映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2018年11月アーカイブ

 

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11月3日(土)の閉幕に先立ち、11月2日(金)六本木EXシアターにて第31回東京国際映画祭アウォードセレモニーが開催され、コンペティション部門、アジアの未来部門、日本映画スプラッシュ部門の審査結果および観客賞が発表された。
 
 
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今年の東京グランプリに輝いたのは、最優秀脚本賞Presented by WOWOWとのW受賞となったフランス映画『アマンダ』。パリ暮らしの青年が、ある日公園で起きたテロで姉をなくし、残された姪っ子、アマンダの保護者になる道を選ぶか否かで葛藤する姿、母のいない日々を親戚に預けられながら懸命に生きようとするアマンダの姿を描いたヒューマンドラマだ。(来年初夏公開予定)
 
 
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審査員特別賞は、家族を養うためにある決断をした地主の父親が、次々に自分の大事なものを失う悲劇を、19世紀のデンマークの農地を舞台にリアリティ溢れるタッチで描いた骨太のデンマーク『氷の季節』が、最優秀男優賞(イェスパー・クリステンセン)とのW受賞となった。
 
 
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最優秀監督賞は、最優秀女優賞(ピーナ・トゥルコ)とW受賞となったイタリア映画『堕ちた希望』のエドアルド・デ・アンジェリス監督が受賞を果たした。
 
最優秀芸術貢献賞には、レイフ・ファインズ監督の『ホワイト・クロウ(原題)』(来年公開予定)が堂々の受賞。そして、注目の観客賞には、稲垣吾郎主演の阪本順治監督最新作『半世界』が選ばれた。
 
その他、受賞結果は以下の通り。
 

<コンペティション部門>

【東京グランプリ】『アマンダ(原題)』(ミカエル・アース監督)
 
【審査員特別賞】『氷の季節』(マイケル・ノアー監督)
 
【最優秀監督賞】エドアルド・デ・アンジェリス監督(『堕ちた希望』)
 
【最優秀男優賞】イェスパー・クリステンセン(『氷の季節』)
 
【最優秀女優賞】ピーナ・トゥルコ(『堕ちた希望』)
 
【最優秀脚本賞】『アマンダ(原題)』(脚本:ミカエル・アース、モード・アメリーヌ)
 
【最優秀芸術貢献賞】『ホワイト・クロウ(原題)』(レイフ・ファインズ監督)
 
【観客賞】『半世界』(阪本順治監督)
 
 

<日本映画スプラッシュ部門>

 
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【作品賞】
『鈴木家の嘘』(野尻克己監督)
 
【監督賞】
武正晴(『銃』)、田中征爾(『メランコリック』)
 

<アジアの未来部門>

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【作品賞】『はじめての別れ』(リナ・ワン監督)

【国際交流基金アジアセンター特別賞】ホアン・ホアン監督(『武術の孤児』)
 
 
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【東京ジェムストーン賞】木竜麻生(『菊とギロチン』『鈴木家の嘘』)、リエン・ビン・ファット(『ソン・ランの響き』)、カレル・トレンブレイ(『蛍はいなくなった』)、村上虹郎(『銃』)
 
 

 

第31回東京国際映画祭は11月3日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。

第31回東京国際映画祭公式サイトはコチラ

 

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《第10回京都ヒストリカ国際映画祭》スペシャルトーク
中村扇雀、“美しさは武器!”『恋や恋なすな恋』

(2018年10月27日(土)京都歴史博物館にて)
ゲスト:中村扇雀 聞き手:飯星景子  (敬称略)



histrica-恋や恋なすな恋-500.jpg今年9月のベネチア国際映画祭でプレミア上映され世界を驚かせた『恋や恋なすな恋』(1962)4Kデジタルリマスター版が、《第10回京都ヒストリカ国際映画祭》のオープニングを飾った。内田吐夢監督が歌舞伎の様式美と芝居を融合させ、さらにアニメーションや義太夫や清元など当時の名人たちを贅沢に配した極彩色豊かでファンタジックな平安絵巻。


ご存知、陰陽師・安倍晴明の伝説を物語った、陰陽師と狐の異類婚姻譚の浄瑠璃『葛の葉』と清元『保名』を基に依田義賢が脚本化。56年経った今でも、その優美さと斬新な映像美に圧倒され、また名場面「子別れ」のシーンでは、白狐の哀切極まりない姿に涙なくしては見られない名場面となっている。

『恋や恋なすな恋』
 

主演の安倍保名を演じるのは「銭形平次」で有名な大川橋蔵。六代目菊五郎の養子でもある大川橋蔵は、歌舞伎の舞台に立ちつつ映画界でも大活躍。生真面目ゆえに正気を失う保名の悲哀を全身全霊で表現し、清元『保名』の踊りもさすがである。そして、榊・葛の葉・白狐のおこんの三役を見事に演じきったのは、山田五十鈴の娘である瑳峨三智子。気品ある姫・榊、可憐で優しい葛の葉、そして葛の葉に化けた白狐役では妖艶さと母性愛あふれる演技で他を圧倒。
 



「恋しくば 尋ね来て見よ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉」

中村扇雀、歌舞伎と映画の深い結びつきを語る

 

上映後のスペシャルトークに中村扇雀さんが登壇。10月27日は京都南座新開場記念のお練りが祇園界隈で開催され、扇雀さんも参加されていましたが、終了後当映画祭に駆けつけて下さいました。


histrica-恋や恋なすな恋-tolk-240-1.jpg映画を観た感想は?
「大川橋蔵さんの舞台をそのまま映像にするとは歌舞伎をよく理解してないと撮れないと思います。内田吐夢監督ならではの演出ですね。タイトルも清元の謡(うたい)から付けられたということで、とても驚きました。」


歌舞伎の女形について?
「独特な雰囲気の歌舞伎の女形を女優が演じることに興味津々でした。逆に歌舞伎の良さを気付かせてくれたように思います。」


大川橋蔵さんの『保名』について?
「私も早く『保名』を演じたいです。その時には七代目中村芝翫さんとこの映画の大川橋蔵さんをお手本にしたいと思います。阿倍保名の狂乱後の舞は、せつなさと色気が必要ですが、元々歌舞伎役者の橋蔵さん(六代目菊五郎の養子)だからできた役ですね。橋蔵さんは映画に出られるようになってからも舞台に立っておられ、歌舞伎と縁を切りたくなかったのでしょうねえ。大川橋蔵さんご自身が、演技力を発揮できる作品をと望んでおられたようです。」


histrica-恋や恋なすな恋-tolk-240-3.jpg歌舞伎役者と映画俳優について?
「大正10年前後だと思いますが、二代目鴈治郎の青年歌舞伎では、初代鴈治郎の弟子たちの中に、市川歌右衛門さんや嵐寛十郎さんや長谷川一夫さんがおられまして、皆さん腰元として鴈治郎の後ろに座っていたそうです。錚々たる名優が腰元の格好で並んでおられたのですから、今思うと信じられない舞台ですよね。

関西では、父親の舞台を観て習おうとすると、「真似ばかりせんと、自分で工夫しろ!」とよく怒られます。江戸歌舞伎では、父の芸風に似てくると皆さんに褒められるのですが…。『藤十郎の恋』の長谷川一夫さんの舞台を観て、鳥肌が立ちました。衣装をお借りして、真似しました。


内田吐夢監督は歌舞伎ベースの映画を4本撮っておられ、アニメーションを使ったりして描写がとてもユニークですよね?
「映画はよく観ているのですが、「このために作ったのでは?」というようなセリフやシーンを見つけるのが楽しみなんです。でも、本作は全体にそれが散りばめられているようで、見所が多いですね。特に安名の描写が繊細で、発想も凄いし、斬新ですよね。


histrica-恋や恋なすな恋-tolk-240-2.jpg見所について?
文語体のセリフは、普通リアリティがなく分かりにくいのですが、本作では役者の演技力でリアルな感情を感じられます。よく、演じるにあたって、「その役の性根(お腹)が一番大事」と教えられました。心情がリアルに感じられる部分を参考にしております。

歌舞伎では『葛の葉の段』を演じられることが多いのですが、白狐の子別れのシーンが有名ですね。義太夫も清元も当時の名人が担当されていて、内田監督は盛り込みたい事をすべて叶えておられたように感じます。」


口筆書きについて?
「白狐が口に筆をくわえて障子に書くシーンがありますが、舞台でもよくやります。墨が流れないよう、紙を選んだり、いい墨汁に松脂を混ぜて作ったものを使ったりと工夫します。赤子が泣くので抱きかかえながら口にくわえて書かなければならないのです。」


山田五十鈴さんの娘の嵯峨三智子さんについて?
「美しいことは武器だなと思いました。山田五十鈴とはよくお食事をご一緒させて頂きました。私のことを「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん」って呼ばれるものですから、「僕、男です!」といつも言い返していました(笑)。山田五十鈴さんは、お芝居も殺陣も踊りも和楽器演奏も何でもお出来になる方で、私は「山田五十鈴になりたい!」と思っていました。嵯峨三智子さんも母親に近づきたかったのはないのでしょうか。ところどころ、山田五十鈴さんを感じました。」
 


『恋や恋なすな恋』

『恋や恋なすな恋』

【あらすじ】
平安時代、月を射抜くような白矢雲がかかり、東国では平将門の乱が勃発、富士の山が火を噴き、都は騒然とした空気に包まれていた。そこで宮廷陰陽師の加茂保憲が急ぎ参内しようとするが暗殺されてしまう。保憲には安倍保名と芦屋道満という二人の弟子がいて、後継者には自らの名「保」を与え、また娘の榊と恋仲の保名をと考えていた。ところが、それを妬んだ道満と保憲の妻が共謀して保憲と榊を死に追いやり、秘伝の「金烏玉兎集」を奪おうとするが、怒りと悲しみのあまり正気を無くした保名に逆襲されてしまう。


一連の罪を着せられた保名は、「金烏玉兎集」を懐に面影を求めて野谷をさまよい、和泉の国で榊の妹の葛の葉に出会う。榊に瓜二つの葛の葉を見て「榊は生きていた!」と喜ぶ保名。ある日、狐狩りに遭遇した保名と葛の葉は、矢を射られた老婆を助ける。実はその老婆は信太森に住む白狐だった。白狐は助けられたことを恩義に感じ、孫娘のおこんに保名の保護を命じる。「決して、人間と情を交わすことなかれ」という狐の掟を伝えて…。その後、おこんは役人に襲われた保名を助け、葛の葉に化けて傷を癒し、子まで成す仲となる。狐の掟を破ってまでも保名を愛し、子供を慈しむおこん。親子三人幸せに暮らしていたところに、和泉の庄司夫妻と葛の葉が訪ね来て……。

おこんは、身を切られる思いで、「恋しくば 尋ね来てみよ 和泉なる 信太の森の 恨み葛の葉」と障子に書き置きして姿を消す。
 



1962(昭和37)年東映京都作品/109分・カラー
製作:大川博 企画:玉木潤一郎 脚本:依田義賢 
監督:内田吐夢 
出演:大川橋蔵(阿倍保名)、瑳峨三智子(榊の前・葛の葉・狐葛の葉)、宇佐美淳也(加茂保憲)、河原崎長一郎(櫻木の宮)、加藤嘉(庄司)、原健策(藤原仲平)、柳永二郎(藤原忠平)、日高澄子(後室)、毛利菊枝(狐の老婆)、松浦築枝(庄司の妻)、天野新二(芦屋道満)、山本麟一(悪右ヱ門)、明石潮(勅使)、高松錦之助(治部卿)、小沢栄太郎(岩倉治部大輔)、薄田研二(狐の老爺)、月形竜之介(小野好古)

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http://historica-kyoto.com/films/special/the-mad-fox/


(文・写真:河田 真喜子)