲む演技をして、飲み込む音もしているのに、絵が先にいっていたことがあり、音を調整するのではなく、絵を合わせるように頼んだことがありますね。
 
―――本作ではほとんど音楽が流れませんが、途中、アティクが木の下でタバコを吸う時に唯一歌が流れています。この歌について教えてください。
ブライトマン監督:タリバンの指揮下で音楽が禁止される前に歌われていた歌で、ソ連のアフガニスタン侵攻以前からあった古い歌です。まだ自由があった時代のカブールの雰囲気を伝えている歌ですよね。愛について歌った、アフガニスタンの人なら誰もが知っているぐらい人気のある曲です。
メヴェレック監督:女性が歌っているのですが、中東を代表するような曲を何か入れたいと思い起用しました。
(江口由美)
 

<作品情報>
『カブールのツバメ』(2019年 フランス 82分)
監督:ザブー・ブライトマン、エレア・ゴべ・メヴェレック 
出演:ジタ・アンロ、スワン・アルロー、シモン・アブカリアン、ヒアム・アッバス 
 
フランス映画祭2019 横浜 
◼ 期間:6月20日(木)~6月23日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス
 

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 8月24日からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開されるミッシェル・オスロ監督(『キリクと魔女』)の最新作『ディリリとパリの時間旅行』が、6月22日にフランス映画祭2019 横浜で上映された。
 
 ベル・エポック時代のパリを舞台に、ニューカレドニアから伯爵夫人の助けを借りて船でパリにやってきたカナック族の少女ディリリと、パリの案内人のような顔が広く誠実な配達人の青年、オレルが、地下で暗躍している謎の集団、男性支配団と少女失踪事件の関係を突き止め、少女たちを救う冒険物語だ。ディリリとオレルが行く先々で出会うベルエポック時代の画家や作家をはじめとした実在の有名人が次々と登場。またオペラ座やムーラン・ルージュをはじめ、パリの名所の舞台裏も映し出す。当時の女性や女優たちの美しい衣装や、オペラの歌声にも注目したい。ベル・エポック時代を覗き見るかのような芳醇な体験に胸がワクワクする、宝物のような作品だ。
 
 上映後に登壇したミッシェル・オスロ監督は、開口一番「ベル・エポック時代のパリ散歩を楽しみましたか?」と観客に呼びかけ、女性が初めて社会進出をした時代であり、ロングドレスを着た最後の時代であるベル・エポック時代を舞台に、散策あり、冒険あり、救出劇あり、オペラありと盛りだくさんで、とにかく美しく楽しい物語の発想の源を明かしてくれた。その内容をご紹介したい。
 

 

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■日本のアニメ映画で好きな監督について〜高畑勲監督のことを思いながら作品を作った

高畑勲監督と宮崎駿監督のお二人とは面識があります。ここに高畑監督がいらっしゃらないのは本当に悲しく思いますし、彼のことを思いながら、この作品を作っていました。生きていればこの作品の日本語字幕をつけてくださったと思います。高畑監督がいない中、出来上がったこの作品は「家なき子」のようなものではないでしょうか。
 

■主人公ディリリの設定について〜人種の多様性を描くために、ニューカレドニアのカナック族のハーフに

ディリリと配達人のオレル、オペラ歌手エマ・カルヴェの運転手ルブフの3人は僕の創造物ですが、他の登場人物は全て実在の人物で、今も私たちを楽しくさせてくれています。小さな女の子たちの誘拐事件を題材にしたのは、小さい女の子たちを守りたいという思いがあったからで、主人公も自然とそのようになりました。
 
今回のテーマである男性が支配し、女性や小さな女の子を虐げるものの対抗として文明を取り上げようとしたとき、ベル・エポック時代はまさにパーフェクトな時代ですが、一つだけ問題だったのは、その時代は白人ばかりであったということ。僕の過去作品は世界の各地を舞台に出てくるキャラクターたちも肌の色がとりどりの多様性を描いていたのに、白人だけでは作品が退行してしまう。ですからディリリはニューカレドニアのカナック族に設定しました。当時、公共の公園に「原住民の村」を復元して原住民の生活ぶりをみることが流行っていたのです。さらに加えた要素はディリリがフランス人とのハーフであるということ。ハーフは母国が二つあるので、どちらの国でも排除されるという運命になりがちです。ディリリだけではなく、カフェで踊っているサーカス座の黒人、ショコラやアイリッシュ・アメリカンバーのバーテンダーの中国人、北アフリカチェニジアの詩人も登場します。
 
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■アニメの世界で表現されるフェミニズム〜女性に対する虐待は至るところに見られる

生まれた時から母も姉も素晴らしい女性だったので、僕が男だからといって彼女たちより優れていると感じたことはありませんでした。僕が少しずつ成長し、社会がわかってくるようになると、多くの男性が、女性が劣っていると感じていることを知ったのです。
 
とりわけ宗教は女性蔑視の傾向が強く、それは本当に愚かで良くないことです。家庭内暴力になると、夫婦の間では女性の方が命を落とすことが多い。階級を問わず女性に対する虐待は至るところに見られます。
 
僕自身は人間的、論理的な人間なので、愚かなこと、意地の悪いことを見ると「どうして?」と怒りがこみ上げてくるのです。例えば戦争で命を落とす人の数に比べて、女性や少女たちの死者の方が多い。そういう問題を取り上げなければいけないと思ったので、今回の作品のテーマにしました。
 

■色使いと背景について〜アニメのキャラクターと僕自身が撮った実写の写真を融合

僕自身が今のパリの写真を撮り、それを使うことで、単に夢を作品にするのではなく、人間たちが作った現実のパリを作品にしています。そういうものを人間が作れるということをアピールできたのではないかと思います。
 
背景については、アニメのキャラクターと僕自身がとった実写の写真をとてもシンプルな形で融合しただけ、難しい技法は使っていません。平面的な写真が背景で、そこに人物たちをアニメで載せているだけです。2箇所だけ、もう少し小さい写真をいくつかおいて、カメラが巡回し、風景に一貫性が生まれるようにしました。また、下水道の中は3Dで全て復元しました。
 

■お気に入りのシーンについて〜実在のスーパーウーマン3人が会するシーンは感動

キャラクターは僕が一つ一つ書いて描きましたが、原画を見ながらキャラクターを描くのは本当に楽しいです。中でも友情を感じる人物はロートレックで、彼は画家としても素晴らしいが、人間としても素敵な人でした。
 
スーパーウーマンが一堂に会し、男性支配団への対抗策を議論するシーンでは、ルイーズ・ミシェル(無政府主義者)サラ・ベルナール(ベルエポック時代を代表する大女優)、マリ・キュリー(物理学者、科学者)の3人を登場させましたが、3人が話していることには感動しました。そして、一番満足したシーンは、鉄の建物のエッフェル塔があり、鉄の骨組みの前を、飛行船が(キラキラと輝きながら)降りてくるシーン。それを目にした時、「悪くないな」と思ったのです。
(江口由美) 
 

『ディリリとパリの時間旅行』“Dilili à Paris”
2018年 フランス 94分
[監督]ミッシェル・オスロ 
[声の出演]プリュネル・シャルル=アンブロン、エンゾ・ラツィト、ナタリー・デセイ他
 
フランス映画祭2019 横浜
◼ 期間:6月20日(木)~6月23日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス
 

 

 
 
 

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『社会の片隅で』ルイ=ジュリアン・プティ監督インタビュー
 
女性限定のホームレス用シェルターを舞台に、そこに通う居場所も仕事もないホームレスの女性たちと、彼女たちの生活基盤を作るために奔走する職員たちの奮闘ぶりを描いたルイ=ジュリアン・プティ監督の社会派コメディ『社会の片隅で』が、6月22日、イオンシネマみなとみらいで開催中のフランス映画祭2019 横浜で日本初上映される。
 
オドレイ・ラミー、コリンヌ・マシエロ、ノエミ・ルヴォヴスキらフランスのベテラン女優たちが女性限定ホームレスシェルターに援助を求めてやってくる女性たちの支援をするため奔走する本作。様々な事情を抱えた年齢層もバラバラの女性たちが、仕事や住む場所を探す姿を、ユーモアを交えながらパワフルに描く力強い女性映画。紆余曲折を経て、彼女たちがみせる目の輝きは、大きな感動を呼ぶことだろう。
本作のルイ=ジュリアン・プティ監督に、お話を伺った。
 

―――社会の中で居場所がない弱者の女性たちと彼女たちを支援するシェルターの女性たちが、働きかけ合いながら、自信を取り戻し、自立する様子を、一人一人実に丁寧に、そしてユーモアをもって力強く描かれており、感動しました。この物語は元々テレビドキュメンタリーだったそうですね。
元々はコレール・ダ・ジューニさんのテレビドキュメンタリー作品でしたが、それはこの作品のメインキャストでもあるホームレスシェルターを運営している職員のジュリー、カトリーヌを含む3人の女性が登場し、そこでの対立が描かれるとても厳しい内容のものでした。コレールさんはこのドキュメンタリーを作った経験を本にまとめたのですが、そこにはユーモアも加えられた内容になっていたのです。その本を手にコレールさんが私を訪れ、映画化できないかと打診してくれました。
 

■厳しい社会の面を映画のテーマとして結びつけるにはコメディーしかない。

―――内容もドキュメンタリーのようにリアルなエピソードが随所に見られましたが、脚本を書くにあたり、どれぐらいリサーチをしたのですか?
映画を撮ることになってから、最初の1年はパリやブルゴーニュをはじめ、さまざまなホームレス受け入れセンターに足を運び、私自身もそこで過ごしました。そしてできた初稿は社会的背景を盛り込みながら、厳しい状況をそのままリアルに書いたのですが、映画にするにはあまりにも描写が厳しすぎるということで、廃棄してしまったのです。1年かけて作ったシナリオを一旦ゼロに戻し、やはり、観る人にとって見たくない厳しい社会の面を映画のテーマとして結びつけるには、コメディしかないと思い、コメディタッチの脚本“Invisible”を2年半がかりで書き上げました。
 

■我々が持っているホームレスのイメージとは違う彼女たちの現状をしっかりリサーチ。

―――相当、脚本に時間をかけたのですね。
作品を作る上で、真実であることに力を注ぎましたので、感動してくださったのは、本当の今の女性の姿を描いているからだと思います。彼女たちはホームレスですがユーモアもありますし、女性らしさを失っていませんし。私自身も調査をするまでは、携帯電話を持っているとか、テレビドラマの話をするとは思っていませんでした。どちらかといえば、とても貧しく惨めな生活をしていたり、何も知らなくて世の中から切り離されているというイメージがありましたが、実際は全く違ったのです。お金も少しは持っていますし、本当の意味での地下経済が実際にはありました。ですから、そういう現状をしっかり知った上で脚本を書きたかったので、リサーチの時間を非常に多くとりました。服や、彼女たちがつけている小物も実際に身につけているものを使っています。
 
往往にして映画の中では、お医者さんや弁護士と同様に、ホームレスというのが一つのタイトルのように扱われ、個人ではなくホームレスというくくりで語られてしまうのですが、私はその人たち一人一人に名前をつけ、寝る場所も与え、一人一人の背景をしっかり描いていきました。
 
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■元ホームレスの女性も出演、映画と撮影自体がリンクし、生まれた信頼関係。

―――シェルターを使う女性役は、実際にホームレスの方が出演しているのですか?
一部の人たちは過去にホームレスを経験した人たちです。撮影が始まった時は、住居を獲得していましたが、彼女たちをとても美しく、誇らしく描こうと思いました。この物語は時系列で撮っていますが、撮影中にどんどん彼女たちは生命の息吹を取り戻し、映画の中のことが撮影現場でも起こっていたのです。本当に自信を取り戻し、変化していきました。というのも撮影自体がチームの一員となりますし、色々な人から見られ、愛され、報酬をもらえる仕事でもあります。数ヶ月グループの中で、そのようなことが行われるわけですから、自信を持つことができる。撮影が終わった後も、仕事を見つけることができたり、疎遠だった家族と再会したり、自分の子どもを預ける人をみつけたり、前向きな一歩を踏み出しています。撮影のメイキングをDVDにしているので日本でも見ていただけるといいのですが、女性たちが皆と一緒に仕事をすることで自信を高め、私たちにも色々なものをもたらしてくれるという信頼関係が生まれました。
 
 
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■映画を通して、ホームレスの人たちとの絆を作りたい。

―――確かに、私たちはホームレスの人に勝手なイメージを抱いているにすぎませんね。
私たちはみんなホームレスたちの人たちに対する漠然とした恐れを持っていると思います。街でホームレスの人たちに出会うと、かかわりたくないという気持ちから無意識に目を逸らしてしまう。私はもう一度自分たちとホームレスの人たちの絆を作るにはどうすればいいかを考えて、映画を通してそれができればと思いました。1時間40分の間、彼女たちと一緒に笑うことができる作品を作り、それによってホームレスの人と親しい関係を作って、映画館から出たら、「シャンタル(劇中に登場する元受刑者で、刑務所で習った修理一般が得意な女性)がいる!」とまた違う見方ができるようになってほしいですし、映画を見て感動してくださった方が世界中にたくさんいるのなら、それらのみなさんでホームレスの人たちに微笑みかけてほしいと思っています。
 
―――自信を取り戻したホームレスの彼女たちを象徴するようなラストシーンは、みな胸を張り、輝いていましたね。
最後のシーンは最後の撮影日で、彼女たちが自身を取り戻し、自分自身を誇りに思っていることが眼差しの中に見えるシーンだと思います。(別のシェルターに強制移送するバスまでの道に敷かれた)マットレスの上を歩いていますが、現実は住むところがまた奪われ厳しくても「私たちはそれより強いんだ」ということを示すシーンになっています。
 

■主婦ボランティアのエレーヌは、観客をシェルターに導く存在。

―――ノエミ・ルヴォヴスキさんが演じる主婦ボランティアのエレーヌは、シェルターの運営とホームレスの女性たちの求職活動で右往左往しているスタッフとは違い、そこに来ることで家庭でのストレスが和らぐような、独特の存在感でした。エレーヌ役に込めた狙いは?
エレーヌの立場は、脚本準備のためにシェルターに行き、リサーチしていた時の僕の立場とよく似ています。なんでも疑問に思ったことを質問して皆に驚かれたり、意見をいうと「あなたは黙って言われたことをやってればいいのよ」と言われたり(笑)同時に、シェルターで働くボランティアの人たちの中には、何か現実生活の中で満たされないから、そこに来ているという人も実際に多かったのです。そのような人たちを見ていると、家族の中でInvisible(透明人間)になってしまう人たちでもあり、エレーヌ自体もそのようにInvisible(透明人間)になるかならないかの交差点に立っているのです。意味のない生活から、意味を探してボランティアにきているわけで、この映画の流れもまさにエレーヌが活動にのめり込んでいく行程と同時並行し、観客もエレーヌを通してシェルターに入っていきます。エレーヌ自身もそこで役立っているという自信を持てるようになるわけで、僕はそんなエレーヌというキャラクターがとても好きですね。
(江口由美)
 

<作品情報>
『社会の片隅で』(2018年 フランス 102分)
監督・脚本:ルイ=ジュリアン・プティ 
出演:オドレイ・ラミー、コリンヌ・マシエロ、ノエミ・ルヴォヴスキ
 
フランス映画祭2019 横浜
◼ 期間:6月20日(木)~6月23日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス
 
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6月22日からシネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA他全国順次公開される『アマンダと僕』が、6月21日にフランス映画祭2019 横浜にて上映された。テロにより突然家族を失った後の再生を描くヒューマンドラマ。重いテーマだが、陽光溢れるパリの街並みの描写や、アマンダを演じる新星イゾール・ミュルトゥリエの瑞々しさ、そして平凡な青年ダヴィッドが突然姉の娘を引き取るかどうかの決断に迫られる様をヴァンサン・ラコストが自然に演じ、心温まる余韻を残す。
 
上映後にミカエル・アース監督と主演のヴァンサン・ラコストが登壇し、「自分が住んでいる街、パリの今、そして父性を描きたい。これまでは抑制的な映画でしたが、今回は真正面からメロドラマに取り組んだ」(ミカエル・アース監督)、「コメディー作品に多く出演してきたので、こういう役ははじめて。イゾール・ミュルトゥリエとは最初どう接していいか分からなかったが、ダヴィッドがアマンダと映画の流れで仲良くなるのと同じように、仲良くなっていった」(ヴァンサン・ラコスト)と、それぞれが映画への思いを語った。その内容をご紹介したい。
 

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■作品のきっかけ

アース監督:映画を一本作るには色々な要素が集まってできます。今回自分が住んでいる街、パリの今を描きたいと思いました。テロの後、傷を受けたパリの街、美しくも脆さのあるパリの街を描きたいと思ったのです。また、父性について、身内の不幸を巡って一緒に成長していく少女と青年の姿を描きたいと思いました。前作と比較して感情面から真正面から向かい合っている映画になっています。これまでは抑制的な映画でしたが、今回は真正面からメロドラマに取り組みました。
 

■脚本を読んだ時の感想、ダヴィッド役について

ラコスト:ミカエル・アース監督の前作を見ていましたし、とてもその映画が好きだったので、監督と仕事がしたいと思っていました。シナリオを読んでとても感動しました。今のパリを描いていながら、そこに光が差し、身近な不幸を取り上げ、残された家族の再生を描いていますが、主題の描き方がとても面白いと感じました。私はこれまでコメディー作品に多く出演してきたので、こういう役ははじめてで怖さもありましたが、とても興奮する経験でした。
 

■ラコストさんキャスティングの理由

アース監督:ヴァンサン・ラコストは気品や軽さ、自然に持っている光のようなものを全て兼ね備えています。彼自身から溢れ出るものに、常日頃から感銘を受けていました。映画が重いテーマなので、ダヴィッド役はヴァンサンが適役だと思っていたのです。
 
 

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■役作りの準備について

ラコスト:テロの被害者たちが書いた本はたくさんありますが、私は何も読みませんでした。ダヴィッドのようなどこにでもいるバイトを掛け持ちしている若者に、急に思わぬことが降りかかる。それは誰にも起こり得ることです。私は普段からシナリオをまず読んで、暗記します。撮影は順番通りには行われないので、撮影の順番どおりにセリフを覚え、頭の中に叩き込む。ダビッドの精神状態は最初と最後で全然違いますので、最初は未熟ですが、だんだん成長し、最後に父性を獲得するという感情の流れを作っていきました。

 
アース監督は、撮影中に演技しやすい準備を作ってくださったので、居心地のいい環境の中に身を任せて演じることができました。私も撮影の日まで感情が湧き上がって泣けるか不安でしたが、映画に感動していたので、自然に感情が出てきました。
 
 

 

 

 

■アマンダ役イゾール・ミュルトゥリエのキャスティングについて

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アース監督:演劇の経験がある人たちにたくさん会いましたが、本人が望んで演技をしているのではなく、親の方が望んでいるという点が気になりました。キャスティングディレクターが学校や体操教室で募集のビラを配っていたときに、体操教室から出てきたイゾールもそのチラシを受け取ったのです。赤ちゃんのようにかわいく子供らしい一方で、成熟して大人が言っていることが理解できたり、自分の考えをきちんと言える二面性がある。イゾールさんの中にはアマンダの全てがありました。女優としての意識を持ち、とてもまじめに演じていたので、労働時間が3時間だけということ以外は、私自身は大人の俳優と同じ扱いでした。いかに彼女が心地よく感じ、自由に演技をしてもらえるか。ヴァンサンや共演者も加わり、イゾールさんが演じやすい環境を作ってあげました。
 

■イゾール・ミュルトゥリエとの共演について

ラコスト:子供と演じるのが初めてですし、実生活でも周りに10歳ぐらいの子がいないので、イゾールさんがどこまでシナリオを理解できるのか。(母がテロで亡くなるという)悲しいシーンを演じた後、悲しい気持ちのままになってはいないかと色々考えました。

自分も、イゾールにとって面白いお兄さんになればいいのか、父親のように演技について教えてあげるような立場になればいいのか分からなかったのですが、映画のダヴィッドも私と重なる部分があったので助かりました。ダヴィッドがアマンダと映画の流れで仲良くなるのと同じように、仲良くなっていけました。1日3時間しか撮影できなかったのは特殊な体験でしたが、スタッフがアマンダにぬいぐるみやパズルを持ってきてくれるので、空き時間に一緒にそういうもので遊ぶのが新鮮でした。
 

舞台から立ち去る時も、軽やかに、おどけながら手を振り続けるヴァンサン・ラコストは、まさに今最注目の若手フランス人俳優だ。自然に感情がこもったというシリアスな演技は、見るものが演技であることを忘れて、その心情に寄り添いたくなる。アマンダとダヴィッドの未来を予感させる感動のラストは、確実なものがない現代にも、すぐそこにささやかな光があることを教えてくれるだろう。(江口由美)
 

 
『アマンダと僕』“AMANDA”
2018年 フランス 107分
[監督・脚本]ミカエル・アース [共同脚本]モード・アムリーヌ
[出演]ヴァンサン・ラコスト、イゾール・ミュルトゥリエ、ステイシー・マーティン、オフェリア・コルブ他
 
フランス映画祭2019 横浜
◼ 期間:6月20日(木)~6月23日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス
 
 
 
 
 
 

 

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言葉の意味自体を考えなくなってしまった世の中に、議論を取り戻したい

『マイ・レボリューション』ジュディス・デイビス監督インタビュー

 
 『ウィークエンドはパリで』(13)、『ローマに消えた男』(13)などの出演や、自身が立ち上げた劇団で活動しているジュディス・デイビスの初監督&主演作『マイ・レボリューション』が、6月23日、イオンシネマみなとみらいで開催中のフランス映画祭2019 横浜で日本初上映される。
 
 ジュディス・デイビスが演じるのは、共産主義の両親に育てられた都市開発プランナー、アンジェラ。会社から解雇を言い渡されるところから始まる物語は、アンジェラの社会への憤りが家族や仲間と喧々諤々の議論にヒートアップ。さらに、社会問題を議論をするために有志と小グループを立ち上げ、お互いの意見に耳を傾ける活動も始める。結婚し、夫はサラリーマンで小さい子どもがいる姉ヌッカ、その夫ステファンとの衝突や、アンジェラが15歳の時、革命を放棄し田舎に行ってしまった母への憤りなど、アンジェラの中のさまざまなわだかまりは、議論をすることで実は相手も憤りを抑えて懸命に生きていることを目の当たりにする。憤りが募るばかりだったアンジェラの成長物語でもあり、今の時代に欠けているコミュニケーションのあり方を問う本音満載の痛快ヒューマンドラマだ。
 本作のジュディス・デイビス監督に、お話を伺った。
 

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■日頃、自分の劇団で問題意識を共有する団員と書き上げた演劇をより掘り下げて映画化。

―――初監督作ですが、以前からこの物語は構想していたのですか?もしくは、ご自身の境遇を反映させたのですか?
私は映画で女優をやっていますが、自分で立ち上げた劇団で10年以上活動しており、女優をやりつつ、脚本も書きつつ、演出もするという演劇活動がメインです。演劇では政治的な取り組みや、社会人としての仕事のスタイルの2つをメインテーマに据え、リーダーを決めず、みんなで一緒に相談しながら、脚本を書き上げて演じてます。そのやり方がしっくりきますし、問題意識を共有する仲間と演じることができるわけです。今回はこの2つのテーマに加え、人間の孤独についてや、より深く掘り下げるテーマを加えて映画で描きたいと思いました。今回、監督・脚本とクレジットされていますが、実は先ほど問題意識を共有するといった劇団員5人、つまりメラニー・ベステル(アンジェラの姉ヌッカ役)、ナディル・ムーラン(ヌッカの夫、ステファン役)、シモン・バクシ(アンジェラの父、シモン役)、クレル・ジーマ(レオノール役)と相談しながら脚本を書き、一緒に作った作品なのです。
 

 

■言葉の意味を考えなくなってしまった世の中に、日常的な議論を取り戻したい。

―――なるほど、今のお話を聞いていると、劇中でアンジェラの呼びかけで始まった「実践のための小グループ」がまさに今回の映画づくりの方法と同じですね。前のシーンでは言い争った相手も、次のシーンでは小グループの一員になり、議論に参加しています。現在、言い分が一方通行でなかなか協調できない国家間の関係を重ねると、このサブグループの活動は理想的だと感じました。

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色々なバッグラウンドや年代の人が集まって議論するというのは、本当に小さなユートピアではありますが、とても可能性を見出しています。60〜70年代はフランスでは学生運動がありましたし、アメリカではベトナム戦争に伴う反戦運動もあり、日常的に人々が議論をしたり、政治的な話を語りあっていたのですが、今や日常的に議論をするとか、政治的なことに関心を持って取り組むことなどなくなってしまいました。一つ一つの言葉も勝手に商品化され、意味をなさなくなってしまっています。例えば、本作のタイトルである「レボルーション(革命)」も全然革命家ではないような政治家が勝手に口にして、言葉の意味自体を考えなくなってしまった世の中になってしまっています。
 
映画の中で小グループが、単語を決めて、それについてどう思うか、賛成か、反対か、それはなぜかという議論をしていくことで、日常的に議論を取り戻し、政治的なことを共に考え、お互いの考えを共有することがとても重要だと思っているのです。国と国になると大きな話になりますが、市民として、小さな集まりでもいいので、週に1、2度でもいいから継続的に行うことで、議論を日常に取り戻せる。アンジェラにとってみれば、小さなユートピアをそこに見ているのです。
 
今の世の中は何もかも早く進み、リアルタイムでスマホやニュースをチェックしたり、とにかく忙しく追われ、疲れきってしまい、色々な物事を考えないようになってしまっています。少し、停止ボタンを押して立ち止まり、物事を立ち止まって考え、一つ一つの言葉が持つ意味を考えたり、自分の思いを相手に伝えて対話をすることが重要だと思ってあのシーンを描いています。
 
 

■苦痛を描く時はユーモアのある方が、鑑賞後孤独から抜け出し、今の大変な状況も笑って乗り越えられる。

―――アンジェラをはじめとする登場人物の言動を客観視してふっと笑えるようなユーモアも随所に散りばめられていますが、それはジュディス監督ご自身のアイデアですか?
演劇では皆で一緒に作り上げますし、ユーモアあってこそ乗り越えられるのも分かっていますが、映画はやはり監督である自分が主導する部分もあると分かっています。今の世の中は色々な社会的困難もありますし、ステファンのように社会システムの中で自滅しそうな人もいます。そういう苦痛や苦しみがある中、みなさんが映画を観て、映画館を出る時にエネルギーを持ってもらいたいのです。だから苦痛を描く時は、何かユーモアのある方が一緒に笑って映画館を出て行くこともできるでしょうし、孤独から抜け出し、今の大変な状況も笑って乗り越えられる。伝えたいことを表現する上で、ユーモアは重要だと思って、作品に取り入れています。それも、上から目線のユーモアではなく、自分の身に起こっていることを自虐的に捉えるので、皆、同じ船に乗った仲間のような感覚で平等に受け止め、笑えると思うのです。

 

■貧しいものを追いやる拡大の街づくりより、シンプルに隔たりをなくす街づくりに共感。

―――アンジェラは都市開発プランナーとして、人と人とをつなぐ街づくりを目指していますが、そんなアンジェラが目にする風景は高速で分断された郊外から、従来のフランスの市街地、田舎道、そして長く別れていたアンジェラの母が住む山に囲まれた風景と実に多彩です。このように様々なロケーションを映し出した意図は?
私自身、パリでもない、バンドゥ(ガラの悪い地域)でもない、パリの外れの方の20区出身で、今回映画もそこが舞台になっています。パリは歴史的に街が大きくなったときにバリアを作り、貧しい人を外に追いやる。また街が大きくなったらその周りにバリアを作り、また貧しい人を外にという風にどんどん追いやり、家賃も上がり、元々彼らが住んでいたところに住めなくなってしまう。そんな感じで作られたパリの街の外周を環状線(高速)が通り、そこがパリの境界線になっていますが、さらに大都市構想で大きな広場を作るプロジェクトも進んでいます。
 
私は境目のところに興味があり、人を分断するような街づくりは良くないと思っています。今、サルコジ政権下で打ち出されたグラン・パリ構想があるのですが、「パリ大全」の著者、エリック・アザンは人々を分断するような大きな広場を作ることに警鐘を鳴らし、よりシンプルなことをしながら隔たりをなくしていく街づくりを提唱しています。そういう考えのもと、様々な風景を映し出すことで、そこで住んでいる人たちにどんな影響を与えているのか提示したかったのです。
 
 
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■フランスでは知らない人はいない女優、ミレーユ・ペリエの出演で、時代を取り戻したような感覚に。

―――アンジェラが革命を放棄したと思っていた母との再会は、とても穏やかで、母娘二人のシーンは、映画の中で最も静かで美しいシーンでした。キャスティングも含め、これらのシーンの狙いを教えてください。
アンジェラの母を演じたのはミレーユ・ペリエで、フィリップ・ガレル監督作(『ギターはもう聞こえない』)にも出演しており、フランスでは知らない人はいない女優です。ある時代を象徴する女優で、彼女が登場することにより、フランスの歴史を彷彿させるような、とても重要な役割です。映画が淡々としてくる中で、彼女のシーンだけは少しファンタジーがかった感じにしたいという意図もありました。最初、母の存在が写真などのアーガイブ的なものであったのが、手紙が出てきたり、ナレーションが聞こえたり、だんだんと母を辿っていき、ついに本当の母が出てくるような演出にしています。ミレーユさんが登場すると、フランス人はその時代を取り戻したような感覚にもなりますし、私にとってもミレーユさんは理想的な人でした。アンジェラは現実の中で色々な出会いを経ていきますが、彼女にとっても母と再会するということはある種ファンタジー的な意味合いもあり、そういう重要な役割をぜひミレーユさんに演じてもらいたかったのです。
(江口由美)
 

<作品情報>
『マイ・レボリューション』(2018年 フランス 88分)
監督・脚本:ジュディス・デイビス: 
出演:ジュディス・デイビス、クレア・ドゥーマス、メラニー・ベステル
 
フランス映画祭2019 横浜
◼ 期間:6月20日(木)~6月23日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス
 
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今年で第27回を迎えるフランス映画祭2019 横浜が、昨年に引き続き横浜で開幕した。ユニフランス70周年、横浜・リヨン姉妹都市提携60周年の記念すべき年、6月20日に横浜みなとみらいホールで行われたオープニングセレモニーでは、梅雨の晴空の下、レッドカーペットも開催され、横浜のファンたちが豪華ゲストとの交流を楽しんだ。
 
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『シンク・オア・スイムイチかバチか俺たちの夢』中谷美紀を囲んで左からユーゴ・セリニャック(プロデューサー) 、ジル・ルルーシュ監督

レッドカーペットでは、フランス映画が大好きというフェスティバル・ミューズ、中谷美紀が、トリコロールカラーの帯締めが印象的な和服姿で登場、「人々の人生を緻密に、大切に描いているのがフランス映画。音楽もいいですね」とその魅力を語ると、フランス映画を観ることができる映画館が減ってしまったことを嘆いているとしながら、「こんなに充実したフランス映画だけの映画祭があります。旅に出かけるような気持ちで楽しんでいただけたら」とフランス映画祭の楽しみ方を語った。オープニング作品『シンク・オア・スイムイチかバチか俺たちの夢』のジル・ルルーシュ監督、『アマンダと僕』のミカエル・アース監督、主演のウァンサン・ラコスト、『ウルフズ・コール』のアントナン・ボードリー監督、主演のフランソワ・シヴィルなど豪華来日ゲストに加え、林文子横浜市長、ローラン・ピック駐日フランス大使も来場し、駆けつけた観客の歓声に応えた。
 
 
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『アマンダと僕』中谷美紀を囲んで、左からヴァンサン・ラコスト(俳優)、ミカエル・アース監督、ピエール・ギュイヤール(プロデューサー) 

オープニングセレモニーでは、林横浜市長が「私も若い頃はフランス映画に育てられました。短編を入れて日本初公開の16作品を楽しんでください。これからも横浜市は皆様のご協力を得て、フランス映画祭を続けていきたいと思いますので、ぜひご支援ください」と挨拶。レッドカーペットに続いて登壇したフェスティバルミューズの中谷美紀は、「私にとってフランス映画は青春の象徴でした。10代のわけもない苛立ちや溢れる探究心を満たしてくれたのがフランス映画でした。私たちの日常は決して確かなものではなく、明日何が起こるかわからない不確かなものです。世界中では戦争や飢餓、紛争などが人々を苦しめています。私自身も来年お仕事があるかわかりませんし、もしかしたら横浜で映画館のもぎり嬢をしているかもしれません。そのような不確かな日常の中に、フランス映画が一縷の望みとして、みなさんの日常を照らす光であることを祈っております。今日はありがとうございました」としとやかに挨拶した。ローラン・ピック駐日フランス大使も「この映画祭はパートナーシップの歴史でもあります。文化交流こそが日本とフランスの強いつながりを保証するものです。特に日本、横浜で貢献を続けたい」と感謝の言葉を述べた。
 
 
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現在日本に向かっているという団長のクロード・ルルーシュ監督に代わり、サプライズでカンヌ国際映画祭で名誉パルムドールを受賞したフランスの名俳優、アラン・ドロンからの動画メッセージが流され、登壇者も全員釘付けに。最後に、フェスティバル・ミューズの中谷美紀が、「フランス映画祭、開催です!」、と高らかに映画祭の開幕を宣言した。その後映画音楽、ジャズで多大な功績を残したミシェル・ルグランを偲び、慶應義塾大学ライトミュージックソサイエティにより3曲が演奏され、オープニング作品『シンク・オア・スイムイチかバチか俺たちの夢』上映前のひとときを名曲の音色で楽しんだ。
 

フランス映画祭2019 横浜は、6月23日(日)までみなとみらい地区(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)にて開催中。
■主催:ユニフランス
 

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《フランス映画祭 2019 横浜》

フェスティバル・ミューズ 中谷美紀

~仏語でフランス映画の魅力を語る~

 
フランス大使館にて、6/20(木)~6/23(日)に横浜で開催の「フランス映画祭2019 横浜」ラインナップ発表記者会見 を行いました。フランス映画祭代表団・団長にはクロード・ルルーシュ監督に決定。今年のフェスティバル・ミューズの中谷美 紀さんが、流暢なフランス語と日本語でご挨拶を行い、ユニフランス代表のジョルダーノからは、映画祭のラインアップや見ど ころの紹介がありました。
 


【日時】5月28日(火)11:00~12:00
【会場】フランス大使館 大使公邸(東京都港区南麻布4-11−44 )
【登壇者】中谷美紀(フェスティバル・ミューズ) 林文子(横浜市長)
                  川口均(日産自動車株式会社 副社長 チーフサステナビリティオフィサー)
     ローラン・ピック(駐日フランス大使)
     イザベル・ジョルダーノ(ユニフランス代表)
 


FFF2019-5.28-500.pngピック大使: 今年は27回目のフランス映画祭。昨年から横浜に戻って開催し、13000人ものお客様にお越しいただいて大成功となりまし た。ユニフランス70周年、横浜・リヨン姉妹都市提携60周年という記念の年でもあります。日仏の関係性をフランス映画祭 で発展させ、映画が友情の橋渡しとなり、内容豊かなものになることを願っております。

林市長: 昨年13年ぶりに横浜での開催で、たくさんの方から「毎年やってほしい」と声をかけていただきました。フランス映画という のは、生きる喜びや哀しみを知れる日本人にぴったりの映画だと思っています。 そして、今年の映画祭に華を添えてくださるフェスティバル・ミューズを紹介させていただきます。凛とした美しさと優しさ、そ の胸に秘めた情熱、素晴らしい舞台女優として、映画女優として、そしてテレビに大活躍の方です。芸術や文化にも造詣の 深い、中谷美紀さんです!

FFF2019-5.28-240.png中谷:(まずはフランス語で、続いて日本語でご挨拶) フランス映画祭がいよいよ開催となります。フランス映画はリュミエール兄弟が映画という素晴らしい芸術をこの世にもたら して以来、人々の心に寄り添い、そして誰かが言えなかった言葉を代弁し、時には世界に対して問題提起をする存在であ り続けました。そうした素晴らしい映画の数々を、横浜のフランス映画祭で観ることが叶います。横浜の街は港町で、ご存 知の通り、カンヌの街に少し似ています。映画もさることながら、街の風情も楽しんでいただけたら幸いです。ぜひ、皆様の ご来場をお待ちしております。

川口副社長: 今年も日仏の文化交流に日産が貢献できることを光栄に存じております。実は横浜はSDGs未来都市、0カーボン横浜とい うのを掲げています。100%電気自動車である日産LEAFを今回の映画祭に役立ていただこうと、オフィシャルカーとして、 本日もお持ちした次第です。 私世代で考えると、映画は青春や人生において意味のあるものです。私の青春時代はハリウッド映画ではなくて、まさにフ ランス映画が青春そのものでした。アラン・ドロンの『太陽がいっぱい』、『男と女』、カトリーヌ・ドヌーブの『昼顔』、『個人教 授』・・・またレイモン・ルフェールの『白い恋人たち』のように音楽と映画が、心に深くしみわたるものでした。まるで印象派 の絵画のように感じています。そんなフランス映画祭をサポートできるのは光栄なことです。

ジョルダーノ代表: 世界はたしかに動乱に満ちています。文化、特に映画は私たちを結び付けてくれるものです。今年のカンヌ映画祭でアラ ン・ドロンと会う機会がありました。彼が「自分の人生の中でひとつ重要なことがある。それは映画は自分をを幸福にしてく れたことだ」と語ってくれました。「フランス映画祭2019 横浜」の映画が皆さんを幸せにすることを願っています。
 

ジョルダーノ代表: 今年の上映作品のテーマは3つです。1つ目は「パリの街」。光の街であり影もある。『アマンダと僕』『ディリリとパリ の時間旅行』の2つです。 第2のテーマは「女性の視線」で現代社会をみること。『愛しのベイビー』『カブールのツバメ』の2つです。 第3のテーマは「見捨てられた人々の報復」です。『シンク・オア・スイム』『崖っぷちの女たち』『社会の片隅で』『シノ ニムズ』です。 今回はミシェル・ルグランとフランシス・レイの追悼イベントも行います。以前、ミシェル・ルグランと話す機会があった のですが、どれほど日本が好きかを語ってくれたので「いつかフランス映画祭にきてほしい」と思っていましたが、残 念ながら亡くなってしまいました。フランシス・レイは世界中で愛された音楽家で『男と女』でも知られています。 彼らの音楽はフランスの芸術の力がどれだけ大きいかを伝えてくれました。その演奏を担当するのは、慶応義塾大 学 ライト・ミュージック・ソサイェティの皆さんです。若い人たちがつないでくれることを嬉しく思います。

今年のフランス代表団・団長は、クロード・ルルーシュ監督が務めます。彼は若い世代やあらゆるものに対しての ゴッドファーザー的な立場です。カンヌ映画祭でお会いしましたが、公式のパーティなどにはいかず、小さな上映会 で若い世代の映画を観ていました。ぜひ、若い人たちにクロード・ルルーシュ監督の言葉を聞いてほしいと思ってい ます。
 
その後、Q&Aにて中谷美紀さんに「どんな映画が好きか」という質問が。
中谷:10代のころからフランス映画が大好きでした。川口副社長もおっしゃっていましたが、フランス映画が私の青春 でした。『気狂いピエロ』『勝手にしやがれ』『大人はわかってくれない』や、クロード・ルルーシュ監督の『男と女』『白 い恋人たち』『愛と哀しみのボレロ』など。光と影を大切にとらえ、人々の人生をつぶさに見つめ、弱者にまなざしを向 け、ピリッとした笑いもあるのがフランス映画だと思います。
 

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【フランス映画祭2019 横浜 Festival du film français au Japon 2019 開催概要】


◼️期間:6月20日(木)~6月23日(日)
◼️会場:みなとみらい地区中心に開催(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらいなど)

◼️主催:ユニフランス
◼️共催:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、横浜市
◼️特別協賛:日産自動車株式会社
 
◼️フランス映画祭とは 1993年、当時のユニフランス会長で映画プロデューサーのダニエル・トスカン・デュ・プランティエにより横浜で誕生。2006年に会場を東京に移し、2011年 より2016年まで、有楽町朝日ホール及びTOHOシネマズ日劇で開催。2012年からは、アンスティチュ・フランセ日本の協力により、地方での開催を実施。各地 の映画ファンにも喜ばれるイベントとなった。フランス映画祭を通し、日本国内におけるフランス映画全体の活況を図ること、フランス映画を配給する各社の助 けとなること、また、まだ買付のついてないフランス映画、新進の監督や俳優に日本で紹介される機会を作ることがその狙い。加えて、来日するゲストによるマ スタークラスを実施し、日本の未来の映画の作り手との繋がりも重要視されている。

第25回という節目である2017年には、フランスを代表する女優のカトリーヌ・ドヌーヴが団長として来日。フランスでも人気の高い北野武監督が親善大使を務 めた。昨年は13年ぶりに横浜に場所を移し、フランソワ・トリュフォー監督やジャン=リュック・ゴダール監督の名作でも知られる女優のナタリー・バイが団 長を務め、フェスティバル・ミューズに常盤貴子さんが就任し、華やかに開催された。
 
横浜みなとみらいホール:5月29日(水)10:00より 、イオンシネマみなとみらい:5月29日(水)8:00より 全作品チケット販売開始!!
詳細は公式サイトにて http://unifrance.jp/festival/2019/

 

(オフィシャルレポートより)