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野原位監督、撮影中も主演・共同脚本の川村りらと脚本直しに奮闘、「最後まで粘れた」『三度目の、正直』@第34回東京国際映画祭

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 現在日比谷・有楽町・銀座地区で開催中の第34回東京国際映画祭で、コンペティション部門作品の『三度目の、正直』が世界初上映された。角川シネマ有楽町で上映後に行われたQ&Aでは野原位監督、共同脚本、出演の川村りら、出演の小林勝行が登壇した。
 
 『ハッピーアワー』『スパイの妻』と、濱口監督との共同脚本を手がけてきた野原監督は、劇場デビュー作の世界初上映を前に「とても緊張していた」と、ホッとした表情を見せれば、『ハッピーアワー』主演俳優の一人で、今回は共同脚本も担当した川村りらは、
「神戸の小さな街で、仲間と一緒に作った映画を上映していただけて本当に光栄です」と喜びを表現し、川村演じる春の弟でラッパーの毅役、小林勝行は、
「本当にありがとうございます。充実しています」と感無量の様子。
 

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 まず脚本の準備について聞かれると野原監督は、撮影の直前でも脚本が未完成だったことを明かし、
「撮りながら、脚本を直しながらだったし、(共同脚本の)川村さんは演じながらの執筆だったので、とても大変だったと思いますが、最後まで粘れたと思います」と川村の奮闘をねぎらった。
寝る暇がなかったという川村は、
「演じている時間以外を打ち合わせとシナリオの改稿に費やし、物理的に大変でした。演じることにどれぐらい影響しているのかはまだわからないですが、もう少し時間が経てばそれがどんな作業だったのかがわかると思います」と撮影時のことを振り返った。
もともとは別企画で脚本をメインに担当する予定だったが、結果的に予想外の分量を演じることになったという川村。東京から駆けつけたキャストやスタッフと合宿状態での撮影だったため、撮影準備や撮影中もお互い空いている時間に脚本を渡して直しを入れてもらい、改稿作業をしていたという。
 
 
 

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 本作で感じる「演技らしい演技ではない」ところから演出について話が及ぶと、野原監督は、
「この映画は『ハッピーアワー』に出演していたキャストが多いので、僕の感覚としては彼らにある基礎体力に寄せていく形になりました。現場で動きはつけますが、こう言ってくださいとはいわなかった。キャストたちが『ハッピーアワー』出演を経験した中で、お互いに言葉で言わなくても分かり合える部分が多かったのだと思います」と、『ハッピーアワー』を通じてできあがった信頼と経験値について言及。
 
 
 

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 一方、『ハッピーアワー』出演組の中で、異彩を放つ小林勝行は、自身のセカンドアルバムのメイキングから端を発した記録映画『寛解の連続』(光永惇監督)に続いての映画出演。野原監督が同作に出演したことが縁で、今回のオファーにつながったという。
現場でも空気を変える存在だったという小林。川村は先に小林がクランクアップしたことで「カッツンロスになった」と告白。一方、野原監督は、
「毅が歌ったラップの歌詞を、妻の美香子が書き起こしをするシーンで、(クランクイン前の)本読みの時は今とは全然違う感じで、メロディーのあるようなものをやられていたのですが、本番では一語、一語のものが出てきた。本番ではリズムがあったので、その場で感じたことを元に演じてくださったし、それが正解なのだと、その時小林さんに教わった気がします」と小林の演技に逆に気付かされたエピソードを語った。
純度100%の神戸映画は、街の様子も俳優たちの佇まいも、そして彼らが抱える悩みも『ハッピーアワー』からの時の流れをじわりと感じさせる。諦めたくない「我が子」への想いやそこから派生する家族関係の歪み。その不確かさをぶち壊すように存在する生命力のある歌声。日常の中に潜む狂気が見え隠れするような、一筋縄ではいかないヒューマンドラマ。ぜひ公開を楽しみにしてほしい。
 
『三度目の、正直』は、2022年1月下旬、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
(江口由美)
 

 
第34回東京国際映画祭は、11月8日(日)まで日比谷・有楽町・銀座地区ほかで開催中
公式サイト:www.tiffcom.jp