映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2013年3月アーカイブ

GFBF-s1.jpg『GF*BF』ヤン・ヤーチェ監督インタビュー
『GF*BF』  “GF*BF “
(2012年 台湾 1時間45分)
監督:ヤン・ヤーチェ
出演:グイ・ルンメイ、ジョセフ・チャン、リディアン・ヴォーン、チャン・シューハオ、レナ・ファン、ティン・ニン
c2012 ATOM CINEMA CO., LTD.  OCEAN DEEP FILMS  CENTRAL MOTION PICTURE CORPORATION  HUAYI BROTHERS INTERNATIONAL MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED

★作品紹介⇒ こちら
★公式サイト⇒ http://www.pm-movie.com/gfbf/

第8回大阪アジアン映画祭の中でも非常に人気の高かった作品の一つが特別招待作品部門『GF*BF』(台湾)だ。日本にもファンの多いグイ・ルンメイの魅力が際立っている他、同級生男子に想いを寄せ続けるジョセフ・チャンの演技など、言葉にならない感情が瑞々しく描かれた同級生3人の30年にも及ぶ恋物語に郷愁を感じた人も多いだろう。一方、それぞれの時代で展開される自由を求める闘いの足跡に、台湾人のアイデンティティーが形成されるバックグラウンドが透けてみえる。映画祭ゲストとして来場した本作の脚本・監督のヤン・ヤーチェ氏に本作制作の狙いや、台湾が歩んできた歴史、そして台湾映画界の現状について話を伺った。上映後のQ&Aの様子も合わせてご紹介したい。

<ストーリー>
GFBF-1.jpg1985年、戒厳令下で表現の自由が制限される中、高校生のメイベル(グイ・ルンメイ)とライアム(ジョセフ・チャン)は秘かに発禁本を売り、アーロン(リディアン・ヴォーン)らと画策して校庭で全校生がダンスをする夢を叶える。良き友達関係だった3人だが、アーロンがメイベルに告白し、メイベルは複雑な想いを抱えたまま付き合い始める。1990年、大学で学生運動に身を投じていたアーロンが、運動仲間と親しげに話す姿を見たメイベルは、ある決断を下す。


<上映後のQ&A>
GFBF-s3.jpg―――監督は小説も書かれていますが、映画に描かれていないことが含まれているのでしょうか?
わざと小説とシナリオはわざと違う風に書きますし、小説と映画は異なるところがたくさんあると思います。最後プールの中で二人が遊ぶシーンは、クルーと私が相談して決めました。最後のプールの水はほとんどなくなっていますが、それは彼らの青春がもう過ぎてしまったことを示しています。

―――この映画を撮影するにあたって印象に残ったことや、出ている役者さんで印象的だったことは?
10年以上の知り合いなので、長い時間をかけて心の交流を行いました。彼らの演技を統一させるためにある方法を使いました。書いたシナリオを現場で変えるつもりでいたのですが、変えることを2人には知らせても残りの1人には知らせないようにするなど、残った1人が臨機応変に演技してもらうようにしました。映画を撮るときにこの方法を多用したので、役者には随分きつかったと思いますが、特にグイ・ルンメイさんは一番脚本の変更を知らされないことが多かったので、随分怒られました(笑)。

―――三人の友情や愛情を描く一方で、台湾の社会や政治の状況も背景に描いたのはなぜですか。
本当に社会情勢が変わっていて、1985年は戒厳令が敷かれ、みんな情熱的でしたが、ここ数年はみな消極的になっています。映画を見てみなさまにもう一度情熱的な時代に戻って、いまの時代を考えてほしいと思い、作りました。日本の統治時代から、大陸から国民党が入ってから今に至っていますが、台湾の歴史は「無常」そのものです。三人の関係も「無常」そのものですが、最後に子ども二人を残すことにしました。運命は無常ですが、どこかに小さな幸せが隠れているものです。最後にバス停で3人がバスを待つシーンがありますが、一緒におうちに帰る小さな幸せもあるということを表現したかったのです。


<インタビュー>
―――監督の今までのキャリアや、グイ・ルンメイさん、ジョセフ・チャンさんとの出会いについてお聞かせください。
元々は広告会社に勤めていましたが、パートで編集の仕事をし始めました。最初に書いた脚本で賞をもらったのですが、脚本家ではありません。その後、会社が倒産してしまい、今このように監督業をやっています(笑)。グイ・ルンメイさんやジョセフ・チャンさんとは、『藍色夏恋』を制作したときに出会い、10年以上前からの知り合いでしたが、本作までに一緒に仕事をしたことはありませんでした。ほとんどの監督は、キャスティングする際に過去の作品の演技を見ますが、私は俳優になる以前の彼らを知っているので、本当の人となりを知っているので、自信を持って二人を推薦することができました。

―――本作を作るにあたって、一番こだわったところを教えてください。
キャスティングです。キャストに対する要求として、「泣いてくれ」という指示はしません。演技によって私を感動させてくれたら、それでいいのです。本物であってほしい。それは涙であってもそうですね。

―――愛情物語だけではなく、政治的な背景も絡めて描くことで、中国などの市場が狭まってしまうことに繋がると思うのですが、それでも描くことにこだわったのはなぜですか?
GFBF-2.jpgもちろん中国大陸は台湾にとっても非常に大きな市場で魅力的だと思います。だけど、彼らの法の目をかいくぐって作品を作るとか、彼らの好みに合わせて作ることは本当の映画制作ではないと思います。中国大陸自身も映画界が大きな問題を抱えています。観客たちは投資の大きい戦争ものや時代劇、スターが出演しているものしか観ないようになってしまったので、台湾の映画まで同じような方向に行ってしまうのは、あまり賢いやり方とは言えません。今回私の映画の投資をしてくれた一人に、中国の華僑系の会社オーナーがいますが、この映画をとにかく一度中国に持っていこうと試みてくれています。何度も門を叩いていれば、いつかは門が開くかもしれません。何もしなければハリウッドのような大きな映画しか中国大陸に入っていくことができなくなるからです。ハリウッド映画は世界中占領してしまっているので、私たちが制作するときは地域性を大事にして、作っていきたいと思っています。

―――85年では戒厳令下の学校生活、90年では学生運動を背景に描いていますが、97年で97年ゲイのカップルの結婚式を描くことで、急速な自由化の機運が見てとれました。
GFBF-3.jpg私の映画で描いているその時代のことは全て本当に起こっていたことです。実際に97年同性愛カップルの結婚式があって話題になったので、作品に取り込んでいます。社会の自由化を事件によって描くのはとても難しいですが、愛の自由化に関して、「同性愛カップルの結婚が認められた」というのはとても変化に富んで分かりやすいです。最後にジョセフ・チャンが演じるライアムが、愛がある故に双子を引き取って養うわけですが、それも愛の形の現れです。

同性愛の家庭はまだ非合法ですが、実際には多く見られるようになりました。レズビアンの家庭が多く、5、6人のお母さんが子供を育てるような家庭も見られます。色々な場面で自由を求めるというのがテーマの一つですが、本当の愛を手に入れることが愛の自由化だと思います。

―――「台湾社会に元気がない」とおっしゃっていましたが、元気がない理由はどこにあると思いますか?
日本でも昔学生運動の時代があったと思います。色々な変化に富んだ活動をした結果、得たことに対して「こんなはずではなかった」と思うことがよくあるのではないでしょうか。日本もきっと一時期社会的な気分が落ち込んでいたことがあるでしょう。台湾も学生運動で頑張ったけれど、結局空しいような状況があり、それが落ち込んでいるという意味なのです。追い求めていた夢が変質してしまい、スピードも落ちるし、暗い気持ちになってしまいます。ここ1、2年は変わってきており、先週は台湾で21万人が反核運動に参加しました。このように社会に人々が関心を持つようになってきた、もう政治に騙されないぞという気概をもてるようになってきました。前までは夢が持てませんでしたが、今は夢を持ってその実現に向けて前向きな気分になりつつあります。

GFBF-s2.jpg―――台湾で上映したとき、観客の反応で意外だなと思うものはありましたか?
台詞が少なくて、視線で感情を表現するようにしたので、日本やアジアなら受け入れられるだろうと思っていましたが、実際はそうでもありませんでした。逆に先週ロンドンで上映され、8割方が白人なのですが、特に女性はグイ・ルンメイの役柄をよく理解できると言ってくれたのが驚きでした。自由恋愛の社会なので、愛でこんなに耐えたり苦しんだりしないと思っていましたが、「愛は人を苦しめるものだ」と。

―――最初と最後に現代へ繋がり、主人公たちが闘ってきた遺伝子が子どもにも受け継がれています。特に日本の高校生とは違い、現代の女子高生でも学校に向けて闘う姿が新鮮でした。
日本は自由だから闘う必要がないのでしょうね。日本では髪の毛やスカートの長さなど構わないと思いますが、世界中で台湾だけが教官と言われる軍人を学校に派遣しています。それはまだ政府がコントロールしようという気持ちがあるからですね。確かに台湾は移民をしてきた人が多く、その昔中国の清朝に反抗して(台湾へ)流れてきたり、今度は国民党に抗議している訳で、台湾人の個性は反抗心を遺伝子としてもっているのかもしれません。

―――次回作について教えてください。
骨董品を扱う話です。商人が骨董を扱うと色々な賄賂が動くわけですが、その時に行われるマネーロンダリングなど、裏を探ると汚い図式が見えてくるので、そこを描きたいです。華僑は骨董品に手を染める人が多いですね。中国や台湾は骨董品がすごく多いのですが、未だかつてそれを題材に映画を作った人はいません。芸術性が高くて、とても神秘的なものなのでやってみたいと思っています。ここ10年ぐらいは土地ころがしが多くて、商売人と官僚の間に賄賂の贈与が多いので、そういうこともテーマにしてみたいです。今年の年末には撮影を開始したいと思っています。


今回OAFFゲストとして来日した台湾監督陣の中で年齢的にも一回り上の中堅層といえるヤン・ヤーチェ監督。OAFF交流イベントとして期間中開催された「台湾映画の現在(いま)を語る」トークセッションでは、「ハリウッド映画もスーパーマンも大嫌い」と、向田邦子や黒澤明監督『生きる』などが大好きと伺い、大いに納得。台湾映画人が対海外戦略で岐路に立っていることや、これからも台湾映画らしい多様性を持ち続け、ハリウッドや大陸映画とは違った持ち味を生かすことを提言している姿が印象的だった。思慮深く、とても丁寧に、そして台湾人としてのアイデンティティーを大事にしながら映画という手法で表現するヤン・ヤーチェ監督に出会えたことは、今年のOAFFに携わった中でもうれしい出会いの一つだ。次回作も大陸で上映するためにと妥協することなく、挑戦的な題材を取り上げる姿勢に、台湾人が持つ「闘う」遺伝子が脈々と息づいているのを垣間見た。(江口由美)

第8回大阪アジアン映画祭『GF*BF』作品紹介はコチラ

I Do Bidoo-s1.jpg『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』クリス・マルティネス監督、ユージン・ドミンゴさんインタビュー

『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』  “I Do Bidoo Bidoo“
(2012年 フィリピン 2時間1分)
監督:クリス・マルティネス 
出演:サム・コンセプション、ユージン・ドミンゴ、ゲイリー・バレンシアノ
(c)Unitel Productions and Studio 5

「ドゥ・ビドゥビドゥ~♪」と思わず口ずさみたくなるフィリピン発のカラフルミュージカル『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』。OAFFでは『100』(OAFF2009)、『浄化槽の貴婦人』(OAFF2012)に続き、名女優、ユージン・ドミンゴと組んでクリス・マルティネス監督が撮りあげたOAFF2013のコンペティション部門作品だ。フィリピンのビートルズ、APO Hiking Societyの曲を全編に散りばめたフィリピン版『マンマ・ミーア』は、金持ちのお嬢様と、下町の青年との恋物語に、青年のママ演じるユージン・ドミンゴやママ友達の賑やかおばさん、青年に恋心をいだく男友達とカラフルな人間模様が繰り広げられ、心に沁みる歌の数々が感動を呼ぶ楽しさが詰まった愛の物語だ。

『100』(OAFF2009)以来の来場となったクリス・マルティネス監督と主演のユージン・ドミンゴさんに、本作の撮影秘話や、フィリピン映画界の現状について話を伺った。上映後のQ&Aの様子も合わせてご紹介したい。

<ストーリー>
1I Do Bidoo-2.jpg9歳のロックとトレイシーは、トレイシーの妊娠を機に結婚を決意。ロックの母(ユージン・ドミンゴ)は、お金持ちのお嬢様のトレイシーとの若すぎる結婚に心配を隠せない。トレイシーの母親も夫との冷え切った関係を払しょくすべく、トレイシーを結婚させずに一緒に渡米するよう説得する。ある日トレイシーの招きで、結婚前の挨拶に訪れたロック一家は、退役軍人のトレイシーの祖父に差別的扱いを受け大憤慨。喧嘩別れをしてしまったロック一家とトレイシー一家の険悪な関係は、若い二人の絆にも影を落としていく…。 


<上映後のQ&A>
I Do Bidoo-s2.jpg―――この作品で全面的に使われているフィリピンバンド、APO Hiking Societyについて教えてください。
クリス・マルティネス監督(以降マルティネス監督):APO Hiking Societyは3人組のバンドで、70年代初期から活動しています。作詞作曲も手がけ、その楽曲は何世代にもわたって作り直されたり、リメイクされたりしながら歌い継がれ、今だにヒットしています。フィリピン人からすれば40年に渡って聞き続けてきた曲で、映画のサントラを手がけるなど幅広い活動をしてきたバンド。本作は「フィリピンのサウンドトラック」ですね。APO Hiking Societyはまさに、フィリピンのビートルズなのです。

―――本作制作のきっかけは?
マルティネス監督:プロデューサーからAPO Hiking Societyの楽曲を使って『マンマ・ミーア』みたいな映画を作れないかと打診がありました。それからAPO Hiking Societyの楽曲を全て聴きこみ、人気のあるものを選んでいきながら、究極の愛とは家族愛なのだと感じました。フィリピン人はとてもロマンチックで、ラブソングが流行るのですが、これらの曲を聴いてストーリーが沸き、脚本を書いていったのです。


<単独インタビュー>
 ―――監督とユージンさんの出会いや、お互いの魅力について教えてください。
I Do Bidoo-s3.jpgユージン・ドミンゴ(以降ユージン):クリス・マルティネス監督は、フィリピン大学で同じ劇団に所属していました。監督の方が先輩で、在学中は私のことを召使いのようにみなしていたので(笑)、なんとか見返してやろうと頑張りました。最初の映画や短編、私の最初の舞台の脚本をクリス監督が書いてくれましいたし、最初のCMも作ってくれました。おそらく私のことを認めてくれたのでしょうね。それ以来仕事をくれる関係なので、好きにならざるを得ない状況です。

クリス・マルティネス監督(以降マルティネス監督):最初から自分は監督をしていたのですが、すごく面白い新人が入ってきたと思っていました。ユージンは小道具などの裏方をやっていたのですが、だんだん「こいつは面白いのではないか」と気付き、彼女を演出していくと、頭角を現してきました。次第に僕の方がユージンの衣装を縫うようになり、立場が逆転して、ユージンが女王様、僕が召使いのようになって現在に至っています。このままの関係が続いていくでしょう(笑)。

―――APO Hiking Societyの曲を使ったミュージカルを作るという企画を提示されてから、同グループの全ての曲を聞かれたそうですが、なぜ『ドゥ・ビドゥビドゥ』をタイトルやメイン曲にしたのですか。
マルティネス監督:歌詞が音楽を作ることについての内容で、「音程が狂っていても関係ない。自分を表現することが大事」といったメッセージや、音楽に対する愛を歌っているのが、映画そのもののテーマにも合っていると思いました。フィリピンではミュージカル映画が珍しいので、APO Hiking Societyの楽曲の中でも一番馴染みのある選曲がいいと思いましたし、幕開けのにぎやかな感じにふさわしい曲です。

―――フィリピンではミュージカル映画が珍しいとのことですが、制作するにあたって大変だったことは?
 I Do Bidoo-1.jpgマルティネス監督:プロデューサーから話を持ちかけられてから、完成まで約3年半かかりました。脚本を書くのに1年、その後2年ぐらいでキャスティング、楽曲の権利問題を解決したり、アレンジやレコーディングなどを行い、そこから撮影しました。長い道のりなのでそれが大変でした。特に群衆でのダンスのシーンは何度もリハーサルを重ねました。でもその甲斐があったので、また機会があればミュージカル作品をユージンさんと一緒にやりたいですね。僕自身も旅行にいけば一日2本ミュージカルを見るぐらい、ミュージカルが好きですから。

ユージン:舞台女優からキャリアをスタートしたので、歌も踊りもこなしていましたが、映画の世界に入って演技に集中するようになってからは、歌や踊りから遠ざかっていました。実を言うと、最初はこの母親役は別の人がキャスティングされていましたが、諸事情がありマルティネス監督がいつも私を信頼してくれるので、話が回ってきたのです。そこからボイストレーニングやダンスレッスンを重ね、歌やダンスをやっていた頃の感覚を取り戻していきました。大変でしたがとてもやりがいがありました。なにせ、トレイシーの両親役はプロの歌手だし、ロックの父(ユージンさんの夫役)は自分で作曲もできるミュージシャンで、フィリピンの歌手協会の会長をしている方なんです。いかに私の状況が大変だったか分かっていただけるでしょう(笑)
でも一番重要なのは歌を感じて演技で表現することなので、そこは自信を持ってやりました。

―――ユージンさん演じるロックの母とその友達3人組は大阪のおばちゃんのような賑やかさと、情の深さがとても魅力的でした。どうやってこの役を演出していきましたか?
 I Do Bidoo-3.jpgマルティネス監督:ユージンさんにとって脚本が一番大事なんです。ですから、彼女がやったことのないような挑戦的な役を書くようにしています。どういうキャラクター像にするのか、髪型や見た目を最初に決めながら、ユージンさんに役に入ってもらうようにしました。
ユージン:毎年いろいろな作品に出演しており、テレビよりも映画に出るのが好きなのですが、映画は監督のものだと思っています。どこでカットをするのか、どう編集するのかも監督にかかっていますから、役者としては監督に全てを委ねる心構えでいます。監督のやりたいビジョンを理解することが絶対に必要ですが、幸運なことにクリス監督とは長年一緒に仕事をしているので、感性も分かる間柄で、モダンな感性をお持ちなところも共通点があります。いつもいい意味でやりがいのある仕事を与えてくれますし、大変だけれど最終的には苦労が報われる仕事ができるので、クセになって毎年クリス監督の作品に出てしまうのです。次のプロジェクトを進行中で、今は浴衣を物色中で、彼氏役の日本人男優を探しています。

―――『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』はフィリピン国内向けに作られたとのことですが、海外映画祭出品作品と、どういう点で違いがあるのですか?
マルティネス監督:『100』『浄化槽の貴婦人』はシネマラヤ映画祭のプロジェクトとして作られたものなので、国内というよりは外国映画マーケット向けに作られました。インディペンデント映画なので、商業映画とは違うオルタナティブな作品として作っていたので、制作の根本が違います。今回の『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』は、完全な商業映画なので、国内のお客さんに見せるために作られました。今回この作品がOAFFやほかの映画祭に呼ばれることになり、歌詞や歌はフィリピンの人しか分からないと思っていたので、それが普遍的な受け入れられ方をすることが分かってとてもうれしかったです。
予算の規模も全然違います。本作1本の予算で、『浄化槽の貴婦人』規模の映画が20本作れるぐらいありました。そのお金を回収するためにフィリピンで利益を上げなければいけないのです。

―――フィリピン国産映画市場は今、どんな状況にあるのでしょうか?
 I Do Bidoo-s4.jpgマルティネス監督:ハリウッド映画の人気があるのは確かですが、どんな映画がかかるかによります。フィリピンの国内事情から言うと、映画は中流以上の人の娯楽であり、貧しい人たちは映画を観るお金がない、チケットを買うなら食べ物を買うという状況です。
ユージン:海賊版が出回って、公開日になればその日の夜に海賊版が街で売られているわ。
マルティネス監督:クリスマスの2週間は、フィリピンの人たちは皆映画をみにきます。メトロマニア映画祭というフィリピンの映画だけを上映する週間で、それで収益を上げた国内の監督にとってもプレゼントになるというお祭りがあります。
ユージン:この2週間は、ハリウッド映画は一切なしなの。
マルティネス監督:今だんだんフィリピン映画も観られるようになってきて、ハリウッド映画にも勝てるフィリピン製の映画も登場しています。ユージンさんが出演した『Kimmy Dora and the Temple of Kiyeme』というコメディー(マルティネス監督は脚本を担当)はその時同時に上映されたハリウッド映画よりもヒットしましたし、クオリティーも非常に良かったです。『浄化槽の貴婦人』も同じ年に公開された『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』より興行成績が上でした。ですから、本当に映画の脚本やキャストなどの質が良ければ国産映画でもハリウッド映画に負けないと思います。 

―――最後にOAFF観客のみなさんにメッセージをお願いします。 
マルティネス監督:今回OAFFで上映していただき、たくさんのいいお客さんに見に来ていただき、ありがとうございます。また次回作を持ってこの場を訪れることを楽しみにしています。
ユージン: (日本語で)ありがとう!ありがとう!Thank you!Thank you!


『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』が初上映されたのは、ちょうど映画祭の半ばとなる13日。私も恥ずかしながら疲れが出て、上映前はフラフラだったが、この作品を観終わったら元気復活。やはりHappyで楽しい映画を観ると、カラダも元気になれるのです!後日来日したユージン・ドミンゴさんを交えてのインタビューは、お二人の出会いエピソードを質問した冒頭から笑いが絶えないものに。大学の劇団時代から歩みをともにしてきたお二人の漫才のようなやりとりを聞きながら、これからも末永く魅力的な作品を作り出すフィリピンの名コンビの次回作が早く見たくてたまらなくなった。(江口由美)

第8回大阪アジアン映画祭『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』作品紹介はコチラ

『低俗喜劇』主演女優ダダ・チャンさんインタビュー

Love in the buff-s2.jpg『低俗喜劇』“Vulgaria”
(2012年 香港 1時間32 分)
監督:パン・ホーチョン
出演:チャップマン・トー、ロナルド・チェン、ダダ・チャン、フィオナ・シット、サイモン・ロイ
(c)2012 Sun Entertainment Culture Ltd. All Rights Reserved

第8回大阪アジアン映画祭特別招待作品として日本初上映された香港の気鋭パン・ホーチョン監督の大ヒット作『低俗喜劇』。昨年香港における国産映画の中で興行収入2位、その下ネタぶりは日本でも大ヒットした『テッド』なんて足元にも及ばない!でも決していやな気分にならず、そのバカバカしさに男女問わず大笑いできてしまう、近年稀にみる香港映画らしい魅力的な作品だ。

 

同映画祭の特集企画《Special Focus on Hong Kong》の一本としてもラインナップされ、14日(木)の《Hong Kong Night》では、セレモニーゲストとして本作のカギを握る新進女優役“パチパチ飴”をキュートに演じた香港の女優・モデル、ダダ・チャンさんが脚本家のジョディ・イ・ローサムさんと共に来場し、満員の観客もその美しさにうっとり。映画祭ならではの豪華ゲストに会場は盛り上がった。

東京ガールズコレクション香港代表として2度来日、セレモニーでも「はじめまして、私はダダです」と日本語で挨拶するなど、小さい時から日本が大好きというダダさんに、『低俗喜劇』撮影秘話やパン・ホーチョン監督の演出法から名前の由来までお話を伺った。

<ストーリー>
低俗喜劇-1.jpgヒット作が 1 本もなく、妻への慰謝料も払えない窮地に追い込まれた映画プロデューサー、トー(チャップマン・トー)。父親の成功を信じる娘の期待に応えるべく、知り合いの紹介で怪しげな金持ち資産家の出資をなんとかとりつける。しかし、その条件は彼が若き日に熱烈ファンだったポルノ映画のリメイクを主演女優を変えずに作ること。往年のセクシー女優は既に60歳で脱ぐことを断固拒否し、映画制作は暗礁に乗り上げると思われたが、トーは首から下だけ若いセクシー女優に差し替える珍案を思いつく。白羽の矢が立ったのは新進女優の“パチパチ飴”(ダダ・チャン)。このまま出資者を丸め込み、映画を完成させることができるのか!?

 


Love in the buff-s4.jpg━━━ダダさんの今までの活動をお聞かせください。
もうすぐ24歳になりますが、モデルの仕事を4年ぐらいやり、所属事務所を変えて2年前に写真集を出しました。それ以降は女優業に転向しています。『低俗喜劇』は3本目の出演作品で、1本目は舞台劇の映画化、2本目はランカイフォンというオシャレなバーがある地域で展開されるラブストーリーでした。

━━━香港でも大人気のパン・ホーチョン監督に、このような大胆な役をオファーされた時の気持ちは?
あまりこのような役をやる準備はできていなかったし、最初に話をいただいたときはただ「パチパチ飴をやるんだよ」としか言ってくれず、詳しく聞いても全然教えてくれませんでした(笑)。でも、もともと『ドリーム・ホーム』や『恋の紫煙』などパン・ホーチョン監督の映画が好きだったのでオファーを受けました。

━━━初めてパン・ホーチョン監督作品に出演されて、今までとは違うパン・ホーチョン監督らしさを感じるエピソードがあれば教えてください。
低俗喜劇-3.jpgものすごく真面目な監督で、もの凄く怖いのでビックリしました。私はお箸を上手に持てないので、子どもにおかずを取るシーンで、すぐに「そのお箸の持ち方はダメだ」と何度も指摘されました。主演のチャップマン・トゥさんに教えてもらいながら、なんとかギリギリOKをもらいましたが、まだ練習中です。
また、セリフに関しても非常に厳しくて、一字一句漏らさずきちんと言えなければならないことが、大きなプレッシャーでしたが、いい経験になりました。チャップマン・トゥさんと共演したのも勉強になりましたね。

━━━本作では困った顔がとてもキュートなチャップマン・トゥさんでしたが、共演して学んだことや面白いエピソードは?
 低俗喜劇-2.jpgチャップマン・トゥさんとパン・ホーチョン監督の二人がいると本当に大変で、パチパチ飴よりパチパチしてます(一同爆笑)。ずっとしゃべっていて、人にイタズラしたり、ものすごく仲の良い二人です。私も二人に随分イタズラされました。仕事面では、監督は言っていることの中に意味があるので、監督が言っていることを汲み取る練習をしなければならず、自分の勉強になりました。チャップマン・トゥさんからも、俳優のあるべき態度や芝居だけではないことを学ぶことができました。

Love in the buff-s5.jpg━━━ダダさんの名前の由来は?
日本の文化が好きなので、小学校の頃から日本語っぽい「SUDA(スダ)」というイングリッシュネームを付けていたのですが、だんだんみんなに「ダダ」と呼ばれるようになったんです。日本のものがすごく好きだったので、2回東京コレクションで来日し、モデルの仕事ができたのもすごく楽しかったのですが、今回は映画の仕事で大阪に来られたのがとてもうれしいです。 

━━━日本の歌手や女優、アイドルなどで憧れていた人がいらっしゃったのでしょうか? 
香港の女の子は基本的に日本の文化やファッションが大好きなので、小さい頃からファッションの雑誌をよく見ていました。あと桜が見たいです。今回は残念ながらまだ咲いていないので、また個人的に桜を見に訪れたいと思っています。

 

━━━ダダさんは今後、女優としてどんな役を演じてみたいですか?
自分が死んでしまうような悲劇、感動ストーリーをやってみたいです。女優は現実と違う役ができるのが面白いので、不細工なメイクをされるのもやってみたいし、自分とは違うものに関しても幅広くチャレンジしていきたいです。


Love in the buff-s7.jpgセレモニーでは白いドレス、この日は淡いブルーのドレスに身を包んだダダ・チャンさん。さっそく日本で買ったネイルを手に「パチパチ飴みたいでしょ!」と登場し、そのかわいらしさに一同拍手(全員女性でしたが、笑)。脚本家のジョディ・イ・ロッサムさんと一緒だったので、リラックスして取材に臨んでいただけ、コロコロ表情を変えながら身振り手振りを交えて“パチパチ飴”を演じることになった経緯や、手厳しいパン・ホーチョン監督の演出ぶりを明かしてくれた。どんなタイミングで写真を撮っても、絶対に瞳が開いているのはプロの証。映画の仕事で日本に来ることができたことを心底喜んでいらっしゃるのが伝わってきて、こちらまでうれしい気分になった。新聞社のフォト取材も受けたダダさん、翌日には大阪のスポーツ紙に大きく写真が掲載され、大阪から日本でもブレイク必須のダダさん来日の模様が発信され、ご本人も驚いていたとか。香港映画界のキュートな新星、今後の活躍が本当に楽しみだ。

(江口由美) 


第8回大阪アジアン映画祭『低俗喜劇』作品紹介はコチラ

 

OAFF2013観客賞受賞作『恋の紫煙2』脚本ジョディ・ロッ・イーサムさんインタビュー

Love in the buff-s1.jpg『恋の紫煙2』“Love in the Buff”
(2012年 香港・中国 1時間51 分)
監督:パン・ホーチョン
出演:ミリアム・ヨン、ショーン・ユー、シュウ・チェン、ヤン・ミー、ヴィンセント・コク
(c) 2012 Media Asia Films (BVI) Ltd.

第8回大阪アジアン映画祭の特集企画《Special Focus on Hong Kong》の一本として関西初上映された香港のパン・ホーチョン監督『恋の紫煙』の続編、『恋の紫煙2』。映画祭で最も観客から支持を集めた観客賞を見事受賞し、昨年の『セデック・バレ』同様、日本での劇場公開へ期待が高まるところだ。『低俗喜劇』の脚本を手がけたジョディ・ロッ・イーサムさんが、脚本家としてデビューを果たした作品でもある本作は、昨年香港における国産映画の中で『低俗喜劇』に次ぐ興行収入を稼ぎだし、パン・ホーチョン監督作品の人気を決定づけた。香港から北京に舞台を移してのラブコメディーは、ジョディ・ロッ・イーサムさん自身の体験と重なる部分も多いという。

14日(木)の《Hong Kong Night》での舞台挨拶の模様と合わせて、パン・ホーチョン監督との出会いから、初めて脚本を手がけた苦労、北京と香港との映画作りの違いについてジョディ・ロッ・イーサムさんにインタビューした内容をご紹介したい。

<ストーリー>
 恋の紫煙2-1.jpg喫煙所で出会い、同棲することになった年の差カップルのチョンギウ(ミリアム・ヨン)とジーミン(ショーン・ユー)。半年で同棲を解消した二人だが、偶然にも赴任先の北京で再会してしまう。しかし、ジーミンは既に客室乗務員ヨウヨウ(ヤン・ミー)と付き合い、チョンギウも見知らぬ土地でのトラブルから救ってくれた大学教諭サム(シュウ・チェン)と信頼関係を築きつつあった。お互いを忘れられない二人は、再び周りに内緒で会うようになるが……。


<舞台挨拶>
Love in the buff-s6.jpg━━━下ネタが飛び交う『低俗喜劇』の脚本を女性が書いているとは思いませんでした。
母のお腹の中にいたとき、超音波で男の子と診断されていたんです。だから、生まれてからも男の子として育てられ、家の中でもスラングが飛び交っていたんですよ。

 
━━━パン・ホーチョン監督との出会いや、脚本を手がけるきっかけは?
もともと私は小説を書いていて、たまたま書店で私の著書を買って読んでくれたパン・ホーチョン監督から突然、「とても簡単で、サッとできて、面白いことがあるから北京に来ないか」と電話をいただきました。実際に行ってみたら、本当に難しく、時間もかかって大変でした。

━━━『恋の紫煙2』の見どころを教えてください。
ミリアム・ヨンさん、ショーン・ユーさんの演技も見どころですが、故郷を離れて暮らす寂しさを克服することや、好きな人を諦めないことなども盛り込んでいます。この映画を観てティッシュが足りなくなったら、受付でもらってください。


<インタビュー>
━━━大ヒット映画『恋の紫煙2』の続編であることや、パン・ホーチョン監督作品ということでプレッシャーもあり大変だったのでは?
本当に大変でした。プレッシャーもありましたし、私は元々小説を書いていたのですが、脚本はこれが初めてでした。小説を書くのと脚本を書くのは全く違うので、脚本を書くことに自分を適応させるのはとても難しかったです。主人公二人が香港を離れて北京に行きますが、結局それは私たちも同じで、主人公たちの心情は私たちの心情とオーバーラップしたものがあり、自分たちの気持ちを投入しました。

━━━実際にどれぐらい脚本に時間がかかったのでしょうか。
結局脚本を書き上げあるのに一年かかりましたが、北京に一年いたのは私にとってはすごくよかったです。北京の話を書くときに、香港にいて想像だけでは書けません。ロケーションやレストランなど自分たちの体験が入っています。実は最初に脚本を書く前に、パン・ホーチョン監督たちと北京へ遊びに行ったんです。遊びに行って、自分たちが気に入ったbed barやレストランなど、全て私たちが生活していたときの北京の思い出の場で、それらを脚本に盛り込みました。

Love in the buff-s3.jpg━━━パン・ホーチョン監督から脚本を書くにあたって、どんな指導を受けたのですか?
パン・ホーチョン監督は、普段はみんなでワイワイやっていますが、現場ではものすごく真面目で、厳しいです。脚本でも色々な要素を入れたいと思うのですが、全部入れてしまうとバラバラになってしまい、うまくまとめていくために何度も何度も書き直しをしました。それは私を脚本家として鍛え上げてくれていることだったのです。普通なら1カ月ぐらいで書けるかもしれないことを、1年かかって書いたというのも、細かいやりとりや何度もダメだしがあったからで、あまりにOKがでないので自分のやっていることがこれでいいのかと自信がなくなることもありました。

でも、なんとか作品が完成し、昨日OAFFでの上映に同席して日本の観客の方の反応を見たら、泣くところも笑うところも香港の観客と同じでした。これで世界的に共鳴ができる部分が作品にあることが分かりましたし、作品を楽しんでくれているのを直接観ることができて、自分のやっていたことに価値があると思えました。私を教えてくれたパン・ホーチョン監督も本当に大変だったと思います。

恋の紫煙2-3.jpg━━━主人公のチョンギウを演じるミリアム・ヨンさんは、鼻の穴にティッシュを詰めたり、ベテラン女優らしからぬ姿も多々ありましたが、快く演じてくれたましたか?
ミリアム・ヨンさんはすごくプロフェッショナルなので、全く問題ありませんでした。1本目『恋の紫煙』も主演されているので、この作品に思い入れがあり、どんなことでもOKと言ってくれました。ミリアム・ヨンさんは『恋の紫煙』、『恋の紫煙2』と同じ役で香港電影金像奨主演女優賞に2度ノミネートされており、非常に珍しいことなので喜んでくれています。

━━━『恋の紫煙2』はほぼ北京で撮影し、『低俗喜劇』は香港で撮影されていますが、映画づくりに関して北京と香港での違いを教えてください。
北京は交通渋滞がひどいです。例えば香港で3つロケーションが取れる場合でも、北京では1つしか取れません。徒歩5分の場所でも、車だと1時間かかるぐらい渋滞がひどくて、時間を無駄に使ってしまいます。
また、北京は香港のように天気が安定していません。天気予報も外れることが多く、それで時間を費やしてしまうことが多いので撮影速度は香港の方が早いです。但し中国の映画製作会社はほとんど北京に集中しているので、北京で映画を撮ることに対するサポートは、北京の方が充実していると思います。

恋の紫煙2-2.jpg━━━返還後香港映画らしさがなくなっている気がしましたが、本作を香港映画の良さを久々堪能できました。これからの香港映画は大陸との関係も含めてどう推移していくでしょうか?
大陸云々よりも、この作品についていえばパン・ホーチョン監督はあまりにも映画が好きで、監督曰く「映画というのは面白いか、面白くないか」それだけしか考えていません。また寝食忘れても映画を観るぐらい好きなので、映画に対する愛情がこの映画にも表れていると思います。


Love in the buff-s8.jpg偶然自身の著書をパン・ホーチョン監督が手にしたことがきっかけで、次回作も含め連続3本もパン・ホーチョン監督の脚本を書くことになったジョディさんは、まさに香港映画界のシンデレラガールのようにも映る。その苦労は相当だったようだが、妥協せずに何度も書き直させたパン・ホーチョン監督の愛ある鬼指導ぶりが、ジョディさんの脚本家としての成長と、『恋の紫煙2』の見事な出来栄えを生み出したといえよう。劇中で何度も登場した「北京は乾燥してる!」という台詞に気候の違いを訪ねてみると、「静電気がひどくて一日中パチパチしてる」と、ここでもパチパチ発言。ダダさんとは対照的にボーイッシュなショートヘアがよくお似合い!「普段はずっとこんな恰好よ」というラフなロングTシャツ&レギンススタイルで、話は尽きることがなかった。パン・ホーチョン監督の次回作『SDU』では香港特殊警察がマカオで巻き起こすハチャメチャ騒動を描くというジョディさん。また是非来阪して、裏話をお聞かせいただきたい。(江口由美)


第8回大阪アジアン映画祭『恋の紫煙2』作品紹介はコチラ

クロージング.jpg

3月8日(金)より、梅田ブルク7をはじめ大阪市内の5会場にて開催してきた「第8回大阪アジアン映画祭」が3月17日(日)にクロージングを迎え、リー・ユー監督最新作『二重露光』上映前に、クロージングセレモニーが行われた。

夜中の12時から早朝3時まで国際審査員の高橋陽一郎監督、ツァン・ツイシャン監督、ゾーイ・チェン金馬奨ディレクターが熱い議論を交わした結果、例年の賞に加え、審査員の総意で「スペシャル・メンション」が授与されることになった。受賞結果と審査員コメントをご紹介したい。


リー・シンマン監督.jpg★グランプリ(最優秀作品賞)
『親愛』 (Beloved)
中国/監督:リー・シンマン (Li Xinman)(李欣蔓)

<審査員コメント>これは大都会で働くシングルマザーが中国の現在社会の中、キャリアと家庭の間で悩みながらも生きていく様子を描いたものです。そこに日中の歴史に関わる個人的なトラウマも絡ませて、独特の視点で描いています。それと同時に血縁関係を越えた家族愛を優しく、そして強いメッセージとして伝えた形が印象的だったということで選びました。

<受賞者コメント>新人監督である私の処女作を大阪の皆さんと一番最初に楽しめてうれしかった。どの映画にもその宿命があり、この映画も企画から完成まで4年を費やしました。本当に苦労したけれど、その苦労は無駄ではなかったです。もっと努力してより良い映画を作っていきたい。本当にありがとうございます。忘れられない夜になりました。

★スペシャル・メンション
仲代達矢(Tatsuya Nakadai)
『日本の悲劇』(Japan’s Tragedy)主演俳優/日本

<審査員コメント>仲代さんはこの作品で死ぬことを決意する父親役をされました。非常に冒険心と知性の溢れる圧倒的な存在感をもって演じられ、それが大変素晴らしかったです。

ヤン・イーチェン監督.jpg★ABC賞
『ポーとミーのチャチャ』(Cha Cha for Twins)(宝米恰恰)
台湾/監督:ヤン・イーチェン(Yang Yi-Chien)(楊貽茜)、ジム・ワン(Jim Wang)(王傅宗)

<受賞者コメント>思いがけず受賞できてうれしい。4日間素晴らしい滞在を作って下さった皆さんに感謝します」(ヤン・イーチェン監督)

(日本語で)よかった!ありがとう大阪!ありがとうOsaka Asian Film Festival!(ジェイムス・シュー・チアハオ プロデューサー)

 

★来るべき才能賞
ホアン・ペイジア(Huang Peijia)
『ポーとミーのチャチャ』(Cha Cha for Twins)(宝米恰恰)主演女優/台湾

 

 

恋の紫煙2-1.jpg★観客賞
『恋の紫煙2』(Love in the Buff)(春嬌與志明)
香港・中国/監督:パン・ホーチョン(Pang Ho-Cheung) (彭浩翔)

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『毒戦』ジョニー・トー監督インタビュー
『毒戦』“Drug War”
(2012年 香港・中国 1時間58分)
監督:ジョニー・トー
出演:ルイス・クー、スン・ホンレイ、ホァン・イー、ミシェル・イェ、ラム・シュー
(c) 2012 Beijing Hairun Pictures Co., Ltd. All Rights Reserved.

 He's back!3年前『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』で、大阪アジアン映画祭オープニング上映ゲストとして来阪を果たしたアジアの巨匠、ジョニー・トー監督。
以来『単身男女』(OAFF2011世界初上映)、『高海抜の恋』(OAFF2012日本初上映)と最新作を出品してくれたジョニー・トー監督が、満を持して全編中国大陸で撮影した『毒戦』でオープニング上映舞台挨拶のため再来阪を果たしてくれた。映画祭開催直前に決まったまさに緊急来日ながら、うれしいサプライズに日本全国からジョニー・トー監督ファンが集結。変わらぬダンディーなトー監督からは「大陸版ジョニー・トー作品を楽しんでほしい。感想は次来たときに教えてください」と来年の出品&来日を約束するかのようなうれしい言葉まで飛び出し、会場は大いに盛り上がった。【毒戦】OP、コンペ、香港1.jpg

 『毒戦』は、薬物取引と警察の捜査の追走劇を、幾重もの伏線で描き出すクライムサスペンス。香港のドラッグディーラー役ルイス・クー、覆面捜査官役スン・ホンレイの駆け引きを絡めながら、死刑を逃れるために捜査協力を願い出たことで二人でタグを組んで麻薬組織の摘発に奔走する前半は、中国警察の手際の良いチームワークが全面に出ており、何といってもスン・ホンレイの怪演ぶりを見るだけでも価値ありと思わせられる。後半はグイグイとトーさん節が炸裂!大陸ならではのスケールの大きい港のシーンやカーアクション)、思わぬ人物が突然猛烈にガンをぶっ放したり、真の実権を握る香港7人組、別名トー組常連(もちろんラム・シュウも!)が参戦したり、賑やかなことこの上なし、どこで撮っても変わらぬジョニー・トーらしさがファンにはたまらないだろう。

 今回は劇場公開作品のキャンペーンを兼ねてではなく、まさにこの『毒戦』上映舞台挨拶のために来日したジョニー・トー監督。舞台挨拶からも、本作を作るに当たって試行錯誤を重ねた非常に意味を持つ作品であることが伺えた。舞台挨拶の翌日行われたインタビューでは、中国で公安ものを作ることの難しさや、ルイス・クーをはじめとしたトー組常連俳優起用の理由、そして大阪アジアン映画祭についてまで、葉巻片手に大いに語っていただいた。


―――大阪アジアン映画祭には4年連続最新作を出品くださっています。4年連続新作を撮る秘訣とは?
 会社として年に少なくとも1本は撮るというポリシーがあり、今のところ年に1.5本ペースで作っています。ワイ・カーファイという脚本を書いてくれるパートナーがいるので、彼が書いてくれる間に私が映画を撮っているという形ですね。

―――世界の映画祭で出品、審査員をされているトー監督から見た大阪アジアン映画祭(以下OAFF)の魅力や、アドバイスがあれば教えてください。
 Jonnie-2.jpg カンヌ、ロカルノ、ヴェネチアなどの大型映画祭は60年以上の長い歴史があり、それぞれの特色を持っています。ヨーロッパは映画祭があるから、映画産業が盛り上がり、一つの推進力になっていますし、芸術性、市場の両方を持つものだと思っています。映画に関する理解の深さで考えるとヨーロッパの中ではフランスが一番いろんな文化を取り入れるのにアグレッシブであり、そのアグレッシブさがあるからカンヌが世界で一番注目される映画祭になっていると思います。

 OAFFに関して言えば、世界の色々な映画祭と比べて、アジアの映画を上映するということで、インターナショナルとは言い切れない部分があります。アジアの映画だけではなく、それをどんどん広げていくのは観客の力にかかってきます。アジアの映画をOAFFで上映することによって市場や上映の機会が広がるのであれば、それがこの映画祭の特色や売りになっていくでしょう。色々な文化に関してもっとオープンになっていくことで、OAFFの地位がもっと上がっていき、一つの大阪の映画祭ではなく、アジアの映画を楽しむ中心になってくれればと思います。8回目とまだ若い映画祭ですが、事務局スタッフの皆さんもこの映画祭をどうやって大きくしていくか考えていらっしゃると思います。しっかりと方向性が決まり、皆で推進していく形ができれば、もっと大きくなると思います。

―――初めて全編中国で撮影したということで、様々な検閲が入ったことが、作品の描写からも見てとれますが、具体的にどのような部分に検閲が入ったのでしょうか?
 Jonnie-1.jpg 公安に関するストーリーでは2つの審査を通らなければなりません。まず、公安が審査をしてそこでOKが出れば映検の審査が入ります。公安では、公安に関して不正確なことを言っていないか、公安のイメージを壊すようなことをしていないかをチェックされます。複雑な事情があるので、今まで大陸では公安に関する警察ものは制作されませんでした。

 10年ぐらい前に黒澤明の自伝映画を観たのですが、それもかなり大陸の映検と喧嘩をして、やっと作ったそうです。時代は巡ってきますが、今回がターニングポイントになると思うのは、公安の中で「自分たちのことをテーマにしてそろそろ映画を作らなければいけない」という機運が出てきたことです。

 今までの警察ものと違い、公安がこれを見てどう思うか、通してくれるかを考えて脚本を設計しました。注意するポイントとしては、ストーリーの中であまり人をたくさん殺してはいけない。今回かなり殺していますが、これでも随分減らしました。公安としては、自分たちの仕事がそんなに危ない仕事というイメージを持ってほしくない。また、銃撃戦もあまり撃つなと言われ、かなりカットしました。

Jonnie-3.jpg―――『単身男女』『高海抜の恋』に引き続き、ルイス・クーが主演なのはなぜですか?
 よく皆さんに聞かれますが、キャスティングに割く時間がもったいないのです。ルイスも自分が作る映画のイメージが合うと私のことを信頼してくれるし、映画を撮るとき声をかけたら必ず来てくれるのでやりやすいです。もう一つ、ルイスは中国国内で非常に人気があるので、出演してもらうと売り上げが上がるという部分もあります。

―――ラム・シュウをはじめとするトー組俳優が必ず何らかの役で登場していますね。
 常にやっているということで、お互いわかっているし、人間としてもいい人で仕事もやりやすいのです。僕のやり方をわかっているので、いちいち言わなくても分かってくれます。映画というのは、監督が「こうやれ」というのを俳優がきちんと演じてくれればいいので、俳優はぐちゃぐちゃ言わなくてもいいのです。だから常に自分が言わなくても分かって演じてくれる人を起用するのです。黒澤明監督の映画も、どれを見てもほとんど同じ俳優が出ているので、多分同じ考え方だったと思います。

―――『エレクション2』のあと、「10年後に続編を作りたい」とおっしゃっていましたが、次回作あたりにその予定はありますか?
 次は、『単身男女2』です。その次は歌が入っているものを考えています。『エレクション3』については、今回の経験が影響していると思いますが、今考えている内容は非常にデリケートな内容なので簡単には撮れません。以前は10年後と言っていましたが、もう少し(撮るまでに)かかるでしょう。中国大陸の言論の自由がもっと広がった時に、撮りたいと思います。


 ゆっくりと葉巻をふかしながら、記者の質問に一からわかりやすく答えて下さったジョニー・トー監督。その姿はまるで映画のワンシーンを見ているようで、お話を聞きながら思わず惚れ惚れしてしまった。映画業界を世界的視野で見ているジョニー・トー監督ならではのOAFFに対するアドバイスもいただけ、視野が広がるインタビュー。映画祭の大小関係なく足を運んでくださる姿は、「色々な文化に対してもっとオープンに」という自らの言葉を体現しているようだ。『毒戦』の日本劇場公開決定および、来年OAFFにてまた最新作に出会えることを心から楽しみにしていたい。(江口由美)


第8回大阪アジアン映画祭 公式サイトはコチラ


 


ocinefes-550.jpgocinefes-2.jpg「おおさかシネマフェスティバル2013」が3月3日(日)、大阪・谷町四丁目の大阪歴史博物館に満席の280人を集めて行われ、ハイライトの表彰式では主演女優賞・高橋惠子さん、主演男優賞・井浦新さんら豪華ゲストの顔ぶれの登場に歓声とため息が巻き起こった。
同フェスティバルは今年も早くにチケットが完売する人気。高橋聰同委員長のあいさつの後、午前10時10分からベストワンに選ばれ2012年度の「作品賞」に輝いた『かぞくのくに』を上映。終了後にはヤン・ヨンヒ監督、井浦新さんにおおさかシネマフェスティバルの顔、浜村淳さんが加わってトークショーが行われた。

 

 

 

ocinefes-3.jpg監督の経験をもとにした題材の映画化に「北へは帰れなくなり、始末書を書けとも言われました。だけど映画は自由であるべき。政府公認の問題児になろうと決意しました」とヨンヒ監督。井浦新さんは「監督から電話をもらってうれしかった。監督が信頼してくれていると感じながらやれた」。大阪出身の監督には故郷での受賞の意味は大きいようで、感激しきりだった。

 

 

 

 

ocinefes-4.jpg昼食休憩後、午後1時からの表彰式では、同映画祭の創立メンバーでもある大森一樹監督が1月15日に亡くなられた大島渚監督追悼の思いを話された後、故・若松孝二監督に特別賞を贈呈。昨年、若松監督の『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』に主演した井浦新さんが代わって受賞。若松組の常連の水上竜士さんも登場され、井浦新さん、浜村氏とお三方で若松監督の思い出話を繰り広げた。水上竜士さんは「最後までおっかなかった。いつもおせーよ、このヤローという調子だったので、いつもスタンバイしてましたね」。井浦新さんは「60、70年代の歴史を題材に作っている人でした。もっともっと作ってほしかった」と偲んでいた。


<表彰式ハイライト> 

ocinefes-13.jpg【主演女優賞】高橋惠子『カミハテ商店』 
「主演は23年ぶりで、初めての主演女優賞。映画を作った学生と喜びを分かち合いたい。山本監督のおかげで初心に帰って楽しめました。私としては新たな女優としてのスタートが切れます。プロデューサーの夫(高橋伴明監督)に感謝したい」。

 

 

 

 

ocinefes-12.jpg【主演男優賞】井浦新『かぞくのくに』『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』
「三島由紀夫をやらせてもらって、実在の人物に頭を抱えてましたが、(若松)監督からナ ゾる必要はない、お前がやりたいようにやれ、と言われて、ボクなりの日本の美を追求しました」。

 

 

 

ocinefes-11.jpg【助演女優賞】松原智恵子『「わたし」の人生?我が命のタンゴ』『私の叔父さん』
「和田秀樹監督の2作目です。認知症の女優ですが、可愛い女性の役。タンゴでよくなる希望が出てくるんですね。みなさんに知ってもらいたいと思ってやらせてもらいました。仕事はどんな役でも楽しんでやりたいと思ってます

 

 

ocinefes-10.jpg【助演男優賞】青木崇高『るろうに剣心』『黄金を抱いて翔べ』
「大阪・八尾の出身で、三池崇史監督、天童よしみさん、河内家菊水丸さんらがいますが、 これからは私が代表できるようになりたいですね。これはキツイなという役の方がありがたい。これの受賞を機に大きくなりたい」。

 

 

 

ocinefes-9.jpg【新人女優賞】宮嶋麻衣『とめ子の明日なき暴走』
「映画はワクワクしてやらせてもらった。今、このような賞をもらって夢がひとつ叶った。 信頼される女優になりたいですね」。

 

 

 

 

ocinefes-8.jpg【新人男優賞】五十嵐信次郎『ロボジー』
「新人男優賞に選んでくれてありがとう。って130本出てるんだぜ。五十嵐信次郎という芸名は中学高校時代に考えて一度使ってみようと思っていた。シャレのつもりで出て、そのシャレをわかってくれてシャレ賞もらえたのがうれしい」。

 

 

ocinefes-1.jpg【監督賞・作品賞】ヤン・ヨンヒ『かぞくのくに』
「今でも母親は鶴橋で、毎日、にんにく焼いて食べてます。次の映画は企業秘密ですが、同じく家族の映画で自分の家族ではありません」。

 

 

 

 

 

 

ocinefes-7.jpg【脚本賞】西川美和『夢売るふたり』
「この映画で受賞できるなんて、おおさかはなんて素晴らしい。夫婦の物語をやりたくて、2人の犯罪に走る特別な感情を出したかった。おおさかの市民映画祭は雰囲気がとてもいいですね」。

 

 

 

 

ocinefes-6.jpg【音楽賞】谷川賢作『カミハテ商店』
「(詩人・谷川俊太郎の息子だが)小学校の時に詩を書いたが、才能がない、と悟ったのでミュージシャンになった。『カミハテ商店』は情緒を抑えて、ブラジルの楽器ビリンバウを使ってドライな感覚で作りました」。

 

 

 

 

ocinefes-5.jpg【新人監督賞】山本起也監督『カミハテ商店』
「この歳で新人は恥ずかしいですが、映画を志したのが34歳のときなので。“北白川派”の映画は学生さんに教室の中で教えるよりも、映画を作ってしまおうということでやってます。現場は8割が学生さん。『カミハテ商店』は徹底的に寡黙で無愛想に作りました。評価されてうれしい」。

 

 

 

【撮影賞】木村大作『北のカナリアたち』=代理受賞 東映宣伝・井川洋一さん
「『北のカナリアたち』はおかげさまで100万人を動員しました。今日はぜひ出席したかったのですが、次回作の準備のため行けなくなって残念です。今回はどうもありがとう」。

【外国作品賞】『アーティスト』(一色真人 ギャガ株式会社西日本配給支社支社長)
「3D時代にモノクロ、サイレント映画。当たる感じはなかった。でも、逆にそこが新鮮だったのでは」。

 

 

 

 

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ジョニー・トー監督、オープニング上映『毒戦』で緊急来日! 3年ぶりとなる舞台挨拶に場内喝采!

3月8日19時から大阪市北区の梅田ブルク7で、大阪アジアン映画祭オープニングセレモニーおよびオープニング作品『毒戦』の日本初上映とが行われた。

 

OAFF2013opening-4.jpg最初にコンペティション部門ワールドプレミア上映となるマレーシア=台湾合作映画『カラ・キング』Namewee監督と俳優のクリストファー・ダウンズ氏、特別招待作品部門『戦争と一人の女』の井上淳一監督が登壇。昨年、初監督作『ナシレマ2.0』でOAFF2012「来るべき才能賞」を受賞したNamewee監督は、開口一番「こんばんは」と日本語で挨拶。「『カラ・キング』は世界プレミア、ここで初めて見ていただきます。私も初めて見ます」と笑いを誘った。続いて『カラ・キング』に出演のクリストファー・ダウンズ氏が「みなさん、こんばんは!」と見事な日本語を披露。初めての大阪アジアン映画祭参加への喜びを語った。

 

 

 

OAFF2013opening-2.jpg故・若松孝二監督に師事し、今回が初監督作品となる井上淳一監督は「この映画がアジアで本当に通じるかどうか、例えばジョニー・トー監督の映画を我々が楽しむように、アジアの人たちが本当に心を許して楽しんでくれるだろうかという思いで作りました」と大観衆を前に感無量の面持ちでオープニングセレモニーのスピーチを締めくくった。

 

 

そして、2010年大阪アジアン映画祭のオープニングを飾った『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』より3年ぶりの来日を果たしたジョニー・トー監督が、『毒戦』日本初公開の舞台挨拶のため緊急来日。『単身男女』(2011年世界初上映)、『高海抜の恋』(2012年日本初上映)と毎年最新作を大阪アジアン映画祭に送り込んでいる巨匠の登場に、「ジョニー!」という観客の声が飛び交い、場内の熱気は最高潮に。

OAFF2013opening-3.jpg 「今回、大阪に帰ってくることができたことがうれしい」とグレーのスーツを着こなしたダンディーなジョニー・トー監督。本格的な中国進出作となった『毒戦』については、「『単身男女』『高海抜の恋』の2本を撮りながら中国大陸の公安に関する警察ものの脚本をじっくりと書いていたが、さまざまな制限があり今日ご覧いただくものは、当初書こうとしていたものとは異なるけれど日本のお客様にどう見ていただくか楽しみ」と大陸での映画作りについて語られ、「今回作品が完成して映画祭で上映できることは、大陸側の制限が少し緩んできた証拠。他の監督たちが中国大陸で公安や警察に関する映画を作っていけるひとつのきっかけになれば」と次世代の監督たちにエールを送ることも忘れなかった。「今までのジョニー・トー作品とは違う大陸で撮ったアクションムービー。次に僕が大阪に来たとき映画の感想を聞かせてほしい」と次の出品&来日を約束することばが飛び出し、場内は感動しきり。最後にオープニング上映『毒戦』舞台挨拶のためだけに、香港から駆けつけたジョニー・トー監督に観客から惜しみない拍手と歓声が送られ、本国香港よりも早い『毒戦』日本初上映へと続いた。

 


第8回大阪アジアン映画祭は3月17日まで梅田ブルク7(梅田)、シネ・ヌーヴォ(九条)、梅田ガーデンシネマ(梅田)、第七藝術劇場(十三)、プラネット・スタジオ・プラスワン(中津)で上映が行われる。クロージング上映は特集企画《Director in Focus:リー・ユーの電影世界》よりリー・ユー監督×ファン・ビンビン最新作『二重露光~Double Xposure~』。他にもアジアスターが出演する話題作の日本初上映や、大阪アジアン映画祭初となるキルギス=ロシア=フランス合作映画『誰もいない家』(アカデミー賞キルギス代表)や、レイラ・ハタミ(『別離』)主演のイラン映画『最後の一段』など注目作がラインナップ。
世界で初めての特集となる《GTHの7年ちょい~タイ映画の新たな奇跡》では、業界参入してわずか“7年ちょい”でヒット作を連発してきたタイGTH社制作作品を一挙上映。また、今夏『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』が劇場公開される中国新世代の代表格、リー・ユー監督作品を取り上げた《Director in Focus:リー・ユーの電影世界》や、新しいフィールドで挑戦する日本映画人の作品を取り上げた《日本映画人のニュー・フロンティア》。東日本大震災からちょうど2年が経つ3月11日には、震災をテーマに製作された作品の上映やトークセッションを盛り込んだ《東日本大震災から2年「メモリアル3.11」》を開催する。

インディ・フォーラム部門では、CO2助成監督作品のワールドプレミア上映をはじめ、「越
境」をテーマに韓国、中国、台湾=ミャンマーの新鋭監督が撮った海外インディペンデント作品も上映される。多彩なゲストを迎えたトークセッションも見逃せない。

チケットはチケットぴあでの前売終了後は、各劇場にて順次販売。詳細は大阪アジアン映画祭ホームページ参照。

お問い合わせ:大阪アジアン映画祭運営事務局
TEL 06-6373-1232 http://www.oaff.jp/