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『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』監督、主演女優単独インタビュー

I Do Bidoo-s1.jpg『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』クリス・マルティネス監督、ユージン・ドミンゴさんインタビュー

『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』  “I Do Bidoo Bidoo“
(2012年 フィリピン 2時間1分)
監督:クリス・マルティネス 
出演:サム・コンセプション、ユージン・ドミンゴ、ゲイリー・バレンシアノ
(c)Unitel Productions and Studio 5

「ドゥ・ビドゥビドゥ~♪」と思わず口ずさみたくなるフィリピン発のカラフルミュージカル『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』。OAFFでは『100』(OAFF2009)、『浄化槽の貴婦人』(OAFF2012)に続き、名女優、ユージン・ドミンゴと組んでクリス・マルティネス監督が撮りあげたOAFF2013のコンペティション部門作品だ。フィリピンのビートルズ、APO Hiking Societyの曲を全編に散りばめたフィリピン版『マンマ・ミーア』は、金持ちのお嬢様と、下町の青年との恋物語に、青年のママ演じるユージン・ドミンゴやママ友達の賑やかおばさん、青年に恋心をいだく男友達とカラフルな人間模様が繰り広げられ、心に沁みる歌の数々が感動を呼ぶ楽しさが詰まった愛の物語だ。

『100』(OAFF2009)以来の来場となったクリス・マルティネス監督と主演のユージン・ドミンゴさんに、本作の撮影秘話や、フィリピン映画界の現状について話を伺った。上映後のQ&Aの様子も合わせてご紹介したい。

<ストーリー>
1I Do Bidoo-2.jpg9歳のロックとトレイシーは、トレイシーの妊娠を機に結婚を決意。ロックの母(ユージン・ドミンゴ)は、お金持ちのお嬢様のトレイシーとの若すぎる結婚に心配を隠せない。トレイシーの母親も夫との冷え切った関係を払しょくすべく、トレイシーを結婚させずに一緒に渡米するよう説得する。ある日トレイシーの招きで、結婚前の挨拶に訪れたロック一家は、退役軍人のトレイシーの祖父に差別的扱いを受け大憤慨。喧嘩別れをしてしまったロック一家とトレイシー一家の険悪な関係は、若い二人の絆にも影を落としていく…。 


<上映後のQ&A>
I Do Bidoo-s2.jpg―――この作品で全面的に使われているフィリピンバンド、APO Hiking Societyについて教えてください。
クリス・マルティネス監督(以降マルティネス監督):APO Hiking Societyは3人組のバンドで、70年代初期から活動しています。作詞作曲も手がけ、その楽曲は何世代にもわたって作り直されたり、リメイクされたりしながら歌い継がれ、今だにヒットしています。フィリピン人からすれば40年に渡って聞き続けてきた曲で、映画のサントラを手がけるなど幅広い活動をしてきたバンド。本作は「フィリピンのサウンドトラック」ですね。APO Hiking Societyはまさに、フィリピンのビートルズなのです。

―――本作制作のきっかけは?
マルティネス監督:プロデューサーからAPO Hiking Societyの楽曲を使って『マンマ・ミーア』みたいな映画を作れないかと打診がありました。それからAPO Hiking Societyの楽曲を全て聴きこみ、人気のあるものを選んでいきながら、究極の愛とは家族愛なのだと感じました。フィリピン人はとてもロマンチックで、ラブソングが流行るのですが、これらの曲を聴いてストーリーが沸き、脚本を書いていったのです。


<単独インタビュー>
 ―――監督とユージンさんの出会いや、お互いの魅力について教えてください。
I Do Bidoo-s3.jpgユージン・ドミンゴ(以降ユージン):クリス・マルティネス監督は、フィリピン大学で同じ劇団に所属していました。監督の方が先輩で、在学中は私のことを召使いのようにみなしていたので(笑)、なんとか見返してやろうと頑張りました。最初の映画や短編、私の最初の舞台の脚本をクリス監督が書いてくれましいたし、最初のCMも作ってくれました。おそらく私のことを認めてくれたのでしょうね。それ以来仕事をくれる関係なので、好きにならざるを得ない状況です。

クリス・マルティネス監督(以降マルティネス監督):最初から自分は監督をしていたのですが、すごく面白い新人が入ってきたと思っていました。ユージンは小道具などの裏方をやっていたのですが、だんだん「こいつは面白いのではないか」と気付き、彼女を演出していくと、頭角を現してきました。次第に僕の方がユージンの衣装を縫うようになり、立場が逆転して、ユージンが女王様、僕が召使いのようになって現在に至っています。このままの関係が続いていくでしょう(笑)。

―――APO Hiking Societyの曲を使ったミュージカルを作るという企画を提示されてから、同グループの全ての曲を聞かれたそうですが、なぜ『ドゥ・ビドゥビドゥ』をタイトルやメイン曲にしたのですか。
マルティネス監督:歌詞が音楽を作ることについての内容で、「音程が狂っていても関係ない。自分を表現することが大事」といったメッセージや、音楽に対する愛を歌っているのが、映画そのもののテーマにも合っていると思いました。フィリピンではミュージカル映画が珍しいので、APO Hiking Societyの楽曲の中でも一番馴染みのある選曲がいいと思いましたし、幕開けのにぎやかな感じにふさわしい曲です。

―――フィリピンではミュージカル映画が珍しいとのことですが、制作するにあたって大変だったことは?
 I Do Bidoo-1.jpgマルティネス監督:プロデューサーから話を持ちかけられてから、完成まで約3年半かかりました。脚本を書くのに1年、その後2年ぐらいでキャスティング、楽曲の権利問題を解決したり、アレンジやレコーディングなどを行い、そこから撮影しました。長い道のりなのでそれが大変でした。特に群衆でのダンスのシーンは何度もリハーサルを重ねました。でもその甲斐があったので、また機会があればミュージカル作品をユージンさんと一緒にやりたいですね。僕自身も旅行にいけば一日2本ミュージカルを見るぐらい、ミュージカルが好きですから。

ユージン:舞台女優からキャリアをスタートしたので、歌も踊りもこなしていましたが、映画の世界に入って演技に集中するようになってからは、歌や踊りから遠ざかっていました。実を言うと、最初はこの母親役は別の人がキャスティングされていましたが、諸事情がありマルティネス監督がいつも私を信頼してくれるので、話が回ってきたのです。そこからボイストレーニングやダンスレッスンを重ね、歌やダンスをやっていた頃の感覚を取り戻していきました。大変でしたがとてもやりがいがありました。なにせ、トレイシーの両親役はプロの歌手だし、ロックの父(ユージンさんの夫役)は自分で作曲もできるミュージシャンで、フィリピンの歌手協会の会長をしている方なんです。いかに私の状況が大変だったか分かっていただけるでしょう(笑)
でも一番重要なのは歌を感じて演技で表現することなので、そこは自信を持ってやりました。

―――ユージンさん演じるロックの母とその友達3人組は大阪のおばちゃんのような賑やかさと、情の深さがとても魅力的でした。どうやってこの役を演出していきましたか?
 I Do Bidoo-3.jpgマルティネス監督:ユージンさんにとって脚本が一番大事なんです。ですから、彼女がやったことのないような挑戦的な役を書くようにしています。どういうキャラクター像にするのか、髪型や見た目を最初に決めながら、ユージンさんに役に入ってもらうようにしました。
ユージン:毎年いろいろな作品に出演しており、テレビよりも映画に出るのが好きなのですが、映画は監督のものだと思っています。どこでカットをするのか、どう編集するのかも監督にかかっていますから、役者としては監督に全てを委ねる心構えでいます。監督のやりたいビジョンを理解することが絶対に必要ですが、幸運なことにクリス監督とは長年一緒に仕事をしているので、感性も分かる間柄で、モダンな感性をお持ちなところも共通点があります。いつもいい意味でやりがいのある仕事を与えてくれますし、大変だけれど最終的には苦労が報われる仕事ができるので、クセになって毎年クリス監督の作品に出てしまうのです。次のプロジェクトを進行中で、今は浴衣を物色中で、彼氏役の日本人男優を探しています。

―――『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』はフィリピン国内向けに作られたとのことですが、海外映画祭出品作品と、どういう点で違いがあるのですか?
マルティネス監督:『100』『浄化槽の貴婦人』はシネマラヤ映画祭のプロジェクトとして作られたものなので、国内というよりは外国映画マーケット向けに作られました。インディペンデント映画なので、商業映画とは違うオルタナティブな作品として作っていたので、制作の根本が違います。今回の『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』は、完全な商業映画なので、国内のお客さんに見せるために作られました。今回この作品がOAFFやほかの映画祭に呼ばれることになり、歌詞や歌はフィリピンの人しか分からないと思っていたので、それが普遍的な受け入れられ方をすることが分かってとてもうれしかったです。
予算の規模も全然違います。本作1本の予算で、『浄化槽の貴婦人』規模の映画が20本作れるぐらいありました。そのお金を回収するためにフィリピンで利益を上げなければいけないのです。

―――フィリピン国産映画市場は今、どんな状況にあるのでしょうか?
 I Do Bidoo-s4.jpgマルティネス監督:ハリウッド映画の人気があるのは確かですが、どんな映画がかかるかによります。フィリピンの国内事情から言うと、映画は中流以上の人の娯楽であり、貧しい人たちは映画を観るお金がない、チケットを買うなら食べ物を買うという状況です。
ユージン:海賊版が出回って、公開日になればその日の夜に海賊版が街で売られているわ。
マルティネス監督:クリスマスの2週間は、フィリピンの人たちは皆映画をみにきます。メトロマニア映画祭というフィリピンの映画だけを上映する週間で、それで収益を上げた国内の監督にとってもプレゼントになるというお祭りがあります。
ユージン:この2週間は、ハリウッド映画は一切なしなの。
マルティネス監督:今だんだんフィリピン映画も観られるようになってきて、ハリウッド映画にも勝てるフィリピン製の映画も登場しています。ユージンさんが出演した『Kimmy Dora and the Temple of Kiyeme』というコメディー(マルティネス監督は脚本を担当)はその時同時に上映されたハリウッド映画よりもヒットしましたし、クオリティーも非常に良かったです。『浄化槽の貴婦人』も同じ年に公開された『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』より興行成績が上でした。ですから、本当に映画の脚本やキャストなどの質が良ければ国産映画でもハリウッド映画に負けないと思います。 

―――最後にOAFF観客のみなさんにメッセージをお願いします。 
マルティネス監督:今回OAFFで上映していただき、たくさんのいいお客さんに見に来ていただき、ありがとうございます。また次回作を持ってこの場を訪れることを楽しみにしています。
ユージン: (日本語で)ありがとう!ありがとう!Thank you!Thank you!


『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』が初上映されたのは、ちょうど映画祭の半ばとなる13日。私も恥ずかしながら疲れが出て、上映前はフラフラだったが、この作品を観終わったら元気復活。やはりHappyで楽しい映画を観ると、カラダも元気になれるのです!後日来日したユージン・ドミンゴさんを交えてのインタビューは、お二人の出会いエピソードを質問した冒頭から笑いが絶えないものに。大学の劇団時代から歩みをともにしてきたお二人の漫才のようなやりとりを聞きながら、これからも末永く魅力的な作品を作り出すフィリピンの名コンビの次回作が早く見たくてたまらなくなった。(江口由美)

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