映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2019年10月アーカイブ

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「ノルウェーの今のキリスト教文化を広範囲に描きたかった」ノルウェー映画『ディスコ』ヨールン・ミクレブスト・シーヴェシェン監督、主演女優が語る@第32回東京国際映画祭
 
 現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第32回東京国際映画祭で、コンペティション部門作品のノルウェー映画『ディスコ』の記者会見が行われ、ヨールン・ミクレブスト・シーヴェシェン監督と主演のヨセフィン・フリーダ・ペターセンさん登壇した。
 
<ストーリー>
フリースタイルディスコダンスで世界チャンピオンのミリアムは、義父がカリスマ指導者の新興宗教「フリーダム」で信徒グループリーダーを務めている。教会を誇りに思っているミリアムだったが、ダンスコンクールで演技中に倒れてしまい、家庭内不和も重なって、精神的に追い詰められていく。次第にフリーダムと距離を置いたミリアムは、心の平安をどこに求めるのか…。
 
 
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 本作を通じてノルウェーの今のキリスト教文化を広範囲に描きたかったというヨールン・ミクレブスト・シーヴェシェン監督は、「以前から健全でない環境にいる人たち、宗教やカルト教団があることは知っていたので、かなりリサーチを重ね、なるべくリアルを意識した作りにしています。最初に登場する『フリーダム』は、脱退した元信者の方の証言を取材したり、実際に集会に参加して作りました。アメリカの教会に影響を受けたヒールソンという教団が基になっています。二つ目はテレビ番組『ビジョナリー・オブ・ノルウェイ』を基にして作っています。最後の団体は完全にフィクションですが、実際に起きたことから着想を得ていますし、私がモラルの問題を感じたところでもあります」と劇中で描かれた新興宗教について説明した。
 
 

■「キリストが伝えようとしているメッセージが何も描かれていない」ことこそが、本作で描きたかったこと(シーヴェシェン監督)

 実際に、本作が公開されることによる社会的な反響も大きく、キリスト教系の新聞にも取り上げられたという。シーヴェシェン監督は「中には同じ経験をしてきたので映画にしてくれてうれしいという声もありましたが、あなたが映画で描いている問題は少数派で、構造的な問題ではないと矮小化する意見も多々ありました」と語り、様々な宗教団体とパネルディスカッションをしても核心を突くディスカッションはできず、極端な宗教団体からはネットでヘイトを掻き立てられるだけだったという。さらに「モダンな宗教団体は、口ではディベートは大歓迎と言いながら、心外だという心情は伝わってきました。キリストが伝えようとしているメッセージが何も描かれていないと指摘されましたが、それこそ私が描きたいことで、この団体たちの中にこそ、そのメッセージがないと私は思っています」と映画の狙いに触れ、密閉された社会に入った信者には多大な抑圧があり、そこでありのままの自分として生きる余白もなく、“信者として足らない”という心境に至ることを力説した。
 

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■監督が要求する芝居、映画で伝えたいメッセージに魅力を感じた(ペターセンさん)

 ミリアム役を演じたヨセフィン・フリーダ・ペターセンさんは、シーヴェシェン監督と組めることが非常に素晴らしかったと全幅の信頼を寄せながら、「体力的にも肉体的にも色々な困難が立ちはだかるだろうと思いましたが、監督が要求する芝居、映画で伝えたいメッセージに魅力を感じました」。撮影前には、シーヴェシェン監督と宗教団体の集会に行き、元信者とも話をすることで、自国で宗教団体を巡る様々な問題があることを意識するようになったという。劇中後半には、恐怖心を煽り、ミリアムを支配するセンセーショナルなシーンが含まれるが、元信者の男性の体験記をリアルに再現すべく、安全面に配慮しながら綿密な計算のもと撮影に臨んだという裏話も明かされた。
 
 取材に基づくリアルなシーンだけではなく、フィクションであることを示すため、様々な象徴的なものを挿入しながら、アートワークを使ってストーリーを推し進める工夫をしたというシーヴェシェン監督。「陳腐な日常であっても面白くするポテンシャルは各シーンにあると思っています。宗教団体の人たちは、同性愛やバイセクシュアルは許せないと言いますが、リベラルだといいながら他人を排除するおかしさを、「最後の晩餐」を模した絵作りや、様々なアートワークを使って表現しました」
 
 

■『ディスコ』は、いつも上から目線の信者たちから見た、世俗的な世界(シーヴェシェン監督)

 『ディスコ』という一見内容を全く想起させないタイトルにも、それこそが狙いだったという。シーヴェシェン監督は「表面的な入り込みやすさを示しながら、実はとてつもなくダークなところにいくことを体験させるため、このタイトルにしました。キリスト教信者から見た彼らの世界観をディスコで体現しています。つまり、あのディスコはいつも上から目線の彼らから見た、世俗的な世界なのです」
『ディスコ』は、11/5(火)17:25より上映。
 

第32回東京国際映画祭は11月5日(火)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
第32回東京国際映画祭公式サイトはコチラ
(江口由美)
 
 
 
 

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「戦争や死を克服するものがあるとすれば、それは愛」戦争体験者が主演を務めるウクライナの近未来映画『アトランティス』に滲む終わりなき闘い@第32回東京国際映画祭
 
 現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第32回東京国際映画祭で、コンペティション部門作品のウクライナ映画『アトランティス』が上映され、大ヒット作『ザ・ドライブ』ではプロデューサー兼撮影監督として関わったヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督と、主演のアンドリー・リマルークが記者会見や上映後のQ&Aに登壇した。
 
<物語>
 終戦後地元に戻りながらも、PTSDに苦しむ元兵士のセルヒーは、元兵士仲間の自殺や、勤めていた鉄工所の閉鎖と、次々と不幸な出来事が襲いかかる。給水の仕事を始めたセルヒーは偶然エンストした大型トラックをみつける。ボランティアで戦死者の死骸を掘り出す団体に参加していたカーチャと共に死骸を目的地に届けたセルヒーは、空き時間にカーチャの活動に参加したいと申し出るのだったが…。
 
 
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■近未来に設定することで、戦争によってどのような変化がもたらされるかを描くことができた(ヴァシャノヴィチ監督)

 「ウクライナではまだ戦争が続いていることを思い起こすためにこの映画を作りました」と言うヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督。これまで撮られた多くの戦争映画は戦争終結後10年以上経って撮った映画が多いが、2017年に戦争終結したウクライナで戦争をテーマにするにあたり、あえて近未来にするのは、より普遍的な問題として捉える狙いがあったという。「敵は悪いものという考えや、政治的なものが排除され、戦争によってどのような変化がもたらされるかを描くことができました。戦争や死を克服するものがあるとすれば、やはり愛ではないかと考えています」
 

 

■私自身がこの戦争経験者なので、映画の出来は100%真実に近い(リマルークさん)

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 ドキュメンタリー出身のヴァシャノヴィチ監督は、主演の元兵士、セルヒー役にプロの俳優は使わず、戦争の実体験がある人を使うことを決めていたという。さらに「戦争によって精神的なトラウマを受けたPTSDを抱えた人を採用しました。その深い部分の表現はプロの俳優でもできません」
一方、アンドリー・リマルークさんは、「私自身がこの戦争経験者なので、映画の出来は100%真実に近いと確信しています。私は1年半に渡って戦争に参加し、そこで目にしてきたものは血、死、爆発とさまざまなものでした。ウクライナの戦争経験者はだいたいPTSDを抱えています。映画の中では、現在のウクライナ人が抱える問題を如実に示しています。戦争経験者の10%がアルコール依存症に陥り、7〜8%が自殺してしまうという統計データもあるのです」と自身の体験や、ウクライナ戦争経験者が抱える問題について語った。
 
 
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 ダイナミックな自然をバックに、ほぼ固定カメラでワンシーンワンカットでつないでいく手法が非常に効果的だが、ヴァシャノヴィチ監督は「大きな画面のフレームワークで、長回しの撮影をすることで、よりドラマチックなシーンを再現し、主人公たちの感情的なところを伝えることができます。より現実に近い感情を伝えることに重きを置きました。映画の中で人物だけでなく、人物を取り巻く環境も撮りたかったのです」とその狙いを語った。
 
 
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■戦争に参加していたことを思い出し、イメージを膨らませながら撮影に臨んだ(リマルークさん)

 一人芝居のシーンが多いリマルークさんは、「私にとっては価値のつけられないぐらい貴重な経験をさせていただきました。2015年戦争に参加していたことを思い出し、イメージを膨らませながら撮影に臨みました」と謙虚に撮影を振り返った。過酷な撮影の中でも、ある意味ユーモアが込められ、非常に印象に残るのは、岩で囲まれた場所でパワーショベルのバケットに給水車から水を入れ、下にはガソリンで火を焚いて、お風呂にように浸かるシーン。実際には「水が温まるまで待ってはいたのですが、とても寒く、冷たくて、大変でした」(リマルークさん)というこのシーン。最初は「鉄工所の鉄が入っているプールを想定していた」(ヴァシャノヴィチ監督)というが、それとは別にプールから真っ赤な鉄が斜面を流れるダイナミックなシーンがあるのも、本作の見どころなのだ。
 

 

■死せる土地で、何が人間をそこに止めるのかというテーマを普遍化して伝える(ヴァシャノヴィチ監督)

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 本作では「大地が汚されてしまったのを元に戻すには何十年もかかる」と懸念しながら、それでも生きていくという力強いメッセージを感じさせるが、ヴァシャノヴィチ監督は「日本の原発事故の影響も存じていますし、ウクライナの東部は数年前に起きた戦争で、人が住めない地区になりつつあります。ウクライナ東部の環境破壊は悲劇的で、鉱山が荒廃したまま放置されており、そこに溜まっている水が上限を超えると、飲料水を汚染することになり、つまり人間が住めなくなる土地になってしまうのです。死せる土地で、何が人間をそこに止めるのかというテーマを普遍化して伝えようと思いました」とその狙いを語った。汚染水の処理も、地雷の除去も何十年の長きに渡って対処しなければならない、まさに戦争後の闘いが続くウクライナの地で、それでもそこで生きていくことを誓った男の未来をぜひ、確かめてほしい。『アトランティス』は、11/05(火)14:35より上映、ゲストも登壇予定だ。
(江口由美)
 

 
第32回東京国際映画祭は11月5日(火)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
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「京都は時代劇を撮るためのプロがいる場所」無声映画時代に活躍した活動弁士の悲喜こもごもを描く周防正行監督最新作『カツベン!』で、第11回京都ヒストリカ国際映画祭開幕!
(2019.10.26 京都文化博物館)
登壇者:桝井省志氏(『カツベン!』企画)、片岡一郎氏(活動弁士)
  
 今年で第11回を迎える京都ヒストリカ国際映画祭が、10月26日(土)京都文化博物館にて開幕した。今年は、従来のヒストリカスペシャルに加え、特別企画として、「今こそ語り合おう京都アニメーション、そして京都がアニメ文化史に刻んだ足跡を深掘りする」と題し、アニメーション草創期から京都アニメーションまでの京都発アニメを文化史の中で検証する上映&トークも開催される。
 
 

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 オープニングには、周防正行監督の最新作『カツベン!』が上映され、上映後オープニングセレモニーが開催された。まずは主催者を代表し、実行委員長阿部勉氏が「京都ヒストリカ国際映画祭は、映画の発祥といわれる京都で作られる映画の活性化が大きな目的で、時代劇映画を中心として、京都が積み上げてきた伝統の継承、人材育成を行なってきました。(過去)10年間の積み重ねが今年のプログラムに反映されていますし、京都がアニメ文化史に刻んだものを深掘りしています」と挨拶。引き続き、京都府副知事の山下晃正氏が「作り手の方にフォーカスしてきた我々からすれば、京都アニメーションの事件は、本当に大きなショックを受けました。京都アニメーションは非常にクリエイターの方を大事にし、クオリティの高いアニメーションを作りたいと、わざわざ京都を選び、そこでアニメーションを作ってきた。そのことが世界に広がり、映画の持っている力、人の持っている力を改めて感じました。きちんとしたものを、きちんとやり続けることが、いかに大事かを胸に刻み、これからも取り組んでいきたい。ヒストリカの中で一番思い出に残る映画祭になると思いますので、京都の映画人を叱咤激励していただきたい」と語った。
 

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左:桝井省志さん、右:片岡一郎さん
 
 ゲストによるフォトセッションの後、桝井省志さん(『カツベン!』企画)、片岡一郎さん(活動弁士)を迎えてのトークショーが開催された。ヒストリカの中で、時代劇の企画を活性化させるプロジェクト、京都映画企画市の企画コンペティションで選ばれた1本が『カツベン!』のシナリオだったという桝井さんは「京都で映画の企画が具体的になり、京都の撮影所で昨年撮影し、今日こちらでお披露目できたことを、大変嬉しく思っています」と今の気持ちを語った。
 
 常にオリジナル脚本を自ら執筆してきた周防正行監督は、長い監督人生の中でも他人の脚本(監督補でもある片島章三さん)で監督するのは初めてだったという。桝井さんは「周防監督は、自分が脚本を書く時、脚本家であることを引きずり、演出家として監督する切り替えに時間がかかっていました。今回は出来上がった脚本に対し、具体的な提案をするということで、書き手の呪縛から解き放たれ、監督業に徹することができた。撮影は楽しくできていたようです」と撮影の様子を明かした。
 

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 活動弁士役の指導にあたった片岡一郎さんは、活動弁士としての活動のみならず、活動写真研究家としても有名であることに話が及ぶと、「戦前の活動弁士のレコードを3000枚ぐらい集めていたのですが、日本は地震もあり、安全に保管する責任が持てないので、きちんと保管し、公開してくださる機関を探したところ、ドイツのボン大学が全て引き受けて下さいました。今年、国から5年間で5000万円のデジタル化予算がついたそうです」と、今や国を超えて日本の活動弁士の記録を遺すことに尽力しているエピソードを披露。実際に活動弁士活動をしていても、なかなか脚光を浴びることが少ない中、「大きな仕事が来た時は、協力して(活動写真や活動写真弁士のことを後世に伝える)大きな流れを作っていくべきだと思いました」と、本作協力時の心境を語った。
 
 また片岡さんは、活動写真小屋の看板弁士、茂木貴之役を演じた高良健吾さんへの指導を振り返り、「一線で活躍されている方の吸収力の速さには恐れ入りました。伴奏音楽と一緒に喋るわけですが、僕は弁士を始めた数年、それを聞く余裕はなかった。でも高良さんに生演奏で一度やってもらうと、なんと5分で対応されていました。本当に恐れ入りました」一方、活動弁士を夢見て、先輩弁士の真似をしながら自分流の弁士スタイルをみつけていく主人公染谷俊太郎を演じた成田凌も、撮影ですっかり活動弁士に魅了されという。「成田さんは、映画のサントラで自分の活動弁士ぶりを音にしたいということで、先日スタジオに入り、片岡さんに指導していただいて、新録音しています」と桝井さんがサントラ情報も披露した。
 

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 劇中で登場する無声映画は、全て実在の作品を、本作用に改めて撮り直し、上白石萌音、草刈民代他豪華キャストが無声映画の登場人物を演じている。桝井さんは「先輩たちのリスペクトも込めて、『十戒』『金色夜叉』『椿姫』を事前に撮影。東映のスタッフと、当時の無声映画はどうやって作られていたかを検証しながら、楽しんで作りました。それを撮り終わってから、本編の撮影に入っています」と、撮影の裏話を語った。さらに「京都は時代劇を撮るためのプロフェッショナルがいるので、東京から来た我々が時代劇を撮るといえば、極端な話、明日からでも撮れる。周防監督もまた京都で時代劇を撮りたいと言っていました」と、時代劇のプロが揃った京都での撮影に強く感銘を受けた様子。
 
 最後に「現在のアニメの吹き替えのように、一人一役で声色掛け合い説明の活弁を再現したのは、映画初。『カツベン!』が間違いなく面白いということはご理解いただけたと思います。12月13日公開ですので、どうぞ宣伝、よろしくお願いいたします」(片岡)
「活動弁士は日本独特の文化であることを知り、日本人は本当に話芸が好きだなと思います。アニメーションの世界でも、話芸が現代につながっていると感じます。片岡さんたち(現在活動中の活動弁士)が頑張ってこられたからこそ、映画『カツベン!』ができました。カツベンは略語で正式には「活動写真弁士」と、勉強することはたくさんありますが、京都発の映画を是非応援していたただければと思います」(桝井)と観客に呼びかけた。
 

第11回京都ヒストリカ国際映画祭は、11月4日(月・祝)まで、京都文化博物館(3Fフィルムシアター/別館)にて開催中。


(文:江口由美 写真:河田真喜子

 
第11回京都ヒストリカ国際映画祭 公式サイトはコチラ
https://historica-kyoto.com/
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学園ミステリー・ホラーに込めたのは「現実に起こり得そうな恐怖と、その先にある人間の本能」
『スクールズ・アウト』セバスチャン・マルニエ監督インタビュー
 
「フランス映画祭2019」で日本初上映され、好評を博したフランス発学園ミステリー・ホラー『スクールズ・アウト』。『シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション 2019』(10月開催)にてオープニング作品として上映が決定し、10月に東京・ヒューマントラストシネマ渋谷、愛知・シネマスコーレ、大阪・シネ・リーブル梅田で公開される。
 
監督は前作『欲しがる女』で、パリから地元に戻った女性が復職を狙って引き起こす事件をスリリングに描いたセバスチャン・マルニエ。『欲しがる女』以前から映画化を熱望していた本作では、優秀クラスの代理教師に赴任する主人公ピエールを、ロラン・ラフィット(『エル ELLE』『ミモザの島に消えた母』)が演じている。担任が自殺をしても動じることなく常に6人で行動する反抗的な子ども達と対峙する中で、翻弄される一方、子ども達の秘密の活動を調べようとするキーパーソンだ。
 
ジワジワと迫りくる恐怖を描く手腕はさらに研ぎ澄まされ、常に不穏な雰囲気を醸し出す音楽と共に、学校と放課後の様子を粛々と描写。優秀過ぎるがために、現代社会に絶望し、恐ろしい活動をする子ども達が引き起こす出来事。物語の最後に起こる本当の恐怖は、ただ単にゾッとするだけでなく、現代社会を映す鏡のようである。。本作のセバスチャン・マルニエ監督に、お話を伺った。
 

■15年越しの企画、最初に原作を読んだ時のセンセーションを思い出し、脚本を執筆。

―――もともと原作があり、長年かけて映画化したそうですが、その経緯を教えてください。
原作を最初に読んだのは15年前で、すぐに映画化するため権利を押さえたのですが、資金調達の目処がたたず、企画が保留になった状態でした。前作の『欲しがる女』を作ったときも、私の映画化への思いは強まるばかりだったので、『欲しがる女』プロデューサーのロリーヌ・ボンマルシャンさんに『スクールズ・アウト』の話をしたところ、企画が動き出したのです。実際、映画化するにあたっては原作を読み直すことはせず、最初に読んだ時に覚えた感動やセンセーションを思い出して脚本を書きました。映画化をするにあたって残っていたのは子どもの恐ろしさについての話という全体の流れと、冒頭の先生が自殺するシーンぐらいです。15年前の大混乱は今とは違うので、そこは変更しましたし、詩的なメッセージとして私がこの作品で何を伝えたいかを考え、それを入れた形で脚本化しています。
 
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■常に6人で行動する優等生の子どもたちの残忍性は、社会の産物。

―――現代社会に絶望している、エコロジーに関心を持つ優等生集団は、イジメのように過酷な訓練ごっこをし、モンスター中学生のようでしたが、彼らを通して描きたかったことは?
優等生たち6人がいつも必ず一緒にいるようにしました。やっていることはバラバラでも必ずその6人で行動しているところを見せています。あとは子ども達の残忍性を通して、実はそれは社会の産物であるということを見せたかったのです。確かに普通ではないスーパー優等生ですが、彼らはいい成績を取ることだけしか期待されていない。別の意味で学校の他の生徒達から阻害されている生徒達を描きたかったのです。また、あえて両親の姿を見せないようにしています。あまりにも連帯感が強く、意識が高すぎる子どもたちなのです。宗教とは違いますが、子どもたち自身が過激化していることを表現しています。
 
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■ロラン・ラフィットと話し合いながら作り上げたピエールの複雑な人物造詣。

―――ロラン・ラフィットが演じるピエールは、代理教師で優等生クラスを受け持ち、彼らの行動に翻弄され、どんどん疑心暗鬼に陥る様が非常に繊細かつスリリングに描かれていました。ロラン・ラフィットのキャスティングや、役作りについて教えてください。
ピエールという役は、子ども達と観客をつなぐ役目です。ピエールを演じるロラン・ラフィットを通じて彼らの恐ろしさやパラノイアを観客は知るわけです。ピエールという役はそんなにいい人ではありません。身勝手で個人主義なところもありますし、そういう意味ではあまり子どもと変わらないのですが、一方、学校で子ども達のことを一番考えているのも担任のピエールで、子ども達との共通点もあります。あとはフィジカル面ですが、ピエールは筋骨隆々としており、自分をケアしているのも一つのキャラクターを表しています。ロラン・ラフィットと話し合いながらピエールの人物造詣を行いました。完成した作品を見たときに、ロラン・ラフィットが偽のタトゥーをつけていたり、黒い服を着ていたりするものだから、だんだん自分に似てきたような気がして面白かったですね。
 

■俳優は体を使うことで、もっと色々なことが表現できる。

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―――前作の『欲しがる女』ではヒロインがランニングや筋トレをしていましたし、本作のピエールも湖で泳ぐのが日課でした。マルニエ監督は主人公が体を鍛える姿をみせるのが好きなのでしょうか?
トレーニングや体を鍛えているシーンを入れるのは好きですし、撮っていて楽しいですね。フランス人の俳優はフィジカル面を撮ることにあまり熱心ではないのですが、私は体を使うことで、もっと色々なことが表現できると思っています。特に『欲しがる女』と『スクールズ・アウト』の主人公に共通するのは、自分の体を賞賛し、自己愛が非常に強いことです。私自身はジムで鏡の前で自分の姿を見ながら走るなんて、なんなのか本当に理解できないし、そんな悲しいことはないと思うのですが、同意していただけますか?(笑)
 
―――なるほど(笑)室内より、自然の中でのランニングやアクティビティがお好きなんですね。
自然は元々好きなので、自然を舞台にしています。フランスは素晴らしい風景がたくさんあるので、もっとフランス映画で自然を撮影すればいいのに、なかなかそのような作品はないですね。自然の中の人間を撮っていきたいですし、今、用意している次回作の企画でもそういう部分を入れるつもりです。自然と人間の間に電流が走るような、例えばゴムを引っ張ると弾けるようなエネルギーを、自然を通して見せていきたいと思っています。
 
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■音楽という芸術を通じて、子ども達が元々持っている感情を吐き出させる映画オリジナルのシーン。

―――全体的に不穏な雰囲気が支配する作品ですが、エマニュエル・ベルコ演じる音楽教師カトリーヌの存在は空気を一変させる力があります。またモンスターのような優等生達もカトリーヌの指導で合唱しているときだけは、一般の中学生らしい表情をしていました。
実はカトリーヌの設定は映画オリジナルのものです。子ども達はなかなか感情や思っていることを表に出さないポーカーフェイスなのですが、音楽という芸術を通じて彼らが元々持っている感情を吐き出せるシーンを作りたかったのです。カトリーヌは交通事故で大事な家族を失った痛みがあるので、子ども達に寄り添いやすい人です。ただルックスは私立のエリート校ですが、パンクな格好で、先生らしからぬ言葉を吐きます。赤い髪に染めてもらったり、パンクっぽくというのは私が指示を出しました。また、子ども達が歌っているのは60〜70年代に流行った私が大好きな曲で、元々はパティ・スミスが歌っていたロックを神聖なチャペルで歌っています。それも私がやってみたかったことなんです。
 

■自分たちの目に見えない恐怖、それを引き起こした原因は人間にある。

―――学校以外の場所、とりわけピエールが自転車通勤の時に遠くで原子炉が何度か写り、観客に何か不吉ことを予感させます。日本でも福島原発事故があり、世界の原発も一部の国を除き、まだ増加傾向にありますが、この描写を入れた理由は?
福島の原発事故だけではなく、地震や津波と次々に様々な災害に見舞われている日本の様子がニュースで飛び込んできたときは、世界の終末のようにも思えました。私が子どもの頃に起きたソ連のチェルノブイリ原発事故も、一番恐怖を覚えた出来事です。化学テロもそうですが、自分たちの目に見えない脅威は本当にゾッとすることですし、同時にそういう事故の原因は人間にあるということを映画で伝えたかったのです。
 
 

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■現実に起こり得そうな恐怖と、その先にある人間の本能を描く。

―――現代社会が人々の意識を無意識に蝕んでいることをミステリー・ホラーとして表現しているところに、オリジナリティを感じますが、映画づくりで大事にしていることは?
今回は、私が今、持っている恐怖を描いています。小説も映画でもそうですが、いかにもバロック的なもの、現実から全くかけ離れたものより、現実に起こり得そうな恐怖の方がより怖い。あとは自分が子どもを持ったらどうなるだろうかという恐怖もあります。ただ、映画では恐怖の先にある人間の本能も描いています。最後、ある出来事が起こったときの子ども達の行動は、ピエールと一緒に目の前の危機を乗り越えていこうとする意思の表れであり、実際に自分たちに直接的に降りかかっていない恐怖に対しては全く別の行動をするかもしれませんが、本当の恐怖があるときには、人間の生き延びようとする本能が働くのだと思います。
(江口由美)

 
『スクールズ・アウト』 L'Heure de la sortie
(2018年 フランス 103分 PG12)
監督:セバスチャン・マルニエ
出演:ロラン・ラフィット、エマニュエル・ベルコ、グランジ
配給:ブラウニー 2018/103分/PG12
10月11日(金)「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2019」
 ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国開催
© Avenue B Productions - 2L Productions
 
 

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~時代劇の聖地・京都で開催する“京都発、歴史映画の祭典”~ 

 
映画祭で「京アニ」追悼…。《第11回京都ヒストリカ国際映画祭》の概要が1日、京都市中京区の京都文化博物館で発表された。歴史にちなんだ京都にふさわしい映画祭、今年は10月26日(土)から11月4日(月・祝)まで。様々なセクションに分かれて全26本を上映する。会場は京都文化博物館

中でも今年は、京都独自のアニメ文化をテーマに先ごろ、凄惨な事件があった京都アニメーション作品『涼宮ハルヒの消失』など4本をはじめ、アニメ草創期の『煙突屋ぺろー』(1930年)など3本。「時代劇文化がTVアニメを変えた」と題して『アンデルセン童話 人魚姫』(75年)など3本を特集上映する。

「京アニ」作品は事件後、同博物館がオファーしたが、事件直後で実現しなかった。「京都アニメーション作品の魅力」と題して『涼宮ハルヒ』のほか、『映画 けいおん!』『たまこラブストーリー』の4作品上映は追悼の意味と、未だに募金が途

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絶えることなく続く海外からの反響も呼びそうだ。

「時代劇文化」~では『白蛇伝』『少年猿飛佐助』『わんわん忠臣蔵』『太陽の王子 ホルスの大冒険』『長靴をはいた猫』などカルト的な名作ぞろい。

historika2019-katuben.jpg①【ヒストリカ・スペシャル】 オープニング上映は周防正行監督の最新作、成田凌主演の『カツベン!』。サイレント時代のメロドラマ『祇園小唄絵日傘 舞の袖』現役の現役の活動弁士を招き、トークショーもある。

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②【ヒストリカ・ワールド】 世界の最新歴史映画で米映画『ダムゼル とらわれのお嬢さん』、フィリピン映画『ミステリー・オブ・ザ・ナイト』、英映画『カーミラー 魔性の客人』、インド映画『トゥンバード』。4作品とも日本初上映。
 
 
 
 

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③【「子連れ狼」まつり】
「劇画から妄想する時代劇」 として大映映画のヒット作「子連れ狼」シリーズを4作品、特集する。

④ヴェネチア国際映画祭提携企画
『薄氷の上のゼン』、『IN THE CVE』。どちらも監督が来場する予定。

⑤京都フィルムメーカーズラボ スクリーニング
仏映画『シャトー・イン・パリ』セドリック・イド監督が来場予定。1983年今村昌平監督作品『楢山節考』デジタルリマスター版。
 
公式サイト⇒ https://historica-kyoto.com/