映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

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623日にフランス映画祭2018にて日本初上映されたエマニュエル・フィンケル監督最新作『Memoir Of Pain/メモワール・オブ・ペイン(英題)』(20192月劇場公開)。映像化は不可能と言われたマルグリッド・デュラス(『ラマン』)の『苦悩』を映画化した本作、ナチス占領下のパリを舞台に、デュラス本人の長く辛い愛と苦悩の日々を描いた歴史ドラマだ。主人公のマルグリッド・デュラスを演じたメアリー・ティエリーさんが、上映後のQAに登壇し、フィンケル監督との再タッグが実現した本作について語った。

 

デュラス役はオーディションだったというティエリーさんは、「オーディションの結果が出るまで何カ月も待つこと自体が、耐えがたく長く続いた”苦悩”でした。判決を待つような苦悩の数ヶ月でしたが、役が決まってからは、一緒に仕事をした監督なので、尊敬もしていますし、とてもうれしく思いました」とデュラス役を射止めるまでの心境を語った。

 

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さらに、「役者は常にいい役を待っています。もちろん過去に素晴らしい役をいただいていますが、今回、色々な思いから、こういう物語を語るのに参加したいと思いました。特にこういう素晴らしい監督に一度出会うと、10年ごとでもいいからまた協力して作品作りをしたいと思うのです。中でも、今回私をキャスティングしてくださったフィンケル監督は、初めて再びご一緒できた監督。今までは2回目に声がかかることがなかったので、私の演技が監督をガッカリさせてしまっていたのではと不安でしたが、今回安心しました」と、初の再タッグを心から喜んでいることを明かした。メアリーさんから見たフィンケル監督は、「人間的、芸術的にも素晴らしい人。他の映画監督とは違う独自の哲学を持っていますし、映画作りの手法やポリシーなど本質的な深い部分をこだわって撮る素晴らしい監督です。一緒に仕事をすると激しいぶつかり合いもありますが、結果として残るのは非常に奥深く訴えかける、心に残る作品なのです」と絶対の信頼を寄せていることを表現した。

 

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実際に、有名作家のデュラス本人役を演じる上で内面を作る必要を感じたというティエリーさん。原作の映画化であっても、あくまでもフィクションであることを強調し、「舞台となる45年当時はまだかの有名なデュラスではなく、大成する前の時期。インドシナで生まれ育ったデュラスですが、偉大すぎる彼女を演じなければならないということではなかったのです」と、意識しすぎなかった様子。色々な人から役作りに役立つアドバイスをもらい、監督自身もインスピレーションを与えてくれたのだという。「デュラスを演じることは重い任務でした。実際のデュラスは私よりもっと知的ですが、やはりデュラスになりきる方が過ごしやすかった。毎日帰宅して『これは絶対にいい作品になる』と思えた、素晴らしい現場でした」と作品の手応えを感じながらの撮影を振り返った。

 

また出征した家族や、ゲシュタボにより捕らえられた家族が戻るのをじっと待つしかなかったパリの女性たちの目線で描かれていることについて、メラニーさんはそれがフィンケル監督の意図であると明言。戦時中を描く映画が多岐にわたる中、新しい視点をもたらす必要があったとして、今回、現在のパリに通じるような映し方や、今まで焦点が当たらなかった”待っている女性”に光を当てたフィンケル監督の視点を支持していることを明かした。『苦悩』の映画化はフィンケル監督の個人的な思い入れが強かったことにも触れ、「フィンケル監督のお父さんは、自分ひとり何カ月も隠れて生き残り、家族は戦争で連れ去られてしまい収容所で亡くなってしまったという体験をしています。ずっと戻らない家族を待ち続けている父親の姿を、フィンケル監督は子供心ながら見て育ったのです。身近に”待っている人”を見ていたことから、今回映画化して、待つ女たちに焦点を当てることができました。フィンケル監督にとっても、非常に思い入れが強い作品になったと思います」とフィンケル監督の本作への思いを代弁した。

 

最後に恋多き女性だったというデュラスを中心にした物語を振り返り、「色々な体験をされてきた方。原作では位置づけがわからなかった登場人物も、映画ではもう少しデュラスと深い関係にあるように変えています。当時は、恋愛もオープンで、夫にも愛人がいたりと皆が好き勝手にやっていた時代。自由に恋愛しながら、お互いが絡み合っていたのです」と締めくくった。

 

 

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レッドカーペット&オープニングセレモニーでも、スカーフをポイントにしたパンツスタイルにショルダーバッグとオシャレ度満点だったメラニー・ティエリーさん。危険な駆け引きにも動じず、なんとかして愛する人の消息を知ろうとする女性像を毅然と演じ、その精神力の強さを見せつけた。主人公のデュラス同様、観客もじっと待つ物語は、時に重い気分にもなるが、それこそが当時のデュラスら女性たちの境遇を体感するという監督の狙いなのかもしれない。男たちが支援したくなるような強かさも持ち合わせた若き日のデュラスを、来年劇場でぜひ堪能してほしい。

(江口由美)

 


フランス映画祭2018 Festival du film français au Japon 2018 
◼ 期間:6月21日(木)~~6月24日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス
■公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2018/

 

 

 

 


 

 

 
 

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622日にフランス映画祭2018にて日本初上映されたアニエス・ヴァルダ監督最新作『顔たち、ところどころ』(今秋より劇場公開)。上映後に開催されたゲストによるQAでは、本作のプロデューサーである女優ジュリー・ガイエさんが登壇。「今フィクションがどんどん写実的になり、ドキュメンタリーとの垣根がなくなってきている。実験的動きが生まれているところに、興味がある」と本作の魅力を表現しながら、プロデュースするに至った経緯や、ヴァルダ流ドキュメンタリーの作り方について語った。

 

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アニエス・ヴァルダ監督との出会い~映画への旅に誘われて

私がまだ20歳ぐらい、映画デビューしてから2作目の頃に、アニエス・ヴァルダ監督(以降アニエス)がミシェル・ピコリのベビーシッターを探しており、私に声がかかりました。『百一夜』では映画への旅に誘ってくれ、偉大な人たちに出会わせてくれました。この作品は映画発明100年を祝って作られた作品だったからです。

 

フランス映画界におけるアニエス・ヴァルダの存在感~一貫してフェミニズムを主張~

映画界の母であり、祖母です。『5時から7時までのクレオ』でフェミニストとしての女性監督の主張を初めてはっきり表現しています。それからずっと、アニエスは女性の目から描いた世界を描き、フェミニズムを主張しておられる。ドキュメンタリーにおいても家族や旅を題材にしています。

 

 

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本作のプロデュースをするきっかけ~恩返しの意味も込めて

アニエスの娘、ロザリーは、若い頃私が出演した映画で衣装を担当してくれました。その後、アニエスさんとジャック・ドゥミさんの映画を修理する仕事を始めました。その前にアニエスとロザリーが、プロダクションを始めたけれどまだ十分に資金が集まらないので、加して欲しいと誘われました。この映画がどうなっていくのか最初は分からなかったので資金集めは難しかったですのですが、私も恩返しの意味も込めて参加しました。アニエスさんは家族と一緒に仕事をするのを大事にしており、その部分もフェミニズムですね。私自身は家族と仕事をしてしっかり分けていますが、ヴァルダさんはとても職人的で、素晴らしい仕事のやり方だと思います。

 

 

プロデユーサーとして心がけたこと~監督の「外の目」になる

映画が、きちんと監督の映画になるように心がけました。アニエスは、「映画の裏に監督がいる」と常に言っています。私が関心を持っているのは、「監督の目を通して、違う世界を見せることを映画でやる」ということ。シナリオを作るところから参加し、何がこの映画の中で重要なのかをアニエスたちと話し合いながら決めていきます。そして編集がとても大事です。監督の「外の目」がプロデューサーで、作家と編集者という関係なのです。

 

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難航した資金集め~アニエスにもあった「ガラスの天井」

映画はシナリオを見た段階では、実際にどんな映画になるか分からない不安要素があります。ただ、アニエスのように素晴らしい映画をたくさん作っている巨匠でも、なかなか資金が集まらなかったことに私も驚きました。編集の段階でトレーラーを作ったり、資金集めは本当に大変でした。女性監督だからうまくいかないという点で「ガラスの天井」はあると思います。例えば、小規模な予算の時は女性監督でも資金を出してもらえますが、大規模な予算の時は女性監督では無理だと判断され、なかなか資金集めができません。ちなみに、ハリウッドの女性監督の割合は3%ぐらいですが、フランスでは25%ぐらいになっています。それでも男性と比べて給料は4割減なのが、現状です。アニエスは、女性監督としては初めてのアカデミー名誉賞を受賞し、最優秀ドキュメンタリー賞も受賞しています。

 

ストリートアーティストJRと共同監督をする狙い~次の世代への伝承がテーマ

『顔たち、ところどころ』は、次の世代への伝承をテーマにしています。JRが参加したことについても次の世代へ引き継ぐという意味があるのです。JRは写真家であり、ストリートアーティストで街に(拡大してプリントアウトした)写真を貼っていきますが、アニエスも写真家としてキャリアを始めた人です。彼女はドキュメンタリストとしてで知られていますが、70年代は写真も撮っており、写真に対する情熱を持っています。彼女の作品ですは、とても懐広く、心の広いものです。ほかにも、ユーモアとファンタジーがとても重要な要素で、人々に近づき、相互作用を生み出す必要がありました。JRは最初はミステリアスで距離感があるのですが、彼の祖母が登場することでアニエスと距離感が近づきます。アニエスは先祖たちの関係、それを伝える”伝承”を映画に取り入れ、語り継ぐことができる監督なのです。

 

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元ボタ山(炭鉱)の労働者用集合住宅に一人住み続ける女性を炭鉱労働者ポートレートを貼って勇気付けたり、田舎の寂れた廃墟を老若男女たちの「顔」でいっぱいにしたり、アニエス・ヴァルダとJRの年の差54歳のデコボココンビが、町の人たちと出会い、交流し、彼らのライフヒストリーを紐解いていく。時には海辺でそれぞれの人生について語ることもある。そして、アニエス・ヴァルダの盟友、ジャン=リュック・ゴダールとのエピソードも登場。ピクチャーアートとしても見ごたえあると同時に、アニエス・ヴァルダが映画として後世に残したい全てが詰まった珠玉の名作だ。

(江口由美)

 


 

フランス映画祭2018 Festival du film français au Japon 2018 
◼ 期間:6月21日(木)~~6月24日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス
■公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2018/
 
 
 
 

 

 


 

 

 

 
 

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6/21(木)~24(日)に開催された「フランス映画祭2018」が大好評のうちに閉幕し、エールフランス観客賞はオープニング作品のオリヴィエ・ナカシュ監督&エリック・トレダノ監督(『最強のふたり』)最新作『セラヴィ!』 "Le Sens de la Fête"に決定した。
(7/6より全国公開)
 
 
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今年は、13年ぶりに横浜に戻っての開催となったフランス映画祭2018。6/21(木)にみなとみらいホールで行われたオープニングセレモニーでは、フランス映画祭団長のナタリー・バイと、横浜出身でフェスティバル・ミューズを務めた常盤貴子さんが開会を宣言。『万引き家族』でカンヌ国際映画祭・パルムドールに輝いた是枝裕和監督、本映画祭の特別協賛である日産自動車のカルロス・ゴーン会長もお祝いに駆けつけた。満員となったオープニング作品『セラヴィ!』(7/6より全国公開)の上映を皮切りに、日本未公開のフランス映画、長編14本と短編1本を上映。上映会場となったイオンシネマみなとみらいには、多くのお客様が詰めかけ、会期中に6作品(うち短編『トマ』は『モカ色の車』の併映)が満員御礼、会場は連日フランス映画ファンの熱気でいっぱいとなった。
 
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今回は、会場にインスタ映えする撮影スポットも登場。ゲストがサイン会に移動する前のロビーでは、各回のゲストの撮影時間が設けられ、観客とフランス代表団の交流の場となった。上映後に行われた各回の来日ゲストによるQ&Aやサイン会も大いに盛り上がり、横浜ならではのアットホームな映画祭となった。本来映画祭があるべきの、観客のための映画祭となっていたのではないだろうか。ゲストも熱心に観客からの質問に答え、またサイン会での交流を楽しんでいたようだ。
 
また、今回はオープニングセレモニーのみ、横浜市民は500円で鑑賞できる割引サービスが実施された他、横浜市立大学、東京藝術大学、早稲田大学にて、授業の一環として学生を対象としたマスタークラスも開催され、フランス映画の作り手と、日本の学生たちが接する場が作られ、次世代の学生たちとフランス映画人たちとの交流が実現したのも意義深かった。
 
 
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さらに、横浜フランス月間2018との関連企画、レンガ倉庫で開催されたゴーモン展では、映画誕生と共にフランスの老舗映画会社ゴーモンが歩んできた歴史が豊富な資料や写真、映像と共に紹介され、満員御礼だった最終上映作品『See You Up There(英題)』  "Au Revoir Là-haut"の衣装も展示。映画の歴史に触れることができたのも非常に有意義で、横浜(みなとみらい)全体で「フランス映画祭」を体感でき、それと同時にみなとみらいをゆっくりと歩き廻り、映画プラスアルファの港の街横浜を味わえたのではないだろうか。『マルヴィン、あるいは素晴らしい教育』『ブラッディ・ミルク』『モカ色の車』(併映『トマ』)といういずれも満席の人気ぶりをみせた未公開作品の日本公開を望むと共に、これから続々公開される上映作品を楽しみにしていたい。
(江口由美)
 
■フランス映画祭2018公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2018/  
■(c) UNIFRANCE

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フランス・セザール賞3冠達成の注目作『ブラッディ・ミルク』主演スワン・アルローさん、ユベール・シャルエル監督インタビュー
 
今年のセザール賞で主演男優賞、助演女優賞、新人監督賞の3冠を達成した話題作、『ブラッディ・ミルク』がフランス映画祭2018(横浜/京都)で日本初上映される。
 
フランスの田舎で昔ながらの手作業による酪農を営むピエールに降りかかる伝染病の恐怖。
自分が飼っている乳牛が感染していることに気付くが、全頭殺処分になることは、全てを失うことになる。ピエールは事実を隠し、乳牛たちを守るべく、どんなことでもする決意をするのだった…。
 
 
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酪農家の仕事ぶりをつぶさに見せると共に、サスペンスのような色合いを見せる本作。主演男優賞受賞の喜びを、「友達からたくさん電話がかかるようになったよ」と軽やかに語るスワン・アルローさん、新人監督賞受賞で「きっと人生が変わると友達から言われたけど、まだそれほどでもないな」と笑うユベール・シャルエル監督の仲良しコンビに、お話を伺った。
 

 

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―――シャルエル監督は酪農家のご出身だそうですが、初長編の題材にこのテーマを選んだ理由は?
シャルエル監督:私の両親は酪農家だったので、このテーマは必然性がありました。もし映画監督という道を選んでいなかったら、自分の身に降りかかっていたことかもしれません。ちょうど私が子どもの頃、フランスでも狂牛病が大変な問題となっていました。よく母が「もしうちの牛たちにこんなことが起こってしまったら、自殺してしまうわ」と言うのを子どもながら聞いていたので、自分の中ではとても重要な出来事だったのです。
 
―――力仕事が多い酪農家のピエール役として、一見華奢に見えるアルローさんをキャスティングした理由は?
アルロー:役作りで10キロ増量したんですよ!
シャルエル監督:実際に酪農家で、演技は素人の人を探して出演してもらおうとしたのですが、なかなかこれという人が見つかりませんでした。アルローさんを勧めてくれたのはキャスティングディレクターで、一目見て、「この人だ!」と思いました。
 
―――アルローさんを見て、この人だと直感したのはなぜですか?
シャルエル監督:一見、僕が描こうとしているキャラクターと共通項があるようには見えないのですが、実際にお会いすると、ピエール役にちょっと可笑しみがあるところを十分に理解してくれ、僕を笑わせてくれたのです。それが決め手でした。
 
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―――アルローさんは、ピエールのどの部分に可笑しみを感じたのですか?
アルロー:この脚本を読んだ時に悲劇的な部分もあれば、ドラマ的な部分もある。でも、一方で、感知できるかできないかぐらいの感じで段々とジャンルスリラーに入っていくのです。そこがシャルエル監督の凄いところで、共同脚本のクロード・ルパップさんと、農家を舞台にするという、今まであまり成立しなかった新たなジャンル映画を作り出していきました。ドキュメンタリーやもう少し自然な感じで農家を舞台にしたレイモン・ドゥパルドンの作品もありますが、いずれも真面目な作品です。シャルエル監督はドキュメンタリーっぽいリアリズムもありながら、そこに映画性を持ち込んだ。僕は脚本を読んだ時に、これはすごいと思いました。彼は自分の身近に起きた個人的なことを語っているのですが、それを越えて映画的なものがある。これは何としてでも成功させなければいけないと思いました。妹役のサラ・グロドーさんとも脚本を最後まで読み終えた時に、これは徹底的にやってやろう!と話をしていました。
 
―――脚本が秀逸だったということですね。
シャルエル監督:クロード・ルパップさんは短編映画を作っている時から共同で脚本を書いているのですが、脚本の中に演出がある、しっかりとしたものを書いてくれるのです。
 
―――手作業が多く、日々放牧をさせている酪農方法で、ピエールは一人で全てを行っていますが、その規模、手法の酪農家に設定した意図を教えてください。
シャルエル監督:ピエールが機械化された酪農に対して闘っている、まさに最後の砦のような存在であることを見せたかったのです。この映画は海外で上映する機会も多く、その時に気付いたことなのですが、ほとんどの国の酪農が機械化されており、フランスにはまだ手作業の畜産農家が僅かではあるけれども残っていることを発見しました。産業化されている酪農は利益中心です。お金が稼げればいいという目的で機械化する訳ですが、ピエールにはそのような目的はありません。ピエールと乳牛たちとの間には、本当のラブストーリーのような心が通じ合う絆があったのです。
 
―――酪農家役を演じるにあたり、アルローさんはどのような準備を行ったのですか?
アルロー:ユベール(シャルエル監督)のいとこで、小規模で家庭的な経営をしている農場で1週間ぐらい実習をさせてもらいましたし、クランクインの直前にも農場に行きました。実際のロケ地となったのは、1年ぐらい前に閉鎖されたユベールの両親の農場だったのですが、もう一度リフォームし、クランクイン前に乳牛を連れてきました。僕に酪農仕事の指導をしてくれたのは、ユベールのお母さん、シルベンヌさんでしたが、彼女はおそらくその地方一番、しいてはフランスで一番と言っていいぐらいとても厳しかった。なにせ、乳牛の牛乳コンテストでいつも第一位を取るぐらいのキャリアの方でしたから。シルベンヌさんの厳しい指導による実習を終え、クランクインしても、きちんとできているかと心配して、シルベンヌさんが撮影現場で僕を一人にさせてくれなかったのは、ちょっと大変でしたね。僕にすれば乳牛を扱うのは役者としての仕事ではありますが、乳牛は生きていますからきちんとケアをしてあげなければいけない。だから、この映画は演じるよりも、乳牛を世話する方が大事です。この役柄をこのように作っていこうというやり方ではなかった。乳牛たちを世話するシーンだけでなく、家族とのシーンもある訳ですが、俳優たちとのリハーサルよりも、僕はいつも乳牛たちと一緒にいました。心配になってユベールに「全然他の俳優たちとのリハーサルをしていないけど、大丈夫」と聞いたのですが、「君は乳牛と一緒にして、世話をしているだけで立派にピエールを演じているよ」と言ってくれました。
 
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―――乳牛の出産シーンもありましたし、仔牛を我が子のように育てたり、乳牛たちと常にスキンシップや声かけをしていましたが、乳牛たちの世話をする中で、どんな気持ちが芽生えてきましたか?
アルロー:もちろん乳牛はとても愛情深い動物ですから、私だけではなくスタッフたちも皆、とても愛情を感じ、尊敬していました。ただユベールに言われたのは、「君が怖がると、乳牛も怖がるから、決して怖がってはいけない」と。人間なので恐怖心が突然芽生えるときもあるけれど、「怖がらなくていい」と思うことでうまくいきました。とてもシンプルに、動物を信じることがとても大事でした。人間の俳優と演じるより、乳牛たちと演じる方がとても楽でした。乳牛たちは僕が信頼すれば、やるときはやるし、嫌な時はやらないしと選択がとても明確、シンプルなんです。俳優が相手だと、時には工夫しておだてたりしなければならなかったり、結構大変ですから(笑)。
 
―――なるほど、乳牛たちが相手の演技は、相手を信頼することが一番だったのですね。最後に命についての問題提起でもあり、一方被害を受けた酪農家が何の救済もされないことへの問題提起でもあると感じましたが、この作品の狙いは?
シャルエル監督:行政に対してのメッセージがあるかどうかは別の話ですが、酪農家として利益を出さなければいけない。動物を通してでしか成立しない仕事です。単に農場を閉鎖するという簡単なことではなく、閉鎖となればそこで生きていた動物たちを殺処分しなければならない訳です。狂牛病の時も多くの酪農家の人たちが、これは正しくないのではないかと大いに感じていました。数頭だけしか感染していないかもしれないのに、農場全体の牛を殺処分しなければならないことに、やるせなさを感じていたのは事実です。
アルロー:僕だけでなく、フランスの人たちは皆感じていることだと思うのですが、鳥インフルエンザや狂牛病など、畜産動物に関する病気が発生すると、殺処分の暴力性がクローズアップされがちです。動物たちを殺すという現象の裏側に、それにかかわる酪農家たちの暮らしが崩壊してしまうという人間ドラマがある。それがこの映画で描きたかったことではないでしょうか。
(江口由美)
 

 
<作品情報>
『ブラッディ・ミルク』(2017年 フランス 90分)
監督:ユベール・シャルエル 
出演:スワン・アルロー、サラ・ジルドー、ブーリ・ランネール、イザベル・カンディエ他
 
フランス映画祭2018 Festival du film français au Japon 2018 
◼ 期間:6月21日(木)〜~6月24日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス
■公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2018/
 

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「教育」があれば社会環境、生まれ育った環境に関わらず希望が持てる。
『マルヴィン、あるいは素晴らしい教育』アンヌ・フォンテーヌ監督インタビュー
 
昨年のフランス映画祭観客賞受賞作『夜明けの祈り』のアンヌ・フォンティーヌ監督最新作、『マルヴィン、あるいは素晴らしい教育』が、6月23日、イオンシネマみなとみらいで開催中のフランス映画祭2018で日本初上映される。
 
小さな田舎町で暮らした子ども時代、学校でも家でも居場所がなかったマルヴィンが、才能を見出してくれる先生との出会いを経て、演劇と出会い、家族と訣別して都会で自らの道を見つけようとする。周りとは馴染めず理解されないことに悩む一方、自分の今までの境遇を演劇にし、改めて自らを見つめる姿を描くヒューマンドラマだ。
 
同性愛者の主人公マルヴィンを演じるのは、今最も期待されるフランスの若手俳優フィネガン・オールドフィールド。田舎での家族模様をつぶさに描く一方、都会でのパトロンとの出会いや、パトロンの知り合い、イザベル・ユペールとの出会いを通じて、人生を学んでいくフィネガンを繊細に演じている。本人役で登場するイザベル・ユペールの存在感が、いいアクセントとなっているのだ。
 
本作のアンヌ・フォンティーヌ監督に、作品についてお話を伺った。
 

 
―――修道院を舞台にした女性キャスト多数の『夜明けの祈り』とは打って変わって、同性愛者の男子が主人公でキャストは男性が多い物語です。女性やゲイに対する偏見が根強い田舎と都会の対比も描かれますが、着想のきっかけは?
フォンティーヌ監督:エドワード・ルイという若い作家の本から着想を得ました。彼は非常に厳しい幼少期を送った後、フランスの有名大学に進学できたのです。彼の本は非常に感動的な内容で、自分は人とは違うと思い、また家の中でも阻害され、孤独な若い男性が、芸術に触れることで、自分がどういう存在であるかを理解し始め、自分自身の心の声を出せるようになっていくという、希望を与える内容になっています。そもそも人間は皆違うのですが、本の主人公は他人とは違うという悩みを芸術的表現に昇華させていくのです。ご指摘の通り、主人公が田舎で過ごす時代と、都会で過ごす時代の二つを組み合わせてみせるようにしています。
 
―――若くに産んだことで、子どもに関心を持てないマルヴィンの実の母と、マルヴィンに演劇を通して希望を与えていく女性の校長先生との対比も印象的でした。この二人を通して描きたかったことは?
フォンティーヌ監督:母、オディールは、経済的に恵まれない状況を自分でもどうしたらいいか分からないという立場です。あまり教育も受けていないため、息子が色々な兆候となるサインを見せても、自分のことに精一杯で気付けないのです。そういう、ある意味人間的な存在です。一方校長先生のクレモンは、マルヴィンの才能に気付き、彼の運命を変えていくきっかけになった。クレモン先生がマルヴィンに演劇クラスのワークショップ受講を勧めたおかげで、マルヴィンが他の人からの視線を受けるというのはどういうことになるのかを文化的な側面から感じることができました。そのままだと抜け出せなかった世界から脱し、新しい将来を描けるようになったのです。
 
―――父との関係はまた違った側面を見せます。労働者階級で一見破天荒に見え、差別的発言も繰り返す一方、マルヴィンが家を出て成功する中で、父自身も息子の本当の姿を理解し、受け止めていきます。
フォンティーヌ監督:私も父、ダニーの役柄はとても気に入っています。ダニーも教育を受けておらず、文化に触れていない世界の犠牲者とも言えます。彼らのような労働者階級では、文化と言えばテレビを見ることぐらいで、知性からかけ離れた生活をしていた訳です。一見野生的ですが、一番感動的なのは最後、マルヴィンに向かって「ゲイのお前たちを結婚するのか?」と聞くシーンです。当初はホモと罵ったり、精神病呼ばわりしていたダニーが成長したことを感じられます。ダニー自身も父から殴られて育った訳ですが、自分の子ども、マルヴィンに対しては、同じことを繰り返さなかった人です。
 
 
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―――とても繊細にマルヴィンを演じたフィネガン・オールドフィールドさんですが、キャスティングの経緯や、彼の魅力について教えてください。
フォンティーヌ監督:フィネガン・オールドフィールドさんをキャスティングした理由は、とても優美でありながら、繊細なところも持っており、内からのパワーを非常に感じさせてくれる役者だったことに尽きます。身体的な魅力も、もちろんありました。難しかったのは、子役のマルヴィンと青年役のマルヴィンの二人をキャスティングしなければならなかったことです。子役でわざとらしくないように演じてもらうのは非常に大変で、何度もテストを行いました。子ども時代と青年時代のマルヴィンにズレが生じないように調整し、これがピッタリだという二人を選びました。フィネガンは今まで映画に出演経験はあったものの、主役を務めるのは本作が初めてだと思います。子役の方はジュール・ポリエという男の子です。
 
―――キャスティング段階でもかなりテストを重ねたそうですが、実際の演出はどのように行ったのですか?
フォンティーヌ監督:ジュールに関しては、撮影に入る前に何度もリハーサルを重ねました。例えば撮影に入る前に3週間ぐらい時間を取り、役者たちに家族としての絆を作ってもらいました。もちろん暴力的なシーンも含めてです。フィネガンに関しては、イザベル・ユペールとの演劇シーンもありましたから、撮影前にかなりリハーサルを重ねました。私の仕事のやり方は、撮影初日に初めて演じたようにするのではなく、撮影に入る前のリハーサルでやってきたことの延長線上のようなものを作り出すようにしています。
 
―――次回作は主演としてタッグを組んでいるイザベル・ユペールさんは、今回本人役として登場し、マルヴィンを見守るような役ですが、それだけでなく、最後に大きな見せ場もあります。
フォンティーヌ監督:イザベル・ユペールに脚本を渡すとき、「あなたが今まで一度もやったことがない役よ」と説明すると最初きょとんとしていました。でも読むと理解してくれ、とても楽しそうに撮影に臨んでくれました。現場でも非常にいい雰囲気をもたらして下さったと感じています。映画では無名の若手俳優に対してチャンスを与える役柄ですが、ユペールはとても著名な女優なので、作品中のようなことを実際にもやっていらっしゃるのだと思います。
 

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―――ユペールさんとのラストシーンもそうですが、劇中劇をはじめ、作品中には演劇的な要素を含むシーンが多数登場します。そのような構成にした狙いは?
フォンティーヌ監督:演劇を通して、マルヴィンがどう変わっていくかを見せたかったのです。最初の演劇ワークショップでは学校で行き場がなく、どうしたらいいか分からない時に、自分が夢中になれるものを見つけます。次に、自分が家族と交わした会話を演劇の台詞として使い、作品として昇華させ、彼は俳優だけでなく作家にもなる訳です。実はその部分は原作とは違う部分で、原作では芸術家になりますが、俳優ではなく作家でした。ただ俳優の方が映画向きだと思って変更しています。
 
―――マルヴィンが自分の生い立ちを演じる劇では、水が張られた上で演じているのがとても印象的でした。この舞台デザインも監督のアイデアですか?
フォンティーヌ監督:もちろんそうです。水は美的なものであり、象徴的なものでもあります。舞台で母親を演じているイザベル・ユペールが中絶に言及していますが、大きなバスルーム(トイレ)を表していますし、自分が反射して映るものなので、自分を見つめ直すという意味も込めています。
 
―――本作のタイトルには「マルヴィン」だけでなく、「素晴らしい教育」となっています。そこに込めた思いは?
フォンティーヌ監督:まずは「素晴らしい教育」というのは文学的な表現だということ。そして、教育というものは人生に時には決定的なインパクトを与えるという意味を込めています。つまり、自分が生まれた家庭環境や社会階層はフランスではなかなか変えることは難しいのです。農家や労働階級に生まれた子どもは文化に接しようと思っても、かなり苦労しなければそれも叶いません。しかし、教育があれば、生まれ育った環境とは違う希望が持てます。そのような意味を込めて「素晴らしい教育」と付けました。
 
―――最後に、フォンティーヌ監督がこれだけコンスタントに映画を作り続けることができる秘訣は?
フォンティーヌ監督:確かに私は長編を15本ほど撮っていますし、かなり幸運なことだと思います。最初の1本を撮った後に、今後どのような作品を撮ろうかと考え、次の作品を撮るまでに少し時間がかかりました。でもその後はプロデューサーから本やアイデアなどの企画を持ちかけてくれる幸運に恵まれています。ちょうど今も次回作の撮影が終わったばかりなのですが、ルー・ドゥ・ラージュやイザベル・ユペールが出演しています。私が、今まで出会ったことのない未知の世界に立ち向かっていくという性格なので、これだけコンスタントに作り続けていられるのだと思います。
 

 
<作品情報>
『マルヴィン、あるいは素晴らしい教育』(2017年 フランス 115分)
監督:アンヌ・フォンティーヌ
出演:フィネガン・オールドフィールド、グレゴリー・ガドボワ、ヴァンサン・マケーニュ、イザベル・ユペール他
 
 
フランス映画祭2018 Festival du film français au Japon 2018 
◼ 期間:6月21日(木)〜~6月24日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス
■公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2018/
 

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13年ぶりの横浜開催に常盤貴子感激!ナタリー・バイ団長に是枝監督が祝福のメッセージも。フランス映画祭2018、華々しく開催!
 
今年で第26回を迎えるフランス映画祭2018が、13年ぶりに横浜で開幕した。6月21日に横浜みなとみらいホールで行われたオープニングセレモニーでは、レッドカーペットも開催され、待ちかねていた横浜のファンたちが豪華ゲストとの交流を楽しんだ。
 
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フェスティバル・ミューズ常盤貴子、フランス映画祭2018団長ナタリー・バイがカルロス・ゴーン氏と並んで笑顔で!
 
レッドカーペットでは、横浜市出身で何度もフランスを訪れたことのある本映画祭のフェスティバル・ミューズ、常盤貴子が横浜をイメージしたマリン柄の帯が印象的な和服姿で登場。「”横浜といえばフランス映画祭”、”フランス映画祭といえば横浜”と言っていただけるよう、どんどんお洒落な雰囲気の街になると期待しています。海があり、リラックスできる横浜は、南仏がお好きなフランスの皆さんも気に入っていただけるのではないでしょうか。団長のナタリー・バイさんに、大好きな『アフリカの夜』の撮影秘話を聞けたらうれしいです」と横浜の魅力をアピールしながら、映画祭での交流を楽しみにしていることを明かした。映画祭団長のナタリー・バイをはじめ、フランスの鬼才・フランソワ・オゾン監督、オープニング作品『セラヴィ!』の監督で『最強のふたり』の監督コンビ・オリヴィエ・ナカシュ監督&エリック・トレダノ監督など豪華来日ゲストに加え、林文子横浜市長、カルロス・ゴーン日産自動車会長、ローラン・ピック駐日フランス大使も来場し、レッドカーペット会場に駆けつけた300名以上の観客の歓声に応えた。
 
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ひと際歓声が大きかった『2重螺旋の恋人』フランソワ・オゾン監督。フェスティバル・ミューズ常盤貴子がお出迎え。
 
満席の会場の中、レッドカーペットに続いて登壇したフェスティバルミューズの常盤貴子は、「私の故郷でもある横浜にフランス映画祭が帰ってきたタイミングで、“フェスティバル・ミューズ”に選んでいただけたことを、改めてとても嬉しく思います。フランスからお忙しい監督やゲストの皆さんが日本にやって来るのは、“日本のみなさんにフランス映画を知ってほしい!”という想いからだそうです。みなさんのフランス映画に対する情熱をこの横浜でぶつけていただき、大いにこの映画祭を盛り上げていきましょう!」と会場に呼びかけた。続いて登場したナタリー・バイは、「私は初めて日本に来日したのが、15年前の横浜でした。こうして横浜に戻ってくることができてとても嬉しいです。日本が大好きです!」と喜びを語った。
 
上映作品の監督や出演者などのフランス代表団に続いてスペシャルゲストとして登壇したのは、『万引き家族』で日本人として21年ぶりのパルム・ドールを受賞し、日仏の映画界の架け橋となる存在といっても過言ではない、是枝裕和監督。
「映画祭は本当に映画を愛する人の交流の場で、僕たち作り手にとっても本当に貴重な時間であり、場所です。僕自身を育ててくれたフランス映画、一人の作り手としても、フランスの映画祭などに呼んでいただいて、フランスのファンの人に育てられて映画を作るエネルギーをもらっています。今日来日されているフランスの作り手の方も、日本のみなさんとの出会いによって次の作品を作るエネルギーをもらえる、そんな機会になることを願っています」と祝福の意と共に、映画祭の意義を語ると、檀上の来日ゲストからもパルムドールを祝しての拍手が沸き起こった。
 
スポンサーである日産自動車会長のカルロス・ゴーンも「フランス映画祭が横浜に戻ってくることに少しでも貢献できてとても嬉しく思います。」と祝福、最後に、映画祭団長のナタリー・バイとフェスティバル・ミューズの常盤貴子が、「フランス映画祭、開催します!」、とフランス語、日本語でそれぞれ高らかにフランス映画祭の開幕を宣言。その後サプライズとして披露された、巨匠マーティン・スコセッシ監督の『ヒューゴの不思議な発明』にも楽曲を提供するピアニストの、ジャン=ミシェル・ベルナールが、数々の映画音楽を交えたスペシャル演奏を披露。ラストの1曲は実力派歌手の畠山美由紀が、横浜にちなんでセレクトした「浜辺の歌」を情感豊かに熱唱し、より感動的なオープニングセレモニーとなった。   
 
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 オープニング作品『セラヴィ!』の監督で『最強のふたり』の監督コンビ・オリヴィエ・ナカシュ監督&エリック・トレダノ監督。舞台挨拶でも日本語で「大好き!」とハイテンション!上映後のトークも盛り上がった。

■フランス映画祭とは
1993年、当時のユニフランス会長で映画プロデューサーのダニエル・トスカン・デュ・プランティエにより横浜で誕生。
2006年に会場を東京に移し、2011年より2016年まで、有楽町朝日ホール及びTOHOシネマズ日劇で開催。
2012年からは、アンスティチュ・フランセ日本の協力により、地方での開催を実施。
各地の映画ファンにも喜ばれるイベントとなった。フランス映画祭を通し、日本国内におけるフランス映画全体の活況を図ること、フランス映画を配給する各社の助けとなること、また、まだ買付のついてないフランス映画、新進の監督や俳優に日本で紹介される機会を作ることがその狙い。加えて、来日するゲストによるマスタークラスを実施し、日本の未来の映画の作り手との繋がりも重要視されている。
2017年に開催した「フランス映画祭2017」では、フランスを代表する女優のカトリーヌ・ドヌーヴが団長として来日。ルー・ドゥ・ラージュなどこれからの活躍が注目される若い俳優や、最新作『エル ELLE』が世界中の映画祭で話題となったポール・ヴァーホーヴェン監督、この作品でゴールデングローブ賞最優秀女優賞を受賞したイザベル・ユベール、
日本でも人気の高いトラン・アン・ユン監督(『エタニティ 永遠の花たちへ』)など総勢12名が映画祭を華やかに彩った。さらには第25回という節目の年を記念し、フランスでも大変人気の高い北野武監督が親善大使を務めた。
 

 
フランス映画祭2018 Festival du film français au Japon 2018 
◼ 期間:6月21日(木)〜~6月24日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス
■公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2018/
 
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11月3日(金・祝)に閉幕した第30回東京国際映画祭。最終日にコンペティション部門、アジアの未来部門、日本映画スプラッシュ部門の審査結果および観客賞が発表された。今年の東京グランプリに輝いたのは、審査委員長のトミー・リー・ジョーンズ氏が、「この美しい撮影法に感銘を受け、神話を現実として捉えている内容が素敵だと思いました。神話的な体験を通して、共通の認識を得るという体験です」と講評したトルコの名匠、セミフ・カプランオール監督の『グレイン』。最優秀監督賞は、エドモンド・ヨウ監督(『アケラット-ロヒンギャの祈り』)が2度目のコンペディション部門出品で、初の栄光を手にした。また、観客賞には3年ぶりに日本映画『勝手にふるえてろ』が受賞した。以下本年度の受賞結果と受賞コメント、最後にトミー・リー・ジョーンズ審査委員長の総評を紹介したい。
 
<コンペティション>
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東京グランプリ/東京都知事賞 『グレイン』(監督: セミフ・カプランオール)
「実は今回の映画は⻑い旅路を経てきました。というのも製作に5 年かかりました。そして、今回ここから世界に向かって広がっていく出発点になると思っております。今回の制作に携わってくださった私の様々な友⼈たち、チーム、特に俳優のジャン=マルク・バールにお礼を申し上げたいです。彼は素晴らしい演技を⾒せてくれました。最後に、私たちは世界に様々な害を与えています。私たちが⽣きていくその全ての瞬間がその理由になってしまっています。その理由には過剰な消費があります。私たちはどこから来たのか、どこに向かっていくのか、こういったことを私たちは把握しなければいけない、理解しなければならないと思っています。私は監督として⼤地や種⼦、創造されることに敬意を払いながら作品を作りました。この作品を作ることを神が導いてくれたと思っています。」
 
 
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最優秀監督賞 エドモンド・ヨウ(『アケラット-ロヒンギャの祈り』)
「私たちクルーは 20 ⼈未満 で、⾃分たちのことを“アケラットファミリー”と呼んでいました。ダフネはこの映画のために詩を書いたりしてくれました。ほとんどのスタッフがこの映画に登場します。映画⾃体は、12 ⽇間⾬の中作っていました。先ほど私のミューズのような存在であるダフネが、東京ジェムストーン賞を取った時は泣きそうになりました。クルーの皆に感謝をしたいと思います。東京国際映画祭に来まして、普段映画を作っていると⼀⼈になったような気になってしまうのですが、世界各国の監督と知り合いになって、映画を作っている⼈はみんな家族なのだと強く思います。⼀⼈の映画⼈としてこの作品を皆さんに観ていただき、感じていただきたい、やはり世界は平和にならなければいけないと強く思っております。」
 
審査委員特別賞 『ナポリ、輝きの陰で』(監督: シルヴィア・ルーツィ、ルカ・ベッリーノ)
最優秀女優賞 アデリーヌ・デルミー(『マリリンヌ』)
最優秀男優賞 ドアン・イーホン(『迫り来る嵐』)
最優秀芸術貢献賞 『迫り来る嵐』(監督:ドン・ユエ)
最優秀脚本賞Presented by WOWOW:『ペット安楽死請負人』(監督・脚本:テーム・ニッキ)
観客賞 『勝手にふるえてろ』(監督:大九明子)
東京ジェムストーン賞 松岡茉優、石橋静河、アデリーヌ・デルミー、ダフネ・ロー
 
<アジアの未来>
作品賞 『僕の帰る場所』(監督: 藤元明緒)
国際交流基金アジアセンター特別賞 藤元明緒『僕の帰る場所』
スペシャルメンション 『老いた野獣』 (監督:チョウ・ズーヤン)
 
<日本映画スプラッシュ>
作品賞 『Of Love and Law』(監督:戸田ひかる)
 
<トミー・リー・ジョーンズ審査委員長 総評>
「最良の映画祭というのは、映画製作者や観客を厳しい商業的需要から開放すべきものだと思います。私たちは、カークラッシュやレンズに銃⼝を向けたり、都市が爆発したり凍ったり、危機に陥っている⼥性、思春期のスーパーヒーローなども必要としません。それを悪いことだと⾔っているのではなく、ただ私たちはそれを必須とみなしておりません。最良であれば、映画祭というものは理路整然とした物語、視覚的な美しさ、そして観客の時間をしかるべき注意と 努⼒で向上させるという映画の持つ責任を開放しません。私たち映画製作者はみなさんの時間を無駄にするため に⽣まれてきたのではなくより良いものにするために⽣まれました。そして皆さんに対し、謙虚な⼼と希望をもって仕える者ということをこの審査員を代表して申し上げます。」
 

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ジャン=マルク・バール「変革が求められていることを語りたい」。ディストピアを描いた『グレイン』記者会見@TIFF2017
登壇者:セミフ・カプランオール(監督/脚本/編集/プロデューサー)、ジャン=マルク・バール(俳優)、ベッティーナ・ブロケンパー(プロデューサー) 
 
10月25日より開催中の第30回東京国際映画祭でコンペティション部門作品として出品されているセミフ・カプランオール監督(『蜂蜜』)の最新作『グレイン』。ディストピアの近未来を舞台に、荒廃した大地がモノクロの映像で映し出される。大地の中で、人間の存在は実に些細なものだ。そんな人間が遺伝子組み換えにより生態系を狂わせ、人間が生きるのに大事な穀物が枯れてしまう事態に陥る。ジャン=マルク・バール(『グラン・ブルー』)が演じる主人公、エリン教授は、遺伝子不全を予言していた研究者、アクマンを探す旅にでるが、その旅こそ、生死をかける壮絶な旅になるのだった。
 
 
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© KAPLAN FILM / HEIMATFILM / SOPHIE DULAC PRODUCTIONS / THE CHIMNEY POT / GALATA FILM / TRT / ZDF / ARTE FRANCE CINEMA 2017
 
私たちが日ごろ当たり前にあると思っている土や種が汚染され、穀物が取れなくなってしまったら、まさしく人類存続の危機だ。核戦争やテロなどの国同士の争いによるディストピアではなく、人間のエゴによる環境破壊が徐々に地球を蝕んだ結果のディストピアを描いているところに、ユスフ三部作のカプランオール監督が一貫して描いている大地や生態系への敬意が読み取れる。試練を乗り越え、大事に守られていた汚染されていない土を手にしたエリンが、顔や身体を清めるかのように土をこすりつけるシーンは、命の泉で身を清めるのと同じような神々しさがあった。
 

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7年ぶりの新作を携えて来日したセミフ・カプランオール監督は、脚本に5年をかけた本作を着想した時のことを振り返り、「近い将来こういうことが起こるかもしれないと思い書き始めました。トルコには300万人近い難民が訪れ、戦争の影響も様々起こっています。農業や水の問題も問われるようになり、自分が想定していたことが、現実になっていくのを今は見ている感じがします」と実際にディストピアへの道を歩みかねない現状への危機感を露わにした。
 
コンペティション部門作品を鑑賞し、「非常にレベルが高い」と称賛したジャン=マルク・バールさん。荒野での撮影を振り返り、「とても美しく、スピリチュアルな体験をしました。トルコのアナトリアでも撮影しましたが、精神的、肉体的な訓練をしているような撮影で、体力的にも大変でした。ラース・フォン・トリア監督作でもドイツ人、ロシア人と様々な人たちと共に英語で撮っていますが、本作も日本人も含め様々な国の人と英語で撮影し、大変ですがとても良い体験になりました」と、国際的なスタッフ、キャストでの撮影を楽しんだ様子。また、ユスフ三部作から携わっているプロデューサーのベッティーナ・ブロケンパーさんは、「私にとっては政治的、精神的な映画。我々が人生を変えないと地球がどうなるか分からない。この映画の一部になれたことをとてもうれしく思います」と作品の意義を語った。
 
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最後に、世界的食糧危機が強く描かれている作品で、主人公の教授を演じた気持ちについて「世の中の映画は娯楽性が高いものが多いですが、カプランオール監督作品は世界中で意識を変えていると思っています。問題を精神的かつ知的に考えていく定義をしています。300年ぐらい営んできた人間の生活を、今変えなければいけない時期にきている。映画がそういうメッセージを出せることが非常に大事です。エリン教授は、最初何をしたらいいか分からなかったけれど、問題解決をしたいと願い、意識の変化を遂げている人物。変革が求められていることを語りたい物語なのです」と、映画を通じて、まさに今、私たちが意識を変える必要性を強調した。
(江口由美)
 

『グレイン』
(2017年 トルコ/ドイツ/フランス/スウェーデン/カタール  127分)
監督:セミフ・カプランオール 
出演:ジャン=マルク・バール、エルミン・ブラヴォ、グリゴリー・ドブリギン 
 
第30回東京国際映画祭は11月3日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
第30回東京国際映画祭公式サイトはコチラ
 
 

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「一番苦労したのは、自然の美しさをそのまま伝えること」沈黙の中、圧倒的な映像美を体感するジョージア映画『泉の少女ナーメ』@TIFF2017
登壇ゲスト:ザザ・ハルヴァシ(監督/脚本)、マリスカ・ディアサミゼ(女優)、スルハン・トゥルマニゼ(プロデューサー)
 
10月25日より開催中の第30回東京国際映画祭でコンペティション部門作品として出品されているジョージア、リトアニア合作の『泉の少女ナーメ』。ジョージアに伝わる神話を基にした静謐な作品は、まさに息を呑む美しさを放ち、オープニングの川の流れが岩にあたって弾けるような水の音から、映画の幻想的な世界に誘われる。この大自然の中、どんな言葉もいらないと思えるほどの映像美と、そこで語られる癒しの泉を守ってきた一家の物語は、これぞ映画だという静かな感動を呼ぶのだ。
 
29日行われたワールドプレミア上映後、ザザ・ハルヴァシ監督、主演ナーメを演じたマリスカ・ディアサミゼさん、スルハン・トゥルマニゼプロデューサーが登壇してのQ&Aが行われた。
 
 
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会場で一緒にワールドプレミア上映を観た後、感動の面持ちでマイクを持ったハルヴァシ監督は、「私の映画をご覧になっていただきありがとうございました。私の映画は楽しめる類の映画ではありませんが、最後まで我慢していただきありがとうございます。ストーリーを静けさの中でお伝えしたかった。私が強調したかったのは、映画の中の細かいニュアンスなので、沈黙の中で集中してもらうことが必要でした。これだけ集中して聞いて下さる観客は滅多にいません」と観客に感謝の意を表しながら、セリフや音楽を極限まで排除した本作の狙いについて明かした。その少ない台詞は聖書によるものだとし、「シンプルな聖書の哲学、つまり“昼であり、夜がある”というシンプルな台詞を使いました」。
ヒロインのナーメを演じたディアサミゼさんは、「東京の映画祭に参加することができ、とても光栄。子どもの頃からの夢が叶いました」と喜びを表現。同じく、トゥルマニゼプロデューサーもプログラミングディレクターに感謝の言葉を添えた。
 
泉を守る家族のファンタジーのような物語である本作。その発想の源には、ジョージアのように黒海沿いに住んでいる人の間で語り継がれてきた神話があったとし、「大昔、水で人々の傷や心を癒す少女がいたが、彼女は普通の人間になりたかった。そこで自発的に自分の力を拒否し、癒す力の根源となる魚を開放し、魚も自然に戻り、少女も人間に戻るという神話をモチーフに、フィクションの部分を加えた」と自然の中で育まれる静かなストーリーの原点を明かした。
 
「スクリプトより映像で意味を伝えるのが好き」と語るハルヴァシ監督。「映画は私にとって映像の芸術であり、言葉の芸術ではありません。今回は映像で伝えるのが少し難しい場面では、『母が亡くなったので、ナーメが癒し手の後を継ぐ』という台詞を父親に語らせ、母親の不在を明らかにしています。また、ロケーションとなった南ジョージアのアジャラ地方は、そこだけがイスラム教とキリスト教が共存する場所なのです。作品中でもナーメの兄たち、イスラム教、キリスト教、無宗教の三兄弟が祖国に乾杯をします。宗教が違うにも関わらず皆がこの国の人間であることを示しています」と映画の中での設定や台詞についての質問に答えた。
 
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台詞がほとんどない中、佇まいや視線、表情、顔の傾きなどで、父の後を継ぎ、泉の水を使って人々を治癒する“癒し手”の跡継ぎをするナーメを演じたディアサミゼさんは、撮影の様子を振り返り、「行動の裏にどんなモチーフがあるか理解しようとしました。理解をした後は、監督と相談し、自分のキャラクターがどういう風に感情を伝えるか、全てのシーンを撮る前に必ず相談した上で演じていました」と、常に監督と議論しながらナーゼ像を作り上げたそうだ。
 
自然の美しさを見事に捉えるための思わぬ苦労にも話が及んだ。霞が多い場所で撮影していたにもかかわらず、撮影時には霞が消えてしまい、首都からスタッフを呼び寄せて人工的な霞を発生させることもあったという。ハルヴァシ監督は続けて「自然の美しさをそのまま伝えるのが一番苦労したところです。ナーメが霞の中で消えていくラストは、自然の霞の中で生まれたシーンで、とても美しく撮れました。現実が詩を作ったといってもいいのではないかと思います」と観客も魅了した名シーンのエピソードを披露。一方、寒さが大変だったというディアサミゼさんも、「自然を見て、自分の肌で感じたので、自然の中で生きているナーメを演じることが、逆に簡単になりました」。最後に、リトアニアの映画センターからの支援が映画作りに大きく貢献したことを付け加えてQ&Aを終了した。
 
 
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台詞や音楽で物語を伝える映画とは対極にあるグルジア=リトアニア合作映画。大自然で起きる様々な出来事の前に、観ている私たちも静かに、いい緊張感を持ちながら、映画の力を堪能できる必見作だ。(江口由美)
 

<作品情報>
『泉の少女ナーメ』(2017年 91分 ジョージア/リトアニア)
監督:ザザ・ハルヴァシ
出演:マリスカ・ディアサミゼ、アレコ・アバシゼ、エドナル・ボルクヴァゼ、ラマズ・ボルクヴァゼ、ロイン・スルマニゼ
 
第30回東京国際映画祭は11月3日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
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「世界を思いやる見方を持っている」エドモンド・ヨウ監督が描くロヒンギャ移民とマレーシア人との未来『アケラット-ロヒンギャの祈り』(マレーシア)@TIFF2017
登壇者:エドモンド・ヨウ(監督/脚本)、ダフネ・ロー(女優)
 
10月25日より開催中の第30回東京国際映画祭で、コンペティション部門作品のコンエドモンド・ヨウ監督(タイ)最新作『アケラット-ロヒンギャの祈り』がワールドプレミア上映された。迫害され、マレーシアに希望を見い出して渡るロヒンギャ移民に訪れる苦難と、マレーシアから脱出するお金を稼ぐためロヒンギャ移民の人身売買に手を染めてしまうヒロインを対比させながら、困難な現実を詩情豊かに描き、ささやかに未来への希望の灯をともしている。エドモンド・ヨウ監督は、行定勲監督『鳩 Pigeon』(『アジア三面鏡2016:リフレクション』の1編)のメイキング撮影から故ヤスミン・アハマド監督の記憶をたどるドキュメンタリー映画『ヤスミンさん』もCROSSCUT ASIA部門に出品されており、マレーシアの今だけでなく、マレーシアが日本を含むアジアとどんな繋がりを見せているかを、改めて映画で示してくれている。TIFF2015『破裂するドリアンの河の記憶』に続いてのコンペティション部門出品作は、社会問題に根差しながら、マレーシアの文化面での多様性をも感じる仕上がりになっている。
 
 
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ワールドプレミア上映の後に行われたQ&Aでは、エドモンド・ヨウ監督と、主演のダフネ・ローさんが登壇。ロヒンギャ移民のことを映画化した理由について、エドモンド・ヨウ監督は、「2年前北マレーシアで、200人以上のロヒンギャ移民の死体が埋められていたことが見つかり、人身売買していたマレーシア人によるものであることが明らかになりました。マレーシアによりよい生活を求めてきた人たちに、色々なことが起こったという事実があります。マレーシアはここ数十年でインドネシア、カンボジア、ミヤンマーなど多くの移民が来ていますが、日頃私たちは彼らにどういうことがあったのか意識していませんでした。でも、このニュースを見て、子どもから女性たちまで色々な人が巻き込まれていることがわかり、また同時に誰がこんなことをしているのか探ってみたいと思ったのです」とその理由を明かしました。また、「マレーシアに来たいと思っている人だけでなく、マレーシアから出たい人もいる。その両者は並行しているかもしれないと思い、この物語を書きました」と、ヒロインが台湾に出ようとしている設定に活かした理由を語りました。
 
『破裂するドリアンの河の記憶』に続いてのヨウ監督作出演となるダフネ・ローさんは、そんなヨウ監督の脚本を読み、「さすが、エドモンド・ヨウ監督だと思いました。彼には世界を思いやる見方を持っています。それを作品で伝えるにあたり、(私が)媒体になれることを嬉しく思いました」と、新作に取り組んだ時の気持ちを明かした。
 
家庭の中でも、広東語、英語と多言語、多文化だというヨウ監督。本作でもマレー語を始め、広東語、タイ語と様々な言葉が語られているところが、マレーシアの特徴を表しているが、「(舞台となっている)タイとの国境はマレー語ですが、首都とは違うアクセントであったり、北京語を話していてもタイ語が混じっていたりと、全く違う国に来たようで、とてもユニークなものを感じました」と、撮影時の印象を語りました。また幻想的な物語の詩情を掻き立てる人形劇のシーンは、「人形劇も実在の最後のマスターに出演していただき、永い間忘れ去られていた、死にゆく芸術でした。この映画でその、“忘れられしもの”をまた描くことができればと思ったのです」と、土地の伝統芸能を映画で映しとっていたことを語った。
 
 
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自身の映画作りについて「脚本には細かい台詞はなく、その場で即興的にコラボレーションをしています。本当にクリエイティブな協力体制にしています」と語ったヨウ監督。ダフネさん演じるヒロインが、お金のために人身売買をしなければならない役としてどう感じたいかと尋ね、「木をナイフで切り刻む」という行為で表現したシーンがある。ヒロインの怒りがストレートに伝わるシーンについて、ダフネさんは「自分に仕事をやらせているボスだと思って切りつけていました。自分は人身売買をしたくないけれど、そういうことになってしまったという怒り。イヤだと言いながら振り返った時にみつけた人質を追いかけなければいけないという対比が、あのシーンにあったのです」と、自分自身の葛藤も込めたシーンであることを明かした。
 
ロヒンギャ語で“来世”という意味の“アケラット”をタイトルにしたヨウ監督。 台詞を減らし、内に秘めた演技で表現した主人公、フイリンが人身売買に手を染めながらも、現実から逃げ出す先に“来るべき世”はあるのか?そして、ロビンギャ移民がマレーシアで、来世として次のものを見い出すことができるのか。詩のような世界観を持つ本作に込められた思いは、とても深く、そして不条理な現実をしっかり見つめ、その未来を探っている。
(江口由美)

 
『アケラット-ロヒンギャの祈り』
(2017年 マレーシア 1時間33分)
監督:コンデート・ジャトゥランラッサミー
出演:トーニー・ラークケーン、ワラントーン・パオニン、ティシャー・ウォンティプカノン
 
第30回東京国際映画祭は11月3日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
 
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