映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2016年6月アーカイブ

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~様々な“人生”が彩るフランス映画の神髄~

 

新作12本の内『愛と死の谷』以外の11本は既に配給が付いており、今夏から来春にかけて公開が決定している。すべてフランスらしい独特な映像表現や人生そのものを描いた深いテーマの作品が多く、新人のオーディションに6か月も掛けたり緻密な脚本に拘ったりと、強い創作意図が感じられる作品ばかり。テレビ局や俳優プロダクション主導のコミックベースの映画ばかり撮っている日本の映画陣は、もっと大人になってほしいものだ。


french2016-finai-550.jpgさて、順位は付けがたいが何度でも観たいと思った作品は、『The Final Lesson(仮題)』(秋)、『奇跡の教室』(8/13)、『太陽のめざめ』(8月)、『アスファルト』(9月)。尊厳ある最期を迎える自由をテーマに、理解し寄り添う愛のカタチを示した感動作『The Final Lesson(仮題)』。重くなりがちなテーマを、笑いの絶えない軽やかな会話を中心に、柔らかな光に包まれた映像で描いた秀作。


french2016-6-27-kisekino-550.jpg子供の可能性を信じ、忍耐強く見守り指導していくことの尊さを教えてくれた『奇跡の教室』と『太陽のめざめ』。実話を基にした『奇跡の教室』は、移民の多い混沌とした教室の生徒たちに、ナチスのユダヤ人虐殺という歴史に向き合わせることで、真実を知ることの重要性と生きていることの幸せを実感させる感動作。

 


french2016-taiyouno-550.jpg一方、『太陽のめざめ』は、不良少年の更生を通して、だらしない母親や長年忍耐強く指導してきた判事や指導員などの周囲の大人たちの在り様を描いている。カトリーヌ・ドヌーヴやブノワ・マジメルというベテラン演技派に拮抗していたのが、少年役に大抜擢されたロッド・パラドだ。建具師の訓練を受けていた時にスカウトされた17歳の新人(今年20歳)が放つ鋭い眼光の変化は、少年の更生を繊細に物語る。『モン・ロワ』で主演し、昨年のカンヌ国際映画祭でルーニー・マーラーと共に主演女優賞に輝いたエマニュエル・ベルコによる、緻密な脚本と演出が光る感動作。


french2016-6-25-asfalt-550.jpg孤独な心の隙間を埋める真心がもたらす奇跡のような愛情物語を3つのエピソードで綴った『アスファルト』。パリ近郊の古い団地に住む孤独な3人に、イザベル・ユペールやヴァレリア・ブルーニ・テデスキにマイケル・ピットという豪華俳優が、それぞれ“落ちる”をキーワードに絡んでいく。飄々とした単調な流れの中に熱い感情がこみ上げてくる、人間讃歌の物語。個人的には一番好きな作品。


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巨匠クロード・ルルーシュとフランシス・レイによる現代版“男と女”の『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』(9月)。サンクチュアリーな風情のインドを舞台に、大使夫人と自己愛の強い音楽家とのラブストーリー。悠久のガンジスの流れや雑踏のシーンでもルルーシュ監督らしい流麗さが際立つ。エンディングがまたシャレてていい。


同じく、男と女のままならぬ人生を描いた『モン・ロワ』(来春)は、『太陽のめざめ』を監督したエマニュエル・ベルコがヴァンサン・カッセル相手に熱演。時には、過ぎ去った日々を振り返るリハビリの期間が、人生には必要なのかもと思わせる映画。


french2016-aitosino-550.jpg家族の秘密と再生を描いた①『めぐりあう日』(8月)と②『ミモザの島に消えた母』(7/23)、『愛と死の谷』。①と②は母親の不在に心を開放できず他者を愛せないアダルトチルドレンが主人公。大人の都合で封印された過去により子供は深く傷つき、さらに成長後にも影響を及ぼす悲しみが滲む。イザベル・ユペールとジェラール・ドパルデューが14年ぶりの共演となった『愛と悲しみの谷』は、気温50℃という酷暑のデスバレーで撮影された逸品。自殺した息子が引き合わせた元夫婦の再生を描いている。


サーカスの見世物から芸術家として生きようとした初の黒人道化師の人生を描いた実話『ショコラ(仮題)』(来春)。実際に起きたボンベイ同時多発テロ事件に遭遇した少女の恐怖の生還と、その後の心境を静かに描いた『パレス・ダウン』(7月)。そして、無表情な女性たちと少年たちしかいない島での驚愕の秘密を描いたスリラー『エヴォリューション(仮題)』(11月)。フランス映画らしい映像で物語る多彩なラインナップは今年も健在だった。


(河田 真喜子)

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『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール監督トークショー
 
貧困層が暮らすパリ郊外の高校の問題児クラスが、ベテラン歴史教師に導かれ「アウシュビッツ」という難しいテーマの歴史コンクールに参加し、生まれ変わる様を実話を基に描いた『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』。8月6日からの劇場公開を前に、6月27日フランス映画祭2016で上映が行われ、上映後はマリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール監督によるトークショーが行われた。日本の観客の皆さんがどう観て下さるのか、感想を聞くのを楽しみにしていたというシャール監督。高校三年生だったアハメッド・ドゥラメさん(本作でもマリック役で出演)が監督に送った自らの体験による脚本が全ての始まりだったという本作のメイキング秘話や、アウシュビッツの生存者として歴史を継承する語りを行っているレオン・ジゲルさんが作品に参加したことにより生徒たちに与えた影響など、たっぷり語ってくださった。その模様をご紹介したい。
 

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―――事実を基にした物語ですが、この題材とどうやって出会い、映画化に至ったですか?
マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール監督(以降、シャール監督):前作で『はじめてのとき“MA PREMIERE FOIS”』という映画を撮りましたが、そこでも若い男の子が出演しています。今回マリック役で出演もしているアハメッド・ドゥラメさんが高校生の時、私の映画を観てくれました。彼は当時高校三年生で映画が大好きでしたが、この映画の題材となっているプレテイユという街に住んでおり、あまり映画文化に触れられない中、自分の中でその思いを高めていたのです。彼は映画の世界に入りたいと思い、実際にシナリオを書いていました。プロに見てもらいアドバイスが欲しいと、インターネットで調べた色々な監督にメールを出したのです。私にも「脚本を読んでほしい」とメールが届いたので、了承し読んでみました。映画で取り上げたのではないコンクールでしたが、それをきっかけに学生がポジティブに生きているという内容でした。そこで、なぜこの脚本を書いたのか会って話を聞いてみたいと思ったのです。アハメッドさんは「抵抗と習慣」に関するコンクールに出たことで、自分の人生が変わったと話してくれました。これは面白いと思い、一緒にシナリオを書くことになったのです。
 

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―――出演者のアンサンブルが素晴らしかったです。主な出演者はどのように選ばれたのですか?
シャール監督:オーディションを2種類行いました。プロの俳優用と、現場に行き学校で声を掛けるという方法のオーディションです。舞台となっている郊外のクレデイユで探しました。結果的に出演者の半分は少し経験のある若い俳優で、半分は高校生です。夏休み中に映画に出てみたいという人が含まれています。オーディションでは全員に会い、特に個々のパーソナリティーをしっかり見ました。シナリオを書いている時は、今の高校2年生を取材したのですが、それと同じ多様性のあるクラス、今の高校と同じようなクラスという形にしたかったので、それぞれのキャラクターが非常に有用でした。
 
 
―――最初にこの映画でアウシュビッツという言葉が字幕に出てきますが、フランス語ではどういう言葉を使っているのでしょうか?
シャール監督:アウシュビッツという言葉はフランス語でもきちんと使っています。今、子どもたちは色々な情報や映画、テレビ番組があるにも関わらず、ショアやアウシュビッツが本当に何なのかよく分からないのです。このコンクール(レジスタンスと強制収容についての全国コンクール)は防衛省が主催しており、毎年5万人の生徒が参加しています。若い世代にアウシュビッツを忘れてもらわないためのものです。
 
 
―――ゲゲン先生役のアリアンヌ・アスカリッドが素晴らしいですが、キャスティングの経緯は?
シャール監督:はじめからアリアンヌ・アスカリッド考えていたわけではありません。アスカリッドさんはロベール・ゲディギャン監督作品ばかりに出ており、私の作品には出てくれないだろうと思っていましたが、たまたま会い、シナリオを読んでもらうことができました。アハメッドと脚本を書いている時、実際にコンクールを指導していた先生に会い、アスカリッドさんと重なる部分がすごくあったのです。人間性豊かで、教師として皆をまとめて管理する一方、色々なことを伝えていかなくてはいけない。本物の先生はそういう立派さをもっており、それとつながる部分がアスカリッドさんにはありました。またお父様がレジスタンスで活動されていたとお聞きしたので、是非ゲゲン先生役をやっていただきたいと思ったのです。
 
 
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―――荒れていた生徒たちが真剣に取り組むようになったのは、先生のすばらしさであり、理性的な判断と学生たちの気持ちを理解する姿勢でした。特に、情緒的な人間関係の大切さを知るという意味で、ショアの生き残りの人たちの話、記念館を見ることに監督の力点があったのでしょうか?
シャール監督:今回、脚本だけでなく本作に出演したアハメッドは両親がマリ出身です。今まではフランスの学校で歴史を知っても、自分の歴史と思えなかったけれど、このコンクールを通して歴史を感じられるようになったと話してくれました。それはアハメッドだけでなく、他の生徒も感じていることです。レオン・ジゲルさんは元々高校で自分の体験を語ってくれていましたが、映画にも出演してほしいとお願いし、当時クラスで聞いたのと同じ話をしてもらいました。それによって、生徒たちが歴史を自分のものと感じることができるようになったのだと思います。
 
アハメッドはまた、コンクールに参加することにより、教室の他の人にも目を向けることができるようになったと言っていました。皆で同じプロジェクトに取り組むことで、周りと話し合い、理解をするようになるのが先生の狙いでした。レオンさんが話をすることで、歴史が本でもドキュメンタリーでもなく人間になったのです。彼は、「私があなたたちの年の頃こんなのだった。生きるとはどういうことか、仲間を大事に知るとはどういうことか。ありふれた人種差別をやめるように。肌の色や宗教で差別することをやめよう」と語ります。その話を聞いた全ての生徒が、歴史を理解することができるようになったのです。
 
 
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―――アハメッドさんとの共同作業や、彼が学んだこと、監督自身が刺激されたことは?
シャール監督:まず、アハメッドをよく知ることから始めました。文化も宗教も皮膚の色も性別、年齢も違いますから。この物語はとても面白いと思ったので、彼が体験したことをそのまま映画にしたいと思い、彼の自宅で何時間も過ごしましたし、彼が何を好きなのか、映画はどういうものを見るのか、質問、観察をし、協力し合いました。私が一つのシーンを思いついて書いたら、彼にアドバイスを求め、今の高校生がそのような言い方をするかどうかチェックしてもらい、ピンポンのようなやり取りをし続けました。アハメッドは俳優希望だったので、大学入学資格試験(バカロレア)で合格したら出演させてあげるという条件をつけました。受かるかどうかドキドキしましたが、無事合格できてよかったです。
 
 

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―――アドリブの部分をどれぐらい入れたのでしょうか?またこの映画を作るのに、どれぐらいの時間をかけたのでしょうか?
シャール監督:オーディションに6カ月、準備に8週間、撮影に8週間かけました。生徒たちが自発的に話し、イキイキした場面が重要でしたので、全くリハーサルをしなかったシーンもありました。ゲゲン先生が「コンクールに参加しましょう」と言ったときに学生たちが矢継ぎ早に質問をし、冗談を交えるシーンは、完全なアドリブです。重いテーマですが、その中にもユーモアがある彼らの様子を、検閲のようにチェックはせず、使っています。また、カメラは常に3台用意し、自発的に出てきたものを捉えるようにしています。レオン・ジゲルさん(アウシュビッツの生存者)の語りのシーンは完全に本当の講演でした。4台のカメラで1回撮りをし、高校生たちの生の反応を捉えたのです。
(写真:河田真喜子 文:江口由美)
 

<作品情報>
『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』“Les Héritiers”
(2014 フランス 1時間45分)
監督:マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール
出演:アリアンヌ・アスカリッド、アハメッド・ドゥラメ、ノエミ・メルラン、ジュヌヴィエーヴ・ムニシュ、ステファン・バック
2016年8月6日(土)~ヒューマントラストシネマ有楽町、角川シネマ新宿、8月13日(土)~テアトル梅田、今秋~京都シネマ、元町映画館他全国順次公開
公式サイト⇒http://kisekinokyoshitsu.jp/
(C) 2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINEMA - ORANGE STUDIO
 
フランス映画祭2016(東京会場)は、6月24日(金)~27日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇にて開催。以降、大阪、京都、福岡会場にて順次開催
 
 

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『めぐりあう日』ウニー・ルコント監督トーク@フランス映画祭2016
 
長編デビュー作『冬の小鳥』で孤児となった9歳の少女の“旅立ち”を繊細なタッチで描いたウニー・ルコント監督。その最新作『めぐりあう日』では、フランスの港街ダンケルクを舞台に、生みの親を知らずに育った主人公エリザと実母アネットが運命の糸に手繰り寄せられる物語を、詩情豊かに描いている。二人の接点となるエリザの息子、ノエの存在や、理学療法士として働くエリザのもと患者として訪れたアネットに施術を施す際の親子のスキンシップを思わせるゆったりとした描写など、手掛かりや象徴的なことがらを忍ばせながら、豊かな映像が観る者を包み込む。親を知ること、親になること、そして親と触れ合うことの意味を静かに語りかける秀作だ。
 
本作の上映後、ウニー・ルコント監督が登壇し、作品の設定や音楽について語ってくれた。その模様をご紹介したい。
 
 
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―――どのようなところからストーリーが生まれたのでしょうか。
ルコント監督:元々この映画を作ろうと思ったのは、実母と捨てられた娘が再会したときどうするかという発想から生まれました。前作『冬の小鳥』の30年後を想定し、(子どもを)捨てた側と捨てられた側がどうなるのかを描きたかったのです。再会とはいっても、お互い母と娘と知らずに再会させることで、ドラマチックな部分が加えられます。お互い認知しあう映画にしたいと思い、実の母には巡り合ったものの、彼女は子どもを産んだことを否定しているところから始めました。脚本はアニエス・ドゥ・サシ―さんと一緒に仕上げましたが、どういう枠組みで再会させるのかを話し合いました。最初アネットがエルザを施術するとき、腕の中に抱くシーンは、私自身が接骨院の患者として施術されて体験したことです。実際に、体も心も穏やかになれたので、この設定を使いたいと思いました。
 
―――ヒロインを理学療法士という職業に設定した理由は?
ルコント監督:実際に私が施術してもらったのは接骨院ですが、(フランスでは)あまりポピュラーではないので、アネットのような人物はむしろ理学療法士にかかるのではと思い、設定を変えました。このように職業を設定し、後になって様々な意味が生まれてくることが分かりました。主人公のエリザは乳児で捨てられてしまったので言語を話す前に捨てられたショックを味わっており、実母以外の様々な人を介して今がある。大人になってからトラウマのようになっていますが、職業で人と肌を触れ合っているのです。患者を施術しながらも、自分自身のトラウマを癒している意味合いが含まれると思いました。
また、個室で施術するという特殊な職業なので、親密な場で母が娘の前に体をさらけだし、母が本来なら子どもを抱えたように、この職業のおかげで娘が母を抱いて施術をするのが面白いと思いました。もう一つ理学療法士という設定にして含ませることができたのは、母の裸体を施術するときに、子どもが母のお腹の中にいた記憶で何かが分かるのではないかというサスペンス的な意味合いも持たせました。それぞれの体の記憶が呼び覚まされるようなハラハラする部分を感じられるかと思います。
 
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―――主演のセリーヌ・サレットさんが素晴らしいですが、彼女を起用した経緯は?
ルコント監督:セリーヌ・サレットさんはフランスでは有名で、今、非常に力を発揮されています。起用の理由としては、ビジュアル的なインパクトが一番大きいです。いくつかの作品を拝見し、スクリーンでの存在感を考えてエリザは最初から彼女と決め、脚本を送りました。カメラテストもなく私からオファーしたのです。今まであまり演じたことのないような抑え気味で控えめだが存在感が光る、アジア的な演技をしてくれたと思います。
 
―――何度も繰り返されるピアノの音色が印象的でした。どういう意図で音楽を作ったのでしょうか?
ルコント監督:シナリオを書いている時から、音楽は絶対必要である一方、BGMではなく重要な役割を持たせたいと考えていました。イブラヒム・マーロフさんの「ベイルート」という音楽が素晴らしく、彼は映画的に映える音楽を作る人だと思いました。作品の登場する人物は、それぞれ人に言えないことを抱え、沈黙の中生きている人が多いので、その内面を表現し、登場人物に寄り添う音楽を使いました。イブラヒムさんとこの映画の音楽を作るにあたり、オーガニックミュージックを念頭に置きました。ダンケルクが舞台なので、海や赤レンガなどのイメージや、エレクトロニックの要素も加えましたし、設定や映像のことを話しながらディスカッションを重ねました。音楽はキーとなる役割で、血液のように不可欠なものです。1度目の編集が終わった時点でスタジオに持っていき、映像を見ながらピアノで作曲をしてくれました。ある程度構想はしていたようですが、しっかりと掘り下げて作ってくれたのです。
 
 
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―――ダンケルクは第二次世界大戦後半の戦場となった場所ですが、この場所を舞台にした理由は?
ルコント監督:この映画を撮影するまで、私自身はダンケルクを知りませんでした。第二次世界大戦で破壊された後、再建された街です。以降も衰退と再建を続けてきたところが気に入りました。また海があるのも景色的に必要で、人のいない浜辺や広い空が心象風景として効果的だと思い選びました。映画でナレーションはしていませんが、80年代に産業が栄えた後オイルショックで衰退し、移民労働者が増えたりという部分も社会的背景として感じてもらうのに効果的な街です。
 
―――原題は“Je vous souhaite d'être follement aimée”と長いですが、このタイトルが意図したことは何ですか?
ルコント監督:原題のタイトルは「狂おしいほどあなたが愛されることを私は祈っている」という長いものですが、これはアンドレ・ブルトンの『狂気の愛』に出てくる父が娘にあてた手紙に出てくる最後の文章を抜粋し、ポエトリーリーディングとして登場させています。このタイトルや劇中のポエトリーリーディングはメッセージという意図はありません。エリザの父がエリザに語っているという訳でもありません。これは映画自体が発する言葉と捉えています。最後にエリザの人生に寄り添い、新しく問いかける特殊な存在なのです。
(写真:河田真喜子 文:江口由美)
 

<作品情報>
『めぐりあう日』“Je vous souhaite d'être follement aimée”
(2015 フランス 1時間44分)
<監督>ウニー・ルコント
<出演>セリーヌ・サレット、アンヌ・ブノワ、ルイ=ド・ドゥ・ランクザン、フランソワーズ・ルブラン、エリエス・アギス
2016年7月30日(土)~岩波ホールほか全国順次公開
©2015 – GLORIA FILMS – PICTANOVO
 
フランス映画祭2016は、6月24日(金)~27日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場)にて開催!
 

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塚本晋也監督も絶賛!厳格な映画づくりから生まれる映像美『エヴォリューション』 ルシール・アザリロヴィック監督×塚本晋也監督トーク@フランス映画祭2016 マスタークラス
 
フランス映画祭2016で27日に最新作『エヴォリューション』が上映されるルシール・アザリロヴィック監督。マスタークラス第2弾として26日アンスティチュ・フランセ東京にて、04年にサン・セバスチャン国際映画祭で最優秀新人監督賞を受賞した『エコール』が上映され、アザリロヴィック監督と親交の深い塚本晋也監督(『鉄男』『野火』)を招いてのトークショーが行われた。
 
塚本監督との出会いは、現在パートナーのギャスパー・ノエ監督と訪れたアヴォリアッツ国際ファンタスティック映画祭(フランス)だったというアザリロヴィック監督。その時の様子を「『鉄男』を初めて見て、絶対に会いに行かなくてはと思い迫って行ったので、塚本監督は怖かったと思う。当時はまだ英語を話せなかったけれど、心はつながった」と語ると、塚本監督も、「映画祭で最初に会ってから、こんなに長く(付き合いが)続くのはびっくり。ギャスパー・ノエの隣にいたのがルシール。『ミミ』の前作の短編も見せてもらい、すごく暗い作品だが「ダークビューティフル」というと喜んでくれた」と当時の思い出を語った。
 
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塚本監督作品については「新しいものを発明する実験的作品で、楽しさも感動も呼び、とても自由に作っている」と評したアザリロヴィック監督は、更に「監督も、俳優も、ライトも編集も制作もやってしまうオーケストラマン。『野火』は配給までやっているなんて信じられない」とその多彩さを絶賛。また『野火』についても、「戦争を語っていながら、メンタルや精神的なもの、現代的なものも含まれており、とても好き」と感想を語った。
 
一方、アザリロヴィック監督の『エコール』について、「ルシールがそのまま映画になったような感じ」と表現した塚本監督は、「ほとんど幼女のような少女の物語を俯瞰ではなく、ルシールがそこにいてそのまま撮っているように見える。少女たちに色々な年齢の層が垣間見え、この雰囲気は何なんだろうと思って観ていく。特殊な空間にあるように見えるが、少女が大人になっていく姿をシンボライズするとこうなるのかと思った」。森の中、少女だけの寄宿舎を舞台にした物語である『エコール』を「少女の視線で捉えた世界を見せたかった」としたアザリロヴィック監督は、「かなり自伝的な部分を含めた映画。10代の観客は自分たちが生きている世界と捉えてくれた一方、大人の観客からは変な世界と言われ、感想が分かれたのは面白かった」と映画の反応も含めた狙いを語った。
 

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また塚本監督は、「僕はもっと頑張らなければと励まされる」とアザリロヴィック監督の映画作りの厳格さを絶賛し、そのモチベーションを保つ秘訣を思わず質問。それに対し、アザリロヴィック監督は、「映画作りは自分を守り導くため、自分なりのルールを作っている。ストーリーボードを作らない。なるべく固定で長回しで撮るなど、自分に禁止事項を課し、そぎ落として映画作りをしている。照明のプロジェクターや、音響効果も使わないので映画自体もミニマリストの作品ができる」と持論を展開した。
 
『エコール』はスーパー16で撮影し、「私にとっては映画=フィルム。その方がイキイキし、カメラワークが流れるようになる。特にメンタルな世界なので、抽象的な世界にはスーパー16の方が感じをだせる」と作品世界を表現するためフィルムを選択したというアザリロヴィック監督。『エヴォリューション(仮)』はデジタルで撮影しているが、塚本監督曰く「最初の海の映像があまりにもきれいなので、35ミリで撮ったのかと思った」と絶賛するほどの出来栄え。「撮影監督は素材感があり、有機的な映像を作りたいと考えており、カナリア諸島で撮影した。水中のシーンはいつもドキュメンタリーで鮮明な映像を撮っている水中専門カメラマンだったので、今回は汚い感じにとお願いした。わざわざ海底の砂をかき上げて撮影している。魚を撮らないでとお願いしたので、変に思われていたかも」と独特の風合いを出すためのエピソードを披露し、会場の笑いを誘った。
 

fff2016master3.jpgフィルムからデジタルに移行することで編集の仕方も変わったという塚本監督は、「編集している間に傷が入ってがっかりすることもあった。書道のような気分で一発勝負だった」と8ミリ時代の編集の苦労を身振り手振りで披露すると、アザリロヴィック監督は「フィルムの編集は物理的に流れが感じられるが、デジタルに変わったときの編集が難しかった。前はよく考えてからカットしていたが、今はまずカットしてから考える」とフィルムとデジタルの違いを編集面から改めて語った。

 
フィルムであろうが、デジタルであろうが、映像美が圧倒的な力を持って、観客に伝えられることがある。時代を越えて様々な方法を模索しながら、強烈な個性を放ち続けるルシール・アザリロヴィック監督×塚本晋也監督トークに、最後は観客から大きな拍手が送られた。
 
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ルシール・アザリロヴィック監督『エヴォリューション(仮)』上映&トークは、27日(月)14:00から。
(江口由美)
 

フランス映画祭2016は、6月24日(金)~27日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場)にて開催!
 

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『The Final Lesson(仮題)』パスカル・プザドゥー監督、主演マルト・ヴィラロンガトーク@フランス映画祭2016
 
家族に92歳の誕生日を祝われた主人公が、その場で宣言したのは2か月後に「死ぬ」ことだった…。助産婦として、人生の様々な局面で自由を求めて闘ってきたマデリーンが自分らしく死ぬ「尊厳死」を求めて人生最後の闘いに挑む様子を、娘や息子、孫たちの葛藤と共に描いたヒューマンドラマ『The Final Lesson(仮題)』。マデリーン役を演じたマルト・ヴィラロンガの老いることに抗えない自分を受け入れながらも、自分らしさがあるうちに死にたいと強く願う姿や、娘のディアーヌを演じたサンドリーヌ・ボネールの母の最期の願いを叶えるかどうかで葛藤する姿など、どちらの立場からも観る者が感情を重ねることができる。肉親たち以外にも、マデリーンの身の回りの世話をしているアフリカ系黒人のヴィクトリアが、マデリーンの意思を尊重し、アフリカの風習を引き合いにだしながら死について語る場面も興味深い。「自分の死に方は自分で決める」を貫くマデリーンの姿は、老婆が主演の物語とは思えないぐらい力強く、そして人生の終わり方がいかに大事なものかを教えてくれるのだ。
 
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本作の上映後、パスカル・プザドゥー監督、主演マルト・ヴィラロンガさんが登壇し、原作(実話)部分に加えた映画ならではの設定や、「尊厳死」というテーマを映画として見せる工夫について語ってくれた。その模様をご紹介したい。
 

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―――フランスでは有名な実話を元にしていますが、映画化した理由は?
プザドゥー監督:原作を読み、大変美しい物語だと思いました。人生についてのベーシックなことが書かれています。愛する人を失うと後悔しますが、愛する人の選択を受け入れることで、後悔をしない人生を送ってほしいという思いで作りました。
マルト・ヴィラロンガ:この役のオファーが私に来た時はとてもうれしく、絶対他の人に取られたくないと思いました。第一印象はみなぎる力強さを感じました。全ての人に起こる話ですし、身内の人が受け入れるのは難しいけれど、このようなケースもあることをこの映画に参加することで伝えることができ、うれしいです。
 
―――主人公と同年代の祖母がいるので、非常に興味深く拝見しました。重いテーマながら笑える要素を挟み込んだ演出について、お聞かせください。
プザドゥー監督死という重大なテーマですが、それをみなさんに紹介できる形で伝えたいという私の強い意思がありました。そこには軽い要素が必要です。深刻さにも軽さがあり、それがあるからこそ深みも出ます。笑いを誘うことを取り入れることで、あまり深刻にならないようにし、編集時にも非常に気を遣いました。
マルト・ヴィラロンガあまり深刻に考えないように心がけました。できるだけ役柄に溶け込み、脚本を読み込んで、あまり深刻ぶらないようにしました。人生は笑う時もあれば、涙するときもある。そのようなことを忘れないように、考え込み過ぎず、自然に演じることを心がけました。
 

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―――映画ではあえて語られなかったが、マドレーヌとジョルジョ(初恋相手で以来現在まで文通を続けている)の関係はどのように想定したのですか?恋多き女性と描かれていますが。
プザドゥー監督実話を元にしており、それから脚本を書いたのですが、ジョルジュは創作しました。冒頭に死を宣言しているので、途中で観客もダレてしまいます。サスペンスのようなこと、つまりマドレーヌがジョルジュに会いに行くことで、心が動き、もしかしたら自殺できないのではないかと観客に思わせたかったのです。この世を去る前に、友達に会いに行くとよく聞くので、初恋の人に会いに行くという設定にし、象徴的に扱いました(原作では尊厳死決行前に、フランスを一周して友達に会いに行っている)。 
 
 
―――音楽の使い方が印象的でした。病室で使われる『そして今は』や、ラストシーンからエンディングロールにかけてアフリカの歌などを採用した理由は?

 

プザドゥー監督音楽は私にとって一種の魔法です。映画は映像で訴えかけますが、会話や音楽を取り入れることで魔法が生まれます。『そして今は』は素晴らしい詩でびっくりするような内容です。病気のフランス人高齢者がとても素朴に会話をしているところにその曲はぴったりだと思ったのです。ただ使用権を巡って、とても闘いました。というのも、『そして今は』を歌ったジルベール・ベコーの奥様が、作品の内容が悲しすぎると使用許可をなかなか出してくれなかったのです。ただ、出来上がった映画を観た後、「あなたが頑張って一生懸命この曲を使いたいという意味が分かった」と納得してくれました。
 
 
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―――扱いにくいテーマをなめらかに、ついジュースと一緒に飲んでしまったような、素晴らしい作品でした。この映画では老衰を避けたいという西洋的な考え方が背景にあり、東洋の老いて、枯れて、自然に消えていく死についての考え方との違いを感じましたが。
プザドゥー監督ヨーロッパでは死について語ることを避けますが、日本では『楢山節考』のような作品もあり、死を受け入れる文化だと思いました。マルト・ヴィロンガが演じたマドレーヌは闘いの人でした。助産婦として闘い、人生で強く自分の意思を持って生きていました。原作者は、本作のマドレーヌとは違い、身体が痛くて麻痺が始まっていました。寒くて眠れぬ夜が何度も過ごし、自分でできることが少なくなり、死を目前に見ていた訳です。朽ちていく姿を後に残したくない。そんな自分の意思を持って生きていた人でした。
 

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―――親しい人を亡くす際、受け入れる方の立ち位置も難しいですが、娘ディアーヌとは別の意味でマドレーヌを見守る人物として、アフリカ系女性のヴィクトリアを登場させていますが、その意図は?
プザドゥー監督実話では二人の姉がおり、家事の手伝いをほとんどしていたとお聞きしました。映画では、母と娘という関係を描くためにディアーヌを登場させたので、二人目は家事を担当する人物で、より間接的な関係としてヴィクトリアを登場させました。これが面白いというだけでケラケラ笑ったり、アフリカ的価値観を持つ間接的な距離感の登場人物です。彼女の存在は重苦しい中にフレッシュ感を取り入れてくれます。
 
 
―――孫のマックスも祖母のマドレーヌに気遣いを見せますが、彼の感情はどのように演出したのですか?
プザドゥー監督すべての世代を映画に登場させたいと思いました。祖父母、両親、青年、子ども。青春期にいるのがマックスで、フランスでは小さい時によく子どもを祖父母に預けるので、なついているのです。ずっといるものと思っていたのに(死によって)消えてしまうことが感覚的に分からないのです。最初マックスはマドレーヌが死ぬことを反対しますが、次に受け入れ「どうしてわかってあげないの」「自由が大切」と両親に言い放ちます。ところが他の人たちが受け入れ始めた時に拒否に回り、最後にまた受け入れます。大人たちの言うことに反対する思春期の行動をマックスに込めました。若い人にも観てもらいたいですから。
マルト・ヴィラロンガフランスでの上映を観た小さい子が映画館からでるとき「来週おばあちゃんの家に、ご飯食べにいこう」と言ったのを聞き、嬉しく思いました。
 
 

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―――最後に、メッセージをお願いします。
プザドゥー監督今回日本に来ることができ、みなさんに私の映画を観ていただくことができたことに心から感謝を申し上げます。この作品で、死についてポジティブに考えてもらえたらうれしいです。
マルト・ヴィラロンガ皆さまが良かったと思ってくれることが私たちにとって大きな喜びです。難しいテーマですが、私たちが映画を作ったメッセージを皆さんに理解していただき、この作品をきっかけに(死について)話ができればいいと思います。映画では様々な立場で意見を言う人がいます。観ていらっしゃる方も、それぞれの意見で共感しながら観ていただいたのではないでしょうか。そういう形で映画の中に入ってくださること、この映画を作り、日本まで持ってきてみなさんに観ていただいたことを大変うれしく思います。
(写真:河田真喜子 文:江口由美)
 

<作品情報>
『The Final Lesson(仮題)』“La Dernière leçon”
(2015 フランス 1時間46分)
監督:パスカル・プザドゥー
出演:サンドリーヌ・ボネール、マルト・ヴィロンガ
2016年~シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
©Jean-Marie Leroy
©2015 FIDÉLITÉ FILMS - WILD BUNCH - FRANCE 2 CINÉMA - FANTAISIE FILMS
 
フランス映画祭2016は、6月24日(金)~27日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場)にて開催!
 

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『太陽のめざめ』主演ロッド・パラドさんトーク@フランス映画祭2016
 
フランス映画祭2016でオープニング上映された、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の『太陽のめざめ』は、カンヌ国際映画祭でオープニング上映され、同映画祭で女優賞(『モン・ロワ(原題)』)を獲得したエマニュエル・ベルコ監督最新作だ。カトリーヌ・ドヌーヴ演じる判事が10年に渡って辛抱強く更生に力を尽くした少年役に選ばれたのは、本作が初映画出演となる新星ロッド・パラド。度重なるオーディションで手にした主人公の少年マロニーの危うさ、寂しさ、暴力的感情、愛を求める姿を感受性豊かに演じ、本国フランスでも「アラン・ドロンの再来」と大注目を浴びている。
 
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同じような境遇を経て、今は少年たちに寄り添う保護士、ヤン役のブノワ・マジメルと疑似親子のような信頼関係を築いては、ぶち壊し、指導する方もされる方も揺れ動く姿も心動かされる。愛を知らずに育ったマロニーと同年代の少女テスの不器用で乱暴すぎる愛や、自分の事を優先してしまう母に対して、それでも母に会いたいと願う切ない心情など、生々しい感情をスクリーンに焼き付けた作品だ。
 
マロニー役のロッド・パラドさんがゲストとして初来日を果たし、上映後のトークで観客からの質問に応えてくれた。俳優業に身を捧げる覚悟をし、今後の活躍が非常に楽しみな新星の初々しい姿をご紹介したい。
 

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―――東京は初めてだそうですが、感想はいかがですか?
ロッド:初めてヨーロッパの外にやってきました。東京だけでなく日本は素敵な国。パリと比べると温かく、人々も落ち着いていて神経質ではありません。心が温かいです。
 
 
―――強烈なキャラクターを演じていますが、キャリアの一本目でどうやってこの役に出会ったのですか?
ロッド:映画の中でも木を削るシーンがありますが、僕自身当時は職業訓練課程の高校生でした。ある女性から「あなた映画に出る気はない?」と誘われたのです。高校の教室で演技テストをし、その後オーディションが30回近く重ねられました。エマニュエル・ベルコ監督は主演の男の子を選ぶのはとても重要な選択なので、かなり長い時間をかけました。僕が選ばれ、ようやくブノワさんとテストをすることができたときには、すぐに家族のように演じることができました。仕事は一生懸命やりましたし、疲労困憊するまでやってのけました。この結果にはとても満足していますし、そこまでやらなければこのような結果にはならなかったと思います。ブノワの後に、テス役のサラさんとテストをし、それもうまくいって、ようやくあなたに決めるということで、カトリーヌ・ドヌーヴさんとのテストになったのです。彼女と初めて会ったときは、「どう、初めてなんだってね」と声をかけられ、緊張していましたが、年齢を聞かれた後に「あなたは?」と聞くと、ドヌーヴさんも素直に話してくださり、女優というより彼女自身の内面の愛情を感じました。そこは映画の判事と主人公の関係に現れているのではないでしょうか。
 
 
―――感動的な映画を観ることができ、うれしく思います。ロッドさん自身は学校時代どんな生徒でしたか?
ロッド:マロニー役はちょっと複雑な内面ですが、僕自身もルールはあまり得意ではなく、自由が好きですね。学校はどちらかといえば苦手で、活発すぎるぐらいでした。ただ、他人に対するリスペクトがありました。マロニーには欠如感があると思います。生まれつき暴力的ではないと思いますから。
 
 

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―――マロニー役を演じるにあたり、今までの不良少女や不良少年が重要な役割の映画(『大人は判ってくれない』等)を参考にしたのか、もしくは21世紀の新たな不良少年像を演じようと思ったのでしょうか?
ロッド:とりわけ今までの映画や役割を参考にしたということではなく、本当に努力をし、準備をしました。脚本をコーチにつきながら2か月間、徹底的に読み解きました。現場で台詞が入っていないと、自由に演技ができませんから。そうして本当に自分の感情が出るようにしました。あと現場では、エマニュエル・ベルコ監督の言うことを聞けばいい。その演技指導に従えばよかったのです。暴力もどんどん高めていき、最初に一番高めてから、どんどん下げていくことで演技をコントロールしていきました。
 
 
 
 

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―――ブノワ・マジメル演じるヤンが奥さんと別れたという話をしていたとき、「ジュテーム(愛してる)」という言葉をマロニーが初めて口にしますが、演じたロッドさんはどう感じましたか?
ロッド:あのシーンで、保護士役のヤンとマロニーは全幅の信頼で結びついています。難しいタイプの子どもが保護士に全幅の信任を寄せることは世界中でも難しい中、このような状況はとても珍しいことです。マロニーも、最後「いい人間になりたい」と告げますが、世の中にはそう思っていても失墜していく人もいます。映画のマロニーのように僕自身は世界中の問題のある子どもたちが良い方向に向かっていくことを願っています。
 
 

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―――ロッドさん演じるマロニーの眼差しや仕草などは、悪いことをするとより美しく魅力があるアラン・ドロンを彷彿とさせますが、ご自身はアラン・ドロンのようになれると思いますか?
ロッド:そんな風に褒めていただいて、ありがとうございます。僕はアラン・ドロンに会ったことがあります。僕自身は映画が好きなので、今後彼の出演作を見ていきたいと思います。ただ、映画を観るだけでなく、本人に会うことで、そのパーソナリティーが分かりますし、とてもいい人だと思いました。僕自身も彼のようにキャリアを積み重ねていければと思います。
 
 
 

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―――マロニーを演じるにあたって、一番難しかったことは何でしたか?
ロッド:最初一番危惧していたのは、ラブシーンでした。結局ラブシーンそのものが大変なのではなく、暴力的にセックスをすることに抵抗がありました。プライベートでは自分は社交的で優しい男性だと思っていましたから、そのシーンを演じながらレイプをしているのではないかという思いを感じてしまったのです。映画のすべてのシーンの中で一番打ちのめされ立ち直れなかったのは、お腹の大きな職員にけりを入れ、母親役に怒られるシーンでした。
 
付け加えるなら、映画界にデビューして一年半、これからたくさんのことを学ばなければいけないし、俳優という職業に全身全霊を捧げたいと思っています。役柄の後ろに自分が隠れることができる職業であることが気に入っていますし、普通の次元を超越した、感動を与えるものです。みなさん、温かいおもてなしをありがとうございました。新作でまた来年もフランス映画祭に訪れることができれば、今回度忘れして言えなかったアラン・ドロンの出演作についてもお話したいと思います。
 
写真:河田真喜子 文:江口由美

<作品情報>
『太陽のめざめ』(2015 フランス 1時間51分)
<監督>エマニュエル・ベルコ
<出演>カトリーヌ・ドヌーヴ、ロッド・パラド、ブノワ・マジメル、サラ・フォレスティエ
2016年8月~シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
© 2015 LES FILMS DU KIOSQUE - FRANCE 2 CINÉMA - WILD BUNCH - RHÔNE ALPES CINÉMA – PICTANOVO
 
フランス映画祭2016は、6月24日(金)~27日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場)にて開催!
 

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イザベル・ユペール団長を前に浅野忠信、是枝監督、深田監督も感動しきり!フランス映画祭2016、華々しく開催!
 

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今年で第24回を迎えるフランス映画祭2016が24日17時から有楽町朝日ホールで開幕し、オープニングセレモニーでは満席の観客を前に、イザベル・ユペール団長他豪華ゲストに、日本人ゲストも加わり、映画祭に向けての熱いメッセージが多数寄せられた。
 
最初に登壇したユニフランスのイザベル・ジョルダーノ代表は「今年も多種多様な映画を楽しんでいただけると思う。今回は12の新しい作品とジャック・リベットの作品をご紹介します。世界有数のキャリアを持つイザベル・ユペール団長の特別映像をまずはお楽しみください」と挨拶。特別映像で懐かしい出演作の数々を目に焼き付けてから、大きな拍手の中登壇したのは、会場もお待ちかねのフランス映画祭2016団長のイザベル・ユペール(『愛と死の谷』『アスファルト』出演)。
 
 

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深紅のジャケットに、タイトな黒のパンツ姿で登場したイザベル・ユペール団長は、「こんばんは。私とても幸せです」と日本語で挨拶した後、「次はもっと(日本語が)上手になってきます。日本で撮影すれば日本語を学ぶことになるので、ぜひ日本で撮影したいです。フランス人は日本の映画が大好きですから。24回目のフランス映画祭オープニングに来場でき、とても幸せに感じています。日本でこれだけフランス映画が好まれているのは、感受性が高く注意を向けて愛して下さる皆さんのおかげです。私は日本文化がとても好きで、日本を身近に感じています。私は溝口、黒澤、大島、小津の映画を観て育ちました。また、三島由紀夫原作の作品にも出演しています。ジョセフ・ロゼのマスという映画で、京都や富士山の近くで撮影することができた。また、河瀬、是枝監督、深田監督の作品もよく観ています。会場がこんなに埋まっていることは私にとっても、みなさんに撮ってもとてもうれしいことです。良い映画祭となりますように」と日本への関心と愛情あふれるコメントに、客席からも大きな拍手が。引き続き登壇したスペシャルゲスト、是枝裕和監督から熱い抱擁のあと花束を受け取ると、笑顔で客席からの歓声に応えた。
 
 
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是枝監督は「フランス映画祭2016開催、おめでとうございます。この場にこういう形でユペールさんに花束を渡す役を仰せつかり、とても光栄に思っています。一昨年、モロッコのマラケッシュ映画祭で大々的に日本映画の特集があり、僕が団長だったときに、壇上で僕らを迎えてくれたのがユペールさんでした。今回はその反対で、ユペールさんが日本に来て下さったので、僕が駆け付けなければ誰が駆け付ける!という気持ちで来させていただきました。フランス映画史そのもののような女優さんですが、今回上映される『愛と死の谷』はシリアスな元夫婦の話、『アスファルト』はファンタジーとコメディー色があり、どちらも彼女の存在がなければならない映画です。ぜひ皆さんもご覧ください。
 
黒沢清監督がフランスで撮った映画も公開され、映画人の日本とフランスの共同製作は増えていくべきだと考えています。僕もそういう懸け橋、お互いの映画が交流し、刺激し合い、新しい映画がどんどん生まれることを願っています。お互いの国にとって大事な時間になると思いますので、ゲストも楽しめるような素敵な時間をみんなで作っていければ」と、上映作品にも触れながら感動的な挨拶を行い、ユペール団長も感動の面持ちだった。
 
 
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引き続き、来日ゲストが紹介され、フランソワ・ファヴラ監督(『ミモザの島に消えた母』)、ローラン・ラフィット(『ミモザの島に消えた母』主演)、ウニー・ルコント監督(『めぐりあう日』)、ロッド・パラド(『太陽のめざめ』主演)、マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督(『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』)、ルシール・アザリロヴィック監督(『エヴォリューション』)ら、総勢12名の来日ゲストが揃い、檀上は一気に華やかさに包まれた。さらに、カンヌ映画祭ある視点部門審査員賞受賞の『淵に立つ』深田晃司監督と浅野忠信(主演)がスペシャルゲストとして登壇。

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「『淵に立つ』は日本とフランスの合作ですし、フランス映画をずっと観てきましたので、このような場に呼んでいただいたことを非常にうれしく思います。イザベル・ユペールさんは一映画ファンとして高校の時から見続けており、同じ壇上に立てるのは夢のようです。日本人はフランス映画が大好き、フランス人も日本の映画を愛してくれているが、両方がもっと近づけるはず。一つ一つの活動を通じて、よりフランスと日本の結びつきが強くなることを期待しています」(深田)
「イザベル・ユペールさんの大ファンで10年前もお会いしたのですが、今日もうれしくて。何しろイザベルさんに会えますから。是非深田監督に、ぼくとイザベルさんを起用した映画を作ってもらいたい」(浅野)と、憧れのイザベル・ユペール団長を前に個性溢れるスピーチを披露した。
 

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オープニング上映となる『太陽のめざめ』上映前には、同作のエマニュエル・ベルコ監督よりメッセージが読み上げられた。
「私はクロード・ミレール監督の『ニコラ』で日本を訪れましたが、非常に温かい歓待を受けたことを覚えています。日本の観客の皆さんにお会いできる機会を逃したのがとても残念ですが、作品を観て、主人公マロニーを愛してくださることを期待しています。マロニーを演じるロッド・パラドは(本作を日本に紹介する)最高の大使です。皆さまのことを強く思っています」
 
また、フランス本国では新世代のアラン・ドロンとの呼び声も高く、本作の大ヒットでセザール賞有望男優賞、リュミエール賞有望男優賞を受賞したロッド・パラドは「東京にきてこの映画を紹介することができ、とてもラッキーです。よい夕べになってくれたらと思います。東京に来ることが出来、本当にうれしいです」と挨拶した。
 
写真:河田真喜子 文:江口由美
 

フランス映画祭2016は、6月24日(金)~27日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場)にて開催!
 
 
 
 
 
 
 
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豪華ゲストが勢ぞろいするフランス映画祭2016が、東京会場は6月24日(金)から27日(月)までの4日間、有楽町朝日ホールおよびTOHOシネマズ 日劇で開催される。
今年の団長は、10年ぶりの来日となるイザベル・ユペール。ジェラール・ドパルデューと久々の共演で元夫婦役を演じる『愛と死の谷』、郊外の団地を舞台にした出会いと奇跡の物語『アスファルト』の2本に出演、上映後のトークや、舞台挨拶が予定されている。
 
クラッシック1本を含む13本が上映されるフランス映画祭2016のオープニングセレモニーでは、上映作品の監督、俳優ゲストに加え、スペシャルゲストとして、今年5月のカンヌ国際映画祭<ある視点>部門に最新作『海よりもまだ深く』が正式出品された是枝裕和監督、さらに最新作『淵に立つ』が、見事今年のカンヌ国際映画祭<ある視点部門>の審査員賞に輝いた深田晃司監督、主演の浅野忠信も登壇予定だ。
 
 
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オープニングセレモニー後上映されるのは、カトリーヌ・ドヌーヴが厳しい状況に置かれる少年を導く判事役で見事な存在感をみせる主演最新作『太陽のめざめ』。注目新人のロッド・パラドをはじめ、ブノワ・マジメルらが体当たりの演技をみせるヒューマンドラマだ。また、同作監督のエマニュエル・ベルコがカンヌ国際映画祭女優賞を獲得した男女のあまりにも激しい10年間の恋愛、夫婦生活を描いた『モン・ロワ』。『ニンフォマニアック』の色情狂ヒロイン役が話題となったステイシー・マーティン主演、ムンバイ同時多発テロの実話を基にした『パレス・ダウン』、『エコール』のルシール・アザリロヴィック監督最新作『エヴォリューション(仮)』など、話題作が目白押しだ。
 
福岡、京都、大阪会場でも、必見作がラインナップ。夏目前、フランス映画をぜひ堪能して!
 
フランス映画祭2016公式サイト → http://unifrance.jp/festival/2016/