映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2016年3月アーカイブ

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「おおさかシネマフェスティバル2016」が3月6日(日)、大阪北区のホテルエルセラーン大阪、エルセラーンホールで満席の416人を集めて行われ、ハイライトの表彰式では主演女優賞・樹木希林さん、主演男優賞・佐藤浩市さんら豪華ゲストの顔ぶれの登場に歓声とため息、そして大爆笑が巻き起こった。
 
 
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76年「おおさか映画祭」としてスタートしてから40周年の節目を迎える今回は、午前に40周年記念として大森一樹監督のメジャーデビュー作『オレンジロード急行』を上映。上映後には、大森一樹監督、高橋聰実行委員長をはじめ、映画祭ゆかりの関西を代表する映画人が集った。観客と共に会場で映画を観た感想を問われ、「途中から早く終わってと思い、胃が痛くなった」という大森監督は、アメリカンニューシネマに影響を受けた思い入れのあるシーンの数々や、原節子に出演依頼をしたエピソードが明かし、おおさか映画祭誕生秘話にまで話が及んだ。また、映画会社に就職し、助監督経験を積まなければ映画監督になれなかった時代に、学生で自主映画を作ったのが認められ、監督をした初めての例として、『オレンジロード急行』の大森監督が当時の映画大好き青年にとって憧れの的であったというファン代表の言葉も。70年代後半の日本映画界が垣間見える充実のトークとなった。
 
昼食休憩後、午後1時からの表彰式では、総合司会の浜村淳が、スペシャルサポーターによる花束贈呈の際も、観客が登壇する度に盛り上げた。特にスペシャルサポーターから人気のあった松坂桃李や佐藤浩市には、観客からの質問に答えてもらう趣向も。どんな質問にも真面目に答えようと考え込む松坂や、観客から「素敵すぎて宇宙人みたいな存在」と言われ、返事に詰まる佐藤など、日ごろは見られない俳優陣の表情や、それに対する浜村の絶妙のツッコミで、会場は常に笑いに包まれた。最後に、主演女優賞で登壇した樹木希林が、逆に浜村の司会ぶりを「83歳とは思えない、元気!」と絶賛する一幕も。観客と出演者が一体となり、満席の観客からも大きな拍手が送られた。

 

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【主演女優賞】樹木希林『あん』
 
「大学で行くところがないから、学校みたいなところを探して(俳優養成所に)入りました。効率を考えると舞台は嫌いでした。でも1番素晴らしい俳優は舞台俳優。2番目に映画俳優。3番目はテレビに出ている一応、俳優。そして、芸が荒れるというのがCMで、私はCMを選びました。『あん』で女優賞をもらうのは面映ゆいんですよ。年取ったら普通にこんなことができるんだから。『デンデラ』で最後、熊のぬいぐるみに追いかけられて必死になっている浅丘ルリ子さんに主演女優賞(おおさかシネマフェスティバル2012)をあげる映画祭だから、行ってもいいかなと思ったんです」
 
 
 
 
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【主演男優賞】佐藤浩市『愛を積むひと』『起終点駅 ターミナル』

「(浜村淳から最新作『64』の話題を振られ)ほとんど映画は主役の場合受けになるが、『64』は受けながら久々に攻めまくりました。僕がダメな人は見ることができないぐらい、出ずっぱり。(プライべートは)ジャージを着てゴロゴロしています。かみさんからは外出て帰ってくると、出たときと同じ格好と言われます」
 
【助演女優賞】黒木華『ソロモンの偽証』『幕が上がる』『母と暮せば』
 
松竹東京本社から大角正プロデューサーが代理で登壇「山田監督の中では母役は吉永小百合さんで決まっていました。息子役は嵐で演技力のある二宮和也さん。息子の許嫁役は『小さいおうち』で黒木さんを初めて使った時から、黒木華さんを気に入っていたようです」
 
 
 
 
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【助演男優賞】松坂桃李『エイプリルフールズ』『劇場MOZU』『図書館戦争THE LAST MISSION』『日本のいちばん長い日』『ピース オブ ケイク』
 
 
「昨年は本当にたくさんのスタッフとたくさんの作品がやれて、この一年は財産です。(どういう役をやりたいかと観客からの質問に)あーうーん、時代劇はしっかりとやりたいですね」
 
 
 
 
 
 

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【新人女優賞】杉咲花『愛を積むひと』『トイレのピエタ』
 
「(『愛を積むひと』の現場で)佐藤浩市さんは本当に優しくしていただきました。北海道で長い間撮影していましたが、夜ご飯に何度もご飯につれて行っていただきました」
 
 
 
 
 
 
 
 
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【新人女優賞】藤野涼子『ソロモンの偽証』
 
「主役に決まったとき、父親が『お前なら大丈夫だ、主役だよ』と言ってくれたのでやり遂げることはできました。(監督の指導に)毎日泣いてました」
 
 
 
 
 
 
 
 

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【新人男優賞】坂口健太郎『俺物語‼』『ヒロイン失格』
 
「(演技については)今もずっと戸惑ってはいます。(目標とする先輩は)あまり決めていないです。普通にしていればいいかなという感じです。(人気急上昇と振られ)外を歩いていると声をかけていただくことも増えて、とてもうれしい」
 
 
 
 
 
 
 
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【監督賞】山下敦弘『味園ユニバース』
 
「脚本が書けるタイプではないので、俳優や主人公やキャラクターの魅力を引き出したい。(ひねった感じの映画を撮っていると言われ)ひねくれていると思います」
 
 

【脚本賞】橋口亮輔『恋人たち』

 
「ワークショップに参加した彼らをどう動かし、プロの俳優を絡めていくか。脚本を書くのに8カ月かかりました。この脚本だったらいけると自信を持って制作できるというのは大事なこと。脚本を書いている時は、脚本家としての自分でないと、この程度でいいやと思ったら失敗します」
 
 
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【撮影賞】高木風太『味園ユニバース』
 
「今大阪のミナミに住んでいるので、普段の景色を撮りました」
 
 
 
 
 
 
 
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【音楽賞】池永正二『味園ユニバース』
 
 
「もともと難波や大正に住んでいたので、明るいだけではなくドヨンとした部分もある空気感を意識しました」
 
 
 
 
 
 
 
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【新人監督賞】三澤拓哉『3泊4日、5時の鐘』
 
「タイトルは『3泊4日、5時の鐘』だが、撮影は5泊だったので、撮影場所をコンパクトにして撮るのに苦労しました」
 
 
 
 
 
 
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【新人監督賞】杉田真一『人の望みの喜びよ』
 
「(出演した子供たちの)その年代にしか出せないものが映っていると思います。普段僕が語る言葉ではない、かみ砕いた言葉や現場の空気に気を付けて撮影をしました」  
 
 
 
 
 
 
 
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【ワイルドバンチ賞】個人:ミズタマリ(『世界の終わりのいずこねこ』主演)
 
「アイドルとして芸能界にはいったけれど、初の演技で主演をさせていただき、こんな賞をいただいてうれしい。(改名前に活動していた)いずこねこの世界観が詰め込まれた作品」
 
 
 
 
 
 
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【ワイルドバンチ賞】
作品:『ハッピーアワー』(濱口竜介監督)
 
「2年ぐらいかけて脚本を変えながら作っていくうち、最初は2時間半ぐらいの予定だったが、あれよあれよとこの長さ(5時間半)になりました。(演技指導は)厳しくはない代わりに(撮影時間が)長かったです」
 
 
 
 
 
 
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【特別賞】大森一樹監督
 
「ちゃんと(ベストテンの)対象になる映画(『ベトナムの風に吹かれて』)を撮ったのに、かすりもしていない。大体僕が撮ったら必ず監督賞をもらうことになっていて、アカデミーやキネ旬はだめでもこの映画祭では大丈夫だろうと、松坂慶子さん(主演)にも日を空けておくように伝えていたのに」
 
 
 
 
 
 
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【日本映画作品賞】『恋人たち』(橋口亮輔監督)
 
「無名な俳優たちを集めたワークショップをはじめ、日本ではまだまだいろんなエネルギーがあるなと思った。無名な俳優たちを使うことが大前提。彼らをどう生かすか。そのために役作りを発想していきました」
特別ゲストで登壇の成嶋瞳子さんについて「この人天然なので、思いもしないような動きをするので、撮影中見ていて楽しかった。間違ってもこの人が他のオーディションに行ってもうからない。ルックスも良くないし、芝居もうまくないけれど、じっくり見ていると、すばらしいものが見えてくるんですね」
 
 
【外国映画作品賞】『セッション』(辻勝行氏:ギャガ株式会社・西日本配給支社支社長)
 
「最初16館でスタート、全国で200館に拡大し、今も上映している。映画を愛する皆さんのおかげ。ありがとうございます」
 
(江口由美)
 
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おおさかシネマフェスティバル公式サイトはコチラ

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
 

 

 
 
 
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春の大阪の風物詩、第11回大阪アジアン映画祭が、3月4日に開幕、19時から大阪市北区の梅田ブルク7で、オープニングセレモニーおよび台湾ナイトが同時開催され、オープニング作品『湾生回家』の海外初上映が行われた。上映に先立ち行われたオープニングセレモニーでは、《台湾:電影ルネッサンス2016》上映作品の『湾生回家』ホァン・ミンチェン監督、コンペティション部門も兼ねる『欠けてる一族』ジャン・フォンホン監督、『雲の国』ホアン・シンヤオ監督、『The Kids』のサニー・ユイ監督が登壇。そして第2回オーサカ Asia スター★アワード受賞の永瀬正敏が登壇。ゲストを代表して「ここに呼んでいただき非常に感激しています。アジアの映画人の皆さん、ようこそ、大阪へ。」と挨拶し、満席の会場から大きな拍手が送られた。
 
 
 
 
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引き続き行われた《台湾:電影ルネッサンス2016》台湾ナイトでは、台湾文化省副大臣 陳永豊氏による挨拶の後、『湾生回家』舞台挨拶が行われ、ホァン・ミンチェン監督をはじめ、プロデューサーの范健祐氏、他出演者の皆さんが登壇。映画についてホァン・ミンチェン監督は、「70%以上が日本語なので、日本で上映し、どのような反響があるかワクワクしている。とても温かいストーリーなので、この映画によって日本と台湾がもっと温かい関係になることを祈っている」
また、出演者を代表し、最年長となる89歳の富永勝氏が台湾から若いファンが逢いに来て驚いたというエピソードを交えながら「台湾の若い世代の人たちが撮影中も非常によくしてくれ、感激した」としっかりした口調で挨拶し、大きな拍手が沸き起こった。舞台挨拶のあとは、オープニング作品『湾生回家』が海外初上映された。上映後は一緒に映画を観ていた監督や出場者の皆さんへ向け、スタンディングオベーションで映画の感動を伝える観客の姿も多数見られ、温かい雰囲気に包まれた。
 

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第11回大阪アジアン映画祭は3月13日まで梅田ブルク7(梅田)、シネ・リーブル梅田(梅田)、ABCホール(福島)、第七藝術劇場(十三)、プラネット・スタジオ・プラスワン(中津)他で過去最多の計55本(うち、世界初上映8本、海外初上映10本、アジア初上映1本、日本初上映22本)を上映する。クロージング作品は『南極料理人』の沖田修一監督オリジナル脚本による究極のホームドラマ『モヒカン故郷に帰る』。親子役の松田龍平と柄本明をはじめ、モヒカン息子の彼女役に前田敦子が出演。瀬戸内海の島で完全ロケを敢行した風情溢れる映像も見どころだ。
 
また、特別企画「ニューアクション!サウスイースト」の中の小特集、「刷新と乱れ咲き ベトナム・シネマのここ数年」では、ベトナム版『怪しい彼女』をはじめ、大ヒットの最新作からアート系作品まで、勢いに溢れるベトナム映画を一挙紹介。 “台湾:電影ルネッサンス2016”では、与那国島を舞台にしたドキュメンタリー『雲の国』、台湾金馬奨50周年を記念して制作されたドキュメンタリー『あの頃、この時』をはじめ、コンペティション部門にも出品している青春ドラマ『欠けてる一族』等を上映。≪Special Focus on Hong Kong 2016≫では、ミリアム・ヨン主演の青春プレイバック映画『私たちが飛べる日』や、日本で初紹介されるデレク・ツァン、ラム・シュー出演のファイヤー・リー監督作『荒らし』、香港の十年後を5人の監督が描いたオムニバス映画『十年』他が上映される。
 
常設のコンペティション部門では香港人気俳優のチャップマン・トーが自身主演で初監督した『ご飯だ!』(マレーシア)、世界初上映となる石倉三郎、キム・コップW主演の『つむぐもの』(日本)、海外初上映のフィリピン映画『眠らない』『ないでしょ、永遠』、モンゴル人女性監督の衝撃デビュー作『そんな風に私を見ないで』(ドイツ・モンゴル)、アメリカ人2人が夜の香港で繰り広げるラブストーリー『香港はもう明日』(香港・アメリカ)、ドキュメンタリー映画『あの店長』と2本出品しているタイのナワポン・タムロンラタナリット監督作『フリーランス』など、新しい才能がアジアだけでなくアメリカやヨーロッパから集まった全11作品がラインナップ。
さらに、インディ・フォーラム部門は昨年よりパワーアップし、第12回CO2助成作品『見栄を張る』『私は兵器』『食べられる男』の世界初上映をはじめとした全11作品を上映する。
 
チケットの詳細は大阪アジアン映画祭ホームページ参照。
お問い合わせ:大阪アジアン映画祭運営事務局
TEL 06-6373-1232 http://www.oaff.jp/
 
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第12回CO2助成作品監督に聞く、CO2での映画制作と撮影秘話
~『私は兵器』三間旭浩監督、『見栄を張る』藤村明世監督、『食べられる男』近藤啓介監督
 
3月4日(金)~3月13日(日)まで梅田ブルク7、ABCホール、シネ・リーブル梅田、第七藝術劇場をはじめとした会場で開催される第11回大阪アジアン映画祭。その中でも今年大幅にパワーアップしたインディ・フォーラム部門で恒例となっているのがCO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)助成作品のワールドプレミア上映だ。40近くの応募企画の中から、CO2選考委員によって選ばれた3監督が60万円の助成金を受け、脚本作成他CO2事務局から様々なアドバイスを得ながら、オリジナリティあふれる長編を完成させている。今年の助成作品は三間旭浩監督の『私は兵器』、藤村明世監督の『見栄を張る』、近藤啓介監督の『食べられる男』だ。バイオレンスアクション(『私は兵器』)、アラサー女性の成長物語(『見栄を張る』)、ユニークな設定のSF(『食べられる男』)と、それぞれの個性で現在社会をリアルに切り取りながら、エンターテイメント性も備えた作品になっている。このCO2助成3監督にCO2に応募した経緯や、作品の狙い、見どころなどを伺った。
 

『私は兵器』(監督:三間旭浩)

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俳優特待生使用枠での応募だったという三間監督。「俳優をどう使うかの明確なビジョンがあり、ブラックな内容ながらダークヒーローが登場するあたりは、商業的な作品にもなり得る。アクション映画としてどうなるのかを見てみたい」という選考委員の評価を受け、今回助成監督に選ばれた。
 
初長編の『ユートピアサウンズ』が大阪アジアン映画祭やニッポンコネクションなどの映画祭で特別上映されているが、震災以降に撮った同作とは全く違う、暴力的な部分を前面に出した新しい長編企画をどうしても作りたいと考えCO2に応募したという。
 
<ストーリー>
調律師の望都(辻伊吹)は、小学校での仕事で出会った学校に馴染めない少年にピアノを教えることに。殺人の前科を持つ父のことを赦せない望都だったが、復讐代行組織「代弁者たち」と出会い、もう一つの顔を持つことになるのだった・・・。
 
 
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―――映画を作るにあたって、CO2事務局から受けたサポートは?
脚本を練る過程で、事務局の方と一緒に作っていった感じです。ある程度人に分からせるために脚本をどう組み立てていくのか、あまり難解すぎず、いかに面白くしていくか。また、今まではあまりキャラクター造詣をしてこなかったのですが、今回は映画に出てこないエピソードも考えながら、作り込んでいきました。
 
―――殴り合いなどの暴力シーンがしっかり描かれていましたが、アクションの作り込みはどのようにされたのですか?
俳優特待生で本作主演の辻さんはアクション俳優として活躍していますし、テコンドーもされているので、率先してアクションを組み立ててもらいました。また、復讐代行組織「代弁者たち」の運営者役の玉井さんも格闘技やアクションをされていたので、本当に助けられましたね。自分が出演していないシーンでもアドバイスをしに来てくれました。暴力シーンに関しては、ゲンナリするぐらい生々しいものになっていると思います。
 
―――選考委員からはダークヒーローものにとして商業映画でも通用するものになるのではとの声が挙がっていましたが、むしろ社会のひずみを描いた泥臭い作品です。
ヒーローなんてどこにもいない。みんな無様です。色々な暴力の形も見せたくて、教育現場でのシーンもあえて取り入れています。また、ピアノを弾いている男の子もそうですが、音叉や色々な音色を通して、暴力や色々なものが広がっていくイメージを出していきました。
 
―――普通の人が、ちょっとしたズレから暴力を振るう人間に転じていく中、主人公望都の父で妻の浮気相手を殺した男、主人公がピアノを教える少年と、少年が小さい頃虐待をした経験がある母親の3人は、過去は暴力に手を染めながらも、今は一線を画した生活をしています。彼らの本作における役割は?
母親は子どもを愛する感情がある一方、全てがそうではなく、あとの何割か「この子は私にとって何だろう」と一歩引いて眺める瞬間があるのではないかと思ったのです。そんな複雑性をはらんだキャラクターに仕立てました。父親は贖罪の意識があるものの、息子は父の過去を赦すことができずにいます。父親の感情的にやった暴力に対し、自分自身は民意(復讐代行業)でやっている暴力だから違うと思い込んでいます。ですが、実際には人を傷つけることに変わりはなく、無様なものなのです。
 
―――最後に、本作の見どころを教えてください。
暴力という重いテーマを掲げていますが、実際は娯楽作として成立できるようなストーリーにしているので、あまり気をはらずに見てほしいですね。色々な解釈が出来る映画なので、観終わった後に語り合ってもらいたいです。インディペンデント映画のようなあまり予算のない作品で、ここまでアクションを取り入れているものはないので、そこにも注目してください。
 

 

『見栄を張る』(監督:藤村明世)

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泣き屋というアイデアが面白く、日本の文化の映画か、むしろTV向けの題材との声もあった『見栄を張る』の藤村監督。その一方で、映画を撮るにあたっての計画の設定が明確で、誰にどのような協力を求めるのかというビジョンが既にあり、現実性が大きかった点も評価を受けての選考となったという。2作目の短編『彼は月へ行った』がPFFに入選した経歴を持つ藤村監督は、『バクマン。』では制作部、『図書館戦争 THE LAST MISSION』では助監督を務めるなど現場での経験を積み、「映画を撮れるならこんなチャンスはない」とCO2に応募、今回初長編に挑んだ。
 
<ストーリー>
東京で女優の仕事をしている絵梨子は、仕事も思うようにいかず、お笑い芸人の彼は今やヒモ状態。そんなある日、疎遠だった姉の訃報が飛び込んでくる。実家の和歌山に戻った絵梨子は、シングルマザーだった姉が葬式で故人の魂を送る“泣き屋”だったことを知る。姉の上司に勧められ、絵梨子は泣き屋稼業を始めるのだったが・・・。
 
―――映画を作るにあたって、CO2事務局から受けたサポートは?
長編の脚本を書いたことがなかったので、主人公が魅力的じゃないとか、もっと動かなくてはとか、もっと葛藤しなくてはとアドバイスされました。事務所で会議し、持ち帰って助監督と深夜から朝まで脚本書きをしていました。脚本の面では本当に勉強させていただきました。和歌山は助監督時代に勧められ、海南市などをロケハンして、まさに求めている場所だと思いました。主人公の実家がすごくキーになると思っていたのですが、そこも望んでいた家が見つかったので良かったです。
 
―――ヒロインの絵梨子は女優の仕事も思うようにいかず、姉の死がきっかけで田舎に帰ってからもどこか自然体になれず、不安を取り繕っている部分がありますが、監督自身を投影したところはありますか?
最初はそのつもりではなかったのですが、脚本を書いているうちに、結構自分を投影しているということに気付き、むしろ寄せてしまった方がいいと感じたので、どんどん寄せていきました。
 
―――作品全般に渡ってセリフは控えめでしたが、絵梨子役はどのように演出したのですか?
撮影の結構前から、絵梨子の経歴や生い立ちを書いたものを久保さんに渡しました。撮影に入ってからはいい感じだったのですが、絵梨子の場合は特に自分が物を言うときよりも、人の動きや発言を受け止める方が大事なので、その部分を大切にしていこうと話したりしましたね。
 
―――泣き屋を題材にするということで、事務局の企画採用時の評価にあったTV的でコミカルな作品を想像したのですが、実際はかなり渋く落ち着いたトーンになっていて驚きました。
カメラマンが60代の方なので、撮られた映像が渋かったのです。最後は映画全体を渋いトーンに振ってた方がいいなと思いました。逆に「これを25歳の監督が撮ったのか」と思ってもらった方が面白いのではないかと。
 
―――泣き屋という職業に注目した理由は?
昔は魂を送る役目として、日本古来からあった職業ですが、今はなくなってきたそうです。元々、私は色々な職業に興味があり、高校生の頃TVで「面白い職業特集」に知らない人のお葬式で泣くという泣き屋の仕事が取りあげられていたのです。そういう職業があるのかとずっと引っかかっていて、いつか作品にしたら面白いのではないかと心に秘めていたものを今回取りあげた感じです。
 
―――最後に、見どころを教えてください。
誰でも見栄を張ることがありますが、そのために大切なことを見失ったり、自分の夢がおろそかになってしまうことに主人公が気付く瞬間のラストシーンは、ぜひ見ていただきたいです。また、泣き屋が登場するお葬式のシーンも見ていただきたいですね。
 

『食べられる男』(監督:近藤啓介)

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企画書での評価が高く、宇宙人が人間を食べるというアイデアに対しても期待値が高かったという近藤啓介監督。SFというお金がかかりそうな題材をどういうアイデアで撮るのかという疑問に対し、「一つの宇宙人家族が一つの地球」という設定が選考委員の心をつかんだという。「周りの皆は世に出てしまった中、自分だけ足踏みしている状態だったとき、目の前にあるものに何でもしがみつきたかった」という近藤監督。本作は大阪芸術大学での卒業制作を含めて2本目の長編となる。
 
<ストーリー>
20年以上ひたすら工場で研磨の仕事をし続けている村田は、妻、一人娘と別れ、今は一人暮らし。友達付き合いもなく孤独な男だ。そんな村田に、地球平和のため、1週間後に宇宙人に食べられる人間に選ばれた便りが届く。突然選ばれた村田は、食べられるまでの1週間何をするのか。その時周りはどんな反応をするのか。そして、村田の疑問はただ一つ「僕なんて、おいしいのかな」。
 
 
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―――映画を作るにあたって、CO2事務局から受けたサポートは?
脚本はCO2の事務所で皆で集まり、話し合いながら書いたのですが、楽しかったですね。僕が元々知っていたお笑い芸人の方にも脚本に入ってもらい、共同脚本の小村さんと、富岡さんと4人で話しながら作っていきました。主人公、村田のキャラクターもそこからできた感じです。オーディションで村田役が本多さんに決まった時も、そこから「この人が演じるなら」とさらに脚本を書きながら変わっていきました。
 
―――村田さんのキャラクターがかなり強烈でしたが、村田さん役の本多さんについて教えてください。
本多さんは、ヨーロッパ企画所属の俳優で、既にたくさんの映画に出ていらっしゃる方だったので、僕からキャラクターやしゃべり方の希望を提示すると、後はやって下さる感じでした。村田のキャラクターとして、ずっとおちょぼ口をすることにしたので、本多さん自身もおちょぼ口をすれば村田になれる。そういう役作りをしていました。悲しいシーンのときは「本多さん、今日は70%おちょぼでいきましょうか」とか、キーワードを作り、なんとなく感覚でお互いに役の感じをつかみ合っていました。90シーン以上あるうち、村田が出ていないのは1シーンだけなので、撮影も大変でしたね。
 
―――タイトルにもあるように「食べる」ということがキーワードになっています。食物連鎖にもつながっていきますが、「食べる」に焦点を当てた狙いは?
作品全体を通して、意味をかけるという部分を色々盛り込んでおり、「食べる」は言葉だけでなく、食べるシーンをたくさん入れることも意識していました。村田はずっと石を持っていますが、これは村田というキャラクターを作った時にできていたので、「石」という言葉を散りばめました。歌でも「おまえは意思を持っているのか」という歌詞が入っていますが、そこも意識的に取り入れたものです。
 
―――食べられる直前に毛を剃ったとき、村田のスキンヘッドがかなり不自然な特殊メイクなのは、気づいて笑ってしまいました。
狙った訳ではないのですが、現場でも「ちゃっち~」と笑ったあと、面白いからこのままでいきました。このスキンヘッドでも意味合いは伝わりますから。この作品で伝えたいことは一つで、やりたいことがあれば、他のところを色々ツッコまれても気になりません。僕はここが面白いと思っているところは曲げずに撮影していきました。映画って、そんな感じでいいのか分からないですけどね。
 
―――本当に目が覚めるようなラストでした。シュールなのに笑えますね。
なんかありがたいですね。笑ってもらいたいけれど、笑ってもらえないだろうなと思っていましたから。普通宇宙人が出てくると急に夢のようになるのですが、この話は、最後に現実を見せられた。逆転していたのだなと、自分で作り終わってから発見しました。
 
―――最後にこれからご覧になるみなさんに、メッセージをお願いします。
食べられる男が、とてつもなく悲しくてむなしい話なのですが、それを笑える設定にぶち込んでいるので、楽しめるストーリーになっていると思います。多分次もこのような映画を撮ると思うし、今後も変わらないので、この作品で僕のファンになってほしいです。
(江口由美)

第11回大阪アジアン映画祭公式サイトhttp://www.oaff.jp/2016/ja/